【 か行 】


 カーテンコール  ★★★☆
【1996年 : イギリス】
 監督:ナンシー・メックラー/音楽:ピーター・セイラム
 出演:ジェイソン・フレミング(トニオ)、
    アントニー・シャー(ジャック)
    アンソニー・ヒギンズ(ラモン)、
    ダイアン・パリッシュ(ミリー) 他
     ※【現在VHS発売のみ】

恋人や親友をエイズで亡くし、自分もまた同じ病に犯されつつも残りの人生をバレエへの情熱に傾け続けるトップダンサーの青年と、彼を支える恋人(♀)の姿を描く物語。1996年ロンドン映画祭グランプリ獲得。

ジェイソン・フレミング演じるトニオは、子どもっぽく奔放な素振りの裏で、自分の病に対する不安や恐怖をじっと心の奥底に押し込めています。大事な人を目の前で次々と見送り、次は自分の番なのだいう思いにどこか諦観している毎日。事情を分かち合える親しい仲間たちに囲まれつつも、もはやバレエ以外のことには深入りせずに生きていこうとする彼に、ある日ひとりの男が声をかけてきます。
小太りでヒゲ面で、見るからに人のいい精神科医のジャック。最初は軽くあしらうつもりが、トニオはいつしかその心のあたたかさに癒されていくわけです。
アントニー・シャー演じるこのジャックがまた可愛いんですよ。なんともいえず。
気まぐれに自分を振り回すトニオにぷりぷり怒りながらも、結局惚れた弱みで丸め込まれちゃうんですね。
でもセラピストとして日々エイズ患者を相手にしているジャックには、この病の末路が嫌というほどわかっています。それだけに、いずれトニオを失ってしまうという恐怖がついて回るわけで、そんな彼の苦しみや葛藤を思うと、この病気が人々から奪うものは本人の命だけではないのだということが切々と伝わってきます。
病が進行し、やがて身体の自由も失いつつある中、すべての情熱を注いでラストステージを踊るトニオ。エイズで死ぬ人ではなく、エイズを生きる人を描きたかったという脚本家の言葉通り、トニオは残り短い人生を情熱のままに、精一杯生きていくことを静かに誓います。
病に対する偏見、同性愛に対する周囲の侮蔑を越えて、彼にもう一度生きる強さを与えたのはやはりパートナーの存在にほかなりません。たとえ行き着く先が見えていようと、最後までトニオの隣にいることを選んだジャックの愛情と懐の深さが、この作品に優しい空気を与えています。



 輝きの海  ★★★☆
【1997年 : アメリカ】
 監督:ビーバン・キドロン/音楽:ジョン・バリー
 出演:レイチェル・ワイズ(エイミー)、
    ヴァンサン・ペレーズ(ヤンコ)
    イアン・マッケラン(Dr.ケネディ) 他

20世紀初頭、英国南西部の海辺に生きる孤独な女性と、海難事故でそこへ流れついたロシア人男性との情熱的な愛を描いたラブロマンス。

未婚の両親から生まれために村人からも疎まれ、海岸の漂流物を集めた洞窟で憩うことだけを心の慰めにしていた無口で美しい女性、エイミー。彼女を演じるレイチェル・ワイズは、本当に印象深い顔立ちのべっぴんさんです。寡黙な中にも意志の強さと情熱を感じさせる目の芝居が秀逸でした。
一方、言葉も通じないまま村人たちに狂人扱いされ、唯一優しい手を差し伸べてくれたエイミーに深い愛情を感じるヤンコ。演じたのはヴァンサン・ペレーズです。ずいぶん昔の作品にもかかわらず、すでにちょっとデコッパチきてるあたりが切ないですが、彼の顔は一度見たら忘れません。どこか気弱でへにゃりとした面差しの中に、哀愁や優しさや静かな怒りが浮かぶさまは不思議に魅力的です。なんかこの顔、他にもどこかで見かけた気がして仕方がない。全然思い出せないんだけど。どこだったっけ・・・うーん思い出せん・・・。
絶望の中にも確かな愛を見出し、生きる希望を得た流れ者ヤンコと、彼と共にささやかな幸せを知るエイミー。しかし周囲の偏見と無慈悲は、二人にさらなる試練を与えます。
非常にもの悲しく、どっしりと胸が詰まる物語なのですが、最後に残ったものはやはり希望であったと思いたい。美しい海辺の風景と、零れ落ちる和解の涙がせめてもの救いです。
ところでヤンコをやたら贔屓にするケネディ医師に何やら思惑を感じるのは、演じているのがイアン・マッケランだったからでしょうか。それとも私の考えすぎ?



