2000年07月

EDGE2-三月の誘拐者-(とみなが貴和) 少女の領分(入江曜子)
ナイフ(重松清) おせっかい(松尾由美)
彼女が死んだ夜(西澤保彦) GO(金城一紀)
ネバーランド(恩田陸) 御手洗パロディ・サイト事件(島田荘司)
P.I.P.-プリズナー・イン・プノンペン-(沢井鯨) 麦酒の家の冒険(西澤保彦)
神々の遺品(今野敏) 記号を喰う魔女(浦賀和宏)
古惑仔(チンピラ)(馳星周) 仔羊たちの聖夜(西澤保彦)
歪んだ匣(永井するみ) 希望の国のエクソダス(村上龍)
古書店アゼリアの死体(若竹七海) スコッチ・ゲーム(西澤保彦)
麦の海に沈む果実(恩田陸) コンセント(田口ランディ)
永遠の森-博物館惑星-(菅浩江)
<<前の月へ次の月へ>>

EDGE2-三月の誘拐者-

著者とみなが貴和
出版(判型)講談社X文庫ホワイトハート
出版年月2000.6
ISBN(価格)4-06-255476-3(\550)【amazon】【bk1
評価★★★★

神田川に流されてしまった「ゆきちゃん」を探すために、見ず知らずの男についていってしまった少女。警察からの依頼で、再び捜査の仲間入りをすることになった大滝錬摩は、神田川がキーワードなっていることに気づく。

前作から1年後の大滝と宗一郎のお話。大滝君の徐々にあかされる過去はおいておくとして、それをのぞいても十分ミステリとして読める1冊でした。結構ここまで読んでしまうと続きが気になるし、続きを買うならこの2冊も買っておこうかな。というわけで、麻弥さん、営業活動大成功です(笑)。どちらかというと、ティーンズ小説に抵抗のない人におすすめです。

先頭へ

少女の領分

著者入江曜子
出版(判型)講談社
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-06-209983-7(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

1945年。ケイの一家は、空襲の激しくなる東京を逃れ、西伊豆の栄巣村へ疎開してきた。国粋主義にどっぷりつかったケイは、終戦とそれに伴う価値の大変換を目の当たりにしながら、少女時代を過ごす。

うちのじいさんも終戦直前まで激戦地に行っていた人間で、終戦は内地で迎えた人です。今でも口癖なのが「お金なんて信用しちゃならない、いつ紙屑になるかわからないからな」。天皇は現人神だったはずなのに、いつのまにか人間となり、聖戦だったはずの戦争は侵略と言われ、一体命をかけてまで行ったあれは何だったのだろう、と何度も思ったのでしょう。だから彼女の気持ちはなんとなくわかるのです。一方で、そんな彼女の嫉妬や羨望といった少女らしい感じかたや考え方は、21世紀を迎えようとしている今も全く変わらないもの。人が変わったわけじゃないのです。中国行ったときも思ったのですが、社会が違うということは、本当に何もかもが違うこと。でもやっぱり人間は人間なんだな、とそんな感想を抱きました。おすすめです。

先頭へ

ナイフ

著者重松清
出版(判型)新潮文庫
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-10-134913-4(\590)【amazon】【bk1
評価★★★★★

傷つきやすい少年・少女を主人公とした短編集。

重松清の本って、どことなく主人公やストーリーが似ているのです。それでも感動できるし、それほど飽きたなとも思わないのは、間を開けて読んでいることもあるのでしょうけれども、それ以上に面白いからなのでしょう。重松清の書く少年、少女たちって、うまいですね。よく彼らの感情を表しているように思うのですが、どうでしょう>少年少女のみなさま。今回のこの短編集では、「エビスくん」と「キャッチボール日より」が好き。特に「エビスくん」はボロボロでした。文庫版あとがきにまで泣いている自分がちょっと情けない・・・。というわけで、少年少女に戻りたいみなさまのおすすめ。

先頭へ

おせっかい

著者松尾由美
出版(判型)幻冬舎
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-344-00008-0(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

橘綾香が雑誌に連載している「おせっかい」。それを読んだ古内繁は、その小説の世界に入ってしまう夢を見た。ところが翌月の連載には、彼が見た夢の通りの描写が。一体どういうことだ・・・。

