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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  


2011年2月1日以降10月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2011年10月12日



DVD
ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路


2010
120分
 モーツァルトの姉ナンネルに焦点を当てた伝記映画。監督・脚本・製作ルネ・フェレが娘マリー・フェレ主演で作った映画。編集も助監督もフェレ一家。キャストにも娘・息子が名を連ねる。
 ヴェルサイユに向う旅の途中で車軸が折れ、立ち寄った(マリー・フェレ)女子修道院の隣りに枢機卿の入れ知恵で軟禁されていたルイ15世の5~7番目の娘たちがいた。14歳のナンネルは娘たちと仲良くなる。音楽教師ヴィクトワールの読んでいた恋愛小説に関心をもつ「司令塔」ルイーズ(リザ・フェレ。マリーの一歳下の妹)は音楽教師の息子ユーグを愛しているとナンネルに手紙を託す。
 馬車が直って出発。宿場でナンネルは初潮を迎える。母親(デルフィーヌ・シュイヨー)は運命のひとに会うことを希望的に話す。ナンネルの楽譜帳に父は弟ヴォルフィ(ダヴィッド・モロー。音楽院在学中のバイオリンの名手)のことばかり書き付けていた。当時、王妃は出産で死亡したばかりで国民は喪に服していた。
 ピアノ伴奏でバイオリン・ソナタを披露する二人。ナンネルは男装して王子の音楽教師ユーグ(ルネ・フェレ)に手紙を渡す役目を果たす。ナンネルに興味を持った王子(クロヴィス・フワン)は、ヴァイオリンを弾かせたり、アレグリのミゼレーレの最高部を歌わせたりする。そして自分は作曲希望だと、ナンネルに曲を依頼する。心を開いて話す王太子にナンネルは心を魅かれる。
 作曲を教えて欲しいと言いだすナンネルに父親は女には対位法とハーモニーは無理だと断言する。5歳のときに弟が作ったという曲は実は自分が書いたものだ、ソナタも作ったというものの、父はソナタは破綻した音が並んでいたと酷評する。演奏会前に王太子にナンネルは自分が女性であったことを告白する。王太子は城内を案内してくれた。
 翌日の演奏会。姉はクラブサンと歌、弟はヴァイオリンを披露する。丁重に扱われて母は大喜びだが父親はひどい演奏だったと反省。パリを立つ日が来る。次はロンドンだ。しかし、ナンネルは家族と別れてパリに残り、作曲の勉強をする。そして献上した曲を王太子は楽士に演奏させ、褒める。しかし、王太子は父王の命で結婚することになったのだった。つらい別れだったが、サン・ドニの修道院をたずねるように言われたナンネルはそこで修道尼となったルイーズに再会する。ルイーズはナンネルに「兄はあなたを忘れ、私は神に祈る」と告げる。ユーグは? ルイーズは悪魔がいたと言う。ユーグは父王の私生児だったのだという。ナンネルはパリの近くに来た家族のもとへ戻った。雨に濡れたこともあって熱病で倒れたナンネルだったが生命は取りとめた。パリへ戻った家族の噂を聞いて王太子は彼女を招待する。自分には二人の母親、実母と娼婦ポンパドゥールがいると話す。個室に誘われ、即興のクラブサンを弾かせながら王太子は妻をはべらせ、妻への愛を告白している。妻を個室の外へ追い出し、次に彼女を誘惑。しかし口づけの後、突然激昂した王太子はナンネルを追い出し、悪魔の誘惑だと暴言を吐く。困惑したナンネルはルイーズに手紙を書くが、遭って話をすると、ルイーズは「あなたは父に従いなさい、私は神に従う」というばかりだ。なぜ女に産まれたのだろう。小さいころから歌と演奏の旅、他には何もできない、料理さえできないのだ。ルイーズは不満を母親にぶつける。しかし心やさしい彼女はすぐに母親に謝る。作曲した楽譜を暖炉で燃やすナンネル。家族一緒の旅はもう終わりだ。父はモーツァルトにオペラの作曲を提案する。その後、ナンネルが作曲をすることは無かった。
       映画川柳「何事も 受け身のナンネル 拍子ぬけ」 飛蜘
 マリー・フェレは一本調子の大根役者で,実妹のリザともども、学芸会の芝居である。公式ホームページによると,マリーもリザも女優を目指している訳ではないという。マリーは高校1年生に当る。失意のナンネル(マリー)と修道尼ルイーズ(リザ)の対話場面が二回もあり、眼もあてられない、むごい映画だった。
2011年10月10日



DVD
ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い


イタリア=スペイン
2009年
日本公開2010年
122分
 カルロス・サウラ監督の脚本家ダ・ポンテを主人公に設定した伝記映画と思えますが、事実と異なる点が多く、伝記映画とはいえません。伝奇映画と言ったほうがよいでしょう。しかし、モーツァルト・ファンとしては見過ごすわけにはいきません。ダ・ポンテとモーツァルトの作品は『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コシ・ファン・トゥッテ』とありますが,資料がほとんど残されていない『コシ』をもとにバック・ステージものを作るのは大変。『ドン・ジョヴァンニ』に焦点を当てたのは製作者の慧眼の至り。 撮影はヴィットリオ・ストラーロ。
 ダ・ポンテ(Lorenzo Balducci)はキリスト教徒に改宗して名前を授けられたユダヤ人、ヴェネツィアでは微妙な立場です。カサノヴァ(Tobias Moretti) に師事するダ・ポンテは、密かな詩集が異端審問で問題となり,15年の国外追放・入国禁止の刑に処せられます。1781年にウィーンに着いたダ・ポンテはサリエリ(Ennio Fantastichini)への紹介状を持っていました。ちょうどサリエリはオペラの稽古で皇帝ヨーゼフII世(Roberto Accornero)の命に依りカヴァリエリ(Cristina Giannelli)とフェラレーゼ(Ketevan Kemoklidze)を共演させる作品の練習中。二人の諍いに戸惑っているところでした。『フィガロの結婚』のフィナーレの後で見ていたサリエリの妻に「ダ・ポンテは貴方には駄作を、モーツァルトには傑作を渡すのね」と言わせるなど,サリエリの矮小化がなされています。図書館に潜んだカサノヴァからダ・ポンテはサリエリの宮づかえは足かせだ、モーツァルトと仕事をせよと助言されます。ちょうど陛下の命により、新作オペラがモーツアルト(Lino Guanciale)に依頼されます。サリエリとダ・ポンテは二人でモーツァルトに頼みに来ました。若き日のヴェネツィアの町場で上演されている『ドン・ジョヴァンニ』の舞台が出てきますが,これが従僕パスクアリエッロが登場するガッツアニーガのオペラで、実際に作曲されたのはモーツァルト作品の少し前のこと。
 ダ・ポンテはモーツァルトに『ドン・ジョヴァンニ』の構想を話します。ドンナ・アンナを誘惑するドン・ジョバンニ(Borja Quiza)、不謹慎で上演できっこない場面が再現されます。ダ・ポンテには冒頭で刺殺された父親(Carlo Lepore)が終幕で大理石像になって戻って来るというイメージがありました。また,彼は召使のレポレッロ(Sergio Foresti) の役割を大きくしました。
 第1幕冒頭のリハーサルがモーツアルトのクラブサンと弦楽四重奏で伴奏されて行われます。アンナ役はカヴァリエリ。ここは素晴らしい音楽です。稽古場を見に来たひとりの女性がいました。ヴェネツィア時代、ダ・ポンテが賭け金を貸したことのある老人(Franco Interlenghi)の娘アンネッタ(Emilia Verginelli)です。彼女の身請けを頼まれたダ・ポンテは荷が重すぎると飛び出して逮捕されたのでした。モーツァルトにチェロを習っていたことで,ダ・ポンテと再会したアンネッタは婚約中の身だとか(これはアンネッタの嘘)。既にフェラレーゼを恋人にしているダ・ポンテには女たらしの噂がありました。
 主役を約束していたフェラレーゼは怒ります。ビリヤード場でダ・ポンテはモーツァルトと相談,棄てられた女性エルヴィラを設定しました。さらにフェラレーゼはカサノバからダ・ポンテの女性遍歴を聞き,メモをアンネッタに送りつけます。これらは「カタログの歌」の下敷きになりました。スペイン女の漁色数を1003人に増やしたのはカサノヴァの助言という場面がありますが、これはフィクションでしょう。モーツァルトは病気がちでコンスタンツェ(Francesca Inaudi)は心配です。しかし,モーツァルトはサリエリの助言のような「軽くて聞き易い」作品を作ろうとする意図はありませんでした。彼は作品に「人生を刻む」つもりなのです。リハーサル後に来た手紙は父の死の報告でした。モーツァルトは父を憎みながらも,愛していたと告白。以前に神父だったダ・ポンテはモーツァルトに頼まれて贖罪を行います。
 モーツァルトはアンネッタをオケのチェリストに加える。舞台ではツェルリーナ(Alessandra Marianelli)を誘う誘惑の二重唱。熱病にかかったダ・ポンテを駆け付けたアンネッタが看病します。
 ダ・ポンテがオペラで悔悛を迫る石像に対して「ノー」を言い続ける台本を示すと、カサノヴァは疑問を呈します。だが、それはカサノヴァのモットー、「永遠より現世の一瞬に」賭けるという人生を裏切ることなのではないか。カサノヴァはダ・ポンテがアンネッタと結ばれたのを知って呆れます。カサノヴァも矮小化されます。
 国王を迎えてのウィーン初演はそこそこ成功でしたが、放蕩者の人生を讃美するなんてという批判の声も多く聞かれました。だが、ダ・ポンテとアンネッタは気にしませんでした。エンド・タイトルのBGMには「恋とはどんなものかしら」(歌はCristiana Arcari)、そして歌劇序曲。
 芸術映画風ですが、大甘の通俗映画です。サウラ監督作品とは思えない甘口で通俗的な解釈に終始します。
 演奏はコレギウム・マリアーヌム、プラハ・バロック合唱団、ニコラ・テスカリ指揮。ニコラは作曲家でもある。
       映画川柳「ダ・ポンテと ドン・ジョヴァンニを 混ぜ合わせ」 飛蜘
 実際に初演されたのはウィーンではなく、プラハ。エルヴィラはモリエールの『ドン・ジュアン』のキャラクター。
2011年10月6日



DVD
セリ・ノワール



フランス
1979年
112分
 アラン・コルノー脚本・監督作品。家を回って生活用品を売っている男フランク(パトリック・ドヴェール。1982年に自殺)がたまたま尋ねた家で、ローブに興味を示した老女(ジャンヌ・エルヴィエール)がいた。老女の姪だという少女モナ(マリー・トランティニヤン。ジャン・ルイ・トランティニヤンの娘、2003年に恋人による暴行で死亡)は、シャツを脱ぎ捨て裸になり、フランクに抱きついて来た。戸惑ったフランクは「また来る」と約束して家を出た。フランクが帰宅した部屋は掃き溜めのようだ、妻ジャンヌ(ミリアム・ボワイエ)は片付けもできず食事も作らない。ラジオで歌ばかり聴いている。フランクが風呂桶に突き落としたら、怒って出て行ってしまった。商売のボス(ベルナール・ブリエ)に金をごまかしたのを責められ、刑事に突きだされて留置所に入れられたが、モナが金を肩代わりしてくれて出獄できた。無口なモナは老女に売春を強要されているようだ。老女は大金を持っているという。フランクは一週間待ってくれ、なんとかすると約束する。
 フランクは自分の客でモナを抱いたことがあると見当を付けたならず者のティキディス(アンドレアス・カツーラス)を酔わせて計画に引きこむ。老女を撲殺した後で老女の隠していた銃でティキディスを撃ったのだ。老女が隠していた金も盗って、偽装計画は順調に運んだように思われた。自分の部屋でトランクに金をしまうと、出て行ったはずの妻が帰ってきていて、金を見られてしまった。よりを戻そうとする妻は、執拗に金の出所を聞く。急に稼ぎがよくなったことを不審に思ったボスも怪しいと勘づき始める。モナとの逃避行を考えたフランクは、次第に追い詰められていくが・・・
       映画川柳「俺はクズ 責める自分が 奮いたつ」 飛蜘
2011年10月4日



DVD
真夜中の刑事/PYTHON357



フランス
1978年
118分
 アラン・コルノー脚本・監督作品。原題はPOLICE PYTHON 357。共同脚本はダニエル・ブーランジュ。
 マルク・フェロー警部(イヴ・モンタン)が夜中に彫像盗難犯人を逮捕する瞬間をひそかに撮影した女性があった。警部は女と知りあい、ネガを返してもらったことをきっかけに深く愛するようになる。女はシルヴィア(ステファニア・サンドレッリ)。彼女のパトロンはマルクの上司、警察署長ガネ(フランソワ・ペリエ)だったがそれは秘密。マルクは呼び出されて求愛したのに「一週間待ってくれ」と言われて怒り、女を尾行して、アパートを突きとめる。ところがその夜、シルヴィアは別れ話にカッとなった署長に撲殺されてしまう。
 自首しようとする夫に足が悪い妻テレーズ(シモーヌ・シニョレ)は様子を見ることを薦める。捜査が始まると、目撃されている男は捜査に当るマルク本人のものばかりだ。証拠となる自分の靴や手袋、写真などは溶接バーナーで焼却したものの、真犯人の手がかりもないままマルクの焦燥感は募る。女はパリで売春婦だったが、オルレアンで生活を変え真面目に働くようになった、女を変えた男がいるはずだとマルクは主張する。部下のメナール(マチュー・カリエール)が熱心に証人や証拠を集めるほど、マルクの立場は悪くなる。シルヴィアがマルクの送った小さなロケット付きの時計は、もともと署長がシルヴィアに送ったものだった。偶然その時計を見た署長は、マルクがシルヴィアの「新しい男」だったと気付く。探りを入れてみると、マルクは現場を探してポラロイド写真を発見、彼女の背後に写った家を探し始めていた。その家は署長の別荘だった。良く見ると、署長の愛犬と車まで写っていた。マルクはまだ気付いていない。署長は拳銃を用意し、河原でマルクを撃とうとするが、逆に射撃名人のマルクにしとめられてしまう。明日の正午に証人喚問があるその夜、マルクは硫酸で顔を焼いた。
 署長殺害の報に色めき立つ署員。証人喚問は中止になった。テレーズはマルクの家に行き、真相を話し、自殺を手伝わせる。警部の行動をいぶかしんだメナールが尾行していて、一部始終を目撃していた。メナールは署長代理に真相を告げようとするが、あいにくスーパーに強盗が入った。翌朝、マルクのもとに警官が来る。
 マルクを逮捕? いや強盗が激しく抵抗していて、応援を依頼されたのだ。マルクは危険を顧みず、車で突っ込み、メナールを救援、犯人を撃ち、銃撃と爆発で怪我をする。メナールが駆け付ける。マルクのポケットからシルヴィアのロケット(時計)が落ちる。メナールはそれを拾ってポケットにそっと戻すのだった。
       映画川柳「モンタージュ そっくりながらも 気づかれず」 飛蜘

  公開時にこの作品はコアな映画ファンの間では話題になりました。ようやく見ることができました。
2011年10月3日



DVD
ニア・ダーク/月夜の出来事


USA
1987年
94分
 監督・脚本キャスリン・ビグローの単独演出長編第一作。エド・フェルドマンとミーカーが製作。プロデューサーはスタンリー・ジャッフェ、音楽はタンジェリン・ドリーム。
 この映画は『エイリアン2』の後で製作され、キャストをまとめて引き継いだかたちになった。脚本のキャスリンとエリック・エドの企画は西部劇だったが、西部劇そのままでは撮れないことに気付き、当時はホラー映画が流行していたので、西部劇と吸血鬼の融合、つまり吸血鬼ウェスタンを作ろうとしたとキャスリンは言う。吸血鬼となった人間たちは太陽光を浴びると焦げ、燃え尽きてしまうという設定のため、夜間しか行動しない。撮影はほとんど夜間だったそうで、撮影監督はアダム・グリーンバーグ、『ターミネーター』の撮影者。彼は夜間撮影では照明を制御することが可能なので思い通りの画像が撮れたと言う。肩やヒザの上にカメラを置いての撮影も多い。
 夜の駐車場で、メイ(ジェニー・ライト。現在は映画俳優を辞めている。1998年が最後)を見かけた青年ケイリブ(エイドリアン・パスダー)は、彼女をキャンプ地に送ろうと車に乗せる。メイは「夜は輝いている、そして騒々しい」と奇妙なことを言う。夜明け前に帰りたいという彼女とキスをしたとき、首筋を噛まれてしまう。メイが車から出た後、ケイリブは次第に体の変化を覚える。畑をよろよろ歩いてくるケイリブに妹のサラ(マーシー・リーズ。このとき10歳。14歳で急に役者を辞め今は医師)が気付いたとき、ケイリブはキャンピングカーに拾われて去っていってしまう。
 キャンピングカーの中にはメイの「家族」がいた。超人として完全な吸血鬼セブレン(ビル・パクストン)、家族の父親的な存在のジェス(ランス・ヘンリクセン)、母親役のダイアモンドバック(ジェニット・ゴールドスタイン)、見かけは10歳だが中身は40歳という息子役のホーマー(ジョシュア・ミラー)。ホーマーが家庭教師メイを一族にしたように、メイはケイリブを一族にしたのだろうか。メイはケイリブの血は吸わなかったと言う。するとまだ彼は不完全なのだ。一族になったと判断するにはもう少し様子を見なくてはならない。ケイリブは家へ帰るためにバスに乗ろうとするが、バス代(14ドル)が不足だ。ヤク中毒かと思われ、不審尋問した警察官に3ドルの金を借りてバスに乗ったものの、苦しくなり途中で下りてしまう。するとメイが待っていた。メイの血を腕から吸わせてもらうと、ケイリブには生気が蘇って来た。
 吸血鬼の家族はまるで「ジプシー」のようだ。父ロイ(ティム・トマーソン)と妹サラは行方不明になった兄を探す。
 家族やメイはケイリブに「生贄を殺すことを覚えればいいのよ、本能に従うの」と教える。しかし、彼には思い切ることが出来ない。他の面々はそれぞれに犠牲者を選んでいた。結局、(トレーラーの運転手に)自分では手を下せず、メイが殺して吸った後、メイの血を飲むことしか出来ない。情けないと、ケイリブは家族に非難される。彼らは今度はバーに立ち寄り、客やウェイトレス、バーテン(トーマス・ワグナー)を殺していく。バーテンにショットガンで撃たれても吸血鬼は死なない。ビル・パクストンのアドリブやアイデアが狂気に華を添える。ビリヤードをしていた男(ジェームズ・ルグロス)にメイはダンスを申し込む。ダンス相手をケイリブに変わる。男は窓を破って脱走、ケイリブが追跡、しかし捕えた男が「助けてくれ」と懇願すると、ケイリブにはとどめをさすことが出来なかった。家族はバーに火をつけ、急いで逃亡する。逃げた男が警察へ駆け込むに違いないからだ。ケイリブは家族に前にもまして非難される。
 モーテルに宿泊すると案の定、翌朝には警察官に囲まれていた。撃ち合いになる。ケイリブは一人で銃弾のなかを車まで行き、運転して宿舎へ突っ込み、全員を脱出させ救う。別のモーテルでケイリブは家族に初めて敬意を示され感謝される。朝、外に出たホーマーは自動販売機でコーラを買っている少女を見かけ、部屋に誘う。なんとケイリブの妹サラだった。外から戻って来たケイリブ、3号室に宿泊していたロイがセブレンに連れて来られて顔を合わせる。ホーマーはメイを取られた代わりにサラを一族にすると宣言する。ロイが胸に撃ちこんだ銃弾をジェスは吐き出す。銃を持つ手をしめあげられたロイが苦し紛れに扉を開くと、太陽光が入り、家族がひるんだ隙に、ケイリブはロイとサラとともに脱出・逃亡する。そして家の納屋で父に瀉血してもらい、人間に戻る。
 数ケ月後、メイが庭先に尋ねて来る。彼女と話している間に二階からサラが誘拐される。彼はサラを取り返そうと試みる。そして・・・・
       映画川柳「陽が落ちて 流浪の民の 活動期」 飛蜘