 ガタカ  ★★★★
【1997年 : アメリカ】
 監督:アンドリュー・ニコル/音楽:マイケル・ナイマン
 出演:イーサン・ホーク(ヴィンセント/ジェローム)、
    ユマ・サーマン(アイリーン)、
    ジュード・ロウ(ジェローム・ユージーン・モロウ) 他

遺伝子の優劣が人間の価値を全て決める未来社会を舞台に、人間の尊厳を問うサスペンスタッチのSFドラマ。
生まれた瞬間にはその赤ん坊の寿命や持病、性格に至るまで遺伝的な将来像が全て把握できてしまう時代。
劣性遺伝子の排除を行わず、ごく自然な形で生まれた主人公ヴィンセント(イーサン・ホーク)は心臓に欠陥があり、30歳まで生きられないと宣告されて育ってきた。遺伝的不適正者は仕事さえも制限される社会の中で強いコンプレックスを感じながらも、実は彼には宇宙飛行士になりたいという夢がある。
だが遺伝的な寿命ももう長くはないと知ったヴィンセントは、宇宙開発を手掛ける企業・ガタカ社に無理矢理入社することを決意。最高級の遺伝子を持つ下半身不随の青年、ジェローム・ユージーン・モロウ(ジュード・ロウ)と秘密裏の契約を交わした。ユージーンを金銭面や生活面で支える代わりに、彼の持つ血液や体組織のサンプルを譲り受け、超A級のエリート、ジェロームになりすまそうというのだ。
ユージーンの協力もあって、ジェロームとして順調にガタカで出世していくヴィンセント。しかしとある殺人事件を機に、彼の素性にも捜査の手が伸びていく・・・。

物語は無機質な空気の中で実に淡々と繰り広げられていくのですが、それだけに時折かいま見える登場人物たちの心模様がやるせないです。SFという形をとりつつも、近未来を舞台にしたヒューマン・ドラマといった色合いの方が近いかもしれません。ラストまで見ると、なんだかいろいろ考えちゃって胸が痛かった・・・。
イーサン・ホーク、ジュード・ロウ、ユマ・サーマンといった顔ぶれも非常にはまり役であったと思います。
感情論が否定される時代の物語ですから、登場人物たちの表情の少なさもこの作品のひとつの特徴でしょうね。そういう意味で、彼らのあの作り物みたいな顔立ちがよく活かされてる気がします。
遺伝的には欠陥品でも、夢に向かって必死に進もうとするヴィンセント。一方のユージーンは、誰よりも優秀な遺伝子を持ちながらそれを捨て去りたかった青年です。この両極端なふたりが共に【ジェローム】と名乗る人間としてこの世に存在することは、奇妙な合わせ鏡にも似ています。辿り着く場所は同じでも、選び取る道が違うというか。
ラストの展開には言いたいこともたくさんありますが、それもまたひとつの問いかけであると思いたいところです。ユージーンの銀メダルは、あるいは彼のプライドなのかもしれません。『万能ではなかった』過去の証、けれども『そういうひとりの人間である』という証。人間の価値やその在り方を、彼は彼なりの理屈で貫いたのでしょうか。
ユージーンに託された白い封筒を手に、無数の星が瞬く暗い空をじっと見つめるヴィンセントの、最後の静かなモノローグが胸に滲みてきます。あの手紙の意味が、きっと彼にはわかっていたはず。ヴィンセントの旅路がその言葉通り『還りゆく』ためのものであるなら、それはきっとふたりのジェロームたちの終着点でもあるのでしょう。



 カミーユ・クローデル  ★★★★
【1988年 : フランス】
 監督:ブルーノ・ニュイッテン/音楽:ガブリエル・ヤーレ
 出演:イザベル・アジャーニ(カミーユ・クローデル)、
    ロラン・グレヴィル(ポール・クローデル)
    ジェラール・ドパルデュー(オーギュスト・ロダン) 他

