2000年06月
・死角に消えた殺人者(天藤真) | ・依頼人は死んだ(若竹七海) |
・幽霊刑事(デカ)(有栖川有栖) | ・朗読者(ベルンハルト・シュリンク) |
・レキオス(池上永一) | ・ウェディング・ドレス(黒田研二) |
・風転(花村萬月) | ・殺竜事件(上遠野浩平) |
・国会議事堂の死体(スタンリー・ハイランド) | ・予知夢(東野圭吾) |
・池袋ウェストゲートパーク(石田衣良) | ・少年計数機(石田衣良) |
・EDGE-エッジ-(とみなが貴和) | ・ゴサインタン-神の座-(篠田節子) |
・白銀荘の殺人鬼(彩胡ジュン) | ・M.G.H.-楽園の鏡像-(三雲岳斗) |
・女王の百年密室(森博嗣) | |
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死角に消えた殺人者
著者 | 天藤真 |
出版(判型) | 創元推理文庫 |
出版年月 | 2000.5 |
ISBN(価格) | 4-488-40808-7(\860)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
全然関係のない4人が海に落ちた車の中から死体で発見された。被害者の一人、塩月まつ江の娘、令子は、母が何故そんなところで死ななくてはならなかったのか突き止めるため、単身捜査を開始する。
4人もの人間が車の中で死んでいたら、絶対関係あると思うもの。ところがどんなに探してもその接点が見つからない。思いも寄らぬ接点があるのか、それとも何か別の理由が、というホワイダニットがこの物語の焦点。いくらもいかずに、こういうことなのかな、と思ってしまったのですが、話運びが面白いので、最後まで楽しめました。
依頼人は死んだ
著者 | 若竹七海 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 2000.5 |
ISBN(価格) | 4-16-319230-1(\1762)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
雇われ探偵葉村晶が活躍する連作短編集。葉村晶ってシリーズキャラクターだったんですね。順番に読めばよかったかも・・・。この晶の友人で同居人(というか大家)の相場みのり、なんと本職が司書なんですね。前もちょっと思ったんですけど、若竹七海さんって図書館に勤めたことがあるのか、あるいは司書資格をもってるのかな。「鉄格子の女」とか、そのイメージ強いですね。実際書誌学をかじった人じゃないと、個人書誌をつくることがどのくらい大変かっていうことがわかりずらいんじゃないかなと思うんです。あちこちに書かれているちょっとしたセリフとか、共感するところが多くて、そのあたりがこの人の本好きですね。
幽霊刑事(デカ)
著者 | 有栖川有栖 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2000.5 |
ISBN(価格) | 4-06-182122-9(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
ふと気づくと自分は幽霊になっていた。生前は刑事だった自分、思い起こすと、この海岸で上司に自分は撃たれたのだった。巴東署には転属したばかり。上司に恨まれるようなことをした覚えはない。なぜ上司は自分を撃ち殺したのか?それがわからない限り、自分は成仏できないらしいが・・・。
結構こういう殺された人が幽霊になって捜査する話は多いと思うのですが、ちゃんと本格推理になっているのはさすが。様々な可能性を検討するところも、ちょっとまだるっこしいくらいなのが、ちょっと懐かしい感じなのも、わたしは好きですね。幽霊になってしまった刑事の霊媒となってくれる早川刑事。これがまた良いキャラクターなんです。全体的にはまあ王道といえる結末かなと思ったのですが、結構おすすめ。
朗読者
著者 | ベルンハルト・シュリンク |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-10-590018-8(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★☆ |
15歳のミヒャエルはある女性と出会う。母親くらい歳の違う彼女・ハンナと関係をもったミヒャエル。彼女は彼に本を読んでくれとせがむ。朗読の日々が過ぎ、ある日突然ハンナは姿を消した。そして数年後、ミヒャエルは思わぬところで彼女と再会する。
この物語の中心をなしているのは、彼女が必死に守ろうとするある秘密。その秘密のために、永くひとつのところにとどまれなかったり、人と永い間関係を結ぶことができないハンナ。自分には無い悩みなだけに、いくら想像しようとしてもその範囲外という気がしてしまうのですが、確かに世界中にこのハンナのような悩みによって、ものすごく不利になっている人ってたくさんいるんだろうなと思うのです。一体どういう悩みなの?と思う方、是非一読を。おすすめです。
レキオス
著者 | 池上永一 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 2000.5 |
ISBN(価格) | 4-16-319210-7(\2000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
