第6章 潜在意識の機能
入神(トランス)状態における霊媒はどんな役割を演じているのか──ある日の交霊会でそれが問題となったことがある。そのきっかけはシルバーバーチが霊媒のバーバネルが入神状態から睡眠状態へ移りそうなのでコントロールがしにくくなったと述べたことがある。
そして〝私にはそうなるとまずいのです〟と言うと、サークルの一人が〝なぜですか〟と尋ねた。すると〝私はこの霊媒の身体の全体をコントロールしなければならないからです〟と答えた。
──霊媒が眠ってしまうとコントロールできないのですか。
「できません。身体を操るには潜在意識を使用しなければなりません。眠ってしまうと潜在意識が活動を停止します」
──でもどっちにせよ、霊媒はその身体から出るのではないでしょうか。
「いえ、霊媒自身が身体の中にいるか外にいるかの問題ではありません。潜在意識とその機能の問題であり、それは中でもなく外でもありません」
──私は霊媒はワキへ押しやられると思っていました。
「それはそうなのですが、一時的に身体から離れているというだけのことです。(身体から離れていても意識状態には関係ないということ―訳者)それは霊媒がみずから進んで身(潜在意識)を任せている状態で、潜在意識まで引っ込めてしまうのではありません。そうなると睡眠状態になってしまいます。
霊媒現象はすべて霊界と地上との間の意識的な協力関係で行われます。無意識のうちに潜在能力が一時的に使用されるケースが無いわけではありませんが、支配霊と霊媒と言う関係で本格的な霊的交信の仕事をするとなると、その関係は意識的なものでなければなりません。つまり霊媒現象に関係するあらゆる機能に霊媒が進んで参加することが必要となります」
──睡眠中の霊媒が(支配霊以外の霊によって)使用されて通信が届けられたケースがあったように思いますが・・・。
「そういうこともあったかも知れませんが、それは通常行われるべきプロセスが逆転した状態です」
(訳者注-冒頭でシルバーバーチが霊媒が眠ってしまいそうなので通信しにくくなったと述べたが、逆に眠っていた潜在意識が引き戻されて通信を送ると言うこと)
──その場合、睡眠中にそういう形で使用されることを霊媒自身も同意していたということが考えられますか。
「それは考えられます。ただご承知のように、私どもは霊媒の望みはよほど下らぬことでない限りは敬意を払い、然るべき処置をとります。しかし、言うまでもなくこの身体は私どもの所有物ではありません。居住者であるバーバネルのものです。
こうして私どもが少しの間お借りすることを許してくれれば結構なことであり有難いことですが、その許可もなしに勝手に使用することは道義に反します。その身体を通じて働くさまざまな霊的エネルギーに対して霊媒と私たちの双方が敬意を払った上で、気持ちよく明け渡すと言うのが正しいやり方です」
その潜在意識がどのように使用されるかを聞かれて──
「そのことに関してずいぶん誤解があるようです。精神(大半が潜在意識)にはさまざまな機能があります。人間というのは自我意識を表現している存在といってよろしい。意識がすべてです。意識そのものが〝個〟としての存在であり、個としての存在は意識のことです。
意識のあるところには必ず個としての霊が存在し、個としての霊が存在するところには必ず意識が存在します。あなた方の物質界においては自我のすべてを意識することは出来ません。
なぜならば──あなた方に分かりやすい言い方をすれば──自我を表現しようとしている肉体(脳)よりも本来の自我の方がはるかに大きいからです。小は大を兼ねることができません。弱小なるものは強大なるものを収容することができないのが道理です。
人間は地上生活を通じて、より大きな自我のホンの一部しか表現しません。大きい自我は死んでこちらへ来てから自覚するようになります。死んですぐに全部を意識するようになるのではありません。やはりこちらの生活でもそれなりの身体を通して、霊的進化とともに少しずつ意識を広げていくことになります。
