2002年04月
・ミスティー・レイン(柴田よしき) | ・蘆屋家の崩壊(津原泰水) |
・ルール(古処誠二) | ・天空の回廊(笹本稜平) |
・ザ・ジョーカー(大沢在昌) | ・ぶたぶた(矢崎存美) |
・事故係生稲昇太の多感(首藤瓜於) | ・暗いところで待ち合わせ(乙一) |
・劫尽童女(恩田陸) | ・ぶたぶたの休日(矢崎存美) |
・クリスマスのぶたぶた(矢崎存美) | |
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ミスティー・レイン
著者 | 柴田よしき |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 2002.3 |
ISBN(価格) | 4-04-873369-9(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
失恋して、仕事もなくした茉莉緒。鴨川でおにぎりを食べていると、ひとりの男の子が声をかけてきた。話していると、なんとその子は、今撮影中の映画に出演するモデルあがりの俳優だった。突然彼の事務所で働くことになった茉莉緒だったが。
ミステリとしても恋愛小説としても少々中途半端。帯を見て、「恋愛小説だ」と思って買ったかたは、あまりの回りくどい進み方に嫌になってしまうのでは・・・と思ってしまいました。海を女性にして、恋愛要素をなくしてしまえば、もう少し面白かったんじゃないかなあ。
蘆屋家の崩壊
著者 | 津原泰水 |
出版(判型) | 集英社文庫 |
出版年月 | 2002.3 |
ISBN(価格) | 4-08-747425-9(\533)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
ぷーたろー猿渡と、伯爵と渾名されるホラー評論家。豆腐好きの二人が出会う、ぞぞーっとする怪奇現象を描いたホラー連作短編集。
ハードカバーのときに結構評判がよかったので、文庫化を機に買ってみたのですが、なるほど、この微妙な怖さ。特に最初の短編『反曲隧道』のラストは、最初だっただけに衝撃。暗いところが嫌いな私は、暗いトンネルも大嫌い。しかも、こういうはっきり言わない怖さって非常に嫌な感じですね。文庫化にあたって一篇増えてるそうですが、その「超鼠記」は、少々いまいちでした。全体的な感想としては、料理に対する記述・表現が秀逸だということ。私は豆腐が嫌いなのですが、この本を読んでいたら、「もしかしたら、私は本当に美味い豆腐は食べたことがないんじゃないか、豆腐屋の豆腐を買いにいってみようか」と本気で思ってしまったのでした。その辺り食い意地が張ってる私らしいのかもしれませんが、他の食べ物も、「あまり味のない」食べ物をここまで美味そうに表現できるって、すごい。非常に感動。
ルール
著者 | 古処誠二 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 2002.4 |
ISBN(価格) | 4-08-775306-9(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
終戦まぎわのフィリピン。そこではまだまだ余裕のあるアメリカ軍と、飢餓と病気に苦しむ日本軍の救いの無い戦闘が繰り広げられていた。少数生き残り、半分死にかけの人々たちは、ある任務のために密林を行く一隊へと集められた。
タイトルとあらすじをみたとき、あの「ルール」の話なんだろうなと思ってましたが、そのままの終わり方をしてしまったので少々不満。確かに衝撃の問題作といえなくもないのですし、嫌いではないですが、せっかくなら思わぬ方向へともっていってくれると面白かったな。途中「もしや、私がこういう話と思っていた方向とは違う方向にいくのか?」という期待させる部分はあったのですが、それほどずれることなく落ち着いてしまいましたね。
うちの祖父も、まだ戦況も良い頃に南方に行ってまして、マラリアに病んだりしてたそうなのです。でもその頃の話は「ブタ小屋がアメリカ軍の爆撃で燃えて、ブタが丸焼きになったので、その日は思わぬ焼豚パーティになった」とか、「褌を干していると白いので、良い襲撃目標になってしまって、気づくと穴だらけになっていた」とか、ある意味笑い話との境界に近いところのものが多いのですね。ただ、そんな祖父でも、「戦争は悲惨だ。もう2度としてはならない」って言いますし、その頃の写真を見ると別人のような怖い顔をしてます。
