SF読書録
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1996年

“遠き神々の炎” ヴァーナー・ヴィンジ
“いさましいちびのトースター” トーマス・M・ディッシュ
“2061年宇宙の旅” アーサー・C・クラーク
“地図にない町” フィリップ・K・ディック
“赤い惑星への航海” テリー・ビッスン
“インテグラル・ツリー” ラリイ・ニーヴン
“華氏451度” レイ・ブラッドベリ
“無伴奏ソナタ” オースン・スコット・カード
“アンドロイドは電気羊の夢を見るか?” フィリップ・K・ディック
“砂漠の惑星” スタニスワフ・レム
“ロシュワールド” ロバート・L・フォワード
“セロ弾きのゴーシュ” 宮澤賢治
“月を売った男” ロバート・A・ハインライン
“軌道通信” ジョン・バーンズ
“時間泥棒” ジェームズ・P・ホーガン
“ロボットの時代” アイザック・アシモフ
“小悪魔アジャゼル 18の物語” アイザック・アシモフ
“遙かなる地球の歌” アーサー・C・クラーク


“遠き神々の炎 (上・下)” ヴァーナー・ヴィンジ (創元SF)

銀河は内側から層状に空間の性質が異なり、 外へ行くほど情報処理能力などが本質的に向上する。 外のほうへ行くと光速を越えて行き交うことも可能だ。 そんな宇宙で、人類は今、中の上の域に達している。 もう少しで、銀河の外の超越界に達せられるかもしれない。 そして、人類は超越界にちょっとかかったところの星系で、 パンドラの箱を開けてしまった…。

人類のいる銀河の中の領域 (際涯圏)には多種多様の種族がいて、 過去何億年というスケールで種族の盛衰が繰り返されている。 超越界へ行くことに成功したものもいれば、 失敗して自滅したものもいる。 昔から変わらずに長の年月を暮らしているものもいる。 そこでは、 インターネットの超大型版のようなネットワークが発達している。 さまざまな情報、憶測、嘘を含んだネットニュース (何故か現代のネットニュースに似ている^^;) がその上を飛び交い、太古の記録は各所のアーカイブに収められている。 今、人類の解き放ってしまった災厄は銀河規模で被害を与えつつあった。 そして、それに関してさまざまなニュースがネットワークを駆け巡る。

災厄の発生した星からは、かろうじて一隻の船が逃げ出していた。 その船には、災厄に対抗する手段が隠されているかもしれない。 しかしそのたどり着いた星は、際涯圏の奥底の、 犬型の集合知性の生物 (鉄爪族) が支配する、陰謀渦巻く中世の世界。 かくして一隻の船を巡る、多重の争いが繰り広げられることとなった。

設定は壮大だし、話は多重に進むしで紹介も長くなってしまいました。 基本的に、ネットワーク世界で進む話と、 鉄爪族世界で進む話とが並行して進むのでややこしいかもしれませんが、 「ひと粒で二度おいしい」話かもしれません。 広げた大風呂敷も、きちんと回収してくれます。 ラストは少し物足りない、っていう人もいるかもしれませんが、 ヒューゴー賞授賞もうなずける出来栄えです。 (12/23)

ワンポイント

ネットニュースの記事には何故か既視感を覚えます^^;。 ネットニュースは日本でもアメリカでも銀河全体でもおんなじなんですかねー。


“いさましいちびのトースター” トーマス・M・ディッシュ (ハヤカワSF)

森の別荘に取り残された電気器具たちはだんなさまの帰りを待っています。 もう三年近くも戻ってこないのです。どうしたのだろう? だんなさまの身になにかあったのだろうか? そうだ、だんなさまを探しに行こう! そんなわけで電気器具たちは冒険の旅に出ます。

メルヘンです。でも、「互換性のある部品のありがたさです!」 なんて出てくるのを見るとにやりとしてしまいます。 続編では火星に行くらしいので、 そうすると今度は SF かもしれません :-)。

何はともあれ、電気器具は大事に大事に使いましょう。 (12/12)


“2061年宇宙の旅” アーサー・C・クラーク (ハヤカワSF)

Odyssey Three。 “2010年”が (小説版)“2001年”の続きではないのと同様に、 これも“2010年”の直線的な続きではない (巻頭の覚え書参照)。 とはいえ “2010年”が (映画版)“2001年” の続きであるのと同程度のところかな。

いまや禁断の地となったエウロパを除いて、 元・木星の衛星群では探査がいろいろと進められている。 そして、とある事件が起こり、 探査のために飛んでいた宇宙船が禁断の地に不時着してしまう…。

