水上 勉(みずかみ・つとむ)作品のページ


1919年福井県生。貧困故に10歳の時に京都の禅寺=瑞春院に入れられるが13歳の時脱走も。中学卒業後様々な職業を経て作家。61年「雁の寺」で第45回直木賞を受賞、その他受賞多数。2004年9月逝去。

※既読作で忘れ難いのは、社会派推理もの「霧と影」。計3回読みました。
他の既読作は、「雁の寺」「越前竹人形」「五番町夕霧楼」「清富記」。


1.故郷

2.飢餓海峡

  


  

1.

●「故 郷」● ★★★


故郷画像

1997年06月
集英社刊

(2300円+税)

2004年11月
集英社文庫化



1997/11/24



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いい本でした。大切に読みました。
アメリカで育った娘が、母を捜して母の故郷を訪ねる話。アメリカで半生を送った夫婦がそれぞれの故郷を訪ねながら、自分たちが老後に落ち着く場所を探す話。その二つのストーリィを中心に、いろいろな現実の姿が絡み合います。

自分の育った家から都会へ出ていった人、海外で半生を送った人、彼らの胸中にある故郷。一方、その"故郷"で、現実に暮らしている人々の姿。胸中にある"故郷"は思い出の姿であるけれども、現実の故郷は変りつつあります。
舞台の若狭には原子力発電所が設置され、その影響下便利になった一方で若者たちは土地を離れていっている。その代わりかどうか、フィリピンの娘が嫁に入ったり、アメリカから孫娘が祖父を訪ねてきたりする。登場人物の一人が「わが村も国際化だあ」、と叫ぶ気持ちの中には、故郷の発展を喜ぶ姿と、時代の流れに置いてけぼりにならずに済んでホッとする気持ちを感じます。

この作品は、決して現実批判でも文明評論でもなく、現実にこの現代で暮らす人々の気持ちの奥にあるものを、あるがままに取り出しています、そんな印象を受ける作品です。だからこそ、すっ、と入っていける感じ、素直に読める感じが持てる気がします。
また一方で、故郷を捨てて都会へ出ていったけれども、いざとなると遺産相続問題が絡み、兄弟の間でも微妙な問題が生じる現実の姿があります。

でも、この作品を通じて流れているのは、故郷を求める自然な気持ちです。それらを水上さんは、はるか空の上から温かく見守っているような感じがします。その所為か、本作品は気持ち良い仕上がりとなっています。

  

2.

●「飢餓海峡」● ★★★

  

新潮文庫刊

  

1997/11/24

今から11年も前に読んだ作品。水上さんの代表作のひとつといって良いと思います。

ストーリィは、青函連絡船洞爺丸沈没に前後する10年前の犯罪に端を発し、男女の心中偽装殺人事件に至る、刑事たちの真犯人探索というミステリー仕立てのものですが、その底辺にあるものは、2人の男と女の哀しい人生です。

現時点で思うなら帚木蓬生作品の先駆となるような作品ですが、水上さん自身の生い立ちを背景に、はるかに苦渋に満ちた人生ドラマによりストーリィは成り立っています。
丹波の山深い村での貧困にあえいだ少年時代、北海道の開拓農民、鉱山労働者の悲惨な生活、最近の作家には描ききれない様相であり、まさに“飢餓海峡”なのです。

表面的なストーリィはあくまで探索ミステリーですが、そんな筋立ての中で、受刑者の出所後の更生、貧農の村の生活、という大きな社会問題を掘り下げていく作品です。

 ※帚木蓬生ファンの方にお勧めしたい作品です。
 ※小杉健治作品の中にも似たストーリィ・「死者の威嚇」があります。

   


 

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