ジェラルディン・カミンズ(著)
浅野和三郎(訳)
発行所 潮文社
2005年6月15日 新装版
永遠の大道は近藤千雄が訳した版も存在しているが、これはその前に浅野和三郎が訳した古い文体の本を読みやすくしたものです。
目 次
解説
第1章 不思議な世界
第1節 挨拶
第2節 永遠の謎
第2章 七つの世界
第3章 夢幻界
第1節 第三界
第2節 記憶の国
第3節 冥府又は中間境
第4節 夢の国
第5節 肉の人
第6節 途中の休憩所
第7節 感官の牢獄
第8節 平凡人の境涯
第4章 意識
第5章 色彩界-第四界-
第1節 『魂の人』-形像破毀
第2節 形態の聖化
第3節 第四界の知覚
第6章 類魂
第1節 意識の集団
第7章 光焔界-第五界-
第1節 第五界への誕生
第2節 第五界の象徴
第3節 類魂の組織
第8章 光明界-第六界-
第1節 純粋理性
第9章 超越界-第七界-
第1節 神的実在の一部
第10章 宇宙
第11章 光焔界から
第12章 死の真相
第1節 冥府(影の世界)
第2節 記憶と死後の認識
第3節 眠る人、眠らぬ人
第4節 遺像又は殻
第5節 急死
第6節 頽齢者の死
第7節 因縁
第13章 心霊の進化
第14章 自由意志
第15章 記憶
第1節 肉体の内と外
第16章 記憶の本体
第17章 注意
第18章 潜在的自我
第19章 睡眠
第20章 思想伝達
第21章 幽明交通
第22章 幸福 普通一般の男女に対して
第23章 神は愛より大なり
解説
私がここに紹介せんとするのは、フレデリック・マイヤースと名乗る霊魂からの通信で、霊媒のジェラルディン・カミンズ嬢がこれを自動書記で受け取り、去る1933年を以って一冊の書物として出版したものである。その主要題目は、宇宙人生観をはじめ、死後の世界の組織、人体の構成、又幽明交通に関する理論等で、大体我々心霊学徒が何よりも関心を有する重要項目を網羅している。それ等の全部が必ずしも私の研究、又私の意見と符合するともいい兼ねるが、しかし殆ど他のいかなる類書に比しても私との悲鳴点が最も多い。実際私は最近数年来本書程の会心の作物に接したことがないのである。私が多大の興味を以って本書の紹介に当たる所以である。
但しそれがマイヤース自身筆を執って書いたものでなく、甚だ不便、不利益な状態の下に他界から通信されたもの・・・。イヤ寧ろ霊媒によりて翻訳せられたものであるから、所々に意味の不明なところ、又脈絡の混雑を来せるところもあるのは到底免れ難き数である。で、私の紹介は成るべく自由な態度で、これに取捨選択を加え、必要と見れば注釈又は評論をも試みようと思う。私はそうすることが、最もよく通信者の面目を読者に伝え得るのではないかと考える。
読者の中には、マイヤース並にカミンズ嬢につきて、親しみがない方もあるかと思うから、これから簡単にその紹介を試みる。
フレデリック・ウィリアム・ヘンリー・マイヤースは1843年、英国カムバーランド州のケスウィックに生まれた。父は同地の常任牧師であった。
1856年、彼は十三歳でチェルテナム専門学校へ入学したが、その天分、なかんずくその詩的天分は早く教師仲間の間に認められ、名誉賞を与えられること前後六、七回に上った。1860年、ケンブリッジ大学の特待生に選ばれ、その在学中何回となく名誉賞牌を受け、嶄然として同輩の間に頭角を現した。1865年、在学中の身を以って休暇を利用して北米に遊び、その際ナイヤガラ瀑布の下流を泳ぎ越して時人を驚かした。英国人でこの晴れ業を敢行したのは、マイヤースが先頭第一だとの事である。
1856年10月、卒業と同時にトリニティ大学の古典科講師に任命せられ、爾来四年間その職を守った。続いて教育本部の嘱託を経て、1872年、視学官に任ぜられ死の直前までその職を離れなかった。1881年以来は、居をケンブリッジにトしてそこに永住した。
マイヤースの畢生の心血は、二つの仕事に集中された。第一は文学、第二は心霊研究であった。
彼の詩篇は、最初は少数者間にのみ愛誦せられたが、後次第に崇拝者の数を増したその含蓄、その熱情、なかんずくその縦横の想像力と生一本の純真味とは、決して尋常の詩才にあらざるを示した。彼には又研究的論文も少なくない。特に彼の私淑せるギリシャ詩人ヴァージルに関する論文は最も有名である。又『英国文豪評伝』集中に収められたウァズウァース評伝も、又英国学者間に傑作として喧伝されている。
が、永久にマイヤースの名を後世に不朽ならしむるものは、恐らく心霊研究の開拓者としての功績であろう。彼が催眠現象その他一般心霊問題に興味を抱くことになったのは、1870年頃のことで、かくていよいよ1882年を以って、少数の同志と協力して、『英国心霊協会』を創立することになった。これが人文史上に、永久に大きな痕跡を残すべく破天荒の事業であることは、ここに贅言を要しない。面してその大事業の完成に最も多く貢献したのは、実にマイヤースその人なのである。
