平岩弓枝作品のページ


1932年東京都生、日本女子大学文学部国文科卒。長谷川伸、戸川幸夫に師事し、59年「鏨師」にて直木賞、91年「花影の花」にて吉川英治文学賞、98年菊池寛賞を受賞。また、TVドラマの脚本も多く、79年NHK放送文化賞、87年菊田一夫演劇賞大賞を受賞。

 
1.
御宿かわせみ

2.はやぶさ新八御用帳(一)・大奥の恋人

3.はやぶさ新八御用帳(ニ)・江戸の海賊

4.五人女捕物くらべ

5.南総里見八犬伝

6.魚の棲む城

 


 

1.

●「御宿かわせみ」● 

 

1979年03月
文春文庫

2004年03月
文春文庫
新装版

  

1992/10/18

人気の高い“御宿かわせみ”シリーズの第1作。
一応は読んでおこうかと、読んだ次第。

江戸情緒という点では池波正太郎作品に比べ物足りない思いがありますが、真に女性作家らしい作品。
まず登場人物が制限されていて、ひとりひとりの登場人物が細やかなタッチで描かれています。
るいの、東吾に対する以前からの思慕。それ故に父親が死んだ後も養子を迎えず、家を閉じて町方へ移り住んだこと。
折に触れて描かれる、東吾への想い。すべて女性ならではの味わいだと思います。
本シリーズの人気はその点にあると思います。

※本シリーズ既読作品
 「幽霊殺し」「水郷から来た女」

    

2.

●「はやぶさ新八御用帳(一)・大奥の恋人」● ★★


はやぶさ新八御用帳(一)

1989年10月
講談社刊

1992年11月
講談社文庫

 

1993/09/19

面白かった。良い恋愛小説を読了した後のような味わいが残ります。この後味は、平岩作品の特徴かもしれません。
御宿かわせみは一応捕物帳ですが、捕物帳の面白さよりむしろ主人公と船宿のおかみ・るいとの恋人関係に魅力がある、といったシリーズ。それに対し、本シリーズは本格的推理小説の面白さが魅力。
もっとも第1作目の本書は、新八とお鯉との恋も大きな見所となっています。

隼新八郎は南町奉行の内与力。その隼家に女中奉公していたのがお鯉
母親の死後、新八郎が親友の妹・郁江を娶ることになったため、お鯉は奉公を退くことになります。その時になって初めて新八郎はお鯉に対する自分の気持ちに気付く。お鯉もまた新八郎を想っていたのですが、時既に遅し。お鯉は新八郎の元から去っていきます。それもあって妻の郁江との関係は今ひとつしっくりいかないという設定ですが、特に非がある訳でもない郁江の側としては良い面の皮。この三角関係、この先どう展開していくかという点も、本シリーズに惹かれるところです。
ストーリィは大奥をめぐるミステリ。お鯉が密偵となって大奥に潜入することとなり、再登場。
私としては、新八よりもお鯉に魅せられる作品です。

※NHK金曜時代劇では、新八が高島正伸、お鯉が有森也実という配役。この有森也実さんも私の好きな女優の一人です。

 

3.

●「はやぶさ新八御用帳(ニ)・江戸の海賊」● ★★

 
はやぶさ新八御用帳(二)
  
1989年12月
講談社刊

1993年09月
講談社文庫

 
1993/09/26

この“はやぶさ新八御用帳”シリーズ、大奥の恋人といい本作品といい、思っていた以上に面白い。
時代小説ではあっても謎解きというミステリ本来の筋立てがしっかり守られていて、本格的推理小説といって何の遜色もありません。

また、本書については“江戸の海賊”という題名自体、何だそれは?と惹きつけられます。その発想もなかなか豊かです。
ストーリィも、お家騒動、味方と思っていた人物たちが実は敵方だったり、黒幕は思わぬ人物だったりと読み応え充分。さらに、事件背後の筋立ても相当に念が入っていて、存分に面白い。

女性作家作品かつ時代小説というと軽く考えてしまうかもしれませんが、安易に考えていると評価を誤る作品です。

※本シリーズ既読作品
 「又右衛門の女房」「御守殿おたき」「鬼勘の娘」

  

4.

