柚木
麻子作品のページ No.2



11.本屋さんのダイアナ

12.ねじまき片想い

13.3時のアッコちゃん

14.ナイルパーチの女子会

15.幹事のアッコちゃん

16.奥様はクレイジーフルーツ

17.BUTTER

18.さらさら流る

19.名作なんかこわくない

20.デートクレンジング
(文庫改題:踊る彼女のシルエット)

【作家歴】、終点のあの子、あまからカルテット、嘆きの美女、けむたい後輩、早稲女・男・女、私にふさわしいホテル、王妃の帰還、ランチのアッコちゃん、伊藤くんAtoB、その手をにぎりたい

柚木麻子作品のページ bP


マジカルグランマ、らんたん、ついでにジェントルメン、オール・ノット、あいにくあんたのためじゃない

柚木麻子作品のページ No.3

 


                     

11.

「本屋さんのダイアナ」 ★★☆


本屋さんのダイアナ画像

2014年04月
新潮社刊

(1300円+税)

2016年07月
新潮文庫化


2014/05/14


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題名からはまるで想像もつかない物語。
2人の少女=
ダイアナ彩子、小学3年生になった時の2人の出会いから20歳過ぎまで。親友となり、行き違いから離反してそれぞれに試練を乗り越えて再び巡り会うまでをダブルキャストで描いた少女の成長ストーリィ。
主人公である少女2人の造形の根底に、
赤毛のアンにおけるアンダイアナの親友関係があるのは明らかです。言わば本書は現代版“アンとダイアナ”の成長&友情物語。

ダイアナ(漢字では何と「
大穴」)と彩子の親友関係、それぞれの成長物語も勿論読み応え有り、魅力に富んでいるのですが、本書で見逃せないのはダイアナを16歳で産んだシングルマザーで現売れっ子キャバ嬢のティアラこと矢島有香子の存在。
ティアラあってこそ2人の成長物語が成り立っている訳で、差し詰めティアラは2人の先人、ダイアナと彩子はその自立心を受け継いぐべき少女たち、と言って良いでしょう。

これまでの柚木作品でも強く逞しく生きようとする女性主人公が目白押しでしたが、本作品では成長物語として描いている点が特徴。その分長い物語に相応した読み応えがあります。
その所為かどうか、柚木作品では一方において、どうも男子の影が薄いんですよねぇ。
面白さ、感動、力強さ、読み応えとも飛びきり!の一冊。
特に女性読者へお薦めです。

           

12.

「ねじまき片想い−おもちゃプランナー・宝子の冒険−Clockwork love」 ★★☆


ねじまき片想い画像

2014年08月
東京創元社刊

(1300円+税)

2018年06月
創元推理文庫化



2014/09/07



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主人公の富田宝子は28歳、業界最大手の玩具メーカー<ローレライ>で商品企画室勤め。新人研修期間のアイデアでヒットを飛ばし、それ以来その溢れる才能で皆の信頼を集めている。
その宝子が毎日浅草の会社まで水上バス通勤するのは、5年来好きな相手であるフリーのグラフィックデザイナー=
西島裕也の住んでいるマンションが途中で見えるから、という理由。
そんな宝子が、西島に次々と振りかかる災難を振り払うため、思いがけない活躍をするという連作風長編小説。

本書題名を見た時には“お仕事小説”かと思い、読み始めてあぁこれは“恋愛小説”かと思ったら、宝子の思いがけない活躍にこれは“探偵小説”かと思わされ、結局最後は○○小説に帰結するのかという、蓋を開けてみないと何があるか分からない、まるで秘密のおもちゃ箱のような作品なのです。

枠に捉われず自由自在、その変化の巧みさが、柚木さんの真骨頂、面白くて堪らない魅力の源泉なのだろうと改めて思う次第。
また本書においては、二面性、多面性に惹きつけられます。
宝子は自分の恋を誰も気づいていないと思い込んでいますが、実は周囲にバレバレ。男性が苦手という一方で、子供相手は得意で楽しいおねえさんと慕われている。また恋に気弱な一方でとんでもなく積極的な行動を見せる、等々と。
表題の
「ねじまき」とは、自分で自分の心にねじをまかなきゃということなのですが、宝子自身のことに留まらず、各篇の登場人物、さらに言えば読者へのメッセージでしょう。
その一方で本書、恋愛の本質にも迫ります。好きな相手に媚びようとすると自分がすり減る、作り笑いは自分を見失う、と。

