岸本葉子著作のページ


1961年神奈川県鎌倉市生、東京大学教養学部卒。総合職の先駆けとして東邦生命入社・86年退社。その後北京外国語学院に語学留学。90年「微夏の島・台湾」からエッセイストとして活躍。2001年虫垂がんの手術を体験。

1.30前後、やや美人

2.三十過ぎたら楽しくなった!

3.40前後、まだ美人?

4.葉と葉子のふたりごと

5.がんから始まる

6.がんから5年

 


     

1.

●「30前後、やや美人」● ★★

 
30前後、やや美人画像

1996年05月
読売新聞社刊

2000年01月
文春文庫
(495円+税)

 

2001/07/27

エッセイスト・岸本さんについては、随分前から知っていました。本書中にも書かれていますが、日曜日朝のニュースワイドショーに岸本さんがコメンテーターとしてレギュラー出演していた為です。
見るからにか弱そうな若いお嬢さんがぽつんと座っている、という様子だったのですが、活躍中のエッセイストと聞き、えっー、と驚いていました。

いずれ岸本さんのエッセイを読んでみようと思っていたのですが、そのままかなりの時間が過ぎてしまい、漸くにして読めた、という思いです。そして結果はと言えば、極めて満足。
おとなしく遠慮がちな岸本さんの内に、抑えようとしても込み上げてくる、時機を逸した怒りというのが時々あって、つい可笑しくなります。そんなパターンは、私自身にも共通するところがあって、親近感あり。
また、聞くつもりがないのに、近くの人の会話が耳に入ってしまい、一人で憤っている、そんな岸本さんは愉快。でも、同感すること多いのです、ホント!
その一方で、
若い女性が文章を書いてひとり暮らしの生活を立てていくというのは、イメージの華やかさに反して、大変なんだなあと思います。山本文緒さんのエッセイそして私は一人になったでも、やはり感じたこと。
岸本さんや山本さんに比べて対照的なのは、やはり阿川佐和子さん! 本書中にも佐和子さんのことがちょっと出てきますが、あのあっけらかんとした性格は、真似したくても余人が真似できないものでしょう。佐和子さんが年中原稿の締切にアタフタしている様子なのに比べ、岸本さんは常に2週間先の原稿まで書いている、何かあった時の用心として2本位のエッセイを溜めてある、というのですから、頭が下がります。岸本さんの生真面目さは立派! でも可笑しい。
阿川佐和子さんのエッセイと比べて読むと、さらに楽しめることと思います。

ひとりで住む「マンション」/「おばさん!」と呼ばれて/「自分」のここが嫌い/「女」も見てるゾ/「超」B級グルメ/「仕事」をめぐる冒険/男と女「ゲームの規則」/「旅」ゆけば/「買い物」のてんまつ

   

2.

●「三十過ぎたら楽しくなった!」● 

   

1997年12月
講談社刊

2000年10月
講談社文庫
(571円+税)

 

2001/11/24

岸本さんのエッセイ、2冊目。これもまた「30」に絡んだ題名の本です。「30」という数字、やはり女性にとっては大きな数字なのでしょうか。
まあ、20代というのはとかく若さが強調されてしまい、自由な筈なのに意外に窮屈だったりするところがありますから、この題名から伝わる気持ちは、理解できます。男性にしても、女性程ではないにしろ似たところがあります。(もっとも単行本時の題名は「三十女のおいしい暮らし」とか)
それにしても岸本さん、本書を読む限り、年齢以上に保守的なようです。手動式のFAX付電話を何時までも使っていたり、やっと自動FAX+留守電付電話を買ったら世の中は既に電子メール時代だったとか。
普通のお嬢さんが、普通に書いたエッセイ集、本書はそんな印象です。(ですから読み易くはある)

 

3.

●「40前後、まだ美人?」 


40前後、まだ美人画像

2001年11月
小学館刊

2005年04月
文春文庫
(562円+税)

 

2005/07/20

小学館刊「若くなくても、いいじゃない」の文庫化。

ずっと以前TVで毎週のように見かけていた時に可憐なイメージだった岸本さんも早や40歳間近。老後のことをいろいろと考え始めたというのも、判る気がします。
本書中での大きな出来事は、岸本さんがついにマンション購入に踏み切ったこと。動機のひとつにやはり老後への備えがあったようです。
こうしたエッセイでの先輩格、阿川佐和子さんが文庫解説を書いていますが、未だご両人は顔を会わせたことがないのだとか。へぇーっと驚きました。
その阿川佐和子さんとつい比較してしまうのですが、直情決行型で思わぬ行動から笑いを振り撒く佐和子さんに対し、岸本さんのは熟慮して決断したにもかかわらずしくじった、という可笑しさがあります。前者の「ガハハ」という笑いに対して楚々とした笑い、というところでしょうか(佐和子さん、ゴメンナサイ)。
そんな岸本さんでも、時々やけになってのことではないかと思える行動があります。その点も面白みのひとつ。
また、ひとり言は(  )内に書かれていますが、(あっぶねー)とか(ふっ、てこずらせやがって)とか、岸本さんのイメージからは想像しにくい言葉がポンポンと出てくるところが可笑しい。
岸本さんの姿を思い浮かべながら、気軽に読むのがふさわしいエッセイ本です。

     

4.

