2002年06月

青空の卵(坂木司) 子盗り(海月ルイ)
狐闇(北森鴻) 金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲(赤川次郎ほか)
未熟の獣(黒崎緑) 樒/榁(殊能将之)
ふたり探偵-寝台特急「カシオペア」の二重密室-(黒田研二) 文章魔界道(鯨統一郎)
笑殺魔-ハーフリース保育園推理日誌1-(黒田研二) まほろ市の殺人 春-無節操な死人-(倉知淳)
まほろ市の殺人 夏-夏に散る花-(我孫子武丸) まほろ市の殺人 秋(麻耶雄嵩)
アブラムスの夜(北林優) それでも警官は微笑う(日明恩)
まほろ市の殺人 冬-蜃気楼に手を振る-(有栖川有栖)
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青空の卵

著者坂木司
出版(判型)東京創元社
出版年月2002.5
ISBN(価格)4-488-01289-2(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

外資系の保険会社に勤める坂木司は、ちょこちょこと事件に巻き込まれる。その相談役は、ひきこもりプログラマーの鳥井真一。坂木の親友でもある彼は、見事な洞察力で、次々と奇妙な事件を解決していく。

名探偵って孤高の人というのが多いですけど、ひきこもりの鳥井は、頭が良いのに、どこか情けない。ワトソン役の坂木のほうがずっとしっかりしていて、そしてやたらといい人。その微妙な人物造形のズレが、今までにない新鮮な雰囲気の小説になっています。著者本人がインタビューでも言っているように、短編ながら、登場人物がどんどん繋がっていくのも、私のように「人が変わるから短編は嫌い」という人の気持ちをよくわかっていらっしゃる。事件の内容は、日常の謎系と言われるものですが、ラストの作品とか、ものすごく感動しました。おすすめです。

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子盗り

著者海月ルイ
出版(判型)文藝春秋
出版年月2002.5
ISBN(価格)4-16-320960-3(\1476)【amazon】【bk1
評価★★★

13年、子どもができない。旧家に嫁いだ美津子は非常に肩身の狭い思いをしていた。分家の人間は、自分の子どもを養子にと画策、姑の視線も冷たい。追い詰められた美津子は、ある決心をする。

望んでもいない子どもができて、あっさりと捨てられたり、中絶されたりする一方で、子どもができなくて、人工授精といった技術に頼ってまで子どもを欲しがる人がいたり。世の中うまくいかない、の最たるものなのかも。皇室の一件でもよくわかるように、結婚した女性にとって跡取を生まなくてはならないというプレッシャーは、まだまだ残っているんでしょうね。子どもが生まれることは、めでたいことなのに、なんだか変な感じ。

子どもが生めない女、子どもを奪われた女、望んでもいない子どもを妊娠してしまった女といった、それぞれの思惑が交錯して、スピード感のある小説になっているとは思うのですが、あまり新鮮味が無く、思ったとおりの最後が勿体無いなあ。サントリーミステリー大賞だけに、2時間ドラマ的?

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狐闇

著者北森鴻
出版(判型)講談社
出版年月2002.5
ISBN(価格)4-06-211250-7(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ある競り市で、2つの海獣葡萄鏡を手に入れた陶子。ところが、家に帰って中を改めると、ひとつが三角縁神獣鏡へと変わっていた。あることに気づいた彼女は、巨大な陰謀へと巻き込まれていく。

凶笑面』の蓮杖那智も登場する、オールスター古美術ミステリ(笑)。『狐罠』で陶磁器贋作事件に巻き込まれた陶子が、今度は青銅鏡事件に巻き込まれるお話。途中からトンデモミステリ系になってきますが、なかなか読ませます。一気読み。前回のような古美術界の中の面白さを期待してたので、ちょっと別の流れでしたが、こういう歴史ミステリもたまに読むとはまります。歴史(日本史)好きな方におすすめ。

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金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲

著者赤川次郎ほか
出版(判型)角川書店
出版年月2002.5
ISBN(価格)4-04-873362-1(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

その他の著者:有栖川有栖,小川勝己,北森鴻,京極夏彦,栗本薫,柴田よしき,菅浩江,服部まゆみ

9人の著者よる、金田一耕助、あるいは横溝正史をテーマにした競作。自著の登場人物と金田一や横溝氏に会わせたり、あるいは金田一シリーズで解かれた謎を改めて掘り起こしたり、といった様々な趣向が凝らされています。それぞれの金田一への思い入れがわかって面白いですね。中でも北森鴻のパロディ小説は異彩を放っていてハナマル(笑)。特にキメ台詞のところは抱腹絶倒。元ネタ(黒猫亭事件)を知っていると更に笑えるのでは。金田一好きな方におすすめ。

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未熟の獣

著者黒崎緑
出版(判型)小学館
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-09-387381-X(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