最初は単なるキャッチフレーズに思えていた「ねじまき」という言葉が章を追うにつれ、次第にとても大切な言葉として重みをもってくるのが、実にお見事。
結局、恋愛は目的ではなく、結果であるべきなのか。
本書は、宝子と共に読者も成長できる“成長物語”としての魅力も抜群です。
いやはや、最初と最後で世界がまるで一変して見える、魔法の様なストーリィ。柚木麻子さん、上手いですよねぇ。


スカイツリーを君と/三社祭でまちあわせ/花やしきでもう一度/花火大会で恋泥棒/あなたもカーニバル

         

13.

「3時のアッコちゃん」 ★★


3時のアッコちゃん画像

2014年10月
双葉社刊

(1100円+税)

2017年10月
双葉文庫化



2014/11/03



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大人気となったらしいランチのアッコちゃん第2弾!
前作と同様、アッコちゃんこと
黒川敦子女子が登場する前半2篇+それと趣向を共通する後半2篇という構成の連作短篇集。

「3時のアッコちゃん」は、元の会社でアッコ女子の後輩だった澤田三智子25歳が再び登場。大手商社で宣伝部広報課の正社員となったものの、新商品の販促会議の進行に苦労する三智子にアッコ女史、会議にはお茶とお菓子がなくっちゃダメと強引にデリバリーを買って出て会議室にまで乗りこんできます。果たしてその効果は・・・。
「メトロのアッコちゃん」は、ブラック企業に勤め続け今や心身共に限界となったOL=榎本明海が主人公。地下鉄のジューススタンドの店員、おかっぱ髪の中年女性に毎日強引に野菜等々のスムージーを押し付けられます。そんなことで明海は救われるのか?
「シュシュと猪」は、東京から神戸の本社に異動した岸和田塔子32歳が主人公。賃貸マンションの場所=岡本には猪が出没すると聞いて驚きますが、その人気者のその猪=ベッキーに何故か塔子は目を付けられ・・・。
「梅田駅アンダーワールド」は、大阪の新しい玄関である梅田駅が舞台。就活で内定がまるで取れず東京から大阪までやってきた若林佐江が主人公。就活に苦労する女子大生の共感を呼ぶストーリィではないかと思う次第。

相手や周囲に合わせよう、合わせようとするのでは自分を消耗するばかり。そんな時こそ発想の切り替え、果断な行動あるのみ、というメッセージがアッコ女子の強引な行動から伝わってくるようで、相変わらず柚木さんの作品はユニークかつ痛快です。
若い頃のアッコ女子を彷彿させるような岸和田塔子が主人公の「シュシュと猪」は、塔子の猪突猛進ぶりが転げて笑い出したくなる程可笑しく、楽しい。
男子が読んでもユニークで痛快なのですが、女子が読めばきっと勇気づけられることいっぱい、と思う一冊です。

3時のアッコちゃん/メトロのアッコちゃん/シュシュと猪/梅田駅アンダーワールド

         

14.

「ナイルパーチの女子会」 ★★☆        山本周五郎賞


ナイルパーチの女子会

2015年03月
文芸春秋刊

(1500円+税)

2018年02月
文春文庫化



2015/04/23



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ナイルパーチ」という聞き慣れない名前に本書のストーリィ内容を推測しかねたのですが、ナイルパーチとは淡白な味の食用魚でありながら、時に生態系を破壊する様な凶暴性を持っている魚なのだそうです。
本書は、そのナイルパーチを喩えに使い、女性間の友情の実相を描こうとした大胆な長編小説。

主人公は2人、大手商社に勤める美人の
志村栄利子と、専業主婦でありながらグータラに過ごす毎日をブログに書いて一定の人気を得ている丸尾翔子。共に30歳、女友達が一人もいないという点で共通しています。
偶然にして2人は出会い、すぐ意気投合したのですが、やがて栄利子の異常な行動が顕著になっていき・・・・。