●「南総里見八犬伝」● 


南総里見八犬伝

1993年04月
中央公論社刊



1995年09月
中公文庫化



1993/06/13

「南総里見八犬伝」といえば、今更言うまでもなく滝沢馬琴によって書かれた江戸時代の作品ですが、私にとってはTVでの思い出のほうが深い。
最初はTVの連続時代劇ドラマ、次いで辻村ジュサブローさんのNHK連続人形劇。特に後者については熱中して観ていました。
物語に熱中したからにはさあ次は原作を!といきたいところですが、そう簡単に手が出せる原作でもない。
一度は本で読んでみたいとずっと思っていたところに出たのがこの本、すぐ飛びつきました。あの大作を一冊で読めてしまうのですから、怠け者には有り難い作品です。

ストーリィを大まかに言ってしまうと、かつて処刑した女の怨霊に祟られた里見藩の危機を、伏姫の子(?)の八犬士がうち揃って救うという伝奇小説。

以下は主な登場人物ですが、物語の最初に登場するのは、
里見義実
伏姫、愛犬の八房玉梓金マリ大輔(後のチュ大法師)という面々。
そして本編に入って順次登場してくるのが、
犬江親兵衛仁・犬川荘助義任・犬村大角礼儀・犬坂毛野胤智・犬山道節忠興・犬飼現八信道・犬塚信乃戍孝・犬田小文吾悌順
という、「仁義礼智忠信孝悌」いずれかの一つの玉を持つ八犬士の面々。

まずはこの作品のおかげで、一通りのストーリィを知ることができました。

※なおこの作品は、人と犬との獣姦小説と見る向きも途絶えず、春画に「佐世姫」として描かれたり、話題に事欠かない作品だったようです。

 

5.

●「五人女捕物くらべ」● ★☆



1994年03月
講談社刊

(上下)

1997年06月
講談社文庫
(上下)

 

1994/05/29

正体不明の若侍+若い娘のコンビによる捕物帳。
5人の若い娘が入れ替わり主人公の若侍とコンビを組んで事件を解決する、連作短篇ものとうその構成に、いとも簡単に惹きつけられました。

5人の若い娘は、売れっ妓の太公望おせん、大店の一人娘でかつ女主人である琉球屋おまん、女役者の七化けおさん、猫調教の家柄である猫姫おなつ、住職の養女である花和尚お七と、キャラクターも多彩。
その5人の中でもとりわけ魅力を感じるのは、琉球屋おまんと猫姫おなつ。特におなつが活躍する2篇は、思わず興奮する面白さがあります。
最後で主人公・本多忠吉郎の身許が明らかにされますが、それと共にその縁談相手も登場。
5人の内の誰かということではなく、その外に忠吉郎の定まった相手を配する辺り、平岩さんの5人の娘に対する公平な心配りを感じます。
やはり人生は平凡なもの、という落ちも言い得て妙。

 

6.

●「魚の棲む城」● ★★


魚の棲む城

2002年3月
新潮社刊

2004年10月
新潮文庫
(781円+税)



2004/10/23



amazon.co.jp

第10代将軍・家治の時代に、側用人・老中として幕府財政の建て直しに挑んだ田沼意次を主人公とする歴史長篇。
この田沼意次、これまで「賄賂政治」とか言われて必ずしも評判は良くない。ただそれは、田沼時代の後に幕府の実権を握った松平定信が、ことごとく意次の反対政策を行ううえで、ことさらに意次を貶めた所為ではないか。その観点から、田沼意次を再評価する向きもあるようです。

本書はその田沼意次を、凛々しく、爽やかな人物として描き出しています。ただし、本書の魅力はその新しい意次像だけでなく、意次に2人の幼馴染を配した点にあります。
3人は同じ本郷御弓町の旗本の家に育ちますが、今や龍助は幕府内の出世頭、もう一人の龍介は札差・坂倉屋の婿養子、お北は廻船問屋・湊屋の若女房という三者三様の境遇。この2人が意次を生涯にわたって支え続けていきます。いわば幼馴染3人のストーリィと言えますが、それにより公人、私人2つの視点からみた意次像が見事に浮かび上がっています。

秀でた先見性に基づく重商主義政策、外国貿易に対する開放政策等、意次のとった政策を知るだけでも結構面白い。
その一方で、良識も忘れて恋に突き進んでしまう意次もいるのですから、一旦読み出したら止まらない面白さ。
爽快かつ新鮮な歴史小説で読み応え充分。お薦めです。

なお、本書題名は、海の向こうから様々な魚が入ってこれるような場所を作りたいという、意次の願いを表わしたもの。

※田沼意次を良く描いた作品に池波正太郎「剣客商売」、悪く描いた作品に米村圭伍「退屈姫君伝」があります。

 


   

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