経済危機に直面する多文化社会の最前線

平成21年7月(2)

N-Pocket顧問 浜松市議会「市民の風」 山口ゆうこ

「日系人の帰国費用を提供するが2度と日本に戻ってはならない」という政府の方針が、わずか2ヶ月で「3年間に限って戻れない」に変わっても、日本に残ることを決意した日系人が大多数である。なぜ日本に留まるのか。
@日本の社会が安全、A子供が日本語しか話せない、B働けば豊かに生活できる日本にいたい。
しかし実際には、雇用保険の給付も終わり、暮らしが成り立たない家族が増えている。この半年は流動的な時期だと思われるが、日本に残ることを決意した彼らは、私たちの同胞であり隣人である。戦後のブラジルでも同様のことがあり、ブラジルに残る決意を固めた人たちが、日系人による多文化社会を築いたのだという。

● 世界は、確実に多文化社会を肯定する方向に向っている。オバマ大統領のアメリカ、政治亡命により移住した黒人女性ミカエル・ジャンが総督をつとめるカナダがその典型例だが、日本はどのように歴史を刻むのだろうか。
今、政府も自治体も次々と政策を打ち出している。文科省は、総額34億円で、全国各地に「虹の架け橋教室」を設け、不登校に陥った外国人学校の生徒や、公立学校で言葉の壁に悩む児童生徒の日本語支援に乗り出す。

● 100人以上の不就学生徒が想定される浜松市は、国の施策を補う形で、公立学校への復学を前提に、市内5ヶ所、20人の定員で合計100人の就学困難な子ども達に日本語と学習支援を行なう。予算総額は半年で総額2700万円。3年間の継続事業である

● 静岡県は「生涯学習社会の構築に向けた多文化社会のあり方について」2年間に亘って検討した結果、外国籍児童の問題を「生涯学習推進計画」に位置づけ、人権尊重の視点から取り組むことをあきらかにした。
具体的施策としては、ポルトガル語・スペイン語を話せる教員採用の特別枠を設ける、高校・定時性課程に日本語支援員を増員、外国人生徒の高校入学選抜の志願資格を来日後3年から5年に延長、ルビをつけた学力検査の実施や試験時間の延長、外国人支援基金の設立準備など、数年前には予想も出来なかった決断だ。

● これらの具体的な施策を引き出したのは、子ども達に寄り添い、地道に活動を続けてきたNPOなどの市民団体の豊富な経験に基いた説得力である。国も、県も足しげく活動現場に赴き、彼らの意見に耳を傾けて、具体的な施策につなげていった。
私は議員になって、しみじみと思うことがある。NPOなどの地域に根ざした本格的な取り組みが、政策を誘導している。歴史を作るのは、問題に直面して、強く心を動かされた「勇気ある」人々であるということだ。

● 多文化政策だけではない。議会が政策提案するには、政策を具現化できる担い手が地域にいなければ困難なのだ。今までは、外郭団体が担っていたのだが、従来の発想や手法では取り組むことが難しい、多様な課題が次から次へと浮上する現代社会には、第三者の公益のために自発的に立ちあがる実力派の市民集団が必要である。NPOの時代である。

● 多額の国債発行は困りものだが、耳寄りな話がある。離職者を雇用して地域の課題を解決する事業提案を「ふるさと雇用再生特別対策」事業が募集している。上限2000万円。3年間の支援が受けられる。私も前回ご紹介した「フシコブラジル」を提案しようと思っている。もちろん3年後には自立する覚悟なのだが。

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