百田
(ひゃくた)尚樹作品のページ


1956年大阪府生、同志社大学中退。放送作家として人気番組「探偵!ナイトスクープ」等多数を構成。2006年「永遠の0」にて作家デビュー。08年「BOX」にて本屋大賞候補、13年「海賊と呼ばれた男」にて本屋大賞を受章。


1.
輝く夜

2.BOX!

3.風の中のマリア

4.影法師

5.幸福な生活

6.フォルトゥナの瞳

  


       

1.

●「輝く夜」● ★☆
 (単行本題名:聖夜の贈り物)


輝く夜画像

2007年11月
太田出版刊

2010年11月
講談社文庫

(476円+税)

  

2010/12/04

  

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単行本題名だと判りやすいと思うのですが、クリスマス・ストーリィ、5篇。

クリスマス・ストーリィ、好きです。
温かくて、希望があって、何かを信じられる気がして。
もちろんクリスマス・ストーリィであるが故に出来過ぎのハッピーエンドでありますが、だからこそ良いじゃないですか。
人の善意が報われ、奇跡が許されるのも、クリスマスならでは。
クリスマスといえば、プレゼント、ケーキ、食事、いろいろと楽しみはあるでしょうけれど、私にとってはクリスマス・ストーリィが一番かな。

なお、本書5篇のストーリィ、キングズベリー“赤い手袋の奇跡”シリーズに似た雰囲気があります。

「魔法の万年筆」:倒産の危機に瀕していた弟に貯金を全部貸してしまった後、7年間勤めていた会社から突然クビを言い渡されて途方に暮れる恵子は、ホームレスから3つ願いが叶うという鉛筆をもらうが・・・。
「猫」:派遣社員として働く先の若手社長・石丸は、雅子が憧れる男性。しかし、石丸が雅子に示した興味は、雅子が拾った猫の故だったのか。
「ケーキ」:家族もなく20歳で癌に冒された真理子に奇跡は訪れるのか。 
「タクシー」:クリスマス・イヴ、一人でタクシーに乗った子は、嘘をついていたことから叶わなかった5年前の恋について語る・・・。
「サンタクロース」:幸せな家族の妻・和子が語る、自ら経験したクリスマス・イヴの奇跡とは・・・。

魔法の万年筆/猫/ケーキ/タクシー/サンタクロース

       

2.

●「BOX!(ボックス!)」● ★★☆


BOX画像

2008年07月
太田出版刊

(1780円+税)

2010年03月
太田出版文庫
(上下)

2013年04月
講談社文庫化
(上下)

  

2009/06/19

 

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天才型と努力型、対照的な2人を中心に据えた、高校ボクシング部を舞台とする青春スポーツ小説。

デート中の女の子の目の前でイジメに遭うという屈辱を味わった木樽優紀は、一念発起、幼馴染の鏑矢義平がいるボクシング部に入部します。。
努力型の優紀が一歩一歩成長し、才能を開花させていく一方で、天才型の鏑矢が味わう挫折と再生。ある意味、定例パターンのような青春ストーリィですが、他の部員たちにもしっかりと視点を当てて豊か、そのうえ丁寧に描いていくのでまさに読み応えたっぷりです。
 580頁という長篇ですが、短い章を積み重ねての計30章という構成。そのため展開にもメリハリがあり、少しも飽きません。どっぷり漬かってたっぷり楽しんだという思いです。
なお、本書は青春スポーツではありますけれど、それ以上にボクシング小説と言う方が相応しいかもしれません。

本書でボクシングの世界へ誘う解説者の役割を果たすのは、ボクシング部監督の沢木。一方、何も知らない素人の視点から高校ボクシング、ボクシング部の選手たちを見守るのが、顧問となった高津耀子の役割。その耀子が本書の主人公で、語り手の役割も果たしています。

優紀と鏑矢が競い合って互いに成長していく姿は、佐藤多佳子「一瞬の風になれの主人公たちと共通します。ただし、キャラクターはだいぶ異なりますが。
正直言って、ボクシングだということで敬遠していました。そのボクシングを見直す気持ちになれたのも、本作品の良さです。
私と同様、青春スポーツ小説が好きなのに読み逃しているという方がいれば、是非お薦め。読み逃すのは勿体ないです。

※ 映画化 → 「BOX!

  

3.

●「風の中のマリア」● ★★☆


風の中のマリア画像

2009年03月
講談社刊
(1500円+税)

2011年07月
講談社文庫化

   

2009/05/24

 

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本小説の主人公は何と、オオスズメバチのワーカー(働きバチ)であるマリア
ハチを主人公に据えた物語なんて、子供の頃に読んだ「みつばちマーヤの冒険」以来でしょう、物語の世界はここまで広げることができるのかと、作者である百田さんの着想の見事さにまずは感心。

そのオオスズメバチのワーカー、成虫になってから精々30日程度という短い間しか生きられないのだそうです。その僅かな一生の間、ひたすら幼虫である妹たちのために獲物を狩り、餌として運ぶという、女王蜂から与えられた任務を果たし続ける。
このオオスズメバチは、幾種類もあるスズメバチの中で最大であるうえ、最強の戦闘能力と高い防御能力を併せ持ち、飛翔能力は抜群、そのうえ無尽蔵のスタミナを持つという。
主人公のマリアは、多数のワーカーの中でも最強の戦士と言われる一人。
そのマリアを主人公とした本ストーリィの魅力は、オオスズメバチの世界・人生をリアルに描いていくところにありますが、それを越える魅力はその爽快な飛翔感。
抜群の飛翔能力と高い戦闘力を併せ持つオオスズメバチ、さしづめ現代の最新鋭ジェット戦闘機ではありませんか。
狩られる側からすればマリアたちオオスズメバチのハンターは冷酷な殺戮者に他ならず、最新鋭ジェット戦闘機も戦争兵器に他なりませんが、それでもその高い飛翔能力には魅せられずにはいられない。