 キャスリン監督自身の解説によればブラムストーカーの吸血鬼に瀉血という治療によって人間に戻るというアイデアが出ているそうだが、観客にはその点の説明が無い。ケイリブが苦しい息の下から父に「輸血できるか」と聞くだけで、その後に父はケイリブの血液と自分の血液をなにか操作している。汚れた血液を捨てているのだろうか? 代わりに人間の血液を直接入れているのだろうか? この辺の約束事がよく理解できないのが残念。
2011年10月1日



DVD
ビートルジュース


ワーナー
1988年
92分
 ティム・バートン監督作品。バートン監督の個性がよく出た傑作。特殊撮影は時代の制約で拙いところがある(特に屋外場面のマット撮影)。マイケル・キートンのギャグが完全に理解できたとは思えないものの。
 冒頭、家の模型の屋根にクモ(何グモか不明。徘徊性のクモだった)が出現、アダム(アレック・ボールドウィン)が手に取って窓の外へ逃がす。バーバラ(ジーナ・ディビス)との新婚二人は家を売る話もそこそこに車で出かけるが、運転を誤って小屋を突き破り、川に落ちた。家に帰って来た二人はなんだか様子がおかしいのに気付く。家の外へ出ると怪物に襲われるのだ。家に突然出現した「死者のためのハンドブック」によると、二人は死んだらしい。そのうち、騒がしい家族が引っ越してくる。田舎暮らしを求める夫チャールズ(ジェフリー・ジョーンズ)に、自分勝手な奇妙な彫刻家の妻デリア(キャサリン・オハラ)、黒い喪服の娘リディア(ウィノナ・ライダー)だった。カギをかけた屋根裏部屋で勝手な家族を目撃、すっかり部屋を模様替えさせられたことを怒る二人は、この家族を追い出そうとする。お化けの出る家ならといろいろな脅かし方を試してみるものの、死者は生者に見えないため、うまくいかない。困った二人は死後の世界のケースワーカー、ジュノー(シルヴィア・シドニー)に相談する。ジュノーは元弟子のビートルジュース(マイケル・キートン)にだけは助けを求めてはいけないと忠告する。ベテルギウスを英語読みしたビートルジュースはアダムが作った町の模型の墓地に出没していた。名前を三回呼ぶと顕在化するのだ。
 生きながら喪服を着ているリディアにはゴーストが見えた。知人を呼んでのパーティで、デリアにカリプソ「バナナ・ボート」を歌わせて脅しに成功したものの、デリアたちはゴーストを追い出すどころか、幽霊博物館としてゴーストを宣伝してひと儲けしようと考える。ビートルジュースは大蛇に化けたりして、夫婦をやや危ない目に合わせた。
 儲けのためチャールズは投資家のマックス夫妻にゴーストを見せようと招待する。しかし、アダムたちは臆して出て来ない。デリアの友人のオーソ(グレン・シャディックス)の降霊術でバーバラ、次にアダムが呼び出されるが、二人は急速に老いていく。二人を助けようとリディアがビートルジュースを呼び出したが、ビートルジュースは勝手にリディアと結婚式をあげようとする始末。大騒動の末に、ビートルジュースは幽界にもどされ、幽霊二人とチャールズ一家は仲良く同居することになっていた。
      映画川柳「自殺禁 死後の世界も 楽じゃない」 飛蜘
2011年9月29日


DVD
エイリアン


20世紀フォックス
1986
153分
 原題はAliens、つまりエイリアンが複数である。実際に使われたモデルは6体だそうだが、無数のエイリアンが登場する。監督・脚本は『ターミネーター』のジェイムズ・キャメロンで、主演に『ターミネーター』のマイケル・ビーンも出演している。完全版153分。
 シャトルが回収され、57年後に救助されたリプリー(シガニー・ウィーバー)。腹からエイリアンが出現する悪夢に悩まされている。娘のエミーも66歳で既に死んでいた。会社の査問委員会でリプリーは異星人事件を説明するが、委員会は異星人の存在を信じない。航海士免許をはく奪され、精神病院での診療を命じられた。そして、惑星LV426にはいまや開拓民の家族が60か70は居住しているという。リプリーは不安を感ずる。
 一方、惑星で奥地に探検に出た家族は巨大船体を発見する。『エイリアン』のときの船と同じものである。そして、しばらくして戻って来た夫(ジェイ・ベネディクト)の顔にはエイリアンが張り付いていた。
 場面変わって、宇宙ステーションでは通信が途絶えたLV426の偵察にリプリーの参加を要請する。いったんはリプリーは断るが、怪物を退治するという条件で、リプリーは海兵隊とともに隊長顧問として行く。
 未来兵器が準備され、着陸船に積み込まれて、惑星に降下。雨の居住区域を調査する隊員たち。居住区は無人だ。大気製造装置が働いているため、宇宙服なしでも行動できる。中尉(ウィリアム・ゴーマン)やリプリーも施設に入る。バリケードが突破されたらしい。医療研究施設にはエイリアンの標本があった。D区域で動体監視装置に反応したのは少女レベッカ(キャリー・ヘン)、愛称はニュートだった。リプリーは少女を保護する。居住者たちには発信器が埋め込まれているという。信号を探査すると大気製造場の冷却塔の下にいることが分かった。隊員たちが偵察に出る。
 ところが、装甲弾を発砲すると核爆発を誘導するため実弾は使えないことが分かる。現場に行ってみると、住民たちは壁に捕えられていて繭になっていた。繭の女性の腹からエイリアンが突び出す。火炎放射器で攻撃する。熱で一斉にエイリアンが反応し始めた。隊員たちが攻撃される。
 臆するゴーマン中尉を無視してリプリーは装甲車で救援に向かう。救出できた隊員はビショップ(マイケル・ビーン)、ハドソン(ビル・パクストン)、バスケス(ジェニット・ゴールドスタイン)だけだった。中尉は昏倒。会社部長バーク(ポール・ライザー)はヒューマノイドのビショップ(ランス・ヘンリクセン)に標本を生きたまま持ち帰れと命令、リプリーとトラブルになる。リプリーは軌道上から核による施設の爆破を提案するが、儲けを優先し損害の莫大さを考えるバークは反対。責任者となったビショップ伍長が判断して爆破を決行しようとする。しかし、呼び寄せた着陸船にもエイリアンが侵入していて、操縦士(コレット・ヒラー)が襲われ、墜落してしまった。惑星から脱出できなくなった隊員たちは、施設を死守する方法を考える。侵入路の扉に自動発砲銃セントリー・ガンを仕掛ける。やがて核反応が始まり、残りは4時間しか余裕が無くなった。ビショップがアンテナに端子を接続して、遠隔操作で予備の着陸船を呼ぶ任務を志願する。
 絶体絶命。次々に仲間がやられ、バークの裏切りに遇いながらも施設から脱出する寸前に、リプリーはエイリアンに捕えられた少女を救出するために、新たに武装する。彼女は施設に戻り、エイリアンと戦う。繭になる寸前の少女を救出、女王とその産卵場を焼却して着陸船に戻った。
 だが、着陸船は凶暴なエイリアンを引っかけていた。最後の攻防が始まる・・・
      映画川柳「人間のくせに よくやる 母性愛」 飛蜘

 キャッチコピーは「This Time It's War」(今度は戦争だ)。最初から戦闘モード全開。劇場公開版は137分で、開拓民の家族が巨大船体を探検に行く場面は無い。実戦経験のほとんどない中尉は、最初、臆病者と軽んじられているが、次第に男らしさを発揮、傷ついたバスケスを助けに戻って自らも負傷する。バスケスは「あんたはダメな男ね」と賛辞を送ってエイリアンと共に手榴弾で自爆。徹底的に敵と戦えという映画でした。
 キャスリン・ビグロー監督『ニア・ダーク/月夜の出来事』(1987)に出演しているランス・ヘンリクセン、ビル・パクストン、ジェニット・ゴールドスタインが本作にも出演。 
2011年9月29日


DVD
エイリアン


20世紀FOX
1979年
117分
 以下、略筋でネタバレしています。乗員6名がハイパー・スリープ・ベッドで眠っている間に未知の信号を受信した宇宙貨物船ノストロモ号は太陽系ではなく、別の宇宙へ入ってしまった。惑星に降り立った乗員3名は奇妙な巨大船体を発見。船体には異星人の死体らしきものがあった。着陸船は着陸の際の障害で故障。暗号を一部解読したリプリー(シガニー・ウィーバー)は警告だと言う。石の卵から孵化した生き物がケイン(ジョン・ハート)の顔に張り付いて取れなくなった。タコのように触手をもち、気管に食い込んでいた。外そうとして切開すると強力な酸を出す。処置なしだ。しかし、しばらくすると、ケインの顔から生き物は外れて、死んでいた。科学者のアッシュ(イアン・ホルム)は持ち帰ると言う。リプリーは捨てろと反対するが、船長ダラス(トム・スケリット)はアッシュの意見を優先した。リプリーは自分が上級だと怒る。
 着陸船を修理してなんとか全員が母船に戻った。ケインも目覚めて、治ったと思ったのもつかの間、彼の胸を突き破って現れたのは凶悪な歯を持つウミヘビのような頭部の生き物だった。逃亡したエイリアンを手分けして探す乗員たち。
 次に脱皮殻を拾ったブレット(ハリー・ディーン・スタントン)が犠牲になった。エイリアンは一回り大きくなっていた。船長はダクトに入ったエイリアンを追い詰める計画を立てる。しかし、第3区に侵入したダラスは襲われた。常に「分析中」という煮え切らないアッシュの態度に不審を抱いたリプリーは、マザー・コンピュータを操作して指示を見る。マザーは「異星生命体を持ち帰れ、乗員の生命に関係なく」と指示していた。アッシュはこの指示に従っていたのだ。リプリーに責められたアッシュは突然冷や汗をかき青筋を立てて凶暴になり、リプリーを殴打する。ランバート(ヴェロニカ・カートライト)とパーカー(ヤフェット・コットー)が駆け付けてアッシュを殴ると、アッシュが壊れた。彼はロボットだったのだ。
 母船を爆破してシャトルで脱出を図る三人。爆弾を準備するランバートとパーカーはエイリアンに襲われた。リプリーは自動爆破装置のスイッチを入れた。エイリアンが見当たらず爆破を解除しようとするが解除は間に合わない。もはやシャトルで脱出するしかない。間一髪、シャトルは母船から切り離されたが、・・・・。
      映画川柳「いちばんの 敵は身内の アンドロイド」 飛蜘

 公開当時も見ています。ギーガーがデザインしたエイリアンのクリーチャーや巨大船体に感心してストーリーの方は、あまりにも宇宙飛行士のイメージを裏切る乗員のキャラクターに引いてしまいました。それほどキャラが立っていたと言えます。ケインとリプリー以外は市井の人々に見えるんですから。パーカーは給料が他より低いのは納得できないと文句を言い続けているし、ブレットはパーカーの意見に同調するだけの整備員だし。冒頭の見上げた母船の底面を移動するカメラは『スター・ウォーズ』冒頭のいただき。監督のリドリー・スコットはこの後、カタルシスのない傑作『ブレード・ランナー』を撮る。
2011年9月22日


DVD
ジェシカおばさんの事件簿


USA・ユニバーサルTV
1984年
各43分
 アンジェラ・ランズベリーがミステリー作家のジェシカ・フレッチャーに扮し、殺人事件を解決するTVドラマ「Murder, She Wrote」。1984年から1996年まで続いた。既に264話が放映されているという。IMDbの評価はおおむね高い。日本で放映された全56話がDVDで廉価発売された。
 アンジェラ・ランズベリーは映画化されたクリスティー作品では、良い役柄に恵まれていないが、このTVシリーズではいかにも作家で、かつ頼り甲斐のある叔母さん役をみごとにこなしている。それに、各回のゲスト・スターの顔ぶれが興味深い。往年の名俳優も登場するし、懐かしいスターも登場する。例えば、ジューン・アリソン(『エデンの東』)、キム・ダービー(『いちご白書』『傷だらけの挽歌』)、バージニア・メイヨなどなど。ロケもしっかり行われていて、海だったり、馬場だったり、遊園地だったり、バレエの舞台だったりと毎回異なる場所が事件の舞台として選ばれている。たった43分で起承転結にまとめる力は、たぶん『コロンボ』の製作にもあたっていたリンクとレヴィンソンの功績なのだろう。
 第1話「海に消えたパパ "Deadly Lady" 」嵐の夜、ヨットから大富豪が姿を消した。事故か、殺人か。ジェシカの家には中年のラルフが現れ、庭木の伐採や雑草取りなどをしてくれる。Howard Duff(ふらりと出現した男ラルフ、実は大富豪スティーブン・アール)、富豪の娘たち、マギー(Marilyn Hassett)、リサ(Cassie Yates)、グレース(Anne Lockhart)、ナンシー(Doran Clark)は遺産が気になるのか、さほど悲しんでいないようだ。ヨットは台風の目に入ったため、事故の時刻にはベタなぎだったと指摘するとマギーが父親を拳銃で撃ったと告白する。その後ナンに言い寄るテリー(リチャード・ハッチ)が金銭目的だということを証明しようと父と娘は狂言殺人を計画したと自供を変えたが。リサの夫Dack Rambo。ジェシカを助けるタッパー保安官(トム・ボスリー)と漁師のイーサン(クロード・エイキンズ)。 IMDbの評価は7.9.
 第2話「嘆きのコメディアン "Birds of a Feather"」 姪の婚約者ハワードが横暴なクラブのオーナー・ドレイクの殺人容疑で逮捕された。しかもなぜか女装姿で。ジェシカは姪のヴィクトリアのため単身捜査を始めた。姪のヴィクトリア(Genie Francis、声:杉山佳寿子)、女装でクラブの舞台に出演していた婚約者ハワード(Jeff Conaway、声:中尾隆聖)、契約を解消して他へ移る交渉中だったコメディアンのフレディ・ヨーク(Gabe Kaplan、声:はせさん治)、 ノバク警部(Harry Guardino、声:宮部昭夫)、 クラブのオーナー・ドレイク(Martin Landau)、羽は銃声を消すためのクッションの中のもの。 IMDbの評価は7.6
 第3話「映画セットは死のにおい "Hooray for Homicide "」 初の映画化作品が原作を無視して進んでいるのを知ったジェシカは怒りのあまりプロデューサーのジェリーにかけあった。ジェリーは映画化に当っては変更に異議を唱えないという契約が結ばれていると動じない。その作品「死体は夜踊る」の主演女優イブ(Melissa Sue Anderson 声:戸田恵子)とスティーブの裸場面まである変わりよう。ヘルナンデス警部(Jose Perez 声:青野武)は死体発見者のジェシカを容疑者扱いするが、真犯人を油断させるためだと説明する。映画プロデューサーのジェリー・ライデッカー(John Saxon)。IMDbの評価は7.7
 第4話「愛犬が犯人なんて "It's a Dog's Life"」 犬が人間を計画的に殺す?大富豪の莫大な遺産を相続した愛犬テディが殺人を? 容疑がかかった姪アビーを救うためジェシカが活躍する。ジェシカの従姉妹(姪)で調教師のアビー(Lynn Redgrave 声:弥永和子)、富豪ラングレー(Dan O'Herlihy)、弁護士のボズウェル(Dean Jones  声:森山公也)、富豪の息子で破産寸前のスペンサー(Jared Martin 声:政宗一成)、富豪の娘で酔っ払いのトリシュ(Lenore Kasdorf 声:増山江威子)、富豪の娘で占い師のモーガナ(Cathryn Damon 声:前田敏子)、モーガナの娘エコー(Cherie Currie 声:井上瑶)  IMDbの評価は7.8
 第5話Lovers and Other Killers (日本未放映)  IMDbの評価は7.8
 第6話「無人カーが追ってくる "Hit, Run and Homicide" 」 誰も運転していない車が追いかけてくる。一人目ウッドレーは骨折、二人目、ウッドレーの共同経営者メリルは車に轢き殺され、ジェシカの友人で発明家ダニエルに容疑が。 発明家ダニエル・オブライエン(Van Johnson 声:高城淳一)、ダニエルの理解者 ケイティ(June Allyson 声:谷育子)、ダニエルの元勤続会社の社長ウッドレー(Stuart Whitman)、、その共同経営者メリル(Bruce Gray)、ダニエルの甥トニーとその婚約者レスリー。  IMDbの評価は7.7
 第7話「 ある日ビックリハウスで "We're Off to Kill the Wizard"」 社長室でビックリハウスの社長ホレイショーが撲殺された。しかし、部屋は完全な密室。殺された悪名高き遊園地王ボールドウィンは従業員の弱みを握っていた。ハウスの経営者ホレイショー(James Coco)、その妻エリカ(Christine Belford)、 ジェシカの姪キャロル(Anne Kerry 声:弥永和子)、キャロルの夫で刑事・バート(James Stephens 声:徳丸完)、副社長候補カールソン、経理担当者、いつも残業をしている社長秘書ローリー(キム・ダービー)にも社長殺害の容疑がかかる。マネージャーのマイクル・ガードナーはマンションから突き落とされた。   IMDbの評価は7.4 
 第8話「最後の幕が降りる時 "Death Takes a Curtain Call" 」 ロシア・バレエのトップ・スター、アレギサンダーとナターリヤがボストンでの特別公演の機会に亡命し、警備係官ベレンスキーが刺殺された。二人をかくまったジェシカは容疑を晴らすため、FBI本部へ乗り込み、カルゾフ大佐と渡り合う。バレエ団のプリマ(Vicki Kriegler)、バレエ団のヒーロー(Georage de la Pena) 、 KGBのカルゾフ大佐(William Conrad 声:大川透)、ナターリヤの友人イリア、ナンパ野郎の舞台監督ラルフ・フレミング.、反共主義者のヴェルマ。  IMDbの評価は7.6
 以下のエピソードは2019年に確認した。
2011年7月11日


