2004年03月

遭難者の夢 家族狩り第二部(天童荒太) 指輪物語 第二部 二つの塔(J.R.R.トールキン)
黄昏の百合の骨(恩田陸) そして、警官は奔る(日明恩)
残虐記(桐野夏生) 銀行籠城(新堂冬樹)
エロチカ(e-Novels編) 指輪物語 第3部 王の帰還(J.R.R.トールキン)
アベラシオン(篠田真由美) 富士山大噴火(鯨統一郎)
仔羊の巣(坂木司) 動物園の鳥(坂木司)
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遭難者の夢 家族狩り第二部

著者天童荒太 遭難者の夢 家族狩り第二部
出版(判型)新潮文庫
出版年月2004.3
ISBN(価格)4-10-145713-1(\476)【amazon】【bk1
評価

幻世の祈り』の続き。思わぬ事件に巻き込まれた浚介は、壊れた生活を送り、亜衣は今だ摂食障害から抜け出せない。家族との新たな生活に戸惑いを感じている馬見原には、ある男の消息が伝わってきた。

まだまだ話は途中。一体この話がどこへ着陸するのか、全く見えてきません。前作で編み出されたエピソードは、そのまま少しづつ重なったり、離れたりしながらも、まだまだ平行線で続いていくようです。感想もこれでは書けないですね。。。続きが気になります。

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指輪物語 第二部 二つの塔

著者J.R.R.トールキン 指輪物語 第二部 二つの塔
出版(判型)評論社文庫
出版年月1992.7
ISBN(価格)4-566-02367-2(\700)【amazon】【bk1
4-566-02366-4(\700)【amazon】【bk1
4-566-02368-0(\700)【amazon】【bk1
評価

ボロミアが襲われ、ピピンとメリーがオークに攫われた。そして指輪所持者はその従僕と共に川の向こうへと渡ったらしい。フロドの心を悟ったアラゴルンは、ギムリとレゴラスと共に、オークを追うという選択をとる。一方、フロドとサムは、エミン・ムイルの山道を迷いながら歩いていた。

映画版は視覚的効果の点から、戦闘シーンをより丁寧に描いているのですね。原作ではあまり戦闘シーンは劇的ではなく、新たな仲間との出会い、そして中つ国の歴史や、モルドールや人間の国の起源に多くのページが費やされていました。これはこれでいいなあ。『二つの塔』に関しては、こちらを先に読んでたほうが、より映画を楽しめたように思います。一方で、原作のほうが映画よりも「中継ぎ」イメージが強いなという印象を受けました。しかし、映画ではバッサリと切られてしまったらしいサルマンのその後もわかりましたし、そして、やはり大分割愛・改変されたファラミアとフロドのやりとりで、またひとつ謎が解けたように思います。ゴクリ(映画版ではゴラム)はあまり違いませんね。いよいよ次はクライマックス。

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黄昏の百合の骨

著者恩田陸 黄昏の百合の骨
出版(判型)講談社
出版年月2004.3
ISBN(価格)4-06-212332-0(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

麦の海に沈む果実』の続編。理瀬の祖母が残した白百合荘。祖母の遺言は「自分が死んだあと、水野理瀬が半年以上ここに住まなければ処分してはならない」という奇妙なものだった。理瀬は遺言どおりに留学先のイギリスから白百合荘へと戻ってきたのだが・・・。

この物語は、もしかしたら恩田陸ワールドがたっぷりつまった壮大な物語の一部なのか、と今更ながら気づいた次第です。実際全く決着はついていないようだし、続きそうな雰囲気もある。『麦の海〜』からもう一度読み直したくなりました。一体この理瀬の物語はどうなるのでしょうか。気になって仕方ありません。読まれる方は、『麦の海に沈む果実』から読んだほうがいいかも。

この人の作品は、本当に雰囲気がすばらしいですね。このぞくぞく来る恐怖感。読みながら後ろに誰か立ってるのでは・・・と思わせる描写はいつも感心します。そんな怖さを楽しみたい方におすすめ。

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そして、警官は奔る

著者日明恩 そして、警官は奔る
出版(判型)講談社
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-06-212255-3(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

