純金のキャデラック ★★★
(The Solid Gold Cadillac)

1956 US
監督:リチャード・クワイン
出演:ジュディ・ホリデイ、ポール・ダグラス、フレッド・クラーク、ジョン・ウイリアムス

左:ポール・ダグラス、右:ジュディ・ホリデイ

「昔は良かった」を繰り返して止むことのない年寄りなった気がするのであまり言いたくはありませんが、このような映画を見ていると現代のコメディのつまらなさが余計際立ちます。「媚薬」(1958)のレビューでも述べましたが、リチャード・クワインはオーディエンスを楽しませるのが実にうまい監督さんであり、「純金のキャデラック」では、彼のそのような特質が最も見事に活かされている印象があります。とある大会社の小株主ジュリー・ホリデイが、その会社の大勢の小株主達の信任を得て、個人的な利益を貪る重役どもを最後には十羽一からげにクビにしてしまうという痛快なストーリーが繰り広げられます。とにかく、ジュディ・ホリデイの天衣無縫なキャラクターが素晴らしく、彼女を見ているだけでも実に愉快であり、彼女がお得意のダミ声?で「You are all fired!(おまえら全員クビだ!)」居並ぶ重役どもを相手に叫ぶラスト近くのシーンは、自分が大会社の重役ではない限り、胸のつかえが下りた心地がすること請け合いです。漁夫の利的なところがあったとしても、ジュディ・ホリデイは「Born Yesterday」(1950)でアカデミー主演女優賞に輝いている程の女優さんでもあり、「純金のキャデラック」ではそのような彼女のコメディエンヌとしての才覚が満開の時期を迎えていて、オーディエンスを徹底的に楽しませてくれます。60年代の始めにガンで若くして亡くなってしまうのが、何とも残念なところです。しかしながら、この作品は彼女だけが素晴らしいのではなく、脇を固める役者さん達がクセもの揃いで、各人が各人の特徴をうまく活かしていることも指摘しておくべきでしょう。殊に、私利私欲を貪る重役連中を演ずるフレッド・クラークとジョン・ウイリアムズが出色です。加えて、必ずしもコメディ系の俳優さん達ではないポール・ダグラス、アーサー・オコンネル、ネバ・パターソンというような渋い面々が脇を彩っています。この手の映画は、主役がよくても脇役に特色がないと全く面白くないものになってしまう可能性がありますが、この作品にはそのような心配は全く無用です。衣装デザインセンスの全くない小生はちょっと首を傾げたくなりますが、この作品は1956年度の白黒映画衣装部門でオスカーを受賞しているようです。個人的には、この作品の衣装デザインがそれ程際立っているようにはどうしても思えないところがあります。むしろ、コメディ分野専門のオスカーが存在していれば、確実に受賞していたかもしれませんね。奇を衒ってか、最後のシーンだけカラーで撮影されています。これは純金のキャデラックが白黒のキャデラックだと少々都合が悪かったからということでしょうか。いずれにせよ、スターのネームバリューや人目を惹く派手なシーン、派手なギャグはないにも関わらず、シンプルで面白いコメディ映画に仕上がっていると断言できるスグレものの作品です。

※この記事を元にして書かれた「タイトル別に見る戦後30年間の米英映画の変遷」の「16.風変わり(Quaint)な映画が得意なクワイン(Quine)《求婚専科》」もご参照下さい。


2001/07/29 by 雷小僧
(2008/10/09 revised by Hiroshi Iruma)
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