SF読書録
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1999年 下半期

“時間的無限大” スティーヴン・バクスター
“時空ドーナツ” ルーディ・ラッカー
“Robot Visions” アイザック・アシモフ
“心の鏡” ダニエル・キース
“リングワールド” ラリイ・ニーヴン
“不思議な猫たち” ジャック・ダン & ガードナー・ドゾワ 編
“夢みる宝石” シオドア・スタージョン
“月は無慈悲な夜の女王” ロバート・A・ハインライン
“つかぬことをうかがいますが… ” ニュー・サイエンティスト編集部 編
“つぎの岩につづく” R・A・ラファティ
“成長の儀式” アレクセイ・パンシン
“禅 <ゼン・ガン> 銃” バリントン・J・ベイリー
“ジョナサンと宇宙クジラ” ロバート・F・ヤング
“星は、昴” 谷 甲州
“ストーカー” アルカジイ&ボリス・ストルガツキー
“リンカーンの夢” コニー・ウィリス
“仮想空間計画” ジェームズ・P・ホーガン
“マイノリティ・リポート” フィリップ・K・ディック
“ガイア −母なる地球−” デイヴィッド・ブリン
“ヴァーチャル・ガール” エイミー・トムスン


“時間的無限大” スティーヴン・バクスター (ハヤカワSF)

二点の離れた空間を繋ぐワームホール (空間の虫喰い穴) を作る。 そして、その片方を光速に近い速度で遠ざけ、そして帰ってくるようにする。 すると、移動したほうには相対論的時間の遅れが生じるから、 二点を繋ぐワームホールは、二つの離れた時間を繋ぐワームホールと化す。 つまり、一種のタイムトンネルが出来上がるのである。

そのようにして、遂に、1500年先の未来と繋がるワームホールが出来上がった。 しかし、1500年先の未来の地球は、 クワックスという異星種族に支配されていた。 支配の目をあざむいてワームホールをくぐってやってきた 「ウィグナーの友人」と名乗る人々の目的はいったい何か?

最後にはタイトルから連想されるような「時の果て」の話も出てきますが、 基本的には、タイムトンネルの製作者である主人公と「ウィグナーの友人」、 そしてクワックスの勝負(?)の話です。 勝敗は比較的あっさりと決してしまいますが…。 外交官のジャソフト・パーツとスプライン戦艦がいい味出してます^^;。 (12/25)


“時空ドーナツ” ルーディ・ラッカー (ハヤカワSF)

ホワイト・ライト”と同じように、 無限を扱った、マッドなSFです。 もしくは、マッドなハード(?!)SFかも。

巨大ネットワークコンピュータ、フィズウィズが管理する未来。 「人々の安全」を最重要視するフィズウィズのお蔭で、 人々は仕事らしい仕事もせずに安穏と暮らす日々だった。 しかし、フィズウィズには「真の創造性」というものがない。 このままでは、人類には何の進歩もないだろう。 そこで、フィズウィズに「魂」を与えよう、 という試みがなされようとしているわけだが…。

それの鍵となるのが、クルトフスキ教授の発明した、 大きさの尺度を伸び縮みさせる仮想場発生機。 ミクロの世界へどんどん進んでいって、素粒子の世界を越えると、 そこには我々の宇宙がある?!

小難しい言葉も登場しますが、やはり何と言ってもマッドSF、 フランク・ザッパや、ローリング・ストーンズの音楽に合わせて、 ノリ良く読み進んでしまいましょう^^;。 (12/20)


“Robot Visions”アイザック・アシモフ (Byron Preiss Visual Publications, Roc Book)

このコーナーでは初登場のペーパーバックです^^;。 アシモフのロボットものの短篇と、エッセイを集めた短篇集です。 ほとんどの話が邦訳されていますが、この本自体は日本で出ていません。 日本でまだ単行本・文庫本に収録されていないものや、 収録されていても目にすることが難しいもの (ベイリ&ダニールものの短篇“Mirror Image”) もあるので、 是非出してほしいものです。> 早川書房

