インターネット・エクスプローラーが文字化けしたら・・・・「表示」→「エンコード」→「自動識別」をしてみる


 映画 日記  ミス・マープルの事件             池田 博明 


           霜月蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』(2014、講談社) p.185より

 いずれも事件の根は深い。少なからぬものが暗く悲しい悲劇である。解決によって和やかな忘却など訪れようはずがない。そうではないか?
 ミス・マープルものは、巷間いわれるようなかわいらしいものではない。かわいらしいミステリを積極的に嫌うようなミステリ・ファンにこそ、私はミス・マープル長編を強く強く推薦したい。
 読むべし。ヘヴィだぜ。


            ジェラルディン・マクイーワンのマープルもの ベスト3  池田

 2015年1月30日に82歳で亡くなったジェラルディン・マクイーワンのミス・マープルから、わがベスト3を選ぶ。

  1位 「バートラム・ホテルにて」 メイドのジェイン・クーパーが活躍。

  2位 「親指のうずき」 タペンスの自己回復の物語。

  3位 「パディントン発4時50分」 姪のルーシー・アイルズバロウが活躍。
  期せずしてマープルの助手役の女性と事件担当の警官が惹かれあう作品が1位と3位。

  グラナダTV みんなで投票 ランキング 投票日2016/07/01〜08/15
1位  シーズン1 第3話 「パディントン発4時50分」
2位  シーズン3 第4話「復讐の女神」
3位  シーズン4 第1話「ポケットにライ麦を」
3位  シーズン5 第4話「鏡は横にひび割れて」
5位  シーズン3 第1話「バートラム・ホテルにて」
6位  シーズン2 第1話「スリーピング・マーダー」
7位  シーズン1 第4話「予告殺人」
8位  シーズン6 第1話「カリブ海の秘密」
9位  シーズン1 第1話「書斎の死体」
10位  シーズン1 第2話「牧師館の殺人」
11位  シーズン4 第4話「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」
12位  シーズン6 第3話「終わりなき夜に生まれつく」
13位  シーズン3 第3話「ゼロ時間へ」
13位  シーズン4 第2話「殺人は容易だ」
15位  シーズン5 第1話「蒼ざめた馬」
16位  シーズン5 第3話「青いゼラニウム」
17位  シーズン2 第3話「親指のうずき」
18位  シーズン2 第2話「動く指」
19位  シーズン3 第2話「無実はさいなむ」
19位  シーズン5 第2話「チムニーズ館の秘密」
21位  シーズン2 第4話「シタフォードの謎」
22位  シーズン4 第3話「魔術の殺人」
23位  シーズン6 第2話「グリーンショウ氏の阿房宮」



      これまでの映画日記で扱った作品データベース


2008年〜2015年に見た  マープルもの (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想     (池田博明)
2014年12月21日(日)16時


NHK
BSプレミアム
ミス・マープル6

終わりなき夜に生まれつく



2013年
英国
89分
 原作はマープルものではない。シドニー・ギリアット監督が既に『エンドレスナイト』として原作が発表された直後に映画化している。原作は「すぐれたクライム・フィクション」(霜月蒼による)で「クリスティーのすべてがある」と評価されている。脚本はケヴィン・エリオット、演出は『青いゼラニウム』のデイヴィッド・ムーア。IMDbの評価は6.6。
 冒頭に少年時代に湖面でスケートをしていた少年のうち、氷が割れて湖に落ちたピート・ハイマン(Adam Wadsworth)を助けようとするマイク。駆け寄るピートの兄ロビー。しかし、ピートは溺死してしまう。恩義を感じたロビー・ハイマン(Aneurin Barnard)は長じて建築家になったとき、マイクのために何か恩返しをしたいと言う。
 マイクの語りが入る。マープルは夫をなくした親友マージョリー・フィルポット(Wendy Craig)を慰めようとして村を訪れたとき、運転手の青年マイク・ロジャーズ(Tom Hughes)に出会った。彼はジプシーが丘の古邸を買い、そこに夢の家を建てようとしていた。しかし、資金がない。そんなとき、マイクは丘でアメリカ人の美女エリー・グッドマン(Joanna Vanderham)と出会い、恋に落ち、結婚した。エリーは資産家の娘だった。21歳になり父親の遺産を相続したエリーにはお金の心配はまったくなかった。しかし、弁護士のリッピンコット(William Hope)や後妻のコーラ・ヴァン・スタイヴサント(Glynis Barber)はエリーの結婚を快く思っていなかった。マイクの母親ロジャーズ夫人(Tamzin Outhwaite)は自分の息子をダメ人間とみなしていて、評価は低いままだった。ジプシーの老女エステル・リー(Janet Henfrey)の家にまつわる不吉な警告があったが、マイクは気にしていなかった。夢の家は建築家ロビーが設計した。マープルは怪しい影を感じており、エリーの謎のスウェーデン人の友人グレタ(Birgitte Hjort Sorensen)の到着で、いっそうその想いは強まった。
 エリーは乗馬が好きで、やはり乗馬好きのクラウディア・ハードキャッスル(Rosalind Halstead)と遠乗りを楽しんでいたが、ある日、落馬して亡くなっているのが発見される。ほどなくクラウディアも死亡した。リー夫人の死やクラウディアの死を通して真相に気づいたマープルはマイクの夢の家に乗り込む。マープルより先にロビーも家を訪れていた。
 他のキャストはフランク・スタンフォード(Michael McKell)、ショウ医師(Hugh Dennis)、キーン巡査(Celyn Jones)

   映画川柳「殺人鬼 お前は母を 殺せない」飛蜘
 
2014年12月14日(日)16時


NHK
BSプレミアム
ミス・マープル6

グリーンショウ氏の阿房宮



2013年
英国
89分
 原作は短編集『クリスマス・プディングの冒険』のなかの唯一マープルものの短編。「活動的なマープル」の姿を見ることができる(霜月蒼による)。脚本はテイム・ホイットノール、演出はサラ・ハーディング。IMDbの評価は7.7。
 嵐の晩にマープルの古い友人のルイザ・オックスリー(Kimberley Nixon)が車を運転してマープルに助けを求めに来た。夫の暴力から息子を連れて逃げて来たのである。マープルは彼女と彼女の息子アーチー(Bobby Smalldridge)を親友キャサリン・グリーンショウ(Fiona Shaw)の所有するグリーンショウ阿房宮に連れていく。阿房宮はキャサリンの先祖が建てた大邸宅。follyは王様が建てる馬鹿げた建築物のことである。キャサリンは生薬学者で、ルイザは原作では“祖父の日記などを整理する秘書となる“。映画では『薬草大全』を執筆中のキャサリンの口述筆記のために雇ってもらう。目が悪くなったキャサリンは目薬にアトロピンを使っており、自宅で栽培していたオオカミナスビから抽出していた。庭師アルフレッド・ポロック(Martin Compston)や甥の役者ナット・フレッチャー(Sam Reid)は、ルイザに魅かれていく。家政婦はクレスウェル夫人(Julia Sawalha)。原作では家政婦は“侯爵夫人といった調子でお高くとまっていて、邸宅の使用人を見下している”という設定。原作のキャサリンは“家政婦に財産を遺すと宣告”している。映像化では、執事亡きあと、仕事が増えて「(本来は)執事の仕事ですから」と言うのが口癖。ナットが地元の劇場で上演している芝居は『蜘蛛の巣(迷網) Tangled Web』だという。マープルとアーチーが上演を見に行ってみると、ナットの出番は第一幕の最後までだった。
 アーチーに屋敷の幽霊話をした阿房宮の執事ウォルター・クラッケン(Vic Reeves)が、ランプを取り替える際に梯子から転落し、事故死した。そのとき、アーチーは白い顔の幽霊を見る。翌日、阿房宮を調べたいと申し出ていた来客の建築史評論家ホレース・ビンドラー(Rufus Jones)が失踪した。彼は探索中に科学者だったキャサリンの父デシマスの『ポリオ治験』記録を発見していた。マープルは捜査に当るウェルチ警部(John Gordon Sinclair)にクラッケンの司法解剖を提案するが、酔ったうえの事故だと断られる(実は犯人の関係に気づいた執事は、交感神経興奮効果のあるアトロピンをもられていた)。
 マープルたちセント・フェーマス教会の編み物の会のご婦人方は作品を教会のバザーに出していた。教区のブロフィー神父(Robert Glenister)は教会の養護施設の経営に困窮していたが、自身の酒や博打も原因だったため、キャサリンは寄付には応じていなかった。燭台を盗もうとしたと、庭師のアルフレッドが咎められる。幸い、彼は首にはならなかった。アルフレッドにはアーチーがなついていたし、ルイザの夫フィリップが息子を取り戻しに来るという恐怖から、アルフレッドはルイザを護ってくれていた。
 寒い晩に暖炉を点火させなかったというビンドラーの様子を家政婦から聞いたマープルは暖炉の奥を調べる。そこにはビンドラーのメモ帳が缶に入れて隠してあった。建築史評論家というのは偽りで、新聞記者だったのだ(本当は記者のレスブリッジ)。取材ノートにあった言葉は1910年代の養護施設の子供たちに関する記録のようだった。編み物の会の古株シスリー(Judy Parfitt)に尋ねると、シスリーは急に気分を悪くし、マープルが水を手配しているうちに、シスリーは缶の中から阿房宮の化学室の鍵を盗った。彼女は施設出身だったことが後で分る。
 ルイザが口述をタイプしている間、アーチーは化学室を探検。ところが急に何者かに鍵をかけられ、化学室に閉じ込められてしまった。窓の外で悲鳴が上がり、外を見たルイザは庭いじりをしていたグリーンショウ夫人が矢で頚動脈を射られて館へ入ったのを目撃する。夫人は「あいつに殺られた」と指差す。その方向は庭師の小屋の方向だった。ところが、ルイザの部屋は鍵がかかっていた。隣室にいたクレスウェル夫人も閉じ込められていた。警官が一階に入ったのに、その姿は消えた。
 一方、編み物の会でマープル宛の電話を取ったグレース(Joanna David)はキャサリンの弱々しい声を聞く。「・・・キロカロリー・・・」と言ったようだ(実際には「・・・ピロカルビン・・・・」だったことにマープルは後で気づく。アトロピンの解毒剤である)。異常を感じたマープルはタクシーを飛ばし、阿房宮へ急ぐ。一方、ルイザの夫フィリップも車で屋敷に向かっていた。化学室に突然現れたシスリーはアーチーの手を引き、「今度こそグリーンショウに罰を与えなきゃ」と言い、アーチーをエドウィンと呼ぶ。エドウィンは養護施設からデシマスの実験室に連れていかれて死んだ彼女の弟の名前だった。マープルは編み物の会の友人ミニー・タリヴァー(Candida Gubbins)に依頼して入手した出生証明書で、犯罪者の正体を暴く。ビンドラーの死体も発見される。他のキャストはケイリー巡査部長(Matt Willis)。

【参考書】クリスティー『クリスマス・プディングの冒険』(早川文庫)。原作は短編なので、映像化する際にかなり脚色している。重要人物となるアーチーは『落ちた偶像』の少年のような設定。亡くなった先代のデシマス・グリーショウはポリオの薬品開発に養護施設の孤児を使って実験しており、その秘密を暴こうと新聞記者のホレイス氏が乗り込んで来たのだ。キャサリンは父親の秘密をある程度知っていた。原作ではキャサリンはマープルの知人ではないし、キャサリン殺人事件を物語るのはマープルの甥のレイモンドである(原作では執事殺しやビンドラー殺しはない)。
 ナットの母はキャサリンの妹ネッティで、デシマスの使用人ハリー・フレッチャーと一緒になったが、使用人と一緒になったことで勘当されており、彼女も彼女が産んだ息子も死亡しており、ナットは実は再婚したハリーとクレスウェルの息子だった。一方、キャサリンは未婚の母になったとき、父親に認められないことを見通して、実の息子アルフレッドをわざと孤児院に匿った。盗癖があるとされたアルフレッドの孤児院時代の盗みは友人をかばったもの、燭台を盗んだのも実は神父で、アルフレッドは神父から取り返してもとの場所に来たところを目撃された。しかし、凶器の弓矢はアルフレッドのものだし、アリバイはないし、殺されたビンドラーの手からは自分の服のボタンが発見される。警部は犯人はアルフレッドと決めて疑わない。マープルは容疑者が出来すぎだと進言する。

    映画川柳「燭台を 盗む行為に 錯覚が」飛蜘
2014年12月7日(日)16時


NHK
BSプレミアム
ミス・マープル6

カリブ海の秘密


2013年
英国
89分
 原作はグラナダ製作のマープルもので唯一映像化していなかった長編。原作では「正義のヒーロー,ミス・マープル」が描かれている(霜月蒼による)。脚本はチャーリー・ヒッグソン、演出は『牧師館の殺人』『ポケットにライ麦を』のチャーリー(チャールズ)・パルマー。IMDbの評価は7.3。
 健康を損ねたマープルはセント・メアリー・ミード村を離れ、カリブ海沿岸のセント・オノレに静養に来ていた。英国人のケンドルー夫妻のティム(Robert Webb)とモリー(Charity Wakefield)はゴールデン・パームズと呼ばれるリゾート地でホテルを経営していた。そこには多くの客が訪れていた。野鳥観察が趣味なエドワード・ヒリンドン将軍とイヴリンの夫妻(Alastair Mackenzie、Hermione Norris)や、無作法なアメリカ人のグレッグとラッキー・ダイソン夫妻(Charles Mesure、MyAnna Buring)、がらがら声の実業家ラフィエール(Antony Sher)、ラフィエールの付添医ジャクソン(Warren Brown)、ラフィエールの秘書エステル・ワルターズ(Montserrat Lombard)、誰にも愛想のいいおしゃべりなパルグレイヴ少佐(Oliver Ford Davies)などなど。マープルは人々の話に耳を傾けた。ある晩、少佐はマープルに既に二人を殺している殺人鬼の写真を見たいかと言い出すが、急になにか(誰か?)を見たらしく話を変えてしまう。ブードゥー・ショウなどで騒いだ翌朝、少佐は自室で死んで、発見された。死因は心臓麻痺だった。病死と思われた少佐の死に疑問を持ったマープルは写真を発見しようとするが、既に紛失していた。メイドのヴィクトリア(Pippa Bennett-Warner)は何か気にかかることがあるらしく、召使の夫・エロール(Kingsley Ben-Adir)に相談するが、夫は面倒なことに首をつっこむなと言うばかりだ。若きプレスコット司祭(Daniel Rigby)はモリーに魅かれているらしい。イヴリンはラッキーが前夫の死期を早めたことを知っていた。その計画に夫のエドワードを利用したことも。マープルが懸念していた第二の殺人、第三の殺人が起こる。占い師のママ・ゾビー(Andrea Dondolo)からもマープルは話を聞く。
 作家イアン・フレミングが登場する。

   映画川柳「追いつめる 悪夢に心を とらえられ」飛蜘
2011年6月3日


You Tube

DVD
ミス・マープル5

蒼ざめた馬


2010年
英国
89分
 原作は『蒼ざめた馬 The Pale Horse』でマープルやポアロものでないノン・シリーズ。ホラー色が濃い異色作。脚色ラッセル・ルイス,監督アンディ・ヘイ。(2010年9月にいったん9分割して投稿されたが,規定違反でyou tubeから削除されている。2011年4月に犯人指摘の場面が投稿されていた。6月にACPHと題して投稿された。ACPHは,Agatha Christie Pale Horseの意味だろう。IMDbの内容紹介・シノプシスと合わせて作成)。IMDbの評価は7.4。
 【2012年4月NHKオンデマンドで吹き替え版を視聴。吹き替えでは第7話】

 霧の深い夜,少年がゴーマン神父を案内している。ゴーマン神父(ニコラス・パーソンズ)は瀕死のディヴィス夫人(ライダー)のもとを訪問した。マープルはラジオで『マクベス』を三人の魔女がマクベスに会う場面を聴いていた。夫人は神父に邪悪な計画の犠牲者たちの名前を伝えた。神父はその名前リストを封筒に入れ,マープルに投函した後,ウェスタン・ストリートでなにものかに襲われ,撲殺された。
 翌朝,朝食時にマープルの許へ手紙は届いた。新聞で神父の死を知ったマープルは警察に捜査を依頼したが,殺人捜査に当たることになったルジューン警視(ニール・ピアソン)と監察医のケリガン(ジェイソン・メレルズ)が,マープルのリストにあまり関心を示さなかったとき,マープルは友人の神父ために自分で決着をつけることを決心する。
 故ディヴィス夫人の宿を訪問したマープルは,ディヴィス夫人の靴の中から神父のメモと同じ名前のリストが書かれた宿房「蒼ざめた馬」の便箋を発見する。ディヴィス夫人は「蒼い馬亭」に行ったことがあるのだ。宿の女主人コピンズ夫人(リンダ・バロン)は協力的で,宿泊人で事件当夜救急車を通りで待った薬剤師のポール・オズボーン(JJ・フィールド)は,その晩に目撃した頬に傷のある男のことを語ってくれた。
 警視は名前のなかの珍名ヘスケス・デュボワに電話をして,資産家の彼女が6ケ月前に亡くなっていることを知る。ヘスケス・デュボワの甥の民俗学者マーク・イースターブルック(ジョナサン・ケーク。写真右上)は,警視の空軍時代の知人だった。マークは最初の妻が事故死して悲嘆にくれていたとき,励ましてくれた名づけ親のデュボワ夫人の恩を忘れておらず,夫人の死の真相を探り始める。
 一方,マープルはハンプシャーの小さな村マッチディーピングにある宿坊「蒼ざめた馬」を訪れ,用心深い経営者のサーザ・グレイ(ポーリーン・コリンズ)や,受付のシビル・スタンフォーディス(スーザン・リンチ),料理人ベラ・エリス(ジェニー・ギャロウェイ)に挨拶された。
 「蒼い馬亭」の客は家事で家が焼けてしまったコッタム大佐(トム・ワード)とその妻カンガ(ホリー・ヴァランス),ポリオの後遺症で車椅子生活で頬に傷のあるヴェナブルズ(ナイジェル・プラナー)だった。マープルたち客がそろって,この地方特有の魔女の火焙りの儀式を見たその晩は,著名な魔女グッディ・カーン(ウィロウビー)が思い出された。
 マープルは大佐の家政婦リディア・ハースネット(サラ・アレクサンダー。写真右下)やマーク・イースターブルック,画廊で一緒だった友人トマシーナ・タッカートンの死を悲しむ魅力的なロンドンっ子ジンジャー・コリガン(メイソン)と会い,お茶を飲みながらヴェナブルズの世界中を周ったという話を聞いたりする。黒魔術が話題になったとき,マープルは「悪魔はいますよ。悪魔の力は強大だ。戦わないとわたしたちは闇へ落ちる」と話す。
 翌日,サーザとシビルは黒魔術による死を課すことに言及したが,客室のひとつから聴こえたリディアの叫びに中断された。コッタム大佐が寝室で死んで発見される。殺人者は魔術に関係しているのだろうか,それとももっと邪悪ななにかがあるのだろうか。解剖の結果,大佐の死は性的興奮剤によるものだった。マープルは毒がスパニッシュ・フライを粉にしたものだと推理する。
 日常使うクリームの置き方の違いから,殺人者の接近を感じたマープルは危険を省みず,資格を剥奪された弁護士ブラッドリーを訪ねて,死の請負業に関わるある実験を試みる。ヴェナブルズは本当は歩けた,マークはコリガンと大喧嘩の末に相手を憎むようになるなど,謎解きでそれらの仕掛けが明らかになる。マープルはマークとコリガン,警視とヴェナブルズに協力を依頼して,殺人犯にわなをかけたのだった。

     映画川柳「髪の毛が 徐々に徐々に 抜けていく」 飛蜘

【参考書】クリスティー『蒼ざめた馬』(早川文庫)。原作にはオリヴァー夫人が登場して活躍するが,テレビ作品には登場しない。
2010年9月10日



You tube


DVD
ミス・マープル5

青いゼラニウム


2010年
英国
89分
 『青いゼラニウム The Blue Geranium』はマープルものの『火曜クラブ』に収録された短編である。IMDbの評価は7.5。監督はディヴィッド・ムーア,脚色はスチュワート・ハーコート。USA版DVDでシリーズ4と5を見終わりました。
 【2012年4月NHKオンデマンドで吹き替え版を視聴。吹き替えでは第5話】
 航空会社の社長ジョージの妻で占いに凝るメアリー・プリチャード(シャロン・スモール。写真左下)は就寝のとき,青い花を恐れて部屋に鍵をかけ,ミントの葉で結界を作り,ロウソクの火をともしていた。翌朝,メイドのキャロライン(クレア・ラッシュブルック)が食事を持っていくと,部屋には鍵がかかっていた。夫のジョージ(トビー・ステーヴンス。写真右上)が扉を壊して入ると,メアリーは口から血を吐いて死んでいた。この事件は「青いゼラニウム 色彩の殺人」と報道され,浮気もしていた夫が殺人犯として逮捕された。
 6ケ月後,新聞で公判開催の記事を読み,庭師ジョン(イアン・イースト)がハチよけの薬を混ぜる仕草を見ていたマープルは,事件の鍵に気づき,あわててサマーセット警部(ケヴィン・マックナリー)に公判中止の連絡を取ろうとする。しかし,警部はマープルをうるさがって取り合わない。そこでマープルはスコットランド・ヤードを退職したヘンリー卿(ドナルド・シンデン。写真右中)に至急面会を求め,その理由を話すのだった。「間違った人を絞首刑にする」と。
 マープルは6ケ月前のある朝,牧師に招かれて向かったリトル・アンブローズ村行きのバスでエディー・セワード(クリザリング・ジェイソン・ダー)と乗り合わせたときのことから話す。ワーズワースの詩の一節を唱え,自然の美しさを讃えるエディー。ややどもりがちな様子はアルコール依存症のようだった。後に断酒施設から来たことが判明する。さらに,エディが話した言葉はエリオットの詩の一節だった。別れた女性とやり直そうと勇気をもって会おうとする男の言葉である。リトル・アンブローズで下りて,マープルは友人の牧師イーヴン・ダーモット(ディヴィッド・カルダー)と会う。ダーモットの姪で,プリチャード家で料理人として働くヘスター(ジョアンナ・ペイジ)とも,マープルは幼いころに会ったきりだった。
 マープルは三人で出かけた町の店で,メアリーの暴言も聞いていた。メアリーは町じゅうの嫌われもので,夫のジョージが地元のゴルフ・クラブの会長に就任したこの日も,騒ぎを引き起こしていた。ダーモットの教会も占いを認めず,寄付ばかり募るとボロクソにこきおろされていた。ジョージがショットを打つと,林内に入ってしまい,ボールを探したボール拾いに配置されていた子供たちが慌てて駆けて来た。エディーが溺死体で発見されたのだ。上流から流されてきたらしい。ネクタイの一部がちぎれていたことから,マープルはエディは自殺かもしれないと示唆するが,サマーセット警部は取り合わない。
 メアリーの妹のフィリッパ(クラウディー・ブレイクリー。写真右下)は,戦争中,空軍でジョージと出会い,婚約もしていた。しかし,姉のメアリーが割り込んで,ジョージを横取りしてしまったのだ。フィリッパはジョージの兄ルイス(ポール・リス)と結婚したが,作家のルイスには定収入が無く,競馬に金をつぎこむばかりで作品は完成せず,常にお金の問題がつきまとっていた。
 数日前にメアリーのもとに顔をベールで隠した女占い師ザリダが訪れて来て,「青い花は死の宣告」と予言してからというもの,メアリーは青い花におびえ始め,壁紙のゼラニウムはピンクだったが,身近なところから青いものを遠ざけていた。メアリーは病気を苦にして,飲み薬をいつも飲んでいたが,医師ジョナサン・フレイン(パトリック・バラディ。写真左中)は「彼女は本当は病気じゃない」とニセ薬の水を与えていた。メアリーが恐怖を起こした夜,壁紙のゼラニウムは青く変化していた。ジョージの不義の恋人は絵描きのヘィゼル(キャロライン・キャッツ。写真左上)だったので,花を描いた彼女が疑われる。ジョージが壁紙を注文し,ヘィゼルがデザインした壁紙だった。ヘスターは,メアリーの前の看護婦で辞職したスーザン・カーステアーズ(レベッカ・マニング)に,ジョージが室内でゴルフを教えながらキスしていたのを目撃していた。それを聞いたヘィゼルはショックを受ける。
 第三の殺人,妊娠六カ月のスーザンが絞殺死体で発見され,凶器はジョージのネクタイだった。ザリダの衣装がスーザンのいた廃屋に残されていたこともあり,スーザンがザリダだったのだと判断される。それは真犯人のミスリードだったのだが。
 教会で牧師ダーモットがメアリーを追悼する説教中,「神もメアリーの人生は無駄なものだったと言われるでしょう」との言葉に,フィリパが立ちあがり,「メアリーは殺されたんですよ。犯人はヘィゼルだ。エディーの殺害時刻の後,彼女は遅れて来たし,事件の朝も彼女を目撃している」と告発する。集会は大騒ぎになる。マープルは,エディの財布から出てきたオークションのチケットでヘィゼルの絵を見たエディがもと妻を訪ねて来たことをつきとめていた。牧師はマープルにフィリパが告発した時刻にヘィゼルは実は自分にジョージとの恋愛について告解に来たのだと話す。守秘義務から話すことができなかったのだ。牧師はフィリッパがメアリーのために作ったスープをつまみ食いしてから体調を崩していた。フィリッパはマープルに空軍時代に金銭に執着するスズメバチというあだ名の女が香水を薄めて販売したりしていたという話をしていた。
 サマーセット警部はジョージを犯人だと確信し,逮捕する。ジョージはエディー,メアリー,スーザンの殺人を認め,自分は「有罪だ」と判事(ヒュー・ロス)に答えるが,マープルはジョージが「愛する女性を守るために,罪をかぶっているのだ。真犯人は別にいる」と言う。ヘンリー卿のはからいで開廷中の裁判所に駆けこんだマープルは,別人をあげて真犯人が殺人のほかに脅喝をしていたことも説明する。メアリーがアルカリ性のアロマソルトを使うと青く変色する仕掛けを指摘し,ショック死とされた死因は,本当は青酸カリによる毒殺だったと言う。
 他のキャストはヘンリー卿の接客係(デレク・ハッチンソン)。