DVD
SAYURI


アンブリン
2005年
145分
 ロブ・マーシャル監督。原題は「Memories of a Geisha」。京都の芸者置屋に漁村から売られた千代(大後寿々花)が、会長(渡辺謙)の親切に応えようと芸者を目指し、姉貴分の初桃(コン・リー)にいじめられながらも、ライバルの豆葉(ミシェル・ヨー)の援助で芸者SAYURI(チャン・ツィイー)に成り上がる物語。しかし、敗戦で芸者制度が崩壊。戦後は米兵の相手に駆り出される。会長の親友・延さん(役所広司)の寵愛を受けると思われたが・・・・。置屋のおかみは桃井かおり、姉妹弟子のおカポは工藤夕貴。
 中盤の物語が初桃の意地悪中心になっていて、あまりにも初桃にすべての悪を負わせてしまった感がある。ハッピー・エンドも唐突だった。着物に詳しい人からは、着物の着付けや所作(例えば歩き方)が中国人俳優は全くなっていないと批判が激しい。
      映画川柳「青い眼が 水のようだと 畏怖されて」 飛蜘
2011年6月17日


DVD
宇宙戦争


パラマウント
ドリームワークス
2005年
116分
 スピルバーグ監督、ウェルズ原作の著名なSFの再映画化。しかし、本作はほとんどセリフが無い。映像で必要なことは見せると言う徹底ぶり。主人公レイ(トム・クルーズ)は港湾労働のトレーラーの運転士、離婚した妻との間に二人の子供(ダコタ・ファニングら)がいて預かっているが、ほとんど世話をしていなかったため、子供たちの信頼をかちえていない。
 そんなとき、突然、宇宙から侵略者が降下してくる。既に人類が誕生する前から地下に埋めていたマシーン、トライポッド(三脚)に乗り込み、起動させて都市を破壊し、人類の血を吸ってせん滅作戦を敢行し始めた。軍隊の武器は防御シールドに遮断されて効かない。途中で「大阪では何台か倒したらしい。日本人にできたんなら、俺たちにだって出来るはずだ」という老救急士の言葉がある。レイは母親のいるボストンへ兄妹を連れていこうとする。
 芳しくない批評が多いが、スピルバーグの娯楽志向を褒めるのを躊躇する批評家の悪い傾向のせいだと思う。特殊撮影やアクションシーン、モブシーンも迫力があった。ノンストップ・アクションで、家族で楽しめる映画になっていると思うが、作家性は薄れている。恐怖から戦闘モードに入ってしまった農家のオヤジを黙らせる場面がなんとも後味が悪い。
      映画川柳「吸血鬼 生きる糧だが 命取り」 飛蜘

 SFマガジンのSF映画ベスト百本に選出されている。
2011年6月6日



DVD
ノーウェアボーイ



英国
2009年
98分
 ジョン・レノンのLP『ジョンの魂』のなかに「MOTHER」という名曲がある。この映画のエンディングにも流れるが、この曲をテーマにした物語という出来である。脚本マット・グリーンハルシュ。監督サム・テイラー=ウッド(女性である)の処女長編作品。
 16歳のジョン(アーロン・ジョンソン)は5歳のときから伯母ミミ(クリスティン・スコット・トーマス)と伯父に引き取られて暮らしていたが、慕っていた伯父が急死し、葬儀の場で実母ジュリア(アンヌ・マリー=ダフ)を見かける。友達と一緒にジュリアの家を訪れたジョンは既に再婚していたジュリアに大歓迎され、バンジョーを教えてもらったりするものの、母親はジョンを捨てた経緯に触れずにいて、居心地の悪い思いがつきまとう。
 プレスリーなどロックン・ロールに興味を持ち、ふざけてバスの屋根上の乗って騒いだあげく、老婆にポルノを見せたということで、ジョンは友人のピートとともに停学処分になったものの、ミミには停学通知を見せず、ジュリアの家に泊まったりしていた。ミミにギターを買ってもらい、バンドを作って「クォーリーメン」(ジョンの通学した学校がクォーリー中学)と名乗り、活動を始める。やがてバンドにはポール(トーマス・ブローディ・サングスター)が加わり、ジョージも参加した。17歳の誕生日、ジュリアの家での誕生パーティにジョンは母親に自分を捨てた経緯を問いただす。母親は答えなかったが、伯母のもとに帰宅したジョンを追って来た母親と会って二人の「母親」の口から真相が明らかになる。
 ミミとジュリアは姉妹関係。二人が和解した直後にジュリアは交通事故で死亡した。ジョンは落胆するが、なんとか立ち直り、ドイツのハンブルグに出発する。伯母ミミにはそれ以降、週に一度必ず電話する習慣を欠かさなかった。
       映画川柳「母ふたり バンジョーの響き しみ通る」 飛蜘

 ジュリアはジョンにバンジョーの弾き方を教えて、ギターも教えたつもりだった。しかし、バンジョーには4本しか弦が無い。しかもその弦を5度でチューニングする。ギターには6本の弦があり、4度でチューニングするのだ。開放弦を鳴らすとバンジョーからはメイジャー・ペンタトニックが、ギターからはマイナー・ペンタトニックが生まれる。そこから既成の響きではない音楽が生まれていった。参考書は山下邦彦『ビートルズのつくり方』(太田出版、1994年)。 
2011年5月24日


DVD
暗闇でドッキリ


ユナイト
MGM
1964年
108分
 2003年にNHK衛星放送で放送されたことがあり,その際コメントしています。
 オープン・クレジットのアニメにはピンク・パンサーは登場しない。
 大富豪バロン(ジョージ・サンダーズ)の家で運転手がメイドのマリア(エルケ・ソマー)に撃ち殺されたように見えた。続いて主人を恐喝した庭師ピエール(モーリス・カウフマン)がマリアに刺し殺されたようだ。マリアを付けて来たメイドのドードー(アン・リン)がヌーディスト・キャンプで殺された。邸宅内では執事頭アンリ(ダグラス・ウィルマー)も殺された。マリアは犯人ではないと確信するクルーゾー警部は、釈放したマリアとデートすることで真犯人を嫉妬させようと試みる。クルーゾーを狙った犯人が失敗してほかの人々を巻き添えにする。クルーゾー警部を憎むドレフュス部長(ハーバート・ロム)が絡む。警部が謎解きを試みて関係者、バロンの妻(トレイシィ・リード)、執事モーリス(マーティン・ベンソン)、ジョージ(ディヴィッド・ロッジ)、メイドのシモーヌ(モイラ・レッドウッド)、アンリの妻(ヴァンダ・ゴッドセル)を集めるものの、何もわかってはいなかった。警部の部下はエルキュール(グラハム・スターク)という名で、部長の部下はフランソワ刑事(アンドレ・マランヌ)。空手の訓練のために警部を奇襲する部下ケイトー(バート・クォーク)。
 ブレイク・エドワーズ監督ですが、『ピンクの豹』とはうって変わった軽快さで物語が進む。ハリー・カーニッツとマルセル・アシャールの戯曲、そして脚本(エドワーズとウィリアム・ピーター・ブラッティ)がしっかりしていました。

       映画川柳「絶対に 犯人でないと 決めつける」 飛蜘
2011年5月23日


DVD
ピンクの豹


1963年
 ピーター・セラーズ主演、ブレイク・エドワーズ監督のヒット・シリーズの第1作。オープン・タイトルのアニメーションが秀逸。ダーラ王女(クラウディア・カルディナーレ)のダイヤ「ピンク・パンサー」を怪盗ファントムが狙っているという情報でジャック警部(役名がクルーゾーではありません。ピーター・セラーズ)がスキーの観光地コルティナに来る。ファントムの正体はチャーリー卿(ディヴィッド・ニヴン)で、警部の妻シモーヌ(キャプシーヌ)が仲間なのだが、警部はまったく気づかなかった。アメリカからチャーリー卿の甥(ロバート・ワグナー)がからんでくる。なうてのプレイボーイ、チャーリー卿はダーラ姫に惚れて宝石を盗む意欲を無くす。いちどは逮捕されるが姫から借りた宝石を裁判中に警部のポケットに入れてファントムの正体は警部だったという計略を図る。
 ひとくちで言えば「ぬるい」喜劇。冒頭は快調だが、スキー場からの展開には、退屈して何度も眠くなった。ジャック警部がベッドインしようとして常に邪魔が入る場面などは、ベッドインにパンしない思わせぶりなカメラワークだが、繰り返されてギャグに寒気が起こる出来である。お色気場面も馬鹿馬鹿しい程テンポがのろく、思わせぶりである。60年代の観客はこんな雰囲気でもじゅうぶん満足だったのだろうか。

      映画川柳「気のない求愛 まさかの本気」 飛蜘 
2011年5月21日


DVD
蒼ざめた馬

英国グラナダTV
1996年
102分
 クリスティー原作の長編を現代化したテレビ作品「The Pale Horse」。脚本はアルマ・カレン、監督はチャールズ・ビースン。
 彫刻家の青年マーク・イースタブルック(コリン・ブキャナン)はゴーマン神父(ジョフリー・ビーヴァーズ)が撲殺された直後に駆け寄ったため、犯人と疑われてしまう。レジューン警視(トレヴァー・バイフィールド)はマークを犯人と決め付ける。コリガン警部補(アンディ・シーキス)は他の犯人を探っているようだが。自分の無実を証明するために、ゴーマン神父が瀕死のデーヴィス夫人(トリシア・ソーンズ)から渡された紙に書かれた名前の謎をあきらかにしなければならないのだった。原作ではマークは容疑者ではない。まず女友だちハーミア(ハミオネ・ノリス)の友人、大金持ちのティリー(アンナ・リヴィア・ライアン)を訪問するが、訪問の翌日に彼女は死んだ。医師(原作は薬剤師)オズボーン(ティム・ポッター)は病死だというが、ティリーは何かにおびえていた。「蒼ざめた馬」という屋敷に住む三人の老女たち、チルザ(ジーン・マーシュ)・シビル(ルース・マドック)・ベラ(マギー・シェヴリン)はまるで『マクベス』の魔女さながらで、悪魔を呼び出す黒魔術を行っているという噂だった。歩けないヴェナブルス(マイケル・バイアン)も怪しい。ヴェナブルズの用心棒リッキー(ブレッティ・ファンシー)もゴーマン神父の事件当夜、マークが見かけた男だった。
 名簿の名前の主はみな自然死として死んでいることが分かった。しかも遺産はすべて一人か二人に贈られている。ひとを呪い殺す死の請負業があるようだ。弁護士ブラッドリー(レスリー・フィリップス)が書類を受付て、蒼ざめた馬の魔女たちが呪術を行う。だが、本当にひとを呪い殺すことが可能なのだろうか。マークはティリーの親友だったケイト(ジェイン・アッシュボーン)と相談し、ケイトをおとりにして犯人を特定しようと計画する。ティリーの遺産を受け継いだ叔母フロレンス(ルイ・ジェイムソン)が溺死し、娘ポピー(キャサリン・ホルマン)はおびえる。一方、ケイトは友人ドナルド(リチャード・オーキャラハン)の厳重な見張りにも関わらず、消費者動向調査員(ウェンディ・ノッティンガム)やガス会社の点検員の訪問以降、髪の毛が抜け、目に見えて弱っていった。いったい何が原因なのか。呪術なのか。毒物なのか、マークは悩む。そして以前の銀行強盗四人組も関係しているのだろうか。
      映画川柳「タリウムの 歯磨き粉を さりげなく」 飛蜘 
2011年5月20日


DVD
忘れられぬ死

2003年
英国グラナダTV
96分
 クリスティーの『黄色いアイリス』を長編化した原作「Sparkling Cyanide」。現代化して脚色。脚本はローラ・サムソン、監督トリストラム・パウエル。
 サッカー成金のジョージ・バートン(ケネス・クラナム)のチーム祝勝会でバートンの妻ローズマリー(レイチェル・シェリー)が毒殺された。首相補佐官はもと諜報部のリース大佐(オリヴァー・フォード・ディヴィス)とその妻キャサリン(ポーリーン・コリンズ)に捜査を依頼する。有力な大臣が関わっており、スキャンダルの心配があったからだ。二人は同席していた容疑者たち、ローズマリーの妹アイリス(クロウ・ハウマン)、政治家ファラディ(ジェイムズ・ウィルビー)、その妻アレクサンドラ(クレア・ホルマン)、秘書ルース(リア・ウィリアムズ)、選手フィズ(ジャスティン・ピーア)、姉妹の育ての親ルシーラ(スーザン・ハンプシャー)、現場にはいなかったがルシーラの息子マーク(ジョナサン・ファース)など容疑者に会って、犯人の目星をつけようとするものの、決めてがない。ハッカーさながらでコンピュータを駆使する諜報局のアンディ(ドミニク・クーパー)の協力を得て捜査は核心に迫っていく。
 バートンは一同を集めて事件の夜の再現を図る。しかし、そこで毒杯を飲んだのはバートンだった。犯人の狙いは遺産なのだろうか。だとすると、次の標的は遺産継承者であるローズマリーの妹アイリーンのはずだ。大佐と妻はアイリーンに警告するが、アイリーンは忠告を聞き入れなかった。彼女に危険が迫る。

       映画川柳「メガネ女性 ほんとは美人 第一容疑者」 飛蜘 
2011年2月23日



DVD
潮風のいたずら


USA
1987年
112分
 ゴルディー・ホーン主演のMGMコメディ。ゲイリー・マーシャル監督,レスリー・ディクソン脚本。見るのは二度目。
 大工のディーン(カート・ラッセル)は大きな白いクルーザーで緊急の修理を依頼されるが,出かけてみると,靴と下着を整理するクローゼットだという。依頼したのは金持ちのわがまま女ジョアンナ(ホーン)。とりあえず靴箱を完成させたが,ジョアンナは杉製じゃないから金を払わないと言う。ディーンは怒るが船から突き落とされて大工道具も沈む。
 数日後の夜,デッキに落とした指環を取りに行ったジョアンナは誤って船から落ちてしまう。ゴミ収集船に拾われたが,記憶を喪失していた。夫グラント(エドワード・ハーマン)はこれ幸いとばかりに面通しで「知らない女だ」とシラを切る。テレビで彼女の身寄りを捜索していた番組を見たディーンは,彼女をやんちゃな子供たちの家政婦代わりにすることを思いつく。自分が夫だと偽って無理やりボロ家に連れて来た彼女。この記憶喪失ながらも傲慢さがときどき出てしまうゴルディーのボケぶりが可笑しい。料理も掃除も家事も初めて。四人の男の子と二頭の犬に手を焼きながらも、体当りの感情表現に次第に心を開いて行く。子供たちがかゆがっているのをイタズラと非難する女校長をウルシにカブレたのを見逃したと批判する姿勢に子供達もすっかり彼女の味方。二ケ月も行方不明を奇妙だと思い始めたジョアンナの母親(キャサリン・ヘルモンド)の命を受けて本格的に妻を探し始めた夫に再会したとたんにジョアンナの記憶が戻る。
 船に戻ったものの,すっかり性格もふるまいも変わって如才なくなった彼女に使用人たちは大喜び。執事のアンドリュー(ロディ・マクドウォール。製作総指揮も兼ねている)と金持ち先輩格の母親と甘え性の夫は不審がる。ディーンの子供たちは「ママを取り返しに行こう」と提案。沿岸警備隊の友人に依頼して船を出してもらうディーン。ジョアンナも自分を見捨てた夫の行動に気付き,ディーンのもとへ戻ろうとしていた。 

