SF読書録
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1997年 上半期

“スポンサーから一言” フレドリック・ブラウン
“インフィニティ・リミテッド” ジェームズ・P・ホーガン
“ネメシス” アイザック・アシモフ
“ミラー・メイズ” ジェームズ・P・ホーガン
“母なる地球” アイザック・アシモフ
“ガニメデのクリスマス” アイザック・アシモフ
“カリストの脅威” アイザック・アシモフ
“キリマンジャロ・マシーン” レイ・ブラッドベリ
“内なる宇宙” ジェームズ・P・ホーガン
“アレフの彼方” グレゴリイ・ベンフォード
“エデン” スタニスワフ・レム
“ビリー・ミリガンと23の棺” ダニエル・キース
“暗黒星雲のかなたに” アイザック・アシモフ
“奇妙な論理” “奇妙な論理II” マーチン・ガードナー
“10の世界の物語” アーサー・C・クラーク


“スポンサーから一言” フレドリック・ブラウン (創元SF)

古典的 SF ショートショート集。 ショートショートというにはちょっと長めの短篇もあります。 全体の構成として、序盤は本当に短いもので飛ばし、 後から段々長めの、より深いものがやってくるので、 読みやすいと思います。 この本の原題は、“Honeymoon in the Hell” (地獄の蜜月旅行) が採用されていますが、邦題“スポンサーから一言” のほうが良いと思います (共に収録されている作品の表題です)。 (6/25)


“インフィニティ・リミテッド (上・下)” ジェームズ・P・ホーガン (創元SF)

表向きは法律家、いや違った^^;、 作家という肩書でフリーの諜報活動を行なっている バーナード・ファロンのもとにアフリカのとある国の政府からの依頼が来た。 内戦状態にある敵組織にもぐり込み主要人物を暗殺する傭兵部隊を編成してほしい、と。 そして、その敵組織からも逆に政府側の動きを探るスパイになってほしいと依頼される。 その上、旧知の人物が現れ、われわれ護憲党、じゃない^^;、 “インフィニティ・リミテッド” のために両方の依頼を受けてほしい、と…。 かくしてファロンは複雑な策謀渦巻く世界へと踏み込んでいく。 裏で糸を引いているのは誰なのか?

というわけで、“ミラー・メイズ” と非常によく似た構図のサスペンスです。 より複雑に、本格的になった感じです。 人物関係も複雑で、主人公は偽名を複数使うし、人はたくさんでてくるし、 誰が味方で誰が裏切りものだかわけわからなくなってくるし…。 気合いを入れて読みましょう。 創元 SF 文庫ですが、SF っぽさはかけらもありません (あ、最後にほんのかけらだけある、かな?)。 まあ、ホーガンの作品の主な読者は SF ファンでしょうけれども…。 ホーガン SF ファンとしては、“時間泥棒” のような話ももっと書いてほしいところです。 (6/20)


“ネメシス (上・下)” アイザック・アシモフ (ハヤカワSF)

晩年に書かれた、“ファウンデーションもの” でも“ロボットもの” でもない作品。 とはいえ、接点になり得る部分はあるようですね。

地球から僅か 2光年の距離にありながら塵の雲に隠されていた赤色矮星 “ネメシス” が、植民衛星の一天文学者により発見された。 その発見を秘密にし、地球から離れ独自の文化を築かんと向かった植民衛星と、 それを追う地球の人々の、それぞれの策謀が繰り広げられる。 ネメシスは太陽へ向かう進路を取っていて、 地球にも大きな被害を及ぼすであろうことが判明するが、 ネメシス系にはさらなる謎が隠されていた。 鍵を握るのは…。

「太陽系を霞めていき地球に災いをもたらす恒星」 というとパニックものを思い起こさせますが、ネメシスが接近するのは 5000 年後、全然差し迫っていませんし、話の本筋とは実はあまり関係ないような気もします^^;。 だから、新刊時の帯に書かれた「血と破滅をもたらす赤い星」というのは、 確かにそうなんだけど何か違うぞ、と。 それ以外の点では比較的ありがちな話かと思いますが、まずまずの出来栄えでしょう。 最後にもうちょっと盛り上げてほしかった気もしますが。 (6/4)

ワンポイント

解決策を持っているのは 4人のうち誰か? 答が明かされる前に考えを巡らせてみると楽しいでしょう。


“ミラー・メイズ (上・下)” (創元SF)

西暦 2000 年を迎えようとするアメリカ。 2000年代最初の大統領には、政府による規制や干渉をなくし、 真の自由をもたらそうという護憲党から選ばれた。 それで立場の危うくなる旧来の政府の下で保護を受けていた勢力は、 護憲党を崩壊させるべく策略を張り巡らす。

近未来の話で、いくらか SF っぽい設定が出てくるとはいえあまり SF っぽくはないポリティカル・サスペンス。 でもなんか“巨人たちの星” と似てなくもないです^^;。 つまりはとってもホーガンっぽい話であるということでしょうか。 (5/22)