ちょっと前衛的なミステリ(^^)。小説の中に入ってしまうこと自体は問題にされず、それによって生じる事態に関するお話です。こういうおせっかいっていますよね。「頼んでないじゃん」と喉元まで出かかるのですが、それでも相手は親切でやってるわけですからそんなことも言えず。作中作というのが活かし切れてない感じがしましたが、全体的にはまあまあ面白く読めました。

先頭へ

彼女が死んだ夜

著者西澤保彦
出版(判型)角川文庫
出版年月2000.5
ISBN(価格)4-04-354001-9(\571)【amazon】【bk1
評価★★★★

箱入り娘のハコちゃんこと浜口美緒は、明日からアメリカへホームスティに行くことになっていた。壮行会のあと、ハコちゃんは家でとんでもないものを発見してしまう。アメリカに行きたい一心のハコちゃんが取った行動のために、とんでもない事件に巻き込まれてしまった匠千暁ことタックとその仲間4人だったが。

タックシリーズを読もう第1弾(^^)。不可思議な状況を様々な推理によって解き明かそうとするこの作品、最後まで二転三転する結末に踊らされてました。大学にいつまでもいる(こういう人いますよね〜(笑))ボアン先輩、そのボアン先輩と超似合わない不思議な女性タカチ、脳天気なウサコ、そして記述者であるタックの4人が繰り広げる推理合戦。ひとつひとつの可能性をつぶして、真相を暴く推理小説が好きな方におすすめ。

先頭へ

GO

著者金城一紀
出版(判型)講談社
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-06-210054-1(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

元在日朝鮮人。諸処の事情で今は韓国籍。そんな僕は、ある日出会った少女に一目惚れした。

「在日」の名前のために様々な苦労をする杉原君。国籍なんてすぐに変えられるものだし、どうだっていいと思いつつも、彼女にそのことを打ち明けられないのですが・・・。「ロミオとジュリエット」の時代から本当にどこにでもあるような話でありながら、舞台が現代の日本だからなのかとっても面白かったですね。特に彼の国籍論にはいろいろ考えさせられるものがありました。同じ日本で生まれながら、なぜ「在日」になってしまうのか、日本国籍が取れないのか。国籍って普段生活している分には全然気にしてないものですが、中国人留学生と話したりすると、国籍による制約の多さにびっくりすることもあります。単なる恋愛小説にしなかったところがよかったのかも。おすすめです。

先頭へ

ネバーランド

著者恩田陸
出版(判型) 集英社
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-08-774463-9(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

それぞれの事情で、学校の寮で年越しをすることになった3人の少年。もう1人が乱入して、それぞれが自分のことを語り始める。

それぞれが自分の心情を語って、今まで疑問に思っていたことが徐々に明らかになっていくという過程は、どことなく「木曜組曲」に似てるかなと思いました。でも少年版だけあって、雰囲気はとっても良いです。私も中学高校に寮があったものですから、なんとなくこの「語りモード」ってわかるんですよね。中学生とか高校生にありがちな、今思うとどうでもよいような話を延々と話して、あーでもない、こーでもないっていうそれが面白かったような気もします。お化け話もとりあえず定番(^^)。どの学校にも必ずあるんじゃないですか?こういう話。「他人の家の食事ってびっくりすることあるよね」の話は笑えました。わたしも同じような経験あります。そんなふと思い出す昔話。おすすめです。

先頭へ

御手洗パロディ・サイト事件

著者島田荘司
出版(判型)南雲堂
出版年月2000.4
ISBN(価格)(上)4-523-26356-6(\880)【amazon】【bk1
(下)4-523-26357-4(\880)【amazon】【bk1
評価★★★☆

石岡のところに、里美が持ち込んだのは、友人の失踪事件。里美にいずれ劣らぬ御手洗ファンだった彼女は、インターネットで御手洗シリーズのパスティーシュノベルをたくさん収集していた。それらの中に失踪の理由があると考えた石岡と里美は、そのパスティーシュノベルを読み始める。

最初から最後まで御手洗ファンへのサービスという本なのですが、結構面白かったですね。22のパスティーシュノベルも、結構レベルが高くて楽しめました。特に柄刀一の「シリウスの雫」はさすが柄刀一。これだけでも十分短編として読めるのに(^^)。この本は一応シリーズの1作として考えられるのかな。ちょっと石岡君のポイントUPです(笑)。御手洗ファンにはおすすめ・・・かも。