      映画川柳「カシじゃだめ スギに決まっている 虫がつかない」 飛蜘





2011年2月1日以降10月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想   及び  梗  概  (池田博明)
2011年10月23日



DVD
レンタル
へそくり社長


東宝
1956年
83分
 森繁久弥主演の喜劇、「社長」シリーズの第1作で正月映画。千葉泰樹監督、笠原良三脚本 中井朝一撮影。源氏鶏太原作の『三等重役』が大ヒットしたものの、社長役の河村黎吉が亡くなったため、代わりに作られたのが『三等重役』の森繁を恐妻役にすえた「社長」シリーズだった。1作目はゆるい喜劇でした。
 田代善之助(森繁久弥)は明和商事の社長だが、技術畑の社員だったが、先代の社長の娘婿となったため、社長になったもので、その能力はあまり評価されていない。妻の敦子(越路吹雪)は米食を敵視し、野菜ジュースや牛乳、パン食を薦めるため、ご飯が好きな社長はウンザリしている。考現学的な箇所を≪≫で示すと、≪ダックスフントを散歩させるお手伝いさん≫や≪朝の練習でゴルフのクラブを庭先で振る社長≫が描かれる。
 会社の社長室にはPRESIDENTの文字。先代社長の「仕事に惚れろ、金に惚れろ、女房に惚れろ」という額が掲げられている。社長秘書・小森(小林佳樹)は美人社員・大塚裕子(司葉子)と映画の約束をするものの、株主懇談会の後に空港へ迎えに出た敦子の妹・美知子(八千草薫)の突然の芸者遊び見学の希望に応えるため、社長に同行することになり、約束は流れてしまう。芸者屋では≪三味線の伴奏で踊りの披露≫。大株主の赤倉(古川緑波)も小野田(上原謙)も来ていた。商事会社の女子社員はひたすら≪タイプライターを打っている≫。
 芸者の踊りの後、請われて社長は「どじょう掬い」を披露する。その後、寿司屋へ立ちより腹いっぱい寿司を食べる善之助だったが、妻・敦子には秘密にしてもらった。敦子の母、つまり先代の妻は敦子に善之助がいつまでもどじょう掬いなんか踊っているようではダメで≪隠し芸として「渋い小唄」でも習わせろ≫と命令する。
 小唄の師匠を探すのは美知子の役目となる。美知子は小森に芸者屋の女将を紹介してもらい段取りを付ける。裕子には弟がいるが、大学生で≪ガールフレンドが出来た≫からと金の無心(五百円)に来る始末(この弟は物語と関わらない)。社長は小唄の師匠に気があって稽古を喜んでいる。小遣いが無いからと師匠への手土産・≪昆布の佃煮の代金二千円≫を小森から借りる始末。小森は伝票をごまかす等のへそくり法を社長に伝授する。
 師匠は赤倉に箱根に誘われていて困ったと持ちかけるいる。折り入って相談があるので、日曜に≪資生堂パーラー≫で待ち合わせの約束(資生堂パーラーは昭和十一年の『東京ラプソディ』でも待ち合わせの場所として登場する。社長は喜んで出かける。≪赤坂の料亭・旅館ゆかり≫で師匠は料理屋の権利を買い取る50万円を用立てて欲しいと訴える。社長は二つ返事で承諾する。そこへ女中がお風呂がわいたと報告。師匠は「お背中流しに行きますわ」と話す。内風呂ですっかりその気になっている社長。師匠は電話で赤倉が来ていると聞き、すぐに駆けつける。湯に当ってのぼせてしまった社長は更衣室で倒れる。≪帝国劇場で裕子とシネラマを見よう≫としていた小森は社長に呼び出される。妻の手前、一緒にいたことにしてくれというのだ。宮仕えはつらいもの。
 翌日は≪ボーナス支給日≫だった。師匠は叔母が盲腸になってと社長にわびている。≪年に一度の社員慰労会≫、お酒が入った社長は社員の求めに応じてどじょう掬いを披露する。折り悪しく姑と妻と美知子が偵察に来た。三人を見た社長は見事に経理部長(三木のり平)相手にどじょう掬いを決めて後、三人の前にひれ伏す。「第一部 終」の文字が出る。この頃は続編を同時撮影していたそうである。
2011年10月22日



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レンタル
君に届け


東宝・日本テレビ
2010年
128分
 熊澤尚人監督、根津理香・熊澤尚人脚本。原作は椎名軽穂のコミック。
 長い髪の高校生、黒沼爽子(多部未華子)は「貞子」(『リング』の霊)とあだ名され、友だちもいないまま、敬遠されていた。入学式で道を教えたことで出会った風早翔太(三浦春馬)は誰にでも親切な屈託のなさでクラスの人気者。「一日一善」と思って暮していた爽子は、あだ名など気にせず話しかける風早の気持ちが嬉しかった。クラスの「肝試し」大会でお化け役を演ずることを申し出た爽子の意気に感じて心を開き始めたクラスメートの矢野あやね(夏菜)と吉田千鶴(蓮佛美沙子)と一緒に爽子は、ラーメン屋へ道草するなど新しい経験をして、友だち同士の理解を深めていく。しかし、貞子と付き合うとその人の株が下がるだの、矢野は男狂い、吉田はヤンキーだの、黒い噂が仲間の間をヒビ割れさせるのだった。中学から風早が好きだったという胡桃沢(桐谷美鈴)もからんで、人間関係は複雑に。
 風早にもらった桜の花びらをペンダントにはさんでいた爽子だったが、いつも持っていようと生徒手帳にはさみ直す。バス通学の証明書をもらうために担任(ARATA)に手帳を渡すと、担任は手帳をいったん紛失してしまう。それが、大晦日に風早の手に渡って・・・・。岩井俊二監督『ラブ・レター』の図書カードの代わりに生徒手帳。
 キネマ旬報のベスト10選出で野村正昭氏が東宝青春映画の系譜に連なる“至上の青春映画”と評価し、ダントツ一位に推薦していた作品。他には増富達也氏が4位にしていただけ。70年代からキネ旬「読者の映画評」の投稿者だった野村氏は映画なら何でも見るシネマフリークなので、彼だけがイチオシするということは相当な傑作の可能性があります。原作のコミックは読んでいませんが、映画は照明を過剰に当てることで明るい画面作りをしていました。対照的に少ない夜の場面を印象的に造り上げ、見事。多部は主演女優賞、蓮佛は助演女優賞もの。
        映画川柳「聞くだけじゃ 自分の気持ちは 伝わらない」 飛蜘

【参考文献】原作『君に届け』1巻から6巻までを読んでみました。原作のファンには原作をダイジェストした映画には不満があるかもしれません。桜の花びらや父親がオーケストラの打楽器奏者といったことは映画の工夫でした。学校の屋上で爽子・矢野・吉田が和解するのも映画ならでは(原作は女子トイレ内で)。風早の告白場面も原作とは違うらしいです。友達を名前で呼ぶことがなかなかできない爽子、原作では「くるみ」(胡桃沢梅)を名前だと思ってしまう挿話がありました。
 2011年10月28日(金)日本テレビ系で放映。日本テレビが製作に関わっているにもかかわらず2時間枠の放送。ということは30分近くカットされているということになる。いったいどこをカットするものやら。・・・カット箇所は(1)体育委員会の風早と胡桃沢の会話、(2)ピンが「俺のせいにすんな」という場面、(3)竜と爽子の体育館での会話を短縮、(4)爽子と千鶴の買い物場面、(5)千鶴と徹の関係全部、(6)矢野の大学生の恋人がいると言う場面、(7)生徒手帳に花弁をはさむ場面、(8)バス通学で初めてバスに乗り込む場面、(9)矢野と吉田が黒沼家を訪問する場面と父親が心配する場面。
2011年10月21日


DVD
レンタル
川の底からこんにちは


東映
2010年
112分
 石井裕也脚本・監督。第19回ピア・フィルム・フェスティバル・スカラシップ作品。
 「しょうがない」が口癖の佐和子(満島ひかり)は5年も故郷を離れて東京で派遣社員のOL。玩具会社の交際していた新井課長(遠藤雅)が会社を辞めた。同時に、父(志賀廣太郎)が肝硬変で危なくなって故郷に戻った。父は木村水産の社長で、しじみのパック詰めが主な商品だ。叔父(岩松了)は父の弟。新井は妻に逃げられ、保育園児の加代子(相原綺羅)を連れていた。佐和子は木村水産の社長代理となったものの、高校卒業後、テニス部の先輩と駆け落ちして捨てられ、子連れの男と帰って来た佐和子に、村の人々は冷たい目を向ける。さらに東京に出たい佐和子の高校時代のテニス部の友人・友美は新井を誘惑。新井は加代子を佐和子のもとに置き去りにして行ってしまう。「中の下」を自称する佐和子は開き直った。社歌を改め、宣伝を変えてしじみのパック詰めを売り直す。死んだら骨を川にまいてくれ、しじみがそれを栄養にして育つという父親の遺言通りに、骨を川に撒く佐和子のところへ、新井が戻って来た・・・
 満島ひかり一人芝居が凄い。
        映画川柳「しょうがない あなたもわたしも 中の下だ」 飛蜘
2011年10月21日


DVD
レンタル
ジーン・ワルツ


東映
2011年
111分
 海堂尊原作、林民夫脚本、大谷健太郎監督。帝王切開で出産した母親が異常胎盤で死亡。 執刀医(大森南朋)が逮捕された。タイトルバックがDNA、染色体、卵割細胞、胎児という興ざめのもの。予告編では主人公は顕微受精のエキスパートという振れ込みだったが、映画ではその立場はほとんど描かれないため、題名が意味不明になっている。大学病院の講師で産科医・曽根崎理恵(菅野美穂)が 兼務しているマリア・クリニックの患者は四名。不妊治療で人工授精の理容店の夫婦(南果歩、大杉蓮)、望まぬ妊娠で堕胎を望む娘(桐谷美鈴)、 無脳症児を産んだ経験があるものの経済的な原因で堕胎する夫婦(白石美帆、音尾琢真)、顕微受精で双子が着床した高齢女性(風吹ジュン)、実は理恵の母親。看護婦(濱田マリ)は一人だけ。
 上司の清川(田辺誠一)は代理母での出産を疑う。代理母は禁止されているのだ。理恵は清川に迷惑をかけないよう大学に辞表を提出。 代理母は中絶して妊娠できなくなった理恵の子供だった。マリア・クリニックを閉院した後、母子救急医療センターを立ち上げる予定だと理恵はTVで話す。外から医療を変えるつもりだと。屋敷教授(西村雅彦)は計画をつぶせと命令。台風が上陸して交通が不能、電源も落ちた日に三人の母親たちの出産が始まってしまう。帝王切開を依頼した清川が偶然依頼を断るためにクリニックを訪れていた。手が足りない。肺ガンで末期の院長(浅丘ルリ子)が助けに出て来た。帝王切開に切り替えて出産した理容店の妻。回旋異常を修正して自然分娩する娘。停電の手術室で帝王切開で産まれた双子。無事出産が終わった後、清川は代理母を告発しないことにするという。理恵は自分が産んだと言う。
 テンポが遅く、挿話がバラバラのまま進む。出産シーンは新生児を本当に使っていたが、残念なことに演出が平板だった。
        映画川柳「子供たちが 世界を変える 希望になる」 飛蜘
2011年10月20日


DVD
レンタル
悪人


東宝
2010年
139分
 吉田修一原作・脚本、李相日監督、笠松則通撮影。スタンドでガソリンを入れる金髪の男(妻夫木聡)、携帯で取ったラブホテルでの女の裸を見ていた。保険の外交員・佳乃(満島ひかり)は出会い系サイトでこの男に遭っていた。佳乃は福岡の大学生・増尾とも交際中、増尾のほうは本気ではなかったが。長崎から車を飛ばして福岡に遭いに来た男の誘いを断り、佳乃は偶然会った増尾の車に乗り込んだ。走り去る車を追う男の車。
 翌朝、長崎の解体処理業者の車に乗り込んで現場へ行く男たちは途中の山道で崖から落ちて死んだらしい若い女の死体収容作業に出逢う。女は理容店の主人(柄本明)の娘・佳乃だった。金髪の男・勇一は祖父(井川比佐志)を病院へ連れて行く。祖母(樹木希林) と暮していた。
 一方、佐賀の洋服店員・光代(深津絵里)は妹(山田キヌヲ)と一緒に暮していたが、メールで知り合った勇一と仕事が休みの日にデートをすることになる。勇一はホテルに誘う。事が終わると勇一はお金を出した。女はショックを受ける。灯台の話は本気のメールだったのだ。車から降りる時、女はお金を返す。 
 知りあいの医師から漢方薬を押しつけられる祖母。女に謝りに行く勇一。警察が実家に捜索に来る。
 勇一は光代の部屋に戻って一緒に車で連れ去る。殺人を告白して一度は自首をしかけるが、次第に絆は深まって・・・・。
 勇一の母依子(余貴美子)、親戚の憲男(光石研)、佳乃の母(宮崎美子)。『悪人』の加害者・勇一は母親に捨てられ、祖父母に育てられた。『告白』の犯人Aは実母に過剰に期待され、捨てられた。犯人Bは母親に過保護に育てられた。どの少年も欠損家庭で育った。人間性をかたちづくる基盤を心理学によって解釈しているあたりが引っかかった。
        映画川柳「目の前に 海があったら 先へは行けぬ」 飛蜘
2011年10月20日


DVD
レンタル
告白



東宝
2010年
106分
 湊かなえ原作、脚本・監督は中島哲也。終業式も近い3月のある日、騒がしい中学1年B組の教室で担任の女性教師・森口悠子(松たか子)が淡々と話している。婚約者(本がベストセラーになった熱血教師)がHIV感染者、産まれた子供は事故で死んでしまった。しかし、事故ではない。少年法により守られている犯人は教室にいる。犯人A(優秀な生徒。渡辺修哉)が作ったびっくり財布で倒れた娘を犯人B(もと運動部。下村直樹)がプールに投げ込んだのだ。復讐に彼女は二人の牛乳にHIV感染者の血液を混ぜておいたと告白して去っていった。促進運動中だという牛乳の赤い紙パックが印象的。牛乳はイジメの道具にも使われる。
 4月の始業式から教室の様子が学級委員長・北村美月が森口宛に書く手紙(実際には出されていない)で紹介される。クラスの生徒は事件の真相を話さず(誰かから真相を漏らしたやつを少年Cとみなすというメールがクラス全員に送りつけられる)、渡辺に「制裁ポイント」を与えるいじめを行っていた。一方、下村は学校を欠席、引きこもった直樹を母親・下村優子(木村佳乃)が見ていた。新たに担任になった寺田良輝ことウェルテル(岡田将生)は森口の夫で熱血教師の本を信奉する新任だった。生徒を親しげにあだ名で呼び(美月も美月のアホをつづめた小学生時代のあだ名ミズホで呼ばれてしまう)、何も知らずに下村への家庭訪問を続けるウェルテル。真綿で首を絞めるように関係者の苦しみは進行していく。教室の中学生の表情がよく捉えられている。脚本・演出が秀逸。爆破の話は森口先生のウソかもしれないのに、修哉は信じてしまう。爆弾を爆弾と知らずに発明品を母親に届けただけという言い訳が通用するとも思えない。知っていて届けたなら共犯になってしまうのではないか。
        映画川柳「牛乳に 混ぜて飲んでも 伝染らない?」 飛蜘

【参考文献】湊かなえ『告白』(双葉文庫)
2011年10月19日


DVD
レンタル
十三人の刺客



東宝
2010年
141分
 工藤栄一監督の傑作をリメイクした三池崇史監督作品。将軍の弟、明石藩主・松平斉韶(なりつぐ)の非道を諌めようと間宮図書が切腹。しかし、斉韶は間宮の家族も殺した。村娘の両手両足を斬り落としてなぐさみものにしたり、尾張藩の侍の新妻(眉を落としているが、谷村美月)を強姦し夫を殺戮する等、その悪行は天下に聞こえていた。翌年には老中になる予定という斉韶を天下の政道を守るための暗殺計画が動き始めた。参勤交代の江戸からの帰途、斉韶を暗殺しようというのだ。しかし警護の侍三百人、泰平の世が続き、人を斬ったことのない侍がほとんどだというものの、それは暗殺集団も同様だった。
 島田新左衛門(役所広司)が仲間を集める場面は比較的シンプルに描かれ、落合宿(山形県庄内映画村に作られたオープンセット)での殺陣が50分間続く。映画のカン所もこの活劇場面ということだが、その判断は間違っていなかった。圧倒的な活劇場面の連続でした。斉韶(稲垣吾郎)の「これが戦さか。面白いのう。わしが老中になったら戦さの世にするぞ」という台詞が驚き。これで鬼頭半兵衛(市村正親)は最後に斉韶を殺してしまうだろうと推理してしまいました。実際には鬼頭は最後まで主君に忠義を尽くします。
 最強の悪藩主を演ずる稲垣吾郎はキネマ旬報助演男優賞を1票差で柄本明に取られましたが、最後は斬られた首が便所に飛んで転がるという悪役が印象的。十三人の刺客たちそれぞれに見どころが用意されているし、落合宿の破壊場面も実際に壊して撮影しているという迫力あるものでした。見るのにも体力がいります。
        映画川柳「主君の命 いちばん愚かな 道を行け」 飛蜘
2011年10月17日