意識的生活のディレクターであり個的生活の管理人である精神は、肉体的機能のすべてを意識的に操作しているわけではありません。
日常生活において必要な機能の多くは自動的であり、機械的です。筋肉、神経、細胞、繊維等々がいったん意識的指令を受け、さらに連繋的に働くことを覚えたら、その後の繰り返し作業は潜在意識に委託されます。
たとえばものを食べるとき皆さんは、無意識の内に口を開けています。それはアゴが動く前にそれに関連した神経やエネルギーの相互作用があったことを意味します。
すなわち精神の媒体である脳から神経的刺激が送られ、それから口を開け、ものを入れ、そして噛むと言う一連の操作が行われます。すべてが自動的に行われます。
一口ごとにその操作を意識的に行っているわけではありません。無意識のうちにやっております。潜在意識がやってくれているのです。赤ん坊の時はその一つ一つを意識的にやりながら記憶していかねばなりませんでした。しかし、今はいちいち考えないで純粋に機械的に行っております。
こうしてみなさんの身体上の、そしてかなりの程度まで精神的機能も、大部分が潜在意識に委託されていることがお分かりになるでしょう。潜在意識というのはいわば顕在意識の地下領域に相当します。たとえば皆さんが本を読んでいて途中で、これはどういうことだろう、と自問すると即座に答えがひらめくことがあります。
それは潜在意識がふだんから顕在意識の思考パターンを知っているからで、それに沿って答えを生み出すからです。誰かの話を聞いている時でも同じです。〝あなたはどう思いますか〟と不意に聞かれても即座に潜在意識が答えを出してくれます。
ところが日常的体験のワク外の問題に直面すると、それは潜在意識が体験したことも、あるいは解決したこともないことですので、そこで新たな意識操作が必要となります。
新しい回線を使用することになるからです。しかしそうした例外、つまりオリジナルな思考──という言い方が適切かどうかは別として──を必要とする場合を除いて、人間の日常生活の大部分は潜在意識によって営まれております。いわば潜在意識は倉庫の管理人の様なものです。
あらゆる記憶を管理し、生きるために操作の大半をコントロールしています。その意味で人間のもっとも大切な部分ということができます。
その原理から霊媒現象を考えれば、そもそも霊媒現象というのはそれまで身体機能を通して表現してきた自分とは別の知的存在が代わって操作する現象ですから、顕在意識の命令に従って機能することに慣れている潜在意識を操作する方がラクであるに決まっています。
命令を受けることに慣れているわけです。仕事を割り当てられ、それをよほどのことがない限り中断することなく実行することに慣れております。
霊媒現象のほとんど全部に霊媒の潜在意識が使用されています。その中に霊媒の人物の本当の姿があるからです。貯蔵庫ともいうべき潜在意識の中にその人物のあらゆる側面が仕舞い込まれているのです。
こうした入神現象において支配霊が絶対に避けなければならないことは、支配の仕方が一方的すぎて、霊媒が普段の生活で行っている顕在意識と潜在意識の自動的連係関係がいつものパターンどおりにいかなくなってしまうことです。その連係パターンこそがこの種の現象の一番大切な基本となっているからです」
──霊媒の方が潜在意識をおとなしくさせる必要があるということでしょうか。
「そうではありません。支配霊の個性と霊媒の個性とが完全に調和し、その調和状態の中で支配霊自身の思念を働かせなければなりません。同時に支配霊は、他方において、ちょうどタイプライターのキーを押すと文字が打たれるような具合に、霊媒の潜在意識の連係パターンをマスターして、
他の知的存在の指令にもすぐさま反応するように仕向けなければなりません。それが支配霊として要求される訓練です。先ほど述べたことを絶対に避けるための訓練といってもよろしい」
