柚木
(ゆずき)麻子作品のページ No.1


1981年東京都生、立教大学文学部フランス文学科卒。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」にて第88回オール読物新人賞を受賞。受賞作を含めた「終点のあの子」にて作家デビュー。15年「ナイルパーチの女子会」にて第28回山本周五郎賞を受賞。


1.終点のあの子

2.あまからカルテット

3.嘆きの美女

4.けむたい後輩

5.早稲女、女、男

6.私にふさわしいホテル

7.王妃の帰還

8.ランチのアッコちゃん

9.伊藤くん A to B

10.その手をにぎりたい

本屋さんのダイアナ、ねじまき片想い、3時のアッコちゃん、ナイルパーチの女子会、幹事のアッコちゃん、奥様はクレイジーフルーツ、BUTTER、さらさら流る、名作なんかこわくない、デートクレンジング

柚木麻子作品のページ bQ


マジカルグランマ、らんたん、ついでにジェントルメン

柚木麻子作品のページ No.3

 


      

1.

●「終点のあの子」● ★★


終点のあの子画像

2010年05月
文芸春秋刊

(1333円+税)

2012年04月
文春文庫化



2010/06/01



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プロテスタント系の有名女子高を舞台にした、女子高生小説。

最初は割と平凡な少女小説と思ったのですが、ストーリィが突然に一変すると、もうそこは、のけぞるような世界。高校生ぐらいの少女の恐ろしさ、残酷さを思い知らされるという感じで、思わず戦慄を覚えました。
冒頭の篇は、オール読物新人賞を受賞した作品。その篇を基軸として、同じクラスの女子生徒を順次主人公にした連作短篇集。

注目されたい、でも仲間外れにはなりたくない。
風変わりな子がいれば、その子に惹かれる。でも相手に従うつもりはなく、むしろ自分に合わせて欲しいと望む。
本当の自分が平凡であれば、相手にも平凡であって欲しいという身勝手さ。
その望みが叶えられないと判ると、憧れは一瞬にして憎しみへと変わってしまう。
要は自分のことが一番大事ということなのでしょうけど、そんな身勝手で、極端な行動に走ってしまう少女たちの、揺れ動く思春期の心理を鮮烈に、見事に描いた連作短篇集。
この衝撃度は、率直に言って、凄い!

「フォーゲットミー、ノットブルー」は、中学から持ち上がりの希代子と、高校から入学してきた奔放な少女=朱里の関係を描いた、鮮烈な篇。
「甘夏」は、クラスで目立たない生徒の森ちゃんが、新しい経験をしたいとアルバイトを始めて知る、学校外の現実。
「ふたりでいるのに無言で読書」は、クラス一華やかな美少女=恭子が、対照的にダサイ同級生=早田早智子と、思いがけず夏休み中に親しくなる経緯と結末を描いた篇。
「オイスターベイビー」は、高校を卒業して4年後の朱里を描いた篇

フォーゲットミー、ノットブルー/甘夏/ふたりでいるのに無言で読書/オイスターベイビー

                 

2.

●「あまからカルテット」● ★★


あまからカルテット画像

2011年10月
文芸春秋刊

(1400円+税)

2013年11月
文春文庫化



2011/11/03



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女子高中等部時代からの仲良し4人組。
深沢由香子は料理好きな主婦、葛原咲子はピアノ講師、島田薫子は雑誌編集者、そして立花満里子は化粧品メーカーの美容部員。
性格も立場も全く異なる4人ですが、月に1回咲子の家に集まってティーパーティをするのが長く続いた恒例行事。
恋に、仕事に、ピンチに、誰かが困れば残る3人が一緒になって助けてくれる。そんな女子4人の友情物語を描いた連作短篇集。
実に楽しいこと、彼女たちの友情関係が羨ましいこと、しきりです。

さてストーリィはというと、
咲子が恋した相手は、真に美味な
稲荷寿司を作る人。シンデレラのガラスの靴ならぬ稲荷寿司を携えて、3人が活躍。
料理のオリジナリティに自信を無くした由香子。彼女のために3人が、記憶に残る
甘食を頼りに幼い頃の遊び相手を探し始めます。
恋人の気持ちに不安を抱いた満里子、彼女のために3人が真相を追求しようと大奮闘。
薫子の新婚住居に届いた謎の、美味なる
ラー油。その秘密は? 女子4人よる日常版探偵ストーリィ。
そして大晦日、おせち作りという難題を抱えた薫子を3人が助けようとするのですが、4人が4人とも各々究極の危地に陥るという、パニック・エンターテイメント風の展開。4人の友情物語総決算というべき篇です。

4人の異なる個性、その特技を生かして仲間の為に奮闘する友情ストーリィ、とにかく楽しいこと請け合いです。

恋する稲荷寿司/はにかむ甘食/胸さわぎのハイボール/てんてこ舞いにラー油/おせちでカルテット

     

3.

