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12.山彦ハヤテ 13.南総里見白珠伝−紅無威おとめ組− 14.退屈姫君 これでおしまい 15.桜小町−ひやめし冬馬 四季綴り− 16.壇ノ浦の決戦−紅無威おとめ組− 17.ふくら雀−ひやめし冬馬 四季綴り− 18.青葉耀く−敬恩館風雲録− 19.道草ハヤテ 20.いそさん |
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●「紅無威(くれない)おとめ組−かるわざ小蝶−」● ★ |
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2008年05月
2005/11/06 |
「退屈姫君恋に燃える」に続く米村作品であり、“大江戸チャーリーズエンジェル”という帯文句もあって、大いに期待して読んだのですが、期待外れ。 まず中洲新地で評判の軽業娘、早飛小蝶が登場。 なお、中盤に冬山大次郎という道場主が登場するのですけれど、その道場は真先稲荷の近くにあって、冬山の妻女は田沼意次の妾腹の娘だというのですから、?の後に笑ってしまう。 |
●「山彦ハヤテ」● ★☆ |
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2011年10月
2008/03/14
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米村作品といえばこれはもう、楽しめること請け合い!、のようなもの。 今回も講談調、いやむしろ紙芝居調とでも言いたいような、気軽に和気藹々と楽しめる、時代物娯楽小説です。 人は好いのだけれど善良すぎて頼りない、というのが陸奥国折笠藩5万石の若き藩主、三代川正春。初めてのお国入りだというのに、さっそく藩内抗争、跡継ぎ問題をめぐって命を狙われることになります。 光春といい、ハヤテといい、尾ナシといい、各々魅力的なキャラクターです。相手が藩主だというのに平気でマサ呼ばわりするハヤテ、そのハヤテを美女に誘惑されないためお守り代わりに利用しようという光春。両方とも有り得ないような設定だからこそ、楽しくて仕方ないのです。2人+1匹とも、どこか欠けたところのあるキャラクターだからこその魅力、と言って良いでしょう。狼の尾ナシは、シッポが欠けていますし。 明朗+時代もの冒険譚、宮本昌孝「夕立太平記」を久しぶりに思い出しました。 雪虫/雪ごもり/かごめかごめ/通せんぼ |
●「南総里見白珠伝(はくじゅでん)−紅無威おとめ組−」● ★☆ |
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2009年06月
2008/07/05
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“大江戸チャーリーズエンジェル”と称した「紅無威(くれない)おとめ組」シリーズ、第2弾。 女武芸者の桔梗、かるわざ小蝶、発明家の萩乃というおとめ組3人が、稲葉家の礼姫を救うべく館山藩に乗り込む、というストーリィ。 前作はプロローグ的な要素が強く、面白いシリーズになるかどうかは次作を待ってみないと判らないと感想を書いたのですが、いやあ、参りましたね、第2作にこんな展開をもって来るとは! 題名から滝沢馬琴作「南総里見八犬伝」がモチーフになっていることは誰でも気付くこと。 里見家伝説は出てくるわ、玉は出てくるわ、ゝ大法師に浜路、馬加(まくわり)大記に玉梓まで登場するかと思えば、最後は里見家の末裔まで登場と、「南総里見八犬伝」がお好きな方なら、呆れ返りつつ、ひっくり返って面白がれる作品だと思います。 |
●「退屈姫君 これでおしまい」● ★☆ |
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2009/01/02
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「風流冷飯伝」三部作の第2弾であった「退屈姫君伝」から始まる“退屈姫君”シリーズも、「退屈姫君海を渡る」「退屈姫君恋に燃える」と続いていよいよ本書が最終巻とのこと。 寂しいようなぁ、何とかならないのかなぁと思っても、表題で「これでおしまい」と言われてしまったのですから、最早致し方ありません。 「めだか、天下の一大事だ!」と駆け込まれる度、「すてきすてき!」と目を輝かせる風見藩時羽直重の正室めだかの、とんでもない活躍ぶりを楽しめるのもこれが最後。 本巻は、めだかの未婚の三姉姫=猪鹿蝶の失踪話から始まり、江戸市中の変わり菊競べをめだか達と楽しんだと思ったら、それが田沼父子の悪巧みとの対決にまで発展する、というストーリィ。 前3作に較べると、破天荒な面白さは薄れ、ストーリイのテンポもちと遅い気がしますが、最終巻らしくお馴染みの顔ぶれが勢ぞろいする楽しさあり。 ※なお、その後のお仙がどうなったかを知りたい方は、「面影小町伝(錦絵双花伝)」へお読み下さい。これも面白さ抜群です。 |
