東京のクマ

奥多摩ツキノワグマ研究グループ

最終更新日:2012年11月15日


 「エッ,本当ですか?」,「信じられないな・・・」
 わかります,その気持ち.でも嘘ではありません.今でも,あの東京にクマが生活しています.それもみなさんが考えるよりずっと身近なところにです.クマと人間とのトラブルも起こっています.
 巨大都市の郊外に,クマが生活できるような自然が残っている例は,世界でも滅多にありません.東京のふところの広さと,自然の多様さを実感できるところです.
 このホームページが,皆さんの隣人である”東京のクマ”について考えるきっかけとなることを願います.

*トップページ写真:奥多摩周遊道路の月夜見駐車場から雲取山方向をのぞむ.大きな開水面は奥多摩湖(小河内ダム湖)


自動撮影されたツキノワグマ
1999年8月上旬に奥多摩町で自動撮影されたツキノワグマ
(小川羊氏撮影©)

最近の更新履歴

●11月15日の一言 

 環境省が公表している関東地区(茨城と千葉を除く)でのツキノワグマの許可捕獲数(有害捕獲および特定管理計画による捕獲数:ただし,2012年度については,9月末日現在の暫定値)をまとめると,今年度の捕獲数はすでに2006年度に次ぐ数値に達しています。捕獲数を=出没数と仮定すれば,今年度は,いわゆる"大量出没年"ということになりそうです。
 特に捕獲数の多い県は,群馬県(255頭),次いで栃木県(46頭)となっており,東京を含む他の都県については一桁にとどまっています。また過去の大量出没年と異なり,出没時期が早いという傾向が指摘されています。例えば栃木県などでは,連休明けの5月頃から出没のニュースが入ってくるようになっています。これまでの大量出没年は,出没の始まりが8月〜9月頃ですので,例年と異なっています。この2012年度の出没時期の早期化は,福島県や山形県などの南東北地域で報告されている傾向と類似するようにも見えます。原因は,現時点でははっきりしたことは分かりません。地域の猟師の方などによって想像されていることとしては,雪解けが遅れた結果,クマの食物となる植物の若葉や花のフェノロジーがずれ,そのためにクマが通常と異なる行動を取ったという説がひとつあります。もうひとつは,福島第一原発のメルトダウンによる放射性物質の広範囲のフォールアウトの結果,イノシシやシカなどへの放射性物質汚染が起き,食用にならないために2011年度猟期での狩猟圧が減少し,そのため数が減らなかったシカ,イノシシとクマとの間での食物をめぐっての競合が起きたというものです。いずれも,科学的な検討はなされておらず,ここではお話しとしての紹介に留めておきます。
 晩夏から秋に入ってからのクマ出没の継続については,堅果類の不作が関係している可能性があります。関東全域での結実動向は不明ながら,栃木県日光地域および群馬県沼田・片品地域では,イヌブナおよびミズナラが凶作,コナラはやや凶作,ブナは豊作,クリは部分的に並作(アジアクロクマ研究グループ,未発表データ)と,同地域での主食であるミズナラの状況が悪いことが示され,群馬県全域ではブナが大凶作,ミズナラ,コナラ,クリが凶作と群馬県林業試験場により発表されています。
 こうした背景下,関東地区では人との軋轢も多発しています。人身事故では,群馬県でこれまでに,みなかみ町(4/26),川場村(5/13),神流町(6/14),片品村(8/23)で計4件発生(群馬県庁発表資料)している他,栃木県でも日光市の戦場ヶ原(10/19)で1件発生しています。東京都の奥多摩町では,各地域でクマの出没が相次いでおり,飼いウサギ,養魚場,味噌樽などへの食害や,通学路へのクマの出没が起こっています。追い払い,有害捕獲罠の設置などを行い,現在までに2頭を捕獲するに至っています。孤立個体群と考えられる神奈川県の丹沢山地では,錯誤捕獲を含む捕獲数が増加しており,県の自然保護課は2012年9月20日付けで"県内各地で「ツキノワグマを人里近くで目撃した」,あるいは「ツキノワグマの足跡や爪痕が人里近くにあった」との情報が,本県及び市町村等へ寄せられている"と県民に向けて広報しています。
 出没はまだ続いているため,クマが冬眠に入り事態が沈静化した後の,詳しい状況の把握と解析が求められます。


クマ類による人身事故報告書!

