---えどめぇるまがじん--- 

TOKIO江戸めぐりの旅・バックナンバー
その1
池袋〜巣鴨駅付近   
その2
巣鴨駅前〜白山上
その3
白山上〜団子坂下付近   
その4
団子坂下〜千束
  
  
 
      

路線バスで行く! TOKIO江戸めぐりの旅 第1回
 都バス 草63系 ― その1

<取材・文:福島 朋子>


さあ、始まりました、路線バスで行く江戸めぐり! 第一回目は「都バス 草63系」に揺られて、池袋〜巣鴨駅付近までをぶらり探索してまいりました。このあたりは下町ほどではないにしろ、気をつけて歩いてみれば、意外と小さな江戸の名残が見つかります。
行き当たりばったり、脱線大ありの江戸めぐりですが、皆さまに少しでも新たな発見を楽しんでいただければ幸いです。それでは、いざ出発!
バス地図ミニ 今回のバスルート
クリックすると拡大図が見られます
今も昔も危険地帯の池袋!?
 「都バス 草63系」の出発口となる池袋東口バス停。実は私、池袋が地元なのですが、このバス停がどこにあるのかわからずウロウロしていると、ありました、ありました。東口パルコの前に目指すバス停が。
 目の前には三越とUFJ銀行のビルが建ち並び、どうにもこうにも江戸なる雰囲気は感じられません。しかし、この喧噪極まりない池袋駅前の遊歩道に、享保年間(1716〜1736年)に作られた「四面塔」と呼ばれる供養塔が現存しているのをご存じでしょうか?
 元は現在の西武デパートとパルコの間あたりにあったのですが、今は「P' PARCO」の横、池袋駅前公園内に移されています。享保の頃、この池袋駅前付近は雑司ヶ谷と池袋の中間で、雑木林が茂る人家のない寂しい参道だったとか。そのため、通行人が強盗や追いはぎに遭っては殺されるという事件が多発したようで、そんな被害に遭った人々の菩提を弔おうと建てられたのがこの塔なのだそうです(「道しるべ」であったとする説も)。この界隈、今となっては賑やかな歓楽街になっているわけですが、考えてみると、事件多発地区であることは江戸の昔と変わらない……(笑)。『警視庁発24時』なんていうTVの特番には必ず顔を出す界隈ですからね。この街に暮らす私としましては、「昔むかしの供養塔」などとないがしろにするわけにはいきません。しっかりと手を合わせ、ここを後にしたのでした。
 
池袋東口 さあ、パルコ前から出発!

四面塔 「四面塔」:正面には「南無妙法蓮華経」の文字が。右側面には「享保六年」(1721年)と刻まれています。

巣鴨に残る江戸の香り
 さて、池袋を出発すると、バスは豊島区役所前を抜け、明治通りから白山通りへと入っていきます。そして、到着したのが「新庚申塚」。ここは有名な「とげぬき地蔵」に行くのにうってつけの停留所です。次の「巣鴨四丁目」で降りたほうがとげぬき地蔵のある「高岩寺」には近いのですが、昔ながらの店が並ぶ「地蔵通り商店街」をゆったりお散歩したいと思うなら、この「新庚申塚」で下車するのが断然、おススメです。
 
  
お地蔵さま&菊
悪事をしたら「庚申塚」で夜明かしを!!
 地蔵通りに突入する前に立ち寄っておきたいのが、入り口の左手にある「巣鴨庚申塚」です。ここは江戸時代、中山道の休憩所として賑わった場所で、明暦3年(1657年)に建てられた「庚申待供養板碑」が現存しています。大通りや商店街に面しているので、昼間は騒々しい場所なのですが、一歩境内の中に足を踏み入れると、温度が幾分低いような、不思議と空気が澄んだ感覚になるのはどうしてなんでしょう。草木が小さな境内をぐるりと取り囲んでいるからでしょうか。なんか落ち着く。うふ。
 まあ、それはよいとして、「庚申塚」の由来となった「庚申(こうしん)信仰」について、ちょっと学習しておきたいと思います。この「庚申信仰」は中国の道教で説く「三尸(さんし)」説がもとになっているようです。この「三尸」というのは、人の体内に住む虫のこと。「庚申=かのえさる」の日の夜、人が熟睡していると、わざわざ天に昇って閻魔様のお仕えの者にその人の悪事を報告するという、ちょっと小ずるいお仕事をしているヤツです。そして、恐ろしいことに、こいつに悪事を報告されると、小さな罪で3日、大きな罪になると300日も命を削られてしまうのだとか(うそでしょう!?)。
 庚申の夜ごと徹夜をしていれば、「三尸」が天に昇って人の悪事を告げることができず、長生きをすることができる。これが庚申信仰の正しいところのようです。
 日本では江戸時代になるとこの信仰が広く庶民に広まり、「庚申様」を拝んで夜を過ごす「庚申待(こうしんまち)」という行事になったそうです。
 なるほど、そういうことなんですね。それにしても寝ている間に自分の悪事をバラされるとは恐ろしい。人間誰しも「おいた」の1つや2つしているもの。またしても、しっかりと手を合わせておきましょう。
 
庚申塚「巣鴨庚申塚」:この塔に奉られている石碑は実は二代目。初代は文亀2年(1502年)に作られています。初代の石碑は、「明暦の大火」時にこの地に復興資材が集まり、庚申塚に立て掛けていた材木が倒れ、砕けてしまったのだとか。砕けた石碑は、今も塚の下に埋められているそうです。