ちなみに、序文は“ゴールド −黄金−” で読めます。

“Mirror Image”以外の未収録ものでも、 SFマガジンでたまたま読んだものがあるので、 短篇で純粋に初めて読むのは“Think!”と“Chiristmas without Rodney” くらいでしたが、“Runaround”や“The Bicentennial Man”など、 あらためて読んでもやはりよいですね。

エッセイで語られる、 コンピュータ・ネットワークを介したコミュニケーションの重要性なども、 さすがだな、と思わせます。 1970年代に書いているんですから。 今のインターネットの普及を見れば、きっと喜ぶでしょうね。

あ、そういえば、スーザン・キャルビン博士は、どうやら今年(1999年)、 大学に入学しているようです(^_^)。 (12/16)


“心の鏡”ダニエル・キース (早川書房 ダニエル・キース文庫)

アルジャーノンに花束を” の短篇版が収録されている短篇集です。 長編版“アルジャーノン〜”とともに今世紀中には文庫化されないのではないか、 と思っていましたが^^;、1999.10,11 で「ダニエル・キース文庫」 として“24人のビリー・ミリガン”や “ビリー・ミリガンと23の棺” とともに文庫化されました。 妙に字が大きい文庫です^^;。

この短篇集に収録されている話は、タイトル通り (そして長編作品の傾向を見ればわかる通り)、 心に関する話や知能に関する話がほとんどです。 “アルジャーノン〜”はもちろん名作ですし、“エルモにおまかせ”や “ロウエル教授の生活と意見”、そして表題作の“心の鏡” はなかなか面白いのですが、他はちょっと話のまとまりが悪い感じがします。 最後の“ママ人形”が特に、凄く興味深いシチュエーションなのに、 「あれ、これだけ?」という感じで終わってしまうのが残念です (それとも、僕の読みが浅いのだろうか?)。 (11/12)


“リングワールド”ラリイ・ニーヴン (ハヤカワSF)

ニーヴンの“ノウンスペース・シリーズ”の集大成とも言うべき長編です。 故に、“ノウンスペース・シリーズ” の他の作品をいろいろと読んでからのほうが楽しめます。

パペッティア人が銀河を去ることにしてからもかなりの年月がたった頃、 長生きし過ぎて退屈しかけていた地球人の探検家、 ルイス・ウーのもとに一人のパペッティア人が現れた。 ノウンスペースの端よりも遙か彼方、 200光年先のとある目的地への探検に参加しないか、 というのだ。 この二人に凶暴なクジン人<獣への話し手>と、 「幸運の遺伝子」を持つという地球人ティーラ・ブラウンをメンバーに加え、 一行が赴いた先は、恒星を取り巻く、広大なリボン状の建造物だった。 面積は、地球の表面積の三百万倍。 いったい、そこには何が待ちうけているのか?

このような巨大な建造物が相手だとしても、所詮は一チームの探検隊、 あまり広くは見て回れません。 そして、いろいろと謎も残したまま終わってしまいます。 “リングワールドふたたび” などの続編が書かれるのは必然でしょう。 これだけの世界を構築してしまった以上、 作家には、それに見合うだけのさまざまなストーリーも生み出してもらわねば(^_^) (11/9)


“不思議な猫たち”ジャック・ダン & ガードナー・ドゾワ 編 (扶桑社ミステリー)

“猫”が中心を占める話を集めたアンソロジー、 “魔法の猫”の続編です。 今回は、猫のみならずジャガーやクーガーなどのネコ科の動物に範疇を広げています。 今回は、ファンタジー的な話がほとんどを占めます。 アシモフの“アザゼル” のシリーズの未訳だったものも一編、収録されていますが、 これはアザゼルが宇宙人、という設定になっているものです (ここだけ、ちょっと SFっぽい? ^^;)。

“跳躍者の時空”のガミッチも再登場するのがうれしいところ。 あんなことがあっても、ガミッチはガミッチのようです^^。 他には、ル・グィンの“メイのクーガー”が気に入っています。 これは、後半だけならば、他愛のないファンタジーですが、 前半の存在が生きています。 (10/28)


“夢みる宝石” シオドア・スタージョン (ハヤカワSF)

