---えどめぇるまがじん--- 

TOKIO江戸めぐりの旅・バックナンバー
その1
池袋〜巣鴨駅付近   
その2
巣鴨駅前〜白山上
その3
白山上〜団子坂下付近   
その4
団子坂下〜千束
  
  
 
      

路線バスジフ

TOKIO江戸めぐりの旅
 都バス 草63系 ― その3

<取材・文:福島 朋子>


 さて、今回は、前回に引き続き、のらりくらりと草63系都バスに揺られて、団子坂下を中心にお江戸に絡むものを探してきました。今が盛りの根津神社「つつじ苑」の模様や、謎の大名時計博物館、江戸千代紙の「いせ辰」など、さらに今回はちょっと路線を脱線して創業300年を超える豆腐料理の老舗「笹乃雪」にも足を延ばしてみました。お散歩には絶好のシーズン、皆様もぜひ、小江戸探索に足を運ばれてはいかかでしょうか。 バス地図ミニ 今回のバスルート
クリックすると拡大図が見られます
ツツジが見頃の根津神社
 「白山上」からバスに乗ること二駅。「千駄木一丁目」で下車し、団子坂方面に歩くこと3分、右手に見える森鴎外記念図書館の先を右折し藪下通りをぶらぶらとのんびり10分くらい歩くと、「根津神社」に到着します。
 この根津神社はもともと日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の際に勝利を祈願して、千駄木の地にスサノオノミコトを祀ったのが始まりとされている神社。現在、根津神社のある場所が六代将軍・徳川家宣の生誕の地であったことから、1706年(宝永3年)に産土神(うぶすながみ)として千駄木から現在地へと遷宮し、現在の社殿となっているもの。なので、境内のいたるところに家宣ゆかりの史跡や品々を見ることができるのです。
 それは後ほど紹介するとして、まず、この根津神社で今の時期、最も見所となるのが、咲き乱れる見事なツツジの姿。境内の西側の斜面に、50種3000本以上の色とりどりのツツジが咲き、5月5日までは屋台も立ち並んで、にぎやかな「つつじ祭」が開催されています。
 どうです? この気分も華やぐツツジの丘。緩やかな傾斜に沿って、赤、白、ピンク、色とりどりのツツジが一斉に咲き誇る様子は、周りの緑とあいまって、ロマンティックな気分に浸れます。5月5日頃にピークを迎えるそうなので、ダッシュでおでかけいただくと、もしかしたら見頃に間に合うかもしれません。ただし、ゴールデンウイークだけで、70万人もの観光客が訪れるというから、落ち着いた雰囲気でツツジを愛でたいという方は、少しピークは過ぎますが、連休以降の平日を狙った方が無難かもしれません。
 
根津神社門 「根津神社」
東京都文京区根津1-28-9
ゴールデンウイークはこの通り、人・人・人!

ツツジ1

ツツジ8. このときは、まだ一分咲きくらいのため、かなり緑が残っていますが、満開になれば、それは素敵なツツジの小径ができあがります。入場料 300円(大人)

徳川家宣がくるまれていた羊膜と胎盤が眠ってる!?
 家宣ゆかりのものを探してみると、面白いものが見つかりました。それは「家宣胞衣(えな)塚」。胞衣とはなんだかおわかりになるでしょうか? 文字を見るとなんとなく想像がつく方もおられるかもしれませんが、正解は胎児を包んだ膜(羊膜)と胎盤のこと。昔から、胞衣は大切に扱われ、例えば熊野では大石の下に納められ、関東では家の床下や入り口の敷居の下に埋められたという民間伝承があり、母胎の安全や子供の健やかなる成長を祈る風習であったとされています。上流階級では、塚を築くことが早くから行われて、愛知県の岡崎には徳川家康の胞衣塚が残っているのだとか。この家宣の胞衣塚は、他の徳川家のものに比べ、形式が素朴であるため、将軍の塚ながら、庶民の民俗理解のための貴重な史跡とされています。かつて、お産は命をかけるものであり、子供の死亡率も高かったことから、このような風習が生まれたのでしょうか。
 このほか、根津神社の敷地内には、家宣が産湯に使ったとされる井戸も残っているそうです(非公開)。
 