“2001年”や“2010年”ほどの壮大なことは起こらないのですが、 違う意味でとんでもないものが現れるのがおもしろいところでしょうか。 さ、ビートルズでも聴こうかな(^_^)。

次(最後)は“3001年”という話ですが、さて、今度は何が起こるのでしょう? (12/10)


“地図にない町” フィリップ・K・ディック (ハヤカワNV)

サブタイトル“ディック幻想短篇集”。その名の通り、 別に SF に限らない幻想的な掌篇を集めた短篇集。 1950年代という時代に書かれたもののため、 米ソの冷戦の行く末を悲観するような話も多い。 そう、皮肉な結末のものが多い (もちろん全部ではない) ので、暗い気分になる危険を冒したくないときは読まない方がよいかもしれない。 (12/1)


“赤い惑星への航海” テリー・ビッスン (ハヤカワSF)

NASA や海軍、挙げ句の果てには政府や国連までが民間企業に身売りしてしまっている近未来。 かつての火星飛行計画も実現一歩手前で放棄されていた。 そんな世界で火星へ乗り出してみようと企てるのはハリウッド。 火星飛行を一大スペクタクル映画にしてしまおうというのだ。 かくして昔の宇宙飛行士などがかき集められ、赤い惑星へと旅立ってゆく…。

第一部はハインラインの“月を売った男”、 第三部はクラークの諸作品などを思い起こさせる、 オールドスタイルの航海記。 とび抜けて凄い、という印象はないが基本を押えた佳作といったところ。 飽きさせず読ませてくれる。 (11/28)

ワンポイント

解説には「デモゴーゴン」(超高性能な撮影&映像合成装置) が一番印象的な小道具だと書いてあるが、それは違う。 一番印象的(というよりは衝撃的)なのは、 「太陽光デジタル装置」できまりである。


“インテグラル・ツリー” ラリイ・ニーヴン (ハヤカワSF)

中性子星ヴォイを回る惑星ゴールドから洩れ出た大気は、 ヴォイの軌道を巡る濃密な大気の輪 (スモーク・リング) を形成していた。 そこには、適応した動植物が住み着き、 そしてたまたま通りかかった人類の探索隊の子孫も暮らしていた。

今、とある巨大な積分記号型の木 (インテグラル・ツリー) に住む一族に飢饉が迫っていた。 一族を救うため、もしくは厄介ばらい、口べらしのために、 探検隊が送り出された。

魔法の国ではなく、 SF 的に構築された、奇妙な自然が溢れる世界での冒険ファンタジー、 だと思います。 主人公の少年は、後半、主役の座を奪われている ^^;。 (11/22)


“華氏451度” レイ・ブラッドベリ (ハヤカワNV)

「本から得られる知識は人々の幸福を阻害する」という思想の下、 徹底的な焚書を行なう世界。 人々は超小型ラジオやテレビのエンターテイメントに没頭し、 考える間もなく幸福感に浸っている。 主人公モンターグは密告に基づき本を焼くことを生業としているが、 焼いてしまわねばならない本とはどんなものかに興味を持ってしまう。 そして現状の社会の歪みにも気がついて、 彼の今までの生活は崩壊してゆく…。

結末はちょっとまとめきれていないような感があるが、 「考えない」ことの恐怖を描いた古典的名作。 ブラッドベリ特有の詩的文章も楽しめる。 (10/19)


“無伴奏ソナタ” オースン・スコット・カード (ハヤカワSF)

短篇集。SFというよりはファンタジーのほうが多い。 一番 SF っぽいのが“エンダーのゲーム”かな。 真中辺の話は僕の趣味に合わないのかいまいちに感じたが、 最初と最後が良いので全体の感想としてはまずまず。 以下、個々の収録作品についていくつか。

“エンダーのゲーム”… 長編で出ているものの原型。 いい作品です。だけど、エンダーがあまりにも可哀想(;_;)。 彼はその後目覚めるのでしょうか…。長編版 (& その続編) は読むべきか? (長編版読みました (1998.6.27))

“磁器のサラマンダー”… んー、ファンタジーですね。

“無伴奏ソナタ”… この短篇集の取りにして表題作、さすがいい話です。 疑問点も幾つかありますが。 クリスチャンは勝ちました。が、本人は勝ったと思っているのでしょうか?