世紀末のオキナワ。基地返還の風潮の中で、アメリカ人と日本人の血をひく少女デニスは、恐ろしい格好をした女に憑依される。チルーと名乗ったその幽霊は、デニスにレキオスについて調べろと命令する。そのうち基地内のとんでもない陰謀が明らかになり・・・。
陰謀っていっても、そんな人間どおしの駆け引きとか、汚職とか、そんなチンケな話ではないんです。壮大なファンタジー。常識なんていうものが全く通用しない、それでいてひきつけて離さないような魅力のある本でした。この本の面白さは、こんな文章では言い表せないですね・・・。特筆すべきは、登場人物。壊れた人格を持つサマンサ博士、逆さ幽霊になったチルー、いたずらものの友庵。どの人も一筋縄ではいかない、かつ常識なんて全く通用しない人たちで、唯一の良心といえる人であり全体的に人間らしいデニスが戸惑う様が、とっても安心できるというか(笑)。むちゃくちゃな話が好きな方におすすめ。
ウェディング・ドレス
著者 | 黒田研二 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-06-182130-X(\840)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
結婚式当日に姿を消した花嫁。結婚式当日に死んでしまった花婿。一体何が真実なのか。
この本、帯に「すべてが謎とトリックに奉仕する、体脂肪率0%の新本格」と書いてあるのですが、言い得て妙。というか、もしかして皮肉なのかなって思ったのですが、読んだ方どう思いました? 過ぎたるも及ばざるが如しで、体脂肪率だって0%じゃまずいでしょう、やっぱり(笑)。伏線のはり方とか、全編謎、謎の構成とか、うまいと思ったのです。でも、思いっきり憎悪系の話なのに、ここまで登場人物がドライだと、説得力無い気が。最初から本の全体像が見えてしまったのは、感情移入するということがほとんどなくて、文章ばかりに目が行ってしまったからかもしれません。
風転
著者 | 花村萬月 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-08-774465-5(\2600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
大学受験に失敗し、惨めな気分でブラブラと遊び歩くヒカル。そんな時、有名作家であるヒカルの父の盗作事件が発覚した。親に内緒で手に入れたバイクにまたがり、一匹狼のヤクザと共に逃げるヒカル。ヤクザと2人の生活で彼が手に入れたものは。
ヒカルの話に焦点を絞れば、量が半分以下になると思うんです。元が連載だから仕方が無いのかもしれないのですが、あちこちに話が飛んでちょっと読みにくかったですね。あと、私はこの著者の本に共通して見える自尊心と劣等感を混ぜあわせたような唐突なセリフが、どうしても苦手なようです・・・。ヒカルも周りの女の子も、とても18歳には思えないほど幼い気がするのですが、どうなのでしょう。でもたまに出てくる衝動的な行動の描写がものすごくリアルで、それはすごいと思うんです。全体的に妙にアンバランスなのが、この人の本の魅力でもあるとは思うんですが、うーん。
殺竜事件
著者 | 上遠野浩平 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-06-182135-0(\880)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
人間を超越した存在である竜の一匹が殺された。誰が殺したのかはもちろん、世界で最も力を持つ存在である竜をどのように殺したのか、それさえもわからない。戦地調停士EDたちは、竜と会った人間に話を聞くため旅にでる。
ミステリというよりも、やっぱりファンタジーなんでしょうね。どちらかというと、3人の成長物語という感じ。あまりにも3人が幼いのと、全体的に戦争もリアルさが足りなくておとぎ話の領域を抜けてなかった、というイメージだったんですよね(^^;。その辺りがやっぱりライトノベルスかなと。読んでいて、なんとなく藤本ひとみを思いだしました。やっぱりなんといっても美少年!(笑)。やっぱりこの手の小説は美少年が出てこなくちゃだめでしょう。それでしかもホームズのような頭のキレ(^^)。面白いのはその辺りですね。。。登場人物に入れ込まないと厳しいかもしれません。
国会議事堂の死体
著者 | スタンリー・ハイランド |
出版(判型) | 国書刊行会 |
出版年月 | 2000.1 |
ISBN(価格) | 4-336-04165-2(\2500)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
ビッグ・ベンの中からミイラ化した死体が見つかった。状況から1世紀以上経っているように思われるその死体だが、身元も不明。国会議員のブライは、問題に対処する委員会を設置、死体の身元と犯人を割りだそうとする。
いろいろな手がかりを寄せ集めて、徐々に明らかになる1世紀前の謎。ところが大きな問題が・・・というものすごくオーソドックスな推理小説。多少退屈だったかもしれませんが、状況が変わる中盤過ぎたあたりから面白くなり、あとは一気読みでした。いつもこういうのでは飽きてしまいそうですが、たまにはこういう文献調査的な推理小説もよいかも。
予知夢
