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1.ホワイトアウト 3.猫背の虎 動乱始末(文庫化改題:猫背の虎 大江戸動乱始末) 6.遊園地に行こう! |
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1998年09月 1998/10/19 |
アクション・サスペンスものとしては、近年における国内最高傑作と言える作品です。
だからと言って、単にアクションに終始するというのではありません。主人公が自らを奮い立たせ、想像し難いような困難に単身で立ち向かっていく、そこに大きな感動があるからです。それこそが本書を高く評価する所以。 本作品は、正統的冒険小説のパターンをきちんと踏襲しています。そのことは、カッスラー“ダーク・ピット”シリーズと比較するとよくわかります。組織的な巨大犯罪に、主人公が徒手空拳、強靭かつ不屈の精神力で立ち向かっていく、というパターン。 本書ストーリィは、日本最大の貯水量を誇る巨大ダムが、厳寒期にテロリストグループに占拠されるというもの。 大雪に阻まれ、警察はダムに近づく事さえもできない。そんな中でテロリストと闘うのは、人質になるのを唯一人免れた職員の富樫輝男のみ。同僚かつ親友であった亡き吉岡の婚約者・千晶を救うため、彼は単身でダムに乗り込み、見通しもつかない闘いに挑んでいきます。 しかし、実際に彼が戦わざるを得ないのは、テロリストより、吹雪、大雪、厳寒という自然の猛威です。それだけに主人公の苦闘には迫力以上のものがあって、頁から一時も目が離せなくなります。分厚い一冊が、中盤過ぎるとあっという間でした。 漸くエピローグに至ると、主人公共々ほっとしたような寛ぎを感じます。感動がしみじみと伝わってくるのは、その時でした。 |
※映画化 → 「ホワイトアウト」
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2012年08月
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読むのを見送ろうと思っていたのですが、「ホワイトアウトを超える、緊張感あふれる大展開!」という帯文句に惹かれて読んだという次第。 しかし、その宣伝文句、幾らなんでも誇張に過ぎました。 深夜のデパート店内。警備員が定期的に見回る他は、誰もいない場所の筈。 人が大勢集まるというと、駅、ホテルが思い浮かびます。ホテルを舞台とした小説にアーサー・ヘイリー「ホテル」があり、映画の古典的名作には「グランドホテル」があります。何人もの人間の人生を描くのに、ホテルは真に相応しいからでしょう。 |
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2015年10月
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「猫背の虎 動乱始末」とは 何と風変わりな題名であることか。どんな内容なのか、読む前には皆目見当も付きません。 「猫背の虎」とは主人公、24歳の町方同心である太田虎之助のこと。 身の丈六尺違い偉丈夫でありながら、母親の真木と共に出戻りである2人の姉=初音と若菜の口やかましい女3人に囲まれて年中叱咤されている所為で、ついつい猫背になってしまうところから付いた仇名。 また亡き父親が、町衆からも“仏の大龍”と呼ばれる出来物であったことから何かと比較され、余計に肩身が狭いという始末。 「動乱始末」とは、安政 2年10月に江戸を襲った大地震の後、不安定な世情が続く中、臨時の町廻りに任じられて事件や自身の恋に奔走する虎之助の状況のこと。 真保作品で時代小説は珍しい。その所為か、同心という時代小説そのままの主人公設定でありながら、他の時代小説とは違った趣きを感じます。 まずストーリィ自体、仕事と恋愛に疾走する青春小説の趣きに、捕り物、市井ものといった様相も併存し、さらに+αあれこれありといった、まさに時代小説のあらゆる要素を思いっ切りぶち込みのごった煮エンターテイメント。 主人公も虎之助だけに留まらず、火事そして今度の地震で大事な妻娘と店を失くし絶望に陥った町人=佐吉、店を救うためと縁談を命じられ複雑な心境を抱く姉妹2人、等々もまた主人公と言えます。 なお最後、亡き父親の大活躍も口やかましい実母と2人の姉のおかげだったかと、虎之助が気付くに至るところが愉快。 |
4. | |
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2016年05月
