人が火を使う手段は、長い間焚き火であった。煮炊きのため、暖をとるため、闇を照らすため、あるいは信仰のために、人々の生活は太古の昔から火を中心に営まれてきた。火力として石油、石炭、ガスといった石化燃料を使うようになるのは、歴史的にみればごく最近のことである。
人類が火を使った跡として最も古いのは、およそ140万年前のものとされるアフリカ・ケニアのチェソワンジャ遺跡で見つかった焚き火跡である。また、45万年前の北京原人の遺跡からは、深さ数メ−トルの灰の層が発見され、そこで長期間に渡って火を利用していたといわれている。ただ、人類が木と木をこすり合わせるなどして火を起こす方法を発見したのは、これよりかなり後のことで、今からおよそ3万5000年前のホモ・サピエンスが出現してからのこととされる。火を熾して調理し、焚き火を囲んで食事をし、暖をとり、そしてして眠る。ゆらゆらと揺れてひと時も止まることのないオレンジ色の炎は、時間の感覚を麻痺させ、心も身体もリラックスさせてくれる。それは我々のDNAに刻まれた太古の営みが蘇るからに違いない…「焚き火」それは人間の心と身体を解き放す原始からのメッセージなのである。
火は人間の親密度やコミュニケーションにどのような変化があるか。暖炉があるかないかで「火」の心理的な効用を検証する環境心理学実験の結果、「暖炉のある方が、癒されると感じ、親近感が増しコミュニケーションが促進される」ことが実証された。
実験は、複数の面識のない女子大生と主婦を一対一で組み合わせ、暖炉のある部屋とない部屋でそれぞれ会話してもらい、その時の状況を本人の主観申告と実験者の行動観察をベースに心理学の実験計画法に基づいて分析を行なった結果だが、暖炉のある部屋、つまり火のある部屋では、以下のような結果が得られた。
被験者のコメントでは
○雰囲気が良くなり「リラックスする」「癒される」「親しくなれる」と感じる
○「会話の相手が自分に似ている」と感じる
行動の観察結果から
○2人の距離が縮まる
○会話中に暖炉を見る回数が多い
○会話開始後の時間経過とともに相手の話にうなずく回数が増える傾向にあり、
会話中に「会話が途切れる時間」が減る
日本大学文理学部心理学科羽生助教授は、「暖炉があると部屋の雰囲気がよくなって会話が促進されるため、相手と近づこうとする(無意識の内に二人間の距離が近づく)とともに、相手の発話に対してうなずく回数が増え、会話が途切れなくなる。そのようにコミュニケーションが密になった結果、相手により親近感を感じるようになると考えられる(相手が自分に似ていると感じるのも、親近感の指標のひとつである)。また、川のせせらぎ、雲や波の動き、水槽中の熱帯魚など自然界にある種の動きは、注意を引きつつも無意識で見ていられるため、癒しの効果(集中力の回復など)があることが知られており、
暖炉の火にも同様の効果があると考えられる。」という結論を導きだしている。
大阪ガス株式会社 エネルギー技術研究所の実験結果より
家で焚き火をすると法律違反とか、罰金をとられるとかいわれるが、それは大きな誤解。自治体では「野焼き(野外焼却)は法律・条例で禁止されています」としているが、これはあくまでも廃棄物の処理が対象。つまり廃棄物を野外焼却してはいけないという法律で、焚き火をしてはいけないということではない。
内閣が発布した最終改訂平成二五年三月六日政令第四五号「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令」には以下の例外規定が定められている。
(焼却禁止の例外となる廃棄物の焼却)
第十四条 法第十六条の二第三号の政令で定める廃棄物の焼却は、次のとおりとする。
一 国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却
二 震災、風水害、火災、凍霜害その他の災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な廃棄物の焼却
三 風俗慣習上又は宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却
四 農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却
五 たき火その他日常生活を営む上で通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの (平一二政三九一・追加)
さいたま市HPに掲載している野焼き禁止の例外
(1)災害の予防、応急対策又は復旧のために必要な燃焼行為
(2)風俗習慣上又は宗教上の行事を行うために必要な燃焼行為
(3)農業(園芸サービス業を除く。)又は漁業を営むためにやむを得ないものと
して行われる燃焼行為(樹脂、油脂類又は布を含む燃焼行為を除く。)
(4)たき火その他日常生活を営む上で通常行われる燃焼行為であって軽微なもの
(5)キャンプファイアー、バーベキューその他屋外レジャーにおいて通常行われる
燃焼行為で軽微なもの
(6)全各号に掲げるもののほか、市長が必要と認める燃焼行為
ようするに、焚き火は例外として認められているのである。しかし「軽微なもの」という文言がくせ者で、さいたま市の注意書きとして、「軽微なもの」とは、煙の量や臭いなどが近隣の迷惑にならない程度の燃焼行為のことです。苦情が発生した場合は軽微なものとは認められません。」とある。クレームをつけられた時は諦めるしかないが、焚き火を楽しむこと自体は合法的な行為なのである。
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