経済危機に直面する多文化社会の最前線

平成22年2月(3)

浜松市議会「市民の風」 山口ゆうこ

不況の真っ只中にある製造業の町浜松は、工場労働を支えてきた日系外国人の内、1500人程度が政府の助成を受けて帰国し、現在は1万人余の在住者がいるようだ。そのほぼ半数が失業中で、仕事はあっても週3日勤務、1ヵ月更新のアルバイト契約など、不安定な身分にある。日本人にこのような事態がおこったら、どうなるのだろう。

● 10月4日に開催された第14回「外国人のための無料検診会」。初めて事前の予約無しで実施されたこの日の朝、7時前から長蛇の列が出来て主催者をあわてさせた。待ち時間の間に、現状を一人ひとり尋ねたところ、やはり半数以上が失業中で、「もう齢だからきっと無理だね」とあきらめ顔の男性が多かった。一人でも稼いでいる家族がいる間は、希望をつないで日本にいたいと言う。働けば希望が持てる国日本、祖国なのだからと。

● ブラジル社会の全体像が解るようなニュースは、なかなか入手できない。しかし先月からNHKの朝の衛星放送のニュース番組にブラジルが登場し始めた。サンパウロのある公立小・中学校に窃盗団が侵入して、数か月分の食料を持ち出したというニュースが飛び込んできた。給食の1食しか食事を食べていない児童もいるので、学校としては非常事態だと言う。大統領は恥ずかしい事件だとコメントしていた。
大学を卒業していれば、日本の生活水準とさほど変わらない暮らしが可能のようだが、中学卒業では工場労働しかなく、月給は3万円前後で大卒の初任給の6分の一程度。彼らが日本に希望を見出すのは当然だ。

● 10月18日に開催されたN-Pocket主催の「高校進学ガイダンス」には100人を超える家族同伴の子ども達が集まり、熱心に進路情報に耳を傾けた。ある中学2年生の母親は生活保護を受けているが、子どもを進学させたい。どこかで学習支援をという訴えに、「アラッセ」(日系人の母親が運営する学習支援教室)が受け入れる事になった。今浜松には、多様な学習支援のメニューが揃っている。総予算2000万円の浜松市の委託事業「ジュントス教室」もフィリピン、ベトナム、ブラジル、過年齢の学習支援教室と、多国籍の子ども達にバイリンガルで対応できることになった。
全国23箇所に開設予定の文部科学省の不就学対策事業「虹の架け橋教室」は、政権交代でペンディング状態にある。浜松市の4教室も11月下旬には始まるようだ。

● 気になることがある。学齢期を過ぎた過年齢の若者に学習意欲が乏しいことだ。残業を重ねて稼いでは、毎週六本木のディスコに出かけて遊んでいた若者たちの存在。両親とブラジルに帰国したばかりだが、浜松に帰りたい少年。日本で多くの新しい刺激的なモノに囲まれて、消費癖の肥大化した若者に、人生にはお金では買えない尊いものがあることを、伝えられるだろうか。
モノのように扱われた工場での暮らしから、命のある人間としての尊厳を、日本の社会は保障してこなかった。日本に来て失なわせたものの大きさに震撼する。
せめて、暖かい市民が、志のあるNPOが、彼らに人間的に寄り添い続けることが大事なのだと思う。

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