著者 | 東野圭吾 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-16-319290-5(\1333)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
物理学者の湯川が活躍するオカルト事件短編集。
この世の中のどんな不思議な現象も、いずれは科学的に解明できるようになるんだろう、というのはなんとなく思うのですが、それってやっぱり科学教の考え方なのでしょうか。私はよくデジャヴを感じる人間なのですが、本当に潜在意識の中で気になっていたことを夢で見ているからなのかなぁ。
なんて思いながら読んだこの短編。まとまりもよく、ガリレオと呼ばれる湯川博士、ワトソン役の草薙刑事ともキャラが立っていて、楽しめました。幽霊が出てきたり、夢の中で死んだ人が、本当に死んでしまったり。どうしても解明できない不思議な現象を、湯川博士が科学的に解明してくれます。一体今度はどんな風に解明するのか、楽しみに読めます。おすすめ。
池袋ウェストゲートパーク
著者 | 石田衣良 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 1998.9 |
ISBN(価格) | 4-16-317990-9(\1619)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
工業高校を卒業して、実家である果物屋の店番を手伝いながら、池袋の西口公園でぶらぶらするマコト。そのマコトが一緒に遊ぶチームの女の子一人が死体で発見された。マコトは、彼女の敵を取るために、犯人探しを始める。
標題作を含む4つの連作短編集。マコトが池袋の何でも相談屋になっていく過程が描かれています。チームを組んで、、、というのはちょっと古いような気もするのですが、今も池袋はこんな感じなのでしょうか(^^)。標題作も好きですが、書きおろしの「サンシャイン通り内戦」が一番面白かったかな。ドラマは妹に言わせるといまいちだそうですが、こちらはおすすめ。
少年計数機
著者 | 石田衣良 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-16-319280-8(\1619)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
「池袋ウェストゲートパーク」の続編。
だんだん池袋のドンのようになっていくマコトのお話(^^)。前編でいろいろとコネを得たマコト。様々な形で持ち込まれる相談事、問題を、その様々なラインを活かして解決していきます。私はこういうそれぞれが自分お持ち味を生かして活躍する話が好きですね。また、単に解決して警察へというだけじゃなくて、マコトらしい決着のつけ方というのが爽快。続編というと、なんとなく元の方が面白く感じられてしまうものですが、続けて読んだ限りでは、甲乙つけがたい感じでした。特に私は元気なじいさんの依頼を受ける「銀十字」がよかったな。ラストの1編も面白かったのですが、あまりに救いが無いというか。いずれにせよおすすめ。池袋に行きたくなりますよ。
EDGE-エッジ-
著者 | とみなが貴和 |
出版(判型) | 講談社ホワイトハート |
出版年月 | 1999.10 |
ISBN(価格) | 4-06-255435-6(\570)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
都内で高層建造物の爆破が相次いでいた。八方ふさがりの警視庁は、最後の切り札とも言える心理捜査官、大滝錬摩に応援を要請する。
懐かしい雰囲気もある爆弾摩と心理捜査官の闘いのお話。ティーンズ小説の体裁から抜け出してはいないものの、全体的にちゃんとミステリになっているという印象を受けました。この大滝という心理捜査官(FBIのお墨付き!(^^;)の過去と、不思議な相方、宗一郎との物語と併せて今後が楽しみという形になっています。私は別の意味でこの話面白かったのですが、それが何かは内緒です(笑)。
ゴサインタン-神の座-
著者 | 篠田節子 |
出版(判型) | 双葉文庫 |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-575-50732-6(\857)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★☆ |
40近くになっても旧家の農家を嗣がなくてはならないという条件が災いし、嫁がもらえない結木輝和。最後の手段、ネパール人とのお見合いで、ひとりの女性と結婚した。呼びづらい本名を嫌い、輝和は彼女を淑子と呼ぶ。ところが淑子は徐々に不思議な力を発揮しはじめる。
モノを作ること、その手段を持っていることというのは、ある意味すごいことだと思うのです。私の周りにはいわゆるサービスとかいう霞を売って生きている人しかいないので、生産手段を持つ人々に、なんとなくあこがれを感じます。自分がパソコンを自作するのもそんなコンプレックスの裏返しなのかもしれません(^^)。たぶん淑子が結木家にもたらそうとしたのは、自分たちが生きていくために何かを生産し、それを自分たちで消費する世界、そういう概念だったんじゃないかと思うのです。
ある意味、理想論とも言える世界ではありますけれども、地球上にはまだまだそうして暮らしている人もたくさんいるはず。生きていくために労働する、ということのは、もちろん大変ではあるでしょうけれども、人間の本来の姿なんじゃないかなとこの本を読んでいて思いました。そんなことを考えるのも、日本人の奢りなのかもしれませんが・・・。