      映画川柳「わずかづつ 罰を与える ひともいる」 飛蜘

【参考書】クリスティー『火曜クラブ』(早川文庫)
 原作ではジョージは疑惑にさらされてはいるが,逮捕されてはいない。マープルの友人の神父イーヴンやその姪ヘスター,メアリーの妹フィリッパ,フィリッパの夫ルイス,ヘイゼルの夫エディーはテレビ化に当たって新たに設定された役柄。法廷で真実が明らかにされるという展開もテレビならではの趣向である。
2010年9月10日



You tube


DVD
ミス・マープル5

チムニーズ館の秘密


2010年
英国
89分
 『チムニーズ館の秘密 The Secret of Chimneys』は原作はマープルものではなく,バトル警視が登場する冒険ロマン。脚色ポール・ルットマン,監督ジョン・ストリックランド。ストリックランドはグラナダTVで『予告殺人』を演出しています。IMDbの評価は7.3。原作を大胆に改変して,完全にマープルものに仕立てている。見事としか言いようが無い。
 【2012年4月NHKオンデマンドで吹き替え版を視聴。吹き替えでは第6話】

 冒頭は1932年,チムニーズ館で行われた大規模な夜会である。階下で開催された舞踏会の音楽に合わせて踊っていたメイドのアグネス(ローラ・オトゥール)は侵入者に気づき,止めようとするがかえって殴られて鉄枠に頭を打った。
 それから23年後,ロンドンはポール・モール・クラブで,クレモント・カターハム卿(エドワード・フォックス)はジョージ・ローマックス議員(アダム・ゴッドリィ)と鉄鉱石取引の話をしていた。オーストリアの鉄鉱石の権利をもつルードウィッヒ伯爵の依頼はチムニーズ館で交渉したいとの手紙だった。一方,カターハム卿の娘ヴァージニア・レヴェル嬢(シャルロッテ・ソールト)は突然,男に誘拐されそうになったところを自転車で通りがかったアンソニー・ケイド(ジョナス・アームストロング)に救われる。誘拐犯はアンソニーを殴って逃走。
 マープルの亡き従妹の娘に当たるヴァージニアの運転で二人はチムニーズ館へ。週末に館に集まって来た人々は,カターハム卿の上の娘バンドル(デルヴラ・キルワン),オーストリアの伯爵ルードウィッヒ(アンソニー・ヒギンズ),バンドルが嫌う未婚の社会活動家ブランケンソープ(ルース・ジョーンズ)などだった。マープルがカターハム卿に会うのは彼の妻マデリンの葬儀以来のことだった。
 ヴァージニアに好意を寄せるローマックス。彼をさしおいてウインナ・ワルツのレコードをかけ,ヴァージニアと踊るルードウィッヒ伯,不機嫌に円盤を止める謎めいた沈黙の召使トレッドウェル(ミッシェル・コリンズ。写真右)。
 急にルードウィッヒ伯がチムニーズ買収の話を持ちだし,バンドルは「売り物じゃないわ」と反発。しかし,英国の利益のため,卿は売買契約を受け入れ,関係者は署名をした。同日の真夜中,警護員が誰かに殴られ,客たちは24時ころ警報で起こされたが,伯爵が見えなかった。館の秘密の通路から銃声が聞こえ,人々が駆けつけると,ルードウィッヒ伯がアンソニー・ケイドの腕の中で死んでいた。なぜケイドがチムニーズにいるのだろうか。重要参考人となったケイドは部屋に監禁される。スコットランド・ヤードから主任警視フィンチ(スティーブン・ディラン)が来て,調査を進める。ケイド以外の全員から話を聞いた後,フィンチは最も冷静なマープルを誘って,秘密の通路を現場検証する。二人は伯爵のポケットから暗号文=楽譜を発見,これが事件の鍵だ。さらに,ケイドから話を聞く。ケイドはチムニーズ館に夜忍んで来るように手紙をもらっていた。そこで夜警を殴り倒して秘密の地下通路に入ったのだ。ただ23時30分ごろケイドは館の煙突から煙が出ているのを目撃したという。
 バンドルとマープルは楽譜を歌ってみるが,とても音楽とは言えない。フィンチとマープルは事件を振り返る。召使トレッドウェルに話を聞くと,ウィンナ・ワルツの不快な思い出として,夜会の晩にメイド仲間のアグネスが誰かに殺されたのを目撃したという。離れの石棺をフィンチと卿が開くと白骨が発見された。失踪したとされていたアグネスだった。一方,楽譜はバンドルが解読し,コードがメッセージだった。侯には秘密の恋人がいて呼び出されたらしい。侯爵のダイイング・メッセージ「ヴァントwant」は英語ではなく,ドイツ語の「wand」だったのだと,フィンチとマープルは気が付く。wandはwall,つまり壁を意味している。
 夕食のとき,ヴァージニアはジョージの助手ビル(マシュー・ホーン)に作らせた館の立体模型を持ちだし,銃撃当夜の人々の位置を示すが,アリバイの無い者はいない(つまりアンソニー以外に犯人は考えられない)と興奮する。ブランケンソープはアグネスは自分の学校時代の知り合いだと告白。卿の気分が悪くなり,他の面々も夕食を中断して部屋に帰る。マープルはスープにセージと間違えてキツネノテブクロが調理されたことを調べる。みんなは食当りしたのだった。
 マープルはトレッドウェルの部屋を訪ね,昔の思い出話を聞く。彼女には昔,愛犬がいた。翌朝,彼女だけが食中毒で死んでいた。彼女の手紙が見つかるが,それはキャプテンに対するラブ・レターであり,彼女はコンスタンスという名前を名乗っていた。キャプテンという名前は当時,楽団もバイオリン弾きとして館を訪れていた伯爵の暗号だろう。伯爵の秘密の恋人とは彼女だったのだろうか。
 タイプライターのCの文字の特徴から,マープルはケイドを呼び出した手紙がビルの打ったものだと判断,ビルを問い詰めると,誘拐は狂言だったと告白する。ケイドは南アフリカで事業に失敗し,借金を抱えていたので,チムニーズのダイヤをネタにゆすられていたのだ。改めてケイドは伯爵殺害の容疑者として逮捕される。ケイドに裏切られたヴァージニアはローマックスの求愛を受け入れようと決心する。警察に連行されるパトカーを途中で妨害して,秘密の通路に逃げ込んだアンソニーは,通路の中からハンマーで壁を叩き,自分の愛が本物だと訴える。その音を聞いてマープルは事件当夜の銃声の意味に気づく。そして煙の意味や,キャプテンが何を意味しているのか,コンスタンスという伯爵の愛人は誰だったのか,23年前にアグネスが阻止しようとしたのはなぜかなどが,マープルから語られる。23年前にアグネスが盗んだとされていた宝石もマープルが見つけていた。
 1932年の事件当夜に妻の不倫の現場に踏み込んだカターハム卿が真相を認める。そしてヴァージニアの父親はルードウィッヒ伯爵だった。彼のダイイング・メッセージは壁のバージニア・クリーパーというツタ,“バージニア”を意味していたのだ。
 他のキャストは若き日のローマックス(イアン・ウェイチャート),若き日のルードウィッヒ侯(ロバート・ダンバー),ジェイファーズ(アレックス・ナイト)。マープルを信頼するフィンチ警視が見せ場を作っている。カターハム卿を演ずるエドワード・フォックスもさすが名演。

      映画川柳「復讐の 種がまかれた 大過去に」 飛蜘

【参考書】クリスティー『チムニーズ館の秘密』(早川文庫)
2010年9月9日


You tube

DVD
ミス・マープル5

鏡は横にひびわれて
2010年
英国
89分
 『鏡は横にひびわれて』の映画化は,既にヒクソン主演のBBC作品,エリザベス・テーラー主演の『クリスタル殺人事件』がある。本作のIMDbのレィティングは7.4だから,かなり高い。脚色ケヴィン・エリオット,監督トム・シャンクランド。
 【2012年4月NHK・BSで吹き替え版を視聴。吹き替えでは第8話】
 ドリー・バントリー(ジョアンナ・ラムリー。写真左)はマープルと一緒に女優マリア・グレッグ(リンゼイ・ダンカン)の演じた映画『マリー・アントワネット』を見て感涙にむせんでいた。ちょうどマリーが幼い息子を奪われる場面である。ドリーはゴシントン・ホールをマリーに売却し,自分はホール前の小さな屋敷に住むことにしたのであった。
 その後,二人はマリアのもとを訪れてもいた。ドリーが子供に恵まれている話をすると,マリアの表情は曇った。ゴシントン・ホールからの帰途,暴走する車にあおられてマープルは転倒,居合わせたヘザー・バドコック(キャロリーネ・クエンティン)に介抱してもらったものの,足首のねん挫でマープルはマリアの引越記念のガーデン・パーティに参加できなくなった。
 ヘザーはマリアの熱烈なファンで,戦時中にマリアに遇ったことがあった。マリアとの再会を喜ぶヘザーだったが,彼女は毒入りのダイキリを飲んで死んでしまう。毒は抗うつ剤のカーモで規定の6倍量も入っていた。マープルはドリーからマリアがヘザーのおしゃべりの間,テニスンの詩にある“シャロット姫のような,鏡が横にひびわれた表情をしていた”という事実を聞く。
 右手が義手のヒューイット警部(ヒュー・ボン・ヴィル)と若い警官ティドラー巡査部長が捜査に来る。若い警官はマリアのファンである。二人は警視総監からの薦めで最初にマープルのもとを訪ねる。
 マープルの捻ざを治療した医師ヘィドックの話では,ヘザーが自分のグラスをこぼしてしまい,マリアの衣裳を汚してしまったのだが,そこでマリアが自分のグラスをヘザーに渡したのだという。ヘザーはそのお酒を飲みほして倒れてしまったのだ。とすると,犯人の本命はマリアだったのに,誤まってヘザーがそれを飲んでしまったのだろうか。ドリーが見たマリアの表情は女流写真家マーゴット・ベンス(シャルロッテ・ライリー)が撮影していた。
 マリアの死によって利益を得る動機のある者は意外にたくさんいた。監督で夫のジェィソン・ラッド(ナイジェル・ハーマン),ジェイソンの前の恋人で,マリアの秘書のエラ・ブラント(ヴィクトリア・スマーフィット),秘書助手のヘイリー・プレストン(ブレナン・ブラウン)など。警部たちはジェイソン,エラ,凍りつく表情をしたときに入って来た女優ローラ・ブルースター(ハンナ・ワディンガム)などを尋問する。ローラはジェイソンの愛人だった。マープルはドリーとベンス写真館で記念写真を撮影してもらいながら話を聞き,彼女がマリアの養女であることを聞きだす。養子と養女をもらった後で実子が生まれたが,知的障害児だった。一方,「お前が酒に毒を入れたのを見た」という怪電話がマリアの4番目の夫で皮肉な記者のヴィンセント・ホッグ(マルティン・ジャーヴィス)やヘイリーら周囲の人物にかかっていた。
 映画『ネフェルティティ』の撮影のとき,機嫌の悪いマリアのために中断した撮影の合間,マリアは出されたコーヒーをはき出す。毒が入っていたという。その様子を目撃したマープルとドリー。その夜,喘息だったエラが毒を仕込んだ花粉症治療の吸引器に仕込んだ青酸カリで毒殺された。ヴィンセントは警部に脅迫電話の主はエラだ,電話口でくしゃみをしたから判ったと告げる。
 マープル家のメイド,チェリー・ベーカー(オリヴィア・ダーンリィ)はマリア家のメイド,マリー・テレーズ(イサベラ・パリッス)から聞いた話をマープルに伝える。事件当夜,カクテルをこぼしたのはヘザーではなくマリアで,毒入りのダイキリはマリア自身が作ったものだと。マープルは推理が間違っていたのではないかと感じ,現場に出向く。一方,マリアは施設に預けていた障害児の長男を訪問し,泣き崩れていた。
 ホールの現場に立って見たマープルは「単純な事件だったのだ。単純すぎて真相が見えなかった」と理解する。マープルが真相を語ったとき,すべては終わっていた。
 他のキャストはルイス・チャールズ(ジーン・グッドマン),フランス人のオフィサー(ジョナサン・コイン),記念パーティでドリーと邸宅を見物するハバード夫人(ミシェル・ドットリーチェ)。

      映画川柳「風疹が 悲劇をもたらす 引き金に」 飛蜘

【参考書】クリスティー『鏡は横にひびわれて』(早川文庫)
2010年9月6日



You tube


DVD
ミス・マープル4
なぜエヴァンズに頼まなかったのか



英国
2009
93分
 第4話『なぜ,エヴァンズに頼まなかったのか Why Didn't They Ask Evans?』。LWTでは「なぜエヴァンズにたのまなかったのか」TV化が既にあった。本作は脚色パトリック・バーロウ,監督ニコラス・レントン。IMDbの評価は6.5。
 原作はマープルものではなく,若い男女二人が試行錯誤しながら謎を探る物語。本作はマープルが加わるだけでなく,設定と展開を原作とかなり変えている。特にシルヴィアの夫が原作では途中で殺されるのだが,本作では過去に謎の死を遂げている点が異なる。グラナダTVのマープルものは『親指のうずき』にしろ,『パディントン発4時50分』にしろ,『バートラム・ホテルにて』にしろ,行動力の劣るマープルを助ける女性が登場するとき,いきいきと面白くなるが,本作も行動力旺盛のフランキー中心の前半はいきいきとしている。後半では若い二人は歩く時も自分たちのペースで歩くため,二人についていくマープルは早足で歩くのが驚き!後半は人間関係が複雑で過去の事件と絡むため,私の英語能力では理解できない箇所があった。日本語版放映を楽しみに待とう。
 【2012年4月NHKオンデマンドで吹き替え版を視聴。吹き替えでは第3話。2013年1月19日BSで再放送】

 パイプ・オルガンで,バッハの『トッカータとフーガ』が奏される。演奏者はボビー・アットフィールド(ショーン・ビッガースタッフ)。原作ではゴルフ・ボールを二人で探して転落した男を発見するのだが,本作ではきまじめな青年が偶々海岸を散歩中に崖から転落した男発見する。青年は男の最後の言葉「なぜ彼らはエヴァンズに頼まなかったのか」を聞いた。
 マープルはボビーの母親マージョリー・アットフィールド(ヘレン・レダーラー)の友人として登場する。メイドのフローリー(シワン・モリス)が雇われていた。検死審問に行く電車の中で彼は幼ななじみだった,フランキー・ダーウェント(ジョージア・モフェット)に再会。死んだ男の最期の言葉に謎を感じたフランキーは俄然この謎に興味を持ち,一緒に謎解きを始めた。ボビーへの検死審問への召喚状はニセモノで,同時に開かれた本当の審問に彼を出させないように仕組まれたものだった。実際の検死審問で身元証言をしたという従兄弟のトレント宛てに,二人は死者の最期の言葉を伝え,犯人の出方を見る。
 フランキーの邸宅でのパーティに参加を見送って帰宅する途中の,自転車のボビーは車にひき殺されそうになる。フランキーは死んだプリチャードの車に残されていた地図にマークされていたサヴェイジ城に事件の鍵を求めて,玄関先でわざと自動車事故を起こし,シルヴィア・サヴェィジ(サマンサ・ボンド)の世話になる。サヴェィジ家にはトム(フレデリー・フォックス)とドロシー(ハンナ・マレー)という姉弟,ピアノ教師のロジャー・バッシントン(ラフェ・スポール)がいた。主人のジャック・サヴェィジは心臓発作で半年前に亡くなっていた。.フランキーを診察した医師アレック・ニコルソン(リック・メイオール)は,シルヴィアの待医である。医師から,もらった薬をそっと吐き出すフランキー。ボビーに電話をし,更に机の中などを調べる。ボビーはフランキーの身を案ずる。夜中にフランキーは隣りの家から男女の言い争う声を聞く。
 サヴェィジ邸で捜査を続けるフランキーを,マープルが彼女のガヴァネスと身分を偽って尋ねてくる。マープルはフランキーの様子を見ると同時に,捜査の協力に来たのだ。フランキーはちょうどシルヴィアの知己の警視長ピーターズ(ワレン・クラーク)から衝突した車の方向が変だと疑いを持たれていたが,マープルの機知で救われる。一方,ボビーは被害者の宿泊していたホテルで,パスポートから被害者の名前がアレクス・プリチャードではなく,ジョン・カーステアーズ(ディヴィッド・ブキャナン)であることを知り,フランキーに電話する。彼の日記からは美人看護婦モイラの古い写真も出てきた。
 食事の際にシルヴィアとニコルソンが親しげなのをドロシーは嫌がっている様子。そこへ雨に濡れたモイラ(ナタリー・ドーマー)が来て加わる。彼女はカーステアーズの日記の写真の女性だが,いまは,ニコルソン医師の妻だ。フランキーが急に「ジョン・カーステアーズ」の名前を持ち出すと一同が凍りついた。なにか秘密がある。母親と子供たちは言い争いになる。フランキーはマープルに自分の推理を話すが,見当はずれ。実は,カーステアーズはジャックの遺言書の不自然さに気づき,探っていた。真相まであと一歩のところまで来ていたのだった。
 ボビーがやって来た。運転手に変装している。ドロシーは若いボビーに関心を持つ。ロジャーがフランキーに接近するので,ボビーはやきもきする。ジャックの共同経営者クロード・エヴァンズ(マーク・ウィリアムズ。写真左中)の自慢のラン温室を見せてもらう。
 邸の二枚の肖像画は兄弟で兄はジョージ。弟のジャックはシルヴィアの夫だったが,マープルがシルヴィアに聞いた話では戦争中にマレーシアで日本兵に殺されたらしい。マープルはニコルソン医師にモイラの古い写真を見せて,返しながら看護婦だったモイラと医師のなれそめを聞く。医師は「写真をどこから?」と聞くがマープルはそれには答えない。
 夜,ドロシーはボビーを探している。ボビーはドロシーから逃れて隠れたときに,外を走って逃げるモイラに出会うが,モイラはこのことは秘密だと言う。戻ったボビーは車庫の車内でフランキーを発見,状況を話しあっているところへドロシーが助けを求めに来る。庭師エヴァンスが毒で殺されたのだ。蛇毒だったので,トムの飼育していた毒ヘビが疑われる。警視長ピーターズが本格的な捜査を開始する。トムは毒蛇は医師からの贈り物だという。
 ボビーがロジャーと医師の家に行くとモイラは監禁されていた。ボビーはモイラを助ける。 
 一同が部屋に会したとき,ボビーが変装のヒゲをむしり取って自分の正体や目的を暴露してしまったので,フランキーは怒った。サヴェイジ家の面々は驚き,あきれた。マープルは執事ウィルソン(リチャード・ブライアーズ)から過去の経緯を聞く。シルヴィアが病気で倒れる。翌日はシルヴィアの誕生日だ。しかし,深夜,犯人たちはシルヴィアを蛇毒で殺そうと忍んで来る。隣室でマープルたちが犯人とシルヴィアの会話に耳をそばだてていた。
 マープルが真相を明らかにする。中国で殺されたジョージと見捨てられた二人の子供,マイケルとアリスの復讐がからんでいた。死んだ背中に毒ヘビを刺青した意外な犯人,遺書書き変えにからむ大胆なトリック,意外な動機。そして真のエヴァンズの正体が最後に分かる。

      映画川柳「邪悪なる ヘビはいつでも 背負われて」 飛蜘

【参考書】クリスティー『なぜ,エヴァンズに頼まなかったのか?』(早川文庫)
2010年9月1日



You tube

DVD
ミス・マープル4
魔術の殺人



英国
2008
93分
 第3話『魔術の殺人 They Do It with Mirrors』。既にBBCのヒクソン主演のマープルものの第11話でTV化されています(脚色T.R.ボーエン,演出ノーマン・ストーン)。今回は脚色ポール・ルットマン,監督アンディ・ウィルソン。アンディ・ウィルソン監督は既にグラナダ放送のマープル・シリーズの『書斎の死体』『パディントン発4時50分』を演出しています。IMDbの評価は7.1。
 【2012年4月NHKオンデマンドで吹き替え版を視聴。吹き替えでは第4話】

 深夜,物音に気づいた女性,ルース・ヴァン・リドック(ジョーン・コリンズ)と妹のキャリー・ルイーズ(ペネロープ・ウィルトン)が不審な物音に気づいて起きてみると,一階にある書斎が何者かによって放火されていた。燃え落ちる古い写真。
 マープルは,久しぶりに会ったルースから,女学校時代の友人で,青年の更正施設を運営する夫ルイス・セロコルド (ブライアン・コックス)と結婚した妹キャリー・ルイーズのことが心配だと聞かされる。キャリーは最初の夫ガルブランドセンの遺産で暮らしていたが,6週間前に火事が起こった。キャリーの周囲に暗い影を感じたルースはマープルに探索を依頼する。マープルは彼女自身の静養のためと偽ってキャリー・ルイーズのもとを訪れる。
 マープルを駅に出迎えたのは,キャリーの養女ジーナ・エルスワース(エンマ・グリフィス・マリン)だった。明るいジーナは子供の頃から人気者だったが,キャリーの実娘ミルドレッド(サラ・スマート)は暗く,つきあい下手。ジーナはアメリカで結婚したワリー・ハッド(エリオット・コーワン)と一緒に実家へ帰って来ていたが,義弟スティーヴン・レスタリック(リーアム・ギャリガン)と仲よく交際しているように見えた。夕食は週に一度は更生施設の生徒たちと一緒の食事なのだが,食事前のお祈りをミルドレッドが唱えても誰もまともに聞いていなかった。イライラするミルドレッド,とりなすキャリー。
 資料室の引き出しを調べていたマープルは急に入室してきた青年エドガー・ローソン(トム・ペイン)に驚く。彼は施設上がりでルイスの個人秘書として雇われているというが,「僕の本当の父親はウィンストン・チャ−チルです」と真顔で言う。ワリーがエドガーを追い払い,マープルはアメリカン・コーヒーを話題にして打ち解ける。しっかりものの家政婦ジョリー・ベレバー(マキシーネ・ピーケ)がキャリー・ルイーズとジーナが池に出かけたことを告げる。家族が池に駆け付けると二人は全裸で水浴していた。「気持ちいいわよ」とキャリー。ジーナが全裸で上がって来るのをスティーヴンがタオルでくるむ。眉をひそめるミルドレッド。深い方へ行ったキャリーが溺れるので,ルイスが救出に向かう。二人とも溺れそうになるが,そこへ通りがかった施設の青年たちがパンツ一丁になって池に入り無事救出。担架で運ばれる二人はしっかりと手を握る。
 ルイスの共同経営者クリスチャン・ガルブランドセン(ナイジェル・テリー)が尋ねてくる。二人の会話をもれ聞いたマープルはキャリー・ルイーズに対して二人にはなにか隠しごとがあると判断する。ルイスは施設で予定されている演芸会の練習に余念が無い。事件当夜もチェロキー・インディアンの酋長に扮装した。ジーナはインディアン娘に仮装して部屋で皆を相手に練習していた。マープルはルイスから台本を渡されプロンプターを頼まれる。途中でエドガーが拳銃を携えてやって来て,ルイスを「僕の父親だ,恨みがある」と言い立てる。拳銃は二発発射されるが,ちょうど外からやって来たキャリーの前夫で演劇プロデューサーのジョニー・レスタリック(イアン・オジルビー)に取り押さえられる。その騒ぎの最中に,隣室でクリスチャンが刺殺されていた。家政婦ジョリーが,凶器を「ワリーのUSAのアーミー・ナイフ」と証言する。
 カリー警視(アレックス・ジェニングス)とレイク巡査部長が来訪し,尋問を始める。マープルはタイプライターに紙がなにもはさまれていない不自然さを指摘,すっかり警視の信用を得る。クリスチャンの書きかけの手紙はルイスが隠し持っていた。その手紙にはキャリー・ルイーズが毒殺されかかっていると指摘,ルイスはキャリーの心労をおもんぱかって隠したのだ。キャリーは人を疑う事を知らない女性なのだった。ジーナは部屋に隣室への隠し通路があることを示す。一番怪しい容疑者は当夜,停電した配電盤を修理して場を外れたワリーだった。アメリカ人で英国になじんでいない彼はみんなから敬遠されていたのだ。彼は自転車で逃亡しようとして疑いを強めることになってしまう。訪問に来たルースの車と衝突しそうになり,ワリーは転倒して,腕を骨折する。
 ミルドレッドはジーナが怪しいと考える。ジーナとスティーブンがキスするところを目撃した彼女は不倫を非難する。カキを食べて中毒を起こすホイスタブル・アーネスト(ジョーダン・ロング)。会計不正処理の罪で更生施設に入所していたアーネストはカキに仕込まれたヒ素で中毒したのだ。カキはルイーズがキャリーのために注文した品だった。家の鍵を隠し持っていたアーネストはときどき家に盗みに入っていたと判断される。ジョニー,や家政婦のジョリーはなにか秘密を知っているのだろうか。事件当夜,外から来たジョニーが邸内へ入れたのは門の鍵を誰かが外していたからだ。二週間に一度,演劇を見に町に行っていたジョリーが,キャリーとよりを戻したいジョニーに騙されて開いていたのだった。だとすると,ジョニーはなにか事件の舞台裏を目撃したのではないか。家族の侍医マーヴェリック医師(アレクセイ・セイル。写真左下)は誰にも疑いを持たない。
 施設での演芸会の日,酋長役のルイスの前に登場したインディアン娘のジーナがマントを取ると,なんとモンロー風の金髪娘だった。一同が唖然となる途端に遮断幕の支えの綱が切り落とされ,裏にいたジョニーの頭に幕吊りの鉄棒が当たって即死。
 ジーナは沈んだ表情をしている。養女だったジーナは実母のことを知らなかったが,どうやら誰かが実母の正体を教えたようだ。キャリー・ルイーズはそれがミルドレッドであることに気づく。キャリー「あなたの姉なのに」,ミル「分かち合えと教えられた。私は与えたわ。でも彼女は何ひとつ分かちあわなかった。ただの一度も」。冒頭に新聞記事が登場した絞首刑になった夫殺しの女性キャサリン,それがジーナの実母だったのだ。
 マープルは事件が舞台で魔術を演じる魔術師の行うミス・ディレクションであることに気づく。警視に真相を話すマープルの説明をキャリー・ルイーズと夫のルイスも聞いていた。共犯者も明らかになる。
 事件が解決して,ジーナはスティーブンと出発しようとしていたが,ジーナを受け入れるワリーの許へ戻った。財産狙いのアテが外れたスティーブンはミルドレッドに求婚する。ミルドレッドもあきれて断る。数年後,マープルのもとへアメリカのジーナ夫婦から手紙が届く。過去を気にしないアメリカで二人は元気に暮らしていた。二人の間には赤ん坊も誕生していた。

