2004年02月

幻夜(東野圭吾) 幻世の祈り(天童荒太)
パーフェクトプラン(柳原慧) ひらひら(池永陽)
真夏の島の夢(竹内真) 眼球の毛(青来有一)
結婚詐欺師(乃南アサ) ジェシカが駆け抜けた七年間について(歌野晶午)
簡単な生活(松尾清貴) 黒を纏う紫(五條瑛)
指輪物語 第一部 旅の仲間(J.R.R.トールキン著) マイ・スウィート・ホーム(富谷千夏)
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幻夜

著者東野圭吾 幻夜
出版(判型)集英社
出版年月2004.1
ISBN(価格)4-08-774668-2(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

父が工場の経営不振を理由に自殺した。そして、父の通夜の日に突然襲った大地震。同時に雅也の人生にも大激震が襲った。地震直後に知り合った女性と神戸を出ることになった雅也。しかしその彼女は・・・。

この小説の最大の読みどころは、どっちへ落とすか、というところだったと思うのです。私は「ああ、そうなっちゃうのか」でした(期待とは逆だった)。前作『殺人の門』でも同じところで★を減らした記憶がありますが、こういうラストがこの著者はお気に入りなのかな。読み進めてるときは非常に面白いのですが、後味の悪さも一級品。

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幻世の祈り

著者天童荒太 幻世の祈り
出版(判型)新潮文庫
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-10-145712-3(\476)【amazon】【bk1
評価

家族狩り』の書き直しというか、テーマや登場人物を借りた書き下ろし長編になる模様です。まだ今回は第一部。まだあらすじも書けないほど導入部。妻と娘との距離がうまくとれず戸惑いながら、世話をしている女性と子供の別れに苦しむ馬見原刑事と、教え子の理解できない行動と、恋人との問題に頭をかかえる美術教師・巣藤を中心に話はすすみ、そして起こる事件、というところまで。これから物語が動くのでしょうけれども、変に説教くさくなるのは嫌だなぁ。良い子で聞き分けが良すぎると「子供らしくない。手のかかる子のほうがかわいい」とか言って、それでキレると「今の子供は・・・」みたいなのが私は中途半端で一番嫌いです。読んで思ったのですが、元の本ってどんなオチだったか忘れてます。もう一度読まなくちゃ。

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パーフェクトプラン

著者柳原慧 パーフェクトプラン
出版(判型)宝島社
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-7966-3811-3(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

小田桐良江は代理母で生計を立てている。自分が最初に産んだ子供を影で見守っていた彼女は、その子供・俊成が虐待を受けていることを知る。そして俊成を誘拐した良江だったが、それを知った仲間たちが、ある計画を思いつく。

なんて言うんでしょう、ひとつひとつ設定は変わっていて面白いのですが、それが活かしきれてないというか、なんとなく上滑りな印象を受けてしまいました。特にパソコン周りの辺りは、ががーっと調べたのをそのまま入れたんじゃないかという感じ。地の文に出てくる妙に軽い文章が、全体の雰囲気と合ってないのもあるのかもしれません。ラストの感動シーンがとってもよかったので、変に奇を衒わないで、この雰囲気を膨らませればいいんじゃないかな、と思ったのでした。

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ひらひら

著者池永陽 ひらひら
出版(判型)集英社文庫
出版年月2004.1
ISBN(価格)4-08-747657-X(\571)【amazon】【bk1
評価★★★☆

要領が悪いヤクザの常巳。周りの友人にも「おめえにはヤクザは似合わねえ」と言われ、反発しつつも、迷う毎日。そんなある日、常巳があこがれる伝説の男・腕切り万治が出所することになった。

ヤクザのまま生きるか、それともカタギに戻るか。恵まれなかった家庭や自分の生い立ちを呪いながら、それでもヤクザになりきれない常巳は、どういう道を選ぶのか。選ぶのは一般的でない選択ですが、その彼の悩みはすごくステレオタイプで、人間味を感じさせるもの。最後まで目が離せません。著者はどんなオチを持ってくるのか、楽しみにしながら読める小説です。