これで皆さんも容易に得心していただけることと思いますが、霊媒現象は生きた人間を扱う仕事であり、霊媒には霊媒としての考えがあり偏見があり、好き嫌いがありますから、今も述べたように、〝支配する〟といってもある程度はそうした特徴によって影響されることは免れません。
霊媒を完全に抹殺することはできません。どの程度までそうした影響が除去できるかは、支配霊がどの程度まで霊媒との融合に成功するかに掛っています。もし仮に百%融合出来たとしたら霊媒の潜在意識による影響はゼロということになるでしょう。
霊媒を抹殺するのではありません。それはできません。融合するのです。サークル(円座──シルバーバーチ交霊界ではバーバネルが普段使っている書斎の椅子に座り、そこから左右にほぼ円形にメンバーが席をとる-訳者)の形をとるのはそのためです。出席した人たち全員から出るエネルギーがその融合を促進する上で利用されるのです。調和が何よりも大切ですと申し上げるのはそのためです。
出席者の間に不協和音があるとそれが霊媒と支配霊の融合を妨げるのです。交霊会の進行中は絶え間なく精神的エネルギーが作用しているのです。あなた方の目にお見せできませんが、出席者の想念、思念、意志、欲求、願望のすべてが通信に何らかの影響を及ぼしています。
支配霊が熟練しているほど、経験が豊富であるほど、それだけ霊媒との調和の程度が高く、それだけ潜在意識による着色が少なくなります。
──その説からいうと、霊媒はなるべく支配霊と似通った願望や性格の持ち主がよいことになりませんか。
「一概にそうとも言い切れません。これは異論の多い問題の一つでして、私どもの世界でも意見の相違があります。忘れないでいただきたいのは、私たちスピリットも人間的存在であり、地上との霊的交信の方法について必ずしもすべての点で意見が一致しているわけではありません。
たとえば無学文盲の霊媒の方が潜在意識による邪魔が少ないので、成功率が高いと主張する者がいます。それに対して、いや、その無知であること自体が障害となる──それが一種の壁をこしらえるのでそれを崩さねばならなくなるのだ、と反論する者がいます。
安物の楽器より名匠の作になる楽器の方が良い音楽を生むのと同じで、霊媒は教養があるほどよい──よい道具ほど通信を受けやすいのだと主張するのです。私はこの意見の方が正しいと思います」
──なぜ教養の有る無しが問題とされるのでしょう。人格の問題もあるのではないでしょうか。
「私は今トランス状態での通信の話をしているのです。人間性の問題はまた別の要素の絡んだ問題です。私は今、霊言が送られる過程について述べているのです。
通信の機構(メカニズム)と呼ばれても結構です。それを分かりやすい譬えで言いますと、バイオリニストにとっては名器のストラドバリウスの方が安物よりも弾きやすいでしょう。楽器の質の良さが良い演奏を生むからです。安物では本当の腕が発揮できません。
霊媒の人間性の問題ですが、これは霊言の場合ですと通信内容に、物理現象の場合ですと現象そのものにその影響が出ます。物理霊媒の場合、霊格が低いほど──程度の問題として述べているだけですが──たとえばエクトプラズムの質が落ちます。
物質的にではなく霊的観点から見てです。霊側と霊媒とをつなぐ霊力の質は霊媒の人間性が決定づけるのです。たとえば地上ならさしずめ、聖者とでも言われそうな高級霊が人間性の低い霊媒を通じて出ようとしても(※)、その霊格の差のために出られません。接点が得られないからです」
(※ここで言う〝出る〟とはエクトプラズムでこしらえた発声器官でしゃべる場合──直接談話現象──と、同じくエクトプラズムを身にまとって姿を現す場合──物質化現象──とがある―訳者)
──物質化現象においても霊媒の潜在意識が影響を及ぼすように思えるのですが、その点についてご説明ねがえませんか。