近所の公園で、行方不明だった女の子の死体が発見された。早朝の発見者は、近所の主婦と、ジョギングをしていたまゆみの彼氏、修。殺されていた少女は、手に『1+1=』と書かれた不思議なメモを握っていた。このメモの意味は?そして、再び少女が行方不明になった。

うーん、ミステリとしては平凡な域だった気も。帯に書いてあるほどの目新しさは感じされませんでした。結末もあらすじから想像できる範囲内でしたし。どちらかというと面白かったのは、登場人物の心の動き。登場人物のほとんどが女性というところも、なんだか女性の作家らしいと言えばいいのでしょうか。しかもそれぞれに「こういう人、本当にいるよな」とか、「あーよく分かるその気持ち」といった描写で、楽しませてくれました。またさらに、ラストで☆ひとつ追加。そこまでが少々不満だっただけに、逆にラストの終わり方で評価が上がりました。ちょっとちょっと怖いよぉといったところ。

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樒/榁

著者殊能将之
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-06-182256-X(\700)【amazon】【bk1
評価★★★

友人が営んでいる旅館を訪れた探偵水城と鮎井。すると、近くの神社の宮司が天狗を目撃したという噂を聞く。興味を示した水城が、宮司を訪れるが。

水城シリーズあるいは石動シリーズ番外編。中篇までもいかない連作短編です。トリックとしてはそこそこ面白かったのですが、全体としてはまあまあだったかな。ただ殊能だけに、これが何かに繋がったり、全体として別の意味を持ってたりっていうひねくれた見方もあるのかも。。。(^^;。どちらかというと、石動が出てくる「榁」のほうがお気に入り。

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ふたり探偵-寝台特急「カシオペア」の二重密室-

著者黒田研二
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.5
ISBN(価格)4-334-07471-5(\781)【amazon】【bk1
評価★★★★

向河原友梨は、北海道への取材旅行中、同僚の耕平が失踪したことを気に病んでいた。彼は失踪の直前、世の中を震撼させているシリアルキラーJに関する予言をしていたのだ。取材を終え、皆で寝台特急カシオペアへ乗って東京へと戻る途中、ついに事件が起こる。

日記にも書きましたが、美しい伏線ミステリー。こういう、細かいところがすーっと一本になっていく小説って、読んでいて気持ちがいいです。しかも、このメインになってる「あること」って、私もすんごく考えたことがあって、心理学のときに同じことを質問して「それは心理学ではなく哲学の問題ですね」と言われた記憶も鮮明に残ってます。それで、余計に「ああ、なるほど!」という印象が強かったのかも。そしてカシオペア!私も乗りたいよお。もう既に7月の半ばまでスイートだけでなくツインも満席だそうで。ただ、私の後に読んだ相方と話しているとき、ひとつだけ「あれ、この線はどこへ行っちゃったんだろう」というものがひとつ。物語の根幹をなすシリアルキラーの部分だけに、ちょっとひっかかっちゃった。カシオペアに乗った?という嫉妬も加えて(笑)、★4.5にしようかと思ってたところを-0.5。

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文章魔界道

著者鯨統一郎
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-396-33050-2(\381)【amazon】【bk1
評価★★

あらゆる小説を読んでいるが、書いたことの無い大文豪(おおぶみ・ごう)と、1冊も小説を読んだことが無いのに次々文章が浮かぶ弟子のミユキ。大文がとうとう小説を書いたとき、文章魔王によって、その小説が奪われた!数々の試練を乗り越えて小説を取り戻すため、ミユキは文章魔界道へと向かう。

うーん。これって好きな人は好きなのかなあ。私もお馬鹿小説はお馬鹿小説として楽しめればいいとは思うのですが、この笑いにはついていけなかった・・・。すみません。っていうか、アイディアが浮かんでも、小説が読めないのと、小説を読んでても文章を書けないのと、どっちが良いですか?という、いろんな作家さんに対する皮肉とも究極の選択とも言える作品?私は読めれば書けなくてもいいや。

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笑殺魔-ハーフリース保育園推理日誌1-

著者黒田研二
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-06-182254-3(\800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

子どもに笑顔を見せると、必ずその子に災いが起こる、と子どもの前で笑うのを恐れる保母。そんな彼女の勤める<ハーフリース保育園>で誘拐事件が起きた。たまたま居合わせた幼児図書の営業マン・次郎丸諒もその事件に巻き込まれる。

ギリシア彫刻のような園長、切れ者なのに、日本語不得手で時々大ボケの参謀・山添女史が経営する<ハーフリース保育園>を舞台とするシリーズになるそうで。この著者の本って、ふたり探偵でも思ったのですが、全体の雰囲気が冷たくなくていいな、と思います。地の文でやたらと世の中を斜めに見た意見をいいたがる小説がありますが、そういうのが無いのが好きかも。

