◆7月24日<昼>◆
『遠くに光る海を見下ろしながら』
あれから2時間。
延々と林の中を歩いた俺達はやっとの事で目的の展望台に着いた。展望台といっても小さな見晴らし台とちょっとしたベンチがあるだけの所だ。
二人とも汗びっしょりになっている。さすがに暑い。
しかし、そんな事も展望台から見える景色に吹き飛んでしまった。
眼下には延々と森が広がり、遠くに街が見える。そしてその向こうにはキラキラと太陽に輝く海が見えた。青々した空には入道雲が夏らしい景色を演出している。
「うわぁぁ。暑い中を歩いてきた甲斐があったわね」
景色を見渡して彼女が言う。
「あの辺りからずっと歩いて来たんだな」
俺は遊歩道の入り口辺りと思われる場所を指差した。
「じゃあ、あの辺が天乃白浜って事になるのかしら」
俺が指さした所の少し上の辺りを指さす彼女。たぶんそうだろうと俺はうなずく。
「それじゃぁ、そろそろお昼にする?」
「え? でも、俺、何にも…」
俺は途中にあるパーキングの(天寿山の麓を横切ってる国道と遊歩道のクロスしている場所にある)レストハウスか売店で昼飯を調達するつもりだったので、水筒以外、何も持って来ていなかった。
「大丈夫よ。宇佐美君の分もちゃんと作ってきてるから」
木陰にあるベンチに座って小野寺さんが言う。俺も彼女の隣に腰掛けた。
「作って来たって…もしかしてお弁当?」
「うん!」
「やった! ラッキー」
俺は万歳をして喜ぶ。
う〜ん!俺だけの為に作って来てくれたんだ。すげぇ感激!
彼女はそれを見て微笑むとリュックから弁当袋を取りだした。そして弁当箱を取り出すと中を開けて俺に渡す。少し大きめの弁当箱にご飯とそこそこの量のおかずが入っていた。見た目にもおいしそうだ。
「なにか嫌いなものとか入ってない?」
「ない! ない! 小野寺さんの作ったモノならなんでも戴きますよ」
そう言って受け取る俺。彼女は自分の分を取り出しながら(こちらはいかにも女の子らしい弁当だ。俺の分よりふた周りくらい小さい)少し照れたようにはにかむ。
「そこまで喜んでくれるとは思わなかったな。弘のヤツだと当然って顔で受け取るのに…。作った甲斐があったわ」
「あいつは贅沢なんだよ。俺なんて女の子にお弁当作って来てもらうなんて事なかったし、それ以上に小野寺さん料理上手いしね。やっぱ、けっこう料理作るの好きだったりする?」
「そうね。特に好きって訳じゃないけど、嫌いでもないかな?やっぱ宇佐美君みたいにおいしそうに食べてもらえるのを見ると嬉しいからね。それに、料理の味とかけっこう大切じゃない。せっかく食べるだからおいしく食べてもらった方が食材とかも嬉しいんじゃないかな」
彼女は楽しそうに俺の方を見ながら答える。
そうだよな〜。たとえばこの魚。俺達に食べられる為に殺されたんだから、どうせならおいしく食べて貰った方が嬉しいんじゃないかな。殺された上に「けっ不味い」って捨てられるなんて報われないよ。そう思うのって偽善なのかな?まあ、いいや。
とにかく不味いより旨い方がいいしね。
「あのね、今日の味…どうかな?」
おずおずと小野寺さんが聞いてくる。
そりゃぁ、旨いに決まってるけど、さて、どう答えるべきか?
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