「交霊会のカギを握っているのが霊媒です。霊媒は電話機ではありません。電信柱ではありません。モールス信号のキーではありません。生きた器械です。その生命体の持つ資質のすべてが通信に影響を及ぼします。
それで良いのです。もしも霊界と地上との交信のための純粋の通信機械が出来たら──そういうものは作れませんが──それによって得られる通信は美しさと崇厳さが失われるでしょう。いかなる交霊会においてもカギを握るのは霊媒です。
霊媒なしでは交霊会はできません。霊媒の全資質が使用されるのです。たとえばメガホン一本が浮揚するのも、物質化像が出現するのも、その源は霊媒にあります。そして霊媒の持つ資質が何らかの形でその成果に現れます」
──霊が憑ってくると霊媒の脈拍が変化するのは何故でしょうか。その脈拍は霊の脈拍なのでしょうか。
霊が霊媒を支配している時は霊媒の潜在意識を使用しています。すると当然霊媒の基本的な機能つまり心臓、脈拍、体温、血液の循環等々を支配することになります。
入神すると呼吸が変化するのはそのためです。一時的なことです。ですが、一時的にせよその間は、支配霊は物質界と接触して自分の個性を物的身体を通して再現しているわけです。
たとえば私は元アメリカ・インデアンの幽体を使用しています。そのインデアンが霊媒の潜在意識を支配していますから、その間の脈拍はその幽体の脈拍です。このような形(※)で行う方が一から始めるよりも手間が省けます。
(※地上の霊媒と霊界の霊媒を使用して通信を送っており、これであの肖像画に見るインデアンがシルバーバーチその人ではないことは明白である―訳者)
「あなた方の住む物質界は活気がなくどんよりとしています。あまりにうっとうしく且つ重苦しいために、私たちがそれに合わせようと波長を下げていく途中で高級界との連絡が切れてしまうことがあります。私の住む光の世界とは対照的に、あなた方の世界は暗くて冷たい、じとじととした世界です。
あなた方は太陽の本当の姿、目も眩まんばかりの(太陽の霊体の)光輝をご覧になったことがありません。あなた方が見ておられるのはその粗末な模造にすぎません。ちょうど月が太陽の光を反射して輝くように、あなた方の眼に映っている太陽は私たちの太陽の微かな反射ていどに過ぎません。
譬えてみれば、こうして地上へ降りてきた私は、カゴに入れられた小鳥のようなものです。用事を済ませて地上から去っていく時の私は、鳥カゴから放たれた小鳥のように、果てしない宇宙のかなたへ喜び勇んで飛び去っていきます。死ぬということは鳥カゴと言う牢獄から解放されることなのです。
さて私があなた方と縁のあるスピリットからのメッセージを頼まれる時は、それなりのバイブレーションに切り換えてメッセージを待ちます。その時の私は単なるマウスピースにすぎません。
状態がいい時は連絡は容易にできます。が、この部屋の近所で何かコトが起きると混乱が生じます。突如として連絡網が途切れてしまい、私は急いで別のメッセージに代えます。バイブレーションを切り替えなくてはなりません。
そうした個人的なメッセージの時はスピリットの言っていることが一語一語聞き取れます。それは、こうして私が霊媒を通じてしゃっべっている時のバイブレーションと同じバイブレーションでスピリットがしゃべっていることを意味します。
しかし、高級界からのメッセージを伝えるとなると、私は別の意識にスイッチを切り換えなくてはなりません。シンボルとか映像、直感とかの形で印象を受け取り、それを原語で表現しなくてはなりません。
それは霊媒がスピリットからの通信を受けるのと非常によく似ております。その時の私は、シルバーバーチとして親しんでくださっている意識よりもさらに高い次元の意識を表現しなければならないのです。
たとえば画家がインスピレーションを受ける時は、ふだん使用しているのとは別のバイブレーションに反応しています。その状態の中で画家はある霊力の作用を受け、それを映像に転換してキャンバスの上に描きます。インスピレーションが去るとそれが出来なくなります。
