ナサニエル・ホーソーン作品のページ


Nathaniel Hawthorne 1804〜1864年 米国マサチューセッツ州セーレムの、ピューリタンの旧家に生まれる。1825年ボードン大学卒業後、セーレムの自宅で半ば隠遁的な生活をしながら執筆活動を行う。1828年処女作「ファンショー」を自費出版。1837年短編集「トワイス・トールド・テールズ」によって作家として認められるに至った。代表作は1850年発表の「緋文字」。


1.
ウェイクフィールド

2.緋文字

  


 

1.

●「ウェイクフィールドウェイクフィールドの妻」● ★★★
 
原題:"WAKEFIELD/La Mujer de WAKEFIELD"
     訳:柴田元幸




1835年発表

2004年10月
新潮社刊

(1600円+税)


2005/01/05


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「およそ文学における最高傑作の一つと言っても過言ではない」と激賞され、カフカやオースター等の作家に影響を与えたといわれる作品ですけれど、それ自体は比較的あっさりした短篇小説に過ぎません。
しかし、そのごく短いストーリィの中に実に多くの謎が隠されている。そこに、本作品が特異な光を放っている理由があります。

ストーリィは次のとおり。
結婚後10年を経た夫ウェイクフィールドが、旅行に行くと言って家を出たまま消息を絶つ。しかし、その夫は自宅のすぐ隣の通りに間借りし、20年以上もの年月を発見されないまま過ごす。そしてある夕暮れ、あたかも出かけていたのは一日だけという風情で自宅に戻り、終生を愛情深い夫として過ごした、というもの。

何故彼はそんな行動をとったのか、何故発見されなかったのか、生活費はどうしていたのか、妻はその間どうしていたのか、夫はどんな心理で戻ったのか、妻はすんなりと帰宅を受入れたのか、等々、疑問は尽きることがありません。
しかし、それらの謎は一切明らかにされないまま、この短篇小説は終えられています。だからこそ、それを別の見地から描く小説が求められるのでしょう。

「ウェイクフィールドの妻」は、上記ストーリィを妻の側から描いた作品です。「ウェイクフィールド」あってこそ興味をそそられる小説ですけれど、「ウェイクフィールドの妻」が書かれたからこそ「ウェイクフィールド」にもまた新たな面白さを見出すことができます。

  

2.

●「緋文字」● ★★★
 
原題:"The Scarlet Letter"




1850年発表

新潮文庫刊

1992年12月
岩波文庫

1995年11月
角川文庫


1970/09/05
1988/10/01


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最初に読んだ印象から言うと、まず古臭いという気がします。登場人物の行動が少なく、むしろ解説が多くて抽象的、かつ理屈っぽい。
しかし、本作品のテーマが神と罪という宗教的要素の強いものであることからすれば、致し方ないことなのかもしれません。
ストーリィは比較的単純なもの。

ニューイングランド・ボストンのヘスタ・プリンは、夫の消息がないままに姦通し、女の子パールをもうけてしまう。その結果としてヘスタは、姦淫を象徴する“A”の字を生涯服につけなければならないという罰を言い渡されます。
犯した罪の結果として強いられたヘスタとパールの孤独で寂しい生活は、逆に清貧なものとして次第に人々の敬愛を集めるようになります。
その一方、ヘスタと罪を犯した人物は共に処刑台に上げられることはなかったが、表面的な罰を受けなかったがためにかえって内面に高まっていく罪の意識にさいなまれ、健康を損なってしまいます。
そしてもう一人、大陸から遅れてボストンの地に到着したヘスタの夫は、正体を隠して犯人探しに執念を燃やす。

ヘスタは、罪を犯しながらも公の罰を受け、その生活の中で逆に人格を高めていきます。女性のしたたかさを強く感じさせられる部分です。
その一方、隠された故にかえって罪悪感に滅びた相手、復讐心にかられた結果自らの人格を貶めてしまったヘスタの元夫。
本書は、これら3人の姿を対照的かつ象徴的に描いて、素晴らしい作品となっています。
また、エピローグのヘスタの姿には感動を覚えざるを得ません。
一度読んだら決して忘れられない名作です。

  


  

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