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21.輪舞曲(ロンド) 22.白光 23.ボタニカ 24.朝星夜星 25.秘密の花園 26.青姫 |
【作家歴】、実さえ花さえ、ちゃんちゃら、すかたん、先生のお庭番、ぬけまいる、恋歌、阿蘭陀西鶴、御松茸騒動、藪医ふらここ堂、眩 |
残り者、落陽、最悪の将軍、銀の猫、福袋、雲上雲下、悪玉伝、草々不一、落花狼藉、グッドバイ |
「輪舞曲(ロンド)」 ★☆ | |
2023年04月
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「グッドバイ」に引き続き、実在の記憶されるべき女性を描いた作品。 今回は、新劇女優だった伊澤蘭奢(らんじゃ、本名:三浦繁)。 日本の女優第一号であった松井須磨子が演じた「人形の家」に胸打たれ、息子の佐喜雄を津和野の婚家に残して離婚。 26歳で上京、18年に「ヴェニスの商人」で初舞台を踏み舞台女優として歩み始める。松井須磨子亡き後の新劇界でトップスターとなり、28年に戯曲「マダムX」の主演で大喝采を得るが、同年脳出血で死去。享年38歳、女優としての活躍は僅か10年、という女性。 朝井まかて作品については初期の頃から、毎回楽しみにして読んできたのですが、今回は何となく余り興味を惹かれず、読んでいてももうひとつ興が乗らず、というまま読み終わってしまったなぁという感じです。そのため評価が若干低めとなりました。 と言って、私は勿論のこと、伊澤蘭奢という新劇女優のことを知っている人は少ないだろうという中で、その足跡、その人生を描き伝えた意義は十分に価値あることと思います。 ストーリィは、蘭奢本人の他、彼女と深い関わりのあった4人の男性の語りを交えて綴られます。 ・内藤民治:総合雑誌「内外」の主幹、蘭奢のパトロン・愛人。 ・福原駿雄:18歳の学生時に5歳上の人妻だった蘭奢の不倫恋人。後に徳川夢声の芸名で弁士、作家、俳優として活躍した人物。 ・福田清人:帝大生時、女優だった蘭奢の一時の恋人。 ・伊藤佐喜雄:蘭奢の息子。6歳の時に母と別れる。後に作家。 複数の人の視点から語るという構成の場合、その視点によって別の人物像が浮かび上がるということもあるのですが、本作ではそういう印象はなく、その時その時の蘭奢(イジャラン)の状況と姿が描かれているという印象です。 Nからの招待状/丸髷の細君/イジャラン/茉莉花/焦土の貴婦人/逆光線/手紙/桜の面影 |
「白 光 Byakko」 ★★ | |
2024年03月
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日本初の聖画(イコン)師となった実在の女性、山下りんの生涯を描いた力作長編。 明治初頭、「絵師になりたい」と自分の願望を貫き通して東京へ出た山下りん、浮世絵師、次いで南画師に弟子入りした処から始まり、新設された工部美術学校に入学、さらに級友の山室政子から誘われて神田駿河台にある<正教会>へ。 そして、宣教師ニコライの斡旋で、画を学ぶためサンクトペテルブルクにあるノヴォデービッチ女子修道院の聖像画工房へ。 まさに苦闘というべき変遷ですが、りんの常に葛藤している姿が印象的です。 絵を描きたい、絵師になりたいと言っても明治初頭は大きな変化の時代であってその道は平坦ではありませんし、正教徒として受洗を受けイリナという洗礼名を得たからといって信仰心に目覚めたわけではなし。 その結果が、女子修道院での対立、葛藤、孤独感・・・。 言葉が通じればまだ違ったのかもしれませんが、現地で少し教わったばかりでは意思疎通も難しく・・・。 そもそもイコンという聖画が特殊なもの。自由に描くものではなく、あくまで信仰の道具であり、芸術作品とは異なるものなのですから。 本作の主人公は山下りんに他なりませんが、同時に日本における正教会の足跡(神田駿河台のニコライ堂の歴史)もまた知ることのできるところに、意味深いものがあります。 ※本作に登場するニコライ師(1836〜1912年)、日本に正教を伝道した大主教であり、日本正教会の創建者。 序章.紅茶と酒とタマートゥ/1.開化いたしたく候/2.工部美術学校/3.絵筆を持つ尼僧たち/4.分かれ道/5.名も無き者は/6.ニコライ堂の鐘の音/終章.復活祭 |
「ボタニカ Botanica」 ★★ | |
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“日本の植物学の父”と言われる牧野富太郎(1865〜1957)の生涯を描いた伝記小説。 それだけ聞くと偉人と思うのですが、実際にその生涯を辿ると、何とまぁ・・・。 学歴といえば小学校中退。しかし、植物学への熱意は凄まじく、独学で研究・実地調査に没頭、次々と実績を上げていく。 一方、31歳で東京帝国大学理科大学の助手となるが、20年もの間助手の立場に塩漬け、50歳にして講師となりますが65歳になるまで立場はそのまま。 65歳でようやく論文を提出し、理学博士となった人物。 自分のしたいことだけに没頭し、それ以外のことは他人任せという、まるで駄々っ子のような人物。