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先月を 振り返って |
<先月の本>
先月はめぼしい本がちょっと少なかった気がするのですが、それでも★★★★★を付けた「屍鬼」があったので、それだけで十分という感じもします。多分この本は冬休み中にもう一度読むでしょう。何を言ってもネタバレになってしまうように思えるこの本について語るのは、私の貧弱なボキャブラリーでは難しいのですが、今年のマイベストだと思った「秘密」が西の横綱だったら、この本は東の横綱ですね。人の生死とは何なのか、当事者である人間にその答えを求めようとしても、絶対の答えなどあるわけがないのですが、この本を読むと自分の考えてきた地盤が揺らぐような気がしました。もし自分がこの外場にいたら、どういう行動を取ったか考えると、この本の中の人の誰をも咎めたり、嗤ったりすることはできません。もう一度読むときは、じっくりと腰をすえて読んでみたいものです。
先月の★★★★の中からは、「夏のロケット」を推薦。火星を夢見たロケット狂の5人が、それぞれの技量を生かして再びロケット作りに励む青春小説。日々の生活に疲れた人に読んでもらいたい爽快なお話です。
先月の注目作家は、もうおわかりの通り(笑)小野不由美さんです。実は私は結構最近まで彼女が綾辻行人氏の奥さんだとは知らなかったのですが、鬼才の夫婦(^^)ですね。こんなすぐれた語り手を御両親にもつ子供はなんて幸せなのでしょう。
閑話休題。「屍鬼」を読んで、小野不由美の本を次々読んだのですが、いずれも面白い。今も続いている「十二国記シリーズ」はティーンズ小説(という言葉はもう古いのでしょうか)を集めた文庫からの出版にも関わらず、十分一般に通用するシリーズだと思いますし、「屍鬼」や「東亰異聞」もそうでしたが、こうして完全なるフィクションの世界を作る小野さんの才能はすごいなあと思います。私には、行ってみたいところのひとつに「オズの国」というのがあったのですが、これからは「小野不由美の世界」も加えたいですね。
<先月の私>
怒涛の新刊ラッシュもようやく落ち着き、忙しいこともあって本屋へ行くのが間遠になっています。出版社があまりに頑張ると、読み手がつらいのと同様、私の職場も恐ろしく忙しくなります。毎日来る本を処理するのだけでも手いっぱいのところへ、新学期が始まって先生方が来週の授業で必要だからと整理を急がせたり、学園祭が近いこともあって学生さんも図書館にたくさん来て無理難題を言ったりします。そんな時に限ってこれまた整理の難しいCDやらビデオやらを沢山買おうとする人がいるんですね。今ビデオがブックトラック1台分も来ていて、私の部署の人々は青ざめています。「7月4日に生まれて」だの「敦煌」だのもあって、思わず週末に持って帰って観ようかなと思ってしまうラインナップなのですが、仕事を考えるとビデオは購入を恐れられる最大手です。つい先日整理したCDもルネッサンス期の宗教音楽のコレクションで、持って帰ってダビングしようかと思ったのですが、やっぱり仕事となると辛い。機械可読資料やマイクロフィルムを含めた図書ではないこうした資料を「非図書」と呼ぶのですが、こうした資料は将来的に図書館にとって必要なのは解っても、旧来の整理方法に当てはめることしか出来ない今の図書館では、受け入れるのが大変です。ちょっと疲れたおりには、「東京のうまい店いきたい店」とか「映画の香り」なんていう本をぱらぱらめくりながら休憩したりしてそれなりに楽しいのですが、この状態がいつまで続くのかと思うとため息が出ます。
(ご存知でない方に申し上げておきますと、私は図書館に勤めております。決して本をめくってサボっているわけではありません。)