先頭へ

P.I.P.-プリズナー・イン・プノンペン-

著者沢井鯨
出版(判型)小学館
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-09-386091-2(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

1度行ったカンボジアで出会った少女に惹かれ、友人の誘いに乗って教師を辞めてカンボジアへと飛んだイザワ。ところが、理不尽な罪状で拘置所に繋がれてしまった。証人は死に、大使館も助けてくれない。法など通用しない、すべてが金のカンボジアで、彼はいったいどうするのか。

これって本当の話なのでしょうか?すごい衝撃的。人は信用するな、すべては金というある意味ものすごく単純なシステムで動くカンボジア。日本って、どんなに政治家が信用できないとか、警察の不祥事がどうのこうのといっても、日本という国とか制度は心のどこかで信用している気がするのです。この著者の見るカンボジアではそれがない。200万人が虐殺されたと言われ、なんとか残った国と人は地獄の沙汰も金次第といったような状況で暮らし、正義などどこにもない。インテリが殺されたという歴史から、教育さえも否定され、海外からの支援に頼りながらも、その支援さえどこへ行っているのやら・・・。この本を読む限り、本当にすごい国です。すっかりはまってしまいました。ポルポトの話はかなり日本でも報道されましたし、何故彼があんな行動に走ったのか、未だに不明と言われていますが、本当にこんな理由だったのでしょうか。確かに1年も封印されていた?というのもうなずけるような内容。それとも本の中で何度も言われているように、他人の言うことは信用してはいけないのでしょうか・・・。とりあえず読んでみてください、おすすめです。

先頭へ

麦酒の家の冒険

著者西澤保彦
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1996.11
ISBN(価格)4-06-181938-0(\780)【amazon】【bk1
評価★★★★

タックシリーズを読もう第2弾。この本は再読です。

気分転換を兼ねてR高原に旅行に出たタックたち4人。ところが帰る途中で車がガス欠、しばらく歩いた末、奇妙な家に宿を取ることに。家具はシングルベットが1つ。あるものは隠されたように置かれた冷蔵庫と山ほどのビール。一体この家は何なのだろうか。4人は麦酒の家の謎を説くために、ビールを飲みながら議論する。

最初読んだとき、こういう答えのない論理ゲームってやってて面白いのかなぁと思ってしまったのですが、再読してみると意外といけました。いろんな仮説を考えることって面白いものですね。多少は成長したのか、それともそういうのを受け入れられるくらい鈍感になったのか、微妙なところです(^^;私はタカチの仮説が一番綺麗だと思ったのですが、こういうおちがついてしまったのですね。なるほど。

先頭へ

神々の遺品

著者今野敏
出版(判型) 双葉社
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-575-23391-9(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

元警察官、今は探偵事務所を開いている石神のところに、駆け出しのタレント高園江梨子が依頼にやってきた。同級生であり、今も連絡を取り合っていた東堂由紀夫が突然行方不明になったというのだ。地球上の超古代文明に興味を持っていた彼は何故失踪してしまったのか。それを調べるうちに、巨大な陰謀が明らかに。

うーん、面白いとは思うのですが、どれも既にどこかで聞いた話ばかり。結構こういう系統の話ってミステリでも出てくるので、それにさらに上を行くびっくりの仮説を出してくるのかと期待したのですが、それほど盛り上がらずに終わってしまったのが残念でした。オーパーツ、UFO、ピラミッドの謎などに反応できる方におすすめ(^^)

先頭へ

記号を喰う魔女

著者浦賀和宏
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2000.5
ISBN(価格)4-06-182128-8(\820)【amazon】【bk1
評価★★★☆

目の前で同級生が自殺した。目撃していたのは天文部の5人。告別式の日、死んだ織田の叔父が彼の遺書のことを話す。それは「自殺したときに居合わせた人間達を僕の生まれたあの島に連れていって欲しい」という内容だった。