それでも、警官は笑う』の続編。警察改革の前段階として蒲田署の刑事課に配属になった武本。冷血と呼ばれるやる気の見られない刑事・和田とコンビを組まされたが、様々な相棒の行動を不思議に思いながら3ヶ月が過ぎた。そんな中、隣の家から女の子の泣き声が聞こえるという通報を受けて、現場へと赴いた武本たち。そこで見たものは、大きな事件の発端だった。

「こんな場合は、どうなるの?」という日常の小さい犯罪や疑問を弁護士に解説してもらう番組がありますが、本当、法律って曖昧でしかも不可思議なことが多い。とはいえ、昔あったような「スカートは膝下何センチ」なんていう校則みたいにしてしまったら、息もつけなくなってしまいます。どこまで曖昧や緩さを残して、どこまで規制するかを決めるのが法律の作成者である国会なのであり、その法律の判断をするのは裁判所。その仕組みを決めているのが憲法なのですから、それを別のところで勝手に判断したり、解釈したり、ましてや警察自体が人情みたいな片方に肩入れするような形で取り締まってしまっては、法律の意味が無くなってしまう。とはいえ、警察も人間なのだから・・・そんな難しい問題をテーマに、最近流入が著しい不法滞在の外国人問題をからめて、考えさせられながらも、テンポもよい警察小説になっています。特に潮崎という天然ボケタイプキャラクターと、武本という鬼畜とも呼ばれる無骨なキャラクターをシリーズの中心に据えてるところが成功した理由かも。これ1冊を書くために、ものすごい資料を調べてるんじゃないかなあと思うのですが、それをこのキャラ配置をすることで、変に浮かせずにストーリーに取り込んでるところも巧いですね。人情か、それとも制裁か。ついつい極端に走りがちになってしまいますが、そのバランスをうまく取ってこそ(アメとムチって言いますしね)、社会は成り立つんじゃないかなと、この本を読みながら思ったのでした。

潮崎と武本の出会いについては、ぼかした感じでしか出てこないので、先に『それでも警官は笑う』を読むことをおすすめします。どちらも読んで損はありません。これからもシリーズとして続くでしょうし。次も楽しみです。

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残虐記

著者桐野夏生 残虐記
出版(判型)新潮社
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-10-466701-3(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★★

妻であり小説家である小海鳴海が失踪した。そして、彼女が残した原稿には、彼女が10歳の時にある男に誘拐され、1年間その男に監禁されていた事実が、書き記されていた。

作中作として描かれている「残虐記」と夫が編集者に宛てた手紙で描かれる「現実」。それはまるで彼女が監禁されていた1年と、解放と共に違和感を感じてしまう「現実」とのギャップを見事に表現しているように思います。そして、1年間の監禁という想像を超えた事実と、世間の好奇の目をここまでリアルに書いた筆力に、ただただ感服。何人か「この人、本当にこういう目にあったんじゃないの、あるいはこういうことしてるんじゃないの?」と思ってしまうような作家がいますが、桐野夏生は正にその一人。その圧倒的リアリティと、そしてわざと曖昧に残したラストで、読者の想像は極限まで広がっていきます。これぞエンタテイメントの極致。おすすめです。

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銀行籠城

著者新堂冬樹 銀行籠城
出版(判型)幻冬舎
出版年月2004.3
ISBN(価格)4-344-00480-9(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

五十嵐の標的は「あさがお銀行中野支店」。抵抗する人質を容赦なく射殺し、全員を服従させた五十嵐は、銀行に籠城した。要求もなく、次々と人質を殺す残虐な手口になすすべもない警察。一体彼の目的は何なのか。

こんなの、ただの我が儘じゃないのか。私はそう思うのです。恨みばかりを増幅させ、全く成長できない、外見だけは大人になってしまった子供。そんな印象を受けたのですが、皆さんどうでしょう。確かに犯人は「可哀想」かもしれない。が、かわいそうなんて世の中にはいくらでもあるし、それでも立派に成長していく人間だっていると思うのです。その成長を促すことができなかった周りにも問題があるのかもしれません。「可哀想」っていう感情ほど、その人をスポイルするものはないんじゃないかと、『そして、警官は奔る』とたまたま続けて読んだことで思ったのでした。