●「嘆きの美女」● ★★☆


嘆きの美女画像

2011年12月
朝日新聞出版

(1500円+税)

2014年06月
朝日文庫化



2012/01/17



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主人公の池田耶居子、子供の頃からブスだといじめられ、就職先でも邪険にされ、25歳にして実家の自分の部屋に引き籠り。唯一の楽しみは、ネットのサイト荒し。
その標的のひとつであるサイト
“嘆きの美女”のオフ会を荒してやれと思って出かけたところ、思わぬトラブルに巻き込まれ大怪我、逆にその美女たちの介護を受ける羽目になります。
そのうえ、美女たちの中心人物は小学校のクラスメイト、豪邸に住む学年一の
浜島ユリエだったとは!
ユリエとその家に同居する3人の美女たちに介護され、毒を吐くこともできず大人しくしている耶居子がそのうち気付いたことは、美女だからといって良いことばかりではないこと、嫌われたのは自分にも原因があったのではないか、ということ。

本作品、要は大人の女性たちの成長物語なのですが、同時に痛快なエンターテイメント!
本音まるだし、痛烈なしっぺ返しを吐く耶居子のキャラクターが面白さの一つであることは疑いありませんが、予想をする間もなくどんどん転がるように展開していくストーリィに抜群の面白さあり!
耶居子、ユリエだけでなく、同居の美女たち、そして彼女たちに対して悪役というべき男性も、良い人物か悪い人物かにかかわらず、皆個性的で飽きるということがありません。
まさに、女性向けの、女性たちのためのエンターテイメント。
「嘆きの美女」という題名、読む前は嫌味かと感じたのですが、読了後は成る程と納得。題名の付け方にも妙味があります。
なお、女性たちが話題にする映画
愛しのローズマリー、それも良いんですよね。
 
「耶居子のごはん日記」は、上記の付録、後日談というべき短い篇で、これはこれでまた楽しい。コース料理の後に出てきた仕上げのデザートという感じです。

嘆きの美女/耶居子のごはん日記

           

4.

●「けむたい後輩」● ★★☆


けむたい後輩画像

2012年02月
幻冬舎刊

(1500円+税)

2014年12月
幻冬舎文庫化



2012/03/20



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柚木さん、これまで仲の良い、あるいはお互いに協力し合う女性グループを主人公にした作品を書いてきましたが、本作品はこれまでとは打って変わった趣向。他と群れない風を気取る先輩女子と、彼女を一方的に信奉する後輩女子、そしてその後輩女子を心配して先輩女子に対抗心を燃やす女子という、三者三様の女子大生3人が主人公。
そんな3人の微妙な関係を見事にモノにしたという点で、本作品には喝采を送りたい程です。
 
横浜山手にある名門女子大=聖フェリシモ女学院大学の2年生、
増村栞子はかつて14歳の時に詩集を出版して注目を集めますがその後は鳴かず飛ばず。その栞子に出会った1年生の羽柴真実子、栞子を盲目的に信奉して何でも言う通り。病弱なのにタバコ中毒の栞子なんかと一緒にいてと心配するのが、親友にして女子寮で同室の浅野美里
ちょうど真実子を間にして、栞子と美里は対照的な位置に立つ、という風です。

栞子、真実子をうざったいと扱っている風ですが、実は自分をもてはやしてくれる真実子の存在が有り難い。
一方、美里の方は幼稚園からの親友である真実子が、栞子をばかり優先するので内心穏やかではいられない。
そして真実子、うぶなようでいて奥深いところでは栞子の寂しさを見破っているのか。
スリリングささえ感じる、乙女たちの対決型成長ストーリィ。
年を追うに連れ、彼女たちの真価、真の姿が徐々に露わになっていくところが見応えあり。
とくに女性読者にお薦めしたい逸品。

真実子、とりこになる(一年生編)/真実子、とりのこされる(二年生編)/真実子、トリコロール(三年生編)/真実子、鳥になる(四年生編)

             

5.