というわけで、そんな作者の書いた小説だけに、保育園が舞台、登場人物もちょっと変わり者っていう設定は、ぴったりはまってていいですね。この後、どんな展開になっていくのか楽しみ。

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まほろ市の殺人 春-無節操な死人-

著者倉知淳
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-396-33046-4(\381)【amazon】【bk1
評価★★★☆

人を殺してしまったかも・・・という電話を受け、カノコの家に行った美波。ところが、その男の死体はどこにもない。警察にも相手にしてもらえないカノコだったが、なんとその男が全く別の場所で死体となって発見された。

この長さだからいいなあ、こういう本格ミステリ。トリックとしては、まあまあかなのレベルなのですが、中篇だから許せるかも。ちゃんと伏線が綺麗に一本になっているところも○。初めて読んだ倉知淳でしたが、他のも読もうかなという気にさせる出来でした。

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まほろ市の殺人 夏-夏に散る花-

著者我孫子武丸
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-396-33047-2(\381)【amazon】【bk1
評価★★★★

真幌市に住む作家・君村義一の元にファンレターが届いた。ファンレターなんて着たこともない君村は狂喜乱舞。彼女とメールのやりとりをし、初めて会うことになる。ところが会ったとたん、彼女とのやりとりは疎遠になり・・・

これまた中篇だからこそできるトリック。だからこそうまい作家、と言えるのでしょう。きちんと纏まっているし、しかもトリックも面白いです。「普通の推理小説」が読みたい方にはおすすめ。

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まほろ市の殺人 秋

著者麻耶雄嵩
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-396-33048-0(\381)【amazon】【bk1
評価★★★

真幌市で有名なミステリー作家・闇雲A子に気に入られ、彼女のお守りをすることになった天城憂刑事。彼女は今、真幌キラーを追っている最中だった。次々と起こる殺人に、意味不明の置物。謎を解こうとする闇雲A子だったが。

鯨統一郎もそうでしたが、400円文庫だからこそ、こういうお遊び要素って少ないほうが良い気がするんですよね。あーでも400円文庫だからできるのかなあ。難しいところ。『翼ある闇』よりは受け入れられましたが、やはり苦手かもしれない。。。<麻耶雄嵩。すみません、ファンの皆様。

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アブラムスの夜

著者北林優
出版(判型)徳間書店
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-19-861529-2(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

母親を殺され、心に傷を持ったまま現在警視庁鑑識課に勤める松原唯。点数を稼ぐことを公言してはばからない権堂。そんな彼らが、焼死体事件を調べることになった。明らかに愉快犯と思われる惨殺死体に、警察は必死の捜査を行うが、それを嘲笑うように第2の事件が起きる。

事件の内容が非常に不快なために、全体的な印象が非常に暗い。どよーんとした気分になります。しかもこういう事件って、このところ現実でも少なくないだけに、嫌な気分になりますね。あらすじを読んで、鑑識にもっと光が当てられた小説なのかと思ったのですが、どちらかというと、中心となる少年事件の残忍さのほうが前面に出ていたような気がします。鑑識を中心にするなら、事件の比重を下げてもよかったのでは・・・。というか、著者がその気がなかったのなら、この帯に非がありますね。権堂の性格の描写の仕方も中途半端で気になりました。非ばかりあげつらってしまいましたが、ラストに向けて、事件の真相が明らかになる部分はなかなか面白く読めましたよ。ので、★は3。どちらかというと暗い社会派が好きな方におすすめ。

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それでも警官は微笑う

著者日明恩
出版(判型)講談社
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-06-211213-2(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

やんごとない出身の若い潮崎警部と、無骨でいかにも警察官という雰囲気を醸し出した武本。そんな彼らは、ある銃が絡んだ事件を追っていた。

潮崎っていうキャラクターは、女性が描いたキャラクターだなぁって思うんですよね。今までにない警官・潮崎と、武本のでこぼこコンビ。しかも潮崎の方が階級が上なだけに起こるドタバタ。まず設定が面白いのです。全体としては、麻取と警察とのいざこざ、そして警察上層部と現場とのいざこざといったありがちな展開ながらも、ラストの持っていき方がよかったな。これはシリーズ化期待かも。

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まほろ市の殺人 冬-蜃気楼に手を振る-

著者有栖川有栖
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月2002.6
ISBN(価格)4-396-33049-9(\381)【amazon】【bk1
評価★★★☆

3つ子だった満彦。長兄を幼い頃に亡くし、そして今3千万という拾いもののために、次兄とも別れようとしていた。

うーん、発端部分を読んだときに期待したストーリーとはちょっと違ったかな。さすが有栖川有栖、と思ったのですが、ラストは拍子抜け。うーん。

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