DVD
影の車


松竹
1970年
98分
 松本清張原作、橋本忍脚本、野村芳太郎監督、川又昂撮影。小学館「松本清張」傑作(松竹)映画ベスト10の第十巻。
 日本旅行の社員、浜島幸雄(加藤剛)は通勤バスで偶然に千倉での中学時代の知りあい吉田康子(いまは小磯康子。岩下志麻)に出会った。保険の外務員で、夫とは死別し、6歳の男子がいた。浜島の妻(小川真由美)は生け花を教えている。夫婦は倦怠期にある。生け花教室の奥様方はシャロン・テート事件を話題にしている。幸雄と康子は急速に接近してゆく。お互いの心の隙間を埋めるように。しかし、幸雄は健一が自分に敵意を持っているように感じ始める。幸雄は母親(岩崎加根子)のもとに叔父(滝田裕介)がよく来ていたころの6歳の自分を投影している。事件が起こって、刑事(芦田伸介)の追求はきびしい。たった6歳の少年に殺意はあるものだろうか。過去の映像はソラリゼーションされた風景で始まる。
        映画川柳「海釣りが 二人を結ぶ 命綱」 飛蜘
 岩下志麻が美しい。幸雄と関係を持った後の晴れ晴れとした様子は特に生き生きとしていて美しく見える。
2011年10月16日



DVD
眼の壁


松竹
1958年
95分
 松本清張原作、高岩肇脚本、大庭秀雄監督。原田雄春撮影、川又昂撮影助手。白黒作品。小学館「松本清張」傑作(松竹)映画ベスト10の第九巻。
 昭和電業の会計課長(織田政雄)はパクリ屋に騙され、会社に多額の損害をかけた。課長は自殺。萩崎(佐田啓二)に遺言を遺していた。萩崎は課長の記録を手がかりに自分で調査を始めた。山杉商事の上崎(鳳八千代)という秘書がパクリ屋を紹介したらしい。岩尾代議士()や政界の黒幕である舟坂、その事務長らしき山崎(宇佐美淳也)といった人々の関係が怪しい。一方、密かに調査を進めていた田丸刑事(多々良純)はバーテン山本(渡辺文雄)に撃たれた。独自に探りを入れていたらしい瀬川弁護士(西村晃)も誘拐され行方不明となる。萩崎は知己の新聞記者・田村(高野真二)の助けも得て警察より少し早く手がかりらしきものをつかむが、明確なものはない。田村は新妻・長井(朝丘雪路)そっちのけで事件を追う。岐阜県瑞浪局で上崎は偽名を使って金を受け取っていた。弁護士瀬川の死体が発見され、山本の本名が黒川健吉、本籍が長野県であること等が判明する。その本籍地で健吉の死体が発見されるが、死後三カ月だった。萩崎は瑞浪の岩尾院長の精神病院に乗り込む。
 パクリの一翼をになう怪しい女、鳳八千代が「美しい」ものの、素人探偵が右往左往する映画でミステリー趣味は皆無だった。自殺した課長の足取りを追えば警察にも手がかりはつかめるはずなのに警察捜査が登場しないのも不可解。闇の組織の恐さも表出されていない。新聞記者の関わり方も仕事の片手間という設定のため、中途半端でご都合主義的。これだったら『危険な女』(1959)のほうが佳作。ただ『危険な女』は日活作品でしたね。松竹作品では『顔』(1957,大曾根辰保監督)の方がサスペンスがあったかもしれません(未見ですが)。
        映画川柳「限られた 容疑者がすべて 真犯人」 飛蜘
2010年10月10日
19:30

NHK総合TV
SMAP

2011年
75分
 プロフェッショナル・スペシャル「SMAP 中国公演」の記録。ナレーターは貫地谷しほり。
 大震災の被災地での小学生相手の舞台を行うSMAP。「目の前のことに全力を尽くす」がモットー。「俺たちは、たいしたことない」という自覚。森且行がオートレーサーになるために脱退した後は「新しいSMAPを作ろう」とした。最近は香取演出でコンサートを開いてきた。今年はデビュー20年目。「エンターティンメントの力を信じている」SMAP。中国公演は2011年9月16日19時30分から、雨が降りそうな日だった。リハーサルも雨のため、十分にできず本番で全力投球。四万人の観客が燃えた。最後にはどしゃ降りの雨になったが、熱気は変わらなかった。
2011年10月10日
17:00

NHK総合TV
風をあつめて


NHKエンタープライズ
2011年
60分
 実話を元にしたドラマで芸術祭参加作品。原作は浦上誠,脚本は荒井修子,演出は真鍋斎。
 ワコ(安田顕)とセツ(中越典子)の長女・杏子(モモコ)は筋ジストロフィーと診断される。二十歳までは生きられないだろうとの医師の宣告。二人はイライラしてぶつかり合うが交換日記をすることでお互いの気持ちを伝えやすくなり,危機を乗り越える。確率的には四分の一だが、二人目の次女・杏奈も筋ジストロフィーだった。落ち込む夫は阿蘇山火口への家族そろっての登山を敢行し、普通の家族ができることをするんだと決意する。
 十歳のとき杏子は危険な状況になるがなんとか切り抜け、父を「おとうさん」と呼ぶ。彼女は二十歳まで生存した。彼女は苦しむためだけに生きていると夫は感じていたが、それは間違っていた。彼女も生きることを楽しんでいたのだ。障害児をもつ両親の立場に極力よりそおうと制作された作品。とはいうものの、現実はつらい。
        映画川柳「難病を 抱えて生きる 親も子も」 飛蜘
2011年10月10日
14:00


NHK総合TV
やさしい花


NHK大坂放送局
2011年
60分
 芸術祭参加ドラマ。安田真奈作,藤本英樹演出。マンションに住む主婦・友子(石野真子)は下の階の部屋の男の子の泣き声が気になっていた。彼女自身、以前にストレスで我が子を虐待しそうになったことがあり、他人事とは思えなかったのだ。下の階の住人は20代前半のユカ(谷村美月)、息子は四歳くらいの充(國分健太)だった。思いきって充をあずかって連れ出してみると、母親が好きだというヒメジョオンをつんだりする優しい子だった。大丈夫と思って子供を母親に返したものの、キャバレー勤めの母親は仕事のストレス等で子供に当り、先輩からの助言で子供に睡眠薬を飲ませて外出したりした。吐いて泣く子の声に不安を感じた友子は隣室の若者(木咲直人)にも助けを求め、少年を助ける。しかし、友子はユカに十代で妊娠・出産し,夫と別居,一人で子供を抱えて生きる苦しさなんか理解できるはずがないと非難され,過呼吸に陥る。夫(西川忠志)は関わるのは止せと助言、いまは明るく育った長女(早織)は「子供の立場からは親と一緒のほうがいい」と語る。ユカは充を置いて家を出た。友子はユカを探し、自分の経験を打ち明ける。児童相談所のひとに救ってもらった、誰かに助けを求めることは決して恥ずかしいことではないと理解させる。ユカは旧姓・小林、そして優花と表札を出した。
 苦しみを抱えた女性を石野真子、谷村美月が力演。谷村美月がどん底まで堕ちる役は演じないだろうという予想で見ました。
        映画川柳「泣き声に さらに手を上げ 追いつめる」 飛蜘
2011年10月2日


DVD
破れ仐長庵


大映
1963
96分
 監督は森一生、脚本は犬塚稔・辻久一、撮影は今井ひろし、音楽は鏑木創(効果的)。大映時代劇傑作選としてDVDが発売されていた(台湾製である)。『不知火検校』が1960年だから、その路線の一本で、傑作である。
 サンマを焼く長蔵(勝新太郎)。長蔵は今日の賄い係だが、猫にサンマを取られるわ、主の医師・良伯(中村鴈治郎)からは冷めたサンマは不味いから食事の直前に焼けと言われるわ、面白くない長蔵はヒ素入りのネコイラズをサンマにふりかけて猫に試す。コロリと死んだ猫をボタン肉(イノシシ肉)と偽って鍋で料理して主人や仲間(伊達三郎、南条新太郎)に食べさせた。娘(養女)のお加代(万里昌代)が急に帰って来るが、お加代にはネコ肉は食べさせられないと鍋の中身を捨ててしまった。
 旗本の坂田(水原浩一)が尋ねて来て良伯に加代を主人のめかけに差し出すよう依頼する。もともと養女にしたのも政略結婚を考えてのことだったから良伯には否やはない。代わりに自分を法眼にしてほしいと条件を出す。
 長蔵は質屋の女将の夜伽の相手をしていたが、下女のお留(西岡慶子)にも手を出していた。お留は捨てられる危険を察知して店の金五拾両を盗んで来るから、一緒に逃げてくれと持ちかけてくる。
 仲間から加代のめかけ奉公の話を聞いた長蔵はいっぺんに熱が覚めて、お加代を力づくで強姦してしまう。怒った良伯は長蔵を破門する。出立の準備をしていると、お留が五拾両を届けてきた。長蔵は尾張屋の前で会おうと約束をするが、もちろん知らんふりをきめこむ。長蔵は良伯からも口止め料10両、ところばらいの旅費2両をせしめる。尾張屋の前で待っていたお留は役人に捕まった。その傍を長蔵が乗った篭が通り過ぎてゆく。篭の行く先は吉原だ。
 数年後(後で三年後だと分かる)、長蔵は「村井長庵」と名乗り医者を開業していた。もちろんニセ医者だが、「薬種代は払えるものが払う、払えないものは払わなくてよい」と貼り紙を出し、そこそこ善人ヅラをしていた。
 貯えもなくなった長庵は地廻りの後家安(多々良純)と共謀して金策を考える。大店の主人(東良之助)を往診したときに三両を両替してもらい、箪笥の引き出しを開けさせていったん家の者が部屋を出た隙に、安が病人を殺して引き出しの金を盗むという算段だ。首尾よく運んでもうけた大金を長蔵は七三で安と分けた。
 なじみの深川芸者小鶴(福田公子)のところへしけこもうとしたとき、貧しいなりだがぞっこん美人の女をみそめる。安に探らせると、傘張り浪人(天知茂)の妻りよ(藤村志保)だった。長庵はふたりに近づくために計画を練る。長屋の前でドブ板を踏み抜いたと偽って会い、亭主の咳を見たてて薬を出すのだった。なじみの小鶴が唐木屋(寺島雄作)に引かされたことを知った長庵は一石二鳥の計画を考える。
 りよが長庵のもとに礼を言いに来たときに、ちょうど通いの婆さんが来て、死んだ大店のかみさんが長庵はヤブ医者だと言っていると言う噂話を客が来ていることを知らずに話し、長庵がドギマギするのが可笑しい。長庵は、りよが質屋や米屋に出かけている隙に浪人を尋ね、金を貸す。女房には秘密にしておけと口止めをする。家の前の雪駄を盗み、小鶴のもとから出て来た唐木屋を殺害。雨の材木置き場の殺しの場面は俯瞰ショットで撮影された。殺害現場に侍の雪駄を捨て、被害者に浪人の家から持ち出した印ロウを握らせる。
 翌日、藤掛道十郎(浪人の名前)は役人に逮捕される。長庵は、前日に家を訪れたことも、金を貸したことも否定する。道十郎は金で刀を質屋から受け出していた。ただし、番所で運悪く、長庵は良伯に見られてしまう。 
 その後、殺害現場をながめていると、長庵に襲いかかった若者があった。小鶴の情夫だという。なんとか身を守ったものの、自分ひとりが情夫だと思っていた長庵の怒りはおさまらなかった(しかし、この挿話は後に続かない)。
 道十郎は引き回しとなり、道十郎を乗せた馬の足音が響くなか、長庵はそばを口に運んでいた。道十郎は磔刑になるのだ。町のものは誰も同情していない。長庵は含み笑いをする。
 りよの許を尋ねる。近所の子供たちが悪口を投げつけ、石をぶつけていた。長庵は道十郎に「女房を頼む」と依頼されたとウソをつき、境遇に同情し、自分の家へ来いと誘う。荷物をまとめて、りよは長庵について来た。
 二人で家へ着くと、師匠の良伯が待っていた。表へ出て聞いてみると、金の無心だった。五拾両だと言う。長庵は暮れ六つに届けに行くと約束する。
 途中で出会った安は、唐木屋殺しの真犯人を示唆する。長庵は表情が曇り、安を始末するつもりになったようだ。
 いったん家に戻って金を準備し、良伯家へ出かけた長庵は安を誘う。河原で唐木屋殺しの真相を話して、安が油断したところをドスで刺す。そのまま良伯家へ向かった。
 しかし、安は死んではいなかった。虫の息で長庵の家に戻り、りよに真相を話して息を引き取った。
 良伯が五拾両を受け取ろうとすると長庵は無許可でヒ素を使っていたことをバラすと恐喝、その口止め料を出せと言う。良伯はそれならお前のニセ医者をバラすぞと引かない。加代がお茶を運んで来た。良伯は、加代は結局、子供ができず出戻ったのだと話す。長庵は良伯が先に部屋を出た後で、あしもとの茶碗を見る。
 長庵は良伯に五拾両は差し上げますと折れる。加代は二人の茶碗を交換する(長庵が毒を仕掛けたと推理したのだ)。室に戻った二人はそれぞれ自分の茶碗のお茶を飲む。長庵が苦しみ出した。自分が仕掛けた毒に当ったのだ。水を求めて台所から表通りへ、そして広場へ出る。もがき苦しむ長庵。暮れ六つの鐘が響く。長庵の前に立った女に水を求める。りよだった。水の代わりに、りよは懐剣で長庵の胸を突き刺した。倒れた長庵はやがて事切れた。
 他のキャストは、に組の千太郎(丹羽又三郎)、次郎一(中村豊)、お信(角梨枝子)、お房(橘公子)、与茂兵(藤川準)、番頭種吉(越川一)、おでん屋の亭主(芝田総二)、目明し富蔵(千石泰三)、庄兵衛(南正夫)、お百(小林加奈枝)。
        映画川柳「なんにでも 同じ処方の ヤブ医者か」 飛蜘

 村井長庵は河竹黙阿弥の『勧善懲悪覗機関』(かんぜんちょうあくのぞきからくり)の主人公で、やはり表は医師の悪いやつ。この歌舞伎の世話物を下敷きにした脚本だが、物語はかなり異なっている。『森一生映画旅』で森監督は「少しおとなしすぎましたね」と振り返っているだけ。インタビュアーの山田宏一・山根貞男はおそらく見ていなかった。
2011年10月2日


DVD
続・丹下左膳


大映
1953年
75分
 マキノ雅弘監督。脚本は伊藤大輔・柳川真一、助監督に田中徳三。
 雷鳴とどろく夜、大岡忠相(大河内傳次郎)は何を思っていたのだろうか。饗庭藩主・主水正(市川小太夫)に近頃市井を騒がす左膳が饗庭藩を名乗っているがと問い質す。主水正は覚えが無いと答える。大岡越前守はされば左膳を捕えるようすぐに手配すると命令を出す。しかし、主水正の帰途、篭に丹下左膳が近づき、挨拶したものの、主君は覚えが無いと断る。左膳は売られたと愕然とする。饗庭藩邸にまで入るが、拒絶される。妖刀・乾雲を「地獄の花嫁御寮だ」と称し、剣士たちを斬り逃走する。短筒の助っ人が現れる。女だ。左膳の女、櫛巻お藤(水戸光子)である。
 饗庭藩主は月輪軍之助(光岡龍三郎)に剣士たちに大岡越前よりも先に左膳を見つけ、乾雲を取り戻すように命じる。一方、栄三郎(三田隆)は乞食坊主・泰軒(羅門光三郎)と共に、水上生活者の暮す船の中にいた。栄三郎は妖刀・坤龍を携えて左膳を狙っていた。 
 旗本・鈴川源十郎(澤村國太郎)のもとには夫・栄三郎を探す女お艶(山本富士子)がいた。屋敷に出入りするお艶の兄・與吉(田中春男)は刀でもうけようとの算段である。
 夕方になると栄三郎は出かける。翌朝、月輪剣士の死体が発見される。死体は頭巾を持っているため、辻斬りを斬る者の仕業と噂される。血を求めてうずく妖刀の魔力に左膳もつき動かされていた。修行場の寺に潜む左膳とお藤。そんなに人が斬りたいのだったら、自分を斬ってくれとお藤は左膳に迫る。葛藤の末、刀を放り出す左膳。
 お藤は左膳のもつ乾雲を返すべく彌生(沢村昌子)を探す。彌生は大岡越前に匿われていた。
 人斬りの罪の意識からか酔い潰れる栄三郎。酒屋で栄三郎を見かけたお藤は後をつけて船を確認する。一方、月輪剣士たちは、鼓の與吉の密告により、榮三郎を襲って剣を奪おうと船に近づいてきた。お藤が短筒を持って待ち伏せていた。大岡越前の捕方も御用提灯をかざして駆け付けた。榮三郎は斬り死にし、與吉はお藤に撃たれた。お藤は手裏剣で傷つき修行寺に戻って息絶える。御用提灯に囲まれた中を左膳は饗庭藩邸に向う。越前は状況を見守るだけだ。藩邸に到着した左膳は乾雲を返すと宣告、襲ってくる月輪剣士たちを斬り進み、ついに主君を斬り倒す。不敵に笑う左膳。周囲を捕り方が囲んでいる。江戸の夜空に月が浮かんでいた。
        映画川柳「呪われし 剣が新たな 血を求む」 飛蜘