カニバリズムと人間の歴史をテーマとした小説。この人の本って、あるテーマを下敷きをした作品としては上手いと思うんですよね。こういうのって、テーマ自体に引きずられてしまうというか、岩波新書とか、講談社学術文庫に書いたほうがいいんじゃないの?みたいな啓蒙書になってしまう危険があるわけですけれども、その辺りシリーズキャラクターをうまく使うことで逃れている気がします。島に行った主人公は恐ろしい目に遭うのですが、彼は生き残れるのでしょうか。

先頭へ

古惑仔(チンピラ)

著者馳星周
出版(判型)徳間書店
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-19-861204-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

新宿の多民族社会の暗黒を描く短編集。

馳星周の本を読むたびに思うのですが、新宿っていうのはほんとうにこんな感じなのでしょうか。これは絶対日本じゃない・・・。この人の本を読むと、もう随分前に行った台湾を思い出すんですよね。もしかしたら感じ的には似ているのかも。台湾は日本語た通じてしまうのもその一因かもしれません。中国語って、ただ話しているだけでも喧嘩しているみたいなのですが、にぎやかっていうのはよくわかります。どの短編も面白いのですが、特に差が無く、平坦なのが不満。これで馳星周が全然違う雰囲気の本を書いたら面白いと思うんですけど・・・

先頭へ

仔羊たちの聖夜

著者西澤保彦
出版(判型)角川書店
出版年月1997.8
ISBN(価格)4-04-788108-2(\1000)【amazon】【bk1
評価★★★★

去年のイヴ。プレゼント交換をしようとコンビニの前にたむろしていたタックたち。そこへ悲鳴と共に女性が飛び降りた。それから約1年。ボアン先輩が、突然古いプレゼントを出してくる。「去年のイヴにみんなのプレゼントの中にまぎれていたらしい」。もしや、あの飛び降りた女性のものなのだろうか。ボアン先輩の依頼でタックとタカチが捜査を始めるが。

タックシリーズを読もう第3弾。

今回は比較的動くのです(^^)>タックとタカチ。女性の親類、元婚約者、そして自殺したコンビニのあるマンションの管理人と様々な人から話を聞いて、徐々にプレゼントの意味がわかってくるのですが。シリーズものらしく、そろそろわかってくる謎の女性タカチの過去のお話とからんでくるので、シリーズで読んでる方は必読。

■入手情報: 角川文庫(2001.8)

先頭へ

歪んだ匣

著者永井するみ
出版(判型)祥伝社
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-396-63173-1(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

神谷町に建つオフィスビル。そのあちこちで起きる小さい事件を題材にした連作短編集。

さわやかなものあり、逆にどろどろなものもあり、面白く読めました。私は大学というちょっと特殊な環境で仕事をしているので、またこういうのも新鮮。1週間くらい別の職場で仕事をしてみるのも面白いかも(でも1週間で十分な気も)、なんて思ってみたり(^^)。

なかでも面白かったのは、手紙形式で犯人がわかってくる「ブラックボックス」。掃除のおばさんという視点から見たビルの事件は、どのような解決を見るでしょうか。逆にすごく重いなと思ったのが、「歪んだ月」。夫が不倫をしているのではないか、と勘ぐって自滅する主婦のお話。一番よかったなと思うのが「D・I・D」。ある電話番号から、意外な事実がわかるさわやかなお話です。

永井するみは前作「ランチタイム・ブルー」でもあるキャリアウーマンを主人公にした日常ミステリ的な話を書いていましたが、意外なテーマの重厚ミステリから転向でしょうか。読みやすい文章を書いてくれるので、これからにも期待です。

先頭へ

希望の国のエクソダス

著者村上龍
出版(判型)文藝春秋
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-16-319380-4(\1571)【amazon】【bk1
評価★★★★★

ある日、パキスタンの映像に日本人の中学生が映った。テレビの質問に英語で答え、「もう日本のことは忘れた」と話す彼。中学生がそんなところで何をしているのか。何故そんなところにいるのか。その映像がちょっとした話題となったあと、中学生たちが集団不登校を始める。そしてネットワークを介して連絡を取り合った全国の中学生たちは次々と新しい事業を起こす。