      映画川柳「子供たち 理解している つもりでも 」 飛蜘

【参考書】クリスティー『魔術の殺人』(早川文庫)
2010年8月30日


You tube

DVD
ミス・マープル4
殺人は容易だ



英国
2008
93分

 第2話『殺人は容易だ』。脚色スティーヴン・チャーチェット,監督ヘッティー・マクドナルド。You Tubeにアップされていました。原作をかなり改変しています。アメリカ版DVDでも見ました。IMDbの評価は7.1。
 【2012年4月NHKオンデマンドで吹き替え版を視聴,2013年1月12日BSで再放送】

 日曜日の参拝時。ミツバチの世話をしていたミンチン教区牧師が養蜂の際の毒を吸い込んで,不慮の死を遂げた。マープルは列車で老婦人ラヴィニア・ピンカートン(シルヴィア・シムズ)に出会う。彼女は村で起こった老婦人フローリーの毒キノコ事件,ミンチン牧師の毒吸引事件を殺人事件と判断し,その捜査依頼にスコットランドヤードへ行く途中だった。マープルは彼女の「殺人は容易だ」という言葉が気になった。しかし,乗換駅のメルチェスターで彼女は何者かにエスカレーターで突き落とされて死亡する。マープルは新聞で彼女の死亡記事を見て葬儀に参列する。マープルはマレーシアから来た青年警官ルーク・フィッツウィリアム(ベネディクト・カンバーバッチ)と知り合い,彼のホテルの部屋に間借りし,一緒に謎解きを始める。
 ラヴィニアが予言した通り,ハンブルビー医師(ティム・ブルーク・テイラー)が敗血症で死亡するが,夫人のジェシー(ジェンマ・レッドグレイヴ)は夫の死に疑問を持っていないようだ。娘のローズ(カミラ・オーフエドソン)はトーマス医師(ジェイムズ・ランス)の恋人である。
 原作のゴードン・イースターフィールドがいないが,彼に相当する人物はホートン少佐(ディヴィッド・ヘーグ)で,少佐には妻リディア(アンナ・チャンセラー)がいる。公立図書館に勤務するアボット(ヒューゴ・スピア)や教会でオルガンも弾くオノリア・ウェインフリート(シャーリー・ヘンダーソン),オノリア家で働くメイドのエィミー(リンゼィ・マーシャル)から,マープルは少しずつ話を聞いていく。アメリカから来たブリジット(マーゴ・スティリー)は首筋にアザを持つが,どうやら棄てられた過去を持つようだ。彼女はいったい誰の子供なのだろうか。オノリアには知的傷害者の弟がおり,昔,泥酔して川に落ち,死亡していた。
 エィミーが教会で告解しようとしていた直後に,帽子塗料をセキ止め薬と誤飲して死亡した。エィミーは妊娠していた。検死審問で事故死が疑われたが,ルークは状況から殺人を主張,若い捜査官テレンス・リード(ラッセル・トヴェリー)はマープルの助言を得て村の人々に尋問する。トーマス医師や牧師のヘンリー・ウェイク(スティーヴ・ペンバートン)がからむ。少佐は過去の事件に関わる買収行為をねたにアボットに脅喝され,議員選挙への出馬を取りやめる。落胆したリディアが浴室で死亡(歌劇『蝶々夫人』の「ある晴れた日に」が響く),インスリンの過剰注射で自殺と思われた。しかし,リディアは,過去のいまわしいある秘密を話そうとしていたのだ。
 マープルが気付いたきっかけは,検死審問でエイミーに関連する犯人のついた小さなウソだった。真犯人の意外な過去が浮かび上がって来る。少佐は許しを乞う真犯人を「悪魔」と非難する。

       映画川柳「流されて 拾われ育つ 異国の地」 飛蜘
2010年8月28日



You tube

DVD
ミス・マープル4
ポケットにライ麦を



英国
2008
93分
 マープル役はジェラルディン・マックイーワンに変わって,ジュリア・マッケンジー Julia MacKenzie。英国グラナダTVで,今回テレビ化された作品は,マープルものの『ポケットにライ麦を』『魔術の殺人』,30年代の非マープルものの『殺人は容易だ』『なぜ,エヴァンズに頼まなかったのか』。既に第5シリーズも放映が終了しており,第5シリーズで取り上げられた作品は『鏡は横にひび割れて』,第5作『チムニーズ館の秘密』,短編から『青いゼラニウム』,マープルものではないが,『蒼ざめた馬』。日本での放映は未決定なので,USAからDVDを購入。IMDbの評価は7.3。
 【NHK・BSプレミアムにて2012年3月19日から29日に放送されました。マープルの吹き替えは藤田弓子。見逃しましたが・・・後でNHKオンデマンドで4月2日に視聴】

 第1話は『ポケットにライ麦を A Pocket full of Rye』。BBCのヒクソン主演のマープルものの第4話(脚色T.R.ボーエン,演出ガイ・スレイター)としてもTV化されています。脚色ケヴィン・エリオット,監督チャールズ・パルマー。You Tubeとアメリカ版DVDで見ました。
 冒頭はマープルが教育した養護施設出身のメイド,グラディス(ローズ・ハインニー)がマープルのもとを去る挿話だが,その後,マープルは最初の30分くらいは登場して来ない。殺人事件の捜査はもっぱらニール警視(マシュー・マックファディン)と巡査部長の若いビリングスリィ(ポール・ブルーク)が当たる。ほぼ原作に忠実に映画化されており,IMDbの評価=レイティングは7.3と高い。
 秘書グロブナー(ラウラ・ハドック)が朝のお茶を持って行くと,社長レックス・フォテスキュー(ケネス・クランハム)が苦しんでおり,まもなく亡くなった。自宅の朝の紅茶にタキシンが入れられていたのだろうと考えられた。ポケットにライ麦がいっぱい詰め込まれていたが,誰にもその意味がわからない。
 レックス家には浪費家の若い二度目の妻アデール(アンナ・マデリー),長男のパーシヴァル(ベン・マイルズ),娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン),パーシヴァルの妻で元看護婦のジェニファー(リズ・ホワイト)が住み,しっかりものの家政婦のメアリー・ダヴ(ヘレン・バクセンデール)と執事クランプ(ケン・キャンベル)とその妻(ウェンディ・リチャード)が家事を管理していた。
 アデールは若いヴィヴィアン・デュボア(ジョセフ・ビーティー)と遊び歩いていた。放蕩で追い出された弟のランス(ルパート・グレイヴズ)とその妻パット(ルーシー・コフ)が,父に呼ばれたからとアフリカのケニアから戻ってくる。そのさなか,アデール夫人が紅茶を飲んだ後に死んでいた。青酸カリ中毒死だった。同夜,小間使いのグラデイスが,洗濯場で絞め殺されていた。鼻を洗濯バサミではさまれていた。なぜ家族に無関係なグラディスが殺されなければならなかったのか。そこに真相を解くカギがあるとマープルは考える。ニール警部にマープルが協力する。尋問はほとんどニール警視とピックフォード巡査部長(ラルフ・リトル)が行い,対話の場面が多いため,展開はやや単調である。社長は認知症になりかけて無謀な登記をして会社は破産寸前だった。倹約家のパーシヴァルは社長の死で内心安堵していた。
 これらの事件はクランプの口ずさんだマザーグースの歌と対応していた。タキシンが混入されていたのはマーマレードだった。クロツグミ(ブラックバード)がキイ・ワードだった。かって共同経営だったクロツグミ鉱山事件で横死した男マッケンジーの復讐だとの説が浮んでくる。マープルはパインウッド・サナトリウムに男のもと妻(プルネラ・スケィルズ)を訪ねて行くが,彼女は夫は横死した,レックスに鉱山は奪われ,息子はダンケルクで戦死,娘はいないと言う。マープルは偽名を使って復讐のために娘ルビーがフォーテスキュー家に接近していると推理する。警視はメアリーがルビーかと思うが,彼女は自分の過去を語らない。
 マープルは,ニール警視に,つぐみ事件を利用した犯罪で,最初の社長殺しはマーマレードにタキシンを混入できたグラデイスの犯行だが,彼女は真犯人に利用されていたと話す。真犯人は廃坑となったつぐみ鉱山跡地からウラン鉱石が発見された事を知った男だった。警視に推理を語ったマープル。証拠は無いが,証拠をかためるのは警視の仕事だ。警視が疑っていたメアリーはルビーではなかった。パットは戦死,自殺と夫を亡くしており,三番目がランスだった。
 大邸宅を離れ,帰宅したマープルのもとに,最初の事件直後のグラディスからの手紙が届いていた。グラディスの手紙には,山小屋で知り合った恋人アルバートのことが書いてあり,アルバートから1.2時間後に効果の出る自白剤と言われて社長のお茶に薬を入れたが悪気はなかったのだと書いてあった。そしてこっそり撮った二人一緒の写真が添えてあった。グラディスと共に真犯人が写っていた。マープルは深いため息をつく。,
 他にラストに登場するマープル家の新しいお手伝いティリー(テア・コリングズ),バーンズドルフ教授(エドワード・チュドー=ポール)。

      映画川柳「苦労して 手に入れた愛も こなごなに」 飛蜘

 ジュリア・マッケンジーはスティーヴン・ソンドハイム作品への出演が多いベテラン女優で,演出家でもある。ミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』の日本公演(1999年6月)も演出した(扇田昭彦『ミュージカルの時代』2000年,キネマ旬報社)。名前にマックがつく人はアイルランド系だという。
2010年8月27日


VHS
殺人は容易だ



ワーナー
1986年
96分
 デヴィッド・L・ウォルパーとスタン・マーグリス製作のミステリー映画。脚色がteleplayとなっているし,タイトルからすると,TV作品のようだ。英国が舞台。脚色カルメン・カルヴァー,監督クロード・ワッタム。レンタル落ちの中古ビデオを入手。中古価格は1円だった。
 探偵役はオックスフォード大学でコンピュータ学者の数学者ルーク(ビル・ビクスビー)。ウィッチウッズ(魔女の森)村から乗った老婦人ラビニア・フラトン(ヘレン・ヘイズ)から,村で起こった殺人についてスコットランド・ヤードに話に行くという。「誰にも疑われなければ,殺人は容易なんですよ」と彼女。半信半疑のルークだったが,ロンドンで老婦人がひき逃げで死亡。ダービーをルークのコンピュター予想で当てた友人ジミーの車で,彼は村へ向った。村に入ると,老婦人の予告通りハンブルビー医師が死亡していた。ジミーの知人ゴードン・イースターフィールド卿(ティモシー・ウェスト)の館に泊めてもらい,研究を口実に事件の真相を探ることになる。
 ゴードンの秘署兼婚約者のブリジット(レスリー=アン・ダウン)を協力者に,昔のゴードンの婚約者でアッシュ博物館の係員,博識のウェインフリート婦人(オリビア・デ・ハビランド)を助言者にして,少しずつ村の人間関係が洗い出されてくる。
 飲んだくれの居酒屋の亭主カーターは溺死 ,嫌われ者の青年トビーは博物館の窓から落下,ハンブルビー医師は敗血症で死亡。だらしないメイドの若きエイミーもヘロイン中毒で死んだ。
 トーマス医師や事務弁護士のアボット,退役軍人のホートン少佐,骨董屋の主人エルズワージーなど,容疑者として浮かんできた人物の条件を入力して,コンピューターがはじき出した真犯人は「ブリジット」だった。ブリジットを恋するようになったルークはこの答えを受け入れたくない。
 ロンドンでの車の事故を運転手のリヴァースが駐在所の警官に報告した。彼が殺されて,凶器に使われた置物からエルズワージーが犯人だとルークは推理するものの,駐在所の警官は取り合わない。その間に真犯人はさらに策を練っていた。

      映画川柳「被害者を 見据える目つきが 予告する」 飛蜘

【参考書】クリスティー『殺人は容易だ』(早川文庫)
 原作ではブリジェットはルークの友人ジミーのいとこ。エイミーの死因は帽子用塗料でルークの訪問前。コンピュータが犯人を「ブリジット」とはじき出す挿話は無い。基本的な設定はほぼ原作通り。探偵役がポアロやマープルではないため,推理でたどりつく犯人はハズレている。
2010年8月23日



DVD
ドーバー海峡殺人事件



英国,キャノン
1984年
91分


マープルものではない
 クリスティーの『無実はさいなむ』の映画化。日本語タイトルは日本公開当時クリスティーの映画化が『地中海殺人事件』『ナイル殺人事件』といった邦題だったのに影響されたもの。
 米国の科学者のアーサー・カルガリー(ドナルド・サザーランド)が大富豪アーガイル家を訪れたのだが,南極へ出立の前夜,アーガイル家の子息ジャッコ(ビリー・マッコール)が,アーサーの車に乗車した際に置き忘れた住所録を返却しようと訪れていたが,その事情を聞いたアーガイル家の面々は動揺する。ジャッコは母レイチェル(フェイ・ダナウェイ)を殺害したとして既に死刑に処せられてしまっていたのだ。ヒューイッシュ警視(マイケル・エルフィック)は再捜査に気が乗らない。
 完全な形で映像にリンクするデイヴ・ブルーベックのジャズが高く評価されているものの,映画は平均以下という評価(IMDbで4.8)が多い。映画を見ただけでは内容が理解できないという酷評もあった。演出が地味。日本語版はビデオもDVDも出回っていないため英国版のDVDを購入。脚色アレクサンダー・スチュワート,監督デズモンド・ディヴィス。ドナルド・サザーランドはクリスティーのミステリーの大ファンだったという。
 アーガイル家の人々は,父レオ(クリストファー・プラマー),長女メアリー(サラ・マイルズ),メアリーの夫フィリップ(イアン・マックシェーン),ヘスター(ヴァレリー・ホイッテントン),ティナ(フェビー・ニコルス),ミッキー(マイケル・マロニー),家政婦カーステン(アネット・クロスビー),秘書グェンダ(ダイアナ・クイック)。
 レオは自宅にガン・コレクションを持っている。事件当夜,ジャッコと女性の会話を聴いたと話すティナがレンチで撲殺されるが,ちょうど工場に来たミッキーが容疑者になってしまう。カルガリーのホテルの部屋に映画館員の女性が訪ねて来て誘惑する場面があるが,あまり意味が無い。ヘスターからの急な電話でカルガリーが駆けつけると,フィリップが刺殺されているが,その理由はよく分からない。最初の方で,カルガリーは二度ほど車でひき殺されそうになるが,なぜ犯人がそこまでして危ない橋を渡るのかが不明瞭だ。
 謎解きは唐突で,急に真犯人が明かされます(原作通りの真犯人です)。真犯人は崖から身を投げて自殺する。

      映画川柳「ボートにて 真相もたらす 科学者が」 飛蜘



見た日と場所 作  品              感    想     (池田博明)
ジェラルディン・マックイーワンが亡くなりました。2015年1月30日、享年82歳。マープル降板以後は声優の仕事のみでした。体調が悪かったのでしょうか。ご冥福をお祈りします。
2010年3月13日


DVD


BS2では3月23日放映
21:00〜

BS2
9月27日
再放送
21:00〜
マープル3
バートラム・ホテルにて


グラナダTV

2007年4月1日カナダ放映
94分
 脚色トム・マックレー,監督ダン・ゼッフ,撮影シンダーズ・フォアショー。
 原作を大胆に脚色していて,粋な仕上がりになっています。原作は他の作品と比べて地味な仕上がりだと思うのですが,その弱点を生かしてかなり大胆に脚色していて成功しています。しかし,クリスティー・ファンからは評判が悪く,IMDbのレビューではかなりきびしい評価になっています。そんなものに惑わされてはいけません。ガチガチのクリスティー・ファンは原作通りでないと気がすまないのです。私は原作と違ったら二倍おいしいと思うほうです。これは,かなりの傑作です。IMDbの評価(レイティング)は7.0。

 だいいちこの作品,マープルが引き立て役に回って,ホテルのメイド,ジェイン・クーパー(マルティン・マッカッチャオン。日本語版の声は石塚理恵)が,マープルと「私もジェーンよ」と意気投合,従弟からマープルの評価を聞いていたジェーンは,助手役で推理を手伝います。彼女の推理は要を得ているだけでなく,メイドという職業柄,容疑者の部屋に立ち入ってそっと調べることが出きるのが特徴です。つまり彼女は安楽椅子探偵ではなく,行動する探偵でもあるのです。IMDbのレビューのなかには,彼女に示唆を与えるマープルの服装がホームレスのようだし,アルツハイマーの初期症状が出ているような演技は耐えられないというのがありますが,これは時代遅れのエリザベス朝風のホテルだが中身は結構新しく,変化しているホテルと同様,みかけはボケ老人みたいなマープルだが,鋭い観察力は決して衰えていないと描写している原作に,合わせているからです。冒頭に溌剌とした少女のマープル,直後に老女のマープルという対比も考えようによっては,かなり残酷な視点でしょう。レビュアーの読みは表面的といえます。
 殺人事件の捜査に来たバード警部補(スティーブン・マンガン。声はてらそままさき)はメイドのジェインの頭の切れと行動力に感心してしまい,最後にプロポーズします。この展開はちゃんと予想できるように作られています。彼女は警視にファースト・ネームをたずね,「ラリー・バート,あなたが私に何を頼もうとも,私の答えはイエスよ」と答え,マープルに「私は人生を変えたわ I've changed my life」と感謝します(この台詞は吹替え版では別の訳になっている)。第2シリーズの『親指のうずき』で,アル中寸前のタペンスを支えたマープルの物語のように,とても気持のいい物語なのです。ジェインは真犯人を見抜けなかったので,マープルに聞きます。「どうしたら,あなたのようになれるのかしら」と。マープルは答えます,「年を取ればいいのよ Get older」と。名言です。

 もっとも真の犯罪のほうは,ナチス狩りもあるし,脅迫と復讐,そして入り組んだ罠と,陰険で悲惨なのですが。ちなみに,ジェイン・クーパーとはジェイン・オースティンの従姉妹の名前です。たぶん,スタッフもみんなオースティンが好き。
 1891年,ロンドンのピカデリーにある由緒正しいホテル,バートラムを憧れて見上げる少女ジェーン・マープル(イサベラ・パーリッス)がいました。それから60年たった1951年,憧れのバートラム・ホテルを久し振りに訪れたマープル(ジェラルディン・マックイーワン)は,友人のセリーナ(フランチェスカ・アニス,クリスティーの「おしどり探偵」TVシリーズのタペンス役で有名。声は寺田路恵)と会って,ホテルの雰囲気を楽しみます。セリーナは伯父のリチャード卿の遺言状読み上げに来たのでした。ホールではルイ・アームストロング(シェントン・ディクソンン)が演奏し,アメリア・ウォーカー(ミーシャ・パリス。声は斎藤貴美子)がジャズを歌います。支配人のハンフリー(マーク・ヒープ。声は後藤哲夫)も上機嫌。発展家の女性ベス・セジウィック(ポリー・ウォーカー。声は小宮和枝)が来訪し,波乱含みの展開が予想されます。彼女が六年前に育児放棄したエルヴァィラ(エミリー・ビーチャム。声は岡寛恵)も友人のブリジット(メアリー・ナイ。声は大坂史子)と宿泊に来ていました。双子のジャックとジュール(ニコラス・バーンズ。声は前島志)やペニフェザー神父(チャールズ・ケイ。声は中博史),レーサーのマリノフスキー(エド・ストッパード。声は家中宏),ベルリンの帽子屋ムッティ(ダニー・ウェッブ)など多くの客がいます。
 マープルが訪れ,ルイ・アームストロングがジャズを演奏した晩のこと,屋上でメイドのティリー(ハンナ・スペアリット。声は宇乃音亜希)が絞殺されました。ジェーンはティリーの着物が正装だったので奇妙だとつぶやきます。夜に部屋で会ったティリーが出かけるなんて言っていなかったからです。また,「三人の女性,三個の黒い帽子」と謎めいた言葉を発します。警部補バードはマープルの推理に関心を示し,早くから耳を傾けるようになります。日記に「123.金を受け取る」と書き残していたティリーはベスやエルヴアィラと間違えて殺されたのでしょうか。
 翌日,ホテルの一室123で湯船からあふれた湯が下の階に洩れ,食堂が停電,客がラウンジに移動すると,外で銃声がします。狙撃されたのはベスだと思われました。ドアマンの元ベスの夫ミッキー・ゴーマン(ヴィンセント・リーガン。声は谷口節)が,彼女をかばって背中を撃たれました。狙撃された女がピストルで反撃しますが,顔のヴェールを取ると,なんとベスではなくて,娘のエルヴアィラ。二階で狙撃犯がライフルを置いていた室は空っぽで,しかも密室でした。ベスが受け取っていた血の色の字の脅迫状には「DIE(死ね)」(一通目),「Tonight(今夜)」(2通目),「R.I.P(安らかに眠れ)」(3通目)などと書かれていました。マープルはベスが捨てた二通目の脅迫状を拾って目にしていました。
 騒ぎのなかで,セリーナの宝石の首飾りが盗まれます。ナチス狩りや,レンブラントやフェルメールの絵の本物などがからんで事件は思わぬ方向へ展開していきます。

 放映順はさておき,シリーズ最後の作品として企画されたと思われます。最後に,マープルが乗り込んだタクシーの屋根に「THE END」と出るのですから。日本の放映では第3シリーズの最初です。

      映画川柳「憧れの 有名ホテル バートラム」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『バートラム・ホテルにて』(早川文庫)。再見して戦争の影に気がついた。捜査を担当するバード警部補はアフリカでの戦争に参加し,世界平和のためと思って戦ったが,戦争が終わってみると何も変わってはいなかったと心の傷を負っている。メイドのジェーンは彼の陰に気がつく。マープルは本シリーズでは戦死した恋人がいたという設定になっているので,一瞬彼のことを想う表情を見せる。謎解きで明らかになることだが、ナチスの戦犯狩りが背景にある。
2010年3月15日


