2003年06月

上高地の切り裂きジャック(島田荘司) 葬列(小川勝己)
心洞 -Open Sesame-(五條瑛) 神のロジック人間のマジック(西澤保彦)
真相(横山秀夫) 燃えよ!刑務所(戸梶圭太)
石の猿(ジェフリー・ディーヴァー) 異形の花嫁(ブリジット・オベール)
死なないで(井上剛) ルナ-Orphan's trouble-(三島浩司)
プレシャス・ライアー(菅浩江) 笑う怪獣-ミステリ劇場-(西澤保彦)
ZOO(乙一)
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上高地の切り裂きジャック

著者島田荘司
出版(判型)原書房
出版年月2003.3
ISBN(価格)4-562-03630-3(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

上高地で女優の惨殺死体が発見された。撮影を終え、横浜へ帰ったはずの彼女が何故か上高地の林の中で腹を裂かれていたのだ。不思議な猟奇殺人に警察は御手洗の知恵を借りようとする。

表題作を含む2作の中編。うーん、どっちもまあまあというか、普通の推理小説というか。島田荘司だけに、ミステリアスな事件の演出はばっちりなのですが、中編だとこの程度になっちゃうんでしょうかね。御手洗自身が出てこないのもいまいちなのかも。御手洗ファンには一応おすすめ。

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葬列

著者小川勝己
出版(判型)角川文庫
出版年月2003.5
ISBN(価格)4-04-370601-4(\667)【amazon】【bk1
評価★★★★

不幸を絵に描いたような暮らしをする明日美の前に、不幸の発端を作ったしのぶが現れたところから、すべてが始まった。ヤクザの戦争に巻き込まれた史郎と、社会に復讐を誓う渚が出会ったとき、とんでもない事件が起こる。

小笠原慧の『DZ』と同時に横溝正史賞を取った作品ですが、何故かこちらだけ読んでませんでした。内容が全然違うので、比べることに意味は無いのですが、スピード感、エンターテイメントとしての面白さとしてはこちらのほうが上でした。読んでなくてごめんなさいという感じ。当時も何人かの方におすすめされたような気がするのですが・・・。まさにジェットコースターというか、坂を転がり落ちるごとく場面がくるくると変化し、読み手を飽きさせないところはお見事です。暗くて派手な話が好きな方にはおすすめ。

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心洞 -Open Sesame-

著者五條瑛
出版(判型)双葉社
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-575-23468-0(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

逃げた「鳩」を追う北京、タイ、そして根岸会。ファービーと言われる新しいドラッグと共にそれに巻き込まれたヤスフミと、彼と同居するエナ。そしてその中心にいるのは・・・。

前作で中心になった「鳩」が引き起こす新宿の微妙な変化と、その見えない渦に巻き込まれるヤスフミとエナのお話。次々と現れる役者と、少しずつ何かが変わっていく新宿とに"Revolution"を示す何かがあるのか・・・。次は「エナ」が引き起こした渦が、誰を巻き込むのか楽しみという一作。とりあえず人物表が欲しいと思うのは私だけ?もちろんシリーズで読んでる方は、必読の一冊。10冊出てから読んでも良いのでは・・・という気がしなくもないのですが、10冊目が出た頃には、最初のほうは絶版になってるっていう可能性も・・・(笑えない・・・)

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神のロジック人間のマジック

著者西澤保彦
出版(判型)文藝春秋
出版年月2003.5
ISBN(価格)4-16-321840-8(\1762)【amazon】【bk1
評価★★★★

僕は、不思議な学校にいた。アメリカだと思われるその学校では、実習中心の授業が行われている。その実習は犯人当て。一体ここは何のために作られた学校なのだろうか。

これは面白い。『麦酒の家の冒険』に通じる雰囲気です。可能性を次々あげて、徐々に真相に近づく西澤ミステリの王道。今回は設定による背負い投げというよりも、真相自体が面白かったかな。本とは別のところで少々残念に思うことはあっても、この本そのものとしては万歳なストーリーでした。西澤ミステリが好きな方には特におすすめ。

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真相

著者横山秀夫
出版(判型)双葉社
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-575-23461-3(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★

