風のささやき

朝涼しどこぞの赤子泣いており

夏の夜の風を衣服と纏いおり

宵涼し雲と道草食っており

夏の駅手を振り止まぬ祖母のいる

湧き水や夏の陰影編む手かな

夏の夜や小雨火消となりにけり

タイヤまで焦げて匂うや灼くる道

夏の夜や目で追ういつか聞きし歌

夏の果まだ遊んでく帰らない

引き算を習い始めの六月尽

仰向けの眼鏡清和の天のいる

夏立ちぬ坊主頭の肌触り

蹴りあげるボールや届け初夏の空

朝涼や半分目覚め和みおり

帰り来て夏の日差しを比べけり

眩しさと添い寝しており夏始

炎昼や蝶も舞い入る木陰かな

陣痛に憶す電話や夏未明

蒸るる夜や日記の言葉も溶け絶える

薄暑の夜しっとり寝る子腹を掻く

水風船噛み割り遊ぶ盛夏かな

陽の漏れぬ欅の影も夏の色

初夏の風千手の慈愛のそよぎかな

鼻たらし逃げる子速し初夏の空

シャツをまた湿らす涎や半夏生

初めての夏の陽強し目開けぬ子

水涼し青きビー玉金魚鉢

夏なのにもう落ちるのか未熟の葉

溜息も哀しさ帯びぬ熱帯夜

あきらめる術見当たらず夏の果

カーテンも外す部屋には月涼し

夏めいて木陰にへたる子犬かな

短夜やあれやこれやで深まれり

人混みの初夏の電車のへたり気味

サンダルの焼かれた素足夏の色

滝壷に光り泡立ち生まれ夏

晩涼を蹴鞠のごとく君の下駄

炎暑干す寝具は焦げた香のままで

天炎ゆる草のいのちの黙りけり

十字架の目にひりついて夏始

雨のれんくぐればそこに夏の色