宮本昌孝作品のページ No.


1955年静岡県浜松市生、日本大学芸術学部卒。手塚治虫プロダクション勤務を経て作家活動入り。95年「剣豪将軍義輝」にて脚光を浴びる。2005年「乱丸」にて第4回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。


1.剣豪将軍義輝

2.こんぴら樽

3.夕立太平記

4.尼首二十万石

5.青嵐の馬

6.北斗の銃弾

7.影十手活殺帖

8.藩校早春賦

9.将軍の星

10.陣借り平助


夏雲あがれ、ふたり道三、風魔、おねだり女房、海王、天空の陣風、みならい忍法帖−入門篇、みならい忍法帖−応用篇、家康死す、陣星翔ける

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風魔外伝、武者始め、天離り果つる国、松籟邸の隣人1

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1.

●「剣豪将軍義輝」● ★★

剣豪将軍義輝画像

1995年12月
徳間書店刊

2000年01-03月
徳間文庫
(全3巻)

1997/02/09

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これまであまり手がつけられていない足利義輝が主人公。

ストーリィ構成には隆慶一郎氏と同傾向のものを感じます。それだけに豪快、奇想天外な要素が思う存分盛り込まれています。将軍義輝を思う存分に書き込んだと言えるでしょう。
また、歴史上の有名人物の登場も盛り沢山。塚原ト伝、上泉伊勢守、斉藤道三、信玄、謙信、信長、秀吉、家康、光秀と多彩で、たっぷりと読み応えがあります。

隆氏の後継者をめざす一人としては、資格充分な力作と言えるのではないでしょうか。
しかし、残念なことは義輝に関する史実(松永弾正に攻め滅ぼされた事)に拘束されざるを得なかったこと。また、隆氏に比べるほどもうひとつ物足りないものを感じてしまいます。主人公における型破りなスケールの大きさ、自由奔放さにおいて及ばないというような。

  

2.

●「こんぴら樽」● 

こんぴら樽画像

1995年12月
講談社刊
(1359円+税)

1998/08/30

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表題作「こんぴら樽」山手樹一郎的。
若い男女の、明るく青春物語的なストーリィです。ちゃんと悪役は登場しますが、脇役に過ぎないという感じ。私としては、こういう傾向の作品は、楽しくて、大好きです。

最後の「瘤取り作兵衛」は、隆慶一郎的。
信長・秀吉・家康時代を通じて古武士魂を貫いた武辺者・作兵衛を描く一篇で、隆「死ぬことと見つけたり」の斉藤杢之助を彷彿させます。思わず、ウン、ウンと言いつつ読んでしまいました。
収録された4篇はそれぞれ趣の異なる作品。この後の宮本さんの可能性を感じさせてくれる作品集です。

こんぴら樽/一の人、自裁剣/蘭丸、叛く/瘤取り作兵衛

  

3.

●「夕立太平記」● ★★

夕立太平記画像

1996年07月
講談社刊

2000年02月
講談社文庫化

1998/08/18

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なんとも楽しい作品です。理屈なしに読んで楽しめる時代小説。
自然児である主人公・夕立勘五郎の人物設定は、山手樹一郎の“夢介”隆慶一郎の“忠輝”をかけ合わせ、親しみ易いスケールに整えた、といった感じです。
そして、勘五郎だけでなく、登場する人物のひとりひとりが実に魅力的なのです。ひどい悪役でさえ、読了後に振り返ると親しみさえ感じてしまうから不思議。

ストーリィは、父親を殺された勘五郎が松江藩と幕府の争いに巻き込まれ、松江藩を救うと共に仇を討つというもの。
宮本昌孝さんというと、隆慶一郎氏の後継者としてのイメージが強いのですが、本作品の雰囲気は隆氏より山手樹一郎氏に近いと言えます。すなわち、明るくとても健康的、そしてユーモラス。
また、本作品では主人公が武将ではなく、市井の人物だけに、自由に空想を羽ばたかせて楽しんでいたのではないかという開放感が感じられます。さらにストーリィ展開のテンポの良さも魅力のひとつ。
とにかく、宮本作品の中では剣豪将軍義輝と並ぶ見逃せない一冊です。

  

4.

