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12.麒麟の翼 13.真夏の方程式 14.ナミヤ雑貨店の奇蹟 15.禁断の魔術 16.祈りの幕が下りる時 17.マスカレード・イブ 18.沈黙のパレード 19.透明な螺旋 20.マスカレード・ゲーム |
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●「新参者」● ★★☆ |
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2013年08月
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日本橋のマンションで独り暮らししていた45歳の女性が絞殺されて発見された殺人事件。 殺人事件を解明するミステリの筈なのに、本作品はここ日本橋人形町を舞台に、“町物語”として、そして人情物語として連作風に展開していきます。 加賀刑事は何故こうした行動を取るのか。その答えは第6章「翻訳家の友」に至ると判ります。 ちょっと風変わりで気持ち良く、それでいて味のある、連作町物語風ミステリ。 煎餅屋の娘/料亭の小僧/瀬戸物屋の嫁/時計屋の犬/洋菓子屋の店員/翻訳家の友/清掃屋の社長/民芸品屋の客/日本橋の刑事 |
●「麒麟の翼」● ★★ |
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2014年02月
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東野圭吾さん、作家生活25周年記念・第一弾作品とのこと。 所轄署勤務の警部補・加賀恭一郎を主人公とするシリーズは、本書以外には「新参者」しか読んでないので、シリーズ中云々についてはどうこう言えませんが、最高傑作なのかなぁ、というのが正直なところ。 ある夜、よろめきながら歩いてきて日本橋の欄干にもたれかかった男。交番の警官が声をかけると、男の胸にはナイフが深々と刺さっていた。一方、警官が職務尋問しようとしたところいきなり逃げ出して、トラックにはねられ意識不明の重態となった若い男。 加賀が解決するのは、事件の謎・真相だけではありません。事件の奥底にある人間ドラマ、死んでいく者から愛する者へのメッセージも解きほぐしていきます。加賀恭一郎シリーズの魅力の真髄は、そこにこそあると思います。 |
※映画化 →「麒麟の翼」
●「真夏の方程式」● ★☆ |
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2013年05月
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“ガリレオ”シリーズ、長篇第3作目。 海底資源開発に関する地元説明会への出席を請われて海岸の美しい玻璃ヶ浦にやってきた帝都大学物理学科准教授の湯川学、東京から伯母夫婦の元にやって来た小学生の柄崎恭平と知り合った縁で、その伯母夫婦が営む旅館「緑岩荘」に滞在することになります。 ストーリィは、捜査陣からは茅の外であるものの、実質的に湯川と小学生の恭平という2人を中心軸にして進んでいきます。 |
※映画化 → 「真夏の方程式」
14. | |
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」 ★★ 中央公論文芸賞 |
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2014年11月
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何か悪事を働いたらしい若者三人組が逃げ込んだ廃屋は、昔店主が悩みごとを書いた手紙にひとつひとつ丁寧に回答するということで評判になったナミヤ雑貨店の跡だった。 面白く感じたのは、3人の回答の底の浅さ、拙さが歴然としているにもかかわらず、受け取った側が深い意味でとらえて感謝すること。それはナミヤ雑貨店が昔雑誌に取り上げられたというブランド力を持っている所為か、いやいや受け取る側が真剣に迷い、答えを求めているからでしょう。 なお、本書中何度も丸光園という児童養護施設、その施設育ちの子供たちが登場するのですが、ナミヤ雑貨店と何か関係があるのかないのか。 1.回答は牛乳箱に/2.夜更けにハーモニカを/3.シビックで朝まで/4.黙祷はビートルズで/5.空の上から祈りを |
15. | |
「禁断の魔術」 ★☆ |