“母なる地球” アイザック・アシモフ (ハヤカワSF)

アシモフ初期作品集その3。 ここまで来るともう安心して読めます。 “アシモフの科学エッセイ” シリーズの方に収録されていたチオチモリンの論文も載っています。 表題作“母なる地球” は、後に出る長編の “鋼鉄都市” や“裸の太陽” を予感させ、また確か“停滞空間” に収録されている“正義の名の下に” 的なところもあるのが興味深いところです。 (4/27)


“ガニメデのクリスマス” アイザック・アシモフ (ハヤカワSF)

アシモフ初期作品集その2。 本書の後半では、 かの有名な“夜来たる” なども書かれた時期にかかり 徐々に話もこなれてきた感があります。 フレドリック・ポールとの共作のファンタジーなんていうのもあるんですねー。 “幽霊裁判” はなかなか秀逸だと思いました。 (4/21)


“カリストの脅威” アイザック・アシモフ (ハヤカワSF)

アシモフ初期作品集その1。もう今は亡きアシモフが、 初めて雑誌にその名を載せた頃の作品と、 その周辺の事情に関するアシモフ自身の解説から成ります。 さすがのアシモフといえども、初期は結構安っぽい話を書いています。 作品がひとつひとつ進むごとに、少しずつうまくなっていくような気もしないでもないです (気のせいかも ^^;)。 (4/11)


“キリマンジャロ・マシーン” レイ・ブラッドベリ (ハヤカワNV)

ブラッドベリの、SF の香り漂うファンタスティックな短篇集。 本来は“歌おう、感電するほどの喜びを!” という一冊の短篇集の前半部分です。 後半は、同じくハヤカワNV で “歌おう、感電するほどの喜びを!” として出版されています。

さて、表題となっている短篇“キリマンジャロ・マシーン” は、 今は亡き偉大な作家を、もっと彼にふさわしい場所で眠って貰おう、 と努力する人の話。 “ゲティスバーグの風下に” はリンカーンそっくりのロボットの運命を語る。 そして、“夜のコレクトコール” は “火星年代記” とも通じる火星に残った最後の男の物語。 SF 的趣向が強いのはこの 3つでしょうか。 でも、“冷たい風、暖かい風” みたいな純粋なファンタジーも好きです。 “われら川辺につどう” は SF でもファンタジーでもない普通の話ですが、 これにも幻想的な雰囲気が醸し出されているのは、 収録されている他の作品の雰囲気とブラッドベリの筆致のせいでしょうか。 (3/25)


“内なる宇宙 (上・下)” ジェームズ・P・ホーガン (東京創元社)

あの“星を継ぐもの” 三部作の続編です。 三部作を読んでいない人は当然そちらから読んで下さい。 今度は、ジェヴレン人たちの多くが陥っている無気力状態の謎を解きに ハント博士がジェヴレンへ赴きます。

「今度は土産に何を期待しているのかな、グレッグ?」
「こっちから注文をつけられるものかね。失われた惑星。星間宇宙船。異星文明…。 ほかに何がある? あるとすれば、別の宇宙ぐらいなものだろうが」
「それだけか? 案外、その別の宇宙にわたしは行くことになるかもしれないぞ」 (本文から引用、一部編集)

そういう話です(^_^)。ハント、コールドウェル以外にも、ダンチェッカーや ガルース、ゾラックなども相変わらずです。 旧作から 10年近くたって読む者にとっては旧友との再会のような感慨もあります。 でも、話の中ではガニメアンと遭遇してからまだ一年そこそこだというのが信じ難い^^;。

話のノリとしては“巨人たちの星” に近いところでしょうか。 執筆自体も旧作から 10 年経っているので、 コンピュータの内部に関する考察が深くなっているところがうれしいです。 (3/19)

ワンポイント

やはり思うのは…。VISAR なんて贅沢はいいません。ZORAC が欲しい(^_^)。


“アレフの彼方” グレゴリイ・ベンフォード (ハヤカワSF)

人類は太陽系内の惑星へと進出し、 最も大きな衛星・ガニメデでもテラフォーミングが行なわれていた。 しかし、そこには太古の文明の生命とも機械ともつかない巨大な遺物、 「アレフ」がいた。 アレフは人類の存在などほんの少しも気に掛けないかのように自由に動き回る。 ときにはその行動の結果、人間の命が奪われることもある。 その行動の目的は (そもそも目的があるのかどうかさえ) 誰にも伺い知れない。

当然、ある者は魅せられ、ある者は復讐のため、アレフを調べよう、止めよう、 とする人々がいる。 主人公の少年もそんなうちの一人である。 “アレフの彼方” はこの少年の成長の物語である。

苛酷な環境に挑んでゆく、人間の強さも感じさせてくれる。 (3/5)

関連作品: “木星プロジェクト


“エデン” スタニスワフ・レム (ハヤカワSF)

計算ミス (おいおい^^;) により宇宙船が 6人の科学者を乗せて惑星エデンに不時着した。 そこで彼らが見たものは、ちょっとずつ違うものを作っては壊している巨大な工場、 体が完全に二つの独立した部分に分かれている複体生物、その大量の死体、逃げ惑う集団…。 この惑星では一体何が起こっているのか?