点数が辛くなったのは、せっかく良いテーマを取り上げながら、そのテーマへの掘り下げが少なく、犯人の残虐さだけが目立ってしまったところ。籠城犯のステレオタイプを嫌い、今までと違う犯人を中心に据えながらも、キャリア対ノンキャリア、そしてノンキャリアのほうが人情的みたいなステレオタイプの警察を一方で簡単に描いてしまってるのも少し興ざめ。あるシーンなんか、『L.A.コンフィデンシャル』そのままでしたし。この内容でこの薄さというのに何となく危惧はしてたのですが・・・。一風変わった籠城犯罪小説としては、面白いんですけどね。

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エロチカ

著者e-Novels編 エロチカ
出版(判型)講談社
出版年月2004.3
ISBN(価格)4-06-212289-8(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

「官能」をテーマにした短編集。津原泰水、山田正紀、京極夏彦桐野夏生貫井徳郎皆川博子、北野勇作、我孫子武丸という豪華執筆陣。

解説にも多く見られますが、官能小説というには意外な組み合わせであると思うのです。だからこそ、短編集としたときに千差万別で面白い。性というのは隠されたものですから、他人と比べるものでもないし、だからこそその妄想まで意外と人と違うというのがよく分かる短編集なのでした。面白いと思ったのは、桐野、皆川の女性執筆陣は、どちらかというと快楽に対する感情表現が多いのに対し、それ以外の短編は「セックスそのもの」の快楽という雰囲気が強いこと。どこまでもその機能的快楽を追求すると、北野勇作になるんでしょうし(これは笑えましたね、こういう本を書く人なんだと思いました)、どこまでもそれに伴う感情に昇華させると皆川博子になるのかなと漠然と考えたのでした。一番は桐野夏生。もともとこういう小説を書く人ですし、他の作品に比べて、ドロドロの度合いが強い。本当に暗い。そして他とはレベルの違う面白さを持っていました。

とにかくいわゆる「官能小説」とは全く違うこの作品集。読んで損はありません。

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指輪物語 第3部 王の帰還

著者J.R.R.トールキン 指輪物語 第3部 王の帰還
出版(判型)評論社文庫
出版年月1992.7
ISBN(価格)(上)4-566-02369-9(\700)【amazon】【bk1
(下)4-566-02370-2(\700)【amazon】【bk1
評価

ゴンドールは正に今オークの大軍に攻撃されようとしていた。アラゴルンたち旅の仲間と、ローハンの騎士たちは二手に分かれて急ぎ救援に向かう。一方サムは、モルドール間近にしてオークたちに連れ去られたフロドを救おうと、孤軍奮闘をしていた。

最後にいつものように★で評価をしようと思ったのですが、なんとなく今更な感じもして、評価はしないでおきます。先に映画を見てしまっていることもあるし、この本に関しては、今更私の評価なんぞ必要もないという理由からです。文句なしに面白かった。こういう長い話になると、あれはどうなったんだろう、と思う箇所が一カ所くらいあるものですが、細部まで本当によく考えられています。3時間半近い長さなのに、最も謎の多かった映画版「王の帰還」。その謎と思っていた箇所も、本当は最初から語られてきた小さなエピソードが映画では欠けてしまっていたからだった、というところも多かったです。特に「王の手は癒しの手」部分は結構重大な抜けのように思ったのですが、皆さんいかがでしたでしょうか。また、サルマンエピソードは本当に綺麗に切られてたんですね。まあ、これを入れるとあと1時間くらい必要かもしれないですけど。

比べてみると、やはり許容される長さ(予算も?)の中で「絵を見せる」、映画というメディア特徴が、指輪物語にとってプラスになる部分と、そうでない部分があったということだったのかな、と思います。私は映画を先に見たので、「ここ違うよ」とか、「この人はこんな人じゃない」といった不満もなく、映画も楽しめたし、逆に映画を見たことによって、謎に思った部分を本で補おうという目的が出来たし、また難しいキャラクターの名前も顔が合致しているので覚えていられた、ということで良かったんじゃないかと思うのです。