DVD


BS2では3月24日放映
20:00〜

BS2
9月28日
再放送
21:00〜
マープル3

無実はさいなむ


グラナダTV

2007年6月3日カナダ放映
94分
 原作はマープルものではありません。クリスティ本人はお気に入りの作品としてあげていますが,一般には失敗作と言われています。マープルものに仕立てたチャレンジングな一作。こういう冒険心は素晴らしいです。IMDbの評価(レイティング)は7.2。レビューは賛否両論。シリーズのワーストという評価もありますし,ノン・マープルもののベストという真逆の評価もありました。ちなみに,IMDbのレイティング7.2はマックイーワンのマープルものでは最高点です。監督のモイラ・アームストロングは1930年生まれのTV演出家で,この作品は76歳のときの演出作品ということになります。脚色はスチュワート・ハートコート,撮影は『バートラム・ホテルにて』と同じシンダーズ・フォアショー。
 殺人事件当夜の状況が冒頭で語られます。マープルは昔マープル家に奉公していたグェンダ(ジュリエット・スティーヴンソン。写真参照。日本語版の声は大西多摩恵)の結婚祝に招待されました。グェンダが秘書を勤めていた歴史家リオ・アーガイル(デニス・ローソン。声は山野史人)と婚約したのです。訳書ではアージル Argyleですが,映画ではアーガイルと発音しています。彼の妻レイチェル(ジェイン・シーモア。一城みゆ希)は二年前に書斎で殺されていました。犯人とされたのは息子のジャッコ(バム・ゴーマン),問題児で金を無心したものの母親から拒絶され,一時間半前に激しく言い争い,彼は母親につかみかかり首をしめていましたし,逮捕されたときに盗難された紙幣を持っていたからです。ジャッコは殺害時刻には他人の車に乗っていたとアリバイを主張しましたが,証人が出頭しませんでした。有罪の判決が下され,処刑されました(原作は無期懲役で病死)。ところが,彼のアリバイは本当だったのです。アリバイを証明したのは,ケンブリッジ大学の動物学者(原作では地質学者で探偵役)アーサー・キャルガリー博士(ジュリアン・リンド=タット。声は東地宏樹)。犯行時刻に彼を車に乗せていましたが,北極調査で英国を離れていて気がつかなかったのです(原作では交通事故に会い,記憶をなくしていた)。スライド映写器容器の隙間に詰め込んだ古新聞にジャッコ処刑の記事が出ていたことで,事件当夜のことに気づいたのでした。急遽,突然の嵐も厭わず,博士はアーガイル家の邸宅サニー・ポイントに駆けつけます。ちょうどアーガイル家の家族が集まってジェスチャー・ゲームに興じているところでした。夫妻に実子はなく,養子はメアリー(愛称はポリー。リサ・スタンスフィールド。声は野沢由香里),マイケル(愛称はミッキー。ブライアン・ディック。声は坂詰貴之),問題児ジャッコ,ヘスター(ステファニー・レオニダス。声は加藤忍),ボビー(トム・ライリー。原作ではボビーという息子はなく,ボビーという青年はヘスターの恋人。声は村治学),末娘の混血児ティナ(ダグ・ムバッサ=ロー。声は杉本ゆう)と数多かった。
 そして,宴会にはメアリーの夫フィリップ・デュラント(リチャード・アーミテイジ。元パイロットでポリオのため車椅子。原作では真相に近づき殺される。声は青山穣)や家族同然の家政婦カーステン・リンツトロム(アリソン・ステッドマン。声は谷育子)も参加していました。ちょうど博士が着いたときには,パーティでグェンダが演じていたジェスチャー・ゲームの答えは,『ねじの回転』。これはヘンリー・ジェイムズ作の幽霊物語。『ねじの回転』は本作の暗喩になっていて,家族を襲う亡霊は亡くなったレイチェルとジャッコです。
 博士が証明したように,ジャッコが無実だったとすると,レイチェルを殺した真犯人はいったい誰でしょうか。疑心暗鬼が家族の間に広がります。無実は家族をさいなむのでした。
 天候不順のためヒュイッシ警視(リース・シェアスミス。声は牛山茂)の到着は翌朝になります。マープルは家政婦カーステンから家の事情を聞きます。ジャッコには密かに結婚していた妻モーリーン(アンドリア・ロウ)がいて,レイチェルの葬儀の日に家を訪ねて来たと言います。警視の再捜査で家族の間には波風が立ちます。ジャッコと双子(ニ卵性)のボビーは,ジャッコに最後に面会に行ったとき,「たぶん,俺がした一番いいことかもな(日本語版では「ひとつぐらいいいこともしないとな」)」と言った彼の言葉が気になっていました。ジャッコは真犯人を知って,かばっていたのだとボビーは考えています。殺人の動機が誰にあったのでしょうか。レイチェルが亡くなって,いちばん利益を得たものといえばグェンダです。カーステンはグェンダとレイチェルの愛情のもつれによる諍いを証言します。グェンダは事件当夜,レイチェルに依頼されて郵便を投函に出ていますが,投函後は自宅に帰ったためアリバイがありません。自分への疑いを晴らすため,彼女は必死になります。マープルも秘密のレイチェルの書斎の金庫を開けるのを手伝って,グェンダに協力します。グェンダはマープルの技に感心し「どこで覚えたの?」と聞くと,マープルは甥がよく鍵を無くすのと答えます。しかし,金庫は空。かろうじて残っていた一枚の名刺の主はジョン・クローカー(マイケル・フィースト。声は堀田眞三),探偵でした。クローカーはフィリップの結婚前の素行調査を依頼されていました。グェンダはキャルガリーと一緒に調査して回ります。
 そうこうするうちに,警察にはプライス夫人(ピッパ・ヘイフォード。声は寺内まりえ)が,息子シリス・プライス(ジェイムズ・ヒュラン)が当夜,船着場でティナのバイク「ドラゴン」を目撃していたと届出ました。最初の捜査では,ティナは事件当夜は家にいなかったはずなのです。重要参考人としてティナが警察に連行されます。ティナは誰かをかばっているようです。子供たちは安い金で買われた身の上,決して幸福ではありませんでした。「お金がすべてなのね」とヘスターは嘆きます。家族から疑われたグェンダは,思わず「この家族は誰もが秘密を持っている。私は書斎で真犯人の証拠を見つけた」と口走ってしまいます(本当は何も見つけてはいなかったのですが)。家族の混乱を悩むリオに婚約解消を言い渡されたグェンダが,レター・オープナーで刺されて殺害され,家の金を任されていたボビーが銀の食器を持って逃亡しようとして溺死。ボビーは危ない株相場等に手をつけて失敗してしまったことが判明します。
 マープルが意外な真犯人を明らかにします(ただし,真犯人は原作と同じ)。
 ほかにジャッコを雇った店の女主人リンゼー夫人(カミュ・コージュリ。声は桶U子),ウォーデン(レイトン・ヘイバーフィールド),キャルガリーの講演会の科学者(カール・イシャーウッド),警官(シェイン・ノーラン)。

      映画川柳「動物は たったの1ペニーも 持ってない」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『無実はさいなむ』(早川文庫)
2010年3月13日


DVD


BS2では3月26日放映
20:00〜


BS2
9月30日
21:00〜
再放送
マープル3
復讐の女神


グラナダTV
2007年2月25日カナダ放映
94分

 原作の展開をまったく変えていて,完全に別作品。脚本はスティーヴン・チャーチェット,演出はニコラス・ウィンディング・レフン。IMDbの評価(レイティング)は7.0。

 1940年,ナチスの飛行機が英国に墜落。英国女性(これが謎の女性ヴェリティです)に助けられた飛行士がいました。11年後の1951年,新聞でラフィール氏の訃報を目にするマープル。ほどなくラフィール氏の秘書マシュー(グレイミー・ガーデン。日本語版の声は佐々木梅治)により,ラフィールの遺言が録音されたレコードと「ダッフォデル・ツアー」と名づけられたミステリー・ツァーのチケットが二枚届けられます。遺言で犯罪が予告され,マープルを「ネメシス=復讐の女神」と呼んでいたラフィールの犯罪解決の依頼がされていました。マープルは甥の作家レイモンド・ウェスト(リチャード・E・グラント。声は大塚芳忠)に同行を依頼して,ツアーに参加することにします。
 ラフィール氏の墓碑銘には「エィモス書」の一節が刻まれています。

  「正義を洪水のように 恵みを大河のように 尽きることなく流れさせよ」

 ツァー・コンダクター兼運転手はジョージア(ルース・ウィルソン。声は朴聡美) 。参加者はマーガレット(ローラ・ミシェル・ケリー。ヴェリティと二役。声は本田貴子)とシドニー(ジョニー・ブリッグス。声は佐々木敏)のラムリー夫妻,元執事のレィバーン(ジョージ・コール。声は石森達幸),赤いコートの派手なアマンダ(ロニー・アンコーナ。声は雨蘭咲木子)と彼女の弁護士デレク(エィドリアン・ロウリンズ。声は岩崎ひろし),足を引きずり顔がつぎはぎ状態のマルティン(ウィル・メロー。声は山野井仁)と彼の妻ロウィーナ(エミリィ・ウーフ。声は山川亜弥),アグネス修道院長(アニー・リード。声は片岡富枝)とクロチルド修道女(アマンダ・バートン。声は松阪隆子)。そして出発直前に駆けつけたドイツ人のマイケル・フェイバー(ダン・スティーヴンス。声は松本保典)。原作では事件に無関係な参加者がいますが,本作では関係者のみにしぼられています。原作の『マクベス』の魔女のような三人は出て来ません。それに該当するのが修道女たち(写真参照)。
 ツアーで訪れたフォレスター・グレンジ邸で,アマンダが癇癪を起こし,ヴェリティ・ハントの写真を靴で踏みつけます。アマンダはフォレスター卿の姪で遺産相続者。レィバーンに送られた招待状の差出人は,ラフィールのアナグラムでした。ツアーに参加したのは,みなラフィール氏に招待された人々だったのです。宿泊先でコリン・ハーズ(リー・イングルビー。声は平川大輔)は作家志望だと,レイモンドに話しかけて来ます。食事に来ていなかったマイケルにマープルはシャンペンを持っていき,話しかけ,彼がラフィール氏の息子であることを確認します。夜,宿舎で階段から落下したレィバーン氏は「ヴェリティ?」と呼びかけますが,マーガレットは「ヴェリティじゃないわ」と答えます。次第に人々は,1939年に行方不明となったヴェリティ・ハントという女性に関係があることが分かってきます。朝食に来なかったレィバーンは,ベッドで死んでいました。コリンは実は警官だったことが分かります。常用薬に仕掛けがあるかもしれないとマープルは示唆します。
 大佐の死によって人々がヴェリティとの関係を朝食時に話し始めました。修道尼たちは,ヴェリティは男に追われて修道院に駆け込んで来たと話します。その男とはヴェリティが間借りをしていたシドニーのようです。ヴェリティはフォレスター卿の庭師の娘ということでしたが,どうも卿の隠し子だったようです。アマンダは卿の邸宅でメイドだったヴェリティは盗みをしたので追い出したと言い,デレクは彼女は行方不明で死亡宣告がされ,相続の権利は失効したと言います。
 ボナベンチュア・ロックスの見学で,川べりのサイド・ウオークを取ったマープルは修道女たちから,マイケルの正体がラフィールで,彼がヴェリティを殺したと思うと聞かされます。
 ボナヴェンチュア・ロックスで人々はバラバラになりましたが,ロウィーナが何者かに突き落とされて死亡。翌日発見され,雨の中,マープルは岩上で手がかりの藁クズを発見。
 コリンズとレイモンド,マープルの三人が人々からアリバイやヴェリティとの関係を聞きます。マイケルは墜落した飛行士で,ヴェリティと恋に落ち,アイルランドに逃亡しようとして,ヴェリティとロックで落ち合う約束をしましたが,彼女は来なかったと話します。ロックに来たのは軍人たちで,逮捕され収監され,捕虜としてマイケルは刑務所に入れられました。父親ラフィールに彼女の捜索を依頼しましたが,父の答えはあきらめろと。マイケルは父親を許せなかった,昨日ロックに立ったとき,ヴェリティの存在を感じたと話します。
 デレクはなにかマーガレットの秘密を知っているらしく,恐喝がてら誘惑しますが,彼女の部屋に忍んで行くと,そこには夫もいました。鼻を殴られて酒場へ戻るデレク。ラムリー夫妻はホテルから脱出しようとしますが,ドアが開きませんでした。ジョージアが鍵をかけていたのです。ジョージアはラフィールの命令のレコードを皆に聞かせます。この旅は途中下車できないのでした。
 バスが行き着いたのはセント・エルスペス教会。戦争中に手当てもむなしく亡くなったというラルフ・コリンズの墓がありました。ここで,最後の幕が開きます。マイケルがロウィーナ殺害の容疑者になったり,アマンダやマーガレット,ロウィーナとの関わりが明らかになったり,原作とは異なる展開をします。真犯人とヴェリティ殺害の動機は原作と同じですが。

      映画川柳「信徒でも 神を選ばず 恋人を」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『復讐の女神』(早川文庫)
2010年3月12日


DVD


BS2では3月25日放映

20:00〜

BS2
9月29日
再放送
21:00〜
マープル3
ゼロ時間へ


グラナダTV
2007年1月28日放映
94分

 英国から購入したDVDをコンピュータで再生して見ました。英国はリジョン2でもそのままは再生できませんが,日本に比べて圧倒的にDVDが安い。
 ジェラルディン・マクイーワン(日本語版の声は草笛光子)がマープルを演ずるグラナダTVの第3シリーズ。ちなみに,「マープル2」というのは私の仮称でしかありません。NHKは第3シリーズを「マープル3」と題して放送します。
 BS2では,2010年3月23日から日本語吹替版が『バートラム・ホテルにて』から4夜連続で放送されます。先に英国版DVDで見てしまいましたが,どの作品も見事な出来ばえでした。9月27日から再放送されました。
 本来マープルものでない『ゼロ時間へ』をどう脚色しているかが興味深い。脚色はケヴィン・エリオット。監督は,デイヴィッド・グリンドリィ(クレジットされません)。撮影監督はスー・ギブソン。編集ポール・ギャリック。IMDbの評価(レイティング)は7.1。
 マープルは邸宅の女主人カミーラ・トレシリアン(アイリーン・アトキンス。日本語版の声は翠準子)の古い友人で,話し相手に邸宅に招待されました。マープルの宿泊先のホテルには,テディ・ラティマー(ポール・ニコラス。声は落合弘治)が宿泊しています。彼は,カミーラの甥ネヴィル・ストレンジ(グレッグ・ワイズ。好演!声は内田直哉)の妻ケイ(ゾーィ・タッパー。アメリカ的な美人で,トマ監督作品『ゼロ時間の謎』のような蓮ッ葉な役柄ではない。声は斎藤恵理)の友人でした。ネヴィルの元妻オードリィ(サフロン・バロウズ。声は山崎美貴)に理解を示すトーマス・ロイド(ジュリアン・サンズ。声は有本欽隆)は,カミーラの介護士メアリー(ジュリー・グラハム)とも長年の友人です。
 マープルはトリーヴス判事(トム・ベイカー。声は稲垣隆史)の心臓発作による死が,事故ではなく計画された殺人だと確信して,地元の警察官バレット警視(アメルダ・ブラウン。写真参照)に判事が話した昔の犯罪実話の子供を探るように依頼します。その子供には身体的な特徴があり,判事は大きくなってもそれで分かると話していたからです。
 原作やフランス版のトマ監督の作品に登場する崖から身投げしようとする男は,本作には出て来ません。原作のバトル警視は登場せず,バレット警視はマープルの推理に協力します。
 身投げ男の証言に当るものを,「少女が証言した」と話すのが,マープルの役どころです。マープルはホテルに同宿する少女(エリノア・ターナー=モス)が飼っている犬の臭いの話題でビリヤード場で腐った魚の匂いがしたと話したことを手がかりに推理を組み立て,証拠品を見つけます。この少女は原作には登場しません。
 キャスティングは巧妙。事件へのマープルのかかわり方にも違和感はありませんでした。マープルは完全犯罪を目論む犯人の自尊心を「stupid(まぬけ)」という言葉でわざと傷つけて,真相を告白させます。

      映画川柳「絶対の 自信が犯人の 弱点に」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『ゼロ時間へ』(早川文庫)



見た日と場所 作  品              感    想     (池田博明)
2008年7月8日
録画
BS2で6月24日に放送
ミス・マープル2

動く指

英国グラナダ

93分
英国2006年2月12日放映
 脚色ケビン・エリオット,演出トム・シャンクランド。クリスティー自身が1972年に選んだお気に入りの作品10作のなかに含まれています。その理由は「最近読み返してみたら面白かったから」というものだったそうです。IMDbのレィティング(評価)は7.4.

 若き軍人ジェリー・バートン(ジェイムズ・ダーシー。声は真殿光昭)は,女におぼれる無気力な日々にケリをつけようと,バイクで自滅事故を起こします。
 一命をとりとめたジェリーが田舎嫌いで派手好きな妹ジョアナ(エミリア・フォックス。声は石津彩)と一緒に静養のため,リムストック村に来ます。村では村人を中傷する匿名の手紙が出回っていて,アップルトン大佐(脚本家のスティーヴン・チャーチェット。演技は無い)が拳銃自殺を遂げたばかりでした。足の悪いジェリーはシミントン弁護士(ハリー・エンフィールド。声は後藤哲夫)の家で働く家庭教師エルシー・ホランド(ケリー・ブルック。声は木下沙華)に心を奪われます。
 シミントン家には二人の息子のほかに,夫人の連れ子の娘ミーガン(タルラ・ライリー。声は小島幸子)がいました。ジェリーとジョアナが招かれたお茶会は村人たちの噂話だらけ。シミントン夫妻のディナーには,ジェリーの主治医グリフィス(ジョーン・パートウィー。声は土師孝也)と妹のエメ(ジェシカ・スティーヴンソン,声は玉川紗己子),独身貴族のオルガン奏者パイ(ジョン・セッションズ,声は岩崎ひろし),大佐の葬儀のために村に来ていたミス・マープルが集まっていました。
 やがて,中傷の手紙を受け取った毒舌家のシミントン夫人(イモジェン・スタッブス。声は一城みゆ希)が,「もうダメ I can't go on」というメモを遺して青酸カリで自殺します。検死審問では大佐の死も夫人の死も中傷の手紙による自殺と判断されます。ジェリーは夫人の娘ミーガンを自分の家に寄宿させるのでした。不安におびえていたミーガンは生気を取り戻します。しかし,エメがした意見をきっかけに自宅に戻ったミーガンは階段下で召使アグネス(エレン・カプロン)の死体を発見,平和な村で起きた殺人に村人たちは興奮します。ジェリーはエルシーではなく,ミーガンに魅かれている自分に気がつきます。
 マープルは犯人に大胆な罠を仕掛けます。ヒッチコック監督の『汚名』を連想させる薬入りのミルクを持ち運ぶ場面があります。 
 ジェリーの青春映画になっています。

 映画川柳「動く指 悪意をつむぐ 新機械」飛蜘
2008年7月8日
録画

BS2で6月25日に放送
ミス・マープル2

シタフォードの謎

英国グラナダ

93分
英国2006年4月30日放映
 脚色スティーヴン・チャーチェット,演出ポール・アンウィン。1931年の初期の作品で,原作はマープルものではありません。IMDbのレィティング(評価)は6.6。

 エジプトの発掘現場で二人の男が王の墓を爆破しょうとしていました。それから25年後・・・
 首相チャーチルの後継者として注目されるトレヴェリアン海軍大佐(ティモシー・ダルトン。声は小川真司)は,「シタフォード山荘」で暮らし,元使用人の息子で両親を亡くしたジムの後見人を務めていました。最近,素行が悪いジム(ローレンス・フォックス。声は桐本琢也)は「遺産相続人から外す」という手紙を受け取って文句を言います。トレヴェリアンは自分が書いたものではないと否定。ジムの婚約者エミリー(ゾーイ・テルフォード。声は斉藤恵理)はやけ酒で酔いつぶれたジムを,偶然知り合った新聞記者チャールズ(ジェームズ・マリー。声は咲野俊介)の助けで家に連れて帰ります。翌日ジムは,「シタフォード山荘に行く」というメモを残して姿を消していました。ミス・マープルは甥を訪ねにいきますが,大雪に見舞われ,レイモンドも帰れなくなって,近くのシタフォード山荘に泊めてもらうことになります。
 ミス・マープルの到着と入れ違いに,トレヴェリアンが出て行きます。彼は親友で管理人のエンダービイ(メル・スミス。声は内海賢二)にさえ行き先を告げていませんでしたが,マープルは彼がホテル「スリー・クラウン館」に偽名で予約を入れるのを聞いていました。エンダービイは毒入りチョコでハトが死んだのを見て,トレヴェリアンの身を心配し,大雪のなかスリー・クラウン館に歩いて向います。チャールズもエンダービイの後を追います。
 スリー・クラウン館では,客のエヴァードン夫人(パトリシア・ホッジ。声は谷育子)とその娘ヴァイオレット(キャリー・ミリガン。声は弓場沙織),エリザベス(リタ・トゥシンハム。トニー・リチャードソン監督の傑作『蜜の味』の主演者。声は沢田敏子),ジムらで心霊占いが行われ,「今夜トレヴェリアンが死ぬ」という言葉が現れます。
 エンダービイが到着し,トレヴェリアンの部屋に駆けつけると,時すでに遅くトレヴェリアンは“笑い顔”の死体となっていました。雪のため一種の密室化したホテルで起こった殺人事件を,マープルはシタフォード荘で推理することになります。
 登場人物が多くて整理しきれておらず,ゴタゴタした感じが残ります。ラスト,犯人を射殺してしまったエミリーがヴァイオレットと二人でブエノス・アイレスに高飛びしてしまうのもなんだか納得がいきません。

 映画川柳「雪道を 凍える友と 急ぎ足」飛蜘
2008年9月10日

DVD
アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵

2005年
(日本公開2006年)
フランス映画
107分


マープルものではない
 トミーとタペンスものの秀作『親指のうずき』をパスカル・トマ監督が製作・演出したフランス映画。ちなみに,ジェラルディン・マクイーワン主演のマープルものの1本としてテレビ化された作品『親指のうずき』はグレタ・スカッキの好演もあり,傑作でした。
 脚色はフランソワ・カヴィリオリ,ナタリー・ラフォーレ,パスカル・トマ。撮影ルナン・ポレス,編集カトリーヌ・ドゥヴォー,音楽ラインハルト・ワグナー。

 プリュダンス(カトリーヌ・フロ)は夫ベリゼール(アンドレ・デュソリエ)の叔母アダを老人ホーム「陽だまりの丘」に訪問した際に,老夫人ローズ・エヴァンジェリスタ(ジュヌヴィエーブ・ビジョルド)と出会います。彼女は暖炉の奥にいる子供はあなたのお子さん?という奇怪な質問をします。空想癖のある老人が多いホームではどんな発言も重大な意味にとられることはないのですが,好奇心旺盛なプリュダンスは叔母が急死したと同時にマダム・ココアが死亡,ローズ夫人も知り合いに連れられてホームを出てしまったと聞いて,この一連の事件の背後に何か謎があると感じます。叔母はホームでは用心のためにわざと偏屈なふりをしていました。ローズにもらったというボスコヴァンの絵に描かれた屋敷はどこか見覚えのある風景でした。
 娘夫婦が家族で押しかけて来て,面倒がるプリュダンスでしたが,娘が小さい頃寄宿舎から帰宅する思い出話をしたときに,あの家を列車の窓から見た記憶が蘇って来ます。矢も盾もたまらず,列車に乗り,窓外を見張るプリュダンスはとうとうサヴォイ地方の村シャトラールにその家を発見します。さっそく駅に降り,調査を始めるプリュダンス。地元の人はペリーの家と呼んでいました。ペリー夫妻は家の半分しか使用しておらず,残りの半分は空家だというのです。
 村の教会の司祭は昔あった子供の連続殺人事件の話をします。手伝いのブレイ(ヴァレリー・カプレスキ)は独身女性。墓地で子供の墓を見つけたプリュダンスは誰かに殴られて,一時記憶喪失になります。
 出かけたきりで帰宅して来ない妻を気遣ってベリゼールはローズを連れ出したという弁護士アネット(ローラン・テルジェフ)を尋ねますが,ほとんど情報は得られません。けれども,警察が彼を未解決のダイヤ強盗団の一味として捜査していることが分かります。自分の記憶を取り戻したプリュダンスがペリーの家の空家側から持ち出した古い人形のなかに盗まれたダイヤが隠されていました。証拠を突きつけられて自白を促されたアネットは小用をたすといって聴取室から出て窓から飛び降り,自殺してしまいます。彼のほかに女首領がいたようです。
 プリュダンスは村で弁護士を見かけたような気がします。村に戻ってみるとお祭りの真っ最中,彼女が見かけたと思ったのはアネット弁護士の双子の兄セルニエでした。
 平和でのどかな村,善人たちの村に見えますが,背後には何か邪悪なものが潜んでいるように思われます。再びひとりで屋敷を訪れたプリュダンスは空家の側でローズを見つけます。快く迎えてくれたローズは少しずつ話し始めます。

  映画川柳 「ミステリー からくりピアノに 遺したり」飛蜘 
2008年7月8日

録画
BS2で6月23日に放送
ミス・マープル2 

親指のうずき

英国グラナダ

93分
英国2006年2月19日放映
 脚色ステュアート・ハーコート,演出ピーター・メダック。原題はシェイクスピアの『マクベス』の一節。原作はトミーとタペンスものの一作で,マープルは出てきません。時代設定を第二次世界大戦後にして,仕事から引退した中年のタペンスがトミーの叔母エイダの急死に不審な点を発見し,捜査を進める羽目になり,偶然出あったマープルが彼女を助けるという設定にしています。原作と人物設定の一部や犠牲者を改変しています。タペンスは叔母から評価されておらず,夫にも注目されていないと思い込み,誕生日に夫から貰ったという車の運転も下手なままで,捜査も推理もやや早とちりの傾向にあり,酒を飲むことで孤独をまぎらわしている状態なのですが,マープルはそんな彼女を支え,最後には「あなたひとりで事件を解決したのよ」と評価します。傑作。IMDbのレィティング(評価)は7.0。最高点10をつけた人は15.3%。