塚 平たい岩が何枚にも重ねられた「胞衣塚」。この下に、家宣の羊膜と胎盤が埋められているとされています。
大きなのっぽの「大名時計」♪
 さて、つつじ祭で大にぎわいの根津神社を後にして向かったのは、江戸時代、大名のお抱え御時計師が長い年月をかけて作り上げた時計、いわゆる「大名時計」を集めた「大名時計博物館」です。根津神社から不忍通りに出て向かい側にある「あかじ坂」を登りきって右折すると、「大名時計博物館」の小さな標識が見えてきます。
 実はここ、陶芸家の故・上口愚朗氏が私的に収集した品を勝山藩の下屋敷跡に展示しているもので、規模はそれほど大きくありません。しかしながら、それがかえって楽しい!
 立派につくられた博物館に入館するのとは異なり、民家の中を探検していくような味わい深さがあります。どうですか? この重厚な木戸の向こうに緑が生い茂っているという構図。江戸川乱歩の世界といったところでしょうか。
 残念ながら、展示室の中は撮影禁止で雰囲気をお伝えすることはできないのですが、この外観の雰囲気を味わうだけでも、価値あり! というおもしろ博物館です。
 展示室内には、大名時計のほか、外国製時計、明治・大正時代の日本製時計など東京都有形指定文化財に指定された88点が展示されています。江戸時代はご存じの通り、24時間の定時法ではなく、夜明けから日暮れまでの昼を六等分、日暮れから夜明けまでの夜を六等分した不定時法が用いられており、昼と夜の長さが季節によって変わるため、一時(いっとき)の長さが変わっていました。現在では複雑とも思えるその時間感覚を時計に反映させているため、大名時計は、世界でも類のみない日本独自の「和時計」として発展したのです。江戸初期には、昼用と夜間用のおもりをひとつの時計に取り付け、自動的に切り替える技術などもあったようです。
 また、大名時計は、美術工芸品としての性格ももっているので、細かな手作業の細工を見るのもなかなか楽しいもの。近くまで散歩した際には、ぶらりと立ち寄られることをおすすめいたします。

 
大名1「大名時計博物館」
東京都台東区谷中2-1-27
TEL03-3821-6913
入場料300円(大人)
この古くさくてりっぱな木戸。これが逆に「雰囲気」を醸し出しています。

大名時計
最初期の櫓(やぐら)時計。
文字盤の丑、未、申……。そして七(つ)、八(つ)、九(つ)……の表示が江戸の風情を実感させてくれます。
数少ない手漉き和紙の店「いせ辰」
 次に、大名時計博物館から10分ほど歩いて、三崎(さんさき)坂に到着。この坂の千駄木駅近くには、江戸千代紙で有名な「菊寿堂いせ辰」があるのです。現在はさまざまな手刷りの千代紙や招き猫や金魚の絵はがきなど、千代紙を用いたかわいいグッズが並んでいますが、本来は、東京に残る数少ない手漉き和紙のお店。初代・辰五郎が江戸日本橋堀江町の団扇問屋伊勢屋からのれん分けをしてもらって起こしたのが始まりです。
 関東大震災で、千代紙の木版がことごとく消失してしまったらしいのですが、その後、約一千種の千代紙木版を復活させています。その木版も第二次世界大戦で損傷を受けるのですが、疎開させてあった木版を用い、現在の商品へとつないでいるのだとか。
 私も絵はがきを一種買ってきました。どうでしょうか? 金魚と鯉の泳ぐ涼しげな一枚。年配の方へのちょっとしたお礼状などに送ろうと思っています。
 さて、このいせ辰を出て千駄木駅方向に向かうと、団子坂下のバス停に到着。今回はここで終了……と思いきや、実は今回大脱線レポートがあるのです。というのも、根津神社の先の「言問通り」沿いに創業300余年を誇る、豆腐料理の老舗「笹乃雪」があるということで、せっせと歩いて探していたのですが、なんと見つけた場所はもはや鶯谷! この旅のルート、草36系とは異なった路線のバス停3駅分を歩いてしまっていたのです。ですが、ですが、せっかく行ったのだから載せないことにはもったいない! ということで、番外編として、次に「笹乃雪」をご紹介しちゃいます。
 