●「早稲女、女、男」● ★★


早稲女、女、男画像

2012年07月
祥伝社刊

(1400円+税)

2015年09月
祥伝社文庫化



2012/08/15



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早見和真「は東京六大学野球を題材に各大学の個性を描いた作品でした。本書はそれに似た趣向ながら、6つの大学女子を描きながら主に早稲女をターゲットにした痛快女子小説。

章毎、有名大学の女子を主人公にその恋模様等々を描きつつ、各大学女子のキャラクターを端的に語っていくところが本書の面白さ。
そんな彼女らの比較目線の先にいつもいるのは、女らしさを欠いていて粗野な印象ながら何故か男共に人気のある早稲女=
早乙女香夏子。そこにおいて必然的に早稲女の類型も描かれる、という趣向。
私としてはそんな大学類型に自分を合せる必要などないだろうと思うのですが、それでも大学毎の女子イメージというのは確かにあるもので、経験的に知っているということはありませんが、そうそうそんなイメージだよなぁと思えるところが楽しい。

とはいっても、それだけでは単なるヴァラエティ番組のようなユーモア小説に留まるところ。
柚木さんの上手さは、最終章にて6年後の早稲女=香夏子たちを描いたところにあります。
大学によるキャラクターの違いといっても所詮学生+α時代に留まるものであって、社会に出ると決してそれだけではないということが語られているように思います。
それなのに、今もなお早稲女の不器用さ丸出しのままでいる香夏子が、とても愛らしく感じられます。
“女子小説”の逸品、お薦めです。

愛の魂正義の心(立教大学−立石三千子の場合)
匂うがごとく 新しく(日本女子大学−本田麻衣子の場合)
花は咲き 花はうつらふ(学習院大学−早乙女習子の場合)
往け 涯なきこの道を(慶應義塾大学−慶野亜依子の場合)
ひとり身のキャンパス 涙のチャベル(青山学院大学−青島みなみの場合)
仰ぐは同じき 理想の光(早稲田大−早乙女香夏子の場合)

             

6.

●「私にふさわしいホテル」● ★★☆


私にふさわしいホテル画像

2012年10月
扶桑社刊

(1429円+税)

2015年12月
新潮文庫化



2012/11/20



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新人女性作家が有名になるまでのステップアップを連作形式で綴った、これはもう傑作!と言いたくなるユーモア小説。

小説家志望の
中島加代子、さる出版社が新たに設けた新人賞を受賞したものの、同時受賞者が元アイドルということもあって見向きもされず。老舗出版社の編集者である大学の先輩=遠藤道雄からは、才能のなさをくそみそに罵倒されるばかり。
しかし、踏み付けにされてもそのまま這いつくばってはいないのがこの加代子。試練に会うたび奇手を思いついては、チャンスをものにしてしまうというパターンの繰り返し。
まさに抱腹絶倒の、新人作家パロディ、痛快コメディなのです。思わず手を打ち躍り上がって喜んでしまいたくなる面白さ、こんな楽しさ、
小林信彦「唐獅子株式会社を読んだ時以来ではないかと思う程。

人気ベテラン作家の
東十条宗典と何度怒らせても一歩も引かず、結局は四つに組んで押し倒す、といった具合。
そんな主人公=中島加代子のキャラクターが抜群!なのです。
打たれ弱いくせにふてぶてしく、したたかな割に小娘のような気配を漂わせ、上昇志向とハッタリの強さは並大抵でない。そのくせ小説家に必要な発想力と描写力は多分に備えているというのですから、憎たらしくてもどこか憎めずという風。
その一方、新人作家の本音、屈折感や怨念もさぞや籠っているのだろうなぁと窺えるところがリアルで、読み甲斐あり。
何と、実在の人気作家まで筆名そのままに登場させてしまうのですから、またまた笑い転げ回りたくなってしまいます。
編集者=遠藤、重鎮作家=東十条とがっぷり四つに組んでの、加代子の小説家ステップアップ物語。 是非、お薦め!
 
※出版社紹介文に
「ユズキ、直木賞あきらめたってよ(笑)」by豊崎由美 とありその意味がよく分からなかったのですが、読めばすぐ分かります(笑)。まさに一発的中の寸評です。

私にふさわしいホテル/私にふさわしいデビュー/私にふさわしいワイン/私にふさわしい聖夜/私にふさわしいトロフィー/私にふさわしいダンス

               

7.