それと同じで、私が皆さんに霊的真理をお伝えしようとすると、私の意識の中でも高等なバイブレーションに反応できる回線を開き、高級霊がそれを通路として通信を送ってくる。それを私が地上の言語で表現するわけです。
とは言え、私は所詮この霊媒(バーバネル)の頭にある用語集の制限を受けるだけでなく、この霊媒の霊的発達程度による制約も受けます。霊媒が霊的に成長してくれれば、その分だけ、それまで表現できなかった部分が表現できるようになるのです。
今ではこの霊媒の脳のどこにどの単語があると言うことまでわかっていますから、私の思うこと、というよりは、ここにくる前に用意した思想を全部表現することが出来ます。
この霊媒を使って語り始めた初期のころは、一つの単語を使おうとすると、それとつながった他のいらない単語まで一緒に出て来て困りました。必要な単語だけを取り出す為には脳神経全体に目を配らなくてはなりませんでした。
現在でも霊媒の影響を全く受けていないとは言えません。用語そのものは霊媒のものですから、その意味では少し着色されていると言わざるを得ないでしょう。が、私の言わんとする思想が変えられるようなことは決してありません。
あなたがた西洋人の精神構造は、私たちインデアンとは大分違います。うまく使いこなせるようになるまでに、かなりの年数が要ります。まずその仕組みを勉強した後、霊媒的素質を持った人々の睡眠中を狙って、その霊体を使って試してみます。そうした訓練の末にようやくこうしてしゃべれるようになるのです。
他人の身体を使ってみると、人間の身体がいかに複雑にできているかが良く分かります。一方でいつものように心臓を鼓動させ、血液を循環させ、肺を伸縮させ、脳の全神経を適度に刺激しながら、他方では潜在意識の流れを止めて、こちらの考えを送り込みます。容易なことではありません。
初めのうちはそうした操作を意識的にやらなくてはならないのです。それが上達の常道というものです。赤ん坊が歩けるようになるには一歩一歩に全意識を集中します。
そのうち意識しなくても自然に足が出るようになります。私がこの霊媒をコントロールするようになるまで、やはり同じ経過を辿りました。一つ一つの操作を意識的にやりました。今では自動的に働きます。
最近他界したばかりの霊がしゃべる時はそこまでする必要はありません。霊媒の潜在意識に思念を印象づけるだけでよろしい。しかし、それにもかなりの練習が要ります。それをこちらの世界の者どうしで行います。そう易々と出来ることではないのです。こうして霊媒の口を使って思うことを伝えるよりは、メガホンを使ってしゃべる方がずっとラクです。
(訳者注-メガホンの中に発声器官をこしらえてしゃべる。詳しくは「ジャック・ウェーバーの霊現象」-国書肝行会-を参照されたい)
人間の潜在意識はそれまでの生活によって働き方に一つの習性が出来ており、一定の方向に一定の考えを一定のパターンで送っています。
その潜在意識を使ってこちらの思想なりアイディアなり単語なりを伝えるためには、その流れをいったん止めて、新しい流れを作らなくてはなりません。もし似たような考えが潜在意識にあればその流れに切りかえます。レコードの様なものです。その流れに乗せれば自動的にその考えが出てきます。新しい考えを述べようと思えば新しいレコードに代えなくてはならないわけです。
この部屋に入ってくるのに、壁は別に障害にはなりません。私のバイブレーションにとって壁は物資ではないのです。むしろ霊媒のオーラの方が固い壁のように感じられます。
私のバイブレーションに感応するからです。もっとも、私の方はバイブレーションを下げ、霊媒の方はバイブレーションを高めています。それがうまく行くようになるまで十五年もかかりました。
霊媒のオーラの中にいる間、私は暗くて何も見えません。この身体によって私の能力が制限を受けています。この霊媒が赤ん坊のころから身につけていくことを私がいかに使用するかを一つ一つ勉強しなければなりませんでした。もっとも足の使い方は知る必要はありませんでした。私は足には用事がないからです。必要なのは脳と手だけです。
