萩黄葉 はぎもみじ(はぎもみぢ) Autumn tints of Bush clover

黄葉した萩 鎌倉市雪ノ下

紅紫色の花が落ち尽くして間もなく、萩は美しい黄葉に装いを改める。写真は鶴岡八幡宮東鳥居へと続く路地にて、十一月初旬の撮影。
萩も他に先駆けて色づく草木の一つである。百人一首で有名な猿丸大夫

奧山にもみぢふみわけなく鹿の声きく時ぞ秋はかなしき

は、古今集では「秋上」の巻半ば、萩の歌群の直前に置かれているため、この「もみぢ」を萩の黄葉と見る説がある。少なくとも古今集の撰者はそう考えていただろう。萩は普通花が散らないうちから下葉が色づき始めるので、秋前半の歌として矛盾はない。楓などの紅葉だったら晩秋に置いたはず。

萩の下黄葉 鎌倉市雪ノ下
下葉から色づき始めた萩 鎌倉市雪ノ下にて10月中旬撮影

時代を溯り、万葉集の歌を調べてみると、

秋萩の下葉のもみち花に継ぎ時過ぎゆかば後恋ひむかも

巻十秋雑歌、作者不明。「秋萩の下葉の黄葉が花に続いて色づいているが、その時期も過ぎていったら、後になって恋しく思うだろうなあ」という歌。萩を殊更好んだ万葉人、さすがにその黄葉も愛惜していた。

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  『万葉集』 (題詞略) 大伴家持
我が宿の萩の下葉は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみてる

  『万葉集』 (内裏略) *中臣清麻呂
天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも

  『万葉集』 (詠黄葉) 作者未詳
このころの暁露(あかときつゆ)に我がやどの萩の下葉は色づきにけり

  『古今集』 (題しらず) *よみ人しらず
夜をさむみ衣かりがねなくなへに萩の下葉もうつろひにけり

  『古今集』 (題しらず) よみ人しらず
秋萩の下葉色づく今よりやひとりある人のいねがてにする

  『拾遺集』 (延喜御時の御屏風に) 紀貫之
風さむみわがから衣うつ時ぞ萩の下葉も色まさりける

  『式子内親王集』
白露の色どる木々はおそけれど萩の下葉ぞ秋をしりける

  『拾遺愚草』 (鶏犬声稀隣里静、遥村人定漏万闌) 藤原定家
あさなあさなちりゆく萩の下もみぢうつろふ露も秋やたけぬる

  『金槐集』 (暮秋歌) 源実朝
秋萩の下葉のもみぢうつろひぬ長月の夜の風のさむさに

  『紫禁和歌集』 (草花徐開) 順徳院
さを鹿の涙ふる野の秋風に萩の下葉も色かはるころ

  『竹風和歌抄』 (紅葉) 宗尊親王
山もみなうつろひにけり秋萩の下葉ばかりの色と見しまに

  『賀茂翁家集』 (あるゆふべ) *賀茂真淵
色かはる萩の下葉をながめつつ独ある身となりにけるかも


公開日:平成18年3月4日
最終更新日:平成18年10月18日

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