「王妃の帰還」 ★★


王妃の帰還画像

2013年01月
実業之日本社

(1400円+税)

2015年04月
実業之日本社
文庫化



2013/02/18



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面白いなぁ、柚木麻子作品。
ストーリィ設定、登場人物らのキャラクター、予想もつかぬ目まぐるしい展開、どれをとっても絶妙の面白さです。
舞台はさる名門私立女子校の中等部2年B組のクラス。そのクラスの女子は5グループに分かれている、という設定がミソ。
その中、女王然とクラスに君臨していた美少女=
滝沢が、あろうことか或る行為を糾弾されて姫グループを追われ、主人公であるノリスケこと前原範子の属する地味っ子グループ入り。
思わぬ同級生に仲間入りされ、仲間内で不協和音が生じ始めた範子たち、何としてでも滝沢を姫グループに戻さなくてはと決意。
さて
“王妃帰還作戦”の結果は・・・というストーリィ。

まるで革命前のフランス身分制度を思わせる舞台設定が絶妙の面白さ。“王妃”とは
マリー・アントワネットに準えて範子がつけた滝沢の異名。
ひとつの駒がグループを追い出されただけで各グループの枠までが流動的になり、読者も主人公もまるで予想しなった展開へ。
表題、出版社の紹介文から予想されるだけの単純なストーリィではないのです、この波乱万丈の物語は。(笑)

交わり、関わり合って初めて知る、友人や同級生たちの弱い処、そして秀でた処。それを知り、お互いに認め合ったところに彼女たちの成長も生まれます。
特筆したいのは、それは何も友人、同級生とのことだけでなく、自分自身にも言えること。友人たちの目に映る自分、そしていざとなった時に現れた自分の姿は、自身でも思いもよらぬものだった。そこに中2女子がもつ可能性の大きさが語られるようで、すこぶる楽しい。そこに至って初めて、マリー・アントワネットの遺したという言葉が効いてきます。

中2女子の波乱&成長ストーリィ。柚木麻子さんからは、当分目が離せないようです。

1.ギロチン/2.マカロン/3.ディアマン/4.ハンカチ/最終話.王政復古/エピローグ

                

8.

「ランチのアッコちゃん」 ★★


ランチのアッコちゃん画像

2013年04月
双葉社刊

(1100円+税)

2015年02月
双葉文庫化



2013/05/07



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どの作品を読んでも本当に面白いなぁ、柚木麻子。
本書は題名からしてもユーモラス、楽しくなります。
いずれの篇も主人公は、しがない会社員生活に行き詰まりを感じている派遣社員等々の女性たち。
そんな彼女たちでも、発想を転換して、一歩自由な気分で足を踏み出せば毎日を楽しく過ごせるかもしれない。そんな元気をもたらしてくれる軽妙洒脱な短篇集です。
なお、“アッコちゃん”という名前、すぐ連想するのは某有名歌手ですが、本書に登場するアッコちゃんの由来は違うのだそうです。お楽しみに。

「ランチのアッコちゃん」
主人公は派遣社員の
澤田三智子。19歳から4年付き合った恋人にフラれてしょぼん。そんな三智子に昼食の交換を申し出てきたのは、アッコ女史こと黒川営業部長、独身45歳。そのアッコ女史が突然申し出てきたのは、三智子が一週間弁当を作って来てくれる代わりに、自分の一週間の外食メニューとランチ代を提供するというもの。割り切れない思いをしつつ応じた三智子ですが、それからの一週間は毎日驚きの連続。いつのまにか昼食時間が楽しみになります。さて、その秘密とは・・・。
「夜食のアッコちゃん」
主人公は引き続き澤田三智子。ただし前篇とは別の会社に派遣中。寒い公園で一人寂しく弁当を食べているところにいきなり現れたのは、アッコ女史。しかもワゴン車を使ってのポトフ移動販売を展開中という。
すぐさま三智子、アッコさんの手伝いをしたいと申し出ますが、とりあえず一週間様子を見ようということに。そこから仕事の傍らに移動販売の手伝いをすることになるのですが、驚きの連続。いつしか三智子も発奮させられて・・・。
「夜の大捜査先生」
合コン参加中の派遣社員=
満島野百合30歳、偶然にも夜遊びの後輩女子高生を追いかけるかつての担任教師に遭遇、一緒に女子生徒を追いかけることに。題名の由来は勿論、名作映画“夜の大捜査線”のもじり。
「ゆとりのビアガーデン」
余りの使えなさぶりに退職も当然と思ったかつての社員=
佐々木玲美、一年ぶりに姿を見せたと思ったら、主人公である豊田雅之が社長を務める社内ベンチャー企業が入居しているビルの屋上でビアガーデンを開くと。さてどんな展開が待ち受けているやら。

柚木作品の魅力は、次にどんな展開が待っているのかまるで見当がつかないこと。しかもテンポよく、ぐいぐい読み手を引っ張って行って思わぬ景色を見せてくれるところにあります。
こうした軽妙洒脱な短篇集、私は大好きです。

ランチのアッコちゃん/夜食のアッコちゃん/夜の大捜査先生/ゆとりのビアガーデン

          

9.