日本クマネットワークでは,ヒグマとツキノワグマによる人身事故事例を取りまとめた報告書を刊行いたしました。ホームページからPDFにてダウンロードが可能です。奥多摩での事例も,皆さんからいただいた目撃記録を集計して掲載してあります。ぜひご覧いただければと思います。


書籍「日本のクマ」好評発売中!

 昨今,各地で人里に出没して軋轢を引き起こしているクマ類ですが,その生物像についてをまとめた書籍はごく限られておりました。
 本書では,ヒグマとツキノワグマという種を,様々な角度から,最新の科学的知見を盛り込みながら描き出そうと試みてみました。また,これまでの両種の研究史も概観できる内容となっています。
 少々値段が高くなってしまいましたが,内容は価格に見合ったものと著者一同自負しております。
 今回,著者割引でのご購入をご案内できますので,ぜひこの機会にご注文いただければと思います。

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【書名】日本のクマ−−ヒグマとツキノワグマの生物学
【編者】坪田敏男・山崎晃司
【発行】東京大学出版会
【発売日】2011年2月10日
【ISBN】978-4-13-060220-4
【体裁】A5判・横組・ハードカバー・386ページ
【定価】6090円(税込)→特別価格5200円(税・送料込)
【概要】日本にはヒグマとツキノワグマが生息するが,なかには人間との軋轢問題から絶滅が心配される地域個体群が存在する.人間とクマとの共存を目指して,生態学,生理学,獣医学,保護管理学など,さまざまな分野の最前線で活躍する研究者が書き下ろした「クマ学」の決定版!

【主要目次】 
はじめに(坪田敏男)
序章 クマの生物学―クマという生きもの(坪田敏男)
T ヒグマ
第1章 採食生態―環境の変化への柔軟な反応(佐藤喜和)
第2章 行動圏と土地利用―トラジロウの追跡を中心に(青井俊樹)
第3章 個体群と遺伝的変異―遺伝的多様性からみた地域個体群の保全(釣賀一二三)
Topic-1 DNA多型解析による血縁関係推定(伊藤哲治)
U ツキノワグマ
第4章 行動―これまでの研究と新しい研究機材の導入によりみえてきたこと(山崎晃司)
第5章 食性と生息環境―とくに果実の利用に注目して(小池伸介)
Topic-2 安定同位体比解析による食性履歴の推定(中下留美子)
第6章 個体群の成り立ちと遺伝的構造―東日本と西日本を比較する(大西尚樹)
第7章 高山帯・亜高山帯の利用―北アルプスに生息するツキノワグマの生態(泉山茂之)
V ヒトとクマの共存
第8章 ツキノワグマの保全生態学―共存の論理(大井 徹)
Topic-3 食痕を用いた加害個体の特定(齊藤正恵)
第9章 クマの保全医学―麻酔・繁殖・感染症(坪田敏男)
第10章 ヒトとクマの関係―民俗学的考察(田口洋美)
第11章 ヒグマの保護管理―ヒトとヒグマの軋轢とその対策(早稲田宏一・間野 勉)
Topic-4 知床半島における管理対策への取り組み(葛西真輔)
第12章 ツキノワグマの保護管理―ツキノワグマをめぐる社会的課題とその対策(横山真弓)
おわりに(山崎晃司)


●ご注文は東大出版会編集部の光明までメールでお願いいたします.
ご注文をいただいた方には特別価格5200円(税・送料込)で,本といっしょに郵便振替用紙をお送りいたしますので,お支払いにご利用ください.
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光明義文(こうみょう・よしふみ)
東京大学出版会編集部
〒113-8654 東京都文京区本郷7-3-1
TEL.03-3812-7915/FAX.03-3811-4254
E-mail komyo_at_utp.or.jp (_at_部分を@に変えて送信して下さい)
URL http://www.utp.or.jp/
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◇クマ類出没対応マニュアル


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 本調査研究にあたり,次の各団体より研究助成金を受けました.


奥多摩ツキノワグマ研究グループ (Okutama Black Bear Research Group)© メールは: yamako_at_j.email.ne.jp(迷惑メール対策で@が抜いてあります)

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