本人はそれで充足感いっぱいなのでしょうけれど、その煽りで苦労させられる人は堪ったものではありません。 家賃を滞納して追い出され住居を転々とすること、書物や標本まで差し押さえられるということが度々、というのですから。 妻となりながらもほったらかし状態で金だけは無心される従妹の猶、その後富太郎の妻となるスエ(壽衛)にしても、その苦労と富太郎に対する献身ぶりはもう、痛ましく感じてならない程。 そんな人物だから大きなことを為し、また日本の植物学発展に大いなる貢献をしたと言えるのでしょう。終わりよければすべて良し、と言いますが、それで猶やスエ、子どもたちの苦労が無くなる訳でもなし。 それでもスエや子どもたちが富太郎を見捨てることはなかったのですから、どこかに人徳あるいは愛嬌があったのでしょう。 波乱万丈の人生を描く一方、日本の植物学の足取りを知ることができる作品でもあります。 それにしてもまぁ、牧野富太郎、何と呆れた人であったことか。 その稀有な人物を朝井さん、見事に描き抜いています。 ※借金の名人というと内田百が頭に浮かびますが、牧野富太郎の借金状況ははるかにスケールで上回っていたのではないか。 1.岸屋の坊/2.草分け/3.自由/4.冬の庭園/5.ファミリイ/6.彷徨/7.書読め吾子/8.帝国大学/9.草の家/10.大借金/11.奇人変人/12.恋女房/13.ボタニカ |
「朝星夜星(あさぼしよぼし)」 ★★ | |
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幕末〜明治という時代に夫婦二人で日本で初めての洋食屋を開業するというアットホームなストーリィかと思ったのですが、とんだ思い違い。 長崎で日本初の洋食屋を開業。その後、五代友厚の勧めもあって大阪に進出してレストラン&ホテル<自由亭>を開業、西洋料理人の立場から日本側要人の西欧人との取引や政治交渉を支援した草野丈吉の事績を、妻であるゆきの視点から描いた近代史ストーリィ。 したがって単なる西洋料理人、洋食屋どころではありません。最初こそ身近な苦労譚であったものの、大阪へ進出してからは一人の傑出した実業家の姿です。 ただし、その姿からは夫婦が力を合わせてという感じではなく、丈吉が勝手に一人でどんどん遥か先を突っ走っていき、ゆきはそれの後から丈吉が取りこぼしていく問題を拾って懸命にこなしていく、という印象です。 おまけに何時の間にか芸妓の愛人までこしらえてと、現代だったら問題になりそうな亭主ぶりですが、まぁ明治初期のことですからねぇ。 とんでもなくスケールの大きな、時代のうねりを感じさせられるストーリィでした。 五代友厚だけでなく、海援隊、後藤象二郎、岩崎弥太郎、陸奥宗光等々、歴史に名を遺した人物の登場は引きも切りません。 西洋料理という面から、幕末から明治にかけた一つの歴史を知った思いです。実に読み応えがありました。 1.しゃぼん/2.ぶたのらかん/3.自由亭/4.来訪者たち/5.明治の子/6.肩の荷/7.大阪開花/8.天皇の午餐会/9.故郷/10.二人づれ/11.流れる星の音/12.星々の宴 |
「秘密の花園 The Secret Flower Garden」 ★★ | |
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題名からは必然的にバーネット作品を連想してしまうのですが、本作は同作と似ても似つかぬ時代小説、それも「椿説弓張月」や「南総里見八犬伝」の作者である曲亭馬琴の、苦闘に満ちた生涯を描いた長編です。 なお、今まで私はつい「滝沢馬琴」と記載していたのですが、間違いだったようです。 本名が「滝沢興邦」、後に「解(とく)」。そして、ペンネームが「曲亭馬琴」とのことですから。 曲亭馬琴の生涯を描いた作品を読むのは、本作が二度目。 最初に読んだのは、森田誠吾「曲亭馬琴遺稿」。もう30年以上前ですからもはや記憶はあやふやですが、本作より評伝的な印象が強かったように思います。 書き手の違いということもありますが、時代の違いということもあるでしょう。 本作で印象に残ったポイントは、 ・馬琴が読本作家の名声を確立する迄の、人との出会い、 ・馬琴の波乱が多かった家族物語、 ・武家生まれとして、滝沢家の士分復活に拘っていたこと、 でしょうか。 特に彼らとの出会いなくしては、読本作家・曲亭馬琴もあり得なかっただろうという点で、山東京伝、蔦重こと蔦屋重三郎との関わり部分は最も見逃せないところです。 一方、当時の作家事情、出版事情も窺える処も見逃せません。 代表作である「南総里見八犬伝」は、28年(1814〜42年)をかけて完結した全98巻、106冊の伝記小説の大作。 これだけ長大な読本を出版した当時の事業力を思うと、江戸時代の文化力が極めて高かったことを改めて感じます。 ※なお、「南総里見八犬伝」、読んでみたいと思ったことはあるものの実行できず、平岩弓枝さんの要約版を読んでのみです。 1.ある立春/2.神の旅/3.戯作者/4.八本の矢/5.筆一本/6.天衣無縫/7.百年の後 |
「青 姫」 -- | |
2024/10/-- |
近日中に読書予定 |
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