●「尼首二十万石」● 

尼首二十万石画像

1997年08月
講談社刊

2000年07月
講談社文庫化

1998/08/01

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面白かったです。すんなり楽しめるのがなによりのこと。
宮本さんについては、剣豪将軍義輝以来隆慶一郎氏の後継者というイメージがあるのですが、本書でもどこかそんな感じが漂っています。僅かですけれど。

隆氏ほどの豪快さ・スケールの大きさはないのですけれど、その一方で、作品に明るさがある、それと少しばかりの爽快さがある、というのが宮本作品の魅力、持ち味ではないかと思います。
本書はそんなふうに感じさせてくれる一冊でした。

それと、面白いのは、有名人物が脇役で登場すること。伊勢新九郎(後の北条早雲)、織田信長、長谷川平蔵宣雄・宣以親子、宮本武蔵。なかなか興趣に溢れています。
収録6作品のうち、とくに気に入ったのが「尼首二十万石」「袖簾」。また、「最後の赤備え」もなかなか爽快でした。

尼首二十万石/最後の赤備え/袖簾/雨の大炊殿橋/黒い川/はては嵐の

  

5.

●「青嵐の馬」● ★★

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1998年02月
講談社刊
(1714円+税)

2001年05月
文春文庫化


1998/08/03

「尼首二十万石」に続いて読みました。面白さとしては、同作品と同じ評価。ただ、こちらは中篇3作だけにそれぞれじっくり楽しむことができます。
3作のそれぞれに信長、秀吉、家康の3人の覇者を絡ませているのが特徴。その戦国時代の背景があるからこそ、その時代特有の必死な生きかたが主人公の中に浮かび上がり、読んでいて思わず魅せられてしまいます。前2作は女性が主人公となっていて、男性に引けを取らない戦国女性の姿が新鮮です。

「白日の鹿」では、許婚の仇討をし遂げた後の勝子のいさぎよさが印象的。
「紅蓮の狼」では、上泉信綱から剣の手ほどきを受けた忍城主・成田氏長の娘甲斐姫の果敢な武者ぶりが、とくに秀逸。
それに比べると「青嵐の馬」の保科久太郎は隆慶一郎の松平忠輝を彷彿させるものの、尻すぼみに終わってしまうのがやや残念。
でも、いずれの作品も読後には爽快感があります。それが楽しい。

白日の鹿/紅蓮の狼/青嵐の馬

  

6.

●「北斗の銃弾」● 

北斗の銃弾画像

1998年04月
講談社刊
(1800円+税)

2001年10月
講談社文庫化

1998/08/22

これまでの宮本作品に比べると、ひどくストーリィが込み入っているという印象。そのためか、 すんなり楽しむという風にはちょっとなりませんでした。
冒頭、主筋がよくつかめないままに、時間が過去に遡ったり、次々といろいろな人物が登場するため、だれが主人公(まあ松井音四郎なのですが)になるのかも確信もてず、早い展開に困惑してしまった、という思いがあります。
相変わらず、著名人物の若い頃を登場させるサービスは豊富。
鼠小僧次郎吉、国定忠治に始まり、終盤には後に大老となる井伊直弼が部屋住み時代の鉄三郎で登場。さらには漂流してロシアにいたり、長年の後帰国したものの幕府の幽閉状態に生涯を終えた光太夫という老人まで。
ストーリィは、やはり読んでのお楽しみ、というところなのですが、要は大名間の争いであり、夕立太平記と同様のもの。
展開のテンポの良さはいつも通り。
にもかかわらず不満が残るのは、主人公音四郎にもうひとつ魅力が欠けるからではないかと思います。

  

7.

●「影十手活殺帖」● ★★


影十字活殺帖画像

1999年06月
講談社刊
(1800円+税)

2002年06月
講談社文庫化

1999/06/27

短編尼首二十万石に続く、鎌倉の駆込寺・東慶寺を守護する忍びの裔・和三郎らが活躍する連作短編集。

東慶寺に駆け込む女たちの身を案じ、役目を超えて気遣う寺役人・野村市助と、市助に成り代わって陰働きする門前餅菓子屋の倅・和三郎は、名コンビと言って良いでしょう。その二人に加えて公儀御庭番の娘・紀乃も引き続き登場します。
「尼首二十万石」だけで終わるには勿体無い主人公達と思っていた読者の期待を、きちんとかなえてくれた一冊です。

同じく東慶寺を題材とした作品に、隆慶一郎「駆込寺蔭始末」があります。駆込寺が題材だけにどちらも男女の愛欲が話の中心になるのは当然のことなのですが、隆作品と異なり、本作品には陰鬱さだけでなく、それに拮抗するような明るさがあります。
また、各篇の主役たちにその後への希望が与えられていることに、気持ちが和まされます。

和三郎・紀乃の若い二人の爽やかさも魅力のひとつです。

血煙因縁坂/白浪反魂丹/冬霞妻敵討/忠臣徒名草/入聟菊之丞

  

8.