江戸名所図敷地内には江戸当時の「巣鴨庚申塚」が描かれた「江戸名所図会」の石版もありました(もちろん、石版自体は最近になって作られたもの)。

30年苦心の末の「いきなり万十」
 庚申様へお願いしたところで、かの有名な「地蔵通り商店街」を歩いてみました。何か面白いものは? とうろついていると「いきなり万十」と書かれた派手なのぼりを発見。江戸とは、まったくもって関係ないのですが、思わずつられて1つ購入。店先で味見と称していただくと、なんだか、餅のようなモッチリとした感触。中のこしあんも甘すぎることなくスッキリとした味わい。実は甘いも物も揚げ物も苦手な私ですが、きちんとおいしくいただけました。
 しかし、なぜに甘い物も揚げ物もダメな私がこのお店に引き寄せられたのか……。実は一心不乱に饅頭を揚げている店主のおじさまの表情に引き寄せられたから、というのが真相。もしや生粋の江戸っ子では? と声をかけてみると、残念ながら、元は熊本の方。しかし、饅頭にかけるこだわりはお見事です。もともと飲食業とは関係ない仕事をされていたのに、饅頭に魅せられ、30年の試行錯誤を経てこの饅頭を完成させたのだとか。無農薬の小麦粉を使い、皮と小豆のバランスなど研究に研究を重ねた結果、たどり着いたのが、この饅頭。「一財産なくしたね」という店主の心意気に惚れ、思わず紹介させていただいちゃいました。
 
饅頭店主饅頭にかけ30年! 見事です。
饅頭店舗派手な「いきなり万十」ののぼりが目印。 あげ饅頭サンプル*皮が普通の饅頭とちがってモチモチ! 千両箱の軽子
とげぬき地蔵で「心のとげ」よ、さようなら
 さてさて、そうこうして歩いているうち、地蔵通りも半分を過ぎたあたりに見えてくるのが「高岩寺」、いわゆる「とげぬき地蔵尊」です。
 「高岩寺」では、病のとげを抜いてくれるというご本尊様のほかにも、具合の悪いところを洗うと効き目があるといわれる「洗い観音」が有名で、この日も長蛇の列をつくって年配の方々が観音様を洗っていました。私は具合の悪い場所というと、頭の中身やらプロポーションやら、ちょっと一カ所では済みそうにな〜い。あまり強欲になるのもどうかと思い、観音様を洗うのは遠慮していたら、一人の初老の男性がなにやら私に声をかけてきてこう言うのです。「あなたみたいな若い人も来るのか……でもそうだよね、私だって心のとげを抜きにきているのだから……」そうか! そうなんです。この「とげぬき地蔵」は病のとげばかりではなく、心のとげを抜くのにも御利益があるのです。
 「心のとげ」なら私も抜きたい! とばかりに、初老の男性にほほえみ返すと、ご本尊様に丁寧にお参りをし、「御影」と呼ばれるお地蔵様の印影を購入したのでした。
 
高岩寺「高岩寺」:とげぬき地蔵という名は、江戸時代、小石川の田付又四郎という武士が、夢に現れたお坊さんの「地蔵菩薩の印像をもとに印影を作って川に流せ」という言葉に従って妻の大病を治し、また誤って折れ針を飲み込んだ女性にこの印影を飲ませたところ無事吐き出した、という逸話に由来しているのだとか。
親孝行 
とげぬき御影「御影」:「御影」なるものを開けてみると、そこにはお地蔵様が描かれた薄紙が5枚ほど入っていました。これを飲めば心のとげも吐き出すことができる!? 思わず1枚ためしに飲んでみたけれど。結果のほどは……? 残念ながら、この原稿を書いている、今のいま、試してみたので、まだ御利益のほどはわからな〜い。さあ果たしてどうなるのでしょう。 洗い観音「洗い観音」には行列ができていました。
  
江戸の味を再現「大江戸べったら」
 地蔵通り最後の話題は、地蔵通りの最も出口付近(巣鴨駅付近から行くと入口ですが)にある漬物屋の「河村屋」さんで見つけた「大江戸べったら」。これは大根1本を丸ごと使ったべったら漬け。なぜなぜ大江戸なの? とネーミングに惹かれて立ち寄ったところ、実はこの「河村屋」さん、江戸後期の文化文政期(1804〜1830)創業という老舗のお店だったのです。
 この「大江戸べったら」は江戸の味を再現したという季節限定の一品。本糀(ほんこうじ)と純粋な砂糖、塩、みりんのみを使い、自然の甘さを引き出した商品だとか。試食をさせてもらうと、たしかに嫌みな甘さがなく、歯触りもみずみずしくておいしかった。ああ、小さな江戸を見つけられて幸せ。

 さあ、これで地蔵通りは終了、次は「巣鴨駅南口」から再びバスに乗り、またまた江戸を探して右往左往、ほんとに浅草にはいつ到着するのでしょうか……。でもまあ「お気楽、極楽」のんきにぶらりと歩いてみるのがこの企画の趣旨。皆さま、よろしければおつきあいくださいませ。それではまた次回。風の向くまま、気の向くままに……。

 
河村屋外観江戸後期文化文政期創業の「河村屋」

江戸大根「大江戸べったら」(680円):季節限定品ということなので、試してみたい方はお早めにお訪ねください。

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