 この続篇から見たのでは、人間関係がわからないので「?」の場面が多い。栄三郎がなぜ左膳を狙っているかも理解できないし、坤龍や乾雲の役割も謎である。お艶やお藤、彌生といった女たちと男との関係もよくわからない。左膳のセリフの音が悪く言葉が聞き取れない。なにか奇怪な台詞を言っているなあという感じでしかない。御用提灯に囲まれる演出は伊藤大輔ゆかりのもの。
2011年10月2日


DVD
魔像


松竹
1952年
98分
 林不忘の原作、大曾根辰夫監督。脚本・鈴木兵吾、石本秀雄撮影。享保の頃、悪政で巷には怨嗟の声が広がっていた。元日に御納戸勤番新参者の神尾喬之助(阪東妻三郎)は忍耐を心に刻んでお城に上がったのだが、遅れて出所したこと、町人の園絵(津島恵子)を嫁取ったことなど、仲間にイジメられた。奉行の前、突如笑って退散した神尾を追った組頭の戸部(永田光男)が斬られてしまった。戸部は園絵を横恋慕していた過去があった。
 侍たちは神尾の家に張りこむ。囲みをどう抜けたか喬之助が帰宅、喬之助は戸部を私情だけで斬ったのではない、脇坂山城守(小堀誠)の支配下、勤番は不正を働いていたのだと訴える。侍たちが喬之助に気付いて侵入すると、喬之助は園絵に当て身をくらわせ、逃げる。
 高札の手配書が出回ったものの、やがて日が過ぎて高札の人相書も破れた頃、十手もあずかる左官職の亀辰(香川良介)のもとへ弟子入りしたいという男がやって来る。亀辰は喬之助と見抜き、捕縛しようとするが、悪行を働く山城守と勤番を成敗するという意気に感じて、いったん十手を納める。通りかかった長庵(山路義人)が番所へ通報したことから、捕り手が駆け付けるが、目明しは「喧嘩道場の茨右近さまじゃないか」と人違いと主張。
 茨右近は喬之助と瓜二つだった。右近の女房・お絃(山田五十鈴)はきっぷのいい姐御肌、亀辰が連れて来た喬之助を匿い、表向き右近と偽る計画に加担する。新婚直後に離れた園絵が不憫と、家の周囲を捕り方に囲まれているなか、亀辰と共謀して家から脱出させる。
 勤番の侍たちを「お命頂戴 只今参上」と次々に成敗する喬之助と右近。園絵と喬之助の二人を家の残し、お絃と右近は夜間、外を歩いたり、空いた樽のなかで寝ていたりの毎日。脇坂山城守は神保道場の道場主に加勢を頼んだ。道場主(戸上城太郎)は園絵を条件に引きうける。
 騒ぎが引き金になって不正が明らかになり、山城守は永世蟄居の処分となった。南町奉行・大岡越前(柳永二郎)は喬之助を生け捕れと厳命。
 勤番の許へ斬り込む喬之助と右近。侍たちは喬之助が二人出現するので戸惑っている。道場主におびき出された園絵を救ったのは頭巾の者(三島雅夫)だった。関孫六を携え、道場主が傷ついているので片目片腕になろうt宣言して戦う右近は阪妻自身も演じた丹下左膳のパロディ。
 越前は捕えられた喬之助を「茨右近」と断定し、女房ともども江戸をところ払いを命ずる。本物の右近とお絃は「名なしになってしまった」、さてどうするかと樽の中で思案するのだった。
     映画川柳「うれしいね 惚れなおしたよと 樽の中」 飛蜘

 後半、フィルム表面にかなり傷があった。阪妻の二役と山田五十鈴演ずるお絃のきっぷが見もの。完全に舞台のセリフ回しですが。 
2011年10月1日



衛星劇場
録画
幕末



東宝
1970年
119分
 伊藤大輔脚本・監督作品。原作は司馬遼太郎の『竜馬がゆく』。製作は中村プロダクション(製作・小川衿一郎)。撮影は山田一夫、音楽は佐藤勝、よさこい節を主題とするテーマを使っている。オールスター映画でスターの大芝居が目立つ。特に錦之助の大芝居は興ざめ。以下はgooのあらすじを中心に据えたもの。
 土佐藩。機織りをする少女(二木てるみ)は中平家の嫁。ある雨の日、不自由な足に下駄を引摺った一人の小商人が酔った藩の上士・山田(山形勲)にぶつかり、無礼討ちされた。土佐藩では士分以外に下駄は禁制。下士・中平(片山明彦)は怪我人に下駄と雨傘を与えた親切があだとなり、「御法度破りの同類」として山田のために討ち果たされた。中平の弟(山本学)は山田を斬り、自らは武智半平太(仲谷昇)の邸に逃げ込んだが、切腹して果てた。
 この一件は烈しく坂本竜馬(中村錦之助)の魂を揺ぶり、故郷の土佐を脱藩させた。江戸を訪れた竜馬は、かつて剣の腕を磨いた千葉道場に落着いた。千葉は時の幕府海軍奉行、勝海舟(神山繁)を開国論者の先鋒とみて、嫌っていた。しかし、竜馬は海舟を邸に訪ね、立場こそ違え互に国を愛し、国を憂うる心に違いないことを知った。ちょうど、勤王倒幕の雄藩、薩・長二藩の主導権争い激しき折りだった。
 慶応元年。竜馬は長崎に「社中」を創設し海運業に乗りだした。だが、竜馬は海運業に携わるよりも、中岡(仲代達矢)と共に薩・長二藩連合のために奔走する方が多かった。
 その留守を預るもと饅頭屋の近藤長次郎(中村賀津雄)が、洋行の計画など「社中」規約違反の咎で詰腹を切らされた。芸者役に江利チエミ。ちょうど尋ねて来た中岡は同志のケチな差別根性を憤怒した。同正月二十日。竜馬は長州の桂と薩摩の西郷(小林桂樹)との間を周旋して、ついに両藩積年の確執と反目を解消させた。だが、それと同時に竜馬は幕吏に狙われるところとなった。寺田屋では竜馬は京都所司代に襲われたが、お良(吉永小百合)の機転で助かった。薩摩藩邸に匿われた竜馬は薩摩に旅し、お良と結婚したものの、安住の地はなかった。
 幕威に比し薩長二藩の実力は伸長していた。この現実に周章したのは公武合体論の士佐藩だった。土佐藩家老・後藤象二郎(三船敏郎)は竜馬に助言を求めた。竜馬は「将軍慶喜をして大政を奉還せしめる」ことを説いた。
 慶応三年十月十五日“朝廷勅して大政奉還の請願を許す”。その頃、竜馬は河原町通りの醤油商・近江屋に下宿。外は「ええじゃないか」で庶民が浮かれ踊るなか、十一月十五日、風邪の見舞に来た中岡と竜馬は「新政府綱領八策」について議論した。竜馬は「エンペラールは無用の長物となった。神の座から降りていただく」と持論を展開。竜馬はルソーの『社会契約論』を読んでいたのだ。刺客が疾風の如く躍り込りこんで、二人の生命を奪い去ったのは、その最中だった。時に竜馬三十三歳、中岡三十歳であった。
2011年10月1日



衛星劇場
録画
明治一代女


新東宝
1955年
 伊藤大輔監督作品。原作は川口松太郎、脚色は伊藤大輔・成澤昌茂、音楽は伊福部昭。白黒作品。
 軍人が座敷での柳橋芸者の踊りに飽きて、自分たちで剣舞を始める。女将のお秀(杉村春子)は、踊り手の芸を責めずに三味線の梅(木暮実千代。松竹)が上手過ぎて踊りを無視していると責める。そこへ歌舞伎役者・仙枝(北上弥太朗)が登場、座をおさめた。実は下手な踊り子は女将の娘、小吉(藤木の実。新人)だった。女将は仙枝の紀伊国屋三代目仙之助襲名披露と同時に小吉を女房におさめようとの魂胆。お秀は自分が仙枝の父に贈ったサンゴの根付をお梅が帯どめに使っているのに気付く。実はお梅と仙枝は相思相愛の仲なのだ。
 しかし、お秀は母親(浦辺粂子。大映)と学生の弟の武彦(井上大助)を世話する身、芸者仲間にも襲名披露の資金を引き受けるつもりなんだろうかと揶揄されるが、金の当てなどない。襲名披露に向けて準備をしているお秀の手前、仙枝の身元を預かる音羽屋(市川小太夫)からも、お梅は身の程知らずの希望を抱かないように忠告される。悔しくて酔ったお梅は、着付けなどを手伝う箱丁の巳之吉(田崎潤)に気持ちを打ち明ける。すると、巳之はお梅への秘めていた想いを告白する。さらに、金は父母の塩田を売って巳之が作る、襲名披露を立派にした後で、太夫と切れて堅気になってくれと言う。お梅はその真情に感動する。やがて巳之から二千円の半金の都合ができたというが、仙枝は嫉妬もあり、そんな金は受け取れないし、襲名に必要な金は天井知らずにかかると言う。
 仙枝は情婦お梅とは別れないと女将に申し出るものの、女将お秀は襲名準備取り消しだと嫌味を言いながらも、蔭では強引に準備を進める。
 巳之吉が身代を売って作った金をお梅は仙枝の許に届けるが、仙枝本人には会えなかった。その足でお梅は置屋「稲舟」に身を寄せていた。巳之が稲舟にお梅を探しに来るものの、お絹(千明みゆき)からは不在だと言われ、使用人と争いになり、結局叩きだされてしまう。玄関から叩きだされる巳之吉と二階の縁台から辛そうに目撃するお梅を捉えたパン・フォーカスが見事である(撮影は鈴木博)。さらに騒ぎを起こしたのが理由で、巳之吉は柳橋には出入り禁止になってしまう。その頃、郵便で後の半分の千円が送金されてくる。
 巳之がお梅の家、叶家に行ってみるとお披露目の配り物が届けられていた。お梅はいないというが実は隠れていた。人力車が仙枝の伝言を持ち、稲舟から迎えに来る。出かけたお梅の後を巳之吉が出刃包丁を隠し持って追った。浜町河岸で追いつき、車夫に心付けを渡して巳之はお梅に本心を問い質した。お梅は襲名披露で渡した金が生きて使われているのを見てからという。巳之はそれじゃあまり虫が良すぎる、あっしの意地はどうなるんでと男泣き。そのとき、家から持ち出した包丁が懐からこぼれた。逃げ出そうとするお梅に切りつける巳之吉。争っているうちにお梅の手には包丁が握られていて、巳之は倒れていた。紙幣が散らばる。
 叶家に戻って来たお梅。武彦は正当防衛と解釈する。お梅を着替えさせて出頭する準備をする二人。しかし、お梅は仙枝の襲名披露を見たい、それまで隠れていたらいけないかしらと言い始める。母親が帯を準備、武彦が煙草を準備している間に、お梅は家を出てしまう。号外は殺人事件を大きく扱っていた。
 やがて、襲名披露の日がやって来た。音羽屋から仙枝は、舞台の児雷也の呪文で「叶」の文字を真心をこめて書くように指示される。さらに、喝采の中に引かれた幕には「柳橋叶家お梅より」と金文字で書かれてあった。頭巾をかぶって見物していたお梅はその幕を見た後で、武彦に諭されてお縄にかかるのだった。
     映画川柳「二千円 身代はたいて 幕となる」 飛蜘

 芸者と役者、芸者と箱丁、身分違いの恋が非劇に終わる。伊藤大輔の演出は堅実。歌舞伎や芸者など芸事の世界は田舎者には縁遠い世界である。二千円がはした金に過ぎないことを知って用立ててくれた巳之吉に合わす顔がないと思いこむお梅、裏切られたと感じて思いつめる巳之吉。双方のすれ違いがドラマをかたち作る。
2011年9月20日



WOWOW
録画
大魔神


大映
1966年
84分
 大映特撮技術を駆使して制作された巨篇の第一作。監督は安田公義、特殊撮影監督(ブルーバック合成)は黒田義之。撮影は本篇も特撮も森田富士郎、美術は内藤昭、照明は美間博、音楽は伊福部昭。
 戦国時代、丹波の国の領主、花房忠清(島田竜三)は、家老の大館左馬之助(五味龍太郎)一派の謀反によって滅ぼされた。しかし、花房家の若君・忠文と姫・小笹は忠臣・小源太(藤巻潤)と、その叔母で巫女の信夫(月宮於登女)の助けで魔神の山に匿われた。
 やがて十年の時が過ぎ、領民は砦の建設のため苦役を強いられていた。左馬之助を討取りに行くという忠文(青山良彦)を押しとどめた小源太は様子を見に村へ出たものの、家老の犬上軍十郎(遠藤辰雄)に正体を見破られ、捕縛されてしまった。小源太が捕えられたことを少年・竹坊(出口静宏)から聞いた信夫は左馬之助に悪政は神の怒りを呼ぶと忠告するが、左馬之助は嘲笑い、「神罰があるなら見せてみよ」と信夫を斬り殺した。さらに、山中にある武神像の破壊を配下に命じた。一方、小源太を救出しようとした忠文も囚われ、翌朝には磔にされるtことになった。
 山に向かった軍十郎たちに小笹(高田美和)が捕まり、その眼前で武神像の額に深々と鏨(たがね)が打ちこまれた時、あり得ないことが起こった。鏨の下から、赤々とした鮮血が滴り始めたのだ。にわかに起こった地震で次々に左馬之助の手下が地割れに飲み込まれていく。
 怒り鎮まらぬ武神は、忠文の命乞いに身を捧げようとした小笹の目の前で動き出し、その相貌を恐ろしい魔神に変え砦の建設現場へと向かう。
 砦では磔刑が執行されようとしていた。妖しく曇った天空から一点の光が地上に落ち、突如それは巨大な魔神の姿となった。 魔神は砦を突き破り、城下へと侵入する。これをとどめようとする城兵達も次々に踏みつぶされ、破壊された建物の下に消えていく。花房家の残党・中馬逸平(伊達三郎)らによって忠文と小源太は救出された。左馬之助は魔神に捕まり、魔神は鏨を左馬之助の胸に深々と突き通した。魔神の怒りはなおも鎮まらず、無辜(むこ)の領民までもが巻き添えに及ぶかに見えた。
 そのとき、魔神の足元に小笹が駆け寄ってひざまずいた。小笹は自らの命と引き換えに、魔神に怒りを鎮めてくれるよう懇願し、涙を落した。これをみた魔神はその顔を穏やかな武神に変え、土塊となって崩れ去った。
 他のキャスト;忠文の少年時代(二宮秀樹)、竹坊の父・吾作(尾上栄五郎)、原田孫十郎(黒木英男)、小郡主水(伴勇太郎)、梶浦有助(杉山昌三九)、元木半蔵及び大魔神(橋本力)。
     映画川柳「埴輪顔 怒りが増して 激烈に」 飛蜘

 大魔神が動き出すまでにだいぶ話が進む。特殊撮影は当時としてはたいへん秀逸で、大魔神によって破壊される城壁や塀、やぐらなどその動きも真に迫っている。青山良彦や高田美和、少年などの芝居は学芸会なみである。遠藤達雄や五味龍太郎の悪者もいかにもワルモノぶりで凄んでいるだけで、子供だましの演技だった。もっとも、出てきただけでワルモノというのは、その後の東映任侠映画にもたくさんありました。善悪が明快なのでそれでよいのかもしれないが・・・・。この当時から、森田富士郎の撮影や内藤昭の美術、美間博の照明は素晴らしい。  
2011年9月20日



衛星劇場
録画
長恨


15分
1926年
 伊藤大輔脚本・監督の代表作のデジタル復元版。もとは9巻だが、最後の1巻しか残っていない。1995年の大里健氏より寄贈された可燃性フィルムを2011年にデジタル化。伊藤大輔の日活入社第一作であり、大河内傳次郎と初めてコンビを組んだ記念すべき作品。
 一人の娘・雪枝に思いを寄せる勤王志士の兄弟。新撰組の包囲から弟と娘を逃がし、斬り死にしていく主人公と、逃れていく二人のカット・バックの激しさと巧みさに、伊藤映画の片鱗がうかがわれる。
 キャストは大河内傅次郎(勤王志士・壱岐和馬)、久米譲(その弟・次馬)、尾上卯太五郎(漢学者・沼田総左衛門)、川上弥生(その娘・雪枝&町芸者・松栄)、市川百之助(その兄・目明し富五郎)、川田弘道(新撰組榊半三郎)、室町栄次郎(虚無僧(志士))。
 逃げていく雪枝と次馬の姿と、大勢の捕り方を相手に立ち向かう和馬の姿が交互に映し出される。捕り方に加勢が増える。和馬勢にも二人の志士がある。しかし、和馬や志士の形勢は不利。しだいに和馬は傷を受け、目がくらみ、縄をかけられて狂気のように斬り結ぶ。「寄れば斬るぞ」と宣言していたが、最後に弟に「さらばじゃ」と告げる。遠くで弟はその声を聞いたような気がする。「兄上が呼ばれた!」、しかし雪枝は「空耳でございます」と諭す。捕り手は四重五重に縄をかけ、和馬を捕える瞬間でエンド。
      映画川柳「斬り結ぶ 捕り方の数 百人に」 飛蜘
2011年9月16日



