2003年01月

(小山歩) 覘き小平次(京極夏彦)
四日間の奇蹟(浅倉卓弥) フレームアウト(生垣真太郎)
優駿(宮本輝) 火の粉(雫井脩介)
唇のあとに続くすべてのこと(永井するみ) 走るジイサン(池永陽)
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著者小山歩
出版(判型)新潮社
出版年月2002.12
ISBN(価格)4-10-457301-9(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

戒の墓がみつかった。半島史に残る嫌われ者・戒。戒は、賢王と言われた明公を誑かした人物として、様々なエピソードが残されているが、その墓は今までの戒の人物像をひっくり返すような発見だった。大国の影におびえる時代の再国で活躍した戒の物語。

ファンタジーとして、よく出来ている物語。伝説の舞舞いである戒が、何故明公のそばで、権勢を振るうことができたのか。意外な歴史を紐解くという体裁をとりながら、誰も彼もに笑われた舞舞いの数奇な半生を面白く描くその力量。そして架空の世界をここまでリアルに再現できているところから、年齢が上の人が書いているのかと思ったら、なんとまだ22歳だそうで。2度びっくり。今後の作品が楽しみな作家さんですね。こっちが大賞をとってもよかったかも、という出来の面白さでした。

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覘き小平次

著者京極夏彦
出版(判型)中央公論新社
出版年月2002.9
ISBN(価格)4-12-003308-2(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

押入れの中に潜り込んで、内縁の妻を眺めるばかりの毎日を送る小平次。役者ではあるが、全く見所がなく破門されてしまった。そんな彼が最も得手とするのが幽霊芝居。生きているのか死んでいるのかわからないような幽霊そのものの彼は、幽霊となると誰もがぞっとするような演技をするのだった。そしてそんな特技を利用しようとする人が現れた。

あまり盛り上がりに欠けるところを是とするか非とするかで意見が分かれそうな作品。私はいまいちのめりこめなくて、評価はまあまあにとどまりました。『巷説百物語』の又市の名前が出てきた辺りでは期待したんですけど、その期待がよくなかったかもしれません。そうそう、又市シリーズの番外編といった感じ。又市のシリーズ、書いてもらいたいなあ。

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四日間の奇蹟

著者浅倉卓弥
出版(判型)宝島社
出版年月2003.1
ISBN(価格)4-7966-3059-7(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

留学先オーストリアでの事故により、ピアノを弾けなくなった青年。しかし、彼が助けた少女は、脳に障害を負いながらもピアニストとしての才能を持っていた。しかし、少女のリハビリも兼ねて行っていた演奏旅行で訪れた先で、突然悲劇が襲った。

選考委員も書いていますけど、この作品、すごーくありがちな話なのです。いくつか先行作品とかぶるところもあって、それを興ざめととってしまうと全体的に瑕疵ばかりが目についてしまうといったところもあるかもしれません。が、全体の話としてはものすごく引き込まれました。おそらく流れるような文体が読みやすかったということもあるでしょうし、登場人物の身の上話が魅力的だったということもあるのでしょう。いろいろと議論を呼びそうではありますが、私は「面白かった」という部分を大きく買って★4つ。ただ問題は、この作品、記念すべき第1回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作なんですけど、全然ミステリーじゃないんですよ。いいんですか、それで>宝島社さん。まあもちろん、募集対象にひっかかるわけじゃないんですけど。まあいいか、面白ければ。

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フレームアウト

著者生垣真太郎
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2003.1
ISBN(価格)4-06-182297-7(\840)【amazon】【bk1
評価★★★

1979年。ニューヨークでフィルム編集の仕事をするデイヴィッドのところに、ある1本のフィルムが紛れ込んでいた。不審に思ったデイヴィットが、そのフィルムを映写してみると、そこに映っていたものは恐ろしいものだった。

映画への愛はよーくわかるのですが、それが活かされてない気が。着地点もかなり不満で、ストーリーとしては★3つ。逆に映画への愛の部分を本筋に持ってきたほうが面白かったのではないかと思ったのですがどうでしょう。私がタラタラ読んでたっていうのにも原因がありそうですが・・・。とにかくラストに納得できなかったというのが、★3つの最大の要因かもしれません。

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優駿

著者宮本輝
出版(判型)新潮文庫
出版年月1989.11
ISBN(価格)(上)4-10-130706-7(\514)【amazon】【bk1
(下)4-10-130707-5(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★★