この作品、さすがに文庫で9巻、しかもどれも決して短くはないというだけあって、途中で挫折した、というのもよく聞きます。私も恐らく映画を見ていなければ、途中で挫折したクチじゃないかと思うんですね。なので、挫折してしまった、と言う人は、そのことは完全に無視して、映画を見て、本を再度読んでみることをオススメしますね。しかし、さすがこれだけの本を見事映画化した、と言われるだけあって、3作で約10時間(!)なんですよね〜。見始めたら正に耐久マラソンですね。

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アベラシオン

著者篠田真由美 アベラシオン
出版(判型)講談社
出版年月2004.3
ISBN(価格)4-06-212157-3(\3200)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

イタリア美術に憧れ、フィレンツェ大学への入学を夢見てフィレンツェで暮らす藍川芹。ルームメイトのドナに無理矢理連れて行かれたヴェネツィアのパーティで、奇妙な事件に遭遇する。その事件を通じて、今をときめく美術評論家、アベーレ・セラフィーノと知己を得た芹。彼はミラノ郊外の屋敷<聖天使宮>への招待状を送ってくるが、美しくもどこか歪んだその屋敷には、数々の秘密が潜んでいた。

著者もあとがきで書いていますが、篠田真由美の空想を見事小説化した作品。まず、その力に圧倒されました。イタリアの古い城。そこに住む天使の一族。そして迷宮で起こる不可解かつ凄惨な殺人事件。徐々に明かされる過去と、恐怖、冒険、淡い恋。すばらしいの一言。ここまで私の趣味に合うパーツを小説にした作品がいままであったでしょうか。それだけでも十分満足。明かされる謎も、この設定があってこそ。ぞくぞく来る恐怖感も、謎解きの面白さも同時に味わえます。

私はこの本読んでるとき、何度も悪夢を見ました。くらーい地下を歩いていたりとか、追いかけられたりとか。それだけこの本が真に迫っていたというか、私が没頭してたというか。

というわけで、おすすめ。長いのとちょっと高めなことで、おすすめ度は☆を1つ減らしましたが、内容としては文句無く★5だったな。イタリア美術が好きな方や、篠田世界のファンには特におすすめ。そうそう、私はクライマックスのある描写でようやく気づいた、という感じだったのですが、ちゃんと建築探偵シリーズのある人物が登場してます(シリーズを読んでなくても全く問題はないのですが)。これからのシリーズにこのエピソードや芹が絡んでくるのか、ちょっと気になるところ。

この本をわざわざ箱入りの立派な装丁にしたのも頷けます。きっと彼女の代表作と呼ばれるようになるのでしょうね。

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富士山大噴火

著者鯨統一郎 富士山大噴火
出版(判型)講談社
出版年月2004.3
ISBN(価格)4-06-212280-4(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

カメラマンの山本達也とフリーライターの天堂さゆりは、登呂遺跡の取材に静岡を訪れたとき、ドーベルマンに襲われそうになったり、鯉が不自然に跳ねているのを見た。何かがおかしい、と感じる頃、電波と雲のデータを使った独自の地震予測を行う女性と出会う。

子供の頃から「そろそろ来るぞ」と言われている東海地震。名前まで先についてるのに、一向にその気配無く、大きな地震は関東を避けるように西と北で次々に起こっています。すり込みもあって、結構関東の人間は地震に敏感なように思うのですが、どうでしょうね。ちょっと大きな揺れが来るとすぐ「地震?」「地震だ!」って騒ぐのは関東の人間かも。

が一方で関東には別の脅威もあるんでしたね。忘れてました。日本一高く、日本一有名な山、富士山。関東平野ならほぼどこでも見られる富士山。実家からは見えましたし、今も通勤途中に富士山ビューポイントがあります。なので最も親しみのある山でもあると思うのですが、あれは同時に日本一の脅威なんでした。この本読んでたら、地震なんかメじゃないですね、富士山噴火のほうがよっぽど怖い。地震への対策は、「もうすぐ」と言われて20年30年経ってますから、比較的とられてると思うのです。が、300年も噴火してない美しい富士山が怒ったときの対策なんて、取られてるんでしょうか。すんごい不安になってきましたよ。