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真夏の島の夢

著者竹内真 真夏の島の夢
出版(判型)角川春樹事務所
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-7584-1026-7(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

瀬戸内海に浮かぶのどかな島・鹿爪島。そこで毎年開かれるアートフェスティバルに出場予定するべく、コント劇団コカペプシの4人は船に乗り込んでいた。島でフェスティバルの設営アルバイトをしながら、劇を作成する合宿も一緒にしてしまおうという予定。同じ船には次作作成のために缶詰になる予定の小説家・大桃佳苗も乗っていた。そして彼らを待ち受けていたのは・・・

4人の個性的な劇団連中と、これまた強烈な官能小説家、そして戦中派の島の老人たちと産廃反対運動、そんな彼らを取り巻くドタバタが見事彼らのキャラクターとマッチして、テンポ良い小説になっています。4人があらゆるアクシデントを自分たちの劇に取り込んで次々とアイディアを出していく樣、そしてそんな彼らを見ながら、創作意欲と同時に性欲もかき立てられる(笑)小説家、産廃反対を叫ぶじいさんたちも元気だし、こういう最後まで安心して楽しんで読める小説って意外と少ない気も。ある意味毒が無くて起伏が少ないと言えるのかもしれませんが、個性的なキャラクターたちが魅力的で、それを補って余りある、という感じです。ドタバダ劇が好きな方におすすめ。

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眼球の毛

著者青来有一 眼球の毛
出版(判型)講談社
出版年月 2003.12
ISBN(価格)4-06-210728-7(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

時は2040年。土曜日に愛人に会うことを楽しみにして生きる40歳の教授は、その愛人がつれなくなったことで、若い研究者との仲を疑い、不安を覚えていた。しかし、その愛人から、その不安とは全く違う事実を突きつけられる。

うーん、ラストを言いたかっただけなら、もう少し短くてもいいかな、というのが正直な感想。教授の行く末は気になりましたが、結末は最初から見えていたかな、と思います。というか、私が思っていた雰囲気と違ったのが、最大の不満要素だったのかもしれませんが・・・。手紙の部分は、いよいよ真実が明かされるか、と面白く読めたのですけどね。

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結婚詐欺師

著者乃南アサ 結婚詐欺師
出版(判型)新潮文庫
出版年月 2004.2
ISBN(価格)4-10-142533-7(\476)【amazon】【bk1
4-10-142534-5(\476)【amazon】【bk1
評価★★★★

橋口雄一郎は、甘い言葉で女性を誘い、持っている大金をだまし取るプロの結婚詐欺師。デパートの店員や、行きつけの飲み屋の女将など、今も数人の女性を瞞し続けている。そんな彼の次の狙いは、ゴルフ練習場で出会った女だった。

面白く読ませる本、特に女性にからむ作品を書かせると、乃波アサ篠田節子柴田よしきなど、女性のベテランである作家は強いですね。ほんと面白い。私は「俺は仕事ができるんだぜ」的に仕事で大変だったけど成功した、っていうだけのオチのない話ばっかりする奴も、歯の浮くようなセリフを言うやつも生理的に好かないし、その上超のつくケチなので、当然キミも払うんでしょって感じの男も、女に金を借りようとする人間もダメなので(そういう人が嫌いというわけではなく、恋愛対象としては考えられない)、こういう男に瞞される女性の気持ちってよくわかってないのですが、それでも十分面白かったです。瞞されちゃうのかなあ、こういうのって。本にも出てますけど、こういう詐欺師って「こいつは行ける」っていうのがわかるみたいですよね。逆にそれを見抜くのが腕の良い詐欺師なわけで。私が新宿でも渋谷でもましてや原宿でも手相見以外に声をかけられないのは、「こいつは行ける」っていうオーラが全く出てないからだと思おう、そうしよう。