19世紀末の巨匠ロダンの愛弟子であり、愛人としても知られた女性彫刻家、カミーユ・クローデルの波乱に満ちた後半生を描く作品。
ロダンさえ羨むほどの才能を持ちながら、愛情と芸術の狭間で葛藤し、やがて絶望していった彼女の悲しみをイザベル・アジャーニが情熱的に演じています。
いつの時代、どこの国にもあることですが、内縁の妻と愛人の間をウロウロする不甲斐ない男に人生を蝕まれる女というのは悲しいもんです。ロダンの優柔不断さが美を愛でる芸術家の性だったとするならば、芸術家カミーユ・クローデルの中にも女の情熱と弱さが存在したということなのでしょう。
カミーユの才能を信じて資金を提供し続けた父と、それを疎ましく思う母。そして、詩人を目指す自分をいつも励ましてくれる美しく聡明な姉にひそかな想いを寄せた弟ポール。 (彼は後に詩人として広く名を残すことになります。)
芸術を囲む人々というのは、かくもドラマチックに生きるものなのかとため息をつかずにはいられません。
見終わった後、 思わずカミーユ・クローデルという名をネットで調べまくったほど印象深い作品でした。



 カラヴァッジオ  ★★★☆
【1986年 : イギリス】
 監督:デレク・ジャーマン
 音楽:サイモン・フィッシャー・ターナー
 出演:ナイジェル・テリー(カラヴァッジオ)、
    ショーン・ビーン(ラヌッチオ)、
    ティルダ・スウィントン(レナ)、
    スペンサー・レイ(エルサレム) 他

1960年代の実在の画家ミケランジェロ・メリシ・カラヴァッジオの生涯を独自の視点で描く文芸ドラマ。

デレク・ジャーマン映画の中では比較的わかりやすいと言われてる作品。それは確かにそうだと思う。ので、これだけは普通にレビューしてみようと思います。舞台演出のようなこじんまりしたセットや哲学的なナレーションや場面転換の唐突さは相変わらずですが、全編がちゃんとストーリーとして成り立っているのでまだ理解しやすい感じ。歴史劇なのにいきなりタイプライターなんかが出てきちゃうあたりはいつものことなので気にしてはいけません。
カラヴァッジオとは、カラヴァッジオ村で生まれたミケランジェロのこと。
世紀の天才画家である彼は、とりあえずゲイの傾向が強いバイという設定で描かれています。作品モデルとして親交のあるダビデ(あのダビデ像とは似ても似つかない)や、子どものころから育てた弟子のエルサレムとの関わり方は同性愛者特有のスキンシップに満ちており、一目惚れする相手も好戦的な青年のラヌッチオ。
しかしこのラヌッチオの恋人である娼婦レナのことも、カラヴァッジオはとても大切にしています。
で、このラヌッチオの方もどうやらカラヴァッジオのことは好きらしいが、愛しているのはレナであり、レナはラヌッチオが好きだけどカラヴァッジオも嫌いではなく、それ以上にお金に惹かれて貴族の元へ去ろうとするといった具合。ややこしい上に誰も彼も真意がはっきりしないので見てる方も大変です。
しかし中心に描かれているのはやはり、カラヴァッジオという画家の愛と情熱と孤独と絶望、ということになるんでしょうね。ともかく独特の映像美と画面構成の妙で様々なことを寡黙に語る、まさに芸術作品です。

さて、この作品に関しては出てくる俳優たちがわりと美形寄りなのが有り難いところ。
若き日のカラヴァッジオを演じていたデクスター・フレッチャーは、その後「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」でソープを演じている人です。
さらに特筆すべきは「ロード・オブ・ザ・リング 」以降すっかり名の知れたショーン・ビーン。彼こそが件のラヌッチオを演じているのですねえ。なんせ18年も前の作品なんで、やたら若いし細いし身体締まってるし、生意気で粗暴なうえ男にチューするサービスつき。コインを口一杯ほおばるおかしな顔も拝めますが、青年期の彼は非常にハンサムです。豆氏を鑑賞するだけでもちょっと価値があるかもしれない一品。



 ガン&トークス  ★★★
【2001年 : 韓国】
 監督:チャン・ジン/音楽:ハン・ジェクォン
 出演:シン・ヒョンジュン(サンヨン)、
    ウォンビン(ハヨン)、
    チョン・ジェヨン(ジェヨン)、
    シン・ハギュン(ジョンウ) 他

ある時は殺し屋として、普段はごく普通の青年として生活する4人の若者を描いた犯罪サスペンス。
韓国・大都市ソウル。冷静なリーダーのサンヨン、 爆発物エキスパートのジョンウ、 スナイパーのジェヨン、 サンヨンの弟でパソコンマニアであるハヨンたち4人は殺しのプロフェッショナルだ。普段はどこにでもいる平凡な青年たちだが、ひとたび仕事となれば依頼者の密かな願いを叶えるべく、クールかつ着実に依頼をこなしていく。
ある日、そんな彼らの元へ大きな依頼が舞い込んだ。内容はオペラ劇場でのハムレット上演中、ある人物を暗殺して欲しいというハイリスクなもの。4人が周到に準備を進める一方で、彼らを日頃マークしているチョ特捜検事も不穏な動きを察知、厳戒態勢を敷き始める・・・。