ひとつ彼の言い方に共感したこと。下らないメンツや意地の張り合い、現状を読めない一部の頭の固い上層部の気まぐれで、結局大変な目にあうのは現場。そういうのっていつまで経っても変わらないのかもしれません。
天空の回廊
著者 | 笹本稜平 |
出版(判型) | 光文社 |
出版年月 | 2002.3 |
ISBN(価格) | 4-334-92356-9(\2000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
エベレストへの単独無酸素登頂を果たした真木郷司は、下山しようとしていた。そんな彼の目の前を、火の玉のようなものが横切る。エベレストの山腹に墜落した火の玉は、ものすごい雪崩を誘発し、周りを登る登山家達を飲み込んだ。なんとか脱出した郷司だったが、その火の玉の正体がとんでもないものであることを知る。
山岳小説と一口に言っても、ミステリをかぶせたり、単純に「山を征服する」話にしたり、こんな風なスパイ小説風にしたりすることでいろんなストーリーになるとは思うのですが、しかし厳寒の山を主体にして、それを舞台として使うなら、何よりもスピード感が必要だと思うのです。次はどうなるんだと思わせる魅力がないと、なんとなく面白味に欠けるという印象を持ってしまう。この本は、その点でいまいち。「まだ登らないの?」、といった感じ。この辺はもう趣味の問題だとは思いますけど、政治的な駆け引きって私はエンターテイメントとしては面白くないと思ってしまうので、その辺りが長いこの話はあまり良い点をあげられません。最初の部分(登頂するまで)は、山に登る面白さ、困難さをうまく表現していたので、このまま運ぶのか、と思ったところで終わってしまって残念でした。私としては、ありきたりと言われても、火の玉の正体よりも、その後の極限状況で人々がいかにして生還するか、という話のほうがよかったな(本当に趣味ですね、すみません)。
ザ・ジョーカー
著者 | 大沢在昌 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2002.4 |
ISBN(価格) | 4-06-211196-9(\1700)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
相談事があったら、六本木の裏通りのバーで、「ジョーカーはいるか」と訪ねると、誰も引き受けないような問題事を解決してくれるらしい。着手金は100万円。その噂を聞きつけて、今日も六本木のバーの扉を開ける客がいる。
「ジョーカー」という男の活躍を描いた連作短編集。裏の世界だけに流れる「符丁」を示すと、出てきてくれる始末屋さん、というと、私は「シティーハンター」を思い出してしまうのですが、もうそろそろこういう話も古い印象がぬぐえませんね。小中学生が人を殺し、女子高生が売春をする時代、一方でヤクザは暴対法に四苦八苦、世の中の大人は不況にあえいでいる時代に、なんだか「大金で問題を解決するかっこいい*大人の*始末屋」っていうのはもうピエロ以外の何者でもないのかもしれません。たぶん著者もそれは痛切に感じていて、「新宿鮫シリーズ」にも、この本のラストにもその苦悩が表れています。なんとなく日本の裏社会小説っていうのは、そろそろ限界にきてるんじゃないか、とこの本を読んで思ったのでした。
ぶたぶた
著者 | 矢崎存美 |
出版(判型) | 徳間デュアル文庫 |
出版年月 | 2001.4 |
ISBN(価格) | 4-19-905050-7(\676)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★☆ |
東京にはぶたのぬいぐるみが住んでいるらしい。東京ってすごい。
連作短編集。ぶたのぬいぐるみ「山崎ぶたぶた」がシェフになったり、タクシーの運転手になったり、ホームヘルパーになったり。どんな仕事をしていても、ぶたぶただからこその苦労があり、ぶたぶただからこその特技があり。ほろりとさせられる短編あり、笑える短編あり、のおすすめ本です。『刑事ぶたぶた』を先に読んでしまいましたが、これがぶたぶたのデビュー作。おすすめ、おすすめ。私もぶたぶたが欲しいよう。
事故係生稲昇太の多感
著者 | 首藤瓜於 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2002.3 |