これまでの柚木麻子作品はコミカルな内容が多く、面白く読めるというのが常だったのですが、本書については読む前から少々異なる気配を感じていました。
読み始めてすぐ、その予感通りと思ったのもつかの間、中盤に差し掛かった頃には足元にぽっかりと大きな穴が開いたような恐ろしさを感じていました。
一体何なんだこれは!? 一見仲の良い友達関係と見えても女子の間に真の友情などないのか!?、等々。
ナイルパーチという題名の意味がようやく納得できた、という具合です。
人の思いを感じることのできない人間が発揮する身勝手さが、エスカレートして凶暴性を発揮した時、何と恐ろしいことか。
「女子会」と題する位ですから本書は女性をターゲットにしていますが、それは女子間だけに限定されるものではない筈。

柚木さんが新たな段階に一歩進んだと言える作品。
恐ろしい思いも、不安な思いもさせられますが、恐怖心を乗り越えて読むだけの価値、読み応えがあります。お薦め!

※栄利子と翔子以外にも、栄利子の同僚である
真織という派遣社員の女の子像が凄い。どうぞお見逃しなく。

    

15.
「幹事のアッコちゃん ★★


幹事のアッコちゃん

2016年02月
双葉社刊

(1200円+税)

2019年09月
双葉文庫



2016/02/29



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“アッコちゃん”シリーズ、第3弾。
今回は4篇とも「アッコちゃん」こと
黒川敦子女史が主役として登場、アッコちゃんらしさを存分に発揮しています。
そうした場合に欠かせない存在なのが、弟子とも言うべき
澤田三智子(途中で結婚して笹山三智子に変わります)。4篇中2篇にてまたもや弟子ぶりを発揮。

そうした点で本書は、“アッコちゃん”の原点とも言うべきアッコ&三智子コンビの活躍が存分に楽しめる巻。
ファンとしては嬉しいかぎりです。

本書で黒川敦子女史は、注目を集めるフード界の新興企業「東京ポトフ&スムージー」の意気軒昂な女社長。一方の澤田三智子はというと、一流企業である高潮物産で派遣社員から正社員へ、さらにチームリーダーに任命されるといった成長ぶり。
ランチのアッコちゃんからだいぶ時が経ったんだなぁと感じさせられますが、三智子とアッコちゃんの関係は相変わらず。ただし、アッコちゃんの威勢がいいのはどうも年下相手に限られているらしい。同年輩の女性と向かい合うと、つい弱音が出てしまうというのは予想外の展開でしたが、それもまた人間らしき哉、と感じます。

「幹事のアッコちゃん」:三智子の後輩社員=久世涼平が主人公。宴会幹事嫌いの涼平に、自分が仕切る忘年会に4日間参加してみろとアッコちゃんが引きずり回し、涼平の目を開きます。
「アンチ・アッコちゃん」:現在はゴシップネットサイトの記者で、かつてアッコちゃんと出身大学同一、しかも同一学年だったという赤井温子が登場。アッコちゃんの予想外な面を引きずり出します。ファンとしては実に見逃せない篇です。
「ケイコのアッコちゃん」:チームリーダーに任命されて以来自分の時間が全くないと愚痴る三智子を、アッコちゃんが自分の習い事に4日間付き合わせ、三智子の目を覚まさせます。
「祭りとアッコちゃん」:アッコ&三智子にとって、スゴロクの上がりと言える篇ではないでしょうか。
アッコちゃんの更なる飛躍、三智子の成長ぶりを謳って本書了。もしかしてアッコちゃん、これで終わり?