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2015年06月
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毎度お馴染み、天才物理学者=帝都大学の湯川准教授を探偵役にしたシリーズ“ガリレオ8”。本書は短篇集です。 ミステリにしては風変わりなのは、湯川が解くのが事件絡みではあるものの、犯行にかかる謎ではなく、事件の側面における謎であること。ミステリとしてはかなりの変化球でしょう。 「透視す」:殺害されたホステスがいつも披露していた透視力は本物か。 “ガリレオ”シリーズにおいて私が、あるいは湯川以上に好きな登場人物は女性刑事の内海薫。その内海の活躍が少々楽しめるのは「余波る」と「猛射つ」の2篇。 1.透視す(みとおす)/2.曲球る(まがる)/3.念波る(おくる)/4.猛射つ(うつ) |
16. | |
「祈りの幕が下りる時」 ★★ 吉川英治文学賞 |
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2016年09月
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所轄署勤務の警部補“加賀恭一郎”シリーズの長編。今回は加賀自身のプライベートにも波及する感動ミステリ。 プロローグは今から遡る20年余前、夫と子を捨てて家を出てきたという田島百合子という女性が仙台のスナックで働き始めるところから始まります。その百合子こそ加賀恭一郎の実母。 事件の裏に苦難を乗り越えてきた過去を秘さねばならない事情があったという点では、松本清張「砂の器」、水上勉「飢餓海峡」という過去の名作と共通するところがあります。しかし私としてはむしろ、子に対する親の深い愛情が事件の底辺にあったという点で、小杉健治「父からの手紙」「父と子の旅路」の方が思い浮かびます。 |
※映画化 →「祈りの幕が下りる時」
17. | |
「マスカレード・イブ」 ★★ |
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「マスカレード・ホテル」に続く、“マスカレード”シリーズ第2弾。 ただし内容は、「ホテル」でホテルウーマン=山岸尚美と刑事=新田浩介が出会う以前の、それぞれの物語。 「ホテル」を読んでいないにもかかわらず本シリーズの第2作を読もうと思ったのは、ひとえに映画「マスカレード・ホテル」の面白さ、とくに長澤まさみ演じる山岸尚美というホテルウーマン像の魅力にあります。 ストーリィを追いながら常に、山岸尚美=長澤まさみという姿が脳裏にありましたから。 ・「それぞれの仮面」:ホテル・コルテシア東京に就職して4年余り、フロント業務で新人の初々しい山岸尚美の姿が見れます。それでも、ちょっとした推理力を発揮します。 ・「ルーキー登場」:新田浩介も、警視庁捜査一課に配属されたばかりの新人刑事。それでも殺人事件捜査において閃きを発揮します。 ・「仮面と覆面」:開業したばかりのホテル・コルテシア大阪へ応援に行かされた山岸尚美、もうすっかりベテランです。そこで尚美、若い美人らしい新人覆面作家を追い掛けるオタク連中と渡り合うことになります。 ・「マスカレード・イブ」:本格的な殺人事件捜査を描く篇。 直接で会うことはないにしろ、東京において捜査員として新田浩介、容疑者のアリバイ捜査に大阪で山岸尚美が絡みます。 なお本篇、「マスカレード・ホテル」へと続くストーリィにもなっています。 なお、新人の頃の山岸尚美、今や敏腕フロントとなった彼女、その成長ぶりを見られるのも楽しい。 それぞれの仮面/ルーキー登場/仮面と覆面/マスカレード・イブ |
18. | |
「沈黙のパレード」 ★☆ |
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2021年09月
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“探偵ガリレオ”シリーズ、6年ぶり、9作目。 美人で歌の才能にも恵まれ、東京都秋野市の秋祭りで評判になった19歳の並木佐織が失踪してから3年。その佐織の遺体が、静岡県で起きたゴミ屋敷の火事跡から発見されます。 事件捜査の担当を命じられたのは、今や警部に昇格し、警視庁捜査一課の係長となった草薙。 その草薙に、事件の容疑者は蓮沼寛一という男であることが告げられます。何とそれは、23年前に起きた12歳の少女=本橋優奈殺害事件の重要容疑者でありながら証拠不十分で無罪となった男。当時その捜査には、新人だった頃の草薙も参加していた。 今度こそと意気込む草薙らでしたが、状況は以前と全く同様。