村上龍の考える日本の改革論、あるいは日本の未来論。
面白いと思いました。ふと思い出したのは、大学生たちが日本を変えようと必死になって権力と戦おうとした「全共闘」。でもこの村上龍の描く中学生たちは、あの60年代の大学生と比べてものすごく冷めていて、資本主義を理解していて、そして彼らのように権力に負けたりしないのです。でも一方で、みんなで一緒になって何かを成し遂げたという感動に希薄な中学生たち。彼らの出した現状での結論は、これから評価されていくところだと思うのは、語り手の関口と同じ気持ち。

日本は今、足下に地面の無いことに気づかないドナルドダックのようなものだと思うのです。みんな何か変だと思いながらも、気づかないふりをしているからなんとか浮いていられる。このまま地面の無いことに気づかなければ、そのうち地面のある場所まで浮いたまま戻っていける、みんな不安ながらもそう思っているのかもしれない。でも地面の無くなっていることに気づかなかったドナルドは、やがて無理がきて下を見てしまいます。そして、物理法則に逆らえなくなったドナルドは墜落してしまうのです。日本も浮いているという不自然な状態が徐々に破綻し、そして下に地面が無いことに気づいてしまうのではないか、そんな風に思ったのでした。

私はこの国が戦争に負けて、価値観が180度転換し何もなかったところから、今の繁栄を手に入れたことを考えると、一度墜落してもいいんじゃないかと思ったりもするのですが(いや既にバブルの崩壊の時代に墜落しているとも言えるのですが)、村上龍が考えたのは、中学生が作る新しい集団が、日本を救うのではなく、日本から脱出する方法。つまり、自分で考えて自分なりに換金できる価値を創造できない人間は、日本という沈没しかけた船に置いていこうという考え方ですね。厳しいですけど、義理人情やお国のためになんていう言葉が古くなってしまった現在では、そういう方法も一つの解決策なのかなと思います。

この本を読んでいたらいろいろ考えてしまいました。中学生が快進撃を続ける本というのは、それほど目新しいものではないとは思いますが、この本ではそれが単なるエンターテイメントになっていないところがすごいと思います。おすすめ。

先頭へ

古書店アゼリアの死体

著者若竹七海
出版(判型)カッパノベルス
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-334-07396-4(\838)【amazon】【bk1
評価★★★

ひどい目に遭い続けて、葉崎の海に「バカヤロー」と言いに来た相澤真琴は、なんと波に洗われる死体を見つけてしまう。とんだ足止めを食った真琴だったが、ひょんなことから古書店アゼリアの女亭主の目に止まり、アゼリアの店番をすることになった。

若竹七海という作者は、本当に本が好きなんだなと思うんですよね。読書っていうのではなく、本が好き。そんな気がします。ロマンス小説はゴシックにしろカテゴリにしろほとんど(というか全然)読まないのですし、古書店はさらに使わないのですが、それでも彼女の本に対する愛情というか、執着というか(^^)は、とってもよくわかるし、彼女の描く古書店の様子は、本当に良い感じ。全体のストーリーもユーモアの効いたミステリで、楽しめました。疲れたときの口直しにおすすめな本です。

先頭へ

スコッチ・ゲーム

著者西澤保彦
出版(判型)角川書店
出版年月1998.3
ISBN(価格)4-04-788122-8(\920)【amazon】【bk1
評価★★★☆

高瀬千帆は、高校生時代愛した女性を亡くしていた。ルームメイトだったその女性は、部屋でめった差しにされて発見された。千帆は彼女の敵を取るべく、あらゆる調査を行うが、父親の妨害にあい、遠くの大学への進学と同時に引っ越してしまう。そして1年後・・・。

タックシリーズを読もう第4弾。

タカチの気になる女性の恋人との逸話がわかるお話。この解決はちょっと厳しいかな・・・という気がしてしまったのですが、この人の本が面白いと思うのは、人間に対する考え方というか、洞察の部分。「黄金色の祈り」の時も思ったのですが、妙にこの著者の考え方というのは共感できるものがありますね。屈折した親に考え方とか、男女に関する洞察とか、なるほどと感心してしまいます。

シリーズとしてもちょっと方向転換?今回はタカチの過去に焦点を絞った構成になっています。タカチの過去が気になるシリーズ読者は必読ですね(^^)。というわけで、いよいよ次は「依存」です。

先頭へ

麦の海に沈む果実

著者恩田陸
出版(判型)講談社
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-06-210169-6(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