※黒川アッコちゃんの前に、「初代アッコちゃん」がいた?
 本書中、このエピソードも見逃せません。


1.幹事のアッコちゃん/2.アンチ・アッコちゃん/3.ケイコのアッコちゃん/4.祭りとアッコちゃん

       

16.
「奥様はクレイジーフルーツ ★★


奥様はクレイジーフルーツ

2016年05月
文芸春秋刊

(1300円+税)

2019年05月
文春文庫



2016/05/30



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“アッコちゃん”シリーズですっかり人気者になった柚木さんですが、毎回、今度はどんな切り口で突っ込んでくるのか?というのが私にとっての興味どころです。

本書、誠に悩ましげな題名ですが、内容はと言うと夫婦におけるセックス、幸福感という相関関係をコミカルかつ切実にして、連作風に描いた長編ストーリィ。
主人公は31歳の人妻、
島村初美。女性誌編集者の夫とは愛し合って結婚し、今でも仲の良いご夫婦ですねと人から言われる程なのですが、実はずっとセックスレス。欲求不満の心とグラマラスな身体を持て余し、男たちの舐めるような視線につい揺れ動いてしまうのですが・・・・。
毎度グチを打ち明け合う相手は、看護師を妻に持つ
羽生俊介。いくら大学の同級生だからといって、既婚の男女同士でここまであけすけにセックスレスの悩みを打ち明け合って良いものか、と可笑しくなります。

セックスレス・・・その究極にあっては、夫婦とは一体何なのかという問題に行き着きます。
専ら女性の側から描かれるストーリィですが、仕事に追われる男性側からすると、初美の夫である
啓介の心境も判るところがあるんですよねぇ。
ともかくも、初美の落ちそうで落ちないところが何とも艶めかしい次第なのですが、その辺りの捌きの妙が柚木さんの達者なところ。初美の馬鹿正直な人の好さと合わせ、悩ましく楽しませてくれます。


西瓜のわれめ/蜜柑のしぶき/苺につめあと/グレープフルーツをねじふせて/ライムで半裸/林檎をこすれば/柚子の火あそび/ピオーネで眠れない/桃の種はしゃぶるしかない/柿に歯のあと/メロンで湯あたり/よそゆきマンゴー

               

17.

「BUTTER ★★☆


BUTTER

2017年04月
新潮社刊

(1600円+税)

2020年02月
新潮文庫



2017/05/14



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2009年に事件化した、木嶋佳苗を犯人とする首都圏連続不審死事件に題材をとった力作長編。
これまで女友達関係を描いた、あるいはコミカルなストーリィが多かった柚木麻子さんにあっては、頁数および実際の犯罪事件を取り扱った点において、これまでの殻を破って一歩脱却したと言える作品。

主人公は、大手出版社の男性向け週刊誌「週刊秀明」編集部の記者、
町田里佳33歳、独身で一人暮らし。
連続不審死事件の被告人、
梶井真奈子35歳のインタビュー記事をものにしようと、料理自慢だったらしい梶井に対して料理レシピを絡めて取材を申し込みます。
梶井と面会するため東京拘置所に通う里佳は、梶井を理解しようとして彼女の示した美味料理、レシピを追体験していくことになります。その結果、里佳の心境や身体つきに変化が現れ・・・。

梶井が示した通りの味覚・料理の追体験、実地取材により梶井の話と事実の異なり、そして大学以来の親友である
怜子の問題、里佳自身の恋人との関係と、読み進むにつれ本作にはいろいろなストーリィ要素が目一杯詰め込まれていることが明らかになり、圧倒される思いです。

しかし、ストーリィ要素が一通り出揃った処から読み解いていくと、本作は決して従来の柚木麻子作品から離れたものではなく、これまでの延長、そして女子だけにとどまらず男女を問わない領域へ一歩進めたストーリィであると感じられます。
料理レシピというのは、ひとつの象徴なのでしょう。
料理をするにあたってレシピに囚われる必要はないし、オリジナルの一工夫を加えるところに、自由も自分らしさも生まれる。また、そうして作った料理を振る舞える相手がいるところに、人と人との、そして社会との繋がりを実感できる、というように。

なお、上記は私が読み解いた本書の読み応えに過ぎません。読む人の読み解き方によって、読み応えや面白味も異なることでしょう。
ぜひ本書を手に取って、自分なりに読み解いてみてください。
そこに本作の読み応えが生まれると思います。

             

18.