ソラリスの陽のもとに” “砂漠の惑星” とで未知なる存在との出会いを描く三部作を成す作品。 この“エデン” が三つのうちでは最も古いので、 他二つに較べれば出会う相手は随分と解りやすい。 その分、インパクトには欠けるかもしれない (他二つを先に読んでしまったせいかも)。 (2/24)


“ビリー・ミリガンと23の棺 (上・下)” ダニエル・キース (早川書房)

多重人格性障害を持つ、と診断された男の物語“24人のビリー・ミリガン” の続編。 前作が遠い忘却の彼方にある人のためにちゃんと復習編から始まる^^;。 SF じゃなくてノンフィクションです (このページ、今年に入ってから非 SF 率が高い…)。 ノンフィクションのせいもあってか、特に後半、いまいち話がだれるような気がします。 作家自身が多少ミリガンの行動に疑問を持つようになってしまったせいもあるかも。 (2/11)

作家および編集者様へ

「ハッカー、ハッキング」と「クラッカー、クラッキング」 は正しく使い分けて下さい。


“暗黒星雲のかなたに” アイザック・アシモフ (創元SF)

アシモフの初期の長編。 銀河系にはティラン帝国が現れその版図を広げてきている。 その帝国を退けようと奮闘する領主を父に持つバイロンは地球に留学していた。 そして「父が殺された」との情報を受け、彼の逃亡劇が始まる。 彼が行くべき先は一体どこなのか?

初期のものということもあってか、 陰謀の交錯の様子にも比較的荒削りな感もあります。 真中辺りで、最終的な結末は (直前までどうたどり着くかは別として) だいたい予想ができてしまいました。 でも、落ちは読めませんでした。 なんてアメリカンな落ちなのでしょう…。 (1/30)


“奇妙な論理” “奇妙な論理II” マーチン・ガードナー (教養文庫)

SF じゃないです。ノンフィクションです。 原著は“In the Name of Science” というもので、 そのうち約半分を邦訳したのが“奇妙な論理” 、残りの半分のほとんどと、 原著の 30年後の続編“Science: Good, Bad and Bogus” の一部の概略を補遺としたのが“奇妙な論理II” です。

要は、「元祖・トンデモ本の世界」と言った感じの本です。 やっている本人は、 「自分は大発見をした天才だが、 現在の科学の権威者たちは自分の既得の地位を失うことに怯えてそれを認めない」 と思っているけれども、実際ちゃんと見ると、 単に科学の基礎も知らないでいい加減な実験などをやっているだけ、 といった話を集めたものです。 「トンデモ本〜」では楽しむことを主眼としていますが、 この本はどちらかというと啓蒙を主眼としています (結構楽しんでもいるような気もしますが)。 だから、人々に大きな影響 (被害) を与えたものが多くとりあげられています。 人々が如何に騙されやすいかを説き、「そんなもんに引っかかるんじゃないよ」 と諭します。 もうちょっと小気味良くびしばしと「何がおかしいのか」を挙げていってくれるのかなぁ、 と読む前は思っていましたが、 駆け足でたくさんのものに触れているせいもあってかちょっと物足りない気がします。

原著が 1952年刊なので最近の話はないのですが、 この本に出てくるような「宗派」で現在も残っているようなのもあるんだろうなぁ、 と思うとぞっとします。 残っている、以外にも昨年あたり話題になったものだけでも幾つかこの本の対象になりそうなのはありますし…。

SF を読むような人は、良質の SF (とちゃんとした科学の本) を読んで目を肥して、 変なものには引っかからないようにしましょう。 (ヴァン・ヴォクトはさんざん引っかかったらしい… ^^;) (1/22)


“10の世界の物語” アーサー・C・クラーク (ハヤカワSF)

通信衛星、全世界同時中継などがまだ SF だったころに書かれた短篇集。 科学や技術が進歩して、ネタは古くなっても、その精神は色褪せない。

クラークの短篇ではよくある、よく分からない状況で淡々と進んで、 最後にオチ(?)がつく、 というタイプの話も多いですね。 “ドッグ・スター” が一番好きです。

タイトルは“10の世界〜” ですが、15話収録されています。 舞台となる場所を数えると、、、地球、地球の静止軌道、月、火星、 イカルス、土星、彗星、金星、とすると 8つ。 うーむ。 (1/9)

Contact: aya@star.email.ne.jp.cut_off_here