ええと、これは・・・アクション・・・と見せかけたコメディ・・・なのか・・・?
(という疑問に尽きます。)




 記憶の旅人  ★★★☆
【1998年 : アメリカ】
 監督:マーティン・ダフィ
 出演:イライジャ・ウッド(バーニー)、
    レイチェル・リー・クック(キャシー)
    ジャニーン・ガラファロ、ジョー・ペリーノ 他

死期の近い患者が最期の時を過ごすホスピスに、 重病を患っていないひとりの青年がやってきた。
彼にはバーニー・スノーという自分の名と、赤い車で事故に遭ったこと以外の記憶が一切ない。
初めは強い孤独を感じていた彼も、やがて骨肉腫の患者・マッゾの見舞いに来ていた双児の妹・キャシーと出会うと、 次第に心を通わせていく。入院仲間たちの友情やキャシーの愛情で、 少しずつ記憶を取り戻していくバーニー。しかしそれは、 彼を被験者にした実験『マルハナバチ計画』を進めていたハリマン医師にとっては喜ばしくない兆候だった。失われた過去を求めるうち、 やがてバーニーは衝撃の事実に辿り着く・・・。

原題は「THE BUMBLEBEE FLIES ANYWAY(それでもマルハナバチは飛ぶ)」。
作品の内容を暗示したとてもいいタイトルだと思うのですが、邦題だとこうなっちゃうか。
今では「ロード・オブ・ザ・リング」の巻き毛ホビットの印象ばかりが強いイライジャ・ウッドが、フロドのフの字もなかった頃の作品です。すっきりした頬のライン、ばしばしに長い睫毛、ガラス玉のように真っ青の瞳と、子役の頃から抜群に可愛らしかった彼がその面影を残しつつ、なんだか作り物のように整った憂い顔で記憶喪失の青年を演じています。そういう表情がもともと得意な役者なんですかね。
末期患者ばかりが集う空間に、記憶がないままぽつりと存在する自分。縋るものさえ何もなかったバーニーは、患者である少年たちやマッゾ、キャシーと拘わっていくうちに少しずつ記憶を取り戻していきます。
けれど、それは決して幸せを呼ぶものではありません。この作品で描かれる治療法が現実可能なものかどうかはわかりませんが、自分の人生の在り方やアイデンティティを考えた時には誰もがきっと彼と同じ選択に苦しむことでしょう。
「飛べないと思うから飛べないのだ、不可能だと初めから知らなければ飛ぶことはできる」
この言葉に物語の全ての要素が集約されています。
軽くミステリー仕立てにはなっていますが、少しせつない青春ドラマといった感じですね。
キャシー役のレイチェル・リー・クックも「シーズ・オール・ザット」でブレイクした美少女で、イライジャと二人並ぶとよくできた人形が歩いているようです。こっちの二人の方がよっぽど双子っぽいと思ったのは私だけかな。
イライジャってチュウがへたっぴだなァーとかいう俗な感想はさておき、劇場で見るより(もともと日本未公開ですし)家でゆっくりと鑑賞したい綺麗な小品です。



 木更津キャッツアイ 日本シリーズ  ★★★☆+☆
【2003年 : 日本】
 監督:金子文紀/音楽:仲西匡
 出演:岡田准一(ぶっさん=田渕公平)、
    塚本高史(アニ=佐々木兆)、岡田義徳(うっちー=内山)、
    櫻井翔=(バンビ=中込フトシ)、酒井若菜(モー子)、
    佐藤隆太(マスター=岡林シンゴ)、阿部サダヲ(猫田)、
    山口智充(山口先輩)、古田新太(オジー)、
    薬師丸ひろ子(美礼先生)、内村光良、氣志團  他