白銀荘の殺人鬼
著者 | 彩胡ジュン |
出版(判型) | カッパノベルス |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-334-07390-5(\848)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
妻と子を連れて、スキー旅行へと出かけた立脇順一郎。ペンション白銀荘に宿泊することになったが、それは順一郎のある計画の始まりだった。
白銀荘で起こる惨殺事件。順一郎の計画が成就するのか、それとも・・・最後に生き残った人間は果たして誰なのか、ホラーとも言えるミステリです。よくあるパターンではありますけれども、読みながら別な路線を考えていたので、驚いたというかちょっと残念だったというか。
本としてよりもこの小説、カッパノベルスの懸賞「著者当てクイズ」の方が気になってしまいました(^^;。**賞受賞作家と、ミステリーベストテン第1位という夢の顔合わせだそうですが、読む前に思っていた作家の作風から考えると違うみたい・・・。ものすごく気になっています。10月に発表だそうですが、待ちきれない。誰かこっそり教えて・・・くれないかな。
M.G.H.-楽園の鏡像-
著者 | 三雲岳斗 |
出版(判型) | 徳間書店 |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-19-861194-7(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
宇宙ステーション白鳳。そこへ”偽装”新婚旅行に行くことになった鷲見崎凌と従妹の森鷹舞衣は、ある事件に巻き込まれる。なんと重力の無い宇宙ステーションで墜落したと思われる死体を発見してしまったのだ。どうやって無重力の中で墜落できるのか、そして何故そんな殺され方をしなければならなかったのか。日本SF新人賞受賞作。
物理学的知識を使ったSFミステリ。うまいなあと思いました。無重力の中の墜落死体という自己矛盾した状況をどうやって解明するのか・・・伏線の使い方もなかなかでしたし、ミステリとして十分な出来だと思います。
それ以上に面白いと思ったのが、ミラーワールド、アプリカントといった未来の道具たち。もう少しミステリ部分に絡んでくれるとよかったかなと思いましたが、この概念自体に私はどっぷり浸かっていたような気がします。それがこの「MGH」の世界にはまれた一因だと思いますし、この本をおすすめする理由です。
一人一台の端末、どこでもつなげられるミラーワールドという概念は、そんなに遠い未来の話ではないと思うのです。実際私は最近はいつでもテリオス君を持ち歩いていますし、これがあれば、大抵の場所からインターネットにつなぐことが可能です。第3世代と言われる携帯が普及すれば、国内だけでなく海外からのアクセスもずっと容易になるはず。ネット上には今でも様々な人が「生息」していますし、それがアプリカントという自己を投影したアプリケーションに取って代わることも、あとはパソコン自体の性能の問題だと思うのです。私が生きているうちに、こういう世界が訪れるでしょうか。怖いようでもあり、楽しみなようでもあり。いや、どっちかっていうとまだ楽しみな方が強いかな。
女王の百年密室
著者 | 森博嗣 |
出版(判型) | 幻冬舎 |
出版年月 | 2000.6 |
ISBN(価格) | 4-344-00009-9(\1900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
サエバ・ミツルと、相方のウォーカロン、ロイディは、道に迷っていた。ナビゲータは故障し、衛星との通信も遮断されている。3日も飲まず食わずで進んできたミツルは、もう限界に来ていた。そこへ現れた謎の老人。マイカ・ジュクと名乗った彼は、宮殿に向かえと指示する。
100年前に作られた桃源郷。外界での「常識」は通用せず、死は単なる「永遠の眠り」。法律もなく、司法権力も存在せず、ただ人の善意によって運営されるその街で起こる、「ミツルにとっての殺人事件」は一体どういう結末を得るのかというお話。
閉鎖空間というのは、ものすごく心地よいものだと思うのです。だからどこにでも内輪受けというのは存在するし、外から入ってきた人は余所者として排除されたりする。法律とか、憲法なんていうのも、そういう内輪で存在する規則のひとつですし、そんなきちんと形のあるものでなくても、禁忌や慣習というのも内輪を形成するもののひとつ。言語だってそうかもしれません。この本に出てくるのは、そんな内輪を人為的に形成した小規模な集団。作ったのは・・・読んでからのお楽しみとして、こういう世界観は、森博嗣っぽいなあと思いました(^^)。SFっていうのは、まず世界観を規程するところから始まるらしいですが、正にこれはそういう意味ではSF。面白かったですね。こういう世界、本当に実現は可能なのでしょうか。もしできるなら、私も行ってみたいです。
もうひとつ、この本に現れる命題、「生と死の境」の話も面白い。科学の進歩と共に、徐々に生と死が曖昧になっている昨今、死とは何かというのを考えさせられるお話でした。おすすめです。
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