状況証拠ばかりで先へ進めないのは、蓮沼が一切の供述を拒否し黙秘を貫いているため。 その蓮沼が、佐織の家族が営む定食屋に姿を現し、逆に脅しをかけてきたことから、並木一家や佐織と懇意だった者たちは怒りの念をかき立てられます。 しかし、その後思いもしなかった事件が起きる・・・・。 折しもその渡米していた筈の湯川学が昨年帰国、帝都大学でこちらも今や教授となり、秋野市に新しくできた研究施設に通っていることが分かり、さっそく草薙は湯川に連絡を取ります・・・。 どこかで見たような、既視感ある展開。 しかし、事件の真相を明らかにしていく湯川の着眼点、事件の真相が明らかになった後のひねりに次ぐひねり。そこが東野圭吾さんらしいというか、ガリレオシリーズらしいところでしょう。 しかし、着想とひねりだけ、という気がしないではない。 実は私が本シリーズで魅力を感じているのは、ガリレオこと湯川教授ではなく、女性刑事の内海薫。 ストイックで粘り強く、中々の洞察力も備えているというキャラクター。映画等でかつて柴咲コウさんが演じたこともあり、私の中ではしっかり、内海薫刑事=柴咲コウ。 女性刑事の内海薫が登場し続ける限り、今後も本シリーズを読む続けるかもなぁ。 |
※映画化 → 「沈黙のパレード」
19. | |
「透明な螺旋」 ★☆ |
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“ガリレオ”シリーズ第10弾。 出版社の「ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる」が、本作への誘い文句です。 房総沖で男性の銃殺遺体が発見される。 その男性の身元が確認されると、同居女性から行方不明者届が提出されていたことが判る。しかし、その同居女性=島内園香は姿を消していた。 事件の鍵を握っていると思われる島内園香を捜索するため関わりのある人物にも捜査の手が広がりますが、アサヒ・ナナという絵本作家のメールやり取りの中に、湯川学の名前が浮かび上がる。 さっそく草薙と内海薫は、母親の介護を手伝う為両親の住む横須賀のマンションに滞在している湯川の元へ向かう。 今回の事件捜査において湯川は、草薙・内海とは距離を置いているように見えます。その理由が明かされるのは終盤、それは大学以来の友人である草薙も知らなかったこと。 本作は、産んだ子供を自分の手で育てることができなかった母親たちの失せることのない悔恨、悲しみが中心軸になっています。ミステリとしては特に驚くようなことはなく、今ひとつという感想です。 |
20. | |
「マスカレード・ゲーム Masquerade Game」 ★☆ |
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2025年03月
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“マスカレード”シリーズ第4弾。「総決算」とのことです。 ホテル・コルテシア東京を舞台にした事件もこれで3回目となると、流石に設定も苦しくなってきていることを感じます。 新田浩介も本作では警部に昇格していて、警視庁捜査一課の係長の一人となっています。 それだけ時間の経過を感じさせる出だしになっていますが、過去2回の事件で新田の良き相棒となった山岸尚美はロサンゼルスのホテルに異動済み、今回は新田だけかと思うと寂しさは否めません。 現在警視庁で解明できていない殺人事件が3件。殺人方法が同一であること、また被害者3人が以前に何らかの事件を起こしていることが共通点として浮かび上がってきます。 これは被害者遺族らによる交換殺人、ローテーション殺人か? 折しも遺族たちがホテル・コルシア東京に投宿。もしや第4の事件が起きるのかと、再び潜入捜査の決断がなされます。 私にとって本シリーズの魅力は、山岸尚美(長澤まさみさんのイメージ)の存在あってこそ。 新田だけでは物足りずと思っていた処、やはり山岸尚美の登場となります。 しかし、この2人にもうバトルは起きないため、それに代わる不穏要素として登場するのが女性警部の梓真尋。 優秀で頭の回転も早いが、暴走傾向あり。しかも自分にその自覚がないところが問題点。 それでも、前作のような緊迫感を感じるところまでは至らず。 最後に明らかになる真相は全く予想外のものでしたが、楽しさはエピローグにあります。 まさかと思う結末でしたが、それはそれで描かれない筈の今度に期待感を残してくれていて、終幕としては嬉しい処があります。 ※結局読書したのは「マスカレード・イブ」と本作だけ。「マスカレード・ホテル」と「 〃 ・ナイト」は映画鑑賞のみ。 |