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ジェシカが駆け抜けた七年間について

著者歌野晶午 ジェシカが駆け抜けた七年間について
出版(判型)原書房
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-562-03738-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

エチオピアからの移民一家の娘としてアメリカに渡ってきたジェシカは、今は長距離専門の陸上競技クラブに所属している。次の大会までのカウントダウンを始めたある日、仲の良い同僚であるアユミの不思議な行動を目にしてしまう。そのあと衝撃の事実をジェシカに話し、クラブを去っていったアユミ。そして7年の歳月が過ぎた。

これまたうまいですね。最後まで瞞されてました。そしてこの帯や扉に書いてあるあらすじってどうなの?って思いませんでしたか?>読んだ方。まあそれはいいとして、単なる謎解きでもなく、ドラマあり、ストーリーの起伏もあり、というところがこの著者の気に入っているところです。伊坂幸太郎が去年ブレイクしましたが、似た感じでもあるこの著者も派手にメジャーデビューしても良いですよね(もう十分メジャー?)。とりあえず読んでみて、そんな感じのおすすめ作品です。

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簡単な生活

著者松尾清貴 簡単な生活
出版(判型)小学館
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-09-386128-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

大正時代の東京。神田に建つ木造四階建てのビルには、ちょっと目新しい居酒屋があった。狭い店内はいつも満員。自称帝大卒の高等遊民・ミツキは、居酒屋の店主・鶯吉さんに騙され、そこで丁稚奉公させられているのだが、そこへ持ち上がったのがビルの建て壊し騒動。さてさて彼らはどうするのか?

短かった大正年間というのは、近代化の波が大きかった明治時代が終わってようやく一段落、大正デモクラシーの時代でもあり、日本が明るかった時代、という印象があります。この本に出てくる神田もものすごく賑やかで、活気に溢れた雰囲気が見事描写されてますし。そんな明るい大正時代に身を置いて、ミツキと一緒に熱くなれる小説です。が、その結末は・・・。ストーリーの振り方が巧いなあと思える作品でした。ただ、欲を言えば、もう少しこの続きを書いて貰いたかったかも?

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黒を纏う紫

著者五條瑛 黒を纏う紫
出版(判型)徳間書店
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-19-861775-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

近未来の東京は、移民であふれかえっていた。膨大なエネルギーを湯水のように使い、夜の都と呼ばれている東京では、危険を伴う特殊物質の輸送がビジネスとなっていた。人生に希望を無くし、その特殊物質運搬を生業としている鶴見は、今日も有明の玉撞き店で一人ビリヤードにふけっていた。すると一人の女が声をかけてきた。

映画などで映像化したら面白そう、と思ったのですが、いかがでしょうか。日本というか東京は今でもエネルギーを膨大に使う街だそうですが、そのエネルギーの多くは都心から離れた原子力発電所が生成しているのもまた事実。去年の原発騒ぎで起きた電力不足騒動を考えるまでもなく、資源に乏しい日本がこの状態を維持するためには、原子力は絶対に必要なエネルギーなわけですよね。エネルギー問題というのは、日本が抱える最大の問題の一つなのでしょうけれども、そんなエネルギーを巡って、こんなスピード感のある小説を書いた著者の手腕はさすが。反対派・賛成派どちらかに肩入れしたストーリーにするわけでもなく(なので、勧善懲悪という雰囲気は皆無)、その被害者でもあり、一方で加害者とも言える特殊物質輸送を生業とする運転手を主人公にしたところも、なかなか考えられていると思います。シリーズものとはちょっと離れた五條瑛。彼女の作品を初めて読む方には、特におすすめ。もちろん五條ファンには手放しでおすすめ。

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指輪物語 第一部 旅の仲間

著者J.R.R.トールキン著 指輪物語 第一部 旅の仲間
出版(判型)評論社文庫
出版年月1992.7
ISBN(価格)4-566-02362-1(\700)【amazon】【bk1
4-566-02363-X(\700)【amazon】【bk1
4-566-02364-8(\700)【amazon】【bk1
4-566-02365-6(\700)【amazon】【bk1
評価