千葉の木更津を舞台に、昼は野球チーム木更津キャッツ、夜はキャッツアイと名乗って泥棒に精を出す若者五人の破天荒な青春を描く人気TVシリーズの映画化。
21歳の若さにして余命半年と宣告されたぶっさん(岡田准一)は今日も死ぬほど元気だ。一度はあの世に片足を突っ込むも、突然蘇って周囲の度肝を抜いてから半年後の夏。バンビ(櫻井翔)、マスター(佐藤隆太)、アニ(塚本高史)、うっちー(岡田義徳)らとともに相も変わらず野球とビールに明け暮れる毎日を送っている。
そんなある日、キャッツの5人は木更津のロックフェスティバルで氣志団の前座を務めることに。仲間たちが大喜びで新曲づくりに取りかかっている頃、ぶっさんは山口先輩(山口智充)が開店した韓国パブのホステス、ユッケ(ユンソナ)と出会い、恋に落ちる。さらには死んだはずのオジー(古田新太)が木更津に帰ってきて、事態はいつしかとんでもない展開に・・・。

テレビシリーズを知ってる人でないとさっぱり楽しめない。でも知ってる人にはかなり愉快な映画です。
キャストもスタッフもそのまま引き継いでいるだけに、作ってる方もほんとに楽しそう。ぶっさんオカエリ〜と思わず呟きたくなる雰囲気にまずヤラレました。(笑)
クドカンの脚本はますますパワーアップして大変なことになっています。これでもかというほどあり得ない展開をやっさいもっさい詰め込むチカラワザはさすがというしかありません。思いつく限りの無茶を一通りやってみました、という感じ。 オジーの復活(といえるのかどうか)や気志團の再登場も嬉しいところです。
そして、キャッツたちのすっごいバカバカしいやり取りの中にふいにまぎれてくるぶっさんの死の影。
テレビシリーズから言えることでもありますが、この端から端まで振り切れるほどテンションの違うテーマを、よくこれだけ平然と一つのストーリーに練り混むもんだと思います。それをなんとなく受け止めてしまえる作り方をしてるんだろうし、そこがこの作品の人気の秘密だとも思うんですが。
まあ今さらあれこれ言うまでもなく、ドラマ版のファンの方ならすでにご覧になってる一本でしょうから。
あとはワールドシリーズの実現をオジー像に祈願するばかりです。なむなむ。



 キス☆キス☆バン☆バン  ★★★★
【2000年 : イギリス】
 監督:スチュワート・サッグ/音楽:ジョン・ダンクワース
 出演:ステラン・スカースガード(フィリックス)、
    クリス・ペン(ババ)、
    ポール・ベタニー(ジミー) 他

ハードボイルドを気取る元殺し屋と、 まるで世間を知らない33歳の男の心の交流を描いたハートウォーム・サスペンス。
腕に衰えを感じ引退を決意したプロの殺し屋・フィリックス。そんな彼が金に困って次に引き受けた仕事は、33年ものあいだ親の過保護を受けて育ち、 一度も外に出たことがない大きな子供・ババの子守だった…。

ダンディだけどどこか抜けてる殺し屋フィリックスが、世話のかかるでっかい子どものババを連れて街を駆け回るうちに、ゆっくりと愛情らしきものを取り戻していく様子が軽い笑いの中に散りばめられています。
そして世の中をまるで知らずに生きてきたババもまた、フィリックスと共に新しい世界に触れることで少しずつ人間らしい成長を手に入れるのですが、彼がやがて一瞬だけ見せる、33歳そのままの大人びた声と表情、青く澄んだきれいな瞳がとても印象的でした。
酒と煙草と女性を愛する古風な男、フィリックスを演じるのは「グッドウィル・ハンティング」でインテリな数学教授を演じていたステラン・スカースガード。
水鉄砲とキリンのぬいぐるみが大好きなとっつぁん坊や、ババを演じるクリス・ペンはショーン・ペンの弟です。似てるかなあ?図体が違いすぎてよくわかりませんが・・・。「レザボア・ドッグス」を初めとするバイオレンス系でよくマフィアをやってる人なので、こういう役柄は珍しいかも。
そして、格好いいけど格好悪いフィリックスを殺し屋として尊敬し、影からそっと彼を守り続ける若きヒットマン、ジミーを演じているのがポール・ベタニー。もうもう!かっこいいっちゅうのヨあんた!! 何が守護天使か!自分で言うかこいつう!!
というわけでこの作品によりベタニー氏にすっかりメロリンになったわたくしは、以後彼がどれだけアブナくイカレた役を演じようとも握り拳で応援していく決意を固めたのでございます。全裸で農道を行くヘタレ文筆家だろうが、ヤク中だろうがギャングだろうが船医だろうがドンと来ーい!
それはさておき。この作品でさらに特筆すべきはやはり音楽の巧みさでしょうか。テーマ曲「キス☆キス☆バン☆バン」をはじめジャジーでムーディ、ピチカートファイブやルパン3世を思わせるお洒落で格好いい曲が満載です。画面の色遣いとかもすごく素敵。一見ありがちな設定やキャラクタを上手い味付けで独特の世界に仕上げている、個人的にお気に入りの作品です。