息子を殺した犯人が捕まった。しかし犯人が自白したという真相は・・・。という表題作を含む人間の「心の闇」を描いた短編5編。

うー暗い、暗すぎる。このところ疲れる事が多いので、どうもこういうのはダメ。特に「18番ホール」とか、救いが無い。どうしてこの人の書く本は、ここまで暗いのでしょう。。。もう少し明るくてもいいと思うんですよね。というわけで、評価は★★★どまり。暗いのが好きな方には超おすすめかも。

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燃えよ!刑務所

著者戸梶圭太
出版(判型)双葉社
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-575-23467-2(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

刑務所はどこも100%を超える収容率に悩まされていた。刑務所過剰収容対策委員会の花菱は、ある日天啓を受ける。「刑務所を民営化しよう!そして囚人たちを働かせるんだ!」

手紙』、『繋がれた明日』と人権的な面からみた犯罪者の話が続く今日この頃ですが、戸梶がそんな傾向を一刀両断。犯罪者を犯罪者として扱って何故悪い!という方向から、なんと刑務所を民営化し、タダの労働力として囚人を使い、利益を得ればいいじゃないかと考えるのです。実は私、同じこと考えたことあるんですよね。毎日小菅の拘置所を見ながら通勤してたんですけど、結構立派な建物になってるじゃないですか。犯罪者はあんなところに入って、何もしないのに3食食べられて、私はこんな満員電車で通わなくちゃならない理不尽さ。映画『刑務所の中』の感想にも書きましたが、その辺のホームレスのほうがよっぽど大変そう。そんなことを思う方には、ノリの良さを合わせておすすめ。理不尽ながらも意外と人情派、花菱の大暴れが楽しめます。

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石の猿

著者ジェフリー・ディーヴァー
出版(判型)文藝春秋
出版年月2003.5
ISBN(価格)4-16-321870X(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

人を人と思っていない冷徹な蛇頭・ゴーストがアメリカへ密入国するという情報をつかんだライムたち。水際での逮捕を目指して情報収集をしていたが、後少しのところでゴーストに裏をかかれ、逃げられてしまう。多くの一般密入国者の命も危ない。ライムは微細な証拠物件から、ゴーストを追う。

今回も後少しでしっぽを捕まえられるところで逃げられ、また追いつめて逃げられ、しかもサックスまで狙われて・・・というジェットコースターストーリーは健在なものの、どうものれないまま。うーん、私の読み方が悪かったんですね。なんとなく本を読む気分ではなかったのかも。そういうことにしておこう。いくつかのエピソードは面白かったですし、続きものならではのエピソードもいくつか。連続して読んでる方にはおすすめ。

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異形の花嫁

著者ブリジット・オベール
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2003.5
ISBN(価格)4-15-170808-1(\840)【amazon】【bk1
評価★★★☆

トランスセクシャルのボーは、ジョーに恋をしていた。いくら邪険にされても、殺されるようなめにあってもジョーを愛し、追いかけ回すボー。そんな彼(彼女?)の周りで、残虐な殺人事件が起きていた。娼婦ばかりを狙っていると思われた殺人も、ついに彼らの仲間まで襲われるようになる。そしてボーも・・・

ボーの二面性によって、いわゆる普通の推理小説がちょっと風変わりな味付けになった雰囲気のこの小説。日本でこれをやったら、もう少し社会派っぽくなるんじゃないかと思ったりもしたのですが、この小説の中心はあくまで猟奇殺人。探偵小説の体裁ながら、どこかアブノーマルな雰囲気が、フランス小説らしいと言えばそうなのでしょうか。

内容とは全く関係ありませんが、途中、ある男性を形容して「キタノの映画に出てきた誰それ」という描写があったことが印象的でした。北野武は、日本国内のとはちょっと違うイメージがあるんでしょうね。

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死なないで

著者井上剛
出版(判型)徳間書店
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-19-861694-9(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

母が倒れた。危険な状態だという。冗談じゃない、母は私が殺すはずなのだ。この人差し指で。

指さすだけで対象を死に追いやることができるという能力をもつ女性。彼女は少女期の苦い記憶から、両親を自分の指で殺すことを念じ続けている。そんな彼女の内省から始まる導入部は非常に陰鬱で、暗い気持ちにさせられるものでしたが、植物状態の母親とそれを看病する父親、そして病院の人々といった周りの環境によって、暗いままながらも何かが徐々に変わっていく辺りからは一気読みでした。単純に感動を誘おうとするものではないところもよかったです。どこまでいっても自己中心的な主人公が、最後どうなるか、この結末は意外と言えば意外だったかもしれません。暗くても平気、という方、家族の間の良くも悪くも微妙な絆のような話が好きな方におすすめ。