冥王サウロンが作ったとされる全てを統治する一つの指輪。それをホビット庄のビルボ・バギンズが手に入れたことがすべての発端だった。その指輪は彼が愛した養子フロドに受け継がれるが、ガンダルフから指輪の正体を知らされる。恐ろしい指輪の謎を知ったフロドは、指輪を持って住み慣れた村を出ることになったが・・・。

映画は謎だらけで、結局読むことになってしまった原作。ただ、映画を先に見ていたことで、結末を知りたいと思うドキドキ感は薄れはしたものの、私の不得意とするカタカナの読みにくい人名や架空の地名に惑わされずに済んでいます。カタカナ苦手な方は、先に映画を見ていたほうがいいかも。

今原作読んでるんですよ〜と「指輪」ファンの職場のおばさまに話していたところ、「あれって、新版になって大分よくなったけど、ちょっと訳が古いわよねえ」と言ってました。確かに。アンダーヒルが山の下氏に、アラゴルンのあだ名である「ストライダー」が馳夫と訳されてたときにはどうしようかと思いましたが・・・。まあでもそういう古くささを除けば文章的には問題ないし、逆に読みやすいくらいなので、すいすい読めてしまいます。気づけば第一部終了。まだまだ先は長いですが、これは続きも楽しみです。

そんな第一部では、早くもいくつかの謎が明らかになってきました。また、映画では出てこなかったキャラクターやエピソードもいくつか。確かに全部やってたら長すぎでしょうけれども、ここが無かったから、あの意味がわからなかったのか〜と思ったこともあって、本当に隅々までよく考えられた本だなあと思ってるところです。来週は第二部を読む予定。

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マイ・スウィート・ホーム

著者富谷千夏 マイ・スウィート・ホーム
出版(判型)新潮社
出版年月2004.2
ISBN(価格)4-10-466301-8(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★★

彼と出会ったのは、非常勤講師をしていた塾でだった。世間を斜めにみる言動と、そして彼と同じように世をすねているような自分の最大の理解者に思えた彼と結婚したアヅマだったが・・・。

すごいですね。この雰囲気。ここまで「結婚して子供産むなんて最悪の判断だ」と思わせる本は今までなかったかも。男は「自分は外で仕事して疲れているんだ、その仕事でおまえたちを養っているんだ」と思い、女は「家事と育児は土日どころか、休憩もない。自分の時間を全て削って家事をこなしているのに、男は「そんなこと」としか思っていない」っていうある意味どっちも相手を思いやらない自分勝手な気持ちが、徐々に夫婦を冷めさせてしまうのかなあと思います。今は。我々の親の世代くらいまで、離婚なんてドラマだけの話のようでしたが、このところ熟年若年問わずに離婚が増えているのは、それぞれに感謝の気持ちが足らないから、あるいはそれを伝えることを忘れちゃってるからじゃないかなあと思うんですけどね。そりゃどっちも大変だと思いますよ。どっちもやってる身からすると。

先日産休明けで帰ってきた先輩は、「仕事してる間が一番休める」と言ってました。奇しくも主人公が再び職を見つけて、社会に戻ったときに「会社では休憩もとれるし、トイレも自由に行ける。しかも仕事をすると「ごくろうさん」と言ってもらえる」って言うんですよね。もちろんそれに対する対価(賃金)も貰えるわけです。その気持ち、ちょっと分かります。いくら家事で忙しくても「当たり前」で済まされてしまいますから。

「家事や育児は私事」っていう風潮が世の中にはありますが、その家庭という単位が集まってこの世の中を動かしてることを忘れちゃいけません。そういう気持ちがもっと社会に浸透すれば、こんな家庭も減るんじゃないかと思うんですけど、どうでしょう。

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