 傷だらけの天使  ★★★☆
【1997年 : 日本】
 監督:阪本順治/音楽:井上堯之
 出演:豊川悦司(木田満)、真木蔵人(石井久)、
    原田知世(立花英子)、類家大地(倉井蛍)、
    三浦友和(倉井拓也)、宇崎竜童(足立源太)、
    菅原文太(倉井錠治) 他

ケチな探偵コンビがひょんなことから巻き込まれた騒動をコミカルに描いたロードムービー。
行き当たりばったりの探偵業を営む満(豊川悦司)は、相棒の久(真木蔵人)にも愛想を尽かされ、とうとう事務所をたたむことになった。そして最後の仕事として受けたのが、シャブ絡みの調査のためにある雑居ビルに潜入すること。ところがそこでヤクザに襲われ瀕死の状態の倉井(三浦友和)という男に、彼の幼い息子・蛍(類家大地)を別れた妻の元に届けるよう頼まれてしまった。お人好しの満は蛍を連れて、一路岩手県宮古へと向かうのだが・・・。

ショーケンでなくてトヨエツの方です。 阪本順治監督のやつ。
あらあら、思ったより全然面白かったですわ。えらいこっちゃ。トヨエツってなんか、理屈っぽい役とか極道とかばっかりのイメージがあったんですけど、そしてなんか滑舌イマイチな印象もかなり強かったんですけど、これはあんまし気になりませんでした。
そして真木蔵人の役のかわいいことよー。なんて健気な奴なんだオマエ・・・。これの番外編も併せて見たので、久くんのあほっぷり騙されっぷりは全くいじらしい限りでございました。
いいね、友情モンはね!友情映画大好き。でもその描き方って案外難しいと思うのです。距離感とか。
ただへばりついてりゃいいってもんでもないし。人間同士がとことん付き合う形って色々だし。
まあ最終的には腐れ縁みたいなもんでしょうかねえ。なんか知らないけど離れられないっていう。
久と満はまさにそれなんですが、友情というにはちょっと距離が近すぎるかもな。彼らはもうほとんど家族のような、血でも繋がってるかのような雰囲気です。
なんだかいつも置いていかれてしまう久は少しかわいそう。映画のラストはこれまた最大限にかわいそうな感じなんですが、楽観主義の私としては友情パワーでどうにかしろよ満、と心で命令しております。
大丈夫だって、ああいう奴はしぶといって!(笑)



 奇跡の歌  ★★★☆
【1998年 : アメリカ】
 監督:マーティン・デヴィッドソン
 音楽制作:ケニー・ヴァンス
 出演:アーマンド・アサンテ(ヴィンス)、
    エドアルド・バレリーニ(アンソニー)、
    ダイアン・ヴェノーラ(ジョアン)、
    ジョー・グリファシ(ヴィック)、
    トム・メイソン(オーギー)  他

かつては美しいアカペラの歌声で人々を魅了していたが、その後は挫折した日々を送るひとりの男が、やがて家族や仲間たちに支えられて再生するまでを描いた暖かな人間ドラマ。