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ルナ-Orphan's trouble-

著者三島浩司
出版(判型)徳間書店
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-19-861695-7(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

日本近海に突如現れた「悪環」。物理的に鎖国に追い込まれた日本は、壊滅的な状態に追い込まれる。その上奇妙なウィルスが流行、人々の間には厭世観が広がっていた。

設定は面白いと思うんです。日本は海によって守られ、逆に海のせいで孤立している。人口の割に自給率は低く、食料の多くを海外からの輸入に頼り、かつ外貨を自国からの輸出で獲得している。そんな日本ならではの特徴を見事に取り込み、近未来の堕ちてしまった日本を出現させたところは、おおうまいなと思ったのです。が、ストーリーが少し幼稚な気が。細切れな書き方は、わざとにしては最後で収斂することもなく、またオチもやや唐突。ひとつひとつのエピソードがうまくかみ合ってないし、その結末が全く語られないまま次に進まれてしまって、読み手としては少し混乱するものでした。なので評価としては微妙な★3つ。また、あとがきに「面白く無かったら、次の作品に期待してください」と書かれているので、期待をこめた★3つでもあります。

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プレシャス・ライアー

著者菅浩江
出版(判型)カッパノベルス
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-334-07522-3(\819)【amazon】【bk1
評価★★★☆

金森詳子は、従兄から頼まれ、ヴァーチャルリアリティー世界で、「オリジナル」であるものを探していた。しかし、その試みはペッパーと呼ばれる人物によって攻撃を受ける。

こういうのを読むと、どうしても最初に読んだ『クラインの壺』を思い出してしまうので、微妙ですね。思ったような着地点を用意してくれていますし。ひとつ面白いと思ったのは、「何でもできるVR世界で、何故現実と同じモノを再現するのか」という疑問の部分。確かにそうかも。「わかる人には、それがすごいことがわかる」というが、コンピュータの世界には沢山あると思うのです。例えば、現実そっくりのCGとか。でもそんなの現実そのものを映したビデオならもっと現実に近いだろうし、それよりか現実そのものを見に行けばいい話だし。現実に近くなればなるほど、多分裏側の処理は大変になるけれども、観ている側としてはどこがすごいのかわからなくなるという矛盾。漠然と考えていたことに、見事オチをつけてもらった気分でした。ヴァーチャルリアリティー世界の小説にあまり馴染みのない方のほうが新鮮に読めるかも。

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笑う怪獣-ミステリ劇場-

著者西澤保彦
出版(判型)新潮社
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-10-460801-7(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★

学生時代からの悪友3人組は、久しぶりにナンパに成功し、孤島へと向かった。ところがそこに現れたのは・・・怪獣?!

うーん、なんだか無茶苦茶な設定ながら、意外とストーリーが平凡なんですよね。無茶苦茶なら、どこまでも爆笑ミステリにしてくれればよかったのになあ。少々不完全燃焼。最後のほうとか、諦めの入った三人組にかなり笑えはしましたけど・・・。

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ZOO

著者乙一
出版(判型)集英社
出版年月2003.6
ISBN(価格)4-08-774534-1(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

乙一ワールド満載の短編集

不思議なんですよね。この著者の作品は、読むごとに印象が違うんです。妙に悪意に満ちていたり、悪意と通り越して不快を催すような作品があったりするかと思えば、ものすごくセンチメンタルで、感動的な一編もある。たまたまこの短編集は、かなり長い期間に書かれてきた短編を集めたものなので、まさにその波が1冊の中に現れたような作品集でした。この波は、彼の精神状態が現れたものなのでしょうか、それともわざと?

また、年が進むにつれて、徐々にうまくなってるなあと思ったのでした。最初の「カザリとヨーコ」は、特にセリフの部分に浮いてるところがあるのですが、そういう凸凹をうまく修正して、最近の短編は見事世界を作り上げているように思えます。乙一作品が「条件なしに」お好きな方にはおすすめ。

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