ISBN(価格) | 4-06-211109-8(\1700)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
生稲昇太は、愛宕南署交通課交通事故係に勤務する巡査。今日も交通事故の一報をうけ、現場へ。交通事故と言ってもいろいろあって。。。
連作短編集。なんとなく重いミステリを読む気がしなくて、本屋でちょうど見つけたので読んだのですが、そんな気分のときに読むとなかなか良くできた連作短編集じゃないかな、という印象。交通事故係という、あまりこういう題材にはされない部署に光を当てたところも面白い。あちこちに書いてますけど、私も小さい頃に交通事故にあったことがあって、きっとこういう警察の人が来たんだろうなあと思ったのですが、気が動転してた私は全然覚えてません。すみません。
暗いところで待ち合わせ
著者 | 乙一 |
出版(判型) | 幻冬舎 |
出版年月 | 2002.4 |
ISBN(価格) | 4-344-40214-6(\495)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
ミチルは事故で光を失った。徐々に暗くなる視界が、最後には微妙な光だけを感じられるだけになった。一緒に暮らしていた父も死に、ほとんど外にも出ずに静かに一人暮らしをしていたミチルだが、近くの駅である事件が起こり、状況が一変する。
乙一が書く素材(ネタ)って、よく見つけるなあと思うくらい目新しく、面白いですね。今回はほぼ全盲の人が、ある事件に巻き込まれるお話ですが、その仕掛けが面白い。ミステリとしては拍子抜けといったところもありますが、このネタだけでも★4つですね。おすすめ。
劫尽童女
著者 | 恩田陸 |
出版(判型) | 光文社 |
出版年月 | 2002.4 |
ISBN(価格) | 4-334-92358-5(\1500)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
<<ZOO>>は伊勢崎博士を狙っていた。博士の作った人間であり、人間でないある人物。その人物を狙って、別荘を張り込んでいたが・・・。
恩田陸も設定を考えるのがうまい作家だと思うのですが、それが生かしきれないまま最後が尻つぼみになってしまうのがすごーく残念。せっかくこんな美味しいネタを考えついたのだから、ラストまで面白かった!と思えるストーリーにして欲しいかなあ。もちろん面白くないわけじゃないのです。どちらかというと良い点をあげたい本だし、だからこそ恩田陸のは、新刊が出るとすぐに買うのですが、期待してるだけに、このラストでうーん、となってしまうのがな。
ぶたぶたの休日
著者 | 矢崎存美 |
出版(判型) | 徳間デュアル文庫 |
出版年月 | 2001.5 |
ISBN(価格) | 4-19-905056-6(\590)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
山崎ぶたぶた大活躍の短編集第3弾。
ぶたぶたに出会ったら、絶対お友達になりたいよなあ、と思うんですよね。いや、最初はびっくりを通り越して、幻覚なんじゃないかと思うんだと思いますけど。でもぬいぐるみが普通に生活してたら、もっともっと評判になるんじゃないかなあ。やっぱりその辺りは童話ってことで。なんとなくほのぼのした笑いが欲しいときに。おすすめ。
クリスマスのぶたぶた
著者 | 矢崎存美 |
出版(判型) | 徳間書店 |
出版年月 | 2001.12 |
ISBN(価格) | 4-19-861452-0(\1200)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
12月24日と25日に起きるぶたぶたとのほのぼの遭遇話。
なんだかクリスマスっていうと、いつもは沢山残っている肉屋のサーロインステーキがバカ売れしてて買えなかったり、いつもより高いワインが売れてたり。とにかく「クリスマスだから」と何か特別なことをする人たちって多いですよね。私は単に「冬季休暇初日!今日から1○連休だぜ」という日々を過ごしてましたけど。ちなみに肉屋でステーキ肉が買えなかったのは去年、おととしは恵比寿で写真を撮って、安楽椅子探偵のビデオを見てたようです。その前の年は、札幌でラーメンを食べてました。ドラマちっくなクリスマスですね。みなさんのクリスマスはいかがでしたか?
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