60年代にはアメリカ中を席巻した伝説のドゥ・ワップ・グループのボーカル、今は冴えない中年のバーテンオヤジ。そんな主人公ヴィンスが歌への情熱を取り戻していく様子を、それこそドゥ・ワップにのせて気持ちよく見せてくれます。惜しむらくはその歌声が明らかに吹き替えバレバレだってことか・・・。
ヴィンスは10年前に妻に死なれて以来の男やもめ。長男は結婚して独立しており、末の娘は重い病で入院中。そんなわけで今は次男とふたり暮らしなのですがこの親子、びっくりするほど仲良しなのでございますよ。
いくらスキンシップの国メリケンとはいえあんなに息子にべたべたな父親が果たして実在するものだろうか。そしてそんなオヤジを大してウザがらないあの息子はどうよ。・・・まあそれもある意味、後半でのそれぞれの門出につながる布石ということなのかな。そういうことにしとこう。
そんな親ばかヴィンスは今や、かつての名声を忘れてしまおうとあえて歌わない日々を送っております。しかし彼のファンだったという娘の担当看護婦・ジョアンと出会い、また共に歌った仲間たちと再会するうちに、やっぱり歌への思いがふつふつと湧いてくるわけですね。
いやあ、オヤジ熱い。年食ってちょっともたくさしてるあの雰囲気。所詮中年なんです。でもだからこその熱さがあるんだな。腹出てもカッコよくありたい中年魂。
ストーリー的には少々セオリー通りすぎるきらいはありますけど、人間ドラマにこだわった好感度の高い作りではないかと思います。要はファミリードラマだよね。歌モノとしてもなかなか楽しめました。
主人公ヴィンスを演じているアーマンド・アサンテは、以前「マスター・アンド・ウォーリアー」というタイトルまんまパクリな映画(むろん未公開)の主演で見て以来顔を覚えた俳優さんです。濃ゆい。ヒュー・ジャックマンが50を越えたらあんな感じだろう。
で、彼の次男アンソニーを演じてるエドアルド・バレリーニは「ディナー・ラッシュ」のウード君です。イタリアの血が入った狐系のオットコマエですが、いつもなんとなく眩しそうな顔をしていらっしゃいます。
今回の作品ではロックバンドを組んでいるという設定もあり、髪型やファッションからしてちょっと目つきの悪いジェームス・ディーンみたいでした。でも素の顔はとりあえずかっこいーので好きです。(笑)



 君が眠るまえに  ★★★☆
【1991年 : アメリカ】(劇場未公開)
 監督:ジョン・アーマン/音楽:ジョン・モリス
 出演:ヒュー・グラント(ジェームズ)、
    ジュリー・アンドリュース(オードリー)、
    アン=マーグレット(ルアン)、
    ゼルイコ・イワネク(ドナルド) 他


【現在VHS発売のみ】

エイズが発症して余命幾ばくもないゲイの青年と、彼を支えるパートナー、そして彼ら二人のそれぞれの母親が息子たちの生き方を本当に理解するまでを描いたヒューマンドラマ。
エイズに冒されたドナルド(ゼルイコ・イワネク)は、恋人のジェームズ(ヒュー・グラント)の献身的な看護の甲斐もなく、徐々に死期が迫りつつあった。ジェームズの母オードリー(ジュリー・アンドリュース)は息子とそのパートナーに変わらぬ愛情を注いでいたが、ドナルドとその母ルアン(アン=マーグレット)とはすでに11年も彼と音信不通。ジェームズはルアンを探し出し、死にゆくドナルドとなんとか和解させようとするのだが…。

どちらかというと息子ふたりよりも、母親たちの葛藤を中心に描いています。 劇場未公開作品ながらキャストが豪華で、ヒュー・グラントとジュリー・アンドリュースが親子の役だなんて今となっては貴重な話。しかしジュリーを映す場面になるとシワ消しのための紗がかかりすぎ、そのあまりにぼやけた画面には少々笑いを誘われます。いくら往年の大女優とはいえ、そこまでサービスせんでもよかろう。
一方現在はフラフラしたお気楽な役をやることが多いヒュー・グラント、変わり果てた姿のパートナーを愛情深く思いやる芯の強い青年を好演してます。やればできるんじゃありませんか・・・。
息子と母親という関係を、エイズ問題を通して丁寧な視線で追った秀作。確かに劇場でやるにはちょっと地味かもしれないけど良い作品です。



 CASSHERN  ★★★☆
【2004年 : 日本】
 監督:紀里谷和明
 出演:伊勢谷友介(東鉄也/キャシャーン)、
    麻生久美子(上月ルナ)、寺尾聰(東博士)、
    樋口可南子(東ミドリ)、唐沢寿明(ブライ)、
    要潤(バラシン)、宮迫博之(アクボーン)、
    佐田真由美(サグレー)、及川光博(内藤薫)
    小日向文世(上月博士)、西島秀俊(上条中佐) 他

現代とは全く異なる歴史を歩んできたもうひとつの世界。そこで人類が繰り広げる地球規模の戦争は50年にも及び、陣営は大亜細亜連邦共和国とヨーロッパ連合の2つに分断されていた。
やがて長い戦いの末、勝利は大亜細亜連邦共和国のものとなる。だが気付けば世界は、あらゆる化学兵器や核爆弾がもたらした様々な後遺症と人心の荒廃に病み果てていた。
そんな中、東博士(寺尾聰)は重い病に苦しむ妻・ミドリ(樋口可南子)を助けたい一心で、人間のあらゆる部位を自在に造り出す“新造細胞”理論を構築する。それを私欲のために利用しようとする軍関係者の援助で始められた実験は、博士の思惑を超え、とうとう“新造人間”なる新生命体を生み出すのだが・・・。