静内のトカイファームでは、いよいよハナカゲの出産が近づいていた。重賞は勝っていなくても、現役時代はそこそこの成績を残した牝馬ハナカゲに、リーディングサイヤーとして名高いウラジミールの種をつけた。この仔馬が走らなければ、牧場はなくなってしまう。危険な賭けだった。無事生まれ、オラシオンと名づけられた牡馬は、大勢の夢を背負って競走馬としての道を歩み始めた。

実は名前は知っていても1冊も読んだことのなかった宮本輝。実は小学生のときから題名は知ってても、内容を全くしらなかった『優駿』。たまたま某所でその本が仔馬が生まれてダービーへの道を歩むドラマが描かれたものだと読まなかったら、今後も手を出すことはなかったでしょう。また、1年間競馬を教えた相方にさえ呆れられるほど馬券を買って、某競馬場でアルバイト経験もある旦那にいろいろと裏話を聞かされていなければ、★5つはつけて無かったかも。それくらい運命的な出会いの1冊でした。もちろん「最高のおすすめ」をつけたのですから、小説としての波のつけかた、人物配置もすばらしいですし、時間を忘れて読ませる緊張感も見事。日本に力があった頃の昭和を彷彿とさせるエピソードもノスタルジーを感じさせます。でもそれ以上に騎手・調教師や予想屋のセリフがものすごく実感があって、「そうそう」とか「うー耳が痛い」っていう気分なんですよね。そして、馬っていうのは面白い動物なのです。その魅力も満載。競馬のけの字も知らなかった私が、競馬新聞の調教タイムを見て予想するまでにはまったのも、馬の走る姿、妙に神経質なパドックの姿に魅せられたからかもしれません。競馬ファンには絶対おすすめ。競馬を知らない人も、この本を読んで面白そうかな、と思ったら絶対おすすめ<競馬(もちろん生活費賭けるなんてのは論外。競馬は遊びの範囲でやりましょう。)

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火の粉

著者雫井脩介
出版(判型)幻冬舎
出版年月2003.2
ISBN(価格)4-344-00293-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

「被告人は無罪とする」。勲が決めた判決だった。一家惨殺事件の犯人として起訴されていた武内は、そのひと言で無罪放免された。それからしばらくして、その男が勲の隣に引っ越してきた。

人である以上必ず間違いというのはあるもので、それは死刑廃止論者の拠り所のひとつとなっているわけですが、当然冤罪もあるということは、間違って真犯人を逃がしてしまうということもあるわけです。人が人を裁くということの利点もたくさんあるとは思いますが、一方でそのシステムも限界があるということなんでしょう。そして隣に越してきたかつての被告人は、本当はどうだったのか。このいやーな雰囲気にすっかり惹きこまれて読んでしまいました。一気読み必至の作品。

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唇のあとに続くすべてのこと

著者永井するみ
出版(判型)光文社
出版年月2003.1
ISBN(価格)4-334-92385-2(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★

藤倉に11年ぶりに再会したのは、不慮の事故で亡くなった岸の葬儀の場でだった。菜津の平穏な日常は、その再会によって大きく崩れていく。

うーん、なんだか恋愛小説としてもミステリーとしても中途半端になってしまって残念。菜津の「ウーマンリブ」にどっぷり浸かった世代らしい、いっぱいっぱいの生き方の部分は同じ女性として面白く読めたのですが、もうひとつの軸となっているミステリー部分はいらなかったんじゃないかというのが私の意見。

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走るジイサン

著者池永陽
出版(判型)集英社文庫
出版年月2003.1
ISBN(価格)4-08-747531-X(\400)【amazon】【bk1
評価★★★☆

近所の老人と喫茶店で話すことだけが楽しみの平穏な老後生活。そんな作次の息子のところに嫁がやってきて、少し生活が変わってきた。そして、ふと上を見ると頭にサルが乗っていたのだ。

これからの平日昼間は、恐らく子供が走り回るよりも、年寄りの井戸端会議のほうが日常の光景になるんじゃないかという高齢化社会だけに、こういう老人をどのように社会が受け入れるかって問題なんじゃないかと思った次第。「姥捨山」っていう昔話がありますけど、戦争を抜けてきた彼らの世代の底力をこれからも使っていこうとする向きと、年金を食うだけの老人なんてという向き(あまり表立っては言われませんけど)があるような気がします。きっと社会の受け入れ方もそうですけど、老人の心の持ちようもあるんじゃないかなあとこの本を読んで思ったのでした。そこそこおすすめ。

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