一面最強、反面冷酷な殺戮者。でもそれは自然界の弱肉強食ルール内のことであり、是非を問うても意味ないこと。建設と繁栄、そして衰退。それは女王蜂が築くオオスズメバチ帝国の運命も例外ではないのですから。
昆虫の世界を覗き見る興味&興奮、そして極め付けは飛翔感。すこぶる面白く、爽快な物語です。お薦め。

  

4.

●「影法師 The Shadow」● ★☆


影法師画像

2010年05月
講談社刊

(1600円+税)

2012年06月
講談社文庫化

 

2010/06/17

 

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百田さん、初の時代小説。

生涯の友情を誓った2人。片や小禄の下士の嫡男であり努力型の戸田勘一、片や中士の次男坊で学問・剣術共にその才能を嘱望された天才型の磯貝彦四郎
切磋琢磨し合い互いの道を歩み始めた2人の運命を別ったのは、ある出来事。それを境にして、勘一は出世しついには筆頭国家老にまで上り詰め、一方の彦四郎は脱藩して最後は惨めな最後を遂げる。
何が2人の運命を分けたのか。今は筆頭国家老・名倉彰蔵となった勘一が、彦四郎と出会った最初に遡ってこれまでの日々を振り返る、という構成の長篇時代小説。

面白いです。頁をめくる手がどんどん進みます。
ただ、引っ掛かるのは、善人と悪人がはっきり分かれている等々、ストーリィ展開がきれいに過ぎないか、ということ。
親友2人が明暗を分ける成長物語という要素を除けば(そこが本作品の肝心なところかもしれませんが)、本ストーリィ、藤沢周平「風の果てによく似ています。
人間の清濁を併せ呑むような懐の深さ、運命の面白さが「風の果て」の魅力ですが、同作品とつい比べてしまう故に、本作品への評価は厳しくなってしまいます。

しかし、最後に別の面白さ、謎解き要素が用意されているところがやはり百田作品。その意味では本書、時代小説とは言うものの現代的ストーリィと感じます。
「影法師 The Shadow 」という題名の意味もそこに至ってようやく判ります。
面白いことは面白く読めますが、ストーリィに納得感があるかといえばちと疑問。評価はそれ故にやや厳しめ。

       

5.

●「幸福な生活」● 


幸福な生活画像

2011年06月
祥伝社刊
(1500円+税)

  
2011/06/22

  
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最後の一言が衝撃的、という趣向のショートストーリィ集。

百田さんとしては初の短篇集。
出版社の紹介文には、稀代の快作、絶賛とありますが、率直に言って私としては期待外れ。

いずれのストーリィも、主人公が相手(妻、夫等々近しい相手)の最後の一言に愕然、呆然というパターン。
しかしどれもドタバタ・ギャグ的で、洒落ていない、と私には感じられます。

いくら何でもそれではねぇ・・・。

ストーリィの趣向は違いますが、同じようなショートストーリィ集の坂木司「短劇、こちらはバラエティに富んでいてとても面白かった。
ショート・ショートというと
星新一さんですが、掌篇作品の中で味を出す、というのは結構難しいこと、ということなのでしょうか。

母の記憶/夜の訪問者/そっくりさん/おとなしい妻/残りもの/豹変/生命保険/痴漢/ブス談義/再会/償い/ビデオレター/ママの魅力/淑女協定/深夜の乗客/隠れた殺人/催眠術/幸福な生活

   

6.

「フォルトゥナの瞳」 ★★


フォルトゥナの瞳画像

2014年09月
新潮社刊

(1600円+税)

2015年12月
新潮文庫化

 


2014/10/15

 


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主人公の木山慎一郎は、幼い頃に両親と妹が火事で焼死し、たった一人引き残って施設で育つ。中学卒業後は定時制高校に通いながら工場勤め。しかしその工場が倒産し、2年以上フリーター生活を続けていた時に、偶然通りかかった車のコーティングを手掛ける会社の社長に気に入られ、以後その職場で仕事一筋に生きている青年。
ある日彼は、電車内で手が透き通っている男性を見かけます。何の仕業かと不思議に思った慎一郎ですが、やがて身体が透きとおって見えるのはその人物の死が近い徴候であり、自分にそうした特殊能力があることに気付きます。

もしそうした能力を自分が有していると知ったら、人はどうするのでしょうか。
サスペンス、あるいはSF小説であれば、その能力を巡って、あるいはその能力を活かすストーリィが展開されることでしょう。しかし、本書の主人公はごく普通の、地味で真面目な青年。その特殊能力は、かえって彼を苦しめることになります。
自分などが女性の興味を惹くわけがない、自分には仕事だけ、と思っていた彼に、幸運にも恋する女性が現れます。

限りなく切ないストーリィ、でもそれは漸く彼が掴んだ恋愛の面から考えてのこと。
一方でその生真面目な性格を思えば、別の選択肢があることも当然だったのではないか、と思います。
人がどう生きるかは、本人の選択次第。本書も結局はそこに通じるストーリィと思います。
読後、主人公とその恋人となった女性の残像が、いつまでも心に残ります。

     


  

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