「困っています・もいで下さい!」実施報告

目的
 山間部の集落周辺に植栽された果樹(カキ,ユズ,クリなど)は,食糧として利用される機会が減少し,熟した後も樹上で放置される例が多くなっています。その原因として,地域住民の高齢化による労力不足や,食物嗜好の変化などがあげられます。しかし取り残された果実は野生動物を誘引し,地域住民との間で無用な軋轢を生じさせる原因となっています。特に奥多摩町峰谷では,秋に放置されたカキがツキノワグマを誘引し,事故発生の危険性を増大させています。
 今回のイベントでは,取り残されてクマを誘引するカキを,地元在住者の指導のもと,実際に参加者にもいでもらい,さらに干し柿に加工する体験活動を行います。加工したカキは,干しあがった後に,有償で参加者に送られます。また併せて,峰谷での暮らしやクマの生活の話なども行い,今回のカキもぎが持つ意味について,参加者に考えてもらうきっかけを提供します。さらに半恒久的なクマよけ対策の方法として,カキの幹へのトタン巻きの実演も実施します。

主 催 : 奥多摩町・奥多摩ツキノワグマ研究グループ
協 力 : 日本ツキノワグマ研究所関東支部
日 時: 2002年11月17日(日) 10:00〜15:30
実施場所 : 東京都奥多摩町 峰谷の三沢集落
当日のプログラム:
@ 受付 9:30〜10:00
A 開会 10:00〜10:10
B カキもぎ 10:10〜12:00
C 昼食+地域やクマの話 12:00〜13:00
D トタン巻き実演 13:00〜13:30
E 干し柿作り 13:30〜15:00
F アンケート・閉会 15:30
G 三沢解散 15:30

募集人数 :30名
参加費:850円/大人,550円/子ども (行事保険料含む・未就学児は無料)

 新聞,ラジオ,雑誌などで事前に取り上げていただいたこともあり,予想以上の方々から参加の申し込みをいただきました。往復ハガキで申し込まれた総数は,締め切りまでに実に650通,仮に一枚に2名の名前が書かれていると平均しても,1,000人を軽く超える方からの応募になります! 町では一時電話での問い合わせが殺到し,全庁的に仕事にならなくなったそうです。残念ながら会場の大きさやプログラムの都合上,30名に絞るための抽選を行わなければなりませんでしたが,潜在的にこれだけの需要があることが何より驚きでした。
 当日は生憎の底冷えのする曇り空でしたが,参加者は急斜面で苦労しながらも,カキもぎに熱中していました。一度もいでみると容易に理解できるのですが,斜面での長い竹竿を使ってのカキもぎは難しく,思うように竿先が柿の付いている枝に届きません。しかしそれが参加者の心に火を付けたようで,夢中のあまり,こちらがはらはらするようなもぎ方をしている参加者もいました。「クマが来るならカキをもげばいいじゃないか」とは実際にもいだ経験のない人の弁でしょうが,急斜面の高木上の実をもぐことがいかに大変かを実感できます。計画の当初は,参加者に木に登って貰ってと考えていたのですが,その場合行事保険が極めて高額になることや,また安全面で無理があるため,今回は地上から届く範囲でもぐという条件を付けざるを得ませんでした。協力いただいた坂村さんの域に達するには,相当の期間とセンスが必要なようです。
 ちなみにカキもぎの会場には,前々日にサルの群が現れ,カキの実を荒らすというハプニングがありました。当日,地上からでどれくらいもげるのかについて心配をしていたのですが,何とかそれぞれの参加者が数個から10個程度のカキをもぐことができました。
 カキもぎ後,収穫したカキを籠に入れて,会場を坂村さん宅に移しました。昼食後,坂村さんに地域の生活の話しをいただき,また私の方から奥多摩でのクマの生息状況やクマに会ったときの対処方法(会わないようにすることがもちろん一番大事なのですが)などの話をした後,日本ツキノワグマ研究所山元さん指導で,カキの幹へのトタン巻きのデモンストレーションを行いました。
 午後は,もいだカキの皮むきや荒縄へのくくり付けを,今度は坂村さんの奥さんに指導いただき,参加者たちは思い思いに自分たちの”連”を作りました。こうして皮むきして縄にくくりつけたカキは,坂村さん宅で干し上げられた後,参加者に宅急便着払いで年内に発送される予定です。ちなみに干し柿の量は,1グループあたり1連(約18個)でした。
 今回のイベントでは,思わぬ波及効果もありました。町役場の天沼さんによれば,地域の人たちがカキに今一度目を向けるようになり,実際に味わったり干し柿にしようという動きが出てきたそうです。また今回の抽選で漏れた人たちを少しでも救済しようと,町役場が単独で翌週の23日(土)に,同じく30名程度の参加者を募って,「山のふるさと村」で干し柿づくり体験や,ふるさと村レンジャーによる奥多摩の動物全般の話などを行って好評だったようです。
 町役場では,来年度も同様のイベントを企画しているようです。こうしたイベントは地域の活性化,あるいは振興に関して,ひとつのきっかけとして意義があると考えられます。野生動物との軋轢問題にしても,地域にいかにポジティブな思考と,粘り強い発意が存在するかが,問題解決のための大きなキーになることを忘れてはいけないでしょう。

峰谷マス釣り場駐車場をお借りしての会場受付の風景。看板上の手書きイラストが愉快。 今回のカキもぎ会場となったヒツジ放牧場ないでの開会式の風景。参加者と同じくらいの数の報道陣,テレビ局各社,新聞記者などが集まる。
カキもぎの場所を提供していただいた坂村さん(左)と奥多摩町役場の天沼さん(右)の挨拶。 放牧場内の風景。写真で見るよりもっと急傾斜地で,上部の方にカキの木が見える。
竹竿を使ってカキをもぐ参加者。急斜面で足場が安定しないことと,思った以上に竹竿が重く,思うようにカキに竿が届かない。 高いカキの木のてっぺんで,くわえタバコで余裕で立ってカキをもぐ坂村さん。下は幹にしがみついている研究グループ員。
坂村さん宅の庭で弁当を使う参加者。振る舞っていただいた団子汁が胃袋にしみ入る旨さ。 クマの物理的な防除法として,幹へのトタン板の巻き付けの実演。日本ツキノワグマ研究所関東支部の山元さんによる指導。
なかなかうまくいかない! 別の木に事前に巻かれているトタン板。
もいだカキの皮むきに取り組む参加者たち。 皮をむかれへただけが残った状態のカキ。
荒縄に皮をむいたカキをくくりつける。 坂村さん宅の軒下に参加者がめいめい自分で作った連を吊す。年内には干し上がり,参加者の自宅に配送される。

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