2003年04月

ドグマ・マ=グロ(梶尾真治) ドリームバスター2(宮部みゆき)
逃亡作法(東山彰良) 蛇行する川のほとり 2(恩田陸)
葉桜の季節に君を想うということ(歌野晶午) プレイ(マイクル・クライトン)
秋に墓標を(大沢在昌) 桜宵(北森鴻)
クレイジー・クレーマー(黒田研二) 重力ピエロ(伊坂幸太郎)
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ドグマ・マ=グロ

著者梶尾真治
出版(判型)新潮文庫
出版年月2003.4
ISBN(価格)4-10-149005-8(\667)【amazon】【bk1
評価★★☆

初めての夜勤で緊張する新米看護婦の由井美果。静かなはずの夜勤中に、突然事件が起きる。

梶尾真治って、こういうホラーも書くんだと思いました。期待するものを悪い方向に裏切られた気分です。鯨統一郎を読んでる(失礼)感じ。いや、きっとこういう無茶無茶なスプラッタ系ホラーが、綺麗にまとまるんだ、感動の最後が待ってるんだと思いながら読んでいたのですが、最後まで同じだったのでした。どうもこういう現実感覚の薄いホラーは、私は好みではないようです。多分好きな人は好きなんじゃないかと思う一作。あらすじに夢野久作、江戸川乱歩らに捧げるオマージュと書かれているので、興味のあるかたは読んでみては。感想を求む。

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ドリームバスター2

著者宮部みゆき
出版(判型)徳間書店
出版年月2003.3
ISBN(価格)4-19-861651-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

ドリームバスターのシェンは、ちょっと苦手なDPの場へ飛ばなければならなくなった。彼女の夢に潜んでいる犯罪者は一体誰なのか。そして、逃走犯に付け入られている弱点を克服することができるのか。

ドリームバスター』の続編にあたる連作短編集。前作を読んでいないと、設定の部分でよくわからないかもしれませんので、前作を先に読むことをおすすめします。しかし、この作品全然行き着く先が見えませんね。今回もまた「宿題」を残してしまいましたし・・・。一体どこまで続けるつもりなのか。ストーリーテリングの天才・宮部だけに、普通に面白いですが、先が気になるなあ。

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逃亡作法

著者東山彰良
出版(判型)宝島社
出版年月2003.4
ISBN(価格)4-7966-3230-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

近未来の日本では、アイホッパーという画期的なシステムが考え出され、監獄の様子は様変わりしていた。絶対に逃げられないシステムへの信頼から、自由が大幅に許される「キャンプ」と呼ばれる刑務所に、しかし被害者やその遺族たちは納得できない者も多い。そんなとき、事件は起こった。

うーん、もっと「逃亡」の部分に重きが置かれて、冒険小説的な要素が強く出ているのかと思ったので、意外な社会派ぶりにちょっと拍子抜け。しかもその社会派な部分もかなり中途半端。同じこのミス大賞の金賞受賞作だった『四日間の奇蹟』の講評コメントに「同じ受賞でも、金賞と銀賞では違う」と書かれていたのはなるほどだなと思ったのでした。テーマももう少しどちらかに的を絞ったほういいかと思うのですが、その前にこういう小説には画像が見えるような臨場感、そして読みながらドキドキできるスピード感のある文章が必要だと思うのです。読み方が悪かったのかなあ。文章の中に入れずに終わってしまいました。設定はよかったと思うんですけどね。

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蛇行する川のほとり 2

著者恩田陸
出版(判型)中央公論社
出版年月2003.4
ISBN(価格)4-12-003389-9(\476)【amazon】【bk1
評価

*この本は途中ですから、最後まで出たら評価します。

蛇行する川のほとり』からつづく。読んでないかたは、以下を読まないでください。

衝撃の告白から一夜明けた湖畔の家。毬子の様子から芳野は月彦が何かを言ったことを悟るが、その内容がわからない。彼女たちの過去に一体何があったのか。

うー、こんなところで終わらせられちゃ、ものすごく気になる・・・。もちろんそれを期待して、こんな形の発行形態にしているのでしょうけれども、見事にはめられています。今回はちゃんと次の作品で収束しそうですが、一体どんな着地を用意しているのか、全く見えません。8月が楽しみというか、気になるというか。

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葉桜の季節に君を想うということ

著者歌野晶午
出版(判型)文藝春秋
出版年月2003.3
ISBN(価格)4-16-321720-7(\1857)【amazon】【bk1
評価★★★★

「なんでもやってやろう」をモットーに、探偵からパソコン教室教員まで、いろんなことをこなす成瀬将虎が巻き込まれたのが、霊感商法事件。知り合いの父親がそれが原因で殺されたのかもしれない、と聞き、事件の真相を暴こうとするが・・・。

この作家さんの本、読みやすいんですよね。中身の前にそれがまず良い。実はデビュー作から数作読んで、なんとなく敬遠していた作家だったのですが、近作をいくつか読んで、このところ私の中では一気に地位を上げている人です。読者を本に惹きつけて放さない、そんな感じです。そしてこの本、テーマも面白いですね。題名からは想像もつかなかったようなラストでした。良い意味で裏切られました。久々にこういう本を読んで、やっぱりミステリは良いなと思った片桐でした。おすすめ。

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プレイ

著者マイクル・クライトン
出版(判型)早川書房
出版年月2003.4
ISBN(価格)(上)4-15-208486-3(\1500)【amazon】【bk1
(下)4-15-208487-1(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

子供二人と美人で仕事でも優秀な妻。幸せな生活に突然訪れた解雇。主夫生活も板についてきてしまった頃、徐々に妻が変わったように思うようになった。彼女はナノテクノロジーを利用した新しいプラントのプロジェクトに関わり、家にいない時間が多くなっている。一体プロジェクトで何が起こっているのか?