 ある村で,行方不明の少女を探す人々。少女は誘拐されたのでしょうか。
 それから22年後,トミー(アンソニー・アンドルーズ。声は佐々木勝彦)とその妻タペンス(グレタ・スカッキ。声は駒塚由衣)は,トミーの叔母エイダ(クレア・ブルーム。声は片山富枝)に会いに行きます。養護ホーム「サニー・リッジ」には,タペンスのブローチを誉める老婦人ランカスター(ジェーン・ウィットフィールド)や時間にうるさいマージョリー(ミリアム・カーリー。声は望木祐子)がいました。エイダはタペンスを馬鹿にしていてせっかくの手作りケーキも食べようとしません。タペンスはランカスター夫人の突然の質問,「暖炉の奥の子供はあなたのお子さん?」に驚きます。管理人パッカードに名脇役クレア・ホルマン(声は宮寺智子)。
 6週間後,エイダが心臓病で急死。タペンスはエイダの荷物に見覚えのない絵と手紙を発見,手紙には「ランカスター夫人は安全ではない。なにかあったらこの絵を見てください」と記されていました。 タペンスは,エイダの死んだ日にランカスター夫人が身内に引き取られたと知らされます。たまたまマージョリーに面会に来たミス・マープルから,ランカスター夫人は無理やり連れ去られたらしいと聞かされます。絵は魔女の家を描いた作品で,さらにローズとロープとWalterlilyという屋敷名が描き足されていました。タペンスとマープルは夫人を引き取ったという親戚の名前,ジョンソンを手がかりに,夫人と家を探しに村に出かけます。村では酒場の女主人ハンナ(ジョシー・ローレンス。声は一柳みる)や司祭(チャールズ・ダンス。声は有川博)とその妻ネリー(リア・ウィリアムズ),ジョンソン夫妻とわがまま娘ノラ,フィリップ卿(レスリー・フィリップス)などに会います。アメリカ兵士クリス(O.-T.ファグベンル。声は坂詰貴之)はローズ(ミシェル・ライアン)に求婚していますが,ローズは急に警官イーサン(マイケル・ベグリー。声は堀内賢雄)と一緒になると言い出します。
 時代考証のミスとして英国で指摘されている点がひとつ。マープルがタクシー運転手に「駅へ the train station」と言っていますが,この言い方は最近のもので,40年代後期か50年代前期には「railway station」と言ったのだそうです。ランカスター夫人がタペンスに薦めるミント錠は1948年に発売されたものだそうです。ファンは細かいところまでチェックしているものですね。
 2005年にパスカル・トマ監督『アガサ・クリスティーの奥様は名探偵』というフランス映画としても公開されています。わりと凡庸な映画だという評価が多いようですが,フランスでは大ヒットした作品らしく,映画に求めるものの国民性の違いかもしれません。

 映画川柳「狂女らを 風景にして 荒野(あれの)かな」飛蜘
2008年7月7日

録画
BS2で6月22日に放送

21:00〜22:35
ミス・マープル2

スリーピング・マーダー

英国グラナダ

93分

英国2006年2月5日放映
 脚色ステイーヴン・チャーチェット,演出エドワード・ホール。シーズン2は「スリーピング・マーダー」「親指のうずき」「動く指」「シタフォードの謎」の4本。主演のマクイーワンの吹替えは岸田今日子が亡くなったので,草笛光子が務めます。『スリーピング・マーダー』のIMDbのレィティング(評価)は7.1。

 1933年,インドのデリーの総督公邸,インドの音楽や踊りが披露されているパーティの途中,外交官(三等書記官)のケルヴィン(ジュリアン・ウォダム,声は谷口節)は地元の警察官から妻クレアの交通事故死の知らせを聞きます。幸い同伴しておらず無事だった娘を抱きしめるケルヴィン。それから18年後・・・
 インド育ちのグエンダ(ソフィア・マイルズ。声は小林さやか)は,婚約者の会社の部下ホーンビーム(エイダン・マックアードル。声は高木渉)とイギリスで新居探し。行く町を選ぶにも「本能に従うことにしているの」と活発なお嬢さんです。ディルマスの海を見下ろす小高い丘にあるヒルサイド荘に一目ぼれして,さっそくリフォームに取りかかります。不思議なことにグエンダには既視感があります。子供部屋の壁紙を「ひなげしと矢車菊にしたい」と言うと,壁の下からその壁紙が出現したり,「ここにドアをつけたい」と言うと実は以前そこにはドアがあったり。さらにグエンダはホールで絞殺される女性の幻影を見ます。婚約者に電話で相談すると,婚約者はホーンビウムに「彼女の話を聞くか,聞くふりをする調査員を頼め」と指示,仕事に忙しく婚約者へおざなりの対応をする男だと分かります。ホーンビームは知り合いのマープルに電話し,グエンダを喜劇の観劇に連れ出します。公演中の演劇は喜劇ではなく,ウェブスター原作『マルフィ公爵夫人』に変わっていました。復讐劇の絞殺シーンに女性の幻影が重なったグエンダは,思わず「ヘレン!」と叫びます。ところで,ホーンビームが寝床で読んでいる小説は,チャンドラーの『かわいい女 The Little Sister』。1949年発行のマーロウもので,ヒロインの女優ドロレスは色情狂で殺人犯です。マーロウは女嫌いのヒーローです。
 マープルは,グエンダが幼いころ殺人事件を目撃したと考えます。家を手配した弁護士ウォルター・フェーン(ピーター・セラフィノウィッツ。声は牛山茂)の事務所でヒルサイド荘の1934年の持主はグエンダの父親ケルヴィンだったことが判明。フェーンはその事に触れたがらない様子です。マープルが町で探し出したヒルサイド荘のもと召使のパジェットさん(ウーナ・スタッブス。声は定岡小百合)からケルヴィンや当時桟橋で夏になると来ていた旅回りの一座ファニーボンズのことを聞きます。クレアの兄でクレアの兄で精神分析医のジェイムズ(フィル・ディヴィス,声は田原アルノ)から,父ケルヴィンは幼いグエンダを連れてイギリスに戻りヒルサイド荘に住んでいたことが分かります。父は一座の看板歌手,ヘレン(アンナ・ルイゼ・プロウマン。声は田中教子)と婚約しますが,結婚式前日にヘレンは姿を消しました。看板歌手が抜けることになって,ファニーボンズが解散した夜のことを次第に関係者は想い出します。
 一座の中心はピアノとトークのジャッキー・アフリック(マーティン・ケンプ。声は仲野裕)。手品師のライオネル(ニコラス・グレイス),ディッキー・アースキン(ポール・マックギャン。声は有本欽隆)とジャネット(ドーン・フレンチ。声は小宮和枝)は,その後結婚していました。当時は未熟もの扱いされ,せっかくの愛情も受け止めてもらえなかったシロホンと歌のイーヴィ(サラ・パリッシュ。声は渡辺美佐)は一座の解散後に独立し,いまや大スターになっていました。フェーンの母(ジェラルディン・チャップリン。声は久保田民絵)はヘレン失踪事件に息子が関係していたのではないかと疑っています。アースキン夫妻の息子ジョージ(ハリー・トリーダウェイ)がフェーンの事務所に就職できたのにはなにか訳がありそうです。定年直前の地元警察のプライマー警部(ラス・アボット。声は青野武)がマープルに協力します。
 尋ね人欄を見てジェイムズ診察室に向うヒルサイド荘のもとメイド,リリー(ヘレン・コッカー)が殺されました。リリーの夫からヘレンの失踪について,彼女は「北極へ行ったんじゃなきゃ」殺されたんだろうと言っていたと聞いて,グエンダはリリーはヘレンの衣装ケースから冬物が無くなっていたことに気付いていたと推理します。絞殺犯が衣類をあわててスーツケースに詰め込んだ結果,そんな風になってしまったのでしょう。警部の手配で関係者一同がヒルサイド荘に集められます。そこで驚きの真相が明らかになります。
 ケルヴィンがヘレンに膝まづいて求婚した話を聞いてヒュー・ホーンビウムは自分だったら膝まづいたりはしないなと感想をもらします。グエンダはそんなことは無いとヒューの求愛姿を見届ける約束をします。すべてが明らかになったとき,マープルの助言に従ってグエンダに求婚するヒューは膝まづいていました。
 グエンダの魅力ときびきびした展開で佳作。なお,ヘレンとクレアは小説では別人です。

   映画川柳「歌ひとつ 思い出のなか 旅芸人」飛蜘

[参考書]
石上三登志「女嫌いの系譜,又は禁欲的ヒーロー論」『ベスト・ミステリ論18』(宝島社新書)
2008年6月4日

BS2で5月8日に放送
録画
ミス・マープル1

予告殺人

英国
グラナダ

95分

英国2005年1月2日放映
 DVDでは第4巻 『予告殺人』(脚本スチュワート・ハーコート,演出ジョン・ストリックランド)。IMDbのレィティング(評価)は7.3.
 新聞に本日の夜7時30分に殺人が起こるという広告が出ます。レティティア家でパーティが開かれ,人々が不安がる中,予告の時間に突然,電灯が消え,強盗が押し入り,銃声が響きます。いったい誰が被害者なのか。レティティアの耳から出血,しかし,死体は強盗に入った意外な人物でした。10年前に亡くなった富豪の莫大な遺産がからんでいるようです。女主人レティティア(ゾー・ワナメイカー。声は谷育子),同居するその友人ドーラ(エレーヌ・ペイジ。声は火野カチコ),アルコール依存症の退役軍人アーチー(ロバート・ピュー,声は佐々木梅治) ,アーチーに親切な婦人セイディ(シェリー・ルンギ。声は小宮和枝),母親セィディに親切な飲酒癖のアーチーを嫌っている息子エドマンド(クリスチャン・コウルソン。声は大西健晴),レティシア家に居候する女フィリッパ(キーリー・ホーズ。声は田中敦子),マープルの友人の娘エイミー(クレア・スキナー。声は小林さやか) ,エイミーと同性の恋人関係にある女友達ヒンチ(フランシス・バーバー。声は塩田朋子)。懐中電灯で強盗が室内を照らしたとき,実際に拳銃を撃った人物は強盗の後ろに回っていました。だとすると,偶然,光の後ろにいたエイミーには部屋の中にいた人物が見えたはずです。そのとき部屋の中に“いなかった”人物こそ,強盗の後ろに回った人物に他なりません。いったい誰が?
 エイミーには思い出せませんでした。けれども,突然エイミーが思い出したとき,殺人者は彼女の背後に迫っていました。
 1972年に数藤康雄氏の質問に答えてクリスティー自身があげた自作ベスト10にマープルものは『予告殺人』,『火曜クラブ』(短篇集),『動く指』の3作がある。

 映画川柳 「救われし 手術の傷が 心にも」飛蜘
2008年6月5日

BS2で5月10日に放送
録画



2014年12月21日(日)午前1時
BSプレミアム
ミス・マープル1


パディントン発4時50分

英国
グラナダ

94分

英国2004年12月26日放映
 DVDでは第3巻 『パディントン発4時50分』(脚本スティーブン・チャーチェット,演出アンディ・ウィルソン)。IMDbのレィティング(評価)は7.2。

 事件設定の衝撃度,ゴシック・ロマン風の大邸宅や腐敗しかかった大家族のかもし出す雰囲気,頭脳明晰な若い女性の行動力,毒入りカレー事件とその後のアルフレッドの急死,ノエル・カワードの劇のチケットを得て列車に乗り込む関係者による事件の再現と解決篇。傑作でした。
 ある大邸宅でひとりの老婦人が危篤状態でした。クラッケンソープの妻アグネス(ジェニー・アガター)です。最期に彼女が残した言葉は「一番大切なものは,愛よ。お金ではなく」。母親の死の床には夫はもとより,息子や娘たちが集まっていました。
 それから十年後,ミス・マープルの友人エルスペス(パム・フェリス。声は玉井碧)は,セント・メアリー・ミードのマープルのところに向うパディントン駅発4時50分の汽車の窓越しに,殺人事件を目撃します。ちょうど併走する別の汽車で,女性が首を絞められていたのです。驚いたエルスペスはすぐに客室係(ティム・スターン)に通報します。次の駅で停車させて該当の汽車が調べられますが,死体は見つかりませんでした。捜査の指揮を取ったオードリー警部(ロブ・ブライドン)は半信半疑でした。
 話を聞いたマープルは,犯人が車外に死体を放り出したと確信。汽車が速度を緩めるカーブ地点に目星をつけます。そこにあるのはクラッケンソープ家の大邸宅,ラザフォード・ホールでした。
 事件のあった12月4日はアグネスの命日で,クラッケンソープ家の家族がホールに集まっていました。ミス・マープルは死体を探させるため,利発な姪のルーシー・アイルズバロウ(アマンダ・ホールデン)を家政婦(ハウスキーパー)としてラザフォード・ホールに送り込みます。ルーシーは,敷地内を探索し,とうとう霊廟で女性の死体を発見します。
 事情を聞くため,家族が集められます。主治医クインパー(グリフ・リース・ジョーンズ。声は西村知道) は長女エマと恋人どうし。父ルーサー(デビッド・ワーナー。声は勝部演之)は先祖に反抗した職業を選んだため,遺産相続人から除かれています。長女エマ(ニーヴ・キューザック。声は一柳みる)はしっかりものですが,神経質。長男エドマンドは戦死。次男アルフレッド(ベン・ダニエルス。声は土師孝也)は酒飲みで,女と組んで金持ちを恐喝するような危ない仕事に手を染めています。
 三男は事業家のハロルド(チャーリー・クリード・ミルズ。声は村治学),四男は画家のセドリック(キアンラン・マクメナミン。声は内田夕夜。原作ではハロルドの兄)。これら家族の誰もが死体の女を知らないと言います。長男エドマンドの妻で行方不明のマルティーヌから,12月4日にラザフォード・ホールを訪れるという手紙が来ていました。死体がマルティーヌなら家族の面々は知っているはずですが・・・。 なお,次女イーディスは亡くなっています。イーディスの夫ブライアン・イーストリイ(マイケル・ランデス)は息子を連れて屋敷へ身を寄せていました。彼はルーシーに好意を寄せます。
 マープルは子供の頃から知己の隣町のトム警部(ジョン・ハンナ)の家に行き,トムと共に捜査に参加します。趣味の毛糸玉と編み棒を持って。死体の足に注目したマープルは被害者をバレリーナではないかと推測します。
 マープルの姪で家政婦役のルーシーが聡明で行動力もあり,非常に魅力的です。料理も上手で気働きもきき,みんなが彼女のファンになります。けれども,なんとトム警部とともに日本の配役表には役者名が出ていません!。英語圏のキャスト表で調査すると,二人づつのキャスト・クレジットの4番目に出てくるアマンダ・ホールデンとジョン・ハンナーでした。
 クリスティーの冒険ミステリには“元気の良い冒険心に溢れた若い娘が活躍”しますが,この作品には冒険ミステリの要素もあります。

 映画川柳 「大家族 勝気な家政婦 活気づく」飛蜘

[参考図書]
 早川書房編集部『アガサ・クリスティー99の謎』(早川文庫,2004年)
ジェラルディン・マックイーワンが亡くなりました。2015年1月30日、享年82歳。マープル降板以後は声優の仕事のみでした。体調が悪かったのでしょうか。ご冥福をお祈りします。
2008年6月4日


BS2で5月7日0:00〜 放送
録画



2014年12月14日(日)午前1時
BSプレミアム
ミス・マープル1

牧師館の殺人

英国
グラナダ

95分

英国2004年12月19日放映
 英国グラナダが新たにTVドラマ化したミス・マープルのシリーズ第1話から第4話。
  『牧師館の殺人』『予告殺人』 『書斎の死体』『パディントン発4時50分』の順に放映。
 スタッフは製作マシュー・リード, 『牧師館の殺人』はDVDの第2巻(脚本スティーブン・チャーチェット,演出チャールズ・パーマー)。DVDは 『書斎の死体』 『牧師館の殺人』 『パディントン発4時50分』 『予告殺人』の順。

 マープルのテレビ映画化といえば,BBCのジョーン・ヒックソン主演の作品がよく出来ていましたが,今回のジェラルディン・吹替えの声は故・岸田今日子)主演で新たに製作された新シリーズ。時代は1950年代に設定されています。『牧師館の殺人』ではマープルの机上のカレンダーが1951年8月を示していました(なお,映画のカレンダーは実際の日と比べると曜日がズレているそうです)。こまかいカット割りで事件の手がかりを映し出します。展開はスピーディ。『牧師館の殺人』のIMDbのレィティング(評価)は次第に上がって2015年2月は7.2。

 『牧師館の殺人』 では,回想シーンで,若きマープル(ジュリー・コックス)の恋人,妻子ある兵士が登場します。1915年,「君のために生きて戻って来る」と約束して戦場に向った恋人でしたが,戦死してしまい,マープルのもとには戻って来ませんでした。原作にはこのような兵士の恋人の設定はありません。けれども,“第一次世界大戦中のマープルの生活は一切不明,ベルギーのブリュッセルで「ある出来事」が発生,両親の相次ぐ他界から,・・・田舎に引きこもり,一生独身で通そうと決心した”(数藤,1978年)そうで,この「ある出来事」が何なのかは記されていませんから,スタッフが大胆に推理することは許されます。「牧師館の殺人」事件の背景に戦争があり,マープルの経験が登場人物の運命に重なるところがあります。このマープルの恋人の写真は,『書斎の死体』でも,登場人物が退役軍人だったり,戦争での勲功が話題になったりするときに,マープルが目をやるものとして使われています。
 また,マープルは『牧師館の殺人』では,チャンドラーの短編集『簡単な殺人の方法 The Simple Art of Murder 』を読んでおり,クレメント牧師(ティム・マキナリー)に「面白いですか」と聞かれて,「チャンドラーは最高よ」と賞賛の言葉も言っています。実際のチャンドラーはクリスティーの『オリエント急行殺人事件』を“馬鹿だけが理解できる解決”と酷評していたそうです(早川,2004年)。今回のスタッフは,放映4番目の『パデイントン発4時50分』では,マープルにダシール・ハメット著『闇の中の女』を読ませていました。
 ところで,『牧師館の殺人』の被害者は,地元の判事で教区委員,何事にも口うるさく,人々にきびしい目を向けているプロズロウ大佐(デレク・ジャコビ。声は稲垣隆史)。容疑者は,その妻アン(ジャネット・マクティア。声は唐沢潤)と画家ロレンス(ジェイソン・フレミング。声は井上倫宏)。二人は不倫関係にありました。他に牧師の美人妻グリゼルダ(レイチェル・スターリング。声は山崎美貴)は,画家ロレンスに肖像を描いてもらっていました。プロズロウの娘レティス(クリスティーナ・コール)も水着姿で絵のモデルになっていました。副牧師ロナルド(マーク・ガティス)は大佐から教会への寄付金を横領していた疑いをかけられていました。大佐の周辺を調べている謎の老人デュフォス(ハーバート・ロム)と彼の秘書役のヘレネ(エミリー・ブルニ)も怪しい行動をしていました。次第に人々に戦争時の体験が影響していることが明らかになってきます。正体不明の最近村に来たミセス・レスター(ジェーン・アッシャー,声は一城みゆ希)は,大佐のもと妻でした。
 自身も事件の証人となったマープルは,スラック警部(ステフェン・トンプキンソン)から捜査の経過を聞くうちに,自分がアリバイ作りに利用されたことに気が付きます。
 マープルものの長編第1作。

 映画川柳 「若い妻 好事魔多し 牧師館」飛蜘

[参考図書]
 数藤康雄「セント・メアリ・ミード村のやさしき老嬢」『名探偵読本3ポアロとミス・マープル』(パシフィカ,1978年)
 数藤康雄(編)『アガサ・クリスティー百科事典』(早川文庫,2004年)
 早川書房編集部『アガサ・クリスティー99の謎』(早川文庫,2004年)
2008年6月5日

BS2で5月9日に放送
録画


2014年12月7日(日)午前1時
BSプレミアム
ミス・マープル1

書斎の死体

英国
グラナダ

95分

英国2004年12月12日放映
 DVDでは第1巻 『書斎の死体』(脚本ケビン・エリオット,演出アンディ・ウィルソン)。IMDbのレィティング(評価)は7.0。

 戦争中にもかかわらず,ジェファーソン家には家族が集まっていた。長男の誕生日のパーティなのです。大きなケーキが準備され,テーブルに置かれようとしたそのとき,爆発が起こりました。ドイツ軍のロケット弾が近くに落ちたのです。
 それから十年後,バントリー大佐(ジェームズ・フォックス。声は小山武宏)の屋敷で,ブロンドの若い女性の死体が見されました。ホテルでダンス・ホステスをしていたルビー(エマ・ウィリアムス。声は魏涼子) だと言います。ダンス・ホステスの先輩ジョージー(メアリー・ストックリー)が足を挫いたので,代役として連れて来た少女でした。夫が身に覚えのない女性の死体ですっかり意気消沈しているのを見たバントリー夫人ドリー(ジョアンナ・ラムレイ。声は藤田淑子)に捜査を依頼されたミス・マープルは,ドリーと共にダンス・ホールのある高級なマジェスティック・ホテルに滞在することになります。捜査を担当したのは,バントリー大佐の友人メルチェット本部長(サイモン・カロウ)と,彼の応援に駆けつけたハーパー警視(ジャック・ダヴェンポート)。最初は二人に迷惑がられるマープルでしたが,次第に二人はマープルの推理に頼るようになります。
 調べてみると,ルビーは戦争中に爆発で息子や娘を亡くしてしまった富豪のジェファーソン(イアン・リチャードソン。声は内田稔)に気に入られており,多額の信託財産を受け取ることになっていました。養女にする話まで進んでいたと言います。ルビーの死で得をするのは,ジェファーソン家の嫁アデレード(タラ・フィッツジェラルド。声は藤生聖子)と娘婿のマーク(ジェイミー・シークストン)。しかし,二人には事件当夜,ホテルでブリッジを続けていたというアリバイがありました。事件当夜ルビーと踊ったダンサーのレイモンド(アダム・ガルシア)や映画製作者バジル(ベン・ミラー)も容疑者に挙げられます。
 捜査が難航する中,燃えた盗難車の中で若い女性の黒焦げの死体が発見されます。ちょうど行方不明になっていた少女がいました。
 マープルは綿密な計画的犯罪が思わぬ方向に行ってしまった結果,見かけが複雑になってしまったと推理します。殺人の動機はお金のように見えました。しかし,実は愛でした。意外な人物が恋人どうしだったのです。原作と犯人を変えています。

 映画川柳 「亡き子らを 踊る娘に 見てとれば」飛蜘


見た日と媒体 作  品        感  想     (池田博明)
2008年8月4日


DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル
鏡は横にひび割れて

BBC

英国1992年12月27日放映
 第12話 The Mirror Crack'd from Side to Side。天童市のレンタル店にはこの巻(第11巻)だけがありませんでしたので,神奈川県のレンタル店で借用。その後、英国からPAL版のDVDを購入。
 脚色T.R.ボーエン,演出ノーマン・ストーン。
 原作は、エリザベス・テイラーが女優マリナを演じ,ガイ・ハミルトン監督の邦題『クリスタル殺人事件』(1980)として映画化されたこともある作品。『クリスタル殺人事件』は見たことがありますが,エリザベス・ティラーが目立ち過ぎて,感興をそぐ作品でした。しかし,それはこの作品の構造上しかたのないことでした。IMDbの評価は7.4。

 セント・メアリー・ミード村のゴシントン・ホール(『書斎の死体』の屋敷)の持ち主だったバントリー大佐の妻ドリー(グエン・ワットフォード)が世界一周旅行から帰って来たところから始まります。大佐が亡くなった後,ゴシントン・ホールは有名女優マリナ・グレッグ(クレア・ブルーム)に売却されたのです。改装後,野戦病院の慈善パーティの依頼が来て,マリナは村人全員を集めるガーデン・パーティを企画。パーティの最中におせっかいで有名なヘザー・バッドコック夫人(ジュディ・コーンウエル)がバルビツールで毒殺されます。夫人が飲んだダイキリはマリナのものだったことから,狙われたのはマリナとみなされます。スラック警視はクラドック警部(ジョン・キャッスル)とレイク警部補に捜査を指示し,マープルの協力も得るように助言します。クラドックは積極的にマープルの助言をあおいで捜査を進めます。女流カメラマンのマーゴット(アマンダ・エルウェス)はマリナを隠し撮りしています。マリナに関する情報をマープルはドリーから得ますが,マリナは子供ができなかったときに養子を取りましたが,自分が妊娠したと分かったときに養子を縁切りしています。ところが,生まれた子供は障害児でした。そのことがマリナの深い心の傷になっています。
 マリナの5番目の夫ジェイソン(バリー・ニューマン)は映画監督,ジルクリスト医師(ノーマン・ロッドウェイ)はマリナのかかりつけの医師。ジェイソンの有能な秘書エラ(エリザベス・ガーヴィー)には喘息の発作があります。執事ジョゼッペ・ムラーノ(ジョン・キャサディ)はエラに愚図と罵られています。マープル家の住み込みのお手伝いナイト夫人(マーガレット・コートネィ)にマープルはやや閉口しています。マープル家の若いお手伝いのチェリー・ベイカー(アンナ・ニランド),その友人でメイドのグラディス・ディクソン(ローズ・キーガン)。
 他のキャストはブローガン夫人(ローダ・ルイス),クリストファー・ヘイウエス(クリストファー・グッド),ハートネル(バーバラ・ヒックス),ホプキンス夫人(セリア・ライダー),インチ(ジョン・クロフト),駅主任(ヴィンス・レイナー),アードウィック(コンスタンティン・グレゴリー),新進女優ローラ・ブルースター(グリニス・バーバー),デランシー(マイケル・ストラウド),バッドコック夫人の夫アーサー(クリストファー・ハンコック),エクエリー(スチュアート・ハリソン),クリス(レジー・オリヴァー),マープルの甥レイモンド(T.R.ボーエン)

