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ショート・ショート
(ストリートチルドレンとの会話)


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 サモサ(お菓子)のお金をねだる少年(14歳)との会話

「5ルピーだけだから、お願い!」
「お金は持っていないの?」
「全然持ってない。だから5ルピーちょうだい。お腹がとても空いているんだ。」
「じゃあ、プラスティックを集めてお金を稼げばいいじゃないか。」
「働く気がしないんだ。」
「どうして?」
「マリファナを吸ったから、動く気がしない。」
「どうしてマリファナを吸うの?」
「マリファナを吸うととても元気が出て体が温かくなるんだ。でも、吸っていたときのことは、後から思い出せない。全部忘れてしまう。」
「マリファナはやめたほうがいいよ。」
「でも、マリファナを吸わないと寒くて夜が眠れない。」
「ねえ、お願いだから5ルピーちょうだい。」
 このとき、彼は1時間近くこんな話を繰り返した。数日前、彼らは警察からゴーサラのバス停を追い出され、広場に植わっている細い木の下にみんなで集まって眠っていた。彼らの毛布も公園事務所によって焼却されてしまい、身ひとつで丸くなって眠るしかなかった。しかも雨が降るとその場所では眠れず、近くの商店の軒下で雨宿りするしかない。苛酷な環境のなかで、彼はマリファナをやめられない。

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 風邪で熱のあるスンダール(11歳)と友達のラジャン(12歳)

ふたり「夜がとても寒いからジャケットが欲しい。」
ラジャン「古着なら30〜40ルピーであるから。」
 夜の寒さはまだまだ厳しいのに、ふたりともたった1枚のシャツで過ごしている。
 僕はスンダールの風邪も心配だから彼らのいう古着屋へいくことにした。しかし時間が遅く、もう露店の古着屋は帰ったあとだった。それでもまだラジャンはジャケットがほしいと肩を落としている。
「じゃあ、この服を明日まで貸そう。そして明日また服を見ればいい。」
 僕が提案すると、スンダールが手を振ってこう言った。
「ノー。僕たちが着ると服は1日で汚れてしまう。もう、着れなくなってしまうよ。」
「そんなの、洗濯すれば大丈夫だよ。」
「だめ。洗っても落ちないくらい汚れるよ。それにそんな服を着て眠っていたら、年上の子に取られてしまう。もしかすると、眠る前に取られてしまうかも知れない。」
「でも、そのままじゃ寒いだろう?」
「うん、でも大丈夫。」
 僕はなんとかしてあげたいけど、これではどうすることもできない。すっかり考えこんでしまったが、ふと思い出した。
「そうだ。ザックにスポーツタオルがあったんだ!」
 僕はザックをひっくり返して底のほうからタオルを取り出すと、風邪をひいているスンダールの肩に掛けた。しかしラジャンの分はない。それにいつの間にかディヌスまでやってきていた。
「ごめんね。これひとつしかないから、ラジャンとディヌスは我慢してね。」
 その言葉を聞くと、ラジャンが急にしゃがみ込んで顔を隠した。目頭を押さえ必死に涙をこらえている。
 子どもに物を与えるときは必ず全員の分を用意するという、何かで読んだマザー・テレサの話がサッと心に浮かんだ。
「僕はこのジャケットがあるからいいよ。」
 ごく薄いジャケットを羽織ったディヌスが明るい声で言う。
 スンダールがにっこりすると、嬉しそうに立ち去っていった。
 ようやく涙がおさまったラジャンは、そのままプィッと向きを変えると足早に道路を向い側へ歩いていった。
 今夜、彼はどんな気持ちで眠るのだろう。ただでさえ寒い彼の夜をさらに冷え込ませたようで心が痛んだ。僕は、繊細な心を抱えて必死に生きるその小さな後姿をじっと見送るしかなかった。

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