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JR線廃止により誕生した第三セクター“もりはら鉄道”。沿線17駅のうち有人駅はわずか3駅のみと、典型的な赤字ローカル鉄道。 森中町長でもある五木田会長が起死回生策としてスカウトしてきた新社長は、何と東北新幹線のカリスマ・アテンダントであった篠宮亜佐美31歳。 元々地元出身で通学にもりはら鉄道を利用してきた亜佐美は、もりはら鉄道存続と共に地元経済の振興をめざし、社長就任直後から全力で突っ走り始めます。漫然と過ごしていた社員たちもいつしかその亜佐美の熱気に煽られ、もりはら鉄道は再生に向けて走り出します。 ストーリィの中心になるのは、社長となった篠宮亜佐美、県庁からの出向者で若いながらも副社長となった鵜沢哲夫、亜佐美をスカウトした会長=五木田の3人。その3人をもりはら鉄道の社員たちが取り囲んでストーリィは展開していきます。 沿線利用客の増加に限界があるローカル線故に、収支改善の切り札となるのは鉄道を使っての低採算イベント。その辺りは、同じく赤字ローカル線の再生物語である阿川大樹「D列車で行こう」とよく似ています。 ところがもりはら鉄道再生への妨害か?と思われる出来事が連続して発生。そこからミステリ&サスペンスといった要素が入り込んでくるところが、真保作品の独自色。 何はともあれ、篠宮亜佐美のキャラクターと次々に繰り出す増収策が楽しく、また商売っ気たっぷりの亜佐美と役人的発想が中々抜けない鵜沢哲夫との絡み合いも愉快。その上にミステリ&サスペンス要素を加えたエンターテイメント。楽しさ十分です。 1.出発進行/2.カリスマ一号列車/3.企画でGO!/4.駅舎炎上/5.緊急停車/6.減速信号/7.線路よ続け、いつまでも ※参考文献の内の2冊・・・「新幹線ガールズ」「ローカル線ガールズ」 |
5. | |
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2017年10月
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新米弁護士の本條努は、イソ弁先の所長=高階弁護士から初の刑事事件担当を命じられます。しかも殺人事件。 被害者は金融業者の成瀬隆二。そして被告人は金属加工業者である戸三田宗介。被告人は以前こそ成瀬から金を借りて世話になったこともありますが、その後工作機器の改良が特許を得て業績は目覚ましく好転。成瀬が持ちかけた投資話を巡って言い争いとなり、はずみで刺殺してしまったと自首。争点は正当防衛が認められるかどうか。 しかし本條、被告人の様子から無罪と信じ切れず、迷う気持ちをふっきれずにいます。そのうえ、殺された父親が何故辱めを受けなければならないのか?!という被害者の娘=成瀬香菜の叫びに心を揺さぶられます。 弁護士は被告人にどう向き合えばいいのか。信じられなくても弁護はできるか。迷いを払拭できずにいる本條に先輩弁護士たちは仕事として割り切れとしきりに忠告しますが・・・。 事件の経緯を含め真相はどうだったのか、そうしたミステリ要素もありますが、本作品は基本的に“弁護士”というお仕事小説であると言って良いでしょう。 難関の司法試験に合格して弁護士になったからといって、満足な収入がすぐ得られるとは限らない。それどころか恨みを買って危険な目に遭うことだってない訳ではないと、多少愚痴気味に弁護士稼業の実態が語られます。 弁護士として活躍していた私の学生時代の友人が、道理の合わない恨みを買って刺殺されるという事件を実際に経験していますので、決して絵空事ではありません。 本書は、ミステリ要素少々+青春風味も備えていますが、基本的にはお仕事小説。弁護士稼業に興味がある方にどうぞ。 |
6. | |
「遊園地に行こう!」 ★★ |
2019年06月
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「デパートへ行こう!」と「ローカル線で行こう!」に続く、“行こう!”シリーズ第3弾。 今回の舞台は、TDLの攻勢に負けることなく、奇跡的な復活を遂げた電鉄系の遊園地“ファンタシア・パーク”。 パークを実際に切り盛りして働くのはアルバイトたち。仕事は厳しくキツく、さらにアルバイト料も廉いというのみ皆が喜んで働いているのは、そこに“夢の世界”があるから。 まず登場するのは、訳有って大学を中退した北浦亮輔。バイト採用された初日から、“ファンタシアの魔女”と呼ばれる及川真千子から徹底的な指導を受けます。その及川は、50歳過ぎてバイトに応募し、僅か2年で契約社員の座を勝ち得たという伝説的な人物。 さらに、オーディション挑戦を続けながらパークのショーで踊っている契約ダンサーの新田遥奈、パークのメンテナンス子会社に勤務するバツイチの前沢篤史といった面々が登場します。 各人いずれもそれなりの事情やトラウマを抱えています。しかし、ファンタシア・パークという場所で働くことを通じて成長することを知るという、お仕事小説&成長ストーリィ。 そんな前半の展開と一転して、後半はパーク内で不審な事故が発生、そこからミステリかつサスペンス的な展開となります。 舞台設定や内幕事情も面白いのですが、北浦亮輔、及川真千子、新田遥奈といった主要登場人物が個性的かつ生き生きとしていて魅力的、ですからストーリィ自体もすこぶる楽しき哉。 プロローグ/1.神様のいたずら/2.夢へのステップ/3.深夜の魔法/4.夢を探る者/5.魔女のため息/6.夢を継ぐ者/エピローグ |