「全てのものの90%はクズである」のスタージョンの法則でも知られる、 シオドア・スタージョンの、かなりファンタジーっぽい SFというか、 ちょっと SFっぽいファンタジーというか…という感じの物語です。

養父に虐待されて家を飛び出したホーティは、 奇妙な人々や、奇怪な動物ばかりがいるカーニヴァルの一座に紛れ込んだ。 そこの団長、モネートルがそのような人間や動物を集めているのには理由があった。 一見何の変哲もない水晶のような見かけをしたもの、実はそれは生物で、 彼らが夢を見るとき、他の生き物の複製や、 他の生き物をモデルにした新たな生物を作り出す。 そして、その夢の見方が不完全であった場合に、奇怪な動物が生まれる、 というのだ。 その水晶を集めるモネートルの企みは…。

生きた水晶の設定はぶっとんではいますが、凝ったもので、 なかなか面白いものです。 だんだんと明らかになっていく秘密も、読ませる展開になっています。 最後のところはちょっと無理があるかな、という気もしますが。 (10/18)


“月は無慈悲な夜の女王” ロバート・A・ハインライン (ハヤカワSF)

このコーナー、150作品目です。

流刑者と、その子孫たちから成る月世界植民地。 そこは、資源と労働力豊かな世界として、 地球から搾取され続けていた。 このままでは、月世界に住む人々の食糧もなくなってしまう。 もはや、月世界行政府を倒し、地球から独立するしか道はない。 その「革命」の中心となったのは、 一人のコンピュータ技術者をはじめとする何人かと、 自意識を持つ巨大コンピュータ、マイクだった。 宇宙船も武器も持たない彼らに、勝ち目はあるのか?

ハインラインらしい、物語です。 単純な革命アクション劇ではありません。 随所にハインラインらしい哲学が登場します (後に “愛に時間を” でラザルス・ロングの覚書として登場するものも幾つかあります)。 ハインラインの世界では、実力のある人というのはいい人 (でも、闘わねばならないときは躊躇なく闘う人) ばかりなので、 そこのところは気持ち良いですね。 マイクのキャラクターもよいです。

と、素晴らしい作品なのに、 誤植や、訳のミスと思われる変なところが結構たくさんあるのがもったいないです。 タイトルも、原題“The Moon is a Harsh Mistress”のほうが (結末にも係わると思うので) よいと思います。 (10/13)


“つかぬことをうかがいますが… 〜科学者も思わず苦笑した102の質問〜

ニュー・サイエンティスト編集部 編 (ハヤカワNF)

ここに載る久々の非SFです。

読者の素朴な科学的?!疑問に読者が答える、という イギリスの週刊科学雑誌“New Scientist” の巻末の人気コーナーの投書をまとめたものです。 Q&Aの形で、一つの質問に(たいてい)幾つかの回答がついています。 回答のほうも読者の投稿にすぎませんから、必ずしも正しいとは限りません。 ときには、ユーモアをきかせた回答もありますし。 鵜のみにしてはいけません。 常に「本当か?」と自分できちんと考えつつ読みましょう。 それが、正しい「科学的」態度なんですから。

ささやかな謎から奥深いなぞまで、回答のほうも洒落から凄く専門的な答え、 そして自ら実験してみて得た答まで、いろいろあって楽しめます。 “科学者も思わず苦笑した102の質問”という邦題のサブタイトルと、 ファンシーな表紙からお遊び的な内容を想像する方もいるかもしれませんが、 遊び心はあっても中身はなかなか濃いもので、勉強にもなります。 あなたの素朴な疑問の答えも載っているかも。

…文字数を数える話で、自分でも引っかかったのはひじょうに悔しい^^; (9/30)


“つぎの岩につづく” R・A・ラファティ (ハヤカワSF)

その遺跡からは奇妙なものがいろいろと発掘されていたが、 各時代の文字で文章が刻まれた一連の石板は特に妙だった。 どれもが、「つづく」で終わり、そして次の石板が発見される。 最後の石板が見つかったときに、何が起こるのか?