予想通り、さすがに映像の凝り方は大したもんでした。むしろよくできた作り物の世界に生身の人間が何人か迷い混んじゃった、くらいの勢いでCGだらけ。綺麗でしたけど。
思ったよりも相当重いテーマを扱った作品です。ほとんどヒーロー物って感じじゃない。そのわりには、キャシャーンの戦闘シーンなんかにはやけにアメコミ調の効果が使われてたりして薄く笑えますが。
しかしエンディングに向かうにつれ、戦争とか平和に関する紀里谷監督の哲学みたいなもんがこれでもかってほど述べられます。もしも破滅的な危機が迫った時、人は身近な愛する者を助けるために他人を犠牲にすることが許されるのか、というのは確かに難しい問題ですね。誰もが平等に幸せになるっていうことはとても美しい願いだけど、現実には不可能に近いくらい難しい。でもだからといって自分ひとりだけが願いを叶えても、それは本当の幸せと呼べるのか、という話です。
監督もきっと言いたいことがたくさんあるんだろーなとは思うんですが、それを直接主人公に語らせるっていう手法はちょっとくどかったかな。きっともう語りたいことがいっぱいありすぎて、我慢できなかったのね、という印象が深々と残ります。
主演の伊勢谷くんはまあ予告で見たとおり、顔はおキレイなんだけど芝居の面では微妙な感じ。しかしそこを強力に補うべく、周りを固める俳優陣は豪華絢爛のベテラン揃いでした。これでかなり救われてると思います。やはり唐沢くんは頑張っていた。もはや彼の映画と呼んでも過言ではありません。あとは寺尾聡と樋口可南子がびしっと画面をシメてたし、宮迫くんってやっぱ上手いよなーと感心しました。
海外での配給もすでに決まっていて、映像はアメリカ人とか好きそうだなと思います。でもあの究極に暗いエンディングにはブーイングのひとつも出るだろう。なんのかんのありつつも最後にはあっけらかんと平和を手にして、「アンタが大将!」的なヒーローをもてはやすタイプの映画が好きな人にはあまり向かない映画。



 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン  ★★★★
【2002年 : アメリカ】
 監督:スティーヴン・スピルバーグ
 音楽:ジョン・ウィリアムス
 出演:レオナルド・ディカプリオ(フランク・A・Jr)、
    トム・ハンクス(カール・ハンラティ)
    クリストファー・ウォーケン(フランク・A) 他

実在の天才少年詐欺師と、彼を追うFBI捜査官を描くクライム・コメディ。
1960年代、アメリカ。まだ16歳だったフランク・アバグネイルJr.は両親の離婚のショックから家を飛び出し、生きるために小切手詐欺を思いつく。
さらに彼は、ある種の職業が無条件に人の信頼を得ることを発見していた。パイロットの制服は銀行の顧客係も夜の女も、本物のパイロットさえも欺くことができ、ゲームのように簡単に多額の現金が手に入る。しかしエスカレートする犯行についにFBIが動いた。捜査官カール・ハンラティは犯人逮捕に燃えるが、犯人はアメリカ大陸の東へ西へ、ついにはヨーロッパへと飛び回る。巧妙な手口に翻弄され苛立つハンラティ。だが一方では、その幼い犯罪者になぜか痛ましさを覚え始めていた。果たして二人の追いかけっこの結末は・・・?

おおー、スピルバーグってこんな洒落た映画も作れるんじゃーん、と素直に感心した作品。
オープニングからして何だかオシャレなのです。 明るくて滑稽で少しせつない人間模様をベテランの俳優陣がそつなく演じてました。
ディカプリオの主演作を見るのは「ギルバート・グレイプ」「太陽と月に背いて」以来。(昔すぎです。)
例の大ヒット大作以降は肥えたり老けたりのイメージがあった彼ですが、本作ではまたちょっと心淋しい少年(まだ少年役ができるとはな!)が捜査官ハンラティに父親への思慕をうっすら重ね合わせるさまを相変わらずのうまさで見せてくれました。トム・ハンクスもよかった。あんな若造にまんまとしてやられて臍を噛む一方で、彼の孤独を知るとなんだか放っておけなくなる大人の優しさが滲み出ていたように思います。
これがねえ、実話だってことが凄いですね。言い尽くされてる感想だとは思いますけど、まったく事実は小説より奇なりってやつで。彼らがよい友人であり続けたということに、こちらまでなんだか和んでしまいます。