衛星劇場
録画
斬人斬馬剣


27分
1929年
 伊藤大輔脚本・監督の代表作のデジタル復元版。もとは11巻だから、1巻10分とすると110分、四分の一も残っていないことになる。
 キネマ旬報の略筋によると、“中国地方のある小藩、父の仇を求めて飢えて疲れた十時来三郎(月形龍之介)が百姓家の柿を一つ盗んだ。百姓たちは彼が武家姿であるために、たった一つの柿を盗んだだけなのに許そうとはしなかった。そこへ通りかかったのが悪代官の用心棒、実は来三郎が長年探し求めていた仇の長曽根(金子弘)であった。来三郎は今までとは反対に百姓の助勢で父の仇を討つことが出来た。当主・伴良(井上晴夫)の病弱につけこみ、嗣子・松若丸(伊久田太郎)を亡きものにし、庶子・竹若丸(一つ橋八重子)に世をつがせ、己たちの栄華を得ようと腹を合わす杉の方(伊藤みはる)と城代・大須賀(関操)は富を得んと百姓たちに血の出るような苦役を命じ、ために村は悲惨な生活にあえいでいた。村人たちは城代のやり方を憎み、事を起こそうと企てたが、徹全(市川庚寅)は常に彼らの無謀を抑えていた。[ここまでのフィルムは無い。以下、追記箇所を桃色文字で示す]
 長曽根の弟・左源太(天野刃一)は兄の死を悲しみはしなかったが、武道の掟で来三郎を討ちに来たが、かえって来三郎と共鳴し[百姓が反抗し、代官は百姓を捕縛する。来三郎は左源太と侍の額に傷を付ける]その夜から城下に出没し悪侍どもに危害を加え始めた。[そのうち悪代官・山室も傷を負う。代官は怒り]、代官邸では浪人者を抱えだし、来三郎を討とうとしたが、かえって浪人どもは来三郎の味方となり[来三郎は俺を何の為に斬る?と問う。「飯の為だ」「飯はなんで作る?」「米だ」「ではその米を作るのは誰だ?」と重ねて質問して、討手を味方にしてしまう。左源太もこの問答を真似するが、効果がなく斬られそうになる。助けを呼ぶと来三郎登場。「俺を斬ったらいくらになる?」「十両だ」「俺に斬られたら元も子もフイになるじゃないか。割の合わない商売は止したがいい」と諭す]、はては大須賀の子・頼母(石井貫治)までが今は来三郎の味方となり、正義のために立つに至った。こうしている間にも暴政は日増しに募っていった。[坊主・徹全はは百姓の怒りを鎮めようとしていたが、代官は村の女を狩り集めることにしたというお触れが出たとの連絡で百姓たちは寺から離れる]里の女お糸(湊明子)は[熱を出した子供から引き離され]夫(高松錦之助)の手から引き離され、悪代官・山室(市川伝之助)の獣欲の下にふみにじられ[このような場面はない。白馬を駆り、来三郎と左源太は女たちを救おうとする。頼母が引き受けて女たちを解放した。しかし、お糸は子供を亡くした悲しみから]、気が狂った。今はこのうえ、村人もこらえていることが出来ず、徹全も彼らにこれ以上の忍従を強いなかった。村人たちは立った。[鉄砲隊が村人に対抗する。]彼らは正義の士に事情を訴えようとして殺到し、山室一味は待ち構えて彼ら百姓どもを片端から捕えてしまう。一方、御殿では杉の方と城代は松若丸を亡きものにせんと謀った[毒饅頭を食べさせようとした]が、[馬を駆って]駆けつけた来三郎のため[若君はさらわれて]無事なるを得た。[来三郎は城壁から若君を抱いて堀に飛こむ。続いて≪斬人斬馬剣 擁衛篇≫が始まる。押し寄せる百姓たち。迎え撃つ鉄砲隊。一触即発のところへ来三郎と馬に乗った若君が着く。若君が「者共、静まれ」と命令し、発砲は阻止される]。一同を助けた頼母はなおも密談にふける杉の方と父とを斬り、二つの首を携えて家老のもとに至り、公平なる裁きを求めた。[刑場で磔にされようとする百姓たちの赦免状をくわえて届けようと馬を駆る頼母。追う代官をさらに追う来三郎。はたして刑の執行に間に合うだろうか。馬が走る]、城外では山室らの黒馬隊と来三郎の率いる白馬隊とが入り乱れて大乱闘を演ずる。・・・・[代官を倒し、刑場に乱入した来三郎。やや遅れて頼母の赦免状も届いた。平和が戻った城下の川、船中で若君は十時の行方を頼母に尋ねている。そのころ来三郎は左源太に「なぜこんな時に逃げ出すのか」と聞かれていた。来三郎は答える、「俺は神様にかつぎ出されたくないのだ」と。]
     映画川柳「百姓は 米作りの真の 主人公」 飛蜘

 当時の飯島正氏の評は、“「大岡政談」あたりから表面に現れてきた思想的一面が、この「斬人斬馬剣」においては、さらにさらに色濃く現れている。ここにおいて、氏は自分の映画を、技巧に流れずに、己れのものとすることが出来た。口をついて出る伊藤流名文句も「血煙高田馬場」などにおけるようなただのフザけた文句とは違っている。ここではそれが、諷刺となり、皮肉となり、あるいは骨を刺す痛罵となっている。字幕の過多は一時伊藤氏の特長でもありまた非難のまとであったのだが、今ようやく、それは活用され、己れの分を得ることになった。まず、巻頭、柿の実ひとつを契機とする、主人公の心理的展開は、すこぶる気が利いて巧みなものであった。こうして民衆と政事をあやまる代官の闘争の間に立った主人公がとる決心はひとしく観客にもはっきりわかるのである”。
2011年9月15日



衛星劇場
忠次旅日記


100分
1927年
 伊藤大輔脚本・監督の代表作のデジタル復元版。フィルム・センターで2011年7月23日に上映されたデジタル復元版を衛星劇場で放映。20年前に広島の民家で発見されたフィルムが2010年から補修され復元されて、ついに公開された。感無量。
 伊藤大輔監督作品では、池袋文芸座で『下郎の首』を見たときの感動がまざまざと思い起こされる。キネマ旬報の「読者の映画評」に投稿した「下郎の首」評は文体をかなり変えて、硬派調で書いたので、ペンネームを作った。和田誠・川本三郎・西脇英夫・山田宏一から各一字を取った和本英宏という名で住所は当時の弟の住所を使った。投稿はキネ旬に取り上げられたが、さらにその文章を加藤泰監督は編集した伊藤大輔著『時代劇映画の詩と真実』(キネマ旬報社)に引用して下さった。『下郎の首』は無声映画時代の『下郎』(1927年)のリメイクで、『下郎』は“『忠次旅日記血笑篇』の感傷を排した「優秀なる外国映画に比してもさして遜色はない。近来の傑作である”(北川冬彦評)というが、作品が現存していない。
 衛星劇場では『下郎の首』はもとより、伊藤大輔特集で『長恨』(一部)・『斬人斬馬剣』(一部)・『明治一代女』『幕末』なども上映される。ドキュメンタリー『甦るフィルム』(60分。ディレクターは中村裕、企画は尾崎誠・今井亮一)で、『忠次旅日記』のフィルム発見・復元作業をふりかえっていた。忠次が籠で送致される場面はマキノ正博の作品が使われていた。
 発見された『忠次旅日記』は三部作の二部「信州血笑篇」の一部分(壁安の許へ勘太郎をあずけようとする。そこへ押し込み強盗が来る。忠次は乾分たちが強盗を働くはずはないと言っていたが・・・という場面)と三部「御用篇」全篇。三部作としては不完全ではあるが(一部は不本意に撮影された活劇で伊藤自身が廃棄した)、不完全さを感じさせないほどの傑作。特に第三部が比類ない出来。無声映画なので音は無い。作り酒屋の定吉となった忠次(大河内傅次郎)に惚れる澤田屋の娘・お粂は沢蘭子、戸板に載せられて運ばれてくる病気の忠次を看病する妻・お品は伏見直江。子分のなかに裏切り者がいるという場面は、まるでキリストのユダ告発場面でした。最後の晩餐ですね。古井戸の隣の地下室。明り取りの小さな窓からだけ光がさしてきて、お品に当るという構図。いったん捕らえられた忠次が子分たちに救出された後は、戸板に載せられたままの病身の姿のみで登場する。大河内傅次郎も伏見直江も鬼鬼迫る演技となります。
 失われた第二部の内容は『時代劇映画の詩と真実』に収録された当時の「略筋」と北川冬彦の「批評」である程度わかります。
 第二部略筋:(残されたフィルム部分は青字)“愛妾・お蔦(光山朝子)に逢うべく忠次が赤城山を下った夜、自分を裏切った碇床の松吉(尾上桃華)を斬って捨てた忠次は、御室の勘助(実川延一郎)の率いる御用の一隊に囲まれてしまった。急を知った板割の浅太郎(岡崎晴夫)は碇床に駆けつけ、群がる捕手を引き受け忠次を逃がしたが、勘助とは叔父甥の間柄ゆえ、密告したのだろうと忠次に疑われて親分乾分の縁を切られたので、義のため涙を呑んで勘助を斬り、倅の勘太郎を連れて山に上り、勘助の首級を示した。忠次は今さら自分の浅慮を悔いわび、勘助に代わって勘太郎の保護者たらんと意を決した。信州路へ落ち行く途中、辻堂に不安の夢を結びつつ、旅を続けた彼は過去の思い出に悩まずにはいられなかった。信州路へ入った彼は壁安左衛門(中村吉次)の温情にすがって勘太郎を託そうとしたが、おのれの名を騙って悪事を働く阿坂の政吉らの不義を恥じて再び安左衛門の家を出た。が、政吉は罪を悔いて自刃し[この場面は無い]、安左衛門は忠次の運命に泣いた。忠次召し捕りの手はますます厳重になった。三つ木の文蔵(阪東清之助)は壁安の[勘太郎だけはあずかるという]真意を聞いて忠次を追った。苦しい旅を続けているうち彼は持病の中風に悩み始めた。彼は加部谷の音吉方に身を寄せていたが、またしても裏切られた。彼の運命やいかに。”
 北川評は、これほど“映画的な映画は、そうざらにあるものではない”“講談映画として高く評価さるべき映画である。佳作”と褒めているが、欠点もあると言う。“一番いけないのは壁安という物持ちの扱いである。物持ちのキザな、不徹底なナサケには好感がもてないものだ。忠次が悄然と壁安の家を出てゆくと、店のものまでが貰い泣きをするのは、あまりに浅薄なセンチメンタリズムである。”“勘太郎に扮した中村英雄氏のメイクアップと厭味な演技には賛成できかねる”と指摘している。
 ちなみに第三部「御用篇」の当時の略筋(キネマ旬報)はこう記されている。“忠次はその後、沓として消息を絶ったが、越後長岡の城下近い吉田町の酒造家・沢田家喜兵衛(磯川元春)の任侠に甘えて、番頭・定吉として身を寄せているうち、娘・お粂(沢蘭子)に恋される身となった。しかし、忠次は自分を省みてその恋に応じなかった。お粂の兄・銀次郎は長岡の遊女・信夫に熱くなって身請けしたが、信夫とねんごろな鷲津の音蔵(尾上華丈)のために女を横取りされたうえ、谷底へ蹴り込まれた。忠次は銀次郎の急を救い、音蔵の宅へ強談判に行ったため身元がばれて、この町にもいられなくなった。忠次が落ちていくことを知ったお粂は自刃してしまった。忠次は喜兵衛の温情を感謝し、思いを残して旅へ出た[この略筋はフィルムと合っていない。お粂は銀次郎が信夫に出した書付を見て、定吉の女が信夫だと誤解する。自分の愛情に定吉が応えないのは信夫という情人がいるからだと思いつめるのであった。沢田屋に音蔵たちと捕り方がやってきたとき、お粂は定吉の刀を奪って行く。喜兵衛はお粂を追う。お粂が奪った刀を抜身で持ち帰った喜兵衛は「馬鹿な娘だ」と力なく嘆いている。お粂は死んでしまったのだ。喜兵衛は追っ手を自分のほうへ誘導したりして忠次を守ろうとするが力尽きる。忠次は中風のため右腕が利かない。左手一本で刀を振り、囲みを斬り抜ける]。愛する勘太郎の幻に攪乱されている忠次は音蔵の密告によって立ち向かって来た捕り方の縄にかかってしまった[壁安のもとで勘太郎は大切に遇されていた。その様子を見た忠次は涙をこらえる。勘太郎は子供たちと捕り方ごっこをして遊び、縄をかけられて通りがかりの忠次の杖を借りようとする。忠次は杖を手放す。追手に追われ、山道で忠次は「勘太郎」の名を呼ぶ]。清水の岩鉄ら一騎当千の乾分らは軍鶏籠で送られていく山道に親分を救ったが、十手の網はいたるところに張られ、逃れ逃れて上州国定村の名主・卯右衛門宅へたどりつき、空井戸に身をかくして忠次は病驅を養わなければならなかった。愛妾・お品(伏見直江)は侠艶よく乾分を統べ、重ね重ねの裏切り者に7怒りの刃を下した。またしても中風病が昂じてきた身の不自由雨をかこっていると乾分の卯之助の密告から所在を突き止められ、御用の一隊に取り囲まれてしまった。岩鉄ら乾分は奮然と斬り込んだ。お品は裏切り者の卯之助を打ち止め[お品が裏切り者を告発するのは一隊に取り囲まれる前。誰か分からない裏切り者を心理的に追い詰めて短筒で仕留める]、従容として忠次を捕り方の手に渡した。” 
      映画川柳「ありがたい 体の動かぬ 親分を」 飛蜘
2011年9月13日


衛星劇場
放映録画
鴛鴦歌合戦


日活
70分
1939年
 マキノ正博監督。撮影が宮川一夫で、撮影助監督に、後に勝新の傑作を撮る牧浦地志。片岡千恵蔵のお正月映画が千恵蔵の心臓病で流れそうになって急遽、セリフを音楽にして尺を伸ばして、間に合せで作った音楽時代劇。木刀を削る浪人・禮三郎を千恵蔵、知恵蔵を恋する隣の家のお春(市川春代)、傘張り職人で骨董狂いの父(志村喬)、隣の町娘・お富(服部富子)、禮三郎の婚約者・藤尾(深水藤子)、美人の娘を次々に妾にしようとする峯澤丹波守(ディック・ミネ)。殿様の妾になるのは厭だ、富がなくとも浪人との真実の愛に生きるというお春の設定は、かなり非現実的で、近代的に過ぎる。女たちがみんな千恵蔵の浪人ものに惚れていくという、お伽話顔負けのファンタジー。大井武蔵野館の小野善太郎支配人の努力でカルト化した作品。
      映画川柳「百万両 麦こがし入れの 古壺が」 飛蜘
2011年9月10日・11日


テレビ朝日
砂の器


テレビ朝日
2011年
4時間
 松本清張原作『砂の器』をテレビ・ドラマ化。演出は藤田明二。脚本・竹山洋、演出・藤田のコンビは2009年の松本清張原作『疑惑』のテレビ・ドラマ化も担当していました。9月10日(土)21:00から連続二夜放映。3月12日放送予定でしたが、東日本大震災で放送延期になっていました。秋田県の羽後亀田駅は冬のロケで、本来の放送予定日を考えると納得。
 主人公の刑事・吉村に玉木宏、先輩刑事に小林薫。和賀英良に佐々木蔵之介。女性の新聞記者に中谷美紀。東京大空襲で母と妹を亡くして、救えなかったというトラウマをもつ吉村刑事が和賀の曲に聞き取る心情が手がかりとなります。和賀をとりまく芸術集団ヌーヴォ・グループが和賀の共犯者として描かれます。映画ではらい病=ハンセン氏病という蛇蝎のごとく忌み嫌われた病気が理由だったのですが、今回の場合、千代吉はそんな不治の病気ではないし、殺人事件の容疑者として疑われたとはいうものの、犯人ではない。和賀がなぜ三木元巡査を殺してまで過去を隠蔽しようとするのかが、理解できませんでした。三木は会話のなかで、「過去のことは公言しない」と約束しているのですから、殺してしまうことはなかったと思います。有力な政治家の娘との結婚話にヒビが入ると考えたのでしょうか。
      映画川柳「父親は なぜに自分を 棄てたのか」 飛蜘
2011年9月1日


DVD
丹下左膳餘話 百萬両の壺


1935年
92分
 軍用金の百萬両の埋めた場所の絵図面が塗り込んであるというこけ猿の壺を、柳生対馬守(坂東勝太郎)は養子の引き出物にと柳生源三郎(沢村国太郎に贈ってしまった。秘密を知って探索に出向いた家老の高大之進(鬼頭善一郎)は江戸の不知火道場を預かる源三郎に返却を依頼する。しかし、なにか秘密があると悟った源三郎は返却を断る。源三郎の妻・萩野(花井蘭子)は壺を屑屋に売ってしまった。
 壺は屑屋の手から金魚屋の七兵衛(清川荘司)の息子・安坊(宗春太郎)に渡った。七兵衛は大店の旦那と偽って矢場に遊びに来ていた。矢場のお久(深水藤子)目当てで毎晩通っていたのだ。矢が曲がっていると言いがかりを付けた遊び人は七兵衛にやりこめられ、店を荒らす。矢場のおかみ・お藤(喜代三)の居候の丹下左膳(大河内傳次郎)が用心棒として助っ人に入る。長屋の入り口まで七兵衛を送っていった左膳だったが、別れた後で七兵衛は刺されてしまう。矢場へ連れてきた七兵衛は「安を頼む」と言い捨ててこと切れてしまう。
 おかみと左膳の意地の張り合いが絶妙な可笑しさ。こけ猿の壺が発見されると、遊びに出られなくなってしまう源三郎は、お伴の中間・興吉(山本礼三郎)に駄賃をやって別れ、壺が見つからないと嘘をついて、矢場に通う。
 懸賞金までつけて壺探しに身を入れる大之進だったが・・・。
 その他の登場人物は不知火道場の峰丹波(磯川勝彦)、屑屋の茂十(高勢実乗)と当八(鳥羽陽之助)、矢場の女(伊村理江子、達美心子)。みごとな脚本、敢然とするところのない演出で戦前の喜劇の最高傑作。 
     映画川柳「竹うまは 医者の息子も ケガをする」 飛蜘
2011年7月14日