●「葉と葉子のふたりごと」渡辺葉・共著) 


葉と葉子のふたりごと画像

2003年04月
清流出版刊
(1200円+税)

 

2003/05/11

月刊「日経WOMAN」 に連載されていた岸本葉子(東京)・渡辺葉(ニューヨーク)間の往復エッセイ。
書店で見て最初に思ったのは、阿川佐和子・壇ふみの往復エッセイああ言えばこう食うの二番煎じかな、ということ。比較して読むのも一興ということで読み始めました。

本書はエッセイというより、往復書簡と言うべきもの。
それも、お互い女性の一人暮らし。そうした中で自分が感じていることについて、そちらはどうですか、また2人の中では先輩格である岸本さんへ渡辺さんからの問いかけ、といった内容です。
男性である私としては、ふ〜む、そういう思いがあるのかぁと、女性間の内輪話に聞き耳を立てているような感じがします。しかし、女性ならば、とくに一人暮らしの独身女性であるならば、いろいろと親近感をもって読めるのではないかと思います。
エッセイのひとつひとつは、僅か2頁。元からそんなに親しい間柄という訳ではないようですから、阿川・壇のようなお互いの内幕を暴き立てるような可笑しさはありません。

プロローグ/からだの処方箋/人間関係の処方箋/こころの処方箋/エピローグ

      

5.

●「がんから始まる」● ★★

  
がんから始まる画像
 
2003年10月
晶文社刊
(1600円+税)

2006年04月
文春文庫化

 

2004/03/15

岸本さんががんであることを知ったのは、2001年10月40歳の時。進行した虫垂がんで、S状結腸にも浸潤していたとのこと。手術は成功したものの、治ったかどうかは今後5年間に再発があるかないかを見てみないと判らないという。

独立業で一人暮らしの岸本さんの場合は、家族のいる患者とは異なる状況があります。入院準備やその間の段取りも、すべて自分で行い、退院後も自分自身で生活をコントロールしていかなくてはならない、ということ。
そこで発揮されるのは、岸本さんの優等生ぶり。数ある問題に目標、計画を立て、生真面目に実行していきます。如何にも岸本さんらしく、これまでに増して親しみを感じます。
以前、多和田奈津子「へこんでもというがん闘病記を読みましたが、若い女性の場合と岸本さんの場合とでは、本人の置かれた状況が大きく違う。岸本さんの場合、まず自分で働かないと生活ができない。
しかしがんの重さは、手術前後より退院してから。がんという重荷を抱えて生活していくことになったのですから。しかし、それにめげず、むしろ生きることへの強い気持ちを持つに至ったことに、感銘を覚えます。
「がんはいろいろな計画が立つぶん、人間的ではあるね」という岸本さんの父君の言葉が印象的。救われる思いがします。

第一部:兆しは、あのときから/がん患者となって/入院生活がはじまった/私は助かったのか?
第二部:退院後をどう生きるか/がんからはじまる

     

6.

●「「ほどほど」がだいじ がんから5年」● ★★

  
がんから5年画像
 
2007年09月
文芸春秋刊
(1714円+税)

2010年11月
文春文庫化

 

2007/11/14

 

amazon.co.jp

がんが治ったかどうかは、手術後の5年間に再発があるかどうかが目処だそうです。
本書はがんから始まるに続く、「がん治療後3年から5年半過ぎまでの、日々の思いや心の変化」を書いたエッセイ集。

手術が成功したからといって、がんの不安から解放された訳ではない。岸本さんは、そんな患者の気持ちをありのままに、日々の暮らしの中から語っていきます。
深刻になり過ぎず、楽観的にもならない。そうしてがんと向かい合って生活していく。
「がんサポートキャンペーン」に参加してがん患者や家族の人たちと交流したり、食事を節制したりと、一抹の不安を抱えながらも一歩一歩穏やかな生活を心がけているところに、岸本さんの変わらぬ人柄が感じられます。
がん、自分もいつか・・・という思いは常に頭の中に持っています。もちろん実際に宣告されるのとは雲泥の差でしょうけれど、それぐらいがんは、今や身近な病気と言えるのではないか。
そんな思いから読むと、決して他人事ではないのです。人生、いや闘病経験の先達となる方々の様子から学ぶ、という気持ちで読み進みました。
とはいってもそこは岸本さん、なんとなくのんびりと楽しく読めるところがあるのです。この辺りが岸本エッセイの魅力。

※第2章&2つの対談は、女性の生き方、シングル女性の老後等々。その中で関川夏央さんのひと言には笑ってしまいました。
「岸本さんのがん闘病記を読むと、全編、準備・準備・準備だものねえ(笑)」とのこと。

第1章 日々のこと+対談:がんと心の処方箋(竹中文良×岸本)/
第2章 それまで、これから+座談会:「女の老後」に勝ち負けなし(遠藤順子×香山リカ×残間里江子×岸本)+座談会:女40代シングルの「生活と意見」(香山リカ×岸本+司会:関川夏央)

   


     

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