この表題作、“つぎの岩につづく”をはじめとする、 ラファティ独特の狂気と神秘とほら話の世界。 おかしくもあり、悲しくもある世界。 ラファティ独特の読後感。

“レインバード”、“クロコダイルとアリゲーターよ、クレム”と “ブリキ缶に乗って”が特に印象的でした。 (9/28)


“成長の儀式” アレクセイ・パンシン (ハヤカワSF)

人口爆発による大戦争により地球が既に滅びた世界で、 植民惑星に「知識」を切り売りすることで生き延びていた八隻の <船>。 そこに生きる子供たちには、 14歳になると成人として認められるための苛酷な<試験>を受けなければならない。 植民惑星のどこかに降ろされ、そこで30日間を過ごし、 無事帰還せねばならないのだ。 まもなく14歳を迎える少女マイアも、この<試験>を間近に控えていた…。

子供から大人への成長の物語です。 ハインラインの “宇宙の戦士” と似た雰囲気もあります (作者はハインラインの大ファンで、 最初はハインラインに関する評論で SF界にデビューしたそうです)。 主人公マイアの目を通し、世界が語られ、マイアの成長が語られます。 <試験>を受ける前の、訓練や他のさまざまな出来事、 そして<試験>自体を通じて、マイアはどう成長したのか? ジョン・バーンズの“軌道通信” や、グレゴリイ・ベンフォードの “木星プロジェクト” と対比させてもおもしろいでしょう。 (9/20)


“禅 <ゼン・ガン> 銃” バリントン・J・ベイリー (ハヤカワSF)

退廃し、崩壊しかけている銀河帝国。 人口は激減し、生活は知性化された動物の労働力で支えられていた。 宇宙艦隊も数少なくなっていたが、 過去の威信を利用してかろうじて辺境星域の反乱を抑えていた。 そこへ、辺境星域に帝国を滅ぼし得る究極兵器が存在する、 との託宣が出た。

辺境星域のとある星、地球では、人間と他の霊長類とのキメラ (合成動物) が、博物館から禅銃 (ゼン・ガン) と呼ばれる古い銃を盗んで逃げ出していた。 そして、行きがかり上、そのキメラを護ることになった超戦士、 <小姓>池松。 彼は禅銃に興味を示しているが、直接手出しはしない。 究極兵器を探しに来た宇宙艦隊に収容された一行であるが…。

ああ、たいしてストーリーの説明になっていないなぁ。 というか、あまりストーリーが明確でないというか、 あまり厚くない小説ですが、 全体の筋と直接に関係ない部分が多い感じです。 疑似物理理論の部分も、作者は気に入っているようですが、 あまり説得力はなくて、ややこしいだけな感じがしてしまいます。 トンデモ本に出てきそうな感じというか。 “カエアンの聖衣” の低周波音の惑星とかは面白かったのに…。

<小姓>などの変な日本文化観はおもしろいです^^;。 (9/10)


“ジョナサンと宇宙クジラ” ロバート・F・ヤング (ハヤカワSF)

ブラッドベリの作品をもっと SF 寄りにした感じの、 幻想的な作品を書く作家、ロバート・F・ヤングの短篇を集めた本です。 愛や優しさに満ち溢れていて、 人によっては気恥ずかしく感じるかもしれませんが、 読後感がさわやかです。 多くの言葉を費やす必要は感じないくらい、お薦めです。

表題作も良いのですが、この本の中で特に気に入ったのは、 “ピネロピへの贈りもの”と“リトル・ドッグ・ゴーン”です。

ロバート・F・ヤングといえば “たんぽぽ娘”が有名なのですが、 読む機会は得られないものでしょうかねぇ。 (9/2)


“星は、昴” 谷 甲州 (ハヤカワSF)

たまには日本人作家のも読んでみようシリーズ^^;。

宇宙を舞台にした短篇集です。 作者自身があとがきで書いているのですが、 同じアイデアが繰り返し出てくる感じです。 同じ基本設定、とか同じテーマのバリエーション、とかだったら良いんですけど、 「同じアイデア」なんですよねー。