「伊藤くん A to E」 ★★


伊藤くんAtoE画像

2013年09月
幻冬舎刊

(1300円+税)

2016年12月
幻冬舎文庫化



2013/10/21



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なんて、面白いんだろう! 柚木麻子。
美人だしデキル女なのに伊藤なんていうどうしようもなく自己中心的な男に引っかかって、ずっと振り回され続けているなんて。と思ったのが
「A」。ところが次の「B」と進んでその仕掛けの面白さが判ると、もうひっくり返って嬉しくなってしまう。

27歳にもなるくせに子供っぽいところ丸出し、言うなればボンボンという男=
伊藤誠二郎。その伊藤に何故か関わってしまった女性たち5人のドタバタ恋愛劇、それを土台にして一歩前進する女性たちの姿を描いた連作風長編小説。

何が面白いって、セリフ、会話が生き生きとしていて実にリアル、そして意外なところでシビア、痛快なのです。この辺りが柚木麻子作品の尽きない魅力。
とんでもないズッコケばかりの恋愛小説なのですが、その中身は複層構成になっていて、噛めば噛むほど美味がにじみ出てくるという風。
伊藤誠二郎という男、いい加減なのか、それとも自分の欲求に忠実な余り人の感情にすこぶる鈍感なのか。
そんな伊藤と比較して、女性たちは皆必死、懸命なのです。恋心なんてそんなものなのか。
とはいえ、伊藤誠二郎が立ち止ったままであるのに対し、彼女たちはそれをバネに前進していく。伊藤の恋が実らないのも当然なのです。

痛快な展開、魅力的な会話に、女性たちの証言を重ねて伊藤誠二郎のダメさぶりを立体的に描いていく構成。さらに若い女性たちのへこたれない逞しさをはつらつと描いていて、思わず読み惚れてしまう一冊。ただし、最後の
「E」に関してはかなりシビア。

まだ柚木ファンでない方に、本書も是非お薦めしたい一冊。

伊藤くんA/伊藤くんB/伊藤くんC/伊藤くんD/伊藤くんE

※映画化 →「伊藤くん A to E

          

10.

「その手をにぎりたい」 ★★




2014年01月
小学館刊

(1300円+税)

2017年03月
小学館文庫化



2014/02/20



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栃木の女子大を卒業して東京でOLをしていた青子(せいこ)、姉の結婚を機に実家へ戻って父親の面倒を見ようと退職を決めたところ、最後にと社長が連れて行ってくれたのは知る人ぞ知るという鮨の名店<すし静>。
味わいを守るため職人が握った鮨を掌から受け取って食べるというのがその店の作法。その美味と若い職人に惚れ込んだ青子は、その店の常連になることを夢見て東京に留まる道を選択します。
その時から一年ごと、9年にわたって青子とその時代の変化を描いた長編小説。そして時代はバブルで土地価格が高騰、誰しも不動産投資熱に浮かれた頃。

純朴なOL=
青子と、無口で一途な鮨職人=一ノ瀬の9年に亘って少しずつ階段を登っていくような成長+恋愛ストーリィかと思って読み始めたのですが、あにはからんや。
年を重ねれば人も変わるものと言いながらも、青子の変化には驚く程。それに対し変化があるとはいえ、店内で地道にネタを握り続ける一ノ瀬の姿の変化は小さなものです。まさしく“動”と“静”。しかし、そんな中で<すし静>が青子の心の中で大事な縁となっていたということに救われます。おかげで青子を嫌いにならずに済んでいるのかもしれません。

不動産バブルとその崩壊という時代の中、青子だけでなく<すし静>もまた試練に揉まれます。それでも大事なものを心の中に抱いていれば、また新たなスタートを切ることができる。
あの時代を振り返ると、直接不動産業界に身を置いていなかったとはいえ、どこか心の中に痛みを覚えざるを得ません。
本書は、バブル時代を背景に2人の出発〜変化〜再出発という過程を一年毎に描いた連作風長編小説。
最終場面、再スタートを切ろうとする2人の背中に、ホッとする思いが湧き上がります。


1.ズケ1983.6.6/2.ガリ1984.5.15/3.イカ1985.9.17/4.ウニ1986.7.17/5.サバ1987.10.23/6.トロ1988.12.23/7.ギョク1989.11.25/8.タコ1990.11.24/9.エビ1991.9.20/10.サビ1992.5.20

     

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