 映画川柳「みどり児も 養女も憎む 母の影」飛蜘
2008年7月20日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

魔術の殺人

BBC

110分
英国1991年12月29日放映

 第11話 They Do it with Mirrors。脚色T.R.ボーエン,演出ノーマン・ストーン。IMDbの評価は7.2。

 マープルの女学校時代の友人ルース・ヴァン・ライドック夫人(フェイス・ブルーク)が古い記録フィルムを見て,16mmにしてくれるよう依頼しています。そして,次にルースはルイス・セラコールド(ジョス・エイクランド)に嫁いだ妹キャロライン,愛称キャリー・ルイーズ(ジーン・シモンズ)のことを心配,マープルに様子を見に行ってくれるように依頼します。ルイスは自分の屋敷の敷地内に少年犯罪者の更正施設を設立し,運営していました。駅にマープルを迎えに来たエドガー(ニート・スウェッテンハム)を差し置いて,ジーナ・ハッド(ホリー・エアド)は車に彼女を乗せて飛ばし,更正施設兼お屋敷のあるストーニイ・ゲイツへ。ジーナはキャロラインの娘ミルドレッド(ジリアン・バージ)の子供で,アメリカ人のウォルター(トッド・ボイス)と結婚していました。エドガーは孤児だったそうです。施設を卒業後,家の世話係りに雇われていますが,自分が正当に評価されていないと思い込み,ほんとうは偉い父親の息子なんだとマープルに打ち明けます。マープルが「その父親というのは誰」と訪ねると,エドガーは「首相のチャーチルです」とまじめに答えます。
 マープルがジーナに案内してもらったとき,生徒同士の喧嘩が起こり,ナイフを持っての争いになります。スティーヴン・レスタリック(ジェイ・ヴィリアーズ)は及び腰で喧嘩を止めようとしません。ウォルターが生徒を力づくで止めます。ウォルターの頼りがいのある強さが印象的です。
 キャリーの息子クリスチャン・ガルブランドセン(ジョン・ボット)が急に帰宅し,ルイスと話し合います。ルースが持参した16mmの映写会にクリスチャンは参加しません。映写会にエドガーが銃を持って乱入,ルイスが書斎でなだめている時でした。銃声がしてエドガーの発砲はルイスには当たらなかったのですが,クリスチャンが射殺されていました。ロンドン警視庁からスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッツ)やレイク警部補(イアン・ブリンブル)が来ます。
 ルイスはクリスチャンがタイプしていた手紙を警察へ提出します。そこにはキャリー・ルイーズは毒を盛られていると書かれていました。マープルは人を疑うことを知らないキャリーに知らせるべきかどうか,考えます。一方,キャロラインの2番目の夫との間の息子アレックス・レスタリック(クリストファー・ヴィリアーズ)やその弟スティーヴン(ジェイ・ヴィリアーズ)は活発なジーナに惚れています。エドガーの尋問には施設の専門医マゼリック(サウル・レイチリン)が同席します。どうもエドガーは誰かに操られているようです。
 施設の生徒アーニー(マシュー・コットル)が事件当夜何かを目撃したと,スティーブンに申し出て来ます。アレックスは警察官のふりをして,その証言を聞いてやろうと言います。その試みは危険だったのですが。
 今回の最大のゲスト・スターはキャリー・ルイーズ役のジーン・シモンズ。最後はルースとキャリー・ルイーズとマープルが,殺人事件で中断してしまっていたキャリーらの若い頃の16mm記録映画に見入る感傷的な場面です。
 他のキャストはロジャーズ夫人(ブレンダ・カウリング),ネヴィル(ディヴィッド・ドイル),バート(ジェイク・ウッド),キーティー(トム・ケリッジ),wpc(アン・アトキンス),アレックスの劇のダンサー(スティー・ビリングスリー,レイチェル・ボンド,ブリン・ウォルターズ)。

 映画川柳「施療院 理想を賭けた 青少年」飛蜘
2008年7月19日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

カリブ海の秘密

BBC

106分
英国1989年12月25日放映
 第10話A Caribbean Mystery。脚色T.R.ボーエン,演出クリストファー・ペティット。オープニング・タイトルがカラーになっています。1988年にはヒクソンのマープルものは1本も制作されませんでした。1989年から毎年12月の年末に1本放映されることになりました。この作品と『魔術の殺人』,そして『鏡は横にひび割れて』です。どの作品も時の移ろい,時代の変化を主題にしています。IMDbの評価は7.2。

 マープルが年を取って病気がちになったと心配する甥のレイモンドが勧めた転地療養に応じて,この事件に関わることになります。
 バルバドス島で転地療養中のマープル(ジョーン・ヒクソン)。パルグレイブ少佐(フランク・ミドルマス)はマープルに2件の不審な奥さんの自殺に関わった殺人容疑者の写真を見せようとして,肩越しに誰かを発見,財布に写真をしまってしまいます。その晩,酔った少佐は翌朝死体で発見されます。部屋係のヴィクトリア(ヴァレリー・ブキャナン)は少佐の部屋を片付けて死亡前には無かった不審な錠剤を発見します。ホテルの経営者はティム・ケンドール(エイドリアン・ルーキス)。ヴィクトリアから報告を受けたティムの妻モリー(ソフィー・ウォード)はグレアム医師(T.P.マッケンナ)に相談,グレアム医師は血圧降下剤と判断しますが,同時にネピア総督(ショーガン・シーモア)に依頼してウェストン警部(ジョゼフ・マィデル)に埋葬した死体を再検査してもらいます。マープルはヴィクトリアの叔母(イサベラ・ルーカス)の村へ招待されます。叔母は少佐が見せようとした写真のことを調べますが,手がかりはつかめません。モリーに言い寄る滞在客グレッグ(ロバート・スワン)。ヴィクトリアが少佐のところにあった錠剤を本来の持ち主グレッグに返します。モリーは一時的に記憶を無くすことがあると,不安をイヴリン(シェイラ・ラスキン)に打ち明けます。夕食のとき,樹の傍でヴィクトリアが刺殺されており,モリーがそれを発見します。車椅子の大富豪ジェイソン・ラフィール(ドナルド・プレゼンス)はマープルと一緒に推理を始めます。グレッグに雇われている蝶の分類学者エドワード(マイケル・フィースト)は,グレッグの最初の妻メアリーの看護婦だったラッキー(スー・ロイド)と関係しながらも,妻イヴリンとは一緒です。ラフィールの秘書エスター(バーバラ・バーンズ)と下男ジャクソン(スティーヴン・ベント)も事件に関係がありそうです。次第にモリーの精神が錯乱していき・・・・
 別に『アリバイのA』のスー・グラフトンが脚色し,ヘレン・ヘイズがマープルを演じたアメリカのTV(1983)があります。

 映画川柳「洗面の 鏡に映る 薬かな」飛蜘
2008年7月17日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

パディントン発4時50分

BBC

109分
英国1987年12月25日放映
 第9話4.50 From Paddington。脚色T.R.ボーエン,演出マーティン・フレンド。IMDbの評価は7.5。

 教会のマリア像。祭壇を前に祈っている女性がいます。しかし,彼女の後をつける男がいます。女性と男は知り合いのようで,二人は一緒に列車に乗り込みます。一方,セント・メアリー・ミードへ行くためにパディントン発4時50分の急行列車に乗ったマクギリカティ夫人(モナ・ブルース)は平行して走る鈍行を追い越す瞬間に隣の列車の窓越しに女性が絞殺される瞬間を目撃します。マープル(ジョーン・ヒクソン)はマクギリカティ夫人の目撃談を信じ,スラック警部に捜査を依頼しますが,手がかりは発見できませんでした。マープルはフリーのハウスキーパーのルーシー(ジル・ミーガー)に調査を依頼します。前任の家政婦キダー(パメラ・ピッチフォード)は口には出しませんが,有能なルーシーを歓迎します。ラザフォード邸はクラッケンソープ家の管理になっていますが,先代の奇妙な遺言で屋敷や土地を勝手に処分することはできませんし,年一回相続権のある人間が集まって会食を開く決まりになっています。長女エマ(ジョアンナ・ディヴィッド)が父ルーサー(モーリス・デンハム)の世話をしています。集まって来たのは故・次女エディスの夫で子連れの保険業ブライアン(ディヴィッド・ビームズ)と息子のアレクサンダー(クリストファー・ハレイ),寮友達のジェイムズ(ダニエル・スティール)。次男の画家セドリック(ジョン・ハラム),四男のディーラー・アルフレッド(ロバート・イースト),三男の銀行家ハロルド(バーナード・ブラウン),そしてクインパー医師(アンドリュー・バート)。弁護士のアーサー・ウィンボーン(ウィル・ティシー)が見届け人です。
 ルーシーは古い納屋の石棺で死体を見つけます。お馴染みのスラック警部とレイク警部補の捜査にスコットランドヤードのダッカム警部(デイヴィッド・ウォラー)が協力します。事故に見せかけてハロルドが森で殺されます。
 死体はバレリーナのアンナ・ストラヴィンスカ(ジュリエッタ・モール),マルティーヌ・ペローと名乗っていたときもあったようです。ただし,戦死した長男のエドマンズと結婚したマルティーヌは出てきません。
 解決の場面で目撃者マクギリカティ夫人は邸の一同が集まった部屋に呼ばれています。サンドイッチの魚の骨がのどにひっかかったと言ってマープルはクインパー医師に診てもらいます。
 ブライアンと画家のセドリックがルーシーに求愛します。戦争の英雄だったものの現在は生きる元気を喪失しているブライアンは次第にルーシーに感化されて前向きになっていきます。ルーシーのために家を売ってセスナ型の飛行機を買います。彼は拳銃を構えた犯人の前に立ちはだかり,逮捕に協力します。ルーシーはブライアンと結婚することになるでしょう。マックイーワン主演のマープルものと,ルーシーの相手が異なりますね。ヒクソン作品のルーシーはイギリス的な美人で,マクイーワン作品のルーシーはアメリカ的な小柄な美人です。

 映画川柳「持ち直す 父親の意気を 飛行機で」飛蜘
2008年7月18日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル
復讐の女神

BBC

106分
英国1987年2月8日・15日放映
 第8話Nemesis。T.R.ボーエン,演出ディヴィッド・タッカー。二部構成。IMDbの評価は7.8。

 年老いたラフィ−ル(フランク・ガットリフ)が息子マイケルのことを気にかけています。秘書(バーバラ・フランチェスキ)にマープル(ジョーン・ヒクソン)のことを“復讐の女神”だと話しています。一方,マープルは妻に追い出されたライオネル(ピーター・ティルベリー)を同居させています。ラフィール氏は亡くなり,新聞に大富豪死亡の記事が出ます。
 マープルはラフィールに関わる殺人事件を阻止したことがあったのを思い出しました。その富豪が遺言でマープルを館と庭園の史跡めぐりバス・ツアーに,“正義に関心があるならば”と招待していました。招待者は二人,マープルはライオネルと一緒に参加します。調査目的は不明ですが,礼金は2万ポンド。アビー・デューシスに着いたとき,マープルを旧領主ブラッドベリー・スコット邸に迎えるラヴィニア(ヴァレリー・ラッシュ)が来ます。彼女はこの招待もラフィールの手配だと言います。姉クロチルド(マーガレット・ティザック)と妹アンセア(アンナ・クロッパー)はマープルを歓迎しますが,それは口先だけのようです。姉妹は何年も前にラフィールの息子マイケル(ブルース・ペイン)と婚約後に殺されたヴェリティの親権者だったそうです。マイケルは証拠不十分で釈放されましたが,ライオネルが聞いた人はみな彼を悪く言います。マイケルは貧民の間で暮らしていました。もとヴェリティの教師だったエリザベス・テンプル(ヘレン・チェリー)が誰かに石像を落とされて意識不明の重態に。第1部はここまで。
 ツアーに参加していた犯罪心理学のワンステッド教授(ジョン・ホースリー)もラフィールの依頼だったことが分かります。テンプルは誰かに手紙を書いたはずですが,それが誰かが分かりません。病院で一時意識が戻ったテンプルはマープルに「あの人たちにヴェリティの真実を聞いて」と言葉を遺します。クック(ジェイン・ブッカー)とバロー(アリソン・スキルベック)はマープルを見張っています。ブラヴァゾン大執事(ピ−ター・コプリー)もラフィールに依頼された一人ですが,他の人と異なり,ヴェリティが不品行のマイケルを更正させる善意を持ち,二人は本当に愛し合っていたと証言します。ヴェリティは行方不明後,半年して水路で顔をつぶされた死体で発見されたと言います。教授は同じ頃に行方不明になった少女ノラ・ブレントの母(リズ・フレィサー)に会い,話を聞きます。アルコール依存症になってしまっている母は蒸発後まったく連絡が無いからノラは死んだと断言します。マープルは殺人の原因は,強い愛情だと喝破します。
 他のキャストはツアーガイドのマッジ(ジョアンナ・ホール),ラフィールの遺言を管理する事務所の弁護士ブロードリッブ(ロジャー・ハモンド),シャスター(パトリック・ゴッドフリー),ウィンポール(アン・クイーンズベリー)。

 映画川柳「花の下 “眠りを殺す” 老婦人」飛蜘
2008年7月19日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

バートラム・ホテルにて

BBC

107分
英国1987年1月25日・2月2日放映
 第7話At Bertram's Hotel。脚本ジル・ヒエム,演出マリー・マックマレィ。二部構成。IMDbの評価は7.5。

 走る列車。着地する航空機。列車から降りたマープル(ジョーン・ヒクソン)と航空機から降りたベス・セジウィック(カロリン・ブラキスオン)は二人とも“古風な格式”を売りものにしたバートラム・ホテルへ宿泊。マープルは友達のセリナ(ジョーン・グリーンウッド)から,レディ・セジウィックが金持との結婚・離婚をくり返して奔放な暮らしをしていることを聞きます。ベスはホテルのゴージャスなドーナツを頬張ってげらげら笑い声を上げるなど品がありませんが,若いときからスリルを求める冒険好きな性格です。一方,ラスコーム大佐(ジェイムズ・コッシンズ)は姪と称するエルヴィラ・ブレイク(ヘレナ・ミッチェル)を伴って宿泊します。実はベスはエルヴィラの母親ですが,行動の邪魔になる娘を父親に押し付けて会おうともしなかったのでした。エルヴィラは母親の愛人でレーサーのラディスラウス(ロバート・レイノルズ)とも連絡しており,これまでも近親者を騙して生活していたようですが,今回も勉強している振りをして騙そうと色々と策を練っているようです。ホテルが大規模な強盗犯罪と関係があるとみて張り込みを続けているフレッド警部(ジョージ・ベイカー)はマープルに正体を見抜かれてしまいます。キャノン・ペニファーザー神父(プレストン・ロックウッド)は大事な会議の日を間違えてしまい,飛行機に乗れずにホテルへ戻ってきます。さらに,部屋を間違えてしまったところを殴られて気絶してしまいます。ここまでが第1部。
 エルヴィラは自分の相続や財産がどうなるのかを管財人エジャートンから聞き出します。マープルの電話でフレッド警部はキャンベル警部(フィリップ・ブレザートン)と神父の行方を探り始めます。ホテルの受付ゴーリンジ(イレーネ・サトクリフ)やボーイ長のヘンリー(ネヴィル・フィリップス),支配人のロナルド・グレイヴス(ダグラス・ミルヴェイン)に聞きただしますが,手がかりは得られません。離れたところで交通事故にあったらしいと頭に怪我をした神父が見つかります。記憶をなくしている神父はどうやら部屋で自分のそっくりさんを見たようです。ベスのもと夫だったドアマンのマイケル・ゴーマン(ブライアン・マックグラス)が銃撃されたエルヴィラをかばったらしく,撃たれます。真犯人のめぼしがついたマープルはフレッド警部とともに最後のつめに入ります。

 映画川柳「冒険の 勇気と知恵は 親ゆずり」飛蜘
2008年7月18日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

スリーピング・マーダー

BBC

108分
英国1987年1月11日・18日放映
 第6話Sleeping Murder。脚色ケン・テイラー,演出ジョン・ディヴィーズ。二部構成。IMDbの評価は7.6。

 ニュージーランドから夫のジャイルズ(ジョン・モルダー・ブラウン)と一緒に来たグエンダ・リード(ジェラルディン・アレクサンダー)はヒルサイド荘を購入します。ヒルサイド荘の持ち主ヘングレイヴ夫人(ジョージン・アンダーソン)が案内するよりも先に寝室の場所が分かったり,庭師フォスター(ジャック・ワトソン)に頼んだ階段が既に木の下にあったり,建築家シムズ氏(エドワード・ジェウェズベリー)に頼んだ扉が壁の下にあったり,古い壁紙が赤いポピーと青い矢車菊だったりします。夫がロンドンで従弟の弁護士レイモンド・ウェスト(ディヴィッド・マカリスター)とその妻ジョーン(アマンダ・ボクサー)に会い,二人にグエンダを紹介します。レイモンドの叔母マープル(ジョーン・ヒクソン)も一緒にみんなで観劇し,『マルフィー公爵夫人』の絞殺の場でグエンダは恐怖に駆られて叫びだします。
 マープルはグエンダの幻覚が過去の記憶によるものだと推理し,「過去はほじくらないほうがよい」と助言します。調査してみると父親はインドから英国へ帰る途中の航海でヘレンと出会い,結婚したものの,新妻は駆け落ちしたことが分かります。ヘレンの情報を求むという広告でヘレンの兄ジェイムズ・ケネディ医師(フレデリック・トレヴェス)が訪ねて来ます。父親が死んだというサナトリウムで,ペンローズ医師(ジョン・リンガム)から,父親が睡眠薬で自殺したことを知らされます。自分がヘレンを絞殺したという妄想に駆られていたようです。さらに,つけていたという日記にはヘレンには誰か他の男がいたと書かれていました。第1部はここまで。
 ヘレンの恋人だった男を探そうとグエンダは,わずかな手がかりを元に,弁護士ウォルター・フェーン(テレンス・ハーディマン)とその母(ジーン・アンダーソン),退役少佐リチャード・アースキン(ジョン・ベネット)と嫉妬深い妻ジャネット(ジェラルディン・ニューマン),観光会社経営ジャッキー・アフリック(ケネス・コープ)などと会います。けれども決定的な証拠は得られません。元料理人イーディス・パジェット(ジーン・ヘイウッド)からは,事件当夜のことが聞けました。メイドのリリー(エリル・メイナード)が駆け落ちしたというヘレンの洋服がちぐはぐだったことで,駆け落ちは“やらせ”で,本当は旦那様に殺されたんだと言っていたこと,リリーが聞いた言い争いの声,「あなたは本当は恐ろしい人ね」の喧嘩相手はリリーが思い込んでいる旦那様ではないこと等。リリ−は情報を知らせる途中で絞殺されてしまいます。マープルは不自然に植えられた柳の下を警察に依頼して掘らせます。すると,そこにはヘレンの死体が埋まっていました。犯人の魔の手はグエンダに迫っています。
 他のキャストはもと不動産屋ガルブレイス(エスモンド・ナイト),リリーの夫(ケン・キストン),ラースト警部(ピーター・スプラッゴン)。
 ポーランドのスコリモフスキー監督の大傑作『早春』に主演していたジョン・モルダー・ブラウンがジャイルズ役で,いわば吉永小百合主演映画の浜田光夫のような笑顔と雰囲気で出演しています。

 映画川柳「消えし母 いまも昔も 愛されて」飛蜘
2008年7月16日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

牧師館の殺人

BBC

95分
英国1987年12月25日
 第5話『牧師館の殺人The Murder at the Vicarage』。T.R.ボーウェン脚色,ジュリアン・エイムズ演出。

 牧師クレメント(ポール・エディントン)の若き妻グリセルダ(チェリル・キャンベル)は料理が苦手でメイドを雇っていますが,メイドのマリー(レィチェル・ウィーヴァー)は密猟で刑務所を出たばかりのアーチャー(ジャック・ギャロウェイ)と恋仲で,仕事がおざなり。牧師館の離れを借りている画家レディングはプロセロー大佐(ロバート・ラング)の妻アン(ポリー・アダムズ)と恋愛中で,前妻の娘レティス(タラ・マックゴーラン)の水着姿も描いています。
 副牧師ホゥズ(クリストファー・グッド)は募金をごまかしたようです。数日前から村に滞在している“よそもの”レストレンジ夫人(ノルマ・ウェスト)は実はレティスの実の母親。医師ヘィドック(マイケル・ブラウニング)は彼女を親身になって診察しています。地元の警察署のスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッチ)は,レイク警部補(イアン・ブリンブル)と組んで捜査に当たります。噂話の好きなリドリー夫人(ロザリー・クラッチェリー)とハートネル嬢(バーバラ・ヒックス),ウェーザービー嬢(キャスリーン・ビドミード),サルズベリー夫人(デディー・ディヴィーズ)が色を添えます。
 牧師が気を回して心配する様子が中心になります。牧師を愛し,ひとの噂を気にしないように進言する夫人グリゼルダの闊達さが魅力的です。IMDbの評価は7.5。

 映画川柳「耳が利く 村の噂が 謎解きに」飛蜘
2008年7月19日

DVD
ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

ポケットにライ麦を

BBC

102分
英国1985年3月7-8日放映
 第4話A Pocketfull of Rye。脚色T.R.ボーエン,演出ガイ・スレイター。IMDbの評価は7.5。

 マザーグースが流れる。ワンマン経営の投資会社社長レックス・フォーテスキュー(ティモシー・ウェスト)が事務所で急死。ポケットにライ麦が入っていました。ニール警部(トム・ウィルキンソン)とヘイ巡査部長(ジョン・グローヴァー)は死因が数時間前に投与されたアルカロイド系の毒物と聞いて,社長の屋敷に赴きます。家政婦メリー・ダヴ(セリナ・カデル)がフォーテスキューの家族を説明します。フォーテスキューはみんなに嫌われていました。若き後妻アデル(スティシー・ドーニング),義理の姉エフィー・ヘンダーソン(ファビア・ドレイク),長男パーシヴァル(クライヴ・メリッソン)とその妻ジェニファー(レイチェル・ベル)。使用人としては,マープルがしつけを教えたちょっと愚鈍なグラディス・マーティン(アネッテ・バッドランド),下男のクランプ(フランク・ミルズ)とその妻(メレリーナ・ケンドール),メイドのエレン(ビュー・ダニエルズ)です。アデルの浮気相手ヴィヴィアン・デュボア(マーティン・スタンブリッジ)は殺人の話でもう逃げ腰です。
 アフリカから呼ばれた次男ランス(ピーター・ディヴィソン)が屋敷へ来た日の夜,アデルが飲み物で毒殺されます。貴族の未亡人でランスの妻パトリシア(フランセス・ロウ)はホテルに泊まっていました。グラディスから電話をもらったマープルはマザーグース「6ペンスの唄」の歌詞を思い出します。ここまでが第1部。
 マープルはグラディスが危ないと,イチイ・ロッジにタクシーで駆けつけますが,殺人事件の現場に入らしてもらえません。警部にメモを渡しますが,警部は尋問中でそのメモを見ませんでした。その夜,グラディスが洗濯物の干し場で殺されているのが発見されます。マザー・グースの歌詞の通りに事件が起きているとしたら,“つぐみ”が事件の背景にあるはずだとマープルは助言します。ランスはアフリカの“つぐみ”鉱山のことだろうと言います。エフィーの話では,レックスは昔その鉱山で儲け損ない,相棒のマッケンジーを捨てて怨みをかっていた可能性が出てきました。マッケンジー家の子供がレックスを恨んで犯行に及んだのでしょうか。どうやら男性に縁の無いグラディスを利用した男がいるようです。
 他のキャストは,事務所のグロヴナー嬢(スーザン・ギルモア)とグリフィス嬢(ナンシー・ヘロッド),マープルの隣人ブローガン夫人(ローダ・ルイス),マープルの家のメイド・ディジー(スージー・チェリス),警察の鑑識医フレンチ(ルイス・マホニー)。
 歌詞の通りに見立て殺人をすることは証拠を隠蔽するよりも,かえって手がかりをあちらこちらに残す結果になるのですが,あえてそうする犯人の意図が完全には得心できません。とはいえ,マザーグースには物語を牽引する力が十分にあります。

 映画川柳「無残やな 落ちる夕陽に 待つ女」飛蜘
2008年7月16日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

予告殺人

BBC

159分
英国1985年2月28日・3月1日・3月2日放映
 アラン・プラター脚色,ディヴィッド・ギルズ演出。第3話 A Murder is Announced。三部構成。傑作。IMDbの評価は7.9。

