俺はしばらく二人の様子を黙って見ていたが、弘の隙をみて、奴と小野寺さんのコップを素早く入れ替えた。
しばらくして、小野寺さんがコップを口にする。
弘はそれを見て、目で笑いながらも、つられて自分もジュースを飲んだ。
しかも異変に気付くことなく一気に飲み干す。
あ〜あ。
気付よ馬鹿…。
「ぬぅあははは! 美和ぁ、なにふらふらしてるんだぁ?」
「え? ど、どうしたの? 弘」
「おや? まことまでふらふらしてらぁ。お前ら! なに二人してふらふらしてんだ?」
「阿呆。ふらふらしてんのはお前だ」
俺は一杯でかなりキテるらしい弘に突っ込みを入れる。
「まさかぁ…俺はシャキッっとしてるよ。でも酒入りのジュースを飲んだ美和だけならまだしも、お前まで酔ってるってどういうことだ?」
「なんですって…弘、なんかさっきからニヤニヤしてるって思ったら、そんなことをしてたの?」
空になった自分のコップの中をのぞき込みながら、小野寺さんが怒る。
俺はこそっと彼女に人差し指と人差し指を交差させて合図を送った。
小野寺さんは納得したようで、深く溜息をついた。
それが安堵の溜息か、俺がやった事に対するあきれたの溜息かは分からない。
「おい。これ、持って行くぞ」
空になったコップを、いつのまにかやって来た姉貴がお盆に乗せようとした。
「博子しゃ〜ん、こいつら俺が酔っぱらってるとかいうんれすよ〜」
そう言って姉貴に抱きつく弘。
パコォォン!
妙に軽い音がして弘が顔を押さえてひっくり返る。
姉貴がお盆で奴の顔面を叩いたのだ。
「それを酔っぱらってるって言わなくてなんて言うんだよ」
姉貴は静かだけが重い口調でそう言うと、俺らの方へ向き直って腰に手を当てて怒鳴る。
「まったく! お前らときたら油断も隙もない! 誰だい!? お酒なんて持ってきたのは」
俺と小野寺さんは無言で同時に弘を指さした。
「はぁぁぁ〜!」
姉貴が深い溜息をつくと奴の鞄の中からウイスキーの瓶を取りだした。
「これは私が預かっておく」
「らから! 俺は飲んれいないって」
姉貴がお盆を振りかぶると弘はあわてて口をつぐんだ。
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