●「桜小町−ひやめし冬馬 四季綴り−」● ★ |
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2010/08/09
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亡き父親が小姓頭時代にしくじりを犯したおかげで中士から下士に格下げとなり、一色冬馬はその次男=部屋住みということもあり至って貧乏。鳥を捕っては仕込んでから売るというのが唯一の小遣い稼ぎの手段。 “冷や飯食い”となれば連想するのは「風流冷飯伝」。そのうえ上記のような出だしとなれば、米村さんらしいユーモラスな展開を予想するのは当然でしょう。 同じ冷や飯仲間だという、絹の妹=波乃、冬馬の親友=十蔵のキャラクターが良くも悪くも楽しめます。 |
●「壇ノ浦の決戦−紅無威おとめ組−」● ★ |
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“大江戸チャーリーズエンジェル”と称した「紅無威(くれない)おとめ組」シリーズ、第3弾。
前作「南総里見白珠伝」で、紀伊国屋文左衛門の末裔・幻之介に萩乃を人質にされた桔梗と小蝶、船でその後を追いますが、浦賀水道で難波した船と水夫たちに遭遇。 さらに、小蝶の師匠である早飛新左の出自、新左と小蝶との経緯が明らかにされる他、「白珠伝」に登場した八つの珠の秘密も明らかになるという展開で、総決算的。 荒唐無稽、奇想天外、SF、伝承話までといい、登場人物一人一人が語るセリフの面白さといい、いかにも米村圭伍らしいところで私は大好きなのですが、物語の面白さ、興奮できたかどうかという点では今一つと言わざるを得ないのが残念。 |
●「ふくら雀−ひやめし冬馬 四季綴り−」● ★☆ |
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2011/01/22
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「桜小町」に続く、冷飯喰い(部屋住み)の一色冬馬22歳を主人公にした“ひやめし冬馬四季綴”シリーズ第2弾。 前作で次席家老奥田家の次女=波乃に惚れ込まれたのはいいけれど、部屋住みという境遇では結婚もままならず。 「いつになったら、波乃は角隠しをかぶれますの」「わたくしはもう十八ですのよ」と、会うたびに波乃に責められようが、そうそう出世の糸口が転がっている訳でもない。 ところが、それが転がっていたことからもう大騒ぎ。突然に藩内で雀とりをめぐっての大騒ぎが始まったと思ったら、藩主の一人娘の婚礼決定。その嫁ぎ先の家紋が“ふくら雀”なのだという。 冬馬、波乃に強硬にせっつかれたと思ったら、実家でも母親がまなじりを決して冬馬に雀とりを命じる、という具合。やれやれ・・・・。 早くも波乃の尻に敷かれつつも、どこか抜けていて憎めないところが冬馬の持ち味。 時代小説にして現代風の滑稽譚。これって、“退屈姫君”シリーズに代わる滑稽譚シリーズなのかも。 ただ、退屈姫君に比べ今一つ楽しめない、物足りなさを感じるのは、肝心なところで弱気になる冬馬のキャラクター故かもしれません。波乃をして「冷飯根性が染みついている」と非難される部分。 まぁ、それもあって滑稽譚になっているというところもあるのですから、一概に批判はできないかもしれませんが。(苦笑) 本書で新たに登場した人物は、鳥羽新之介。中老家の嫡男で波乃の元婚約者。婚約が破棄されたといっても新之介、波乃への想いを捨てた訳ではなかったらしい。冬馬−波乃−新之介という三角関係が明らかになり、さて冬馬、どうする? ややこしいのは、波乃もついつい2人の間で心揺れてしまう、という所為。 本書の最後で冬馬と主要人物、何と揃って江戸へ向かうこととなります。したがって次の舞台は江戸? ※なお、本書で見逃せないのは、婚礼の仲人を務める讃岐国風見藩主・時羽秀憲が正使として海棠藩に遣わした榊原数馬という老人。その名前からしてもしや・・・・。 |
18. | |
●「青葉耀く−敬恩館風雲録−」● ★★ |
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2011/09/18