あとは、架空理論の類や状況などに、 いまいち説得力を持ちきれないところが多いのが気になります (説明自体もうまくないような)。 コンピュータ内部のデータを覗いて人間の言葉を理解するようなやつが、 自分の規準が変わったからって相手の単位系は変化しないことに気づかない、 なんていうまどろっこしいボケをかますとは思えません。 他にも「情報」ネタが何回も出てくるんですけど、 どうも、世間一般で使われるいわゆる「知識」という意味での「情報」と、 情報科学でいう基礎的な意味の「情報」 とがごっちゃになっている (まあ、この二つは大差ないといえばないんですけど) ところとか…。 いろんなものを使って自己のアイデンティを記述して自己を保存する、 とか基本的には面白いアイデアなんですけどね。

表題作“星は、昴”は (最後のシーンなど特に) いい話だと思います。 が、この話にこの舞台設定は必要でないような…。 タイトルもあまり適切とは思えないし。 (8/27)


“ストーカー” アルカジイ&ボリス・ストルガツキー (ハヤカワSF)

ストーカー、と言っても時折マスコミで話題になるあれではありません^^;。 地球に来訪し、去っていった何者かが残した痕跡、 ゾーンにもぐり込み、そこに残された (異星文明の産物であろう) 不思議な品々を命がけで持ち出す者たちのことです。 ゾーンの中、及びその周辺では理解を超越した奇怪な現象が起こります。 何のために彼らは来訪し、何故にゾーン を残したかは全く判りません。 そんなゾーンを前にして、人々はどう反応するのか?

レムの “ソラリス”や “砂漠の惑星”のように、 想像を越えた、意志疎通の可能性すらわからない相手とのファースト・ コンタクトを扱った作品です。 感じとしては“砂漠の惑星” にいくらか似ているかな。 主人公シュハルトや、その周りの人々の心理が主眼になっています。

映画“ソラリス”の タルコフスキー監督の手により、 同名の (というか小説の邦題を映画からとった) 映画にもなっています。 例によって映画ではだいぶ話の筋は違うようですが。 (8/19)


“リンカーンの夢” コニー・ウィリス (ハヤカワSF)

南北戦争を舞台とした小説を仕上げている歴史小説家ブルーンの調査助手を務めるジェフは、 友人の精神科医が連れてきたアニーと出会った。 彼女は南北戦争時のリー将軍の夢と思しき夢に取り憑かれていた。 この夢はリー将軍の苦しみがもたらしているものなのだろうか? それとも、何かの時を越えたメッセージなのだろうか? 夢は次第に南北戦争の終結へと近付いて行く。

夢の謎に纏わる、SF というよりはファンタジーの作品。 謎が完全に解かれるわけではないのですが、主人公ジェフは何か一人で納得してます。 南北戦争に関する説明に登場する人物や、 断片的に挿入される、 ブルーンの書く小説“責務”に登場する人物はけっこう書き込まれているのですが、 現在の登場人物が掘り下げられてない気がします。 それだったら、南北戦争の小説を素直に読みたいところ。 特に、“責務”は読んでみたい^^;。

(8/13)


“仮想空間計画” ジェームズ・P・ホーガン (創元SF)

脳へ情報を送る神経に直接、信号を乗せることにより、 人間に仮想空間を“体験”させることができるシステムが開発された。 現実をシミュレートした仮想空間内で、本物の人間と、 コンピュータが操作するアニメーションの人間がやりとりすることにより、 人間に近い人工知能を開発しよう、という計画のはずだった。 しかし、計画の立案者であるはずのコリガンは、 ふと気がつくと、ある期間の記憶を失い、見知らぬ場所にいた。 計画はとうの昔に放棄されたという。

よく分からないまま、その奇妙な世界で暮らしていたコリガンであったが、 ある日、一人の女性が現れて 「私たちはシミュレーションの中に閉じ込められている」 という。 誰かの陰謀にはめられたのか?