●「藩校早春賦」● ★★


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1999年07月
集英社刊
(1900円+税)

2002年07月
集英社文庫化

1999/08/10

宮本昌孝作品というと、これまで隆慶一郎山手樹一郎という先人を思い出すことが多かったのですが、この作品に関しては藤沢周平さんを偲ばされます。
舞台は東海にある三万石の小藩。主要人物は、徒歩組三男坊の筧新吾と、共に藩校に通う花山太郎左、曽根仙之助。それぞれ異なる個性をもった3人組、さらに新吾の隣家で幼馴染の志保が登場するとあっては、藤沢周平「蝉しぐれを思い出さざるを得ません。とはいっても、この3人、やんちゃで、無謀で、子供っぽいところがあり、性格設定の面ではよろずや平四郎活人剣にずっと近いようです。
本作品は、さしずめ時代小説版学園青春小説と評するのがふさわしいようです。
とは言っても、時代小説相応に剣戟場面もあれば、お家騒動的な陰謀・戦いも登場します。その一方で、常に3人組のやり取りには、青春小説特有の可笑しさがあり、その辺が本作品の魅力です。
清々しく、かつ楽しい、といった味わいの時代小説です。

  

9.

●「将軍の星-義輝異聞-」● 


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2000年04月
徳間書店刊
(1700円+税)

2003年05月
徳間文庫


2000/08/03

「義輝異聞」と題する4篇と、足利将軍衰退の様を描く2篇+山本勘助もの1篇という 短篇集。
冒頭2作は、足利将軍家が衰退してしまった時期、その衰退ぶりを描いた作品です。そうした状況からして当然のことながら、あまり面白いストーリィではありません。足利将軍家の没落振りを知った、というだけのことと思います。
「紅楓子の恋」の主人公となる山本勘助については、井上靖「風林火山」(武田信玄・山本勘助を描いた歴史小説)を読んで以来、やぁお久しぶり、という感じなのですが、収録作品は信玄正室・三条の方と勘助の心の繋がりを描いた短いもの。
義輝絡みの4作は剣豪将軍義輝
の外伝というもので、やはり楽しめます。上記3篇と比べて、義輝のもつ明るさにほっとします。朽木鯉九郎、浮橋、真羽等主要人物が再び義輝と共に登場している所が楽しめます。
ただし、義輝その人が登場するのは最初の2篇のみ。後の2篇は義輝死後のことであって、義輝亡き後もその残影の大きさが偲ばれるというストーリィになっています。ちょっと義輝を持上げ過ぎ、という感じがします。

前髪公方/妄執の人/紅楓子の恋/義輝異聞 丹波の黒豆/義輝異聞 将軍の星/義輝異聞 遺恩/義輝異聞 三好検校

  

10.

●「陣借り平助」● ★☆


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2000年07月
祥伝社刊
(1800円+税)

2004年04月
祥伝社文庫化



2000/12/05



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“陣借り平助”の異名をとる魔羅賀平助と愛馬・丹楓を主人公とする連作短編。

時代設定は、信玄、謙信、信長等群雄割拠の頃。名だたる合戦で常に劣勢の陣に加わり武名を高めてきたが、仕官という野心を微塵ももたないというのが、主人公の人物設定。「陣借り」というのは、そうした臨時傭兵の立場を指すらしい。
偉丈夫で秀でた剣技をもち、愛刀は将軍義輝から贈られた志津三郎、愛馬はこれまた悍馬となると、連想させられるのは隆慶一郎一夢庵風流記
前田慶次郎です。外見的にはその慶次郎に似ているようですが、豪快さという点では到底及ばないように思います。ただ、義輝以来の豪快な創造人物だけに、本作への宮本さんの意欲を感じます。

その平助が一貫として豪勇ぶりを発揮するストーリィかというと、長編ではなく連作短編であること、平助一人の魅力というより戦国史上著名な人物との邂逅・心の触れ合いに面白味があるという点で、ちょっと物足りなさを感じます。

各篇の場面と出会う相手は下記のとおり。
桶狭間:毛利新介、浅井vs六角承貞:浅井久政・長政父子、北条vs謙信:北条綱成の娘・遮那姫、川中島:山本勘介、松平vs今川:松平元康(家康)。そして平助の秘密が明らかになる2篇、という構成。
相応に楽しめる戦国時代小説であることは、確かです。

陣借り平助/隠居の虎/勝鬨姫の槍 /落日の軍師/恐妻の人/モニカの恋/西南の首飾り

 

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