「さらさら流る ★★☆


さらさら流る

2017年08月
双葉社

(1400円+税)

2020年09月
双葉文庫



2017/09/11



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元々女子の友情を題材にした作品を多く描いてきた柚木さん、前作BUTTERで初めて社会派的な作品に挑戦していますが、本作もそれに連なる作品。

主人公は、大手コーヒーチェーン会社の広報部宣伝課に勤務する
井出菫・28歳
仕事でネット画像を見ていた時、22歳の時恋人に撮られた自分の全裸写真がネット上にアップされているのを目にし、恐怖にかられます。写真はすぐ削除してもらった筈なのに、一体何故?
ショックの次に菫を襲ったものは、他人の視線に対する恐怖、そして深い自責の念。
こんな事態を招いたのは、自分の過失、罪なのか・・・。

若い女性の身に降りかかったトラブル・・・と思うのは、男性の身勝手な視点に立っているからでしょう。女性の写真を物として見る、自分の所有物のように扱う、という。
本ストーリィの根底には、そんな男性側に偏った社会への糾弾が篭められていると思います。
追い詰められた菫が頼ったのは親友の
野島百合。そしてその親友の「菫は悪くない、悪いのは流出させた人間」という断言と協力が、少しずつ菫を立ち直らせていく方へと向かいます。

その一方、菫と
垂井光晴が恋人になるきっかけとなった大学1年時、サークルの飲み会の後に夜を徹して暗渠を辿り菫の家まで歩いて送ってもらった出来事と、その後の光晴の状況が並行して語られます。

親友や家族の支え、そして菫が立ち直っていく過程も素晴らしいのですが、菫の勤務先の女性相談窓口の迅速な対応も見逃せません。
現代のようなネット社会、個人に対する加害行為に対しては本人だけではなく、社会、組織が一体になって対処する必要がある、とつくづく感じさせられます。

              

19.

「名作なんかこわくない ★★


名作なんかこわくない

2017年12月
PHP研究所

(1600円+税)

2021年01月
PHP文芸文庫



2018/01/11



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子供の頃に観たTV“世界名作劇場”のような一冊を、という思いで綴られたという世界名作ブックガイド&エッセイ集。
結構、面白かったです。

一つには、世界名作における女性主人公あるいは女性の主要登場人物を、自分と比較するような視点から語っていること。それにより、彼女たちが古典文学中の登場人物であろうと、まるで現代に蘇ったように生き生きと感じられることです。
そのおかげで昔読んだきりの作品については、あぁこうした作品だったのかと思いを新たにさせられますし、未読の作品についてはそうした作品なのかと教えてもらったようで、得したような気分になり嬉しい限り。
また、進むにつれ、柚木さんの自分語り部分も増えていき、日常における柚木麻子像が文章中から漏れ出しているように感じられることも、また嬉しい。

なお、赤字で記載した作品は、私の未読作。
圧倒的に日本文学篇で未読が多いのは、女性作家の作品ばかりが取り上げられているのと無縁ではないでしょう。
別に私が忌避していた訳ではなく、文学全集に入っていない作家が多いからなぁ、という事情。

柚木さんの名作語りを読んで、読んでみたい、再読したい、と思った作品が沢山ありました(実際に読むに至るかどうかは別として)。
※個人的にあえて選べば、
「高慢と偏見」「嵐が丘」「緋文字」などは、若い読者が今読んでも面白いと思うなぁ。