この霊媒を支配している時に別のスピリットからのメッセージを口移しに伝えることがありますが、その時は霊媒の耳を使うのではなく私自身の霊耳を使います。全ては霊媒のオーラと私のオーラの問題です。私のオーラは霊媒のオーラほど濃密ではなく、
霊媒のオーラの中にいる時でも他のスピリットが私のオーラに思念を印象つけることができます。言ってみれば電話で話をしながら同じ部屋の人の話を聞くのと同じです。二つのバイブレーションを利用しているのです。同時には出来ませんが切り換えることは出来るわけです」
──霊言現象は霊が霊媒の身体の中に入ってしゃべるのですか。
「必ずしもそうではありません。大ていの場合オーラを通じて操作します」
──霊媒の発声器官を使いますか。
「使うこともあります。現に今の私はこの霊媒の発声器官を使っています。拵えようと思えば私自身の発声器官を(エクトプラズムで)拵えることも出来ますが、そんなことをするのは私の場合はエネルギーの無駄です。
私の場合はこの霊媒の潜在意識を私自身のものにしてしまいますから、全身の器官をコントロールすることが出来ます。いわば霊媒の意識まで私が代行し──霊媒の同意を得た上での話ですが──しばらく身体を預かるわけです。終わって私が退くと霊媒の意識が戻って、いつもの状態に復します」
──霊媒の霊体を使うこともありますか。
「ありますが、その霊体も常に肉体とつながっています」
──仕事を邪魔しようとするスピリットから守るために列席者にも心の準備がいりますか。
「いります。一ばん大切なことは身も心も愛の一つになるきることです。そうすれば愛の念に満たされたスピリット以外は近づきません」
──霊界側でもそのための配慮をされるのですか。
「もちろんです。常に邪魔を排除しなくてはいけません。あなたがた出席者との調和も計らなくてはなりません。最高の成果をあげるために全ての要素を考慮しなければなりません。こちらにはそのために組織された素晴らしい霊団がおります」
──霊媒は本をよく読んで勉強し、少しでも多くの知識を持った方がいいでしょうか。それともそんなことをしないで自分の霊媒能力に自信を持って、それ一つで勝負した方がいいでしょうか。
「それは霊能の種類にもよるでしょうが、霊媒は何も知らない方がいいという考えには賛成できません。知らないよりは知っている方がいいに決まっています。知識と言うのは自分より先に歩んだ人の経験の蓄積ですから、勉強してそれを自分のものとするように努力した方がいいでしょう。私はそう思います」
──立派な霊能者となるには生活面でも立派でなくてはいけませんか。
「生活態度が立派であれば、それだけ神の道具として立派ということです。ということは、生活態度が高度であればある程、内部に宿された神性がより多く発揮されていることになるのです。日常生活において発揮されている人間性そのものが霊能者としての程度を決めます」
──ということは、霊格が高まるほど霊能者としても向上すると言ってもいいのでしょうか。
「決りきったことです。生活面で立派であればあるほど霊能も立派になります。自分の何かを犠牲にする覚悟の出来ていない人間にはロクな仕事は出来ません。このことは、こうして霊界での生活を犠牲にして地上に戻ってくる私たちが身を持って学ばされてきた教訓と言ってもいいでしょう」
──他界した肉親や先祖霊からの援助を受けるにはどうすればいいでしょうか。
「あなたが愛し、あなたを愛してくれた人々は、決してあなたを見捨てることはありません。いわば愛情の届く距離を半径とした円の範囲内で常にあなたを見守っています。時には近くになり、時には遠くもなりましょうが、決して去ってしまうことはありません。
その人たちの念があなたがたを動かしています。必要な時は強く作用することもありますが、反対にあなたがたが恐怖感や悩み、心配等の念で壁をこしらえてしまい、外部から近づけなくしていることがあります。