彼の『詩文集』の中には、研究協会創立の趣旨目的を述べた一文がある。その一節『今や一つの新発見の必要が迫った。-が、これはたった一人のコロムバスによって成就さるべき仕事でない。実に全人類の協心同力を要する神秘開発の大事業なのである。従来人々はあまりにも性急であった。又あまりにも自己中心に過ぎた。それでは神秘の扉の永久に開かるべきよしもない。この種の研究は、先ず何よりも科学的でなければならない。宗教的研究は第二段である。宗教の第一義は、人類の情念と宇宙の構成との調節である。従って現在我々の最も必要を感ずるものは、実に宇宙の内面組織の発見である。科学は今日に於いて漸くこの至難なる役目を果たすべき機運に到達したと信ずる』
マイヤースの健康は、1900年の秋頃から衰え、かくて翌1901年の1月17日、ローマに客死した。享年58歳であった。死に至るまで彼の一大関心事は、実に心霊研究事業の大成で、その熱心とその金鉄の覚悟とは、他の何人の追随をも許さぬものがあった。彼の手に成れる大著『ヒューマン・パアソナリティ』は、心霊学界の貴重なる文献として、又創業時代の最大の記念塔として、彼の名と共に永久に後世に伝わるであろう。
次にジェラルディン・カミンズ嬢につき一言する。彼女はアッシリィ・カミンズ医学博士の愛娘で、その生涯の大部分を愛○(?漢字が難しくて不明)で過ごしている。その教育は家庭的に行なわれ、専ら戯曲と近代文学とに力を注ぎ、科学だの、心理学だのの教養はない。彼女は職業的霊媒でも何でもないが、しかしよほど以前から自動書記の能力を発揮し、クレオファスと名乗る古代霊が憑りて、陸続歴史的事実を通信した。それは『ゼ、スクリップ、オブ、クレオファス』『アゼンスに於けるポーロ』『エフエザスの盛時』等何れも単行本として出版され、研究者の注意を惹いている。尚彼女を通じて霊界で、通信を送った死者は約五十人に上り、その文体筆蹟等が皆異なっているのが面白い。マイヤースの通信もそれ等の中の一つである。
彼女は自分の入神状態の模様をばかく描いている。-『私は左手で両眼を蔽い、卓子につきて静座統一をやる。と、間もなく一種の半酔半夢の奇妙な状態-覚醒時よりも却って何やら明るく感ずるような状態に陥る。時とすれば全ては自分の意識でどうすることも出来ない、一つのはっきりした夢の感じを与える。その際私は単なる見物人であり、又傍聴者であり、全然受身の態度で、他人の道具になっているに過ぎない。私の頭脳は謂わば果てしもない電信文を叩きつけられている、一つの機械にしかすぎない。筆記の速度が非常に迅いところを見ると、誰かが前以て準備してある論文の書き取りをしているようでもある。しかしその際単なる速記術以上の或る物が必要であるらしい。私の潜在意識は、何やら他人の通弁の役目を務めているらしい・・・』
何にしろ自動書記の速度がバカに迅いので、誰かが一人その傍についていて、紙配給をしてやらねばならぬそうである。
マイヤースの死は三十四年前のことなので、当時幼女であったカミンズ嬢は、勿論面識も何もない。又彼女はマイヤースの遺書を紐解いたこともないとのことである。で、両者の現世的関係は極めて薄く、ドウ考えても、彼女はただ非常に便利な道具として、マイヤースによりて選び出されたに過ぎないようである。マイヤースは或る時彼女を通じて、霊界通信に関する苦心談を述べているが、非常に良い参考になるからその一部を紹介する。-
『人間の潜在意識は、我々幽界居住者にとりて、中々取り扱い難いものである。我々はこれに我々の通信を印象する。我々は決して直接に霊媒の頭脳に印象するのではない。そんな事は到底不可能である。潜在意識がそれを受け取り、そして頭脳に伝送するのである。頭脳は単なる機械である。潜在意識は丁度柔軟な○(漢字が不明)の如きもので、我々の思想の内容を受け取ってくれ、そしてこれを言葉の衣装で包むものである。所謂十字通信が困難なのはこれが為である。思想の伝達には成功するとしても、これを表現する言葉は、主として潜在観念の受持ちにかかる。故にもし私がある文章の前半を甲の霊媒に伝え、残る半分を乙の霊媒に伝えたとしても、それは主として内容の問題で、言葉の問題ではない。勿論こちらは成るべく思想と同時にこれを盛るべき文字をも伝達しようとはするのであるが、実際の綴り方は、ドウしても霊媒の記憶から来るので誤謬も出来る。そして時とすれば、全然霊媒の用語のみで表現されてしまうこともある』
右の十字通信式の試験は、マイヤースの通信にも甚だ厳密に行なわれた。即ちカミンズ嬢と、レナルド夫人とが、別々に立ち別れて、同じマイヤースからの通信を受け取り、以って比較研究を行なったのであるが、その結果は至極満足すべきものであった。マイヤースの霊は二人の霊媒を通じて、少なくとも同一内容の通信の放送に、見事に成功したのであった。その詳細は『サイキック・サイエンス』誌上にその都度発表されているから、熱心家はつきて一読されたい。