【フランス文学篇】
ギド・モーパッサン「女の一生」/ギュスターヴ・フローベール「ボヴァリー夫人」/オノレ・ド・バルザック「谷間の百合」/モリエール「女房学校」/コデルロス・ド・ラクロ「危険な関係」/エミール・ゾラ「
居酒屋」/〃「ナナ」/ラファイエット夫人「クレーヴの奥方」/ジョルジュ・サンド「愛の妖精」/アベ・プレヴォ「マノン・レスコー」/フランソワ・モーリアック「テレーズ・デスケルウ」/スタンダール「赤と黒」
【日本文学篇】
林芙美子「放浪記」/有吉佐和子「悪女について」/幸田文「流れる」/宇野千代「
おはん」/向田邦子「隣りの女」/田辺聖子「返事はあした」/岡本かの子「」/森茉莉「甘い蜜の部屋」/武田百合子「富士日記」/尾崎翠「アップルパイの午後」/山崎豊子「女の勲章」/犬養道子「お嬢さん放浪記」/宮尾登美子「鬼龍院花子の生涯」/石井桃子「幻の朱い実」/壺井栄「二十四の瞳」/三浦綾子「氷点」/鴨井羊子「午後の踊り子」/野瀬七生子「ヌマ叔母さん」/瀬戸内寂聴「夏の終り」/吉屋信子「花物語」/円地文子「女坂
【イギリス文学篇】
ジェイン・オースティン「高慢と偏見」/サマセット・モーム「お菓子とビール」/ヘンリー・ジェイムズ「ねじの回転」/エミリ・ブロンテ「嵐が丘」/シャーロット・ブロンテ「ジェイン・エア」/ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」/チャールズ・ディケンズ「大いなる遺産」/ヴァージニア・ウルフ「
ダロウェイ夫人」/カズオ・イシグロ「日の名残り」/アガサ・クリスティー「春にして君を離れ」/E・M・フォースター「ハワーズ・エンド」/ジョージ・オーウェル「1984年
【アメリカ文学篇】
ナサニエル・ホーソン「緋文字」/マーガレット・ミッチェル「風と共に去りぬ」/L・M・オルコット「若草物語」/L・I・ワイルダー「
この楽しき日々−ローラ物語3−」/ハーマン・メルヴィル「白鯨」/パトリシア・ハイスミス「キャロル」/ジョン・スタインベック「怒りの葡萄」/イーディス・ウォートン「エイジ・オブ・イノセンス」/F・スコット・フィッツジェラルド「グレート・ギャッビー」/ジェームス・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」/トルーマン・カポーティ「遠い声遠い部屋」/ジョン・アーヴィング「ガープの世界

              

20.
「デートクレンジング Date Cleansing ★★
 (文庫改題:踊る彼女のシルエット)


デートクレンジング

2018年04月
祥伝社

(1400円+税)

2021年04月
祥伝社文庫



2018/05/02



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題名の「デートクレンジング」とは、はて何のこと?と誰しも思うのではないでしょうか。
本書を読めばそれはじきに説明されるのですが、女の人はデートをしない時期を意識的に作ろうっていう意味だという米国の造語“デートクレンズ”から。カップル前提の文化に対する反駁を象徴する言葉らしい。

主人公の
佐知子は元栄養士。職場で知り合った夫と結婚した後は仕事を辞め、今は義母が営む喫茶店“ミツ”を手伝っている。
その佐知子の大学以来の友人が
実花で、同じ35歳。アイドル好きでしたが自分には無理と諦めてからは芸能事務所に入り、5人組の女子アイドルグループ<デートクレンジング>のマネージャーを務めてきたが、10年目にしてグループが解散。
その途端、急に結婚したいと言い出し、まるで焦るようにして婚活にハマり出します。要は、結婚しないと社会の落ちこぼれ者になってしまうと思い込んでしまったらしい。

確かに今でも、何故結婚しないの、何故子供を作らないの、等々余計なお節介口を叩く人はいるのでしょう。だからといって、被害者意識に固まり、落ちこぼれ者とまで思い込まなくても。

柚木さんデビュー当時のテーマ、女の子同士の友情を久しぶりに取り扱った作品かと思っていたら、いつの間にかストーリィは広がり、単に女性だけの話ではなくなっていました。

とにかく社会の押しつけに従っていたら、生きにくくなるだけ。でも、それらを無視できるだけ強くなるというのは、中々難しいようです。でもそこに仲間がいれば?

既成概念を乗り越えて生きていくことはできるのか。それには何が必要なのか。
アイドル、オタクという現代的な感情を取り混ぜながら、登場人物たちがある境地へ行きつくまでの過程を描いた長編。
最初、やや平凡な語り口で始まったストーリィが、途中からどんどん面白くなっていくところは、さすが柚木さんの手練の技。
最後は、愉快な気分になって読了。

  

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