ストーリーとしては唐突なところも多々あるのですが、鯨らしい「トンデモ系謎の解明」もきちんと盛り込まれているし、何よりスピード感もよかった。なんか映画『ダンテズ・ピーク』そっくりだよ、とツッコミ入れたくなるところもありましたが、全体としては面白かったです。富士山好き、パニックもの好きな方にはおすすめ。

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仔羊の巣

著者坂木司 仔羊の巣
出版(判型)東京創元社
出版年月2003.5
ISBN(価格)4-488-01291-4(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ひきこもりの名探偵は、友人・坂木の助けにより、徐々に外に出られるようになってきた。一方で彼の推理力・解決力を聞きつけた周りから、日常の相談が持ちかけられていた。
3部作第2作目、という位置づけのようで、前作を引き受けて、ひきこもり君が日常の謎を解くという体裁に。それぞれの短編に出てくる人たちが、いつのまにかレギュラーになっている感じなのが、長編的に読めて良いですね。ミステリとしては、まあ所謂日常の謎系と言われるものなのですが、探偵の探偵になる動機がちょっと特殊。その辺り少し新鮮といった感じの★3.5です。続けて『
動物園の鳥』を読んだので、シリーズとしての感想は次に。

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動物園の鳥

著者坂木司 動物園の鳥
出版(判型)東京創元社
出版年月2004.3
ISBN(価格)4-488-01296-5(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

ひきこもりのプログラマー鳥井に、またしても依頼があった。今度は動物園で起こった謎の猫襲撃事件。外に出るのを嫌がる鳥井を、無理矢理連れ出す坂木だったが・・・。

3部作完結編(?)にして、初の長編。相変わらず言動はエキセントリックで、社会性に乏しい鳥井だけれども、動物園という人のいる場所に出られるところまで成長。そして、完結編らしく、彼のひきこもりのきっかけや、坂木との関係がいかにして築かれたかといったエピソードも盛り込まれ、シリーズで読んでいる人に対するサービスも万全な1作です。

この作品に出てくる「人の何気ない悪意」って私も意外と敏感なほうだったので、この著者の言いたいことは、すごくよくわかるんです。ただ「だった」と言うように、歳とってから、徐々にそういうのって気にならなくなってきたかなぁ。やはり大学生、社会人と、「強制的に小さいグループに分けられ、一緒に生活する」という枷が無くなったことが大きいですね。小中高校はどうしてもクラスがあるし、何かと班行動だの、誰かとペアで何かをするだの、沢山ありましたが(もちろん、それは協調性を学んだり、誰かを思いやったり、チームワークとは何かを学ぶという意味では重要なんでしょうけど)、そういうのが無くなったら、案の定私は凧の糸が切れたように自由になって、「自分は自分」っていうことに苦しまなくなって楽になった気がします。ここ20年で社会自体もそういうのを受け入れられる土壌ができてきたってことなのかも。一方で協調性に欠けるし、自分は自分は自分勝手に近いものがあったりして、それはそれで反省しますが、それも歳を経るにつれて昔よりは丸くなったかもしれない(気のせい?)。だから今そういうので悩んでる人も、まあ仕方ないか今だけだし、と気楽に構えるのがいいんじゃないかと思いますよ。

「全部の人に好かれるなんて、どだい無理な話、好きじゃない人に嫌われても何とも思わない」っていうセリフが、すんごい格好いいと思いました。無理して苦手な人ともつきあおうとする人がいますが、お互い不幸だからやめたほうがいい。それが出来る人はやっぱり強い人なのでしょうけれども、私はそういう強い人になりたいと常々思ってましたから、これを読んだとき、心強い気分になりました。人間関係のドロドロを描く作品は多いですが、こんな風にすっぱり切り捨てる、そういうのもありだ、とハッキリ言う作品は意外と少ないように思います。いいなあ、この潔さ。想像されるものであったとはいえ、ラストもgoodでした。おすすめ。

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