青の丘の上に要塞のようにそびえる「三月の学園」。理瀬はそこへと向かっていた。恐ろしい伝説、次々といなくなる生徒たち、そして女装癖のある校長。三月の学園へ時期はずれにやってきた理瀬は様々な試練を与えられる。

「あ〜、そうそう!それってあるよね」と言えるときって、親近感が沸きますよね。恩田陸の本は、そういうシンクロニズムを感じる部分が多いのです。「象と耳鳴り」や「ネバーランド」でもそうでしたし、そしてこの本!まさに自分が思い描いた夢の学校のような感じではないですか。赤毛のアンのくだりは笑えましたし、「女の子」に対する考え方とか、ファミリーみたいな制度、そして問題の「三月は紅の淵を」の話。謎の置き方、学園の変わった制度、そして外に出られないという制約。良いですね〜。こういうのって純粋に合う合わないになってしまうと思うのですが、この本は私にとってたまらなく良い。できればもっと前に、中学生ぐらいの時に読みたかった。私も本ばっかり読んでる空想癖の強い子供だったので、なんとなく思い描くことは同じなのかもしれないな、と思ったのでした。だからラストの変調がものすごく残念。というわけで点数は-0.5というところで、★★★★です。でも子供の頃の「夢」を思い出させてくれるこの本、私にとってはものすごく大切な本になるような気がします。

先頭へ

コンセント

著者田口ランディ
出版(判型)幻冬舎
出版年月2000.6
ISBN(価格)4-87728-965-8(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

兄が衰弱死した。自分で借りた部屋の台所に横たわったまま、発見されたときは既に腐っていた。掃除機のコンセントはささったまま、まるで今から掃除をしようとしていたかのように。なぜ兄は逝ってしまったのか。

人間と外界とのつながりをコンセントという形で表現したこの作品。コンセントにこだわり続けた兄の、その死の意味を知りたい妹は、自分の不思議な力からコンセントの意味を見いだそうとするわけですけれども、彼女の考え方には共感しずらいというかなんというか。コンセントという例え方は面白いと思ったのですが、彼女は単に弱いだけじゃないかと、その弱さに言い訳を見つけているだけではないかとそんな風に思ってしまったのです。私はよく「強い人間」と言われるのですが、こういう人たちにちょっとだけ狡猾さを感じてしまうのは強い人間の傲慢なのか、それともそうすることのできない嫉妬心なんでしょうか。

先頭へ

永遠の森-博物館惑星-

著者菅浩江
出版(判型)早川書房
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-15-208291-7(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

博物館惑星<アフロディーテ>。そこには全世界の様々な美術品を集めたその博物館には、音楽・舞台・文芸担当の<ミューズ>、絵画・工芸担当の<アテナ>、動・植物担当の<デメテル>。そしてそれらを統括する総合管轄部署<アポロン>に籍を置く田代孝弘は、その3つの部署による収蔵品取り合いの調停に大わらわ。今日もまた、上司である「案山子」ことコリンズに呼び出された。

美しさは絶対的なものなのでしょうか。私は前に日記で「面白さは人によってものすごく違うので、面白い本を教えてくれと言われるのが一番困る」という話をしているのですが、美しさも人によって感じ方が違うというのが持論なのです。でも人間が美しいと思うモノっていうのは、やっぱり同じ方向性を持っているものなんだ、という考え方もあるわけで、黄金率というのはその最たるもの。もし、人間の感じ方が数値的に表されることができるというのなら、それはそれで学術的には面白いと思うのですが、やっぱりそんなものは考えずに素直に綺麗とか美しいとか言えるのって素晴らしいと思うんですよね。知識は確かに美しさを「説明」するのには役に立つかもしれませんが、逆にその知識を通して見てしまうことで、純粋に美しさを楽しめなくなることだってあるのではないでしょうか。

だから私もここには小難しい文学理論とか持ち出すのって好きではなくて、ここがよかったとか、面白くなかったとか、そんな感じになっちゃうんです。この中で主人公が「脱力的な感想」(^^)とか言ってますけど、それでもいいかなとこの本を読んで、ちょっとだけ思いました。

ああ、直接接続のデータベースの話も書きたかったのですが、まとまらないのでこの辺で。

先頭へ