直路ヶ尾(赤坂)ルート・・・3
足柄峠西坂地図 

足柄古道のハイキングコース(直路ヶ尾ルート)も右の写真の少し下で現在の舗装道路と合流し、そこからは舗装道路を歩くことになります。このルート上部の寺庭城から、ここまでのおよそ1キロメートルの間には、古代官道や鎌倉往還の跡を思わせるような大きな掘割や道跡などの地形は見られませんでした。狭く屈曲の多いこのルートは江戸時代以降に利用された峠越えのルートの可能性が高いようにホームページ作者は感じました。

安永3年銘石像馬頭観音立像
左の写真は直路ヶ尾ルートを下り、峠からの舗装道路と再び合流する手前に立つ石像の馬頭観音立像です。安永3年(1774)の彫銘があり観音菩薩像の頭上に馬の頭部を乗せたお姿をしています。かって馬は、人々の暮らしになくてはならない動物で、物資を運搬する荷馬や農業に携わる農耕馬などがありました。馬が死ぬと人々は馬頭観音像を立て供養し旅の道中安全を祈願しました。

馬頭観音像の前から石畳道を舗装道路に出たところが下の写真です。一般の方々は下の写真の石畳が古道だと思われることでしょう。しかし、馬頭観音像の前から石畳道とは関係なく、真っ直ぐに延びている窪地が確認できます。右の写真がその窪地ですが、この窪地こそが直路ヶ尾ルートの本来の古道跡であったと考えられ、舗装道路が造られる以前の道跡の可能性が高いと思います。

上の写真の窪地を形成している土塁状の土盛りを、写真の場所だけ崩して石畳道は付けられたものと思います。
ここから地蔵堂川と並行する舗装道路に沿うように古道は伊勢宇橋まで続いていたと思われます。またこの舗装道路は地蔵堂川を遡って行く地蔵堂川源流ルートでもあっと考えられます。
写真の足柄古道の上り口から舗装道路を少し下りたところには、山側から沢が一本流れてきていて、そこは水飲場と呼ばれています。直路ヶ尾ルートが峠から下りてきて最初の水場だったようです。

直路ヶ尾ルートは別名を赤坂ルートといいます。赤坂の名前の由来は陶器(須恵器)に使う赤土が出たところから伝えられているようです。右の写真は足柄峠へ向かう現在の舗装道路です。道路の沢沿いの脇には僅かながら土塁状の高まりも見られ古道の面影が残っています。ここをしばらく下ったところに次で紹介する伊勢宇橋があり、その手前の右手には地蔵堂川沿いを遡ってきた戦ヶ入林道(地蔵堂川源流ルート)が合流しています。

伊勢宇橋
左の写真は峠からの舗装道路が地蔵堂川を渡る赤い欄干の橋で、伊勢宇橋(いせうばし)といいます。橋のたもとには石碑と説明版があります。この橋は江戸時代に江戸の浅草花川戸の町人であった伊勢屋宇兵衛が一代で大金持ちになり、その晩年には各地の交通不便な88ヶ所に木橋を架けたその一つだといいます。伊勢宇橋の石碑は相模側の地蔵堂前にもあり、ここの伊勢宇橋は85番目のものであったようです。

唯念上人の大名号碑
峠から下りてきて伊勢宇橋を渡ったすぐ先には左の写真の唯念上人の大名号碑(大名号塔)が建っています。高さ3.8メートル、幅1.5メートルの巨大な石碑には上人自らの筆になる南無阿弥陀佛の六字が刻まれています。天保10年(1839)の造立で、当時は飢饉や大疫病の流行で地元の村人達は苦しんでいました。その頃、足柄山中で修行をしていた唯念は人々を救おうと念仏を唱え災難厄除けの祈願を続けていました。

村人達も力を合わせて大きな石に上人の書いた南無阿弥陀佛の名号を彫り、この地に建てて上人と共にお祈りしたところ、やがて流行病はおさまり平穏が戻ったといいます。この碑の中央名号の右には「天下和順日月清明」の文字と唯念の花押があり、左には「馬頭観世音」の文字が掘られています。またこの碑の横には関東大震災で石碑が倒れ、大正15年に復興したときの記念碑と解説碑が建っています。

右の写真は名号碑の建っている前の舗装道路で竹之下集落から足柄峠へ向かう現道です。この舗装道路は直路ヶ尾ルートを踏襲していると思われます。写真の近くには、ほとんど磨耗してしまった石仏か石碑と思われる石があり、そこに花が添えられてありました。

題目大石碑
左の写真は直路ヶ尾ルートが伊勢宇橋を渡り、緩やかな坂を上って尾根上に出たところに建つ「題目碑(題目塔)」です。南無妙法蓮華教の七字の題名を含むので「お題目」と呼ばれています。この題目碑は高さは3.5メートル、幅は1.2メートルもあり堂々としたもので、文久2年(1862)の銘があります。日蓮上人は文永11年(1274)身延山に入山する途中と、弘安5年(1282)に池上本門寺へ入寺のときに竹之下に泊まり一幅のご本尊を書き授与されました。その後上人の遺骨が身延山へ送られるときも竹之下は宿とされたそうです。それらの仏縁によりこの碑(塔)が建てられたといいます。

この先竹之下の一里塚まで尾根上の道が続き所々土塁状痕跡も残る古道らしい道です。此の辺り名号塔や題目塔があり近世の足柄道で間違いないでしょう。

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