このところたて続けに出ている、ホーガンの新作です。 原題は“Realtime Interrupt”ですが、 “仮想空間計画”のほうが内容的にもわかりやすいですね。

今回は架空物理理論は登場しませんが、 ヴァーチャル・リアリティ関係の工学的技術が、 まだ実現されていない部分もしっかりと書かれていて楽しめます。 ストーリー的にはちょっと単純かな、という気もしますが。 でも、研究を実際に進める人たちと、 資金を出す人たちの確執が垣間見えるのはよいです。 そうそう、MITが登場して、 マービン・ミンスキー教授も登場するあたりもなかなか :-)。

訳がいまいちに感じられたのは残念なところです。 (8/8)


“マイノリティ・リポート” フィリップ・K・ディック (ハヤカワSF)

ディックのデビュー前の作品も含む、短篇集です。 翻訳されてはいたものの、今となっては手に入りにくかった “追憶売ります”(映画“トータル・リコール”の原作)も収録されています。

比較的初期の作品が多いので、ちょっと荒削りなものが多いですが、 表題作と“追憶売ります”とが最も面白く、あと“水蜘蛛計画” 辺りはよくまとまっていると思います。 (7/29)


“ガイア −母なる地球− (上・下)” デイヴィッド・ブリン (ハヤカワSF)

過剰な人口や深刻な環境汚染で苦しむ地球の人々は、 さまざまな技術革新で、致命的な事態をかろうじて先送りにしてきた。 そんな技術革新の一つとなるであろう人工のマイクロ・ブラックホールを、 若き天才物理学者・アレックスは地中へと落してしまった。 従来の理論に反して安定なそのマイクロ・ブラックホールは、 地球を内部から食らいつくしてしまうかもしれない。

重力波を用いた探索で、 無事そのマイクロ・ブラックホールはみつかった。 しかし、それと同時に、 それ以外のもっと大きなマイクロ・ブラックホールが地球内部に存在することも判明した。 そして、探索に伴い、予想もしなかった異変も起こっていた。 このまま、地球は壊滅してしまうのか?

科学的なたとえとして、もしくは宗教的な人格として、 (その上に住む生物を含めた) 地球全体を一個の自律的なシステムとして捉えることが一般化している社会が舞台となっています。 その“システム”の中で人類や他の生物の占める意味は何なのか? 高度なネットワークを持った人類は、地球の頭脳足り得るのか?

そのような、地球環境絡みの展開と、 発見されたブラックホールをどうにかしよう、という話が軸になり、 終盤の予想外の事態へと繋がります。 なかなか重厚な話です。 特に、各節の間に挟まれる、 一見ストーリーに関係なさそうなネットワーク上の記事などが、 背景を膨らまし、話により深みを与えている気がします。 上下巻で計1200ページありますが、そのボリュームに見合った、 圧巻の内容だと思います。 (7/23)


“ヴァーチャル・ガール” エイミー・トムスン (ハヤカワSF)

人づきあいの苦手なコンピュータの天才アーノルドは、 自らの伴侶とすべく、 外見も知能も人間そっくりに振舞えるアンドロイド、マギーを作成した。 しかし、この世界では人工知能の開発は禁じられていた。 マギーの存在がバレれば、即座に彼女は破壊されてしまう。 アーノルドはマギーに人間らしい行動や動作を教え込み、 追っ手から逃れるべく放浪の旅に出る。 旅の道すがらに、 さまざまな人たちに出会って成長していったマギーの求めるものは…。

ありがちな話といえば、まあそうかもしれませんが、 ほのぼのとした感じのいいお話、です。 アーノルドの、マギーに対する感覚は、 子供に過度の愛情を期待する母親のようなものに思えます。 アーノルドの過去に起因することなので、 あまり責められるべきでもないとも思いますが。 何はともあれ、マギーは真直ないい子に育って、良かったね (アーノルドは不満かもしれませんが)、ってところです。

「ヴァーチャル」という言葉は、「ヴァーチャル・リアリティ」 が仮想現実と訳されるので、勘違いされがちなのですが、 元々は「実質的な」というニュアンスの言葉です。 この本のタイトルも、その辺りのニュアンスを含んで解釈すべきでしょう。 (7/7)

Contact: aya@star.email.ne.jp.cut_off_here