いせ辰1

いせ辰2「いせ辰」
東京都台東区谷中2-18-9
TEL03-3823-1453
大きな大きな羽子板が目印。江戸っぽい千代紙を用いたグッズが並んでいます。

  

  千代紙
 金魚と鯉の泳ぐ涼しげな絵はがき300円也(2枚入り)
創業300余年の豆腐料理の名店「笹乃雪」
 正直に白状いたします。笹乃雪に行くには、都営バス「上26系」の「根津駅前」から乗車し、3駅先の「下谷二丁目」で降りなければならないほど、遠かったです。この距離、私はとぼとぼ歩いてしまったわけですが、優に30分はかかりました。あははは(泣)。
 やっと到着した「笹乃雪」ですが、店ののれんをくぐると、広い玄関に番頭さんなんかがいらっしゃって、ちょっと高級そうな装い。このお店は元禄四年(1691年)に百十一代後西天皇の親王「上野の宮様」のお供として江戸にやってきた初代・玉屋忠兵衛が、江戸で初めて絹ごし豆腐を作り、豆腐茶屋を根岸に開いたのが始まりとされています。
 なんと言っても、ここの特徴は当時の製法そのままに、にがりのみを使用した昔ながらの豆腐を食べさせてくれること。この日は休日だったため、残念ながらお得なランチセット(1.500円)がなく、朝顔セット(2.500円)なるものを頼みました。主な内容は、生笹乃雪(冷や奴)、あんかけ豆腐、ごま豆腐、湯葉料理、うづみ豆腐(豆腐茶漬)、豆腐アイスクリームといったもの。なぜか、あんかけ豆腐は一人前に2椀ずつついてきました。なぜに? と思い、お店の方に伺うと、こんないわれを教えてくれました。
 創業当時、笹乃雪ではあんかけ豆腐一品のみを扱っており、新しいもの好きの江戸っ子たちは初めて食べる、あんかけの絹ごし豆腐を競って食べ、何杯も椀を重ねたとか。上野の宮様がお店にいらしたときも、大変おいしいということで、「これからは2椀ずつもってくるように」とのお言葉がかかり、それ以来、こちらでは2椀ひと組であんかけ豆腐を出すことが習わしになっているとのこと。お味としては、だしのきいたあんの味もよく、ちょっとたらした芥子(からし)がきいて美味しかったのですが、そのへんのものとは明らかに違う濃厚な豆腐の風味を味わうのであれば、冷や奴の方が向いているように思いました。
 ほんとうにこれでもか、といったぐらいの豆腐づくしを堪能したコースでした。平日のランチコースも、豆腐アイスがついていないくらいで、朝顔コースと品数もあまり変わらないため、この老舗の豆腐料理を味わいたい方は、ぜひ平日のランチにおでかけください。

 さて、大脱線をしてしまった江戸めぐりの旅。次回こそは、気をひきしめて浅草へと駒を進めることといたしましょう(ほんとかな〜)。

 
笹の雪外観「笹乃雪」
東京都台東区根岸2-15-10
TEL03-3873-1145
ちょっと高級そうな雰囲気ですが、平日のランチはお得感があっておすすめ!

豆腐1一番左手が冷や奴、そして奥に二つ並んでいるのがあんかけ豆腐。
豆腐2奥がごま豆腐、手前が湯葉料理。ごま豆腐はとってももちもちしていて、豆腐というよりは、なんだかおもちのような食感でした。もちろん、ごまの味も濃厚です。
豆腐3 うづみ豆腐(豆腐茶漬)
しょうゆベースで味付けし、細かく細かく賽の目切りにした豆腐を、ご飯の上にかけたお茶漬です。豆腐が割合硬めのため、細かくても存在感がありました。私はコース料理の中で一番気に入ったかも!


豆腐4 豆腐アイスクリーム
とっても豆腐の味が濃厚。甘みが抑えめでコース料理を食べておなかいっぱいになった後でも、別腹にすす〜っと入ってしまいました。

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