悲しみの涙を流せば、その涙が霊まで遠く流してしまいます。穏やかな心、安らかな気持ち、希望と信念と自信に満ちた明るい雰囲気に包まれている時は、そこにきっと多くの霊が寄って参ります。
私たち霊界の者は出来るだけ人間との接触を求めて近づこうとするのですが、どれだけ接近できるかは、その人の雰囲気、成長の度合い、進化の程度に掛っています。霊的なものに一切反応しない人間とは接触できません。
霊的自覚、悟り、ないしは霊的活気のある人とはすぐに接触がとれ、一体関係が保てます。そういう人はスピリチュアリストばかりとは限りません。知識としてスピリチュアリズムのことを知らなくても、霊的なことを理解できる人であればそれでいいのです。
とにかく冷静で受容的な心を保つことです。取り越し苦労、悩み、心配の念がいちばんいけません。それらがモヤをこしらえて、私たちを近づけなくするのです」
──そういう霊にこちらからの念が通じますか。
「一概にイエスともノーとも言いかねます。魂の進化の程度が問題となるからです。波長の問題です。もしも双方がほぼ同程度の段階にあれば通じるでしょうが、あまりに距離がありすぎればまったく波長が反応し合いませんから、通じないでしょう」
──他界した人のことを余りに心配すると霊界での向上の妨げになるのでしょうか。
「地上の人間に霊界の人間の進歩を妨げる力はありません。スピリットはスピリット自身の行為によって向上進化します。人間の行為とは関係ありません」(絶対的拘束力はないという意味で述べている-訳者)
──世俗から隔絶した場所で瞑想の生活を送っている人がいますが、あれで良いのでしょうか。
「〝良い〟と言う言葉の意味次第です。世俗から離れた生活は心霊能力の発達には好都合で、その意味では良いと言えるでしょう。が、私の考えでは、世俗の中で生活しつつ、しかも世俗から超然とした生活の方がはるかに上です。
つまり霊的自覚に基づいた努力と忍耐と向上を通じて同胞の為に尽くすことが、人間本来のあるべき姿だと思います」
──世俗から離れた生活は自分のためでしかないということでしょうか。
「いちばん偉大なことは他人のために己を忘れることです。自分の能力を発達させること自体は結構なことですが、開発した才能を他人の為に活用することの方がもっと大切です」
──これからホームサークルを作りたいと思っている人たちへのアドバイスを・・・。
「イヤな思いをすることのない、本当に心の通い合える人々が同じ目的を持って一つのグループをこしらえます。週一回、同じ時刻に同じ部屋に集まり、一時間ばかり、あるいはもう少し長くてもよろしい、祈りから初めて、そのまま瞑想に入ります。目的、動機が一番大切です。面白半分にやってはいけません。
人のために役立たせるために霊能を開発したいと一念で忍耐強く、ねばり強く、コンスタントに会合を重ねていくことです。そのうち同じ一念に燃えたスピリットと感応し、必要な霊能を発揮すべく援助してくれることでしょう。
言っておきますが、私どもは何かと人眼を惹くことばかりしたがる見栄っ張りの連中には用はありません。使われずに居眠りをしている貴重な霊力を引き出し、同胞のため人類全体のために有効に使うことを目的とした人の集まりには大いに援助します」
──どうすれば霊媒や霊視能力者になれるでしょうか。
「神のために自分を役立てようとする人はみな神の霊媒です。いかにして霊を向上させるか──これはもう改めて説く必要はないでしょう。これまで何回となく繰り返し説いてきたことだからです。自分を愛する如く隣人を愛することです。人のために役立つことをすることです。
自分を高めることをすることです。何でもよろしい、内部に宿る神性を発揮させることをすることです。それが最高の霊媒現象なのです。霊視能力者になる方法よりは、神の光が見えるように魂を開く方法をお教えしましょう。それも今述べたのと同じです」