同じようなアイディアを、アシモフが書くと“プロフェッション” (短篇集“停滞空間”所収) になるんだろうなぁ。 (10/10)


“アンドロイドは電気羊の夢を見るか?” フィリップ・K・ディック (ハヤカワSF)

言わずと知れた映画“ブレードランナー”の原作。 放射能灰に汚染された地球で主人公のデッカードは逃亡アンドロイドを「処理」 する仕事をしている。 高性能で人間に一見そっくりなアンドロイドの、 人間との見分け方は感情移入能力があるか否かを調べること。 その方法は果たして完璧なのか? 6人の新型アンドロイドをデッカードが追う。 時には、自分ももしかしたらアンドロイドなのではないだろうかと悩みつつ。

テンポ良く一気に読める名作です。 あとで映画も観なければ。(10/3)


“砂漠の惑星” スタニスワフ・レム (ハヤカワSF)

とある惑星で数年前に消息を絶った宇宙巡洋艦コンドル号の捜索のために、 その惑星に降り立った「無敵」号。 そこはほとんどが砂漠の惑星で、 海洋には生物がいるが陸地には都市の廃虚のようなものしか見つからない。 やがてコンドル号が見つかるが、特に攻撃を受けた様子もないのに (僕は結構あると思うぞ) 乗員は全滅している。 いったい何が?! 蝿のようなものとは何か?!

“ソラリス”と同じく、 人間の理解を越えた生命(作中ではひたすら 「無生物」といっているけれどもあれも生命と言ってよいのではないかと思う) との出会いを描く。 タイトルは原題の「無敵」のほうが趣深い。 「無敵」なのは誰か? (9/27)


“ロシュワールド” ロバート・L・フォワード (ハヤカワSF)

バーナード星系に発見された二重惑星ロシュワールドを探査すべく、 ライトセールを掲げ片道切符の探査隊が赴く。 そして、二重惑星の片割れ、水とアンモニアの海の星オーで出会った奇妙な生物。 彼らは工学はほとんど知らないが、抽象数学に長けていた…。

うーん、バーナード星に着くまでがちょっと長く感じます。 あと、オーで出会う災難がちょっとわざとらしすぎるきらいがあります。 同じ作者であれば“竜の卵” のほうがお勧めです。(9/17)

ワンポイント

◇☆□○●△†…う、一つだけ出ない^^;


“セロ弾きのゴーシュ” 宮澤賢治 (角川文庫)

短篇集。もちろん SF ではないのですけれども、 あの時代に火山の噴火の制御やら潮汐発電なんていう事柄が話に登場する (“グスコーブドリの伝記”) のは下手な SF 顔負けの凄さだと思います。(7/13)


“月を売った男” ロバート・A・ハインライン (創元SF)

短篇集。表題作“月を売った男”の後に“鎮魂歌”を読むとグッと来ます。 アポロ計画より以前に書かれた、何が何でも月へ行きたかった男の物語です。 (7/6)


“軌道通信” ジョン・バーンズ (ハヤカワSF)

小惑星を改造した宇宙船内で暮らす少女が、 そこでの暮らしを地球の人に分るように文章を書いてくれと頼まれて、 一年前のことを思い出して綴っていく物語。 SF でなければ(いまさら)読まないであろう、 中学生くらいの子どもの世界の物語だが、 大人たちの(頼りない)陰謀も絡んでくる。 SF としての詰めはかなり甘いけど楽しめるお話です。(6下旬)

ワンポイント

未来の軌道宇宙船のコンピュータには OS/2 が使われているらしい (違うって^^;)

最大の謎

ラヴェル先生っていったい…


“時間泥棒” ジェームズ・P・ホーガン (創元SF)

局所的にあちこちで時間が失われていく。一体何事が?! 異次元のエイリアンが盗んでいるのか? テンポよく読める(薄いし)軽いノリの顛末記。(6上旬)

ワンポイント

「まだ向こうに赤く見えるコンピュータが!」
「何、どれだ?!」「あそこの X1 と書いてあるやつです」


“ロボットの時代” アイザック・アシモフ (ハヤカワSF)

ロボットものの短篇集。キャルビン博士らも登場する。 “校正”が一番面白いかな。(5下旬)


“小悪魔アジャゼル 18の物語” アイザック・アシモフ (新潮文庫)

短篇集。身の丈 2cm の小さな悪魔を呼び出すというほら吹き男(?)の語る、 奇妙な物語の数々。小さな悪魔は願いを叶えてくれるけど少しずれていて、 その結果は…。もちろん、SF じゃなくてファンタジーです。“変化の風” (創元 SF) にも載っている二篇が好きです。(5中旬)


“遙かなる地球の歌” アーサー・C・クラーク (ハヤカワSF)

“天の向こう側” (ハヤカワSF) 所収の短篇を長編化した作品。 話の軸となる部分は同じだが、それに纏わるさまざまな部分で世界が広がる。 クラークらしい、淡々と進む話。派手なところはありませんが、逸品です。 (5上旬)

ワンポイント

タイミング悪いときに上陸しようとしたウミサソリの運命や如何に?!


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