2002年05月
・冬の旅人(皆川博子) | ・奇蹟審問官アーサー -神の手の不可能殺人-(柄刀一) |
・波のうえの魔術師(石田衣良) | ・悪魔のパス天使のゴール(村上龍) |
・イン・ザ・プール(奥田英朗) | ・マレー鉄道の謎(有栖川有栖) |
・クビシメロマンチスト(西尾維新) | ・占星師アフサンの遠見鏡(ロバート・J・ソウヤー) |
・紫嵐 Violet Storm(五條瑛) | |
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冬の旅人
著者 | 皆川博子 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2002.4 |
ISBN(価格) | 4-06-211256-6(\2300)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
文明開化の真っ只中の日本で、「悪魔の絵」に魅入られ、西洋絵画を学ぼうとする女性がいた。一晩で失われてしまった悪魔の絵を求めて、苦難の日々を送り、そして革命前夜の露西亜へ。そこで彼女の見たものは・・・。
こういう波乱万丈の半生記を読むときって、その人物への共感や、適度な波みたいなものが読み手としては欲しいわけです。決して面白くないわけではなく、逆に悪魔にとりつかれて、まるで命を削るように絵を描く彼女の姿は鬼気迫るものがあるのですが、波に乗るように読むには、ちょっとその波が小さかったかなという印象。皆川博子らしいとも言える陰鬱な雰囲気と、重厚な世界という意味では楽しめました。面白く感じるかは人によるかな、という作品。
奇蹟審問官アーサー -神の手の不可能殺人-
著者 | 柄刀一 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2002.4 |
ISBN(価格) | 4-06-182240-3(\1200)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
複数の人間が死の瞬間を目撃している他殺事件。ところが犯人の姿がみえなかった。2年前に起きたある事件で「十二使徒」と呼ばれる人々が生まれた村では、そういう不思議な殺人事件が次々と起きる。たまたまその列聖審問の調査に来ていた奇蹟審問官のアーサーが難事件に挑む。
『サタンの僧院』のキャラクター、アーサーが主人公となった本作。日記にも書いたように「アーサー様っ」って感じにも読めますし、ガチガチの本格ものとしても面白い作品です。雰囲気としては『薔薇の名前』かな。見えない犯人は神のみわざなのか、それとも巧妙なトリックなのか。ホラーとして片付くかと思っているところに、見事な推理で解き明かされる真相に、久々に感動してしまいました。本格ファンと黒衣フェチにおすすめ(笑)
波のうえの魔術師
著者 | 石田衣良 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 2001.8 |
ISBN(価格) | 4-16-320280-3(\1333)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
大学を出ても職もなく、パチンコを打ってその日ぐらしをする白戸則道。ある日、いつものようにパチンコを打っていると、老人が近づいてきた。「きみ、僕のために働いてくれないか」。それが相場の波を渡る快感を覚える第一歩だった。
日記にもちょこっと書いたのですが、『リスクテイカー』のエンターテイメント性を強くしたような、株式小説。ある銀行のやり口に怒りを覚える相場の魔術師と、プータローの若者が仕組んだ5日間戦争、といったところ。影響されやすい私は、『リスクテイカー』のときと同じように株式投資をやってみたくなったのでした。最近この「空売り」というやつに規制がかかって、その規制が相場が持ち直した一因とかニュースで言ってたのを聞いたりしたのですが、今はもうこういうのはできないのかな。それともそんな規制ではないのでしょうか。元々株式相場というのは、その会社の主旨や製品に賛同した人たちが、それぞれのお金を提供して、会社のほうは、そのお礼に利益の中から配当として株主に返却するというものだったわけですよね。いつのまにか相場の上下動を利用して、その上下動だけに投資して儲けるというギャンブル的要素が濃くなっている印象があるのですが、それって正しいことなのかなあ。空売りなんて正にそれですけどね。っていうか、何で持ってもいない株式を売れるんだ。。。これだから株ってやつは恐ろしい。まあ、だからこそこういう小説がありうるわけですが。株の世界を楽しく見るならなかなかかも。
悪魔のパス天使のゴール
著者 | 村上龍 |
出版(判型) | 幻冬舎 |
出版年月 | 2002.5 |