どうもナノテクノロジーの重要性がよくわかっていないせいか、こんな気持ちの悪い技術を研究してどうするんだという気分。きっとこういう人間には関知できないような小さな世界が、実は大きな何かを変化させているんでしょうね。風が吹けば桶屋がもうかる、じゃないですけど、感覚的には同じようなものかと。

そういう技術的な話の部分は結構面白かったのですが、クライトンにしては、エンターテイメント性が強く出ているこの作品、少し中途半端な印象です。映画化するにしても少し派手さに欠ける気もするし、科学的な小説としてはいまひとつ設定にいかしきれてないように思います。この分量でわざわざ上下巻に分ける必要があったのか、という基本的な疑問は置いておくとして(^^;、うーん、もう少しかな、というのが私の感想です。

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秋に墓標を

著者大沢在昌
出版(判型)角川書店
出版年月2003.4
ISBN(価格)4-04-873370-2(\1667)【amazon】【bk1
評価★★★

六本木でバーを開いていた松原は、人間関係のわずらわしさを厭い、千葉の勝浦で小説を書きながら隠遁生活を送っていた。ところが、ある女性が突然逃げ込んできたことから生活は一変した。誰かに追われている彼女は、謎を残したまま突然去ったが、松原は彼女を追って危険な環境へと戻っていく。

うーん、何が問題って、この主人公のおじさまがどうも一度トークショーでお見かけした著者自身とかぶってしまっていまいちだったんですよね。いや、もちろん著者は魅力的なおじさまでしたが、こうして小説になるとどうも鼻につく感じ。よくある「俺は何でも知ってるんだぜおじさま」。たとえるなら加山雄三。たとえるなら松方弘樹。私が苦手なタイプでございます。というわけで、ちょーっと点数は辛くなったのですが、要するに主人公に肩入れできれば面白い小説だと思います。大沢在昌好きな方にはおすすめかな。

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桜宵

著者北森鴻
出版(判型)講談社
出版年月2003.4
ISBN(価格)4-06-211785-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

三軒茶屋の路地裏にあるビア・バー香菜里屋。洞察力のあるバーテンダー工藤と、謎好きの常連客たちが、今日もまた謎をもってくる客を肴にビールを飲む。

この小説の中心はなんといっても香菜里屋で出される料理。こんなお店があったら行ってみたいなあ。私みたいにあんまり飲めない人でも楽しめそう。私は読んでいないのですが『花の下にて春死なむ』の続編で、酒と旨いものには目がない相方も、このシリーズは大好きだそうなので、前作もやはりこうして料理がふんだんに出てくるのでしょう。それだけでも楽しいです。コーンウェルも検屍官シリーズのレシピ集を出していましたが、北森鴻氏も是非そういうものに挑戦してほしいなあ。同じく料理が出てくる作品に『メインディッシュ』もありますしね。今回のこの作品では、白身魚のロールキャベツが気になる。もうひとつ、鱧と松茸の土瓶蒸しは去年の夏の終わりに京都に行ったときにお昼と夜に食べましたが、上品な味付けの中にも微妙に味が違ってよかったんですよねー。思い出します。

あ、もちろんこの作品はミステリ。日常の謎系と言われるようなミステリです。が、やはり料理だよ料理・・・。ってそればっかりかよ>自分

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クレイジー・クレーマー

著者黒田研二
出版(判型)ジョイノベルス
出版年月2003.4
ISBN(価格)4-408-50411-4(\819)【amazon】【bk1
評価★★

デイリータウンに勤める袖山剛史のところに、またしても岬圭祐がやってきた。買った商品にあれやこれやと難癖をつけるクレーマーだ。一方、マンビーとあだ名される万引き犯にも悩まされる毎日に、袖山は体を壊しかけていた。ある日岬のとんでもないクレームから、最悪の事態を迎える。

うーん、すまぬこれはダメでした・・・。そういう可能性も想定はしてましたが、このラストには全く納得できなかったです。一番納得できなかったのが「電話をかけてきたのは誰?」という点。もしかして、私、全然わかってないですか?誰か解説してください。。。

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重力ピエロ

著者伊坂幸太郎
出版(判型)新潮社
出版年月2003.4
ISBN(価格)4-10-459601-9(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★★

その生い立ちから性的なるものが大嫌いで、自分の信念に頑固な弟。そんな弟を持った兄。彼らが住む街で、連続放火が起きていた。そこには奇妙な符号があると弟が言う。弟の提供した謎解きに夢中になる兄と病床の父だったが、そこには彼らが想像もしていなかった事実が隠されていた。

久々に超おすすめをつけました。うぁ!面白い!というのでもなく、おぉ!こんなどんでん返しが!というのでもなく。じわじわと良さを感じる小説です。あらすじはミステリっぽくなってしまいましたが、ミステリではないですね。文芸小説。複雑な家庭環境で、独自の信念を持つ弟と、家庭の中で微妙な位置の兄。この一見でこぼこな兄弟が、見事なチームプレー(?)を発揮して、ものすごくスタイリッシュな小説に仕上がっています。こういうの、とても好みです。今までの伊坂とはまたひと味違った世界(あ、そう言えば『オーデュポンの祈り』の主人公がちらっと出てきたりしてますね)が楽しめる作品です。おすすめ。

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