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千歳藩の僻村から、大月寅之助と矢島小太郎という共に14歳の少年が城下に新設された藩校への進学が許される、というところから始まる青春もの時代小説かと思ったところ、お家騒動あり、御落胤騒動ありといった時代劇の定番要素を盛り込んだ、真っ向勝負と言って異論ないストーリィ。 ただし、そこはやはり米村さんらしい処と思うのは、主役2人に相応して2人の美少女が登場して冒険の一翼を担うこと。ひとりは町道場の娘で弓の名手である夏巻京、もうひとりは城下の豪商の娘である鳴海屋鈴。この2人がどんな関係かというと、今は亡き藩主の娘=双葉姫の学友であり、姫からまだ見ぬ弟君のことを共に頼まれた間柄。そこで2人が結成した秘密結社が“河童組”という次第。 新設の藩校という舞台設定も面白いのですが、お家騒動、御落胤となればやはり時代劇の定番、その展開も十分楽しめます。 とはいえ御落胤ネタ、当の御落胤は寅之助と小太郎のどちらかなのかという点で、読者に対しても二重三重の仕掛けを施しているのですから、米村さん、やはり喰えません。 本作品で一番面白いのは、同じ寅之助&小太郎擁護派といってもそれら人物は身分や境遇は多彩であり、おまけに各々の立場によってどういった選択肢を取るかは様々である処。中には片方をあえて犠牲にしようとする人物もいるのですから。さらに、お互いに考えているところがこれ以上ない位キレイにすれ違っていたりするのですから、たまらなく可笑しい。 お家騒動、御落胤といった真っ向勝負の時代劇ストーリィに、青春友情篇、少年少女探偵団による活劇といった趣向を加えた、存分に楽しめる長篇時代小説の佳作。 ※なお、千歳藩主の来栖家、家紋は“ふくら雀”とか。 |
19. | |
●「道草ハヤテ」● ★☆ |
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2012/11/04
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「山彦ハヤテ」の続編。 前作は、陸奥国折笠藩の山中に暮していた野生児=ハヤテと、若き藩主=三代川正春、狼の尾ナシが国許から江戸へ向かう流れのストーリィでしたが、本書は逆にハヤテと尾ナシが僧籍に入ることを決断した正春の弟=徳念こと正延と共に江戸から折笠へ向かう道中の冒険譚を描いた作品。 「嫌われ尾ナシ」は、幕府直轄の放牧地に足を踏み入れたハヤテらが、巨躯の外国産馬=オランダさまを巡る騒動に巻き込まれるという話。 その一方で尾ナシが雌狼と繰り広げる恋の顛末話が楽しい。 「逃げろ徳念」は、徳念の容姿に一目惚れした博徒の娘=お熊が何とか徳念の気を引こうと策略を巡らす一方で、千鶴と名乗るお熊にこれまたハヤテが初恋という、三角関係を描いた篇。 「狐の嫁入り」は、狐の嫁入りを目撃してしまった徳念とハヤテが、狐が化かした世界に入り込んでしまい、危うい目に会う話。 他の時代小説とは趣を異にする作品の多い米村圭伍さんですが、それにしても本書の風変わりさはまた特別と感じていたら、本作品はスウィフト「ガリヴァー旅行記」をモチーフにしているのだそうです(ちなみに「山彦ハヤテ」はM・トウェイン「ハックリベリー・フィンの冒険」がモチーフとのことか)。 「狐の嫁入り」の現代日本に対する風刺性といい、それを聞いて成る程と得心がいった次第です。 嫌われ尾ナシ/逃げろ徳念/狐の嫁入り |
20. | |
「いそさん」 ★★ | |
2014/01/30
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現代的なユーモア感あふれる講談調の作品が多かった米村さんにしては、あれっと思う、和み系の時代小説。 連作風長編小説である本ストーリィの中で、軸となっている登場人物は、質屋の若旦那である清次郎といそさん。 そのいそさん、行き倒れ同然の状況を若旦那に拾われ、若旦那の家の居候となったことから“いそさん”という次第。 実は若旦那、亡き実母と同じく生まれつき心の臓が悪く、いつまで生きられるか判らないといった不安を抱えています。その所為で仕事もせずに日中からぶらりぶらり。そしていつもいそさんがその供をしているといった具合。 その若旦那は、知り合った人たちの胸に、温かい気持ちをもたらしていく。その相手は、大工の政吉であったり、実家の質屋で女中をしているおもん、そして実父の九兵衛ら多数。 各章では、それらの人たちが主人公となって若旦那のことが描かれていきます。 その最後を飾るのがいそさん。しかし、いそさんだけは、政吉やおもん、九兵衛らとはちょっと立場が異なります。 そもそも若旦那は何故いそさんを拾ったのか、いそさんを大事にするのか、そしていそさん自身は如何なる事情を抱えた人物なのか。 本書を読み終えたときには、何とも不思議な温かさが胸の内に広がっているのを感じます。 それこそ若旦那といそさんのコンビがもたらしたもの、と言って良いのではないでしょうか。 その正体は? それは本書を読んでのお楽しみです。 政吉/おもん/久兵衛/いそさん |