ISBN(価格) | 4-344-00189-3(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
文筆業で食べている矢崎のところへ、友人である夜羽からメールが届いた。セリエAのメレーニアという弱小チームで活躍しているその友人は、「話したいことがあるから、開幕戦に来ないか」という。誘いに乗って、イタリアに向かった矢崎に、夜羽は「究極のドーピングについて調べて欲しい」と言った。
そのドーピング剤を打ったら、試合で活躍できるだけでなく、その後確実な死が待っている。そんな薬剤があったら、プロの選手は使ってみるだろうか。とうテーマに挑んだサッカー小説。サッカーの試合の部分(特にラスト)はよかったと思うのですが、だからこそそれ以外の部分が蛇足に思えてしまって、点も辛くなってしまいました。テーマとしては面白かったと思うのに、多分私はヨーロッパのサッカー事情も、ヨーロッパにおけるサッカー熱の状態もよくわからないので、いまいち現実味が感じられなかったというのが実情でしょうか。それに、元々某ネット上に連載されていた小説だけに、夜羽がある日本人選手とかぶってしまって、(今更村上龍が殊更「世界のN」と友人であることを強調することもないのに、それをしているように思えて)嫌な感じだったのかもしれません。時期が時期だけに、微妙な感じ。サッカー好きが読んだらどう思うのか、ちょっと興味があるところです。
しかし、一番強く思ったのは、こんな熱狂的なサッカーファンが日本にやってくるのだったら、近くのサッカー場でヨーロッパチームの試合がある日は、なるべく早く帰ってきて、家に立てこもっておいたほうが良いってことですね。本当に日本の警察(警備)で大丈夫なのか・・・不安。
イン・ザ・プール
著者 | 奥田英朗 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 2002.5 |
ISBN(価格) | 4-16-320900-X(\1238)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
様々な悩みを抱え、とんでもない症状に見舞われる患者達。そんな患者を受け入れるのは伊良部病院の精神科医師、マザコン・ロリコンで医学博士の伊良部一郎。どんな奇病も彼にかかれば治癒間違い無し?
あらゆる奇病で精神科を訪れる人たちのドタバタを描いた連作短編集。私の中では戸梶圭太から少し毒を抜いた、という印象の小説です。とにかく面白い!いや、悩んでいる患者を笑ってはいけませんね。最近この手の○○依存症とか、強迫神経症ってテレビとかでもよくやってて、「まあ人間ってのは何にでも名前をつけたがるものだなー」と思ったりもするのですが、一人一依存症って感じなのかも。世の中ストレスが多いってことなんでしょう。何度も火を消したか確認せずにいられなくなって、外出もままならなくなる「いてもたっても」は、私もよくわかるというか。よく鍵を締めてから、「あ、ガスの元栓閉めたっけ?」と思って取って返すことはしょっちゅうです。というか、3回に1回くらいは本当に閉めてないので、確認しないとまずいんですけど。ケータイを忘れたり、壊れたり、あるいはケータイでメールを打ってないと不安になってしまう「フレンズ」も最近はよくありそう。誰でもいいから繋がってたいという気持ちの表れとか、よく言われてますけど、私はこれはないなー。実際待ち合わせするときに限って携帯忘れるし、充電なんてしょっちゅうし忘れていつのまにか切れてたり。・・・っていうか、もう少し注意しろよ>自分。
こんな自分はきっと伊良部のように、「病気にならないだろう人」なんだろうなと思うのでした。
マレー鉄道の謎
著者 | 有栖川有栖 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2002.5 |
ISBN(価格) | 4-06-182027-3(\940)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
マレーシアに住む大学時代の友人を訪ねて、かの地を訪れた火村と有栖。しかし彼らを待ち受けていたのは、目張り密室殺人だった。過去の事件と、不可能犯罪。火村はさっそくフィールドワークを開始するが。
探偵が行くところに事件が起きて、しかも不可解な状況。警察がやってきて、「ああ、あの探偵の」と言われて、警察に協力する探偵一行。そして謎は過去の謎をも呼び覚まし・・・。あらすじ自体は、このバリエーションで済んでしまう本格ミステリは、過去の謎との思いがけないからみや、すべてに繋がっていく伏線という構造美、そしてトリックでどれだけ驚けるかといった辺りに「面白さ」の重点が置かれると思うのですが、うーん。あらゆる伏線が繋がっていくところはさすが有栖川有栖でしたが、密室事件って「密室がどのように開けられるか」に目が行ってしまって、やはり私は好きではないなあ。ベタベタな本格が好きな方にはおすすめかも?