 新聞ガゼットに「リトル・パドックスで今晩七時に殺人があります」という広告が村の話題になり,パーティに物見高い村人が集まって来ます。七時ちょうど,明かりが消えて銃声がします。見知らぬ男が倒れていました。銃弾はレティシア・ブラックロック夫人(ウルスラ・ハウェルズ)の耳をかすめたようです。夫人の友達ドーラ・バンニー(レニー・アシャーソン)は大騒ぎ。外国人メイドで難民のハナ(エレーン・アイヴス・キャメロン)は殺されるのは自分だと言っていました。この屋敷には遠い親戚だというジュリア(サマンサ・ボンド)やパトリック(サイモン・シェファード)が同居していました。夫を戦争で亡くしたという未亡人フィリッパ(ニコラ・キング)は無口で,訳アリのようです。強盗に入って来た男はホテルの使用人ルディ(ティム・チャリングトン)でした。
 捜査主任はクラドック警部(ジョン・キャッスル)とフレッチャー巡査部長(モース主任警部もののルイス部長刑事役ケヴィン・ウェイトリー)。その場に集まって来た村人たち;イースターブルック大佐(ラルフ・マイケル)とその夫人(シルヴィア・シムズ),殺人好きのスウエッテナム夫人(メリー・ケリッジ)とその息子エドマンド(マシュー・ソロン),豚の世話をするヒンチクリフ(パオラ・ディオニソッティ)と気はいいものの頭の弱い友人マーガトロイド(ジョーン・シムズ),ハーモン牧師(ディヴィッド・コリングズ)とハーモン婦人(ヴィヴィエンヌ・ムーア)の証言を集めますが,真相はまったく分かりません。あまり表情を変えませんが、証言に翻弄される警部の困惑がみものです。
 半分を過ぎたところで署長の推薦でマープル(ジョーン・ヒクソン)が登場します。マープルは冒頭にホテルで編み物をしている場面で登場していました。「ご注文の紅茶です」と紅茶を持って来た女給マーナに「(ルディは)よさそうな青年ね」と話しかけますが、マーナは「よそ者には、ね」と受け流します。マープルはその答えに首をかしげていました。マープルはルディに強盗をやらせた誰かが犯人だと示唆します。ルディの友達だった女給のマーナ(リズ・クロウサー)に重ねて聞くように助言します。彼女は犯人におびえているようだというマープルの助言は確かで,以後警部はマープルと協力して捜査に当たります。
 第2部。マーナはルディが強盗の真似をして礼を貰う約束だったと話します。大富豪のゲドラーの遺産がからんでいるようです。ゲドラーは妻が死んだ場合は,秘書だったレティシアに遺産が行くようにしていました。誕生日パーティの後のバンニーの毒殺死までが第2部です。
 第3部。事件の夜,部屋にいなかった人物を思い出したマーガトロイドが絞殺され,謎解きが行われます。マープルは犯人に対して大胆なトリックを仕掛けます。

 映画川柳「首飾り 切られて真珠の 片曇り」飛蜘
2008年7月18日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

動く指

BBC

95分
英国1985年2月21-22日放映
 第2話 The Moving Finger。脚色ジュリア・ジョーンズ,演出ロイ・ボウルティング。二部構成。IMDbの評価は7.6。

 戦争中のテスト飛行の事故で負傷したジェリー・バートン(アンドリュー・ビックネル)とその妹ジョアナ(サビナ・フランクリン)はリムストック村に休養に来ました。一時滞在にファーズ荘を借ります。ほどなく妹を中傷する手紙が届きます。ジェリーは手紙を破り捨てますが,中傷の手紙は誰彼かまわず村人に送りつけられているようです。牧師ガイ(ジョン・アルマット)の妻モード(ディリス・ハムレット)は手紙の主を突きとめてもらうべく,マープル(ジョーン・ヒクソン)に相談します。そうこうするうちに,エドワード・シミントン(マイケル・カルヴァー)の妻アンジェラ(エリザベス・カウンセル)が青酸カリを飲んで死亡。「次男の父親は違う」という中傷の手紙と「もうダメ」というメモがありました。検死審問では自殺と判断されましたが,ジェーンは「殺人よ」と断定します。ここまで第1部。
 ファーズ荘の料理人パートリッジ(ペネロープ・リー)は,メイドのベアトリス(ジュリエット・ウェイリー)からシミントン家で事件の日に奇妙なことがあったので聞いて欲しいと会う約束します。ところが,そのベアトリスがシミントン家の衣装部屋で殺されていました。殺人事件で村は大騒ぎ。臆病者と自称しながらもゴシップ好きのパイ氏(リチャード・ピアソン)はわくわくする始末。村に勤めるオーエン・グリフィス医師(マーティン・フィスク)はジョアナに恋し,グリフィス医師の妹エリル(サンドラ・ペイネ)はシミントン氏に思いを寄せます。ジェリーはシミントン家の厄介ものの娘ミーガン(デボラ・アップルビー)の魅力に気がつき,検診のためのロンドン行きに同行させ,美しく変身させます。2通目の中傷の手紙を警察に持参したジョアナの留守中,ジェリーは屋敷の本棚の古い本の頁が切り取られているのに気がつきます。中傷の手紙の主はファーズ荘の持ち主エミリー・バートン(ヒラリー・メィソン)なのでしょうか。けれども,中傷文には彼女には似合わない語彙が使われています。マープルは宛名のBartonが,Burtonに直されてタイプされているのに気がつきます。さらに,シミントン家のガヴァネス(家庭教師)エルシー・ホランド(イモジェン・ビックフォード・スミス)宛てに中傷の手紙が来ます。手紙の指紋からエリルが逮捕されます。今度の手紙は貼り文字ではなく,全文タイプでした。グリフィス医師は妹が殺人犯のはずはないと信じます。クロフォード警視(ロジャー・オスティミー)に依頼して,マープルは真犯人を罠にかける賭けに出ます。
 マクイーワン作品はジェリーの自己回復の物語になっていましたが,ヒクソン作品はジェリーと同時にジョアナの恋愛や,シミントン家に関連する複数の恋愛が描かれています。

 映画川柳「わけありて 恋の瞳に ガヴァネスは」飛蜘
2008年7月17日

DVD ハピネット・ピクチャーズ
ミス・マープル

書斎の死体

BBC

156分
英国1984年12月26-28日放映
 ジョーン・ヒクソン主演のマープルもの。マクイーワン主演のマープルものを先に見てしまったので,ちょっと歩が悪いのですが。 ヒクソンは1998年の10月17日に亡くなっています。享年92歳。ヒクソンの「マープル」シリーズはBBCの“遺産 heritage” TV制作の好例で,過去の田舎を舞台に衣装・装飾・車型・髪型・化粧など英国文化を再現しています。
 新井潤美『へそ曲がりの大英帝国』によりますと,英国文化といっても,階級意識の強い英国では,クリスティーのマープルものが主に描くのはカントリー・ハウスと村の住人ということになります。カントリー・ハウスとは,アルトマン監督が『ゴスフォード・パーク』で舞台としたような広大な敷地をもった大邸宅で,アッパー・クラスや,アッパー・ミドル・クラスの人々の社交の場になる場所です。使用人を一人でも置くことがミドル・クラスの必須条件でした。ちなみに,アッパークラスの使用人は少なくとも五,六人。クリスティの描く社交界は第一次世界大戦が終了して,第二次世界大戦が始まる前の「大戦間」のものです。
 第二次大戦後,相続税が引き上げられて,カントリー・ハウスの持ち主は家屋敷の所有が困難になりました。さらに,使用人の数も激減して大邸宅や庭を維持できなくなってしまったのです。その窮地を救ったのはナショナル・トラストでした。この団体は貴族の所有だった庭園や屋敷をイギリスの「遺産」として,保護の対象にしたのです。買い上げた資産を一部を公開するなどの条件付きで,貴族が続けて住めるようにしたのでした。こうしてカントリー・ハウスは観光客に門戸を開き,時代物の映画やテレビのロケに使われ,イギリスの「遺産産業 heritage industry」の主要な部分を占めるようになり,ますます「古き良きイギリス」のイメージを作り上げていきます。

 第1話 The Body in the LIbrary。T.R.ボーエン脚色,シルヴィオ・ナリッツァーノ演出。三部構成。マープルに対する人物評価が友人たち,つまりドリーやヘンリー卿,本部長などの証言でなされており,パイロット版の特徴がよく出ています。自宅の書斎に死体、それも女性の死体があったら戸惑うのは当然で、あらぬ浮気の疑いをかけられ、疑心暗鬼にとらわれるゴシントン・ホールのバントリー夫妻が滑稽に描かれています。BGMの音楽は軽快で事件と皮肉な対照を見せています。佳作。IMDbの評価は7.5。

 馬車が通る田舎道。朝七時,ゴシントン・ホールの書斎のカーテンを開けた家政婦メリー(キャリン・フォーレイ)は仰天,すぐにバントリー大佐(モーレイ・ワトソン)と妻ドリー(グェン・ワットフォード)に連絡,書斎に若い女の死体があったのです。予想外の珍事にあわてる夫妻や駐在所の警官パーク(ジョン・バードン)とその妻パーク夫人(アン・ラッター)。大佐はドリーに相談相手を勧め,ドリーはマープル(ジョーン・ヒクソン)を車で迎えに行きます。大佐の友人メルチェット警察本部長(フレデリック・イェーガー)が捜査を担当し,スラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッチ)やレイク警部補(イアン・ブリンブル)が手伝います。
 マジェスティック・ホテルから行方不明者の捜索願が出されており,死体はダンサーのルビー・キーン(サリー・ジェイン・ジャクソン)だという証言が得られます。ルビーは足首を痛めたジョージー(トルーディ・スタイラー)が代わりに雇った少女でした。捜索願を出した富豪コンウェイ・ジェファーソン(アンドリュー・クルイックシャンク)に話を聞くと,ルビーを養女にするつもりだったと言うのです。村の男マルコム(コリン・ヒギンズ)が採石場で燃えた車と焼死体を発見したところまでが第1部。
 コンウェイは車椅子生活,8年前の航空機事故で家族も失ったのですが,遺された義理の娘アデレード(キアラ・マッデン)と息子マーク・ギャスケル(キース・ドリンクル)が身の回りの世話をしていました。スラック警部はダンサーのレイモンド(ジェス・コンラッド)から事件の夜の経緯を聞きます。一方,黒こげの車はルビーと最後に踊ったバートレット(アーサー・ボストロム)のものでした。焼死体はリーヴ少佐(スティーブン・チャーチェット)の娘パメラ(アストラ・シェリダン)と思われます。ジェファーソンの友人ヘンリー・クリザリング卿(レイモンド・フランシス)はマープルを「イギリス1の犯罪学者。メアリー・ミード村の観察から世界を見ている」と評価しています。一方,バントリー大佐は村人から疑いの目で見られ始めます。映画制作のベィジル・ブレイク(アンソニー・スミー)は大佐に同情的な言葉をかけます。事件の夜11時頃,撮影所を出たベィジルも容疑者に入って来ます。ベィジルが庭で何かを燃やしています。マルコムが何を燃やしているかを聞くと,ベィジルは「うちのばあさんさ」と答えます。第2部はここまで。
 マープルはヘンリー卿にルビーを殺した人物はパメラを殺し,第三の殺人を計画していると話します。ヘンリー卿から本部長はマープル同席でパメラの友人の再尋問を依頼されます。本部長はスラック警部に指示,引退した警察幹部だけでなく,老婦人の意見も聞かされるスラック警部は面白くありません。パメラの友人フローリー(カレン・シーコーム)から映画のカメラ・テストを受けるためホテルへ行くと言っていたと証言が得られます。スラック警部はベィジルの車から死体に付着していた敷物の繊維を発見,ベィジルを逮捕します。警察がベィジルの家に来る直前,マープルはベィジルの女ダィナ・リー(デビー・アーノルド)にベィジルと結婚していることを明らかにして,夫の助けになるように忠告します。ダィナから「結婚証書を見たの?」と聞かれて,マープルは結婚証書の重要性に気がつきます。そして犯人と共犯者の結婚証書をロンドンに探しに出かけて犯人を確認した後,ジェファーソン氏にひと芝居をうってもらいます。トリックにかかった犯人が夜ジェファーソン暗殺のため,侵入してきました。
 最後にマープルが大佐の家で大佐やドリー,ヘンリー卿,本部長らに説明します。そして,ホテルで耳にして気になった曲がモーツァルトの『フィガロの結婚』のスザンナのアリアだったことを指摘します。スザンナは伯爵夫人と衣装を交換してこのアリアを歌うのでした。
 そのほかのキャストはホテルの支配人プレスコット(ヒュー・ウォルターズ),受付嬢ブリジェット(キャスリーン・ブレック),アデレードの相手ヒューゴ・マックリーン(マーティン・リード),大佐の家の執事ロリマー(ヴァレンティン・ディアル),ジェファーソンの執事エドワーズ(ジョン・モファット),WPC(サラ・ヒットロック)。

 映画川柳「顔を伏せ 映画女優の 死化粧」飛蜘

[参考書]
 新井潤美『へそ曲がりの大英帝国』(2008年,平凡社新書)


見た日と場所 作  品              感    想     (池田博明)
2010年4月3日



DVD
ミス・マープル
最も卑劣な殺人


MGM
英国
1964年
91分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズの第4作,“Murder Most Foul”の原作はクリスティーの『マギンティ夫人は死んだ』で,ポアロものです。脚本はデービッド・パーサルとジャック・セドン,監督ジョージ・ポロック。白黒作品。IMDbの評価は7.0。
 ウエルズ巡査(テリー・スコット)が「Hangman's Rest(死刑執行人の憩いの家)」で一杯ひっかけている間に近所の家では家主のマギンティ夫人が絞殺され,下宿人のテイラーが容疑者として逮捕された。裁判が始まると,容疑者テイラーは帰宅したら首を吊っていた夫人の縄をほどいているところを巡査に発見されたのだという。陪審員のなかの一人,マープルがテイラー有罪説に反対したため,審理は再審となった。「一人強情なひとがいて」と言われて,クラドック警部補にマープルは「他の11人が強情なの」と話す。
 教会のバザー用品を集めるという口実で現場を訪れたマープルと司書のストリンガー(ストリンガー・デイヴィス)。マギンティの姉のグラディス(メグズ・ジェンキンズ)から,妹は女優だったと聞く。部屋に文字を切り抜かれた新聞があった。
 新聞の文字から考察すると「名を変えてもバラはバラ。1951年の6月を思い出せ」となる。マギンティ夫人は誰かを脅迫していたのではないか。そして,その相手はパンフレットのあったコスグッド劇団の誰かではないかとマープルは推測。コスグッド劇団に入団して捜査することを決断する。
 コスグッド(ロン・ムーディ)の前でロバート・サービスの詩を演じるマープル。首尾よく研究生として採用される。早速,劇団員が宿泊するウェストワード亭へ同宿することになる。舞台に劇団員のジョージ・ロートン(モーリス・グッド)が現れるが,彼は急に倒れてしまう。ヒ素による毒殺だった。女優イーヴァ(アリスン・シーボーム)は予知能力があるという。彼女はロートンと交際していたようだ。
 マープルはマギンティ夫人の殺害現場にあった紙幣百ドル分はミス・ディレクションとしてわざと犯人が残したものだと推理,クラドック警部補に劇団員のなかで百ドルを引き出した者を調査したらとどうかと進言する。団員たちは事件の噂をする。団員は中年のラルフ・サマーズ(ラルフ・マイケル)と彼の妻モーリーン(ポーリーヌ・ジェイムソン),若い女性シーラ(フランチェスカ・アニス),彼女と婚約しているビル・ハンソン(ジェームズ・ボーラム),ややゴシップ好きのアーサー,中年女性ドロシー(アネット・カー)などである。
 ロートンが使っていた部屋に案内されたマープルはベッドに台本「九月を思い出せ」が置いてあるのを見る。コスグッド作の昔上演した劇だった。
 翌朝早く散歩に出たマープルは公園でストリンガーと落ち合い,昔「九月を・・・」が上演されたときの記録と当時の団員の調査を依頼する。
 ラルフとコスグッドが話し合い,推理劇『シチュー鍋』を再演することにして,女探偵ペネロペ役をマープルに当てることにする。練習の途中でストリンガーから電話が来る。当時の団員にマギンティの名があったこと,当時の団員で今残っている者はいないことが分かる。小道具の銃でラルフがマープルを撃とうとする場面がある。もちろん空砲。
 リハーサルで「ローナを殺したのはあなたね」というセリフをわざと「マギンティ夫人を殺したのはあなたね」と言い間違えて犯人の様子を見るマープル。
 一方,警察の捜査で百ドルを引き出したのはロートンだったことが分かる。警部補はマギンティ夫人殺害犯はロートンと決めつけるが,マープルはちょっと引っ掛かっている。警部補とマープルの会話が誰かに盗聴されている。隣室のドロシーだろうか。マープルは部屋の外にメモが落ちているのに気付く。「あの女に気づかれている。午前1時キッチンへ」とあった。そっと調べてみるとアーサーの部屋のタイプライターで打たれたものだった。
 午前1時近く,マープルがそっと見張っているとドロシーが部屋から出て来た。キッチンへ下りていく。後をつけようとすると,夢遊病のイーヴァに出会った。キッチンは青酸ガス臭がしてドロシーは死亡。マープルはロウと酸とNaCNを利用した殺人と推理する。もっともその方法は『シチュー鍋』の台本にあるものだとか。ストリンガーの情報では団員のなかにローズ・ケインという女優がいたという。
 マープルが芸能事務所で尋ねるとローズ・ケインは夫殺しで絞首刑になったという。子供に買いに行かせたソーセージに除草剤を入れたという。イーヴリンというのが子供の名前だ。
 『シチュー鍋』の初日,マープルが団長への花束の陰に置いたローズの写真を見てイーヴァが「この人は,関係しているわ」と驚愕する。警部補に劇中で犯人はマープルを狙うはずだと話すマープル。警部補はマープルを警護する約束をする。
 楽屋で出番を待つマープルに刃物をつきつけた者がいた。そして,イーヴリン・ケインの正体があきらかになる。なお,マープルは1924年の射撃大会で優勝しているという。母親の事件でなぜ子供が強請られるのかがよく分からない。原作には書いてあるのだろうか。
 ほかにクロスビー判事(アンドリュー・クルックシャンク),ハリス(デニス・プライス)など。

      映画川柳「編物の 手が気がかりな 裁判官」 飛蜘

 東京国際フォーラムの相田みつお美術館で,アガサ・クリスティー展が催されています。4月6日に行って来ました。派手な展示パフォーマンスは無いので,コアなクリスティー・ファンでないと楽しめないと思います。創作ノートが翻訳刊行間近だそうで,そのPRの意味もあるのでしょう,結構,創作ノートが展示されていました。
2010年4月2日



DVD
ミス・マープル

船上の殺人


MGM
英国
1964年
92分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズの第3作,“Murder Ahoy”は映画オリジナル。IMDbのトリヴィアによると,『魔術の殺人』と『ねずみ取り』に案を得ているそうです。脚本はデービッド・パーサルとジャック・セドン,監督ジョージ・ポロック。白黒作品。ローレンス・バックマン・プロダクション,撮影監督デズモンド・ディキンソン,音楽ロン・グッドウィン。IMDbの評価は6.9です。
 マープルは洋服屋で服を新調しています。試着室に入り,仕立て直して登場したマープルはダブルのスーツで正装しています。後で,船長は「リーファー・コートを着て三角帽子をかぶっている」と評しています。
 彼女が入った建物のフロアの一室では「喜望峰青少年更正センターの年次総会」が開かれています。伯父のヘンリー・マープル卿が亡くなったので,マープルは代理として初めて理事会へ出席することとなったのです。マープルの祖父バートラムがこの会の創立者でした。彼は青少年を正しく育成する場として軍艦バトルドアを寄贈したのです。
 さて,最初の議事としてなにか意見を述べようとして立ち上がった委員のひとりフォーリーは口を開こうとした途端に心臓発作に襲われて急死してしまいました。一見,事故のようでしたが,どさくさの後で,マープルは彼の嗅ぎタバコ入れが空になっているのに気づきます。意見を述べようと立ち上がったフォーリー氏は,直前にタバコを嗅いでいたのを思い出します。
 マープルは少しだけ残ったタバコを「化学実験セット」で試験してストリキニーネが仕込んであることを明らかにします。司書のストリンガーと相談して,マープルは直前にフォーリー氏が視察していたバトルドアに原因があると推察,乗り込んでいきます。
 船長のラムストン大佐(ライオネル・ジェフリーズ)は委員の視察を快く思いませんが,表向きは歓迎します。マープルは海沿いのホテルにとまったストリンガー氏と懐中電灯でモールス交信で連絡を取り合います。
 夜間,パトロール中の船員たちが窃盗団として屋敷に忍びこんでいるのを目撃したストリンガー氏は船員のボートを盗んで,マープルに連絡。その場を見ていたコンプトン大尉(フランシス・マシューズ)が刺殺され,帆桁に吊るされます。クラドック警部が捜査に乗り込んで来て,警部はマープルを見て驚きます。尋問で体育のハンバート中尉(デレク・ニモー)とシャーリー看護婦(ノーマ・フォスター)が交際していたと知って船長は絶句。同僚同士の交際は厳禁なのですから。古株のコニントン中佐(ウィリアム・メルヴィン),第一看護婦長ファンブレイド(ジョーン・ベンハム),ビショップ中尉(マイルズ・マレソン)らにも特にアリバイはありません。
 コンプトンの部屋の引き出しに彼が盗んだと思しき理事会宛ての報告書の封筒がありました。しかし,中身は空で,どうやらコンプトンにゆすられた真犯人が持ち去ったものと思われます。ストリンガーに報告書の調査を依頼。封筒の裏に書かれた33の数字,フォーリー委員のメモにも同じ数字があったのをマープルは思い出します。
 警察は町でパーティがあると,その後に窃盗があり,必ずパーティに出席していたハンバート中尉に窃盗の疑いをかけます。夜中にそれぞれの思惑を持って船のなかを歩き回る人々。やがて女性の悲鳴が聞え,シャーリーが倒れていました。検死の結果,毒物クラーレによるものと判明。マープルはネズミ取りにはさまれたと推理します。警部とマープルが話していると外から石が投げ込まれ,それが頭に当った警部は昏倒。石をくるんでいたのは,ストリンガーの調査報告でした。33というのは船員の数だったのです。
 マープルは真相を看過し,警部に船員たちがトラファルガー・ディのホーンパイプ・パーティへ参加するのを許可するように依頼します。自分はひとり船に残り,犯人の囮になろうという作戦です。嗅ぎタバコによる殺人やネズミ取りによる殺人などのが書いてある「The Dooms Box (運命の箱)」の本を皆にちらつかせてマープルは真犯人の気をひきます。
 夜中に犯人が出現し,その動機もあきらかになります。マープルは1931年のフェンシング・チャンピオンだったという昔の杵柄で戦います。マープルを守るはずの警部たちはハッチが閉じられて閉じこめられて,肝心なときに出られなくなってしまいます。あわやというときに思わぬ助けが入ります。
 検死もそこそこに常にお産の患者のもとに急ぐ医師クランプ(ニコラス・パーソンズ)が,コメディ・リリーフ。

      映画川柳「船長と 婦長の恋も 十四年」 飛蜘
2010年4月1日


DVD
ミス・マープル
寄宿舎の殺人

MGM
英国
1963年
81分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズの第2作,“Murder at the Gallop”の原作はクリスティーの『葬儀を終えて』で,ポアロものです。脚本はジェームズ・キャベノー,監督ジョージ・ポロック。白黒作品。IMDbの評価は7.1。
 犯罪改心者への募金で司書のストリンガー(ストリンガー・ディビス)と一緒に家庭を回っていたマープルは,エンダビー家で家主のエンダビー氏(フィンレイ・カリー)が階段を転落してくるのに出会った。死因は心臓麻痺だが氏の嫌いなネコが現場にいたことで,マープルは他殺とみなす。クラドック警部補(チャールズ・ティングウェル)は信じないため,マープルは司書のストリンガーと二人で捜査を開始する。
 遺産書の読み上げの席でコーラが「伯父は殺されたんでしょ」と発言,親族は混乱する。
 コーラに接近すべく家を訪ねたマープルはコーラが既になにものかによって殺害されていたことを知る。現場へ来合わせた家政婦ミルクレスト(フローラ・ロブソン)はマープルを犯人扱いする。
 エンダビー氏の長男ヘクター(ロバート・モーレィ)は厩舎とホテルを経営し,馬具や馬に詳しい。マープルは母親が乗馬をしていたので,その縁で乗馬が得意,すっかりヘクターと意気投合する。画商ジョージ(ロバート・アークハート)やロザムンド(カティヤ・ダグラス)とマイケル(ジェイムズ・ヴィリヤーズ)のシェーン夫妻は次第にエンダビー氏が亡くなった日に会いに行っていることが判明する。馬丁ヒルマン(ダンカン・ラモン)はジョージに言われてマープルを警戒するので,マープルも調べにくい。一銭の価値も無いと思われていた絵の本当の価値に問題があると推理したマープルは,ヘクター氏の主宰したダンス・パーティで犯人に罠を仕掛ける。
 事件が解決して,最後にマープルは前作のように求婚される。マーガレット・ラザフォードのマープルは大変に行動的なのが特徴。