DVD
カラコルム


1956年
79分
 京都大学カラコラム・ヒンズークシ学術探検隊の記録映画。梅棹忠夫が昨年亡くなり、国立民族学博物館では2011年3月~6月に特別展「ウメサオタダオ展」を開催。2011年5月14日に日帰りで民博に行き、展覧会を見学してきたところ、ショップに京都大学学術出版会が出したDVDがあった。この映画は梅棹忠夫が『モゴール族探検記』を書くことになった探検の記録である。もはやほとんど見る機会は無いとあきらめていたものだった。映画をDVDにして市販するのにもずいぶん大変な手間と経費がかかるものらしい。  
     映画川柳「」 飛蜘 
2011年6月19日


NHK総合TV
昔、父は日本人を殺した


NHK総合TV
2011年
21:00
50分
 NHKスペシャル、ディレクターは宗像竜太。撮影は前山達彦。デール・マハリッジは父親スティーヴが経験した沖縄戦を取材し続けている。スティーヴと同じ部隊にいた証言者は、洞窟に手りゅう弾を投げ込み、女子供を殺したと言う。しかし、1945年4月1日読谷(よみたん)の浜辺上陸から6月23日までの激戦が終わったとき、米軍のL中隊の兵は240人のうち31人しか生存していなかった。絶対死の状況にあって抵抗を続ける日本人は米兵には謎だった。そんな状況で、殺される前に殺せ、戦争中は兵士は人間ではなかった。
 父が保管していた日本人の遺品があった。そのなかにあった手帳の持ち主は来日して調べてみると、戦死ではなかった。後輩に手帳をあげたのではないかと推定された。沖縄では14歳から17歳の中学生が鉄血勤皇隊として兵士として働いていた。最後の戦闘では少年兵の斬り込み隊がしょっちゅう向かって来た。組織的な戦闘が終わった後で、父は藪から出てきて鉢合わせをしてしまった少年を撃ち殺したのではないか。その記憶が父スティーヴを苦しめた。「良い戦争はない」のだ。
 沖縄戦では日米合わせて20万人が戦死した。そのうち半分は民間人だった。
      映画川柳「聖戦の 最期となるは 沖縄で」 飛蜘 
2011年6月17日

金曜
さくらんぼTV
ブルータスの心臓


フジ
21:00
100分
 東野圭吾原作のミステリーの映画化・第二弾。脚色・ひかわかよ、監督・入江悠。藤原竜也は『デス・ノート』ばりの熱演。以前読了した小説だったが、ただ、ブルータスというロボットが殺人を起こすということしか覚えていなかった。
 産業機器メーカーMM重工でロボット開発を手掛ける末永(藤原竜也)は、社長・仁科(風間杜夫)の娘・星子(芦名星)の婿候補になり、次期社長の座を狙っていた。彼が開発したOSはブルータスに使われる予定だ。しかし、末永は社長秘書で元恋人の康子(内山理名)から妊娠を告げられる。社長の息子の企画室長・直樹(袴田吉彦)、末永、技術者・橋本(大倉孝二)の三人が康子の男だった。直樹の計画ではAが大坂で康子を殺し、死体をBが名古屋から厚木へ、Cが厚木から東京へ運ぶ。その日、厚木でBの末永がCの橋本に渡そうとした死体がおかしいのに気付き、確認すると、死体は直樹だった。共謀の連判状は直樹が所持していたが、紛失していた。
 葬儀の席上、星子が、直樹は先妻の子で復讐のために会社に戻って来たと話す。直樹を殺した犯人が分からないなか、末永と橋本は不安をつのらせる。香典返しを装って送られて来た万年筆に青酸カリが仕込まれていて橋本が死んだ。末永にも毒入りの万年筆が送られていた。
 室長秘書・中森(加藤あい)は昔の婚約者・勇治(忍成修吾)がロボット・ダイアナで事故死した事件を調査し始めた。その後、康子が自殺したという。捜査陣(近藤芳正・音尾琢真)は燃やされた書類(連判状)には「D」の文字があったという。末永に携帯メールが送られて来る、「次はお前だ D」と。康子の血液型はO型だったが子供はB型、末永はO型、直樹が橋本もO型やA型だった。実はB型は社長。社長の腹心・宗方(鶴見辰吾)はさらなる隠し子の世話を頼まれた。
 一連の事件のもとにダイアナ事故があるのではないか。末永は自分で調査し始める。勇治と一緒に働いていたのは現在の中森の恋人・悟郎(高橋努)だった。
      映画川柳「母親を 殴る蹴るの 酔払い」 飛蜘 
2011年6月15日


DVD
日本沈没


東宝
TBS
2006年
134分
 小松左京原作の『日本沈没』再映画化。駿河沖を震源とする地震で小野寺俊夫(草なぎ剛)は少女と共にレスキュー隊員・阿部玲子(柴咲コウ)に救出された。小野寺は潜水艇「わだつみ6500」のパイロット。田所教授(豊川悦司)は日本が一年以内に沈没するというシュミレーションに驚愕する。阿蘇山の噴火に中国に向う政府専用機が巻きこまれ、首相(石坂浩二)が死亡。文部科学大臣・鷹森(大地真央)の進言にも関わらず、首相代理(国村準)は五年以内(実際は一年以内)に沈没・外国へ移住という政府方針を発表するが、たび重なる地震等で死亡する数を移住者から割り引いていた。高森のもと夫・田所はプレートに孔をあけ爆薬を仕込んでプレートを割る方法を考案する。函館には大津波が襲来。水没する危険な地域の住民は避難が始まる。小野寺は英国の深海調査に呼ばれ、阿部に一緒に行こうと提案する。阿部はみんな(叔母役は吉田日出子)を見棄ててはいけないと断る。会津地方の小野寺の母(長山藍子)もその地に残りたいと言う。国外退避者は諸外国で問題となる。
 日本は徐々に沈没していく。大津波が来る。高台に避難する人々を陥没や土砂崩れが襲う。爆破計画も乱泥流にわだつみ6500が奪われる。小野寺は英国へ行かず、わだつみ2000で起爆装置を海底にセットする無謀な任務を志願する。英国へ行くと嘘をついて玲子と別れ、出発。
      映画川柳「爆弾を 抱えて臨む 特攻隊士」 飛蜘 

 映画に描かれた地球科学の内容に関するQ&Aがある。
2011年5月30日


DVD
天才バカボン



1971-1972年
12分

 宝島社のBOXアニメ版「天才バカボン」(原作は赤塚不二夫。アニメの制作はよみうりテレビ・東京ムービー)。二話ずつ放送されたものが抜粋収録されている。作画監督は芝山努、演出は斎藤博・岡部英二。
 バカボン一家はパパ(声は雨森雅司)とママ(声は増山江威子)、バカボン()と赤チャンのはじめ()。鬼ごっこに負けて車を買わされたパパが無免許なのに運転で起こす騒動の第9話「免許証なんか知ってたまるか」。はじめのためにバカボンが作ったロボットにパパが入って動かす第10話「バカボンのロボットいい研究ね」。第13話「都の西北ワセダのとなり」のバカ田大学の卒業生であるパパは映画館で大学の後輩に会う。バカ田大学三秀才は大学を再建しようと校長とチリ紙交換に精を出す。お月見の日、月にウサギがいないと教えられたパパは月を取ろうとする第14話「モシモシお月さんコンバンハ」。盗癖のある五右衛門の子孫の警察官をパパがヤットコで治療しようとする第21話「ヤットコはこわいのだ」。ママに誕生日プレゼントを用意したバカボン、パパは今日が何の日か思い出せない第22話「きょうはだいじな日なのだ」。クラス委員に立候補したふたりから投票を頼まれるバカボンの第47話「バカボンのクラス委員せんきょなのだ」。三時間しか眠らないと決意したバカボンにパパもつきあうというのだが、バカボンは授業中に眠ってしまい、パパは病気だと誤解される第48話「ナポレオンはぐっすり眠るのだ」。
 「バカボン、あそぼー」と、常に誘ってくるパパが可笑しい。ママとはじめちゃんは癒し系。
2011年5月29日

NHK
21:00
アフリカ古代湖,神秘!怪魚大進化の謎

NHK
2011年
50分
 「ホットスポット・最後の楽園」シリーズ第5回。制作統括・村田真一,語り・福山雅治・守本奈美。マラウイ湖の800種のシクリッドは,300万年前のタンガニーカ湖の1種のシクリッドを起源とし,全種が口の中で子育てをする。佐藤哲教授(長野大学)はマラウイ湖の巨大ナマズ・カンパンゴ(雌.)が稚魚に自分の卵を与えて育てるのを観察,さらにナマズの別種サプアがカンパンゴの卵に自分の卵を紛れ込ませて託卵することを発見した。シクリッドの口の中に卵を紛れ込ませるナマズの種類もいる。
 かつて「ダーウィンの箱庭」と呼ばれたビクトリア湖のシクリッドは人間によって持ち込まれたナイルパーチによって捕食され,かなりの種類が絶滅した。
      映画川柳「大絶滅も 移入種により 一瞬に」 飛蜘 
2011年4月12日


DVD
木枯し紋次郎
26話
獣道に涙を棄てた



1973年
 1月6日放映
45分

 TVの中村敦夫主演の「木枯し紋次郎」第26話で中村敦夫監督作品である。中村敦夫のこれが最初の監督作品。放映時に見ており、その腕力に感激したものだった。今回見直して、撮影が名手・森田富士郎、美術が西岡善信と大映の一流スタッフだったことを確認。脚本は橋本綾。原作が無い作品は笹沢佐保が許可しなかったということだから、この作品も原作があるのだろう。
 演出はとにかく奇怪である。冒頭は家が燃える場面である。燃え盛る家から火だるまの男がとびだしてくる。そして「赤牛の祟りだ」と言いながら火を背負ったまま走り去る。
 岩山の砂利を踏みしめる音。紋次郎である。山の途中でうずくまる女がいる。お鈴(鰐淵晴子)である。お鈴の意識のなかで紋次郎の足音は太吉(ケン・サンダース)の足音に変わる。通り過ぎようとした紋次郎に女が声をかける。橋が落ちたため、この先の道は行けないというのだ。礼を言って通り過ぎようとした紋次郎に女は顔にやけどのあとがある自分の夫を探していると言う。無論、紋次郎はそんな男のことは知らない。ふと気づくと女は盲目だった。
 ゲストが鰐淵晴子とケン・サンダースというバタくさい俳優が主演の時代劇というのも変なものである。しかも二人とも泥だらけになったり、どしゃぶりに打たれたりと、ひどい汚れ方をする。盲目の鰐淵の感覚の表現は勝新のTV版座頭市物語さながらの繊細さで描かれる。
 武州・藤岡で加納屋(加藤嘉、桑山正一)は一年前に商売のために家を一軒燃やしたような発言をしていた。偶然、二人の会話を聴いた紋次郎だったが、口止め料を出されても受け取りを拒否。それが因縁となり渡世人集団につけ狙われる。
 紋次郎と二十人くらいの集団が田ンぼの中を全力で走るのを移動カメラが横から追跡するというスピード感のある画面が印象的。解説書によるとラグビーからヒントを得たものだという。渡世人集団の殺し屋の首領は阿藤海。
 鴉の源蔵の杯欲しさに紋次郎を狙っていた太吉だったが、お鈴と再会し、しかも紋次郎に助けられて故郷の家に帰る。旅立つという紋次郎をせめて一夜の宿をと泊める二人。納屋で紋次郎が用意された布団ではなく板の間に寝ていると夜中に戸が開いて忍んで来た者があった。お鈴である。しかも彼女は刀を持っていた。この辺はホラー映画のようであった。
      映画川柳「火傷痕 見ずにすめばと  目をつぶす」 飛蜘 
2011年3月27日


録画
2010年12月
衛星劇場
南極料理人



製作委員会
2009年
125分
 西村淳原作『面白南極料理人』を映画化、脚本・監督は沖田修一。撮影は芦澤明子。「ほぼ日刊イトイ新聞」で堺雅人と糸井重里、それにフードスタイリストの飯島奈美が加わって対談。そこで糸井さんが「品のいい映画」と言っているのが的確。監督の野心を抑制していて、役者の芝居も抑えられている。気象学者役の生瀬勝久や隊長役のきたろう、医師役の豊浦功補など、クセのある人々がそろっていながら、これぞという自分が目立つ芝居はしていない。クスクス笑いながら見るという、そんな出来栄えになっていた。西村君(堺)がひとつひとつ丁寧に作った料理を隊員たちはただガツガツ食うだけで、料理人は居心地悪そうに食卓にすわっているという場面は、ほんとに可笑しい。
 ラストシーンは堺が妻(西田尚美)が買って来たマクドナルドのてりやきハンバーガーをひとくち食べて、「ウマっ」と感動する場面だったが、これもまた映画のコメントになっているところが見事。つまり、『南極料理人』が南極で作った料理は一種の極限状況にある人々が食べるからこそ、おいしいのであって、飽食環境の日本で食べたらハンバーガー程度のおいしさにも太刀打ちできないのだった。腹が減ればどんなものでもおいしい、しかし、それでもおいしいものとマズイものはあるという真実。私も「ニュートーキョーのポテトグラタン」という経験がある。
 夜中にこっそり盗み食いされてラーメンが無くなってしまい、悲嘆にくれる隊長のために西村君(堺)は重曹でかんすいもどきを作り、麺を打ってラーメンもどきを作る。隊員たちがそのラーメンを味わう。観測に出ていた隊員が「見事なオーロラですよ」と戻ってくるが、隊長はオーロラよりもラーメンだと丼から離れない。食べ物だいいちである。
 ただし、実際の食材は金に糸目をつけず豊富に高級食材もそろえたものだったようです。

      映画川柳「おいしいの 一言もない 男伊達」 飛蜘 

 車両主任の運手席の背には「宮崎美子」のポートレートが貼ってあった。クレジットのSpecial thanksにも宮崎の名前が出ていた。そんなところも、なんか可笑しい。原作によると、ぼやきの報道カメラマン宮嶋氏が途中の基地まで持参した写真は山口百恵とアグネスラムの水着写真であり、それとダッチワイフの麻衣ちゃんだそうだ。脚本も監督だが、伊勢エビは原作ではゆでて食べたことになっている(映画ではエビフライ)。FAX製のカチンコチン新聞は娘の友花作ではなく実際には妻の作品。原作には、若いサポート隊員の電話失恋とKDDIの清水さんも登場していないし、ラーメン打ちのエピソードもなくて、脚本はほとんどオリジナルに近い内容だった。
 昭和基地の映画ビデオで人気作品は西田佐知子主演のTVドラマ『赤い鈴蘭』、ドーム基地の人気作品は『天使にラブ・ソングを2』『ロングバケーション』だったという。 
2011年3月9日


CS
東映チャンネル
喜劇・特出しヒモ天国


東映
1975年
78分
 森崎東監督が松竹を解雇された後、東映で演出した唯一の作品だったが、興行成績は悪いし、名画座でも不遇で、ビデオもDVDも出ていない怪作である。同様の不遇な作品に『女生きてます・盛り場渡り鳥』と『喜劇・生まれ変わった為五郎』がある。『喜劇・特出しヒモ天国』を30年ぶりに見直して、ひとつ気づいたことがあった。それは主人公であるヒモ、昭平(山城新吾)が元刑事(川谷拓三)に刺されて病院に入院しているものの、死につつあるということだった。メイクも唇に生気が無くなされていて、「おいど(肛門)の方から」冷たいもんが上がってきよると言い、「わやや」と力無い。ジーン(池玲子)は見舞いに来たものの、そんな様子を見て、病室を出る。すると、廊下の途中で唖のター坊(下条アトム)に会い、一緒に若妻かおる(森崎由紀)の出産を喜ぶことになる。その後はラストシーンだが、護送車で逮捕されたストリッパーたちが歌う「黒の舟唄」、そしてローズ(芹明香)のきっと正面をにらむ表情で終わる。
 この展開には、ひとの死と誕生が、くっきりと対照されているのだった。最初に見たときには、誕生のほうに気を取られて、死のほうに目が行っていなかった。最初から坊主(殿山泰司)が死について説教をしていたにもかかわらずである。それに説教を聞いている老人がほとんどお婆さんなのだ。ストリップ小屋の裏の寺だし、これはこの老婆たちはみんなもとストリッパー、いや女たちはみんなストリッパーなんだという暗喩ではないのか。そう考えないことには、原作にはない説教僧がこんなにも作品の中心になっている意味が理解できない。
 この作品については、なんども書いているので、いまさら追記すべきことはあまりない。アーカイブ『喜劇・特出しヒモ天国』を参照していただきたい。
 森崎作品の「目撃者としての子供」も改めて印象に残った。本作では善さん(藤原釜足)一家の葬儀の場面をのぞいている子供たちが登場する。かれらは無垢な目撃者として登場する。ストリッパーやヒモについて価値観を持たない人間の代表として登場しているのだ。 
 3月下旬、沖縄国際映画祭で森崎東特集があった。そのなかでもこの作品が上映されている。

      映画川柳「ゆっくりと 冷たいものが 上がってくる」 飛蜘


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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