クビシメロマンチスト
著者 | 西尾維新 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2002.5 |
ISBN(価格) | 4-06-182250-0(\980)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
孤島での壮絶な事件から2週間。京都の大学に復帰した僕(いーちゃん)。学食で食事をしているところに現れたクラスメイト・葵井巫女子に、同じクラスメイト・江本智恵の誕生日会に誘われる。流されて行くことになってしまった僕だったが、宴の翌朝、智恵の死体が発見される。
こういうトリックや論理というミステリ部分よりも、人物造形に力を入れた作品は、15年前新本格という流れを作った綾辻行人の『十角館の殺人』とはまたちょっと違う分類ができるんじゃないかなあというのが、最近の私の印象。その流れを作ったのが、第1回メフィスト賞受賞作家の森博嗣だったんじゃないかと、これまた私の勝手な印象。これを所謂本格ミステリとして読むと、「なんじゃこりゃ」となってしまうのでは。その人物の考え方に同調・共感できるか、あるいはそれを面白いと思えるかが、こういう作品の評価に出てくるんじゃないかと思うのです。
さて、「こういう見方って若いよなあ」(いや、私だって若いけどさ)って、思いながらも、こういう「世の中斜めに見たい偽悪的性格」ってなんとなくわかるんですよね。というか、自己批判の好きな日本人は、そういうところって誰しも持ってるんじゃないかなあ。実際こう書いてる私も日本人なわけで、そういう「客観的に見ると、こんな考え方もあるんだよ」といった態度って、多分テレビの所為もあると思うんですけど、無意識に刷り込まれてるのでは。じゃあおまえの意見はどっちなんだ、って言われると「その問題は難しいからね、こういう考え方もあるし、こうも言えるし」って、なんだ評論家かおまえは、って自分でツッコミ入れたくなるときありますからね。なんだか本の内容とは離れていってる気もしなくはないですが、まあいいや。そんな感じ。
占星師アフサンの遠見鏡
著者 | ロバート・J・ソウヤー |
出版(判型) | ハヤカワ文庫 |
出版年月 | 1994.3 |
ISBN(価格) | 4-15-011053-0(\720)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
恐竜キンタグリオ一族の見習占星師アフサンは、宮廷占星師の弟子として学ぶ日々。ある日、遠見鏡という道具を知ったアフサンは、その道具に魅入られる。そして、通過儀礼のひとつである巡礼で、その道具を使って天を観察していたアフサンは、重大な事実に気づく。
少年恐竜の成長記。適度な山ありで、面白く読めます。アフサンが発見したような、「誰にも信じてもらえない真実」って、実は今でもたくさんあったりするのかも・・・。実際、人類も、この時代の人たちは、アフサンの観察結果を受け入れなかったわけですよね。異端呼ばわりされるのって、かなりつらいものがあるし、そんな「トンデモ」な結果を出す学者は、学会からもつまはじきにされそう。黙ってるっていう選択をする人だっているんでは。
この小説、ラストは不満です。なんと続いているらしくて、しかも続きが訳されていないのだそう。残念。そういう意味では、本当に評価を下すのは、結論まで読んでからかなあ。続きを翻訳する予定は無いのですか?>早川書房さん。
紫嵐 Violet Storm
著者 | 五條瑛 |
出版(判型) | 双葉社 |
出版年月 | 2002.5 |
ISBN(価格) | 4-575-23439-7(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
虐殺の嵐が吹き荒れるカンボジアから、日本へと命からがら逃れてきた「鳩」。しかし、そこで待っていたのは差別という別の嵐だった。忍耐ができずにどん底の生活をする鳩は、たびたび騙されながらもなんとか生きようとするが。
R/evolutionシリーズ第2弾。「革命を起こそう」と組んだサーシャ、亮司も健在。ただ、今回2人は完全な脇役で、10作から成るというこの話はどこへ行くのか気になるところです。しかし、今回も非常に鬱なお話。裏切り、裏切られ、自分しか信用してはならないと言われ、最後にたどり着く真相は・・・。つい最近、北朝鮮難民の大使館駆け込み事件が大きく取り上げられただけに、生々しい話でした。続きが気になるぞ。
内容と関係ないところで気になったのが、校正が甘いこと。いい加減な私が読んでても、名前が違うところや明らかな漢字変換ミスが数点。こんなホームページとかと違って商品なんですから、もう少しちゃんと見たほうがいいかもと思ったのでした。ちょっと興ざめ。
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