      映画川柳「長らくも 顔を合わせぬ 親戚が」 飛蜘
2010年4月1日


DVD
ミス・マープル
夜行特急の殺人


MGM
英国
1961年
86分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズは日本未公開。シリーズ第1作,“Murder She said”の原作はクリスティーの『パデイントン発4時50分』。脚本はデービッド・パーサルとジャック・セドン,監督はシリーズ作すべてジョージ・ポロック。白黒作品。共演者にジョーン・ヒクソンの名前もありました。ヒクソン主演のBBCシリーズが評判になって以降は,このシリーズはあまり良い評判を聞かないのですが,どうしてどうして,結構面白い仕上がりでした。IMDbの評価は7.3。これはかなり高い数値です。
 本作では窓越しに殺人を目撃するのはマープル本人です。ちょうど『窓越しの殺人』という推理小説を読んでいたこともあり,車掌もクラドック警部補(チャールズ・ティングウェル)もマープルの証言に半信半疑です。憤慨したマープルは推理小説好きの友人,司書のストリンガー(ストリンガー・ディビス)を誘って沿線を捜索し,アーカンソープ家の塀でコートの切れ端を発見します。次いで,マープル自身がメイドに志願,気難しい家主アーカンソープ(ジェイムズ・ロバートソン・ジャスティス)のお蔭でメイドがすぐに辞めてしまうので即採用されます。マープルが雇われたのでこれ幸いと家政婦キッダー夫人(ジョーン・ヒクソン)は辞めてしまいます。マープルはゴルフバッグを持って雇われますが,ゴルフバッグは邸宅を捜索するときの弁解ための道具です。探索したい方へボールを打ち込むわけです。
 勘のいい少年,甥のアレクサンダー(ロニー・レイモンド)と一緒に馬屋を見たジェーンはエジプト資料のある物置に注目。庭師ヒルマン(マイケル・ゴールデン)に追い出されますが,夜に捜索して王の棺のなかで女性の死体を発見します。
 被害者はフランス人らしき女。殺人は前週の金曜日でした。警部補は父親の誕生日に集まった子供たちを召集,尋問します。娘のエマ(ミュリエル・パヴロー),次男のハロルド(コンラッド・フィリップス),三男の画家セドリック(ソーリィ・ウォルターズ),義弟アルバート(ジェラルド・クロス),四男イーストリ(ロナルド・ハワード)。侍医クインパー(アーサー・ケネディ)はエマと恋仲です。エマに送られた,戦死した長男エドの妻マルティーヌからの手紙も参考にされ,家族の中に殺人犯がいることで,お互いは疑心暗鬼になります。
 警部補はマープルの身の上を心配しますが,マープルは被害者から落ちたコンパクトと真犯人の手の形を手がかりに罠をしかけます。
 事件が解決してメイドを辞めるといいうジェーンに家主は「結婚してやる」と居丈高ですが,マープルは既に決まった人がいますと言って鄭重にお断りします。

      映画川柳「ヒ素混入 毒入りカレー 夕食に」 飛蜘





2008年〜2019年 マープルもの 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想     (池田博明)
 2019年4月14日



21:00
予告殺人




テレビ朝日105分
  
  そして誰もいなくなった、パディントン発4時50分、鏡は横にひび割れてに続くテレビ朝日クリスティ翻案シリーズ第4弾。
  脚色は長坂秀佳、監督は和泉聖治。
 西多摩郡あさひ町の小径の家で6時30分に殺人が起こるという予告がタウン誌に出た。最近流行のゲームと思って親しい人々はその日のパーティに集まってきた。 約束の時刻が来ると突然プラグがショートして停電し、銃声が3発して、灯りが戻った室内には見知らぬ男の死体があった。 男は館の女当主レイリー(大地真央)の妹が入院していた当時の札幌の病院の警備員だった。
  警視庁捜査一課・特別捜査係の相国寺竜也(沢村一樹)と多々良伴平(荒川良々)がさっそく現場に向かうと、そこには、渋谷東署の名物警部、“鬼バン”こと鬼瓦胖六(村田雄浩)の姿が。運転免許証から被害者・車井の身元が割れ、現住所の管轄である渋谷東署の鬼瓦たちが臨場してきたというのだ。 現場検証の後、被害者の足取りを追った相国寺らは、車井が怜里のことを「昔から知っている」と言っていたことを知る。そのことを確かめるため、怜里と寅美(室生滋)に会った相国寺と月見兎左子(芦名星)は、この館に住む人たちのことや怜里の亡くなった妹・楼里のことを聞かされる。怜里と周囲の人々との不思議な関係が明らかになっていく中、第二・第三の殺人が起こってしまい…。真犯人は原作と同じ。
2018年3月25日


テレビ朝日
21:00
鏡は横にひび割れて


テレビ朝日
105分
 邦題は『大女優殺人事件 鏡は横にひび割れて』、脚本は長坂秀佳、監督は和泉聖治。以下はテレビ朝日PRより。 
 映画界の大物女優・綵まど香(黒木瞳)が13年ぶりにスクリーン復帰を飾る映画『鹿鳴館の華』――まど香の夫でもある監督・海堂粲(古谷一行)がメガホンをとった同作品が、マスコミ大注目の中華々しくクランクインする。
 まど香が撮影の間の滞在のためだけに購入したという屋敷で開かれたパーティーの最中、その屋敷の前持ち主・神ノ小路凛(平岩紙)が死亡。劇薬が含まれる鎮静剤を飲んでいたダイキリに混ぜるという周到な殺害方法から、警視庁捜査一課・特別捜査係の警部・相国寺竜也(沢村一樹)は「明らかな計画殺人」と位置づける。
 さらに聞き込みの結果、そのダイキリは凛が飲んでいたものではなく、まど香のものだったことが判明。狙われたのは実はまど香だったのか、と思った矢先、そのダイキリを作ったのは夫の海堂だったことがわかる!
 パーティー会場で招待客たちが撮っていた写真を片っ端から集め、証言と照らし合わせながら現場の状況を確認していく相国寺。その中で彼が気を留めたのは、まど香が階段の踊り場に目を向けたときに“何かに驚いたような表情”をしていたということだった。  まど香は何を見て驚いたのか――それを聞こうと彼女を訪ねた相国寺は、そこでまど香がこの数日で3通の脅迫状を受け取っていたことを知る。脅迫状のことは夫である海堂には言わないでくれ、と懇願される相国寺。状況的に海堂の怪しさが増していく中、まど香の元に「キサマが自分のグラスにクスリを入れるのを見たぞ」という妙な電話が…。さらに、飲もうとしたコーヒーにヒ素が混入されるという事態も起こる!
 間一髪、ヒ素入りのコーヒーを飲まずに済んだまど香だったが、その直後、海堂の秘書・朱田〆子(西尾まり)がアレルギー用の吸入器に混入したヒ素で殺害されてしまう。
 その後も、相国寺たちの捜査により、かつてまど香が、ライバル女優の朝風沙霧(財前直見)と、ひとりの男性を巡って争った過去があることが明らかに。次々と衝撃的な事実が判明していく中、ついに3人目の犠牲者が出る…!

  コメント Comment
  【沢村一樹(相国寺竜也役)コメント】 僕が演じる相国寺竜也は、昨年3月に放送した『そして誰もいなくなった』にも登場した警視庁の警部です。孤島の屋敷に張り巡らされた巧妙なトリックの数々を解き明かしていくに値する天才的な刑事とは、どんな人だろうということを想像しながら作り上げた少し濃いめのキャラクターでした。 その相国寺が再びアガサ・クリスティの世界に戻ってくることになりました。今作『大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜』は、ある大物女優と、彼女を取り巻く人々の物語です。描かれる人々のストーリーと、殺人事件に紐づく推理モノの両方が楽しめる作品となっており、そこを分けて見ていただくとより物語が引き立つのではないかと思います。 物語の全体を通して人間の“情念”というものも感じられるドラマで、登場人物たちも激しい感情を持つ人ばかり。その中に入った相国寺との対比もまた、楽しんでいただける要素のひとつとなっています。『そして誰もいなくなった』のとき、僕は、みなさんが亡くなってしまってからの登場だったので、容疑者たる人物たちには会うことができなかったのですが、今回はたくさんの“容疑者たち”にも対面できておりますので、相国寺がどのようにトリックを解明し、事件を解決していくのかご期待ください。 (『パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜』主演の天海祐希さんからのメッセージを受けて…) セリフが少ないなんて話をしていたんですけど、実際、最後の謎解きのシーン、10ページを1カットの長回しで撮ったんです!「楽なんですよ、天海さんより♪」と言っていた自分がバカだった!と後悔しています(笑)。『パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜』で天海さんが演じる探偵役も楽しみにしています! 『パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜』、そして『大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜』。同じアガサ・クリスティ作品でも、まったく違った推理劇となっていますので、その違いを存分に堪能していただきたいと思います。
  【黒木瞳(綵(いろどり)まど香役)コメント】 この作品のお話をいただいて、エリザベス・テイラーが演じた役だと知ったときは正直、「私には無理じゃないかな」と思ったんです。でも、原作の『鏡は横にひび割れて』は、人間の“情”に訴えかける物語であり、とてもオーソドックスなミステリー。そんな作品の魅力も同時に感じ、挑戦してみようと決心しました。 今はミステリーと言うと、いろんな作品があり、トリックもさまざま。この作品にはそういった奇をてらった部分はないですが、逆に登場人物のバックグラウンドをとても丁寧に描いています。そういったところが現代ではなかなかないミステリー作品なのではないでしょうか。 アガサ・クリスティは本当に普遍的なミステリー作品。何年経っても、どの時代においても色褪せないのは、物語の中にしっかりと人間の“心”が描かれているから。この作品も登場人物がさまざまで、それぞれに背景・事情があるというところが面白いと思いました。 私が演じる綵まど香(いろどり・まどか)という女優は、愛に飢えた女性。愛がすべてで、愛に満たされたいと思いながら生きてきたのだと思います。すべての行動原理は“愛”で、世間体とか地位とか名誉とか、そういうことをすべて抜きにして生きている女性――そのように理解しないと演じることが難しい役でもありました。 同時にまど香は“無垢”なイメージでもありました。身につける衣装なども白を基調にしたもの。回想シーンは柄のあるものなどを選びつつ、現代のまど香との違いを表現しました。そうそう、50代にしてウエディングドレスも着てしまいました(笑)。そちらもよかったら楽しみにしてみてください(笑)。 沢村一樹さんとはこれが初めての共演でした。役柄上でまど香は相国寺さんがいらっしゃるとき「どんな刑事さんが来て、どんなことを聞かれるのだろう」とドキドキするわけですが、私自身も沢村さんと初めてお会いする日だったので、まど香の気持ちとシンクロし、新鮮な気持ちで相対することができました。沢村さんも同じ気持ちでお芝居をされたのではないでしょうか。 『大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜』は、クラシックな香りのする作品の中で、“女優”を貫いたひとりの女性の生き様を描いた作品。現代に甦ったアガサ・クリスティの世界を、存分にお楽しみください。
  【財前直見(朝風沙霧役)コメント】 “ミステリーの女王”のアガサ・クリスティ作品は、初めてです。主演の沢村一樹さんはじめ黒木瞳さん、津川雅彦さん、古谷一行さんなどベテラン俳優さん達と、久しぶりにお芝居する事が出来て嬉しかったです。 私の役・朝風沙霧は一癖ある女優で、呼ばれていないパーティーにブラスバンドを連れて来るような人です。私だけでなく、皆さんいろいろな意味で怪しいので、是非とも楽しんで観てください。
  【荒川良々(多々良伴平役)コメント】 ア・ガ・サ・アガサ!クリスティ!です。 大女優殺人事件です! 乞うご期待!
  【川口春奈(谷口小雨役)コメント】 アガサ・クリスティ作品は初めてで、しかも、こんな大先輩方とご一緒させて頂けて、現場ではいい緊張感の中でやらせて頂くことが出来ました。私は報道カメラマンの小雨という役を演じさせてもらいましたが、小雨だけではなくみんながどこか怪しくて独特な世界観です。細かい表情や動きなどを見逃さずに楽しんで頂けたら嬉しいです。
  【津川雅彦(段原平臣役)コメント】 これまで、たくさんのドラマプロデューサーを観察して来たお陰で、ちょっとカッコ良い役に挑戦出来ました。
  【古谷一行(海堂粲役)コメント】 私の役は映画監督です。 妻は大女優です。 監督と主演女優が久し振りにコンビを組んで『鹿鳴館の華』という大作映画の撮影に入ります。 監督役は初めてです。撮影現場のシーンも当然あります。 自分自身が身を置く世界で多少照れくさい所があります。 撮影シーンでは役者さんに設定の説明、スタッフにはカメラアングル、照明のタッチ等、アドリブでセリフを考え演じています。 でも、やはり照れますネ。

  スタッフ Staff (原作) アガサ・クリスティ『鏡は横にひび割れて』(ハヤカワ文庫刊) (脚本) 長坂秀佳 (監督) 和泉聖治 (音楽) (チーフプロデューサー) 五十嵐文郎(テレビ朝日) (ゼネラルプロデューサー) 内山聖子(テレビ朝日) (プロデューサー) 藤本一彦(テレビ朝日) 山形亮介(角川大映スタジオ) (制作協力) 角川大映スタジオ (制作) テレビ朝日
 
2018年3月24日


テレビ朝日
21:00
パディントン発4時50分


テレビ朝日
105分
2018年
 邦題は『パデイントン発4時50分 寝台特急殺人事件』、脚本は竹山洋、監督は和泉聖治。以下はテレビ朝日PRより。
 ある夕方、天乃瞳子(天海祐希)の義母・雀(草笛光子)が『特急オリオン』に乗っていたところ、 並走していた『寝台特急朝霧』内で男が女性の首を絞めているのを目撃。すぐさま通報したものの、 寝ぼけていたとして車掌も警察も取り合いません。
 そんな義母の汚名を返上するため真相究明に立ちあがった瞳子は、犯人が車内から死体を投棄したものと推理。 死体が投げ込まれたのは、沿線に広がる豪邸の敷地内だと考え、“ある人物”(前田敦子)をその屋敷に潜入させます。
 しかし、その豪邸には、一筋縄ではいかない曲者の社長(西田敏行)一族が顔を揃えていました。はたして、 “消えた死体”の行方は…!? そして、なんと屋敷内でさらなる殺人事件も発生!
  複雑に絡み合う一連の事件の真相とは…!?
 【天海祐希(天乃瞳子役)コメント】 アガサ・クリスティ作品は、時代と国境を超えて世界中の方々に愛されています。謎解きもトリックもものすごく面白いのですが、作品の最も大きな鍵となるのは“人間の心の機微”。立場や男女の違いによって生じる感情が根底に描かれ、すべては人間が引き起こしたことなのだと考えると、とてもドラマチックで面白い作品ばかりです。彼女がどんな風に考えて作品を書いていたのか、とても興味をそそられますね。 列車を舞台にしたミステリーは今となっては定番に思えるかも知れませんが、この『パディントン発4時50分』の発表当時はとても衝撃的な内容だったのではと思います。登場人物のキャラクターも個性豊かで、さまざまな人間が絡み合うミステリーなので最後まで楽しんでいただけると思います。 (『大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜』主演の沢村一樹さんにメッセージを) 「がんばれ!」のひと言ですね(笑)。どんなストーリーなのかとても興味がありますし、沢村さん主演の作品を見るのはすごく楽しみ!
 皆さんもぜひ二夜連続でご覧いただけるとうれしいです。 殺人事件を描いた作品ではあるのですが、ご家族で犯人や動機を推理しながら謎解きを楽しんでいただいてもよいのではと思います。出演者、スタッフ一同、皆で頑張った素敵なドラマですので、ぜひ楽しんでください。 
  【草笛光子(天乃雀役)コメント】 海外物のミステリーが好きですし、大好きなアガサ・クリスティの作品なので、お引き受けしました。 ミス・マープルの声を何本かやっているので、アガサ・クリスティ作品には親しみを持っています。
今回は事件の発端となって犯人を目撃する、出番は少ないけれど重要な役だと思い、楽しく演じました。 天海祐希さんとは初共演。西田敏行さんは『オリエント急行殺人事件』でちょっとお話ししただけでした。前田敦子さんもほかの作品でほんの少しすれ違っただけだったので、今回の皆さんとの共演はとても新鮮でした。特に、西田さんには引っ張られて、面白い反応が出ちゃいました。
  【前田敦子(中村彩役)コメント】 アガサ・クリスティのミステリーは誰もが知っている作品ばかりなので、その世界に入れたことをとても嬉しく思います。私はスーパー家政婦役で、役名に“スーパー”が付いているので、とても気合いが入りました(笑)。 演じる上で、家政婦としての役目と、瞳子さんに潜入現場の状況を伝えるという2つの大事な役割があったので、その両方の立場をスムーズに行き来できるよう心掛けました。また、お茶目な顔がたくさんある役なので、作品の中で浮かないよう、大切に演じることに気をつけました。 天海祐希さんは本当に格好良くて美しいです。長ゼリフもすべて完璧におっしゃっていて、とにかくカッコイイ!のひと言です。西田敏行さんはお茶目なシーンをさらに素敵にさせちゃう、とてもユーモアに溢れている方で、現場をいつも和やかにして下さいました。 瞳子さんの右腕として役に立つよう、精一杯頑張っている彩の姿を見ていただけたら嬉しいです。
  【原沙知絵(富沢恵子役)コメント】 この作品にお声がけいただいたときから、どのように演じるべきなのか、アガサ・クリスティ作品に参加させていただける喜びと緊張で撮影が始まるまでの日々、そわそわしていました。 いざ撮影が始まると和泉聖治監督がスマートに、アガサ・クリスティの独特な世界観に引き込んでくださりました。 日本を代表する素晴らしい役者の皆様のお芝居に圧倒される日々、刺激的で幸せな現場でした。
2017年3月25日


テレビ朝日
21:00
そして誰もいなくなった


テレビ朝日
105分+109分
2017年
八丈島沖に浮かぶ孤島・兵隊島。その孤島に立つ『自然の島ホテル』のオーナー・七尾審によって10人の男女が島に呼び寄せられる。脚本は長坂秀佳、監督は和泉聖治。以下はテレビ朝日PRより。
 七尾からの招待状を受け取りやってきたのは元水泳選手の白峰涼(仲間由紀恵)、元東京地裁裁判長・磐村兵庫(渡瀬恒彦)、元国会議員・門殿宣明(津川雅彦)、救急センター医師・神波江利香(余貴美子)、元傭兵・ケン石動(柳葉敏郎)、元女優・星空綾子(大地真央)、ミステリー作家・五明卓(向井理)、元刑事の久間部堅吉(國村隼)の8人。島に到着するも、ホテルの執事夫婦・翠川信夫(橋爪功)とつね美(藤真利子)からオーナーの七尾は不在であることを伝えられる。
 これから何が起こるのか、自分たちはなぜこの島に招待されたのか―期待と不安に包まれながら用意された夕食をとっていると、突如としてどこかから彼らの過去の罪を暴露する“謎の声”が聞こえてくる。
 それぞれの胸の内に去来する過去の出来事…。10人が互いの過去を探り合う中、突然招待客のひとりが目の前で殺害される!  そしてそれをきっかけとするように、ひとり、またひとりと招待客が殺されていき…
 そして招待客たちが島に渡ってから数日後。事件の報を受けた警視庁捜査一課の警部・相国寺竜也(沢村一樹)と八丈島東署捜査課の警部補・多々良伴平(荒川良々)が兵隊島へと向かう。大きな“密室”となっていた兵隊島で発見された10体の他殺体――果たして犯人は誰なのか?
 そして10人は何のために集められ、殺されなくてはならなかったのか?  かつてない大きな謎に、天才的な観察眼を持つ刑事が迫る…!!
  コメント
仲間由紀恵 コメント アガサ・クリスティというとても偉大で有名な作家の作品を日本で初めて映像化されるということで、とても楽しみに撮影に入りました。『そして誰もいなくなった』は台本、そしてもちろん原作も、読めば読むほど怖いお話。登場人物みんなが抱えている問題があり、実はそれが“人間の一番怖いところ”だった、ということがわかっていくラストまで、とても緊張感のある作品だと思います。 ひとり、またひとりと死んでいき、「次は自分なのではないか」という恐怖感を抱きながら精神的に追い詰められていく登場人物たち。そして自分たちの中にある“罪への真実”と向き合う間もなく殺されるという恐怖やパニック状態の表現は難しいところかな、と感じています。 大変豪華なキャスト陣で挑む今作ですので、大先輩方からたくさんの助言をいただきながら、記念すべき『そして誰もいなくなった』の日本初映像化作品を作り上げていきたいと思います! 演じているわたしたちも完成を楽しみにしておりますので、みなさんも存分に怖がって、楽しみながらご覧ください。
 向井 理 コメント 『そして誰もいなくなった』は世界的にとても有名な作品ですし、日本でもこれまでオマージュとして作っている作品も数多くありました。日本で初めて映像化することになった『そして誰もいなくなった』に出させていただけるのは本当に光栄なことだと思っています。キャストの中では僕が最年少なのですが、みなさんから撮影中にいろいろなお話を聞けること、お芝居を目の当たりにできることがとても楽しみです。 全員が殺されてしまうとは分かりながらも、視聴者の方々はそのタイミングや順番、殺され方などに注目し、推理を楽しんでいただければと思います。僕も、それを上手く裏切れるよう頑張ります。

  柳葉敏郎 コメント アガサ・クリスティという“普通ではない世界”を生きることになるので、お声をかけていただいたときからとても楽しみにしていました! 楽しみにした分、自分でもプレッシャーを背負わなくてはいけない、という良い緊張感の中、そして共演のみなさんも監督もよく知った方々なのでとてもいい人間関係の中、撮影を進められていると思います。 素晴らしい作品が出来上がる予感がしています!
  余 貴美子 コメント これまでいろんな形で上演、上映されてきて、たくさんの方に愛されてきた作品ですから、きっと内容やトリックはご存じの方も多いのではないかと思います。でもそういったこともわかった上でも楽しめる“心のサスペンス”がこの『そして誰もいなくなった』なのではないでしょうか。 登場人物がひとりずついなくなっていくという不吉な状況の中で、それぞれの人物の精神状態がどうなっていくのか、そういったところを楽しんでいただけたらと思います。
  國村 隼 コメント 私は今回の脚本を読みながら、すっかり忘れていたんですが、随分むかしに舞台でアガサ・クリスティ作品と出会っていたのを思いだしました。今回、あらためて作品と向き合ってみると本当のスタンダードとしてアガサ・クリスティが造りだしたトリックの数々、サスペンスの中の謎解きは時代を超えて愛される普遍性をもった作品なのだ、という事がよく分かりました。 大先輩方とご一緒する現場で、いろんな意味での緊張感の中、素敵な作品をつくっております。 日本で初めてドラマ化されたこの作品で、アガサの世界を存分に楽しんでみて下さい!
  藤 真利子 コメント ミステリーとして有名すぎるほどの作品ですが、台本を読ませていただいたらとっても面白くて、「これは何が何でも頑張るぞ」と決意したのを覚えています。 わたしは某局のサスペンス劇場で“最多犯人役”という記録を持っていますので、きっと視聴者のみなさんはどこから見てもわたしが犯人だと思うのではないでしょうか…。これまで殺すほうが専門でしたが、今作では初めて殺されることになります(笑)。 10人しかいないはずなのに10人とも殺されてしまう、という普通のサスペンスとは一味違ったこの作品を楽しんでいただければ幸いです。
  大地真央 コメント 日本で初めて映像化されるアガサ・クリスティの代表作『そして誰もいなくなった』に参加させていただくことを、大変光栄に思っています。今回は、原作よりもやや華やかなキャラクターに描かれている綾子ですが、その内に秘められた、ちょっと屈折している本音も表現出来れば…と思っています。素晴らしいキャスト、スタッフの方々との現場は、いい緊張感がありながら楽しくて、毎回刺激的です。素敵な作品に仕上がる予感と手応えを感じています。 皆さんもどうぞご期待ください!
  橋爪 功 コメント 50年ほど前に『そして誰もいなくなった』の舞台を上演したときに役者ではなく“照明係”として携わっていたんです。いつか日本で映像化をするときには、是非出演したいと熱望しておりましたので「やったー!」と思いました。わたしが演じる“執事”の役は、これまで外国で作られたどの作品の中でも怪しさ満点なんです(笑)。今回もそれを求められているのでプレッシャーではありますが、錚々たる俳優さんばかりなので、僕自身も出来上がりがとても楽しみです! 津川雅彦 コメント アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』は欧米式ミステリーの教科書のような作品。日本で初めて映像化されることになりましたが、さぞ面白いものが出来上がるだろう、と今から楽しみにしております。共演の方々も素晴らしい方ばかり、そして監督も気心の知れた和泉聖治監督ということで、お芝居をしていてとても楽しい毎日。久しぶりに“ドラマらしいドラマ”が出来上がるのではないかと思っています。 渡瀬恒彦 コメント このような作品が日本で出来るとは思っていませんでしたし、ましてやそれに自分が参加することが出来るとは思ってもいませんでした。キャストのみなさんもそれぞれクセがあるというか、クサイというか…(笑)。そういう方々ばかりが集められていますので、期待しています!


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


  BACK TO 私の名画座       森崎東全作品・資料    資料発掘・鈴木清順語る