M50.放射冷却の演習問題

著者:近藤純正
放射冷却を理解するために、単純な条件について、地表面の冷却量が時間経過 によってどのように変わるか、演習問題を解くこととした。
これは2010年2月28日(日)13時~16時に東京上野の東京文化会館4階 大会議室にて開催される日本気象予報士会北関東支部主催の講演会 「①温暖化と観測環境、②放射冷却」の後半で行う演習問題である。 計算は電卓による手計算でも行えるが、Excel を利用すれば簡単にできる。 プログラム計算に慣れた者は Fotran や BASIC などでプログラミングすれば いっそう便利である。
「放射冷却」とその「演習問題」に参加したい者は、予習して章末の応用問題 に対するレポートを当日持参してください。 (完成:2010年1月1日、3月4日:演習2の問題 f にコメントを追記)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと

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     目次
      50.1 はしがき
      50.2 放射冷却の概要
	   (1)夕方から1~3時間までの冷却量
	   (2)放射最大冷却量
	   (3)大気放射量の推定方法

      50.3 演習1
      50.4 演習2
	    50.5 応用問題
	    参考文献


50.1 はしがき

地表面では日射量、大気放射量、顕熱と潜熱(蒸発・凝結にともな熱) の輸送量、地中伝導熱が交換されている。大気放射量は水蒸気や二酸化炭素 など、雲があれば雲粒子群が出す目に見えない長波放射(赤外放射、遠赤外 放射)のことである。

夜間を想定すると日射量はゼロである。さらに、風の弱い晴天夜間には、 大気放射量に比べて顕熱と潜熱の輸送量は小さくなる。そのような条件では、 地表面と大気との間で交換されるのは、正味放射量 Rn(=地表面が放つ長波放射 量-大気から地表面へ入る大気放射量)のみである。この熱の放出を補う ために、地中から地表面に向って伝導熱 G が伝わってくる。

正味放射量と地中伝導熱が釣り合う熱収支式:

   Rn=G ・・・・・・・・・・・・・・・・(50.1)

のもとで地表面の冷却が生じる。これを放射冷却という。この単純な熱収支式 のもとで生じる放射冷却を理解することは、他の複雑な諸現象を理解する うえの基礎となる。 ここでは具体的に演習問題を解くことによって、放射冷却の理解をより深く 進めることにしよう。

50.2 放射冷却の概要

夜間の放射冷却が大きくなる条件は次の通りである。

(1) 風が弱い夜間(煙突の煙がまっすぐに上昇しているとき)
(2) 雲の少ない晴天夜(月があれば、月の見える夜)
(3) 大気全層が低温(TVで「上空5千メートルに寒気」と放映されるとき)
(4) 空気が乾燥しているとき(大気中の水蒸気が少ないとき)
(5) 新雪が積もったとき(積雪表層に空気が多く含まれるとき)
(6) 地面が乾燥しているとき(土壌表層に空気が多く含まれるとき)
(7) 斜面よりは平地、平地よりは盆地(冷気が溜まりやすい地形)
(8) 大きい湖や海から離れているところ(湖陸風や海陸風の及ばないところ)

これらの条件で放射冷却がなぜ大きくなるか、放射冷却の原理式と演習問題 によって理解を深めよう。

参考:
放射冷却の詳細は本ホームページの「身近な気象」の 「2.放射冷却と盆地冷却」に、また参考となる内容は 「M20.裸地上の極小低温層(特別講義)」や、 「M12.入門3:熱の流れと現象」に掲載されて いる。
教科書は「身近な気象の科学」の「5 本州一寒い村」、「地表面に近い 大気の科学」の4章~6章、「水環境の気象学」のp.66~p.91; p.132~p.159 が参考になる。

(1)夕方から1~3時間までの冷却量
夕方の地表面温度をTso、t 時間後のそれをTs とすると、 夕方から1~3時間程度の範囲については次式で表わすことができる。

冷却量:Ts-Tso=係数×( Rno)×(t の平方根)・・・・・・・・・(50.2)

ただし、 Rno は夕方の正味放射量を表わし、次式で与えられる。

  Rno =(地表面の出す長波放射量)-(大気放射量 Lo)

地表面の出す長波放射量は地表面温度(絶対温度)の4乗に比例する。
絶対温度=(273.2+摂氏の温度)のことである。例えば20℃は 絶対温度で293.2K であり、単位として K をつけて示す。

大気放射量は、大気中に含まれる水蒸気、二酸化炭素など温室効果気体 が出す長波放射量である。長波放射は可視光線より波長が長く、 目には見えない電磁波である。

地上から上空までに含まれる大気中の水蒸気量が多ければ多いほど、 大気放射量は多くなる。そのような場合は正味放射量が小さくなる。 逆に大気が乾燥しているときは大気放射量が少ないので、正味放射量は 大きく、冷却量が大きくなる。冬の晴天夜の冷却が激しいのは このためである。

普通 Rno は50~100W/m2である。
大気放射量などの熱輸送量は水平な単位面積(1平方m)当り のエネルギーとして表わす。

係数は次式で与えられる(「地表面に近い 大気の科学」p.113の式4.5と参考4.1を参照)。

係数=[(4/π)÷(地表層の熱容量×熱伝導率)]の平方根 =[4/(πcρλ)]1/2

したがって、係数が大きくなるのは、 土壌が乾いたときや、新雪が積もったときである。 新雪は、雪粒子の間隙が空気で占められ、熱容量と熱伝導率が 小さく、係数が大きくなるわけである。

(注意)積雪があるとき、積雪の上端の積雪面 を地表面とする。

一晩に生じる地表面下の温度変化は、深さ0.2m程度までであり、積雪深が 0.05~0.1m程度の浅い場合は、地表面に近い積雪層と下の土壌層の両方の 熱伝導を考慮する必要があり、計算は複雑になる。積雪深が0.3m以上なら 積雪層一層として計算してよい。

表50.1 黒体の場合の温度 T と放射量(長波放射量)σT
「身近な気象の科学」表5.2より抜粋



	   温度(℃)    温度(K)   黒体放射量(W m-2)

             40          313.2          545                     
	     30          303.2          479                   
	     20          293.2          419                
	     10          283.2          365                     
	      0          273.2          316            
           -10          263.2          272
           -20          253.2          233                                              


(2)放射最大冷却量
上記で示した式(50.2)は、正味放射量が近似的に一定と考えられる 時間範囲(夕方から2~3時間程度)について成り立つ冷却の式である。 それ以後の冷却はどのように進むだろうか?

地表面の出す長波放射量は、地表面温度(絶対温度)の4乗に比例するので、 地表面温度が下がれば、それに応じて長波放射量も小さくなる。
ステファン・ボルツマン定数を σ (=5.670×10-8W m-2K-4)、 地表面温度(絶対温度)を Ts とすれば、

地表面の出す長波放射量=σTs・・・・・・(50.3)

である。地表面温度は時間とともに下降していくのだが、十分に長い時間が 経過して(例えば極夜の状態が何十日間も続いて)、正味放射量がゼロ の状態、つまり下向きの大気放射量 Lo と釣り合った状態の式:

  Rn=σTs-Lo=0・・・・・・・・・・(50.4)

が成立するときの地表面温度 Ts より下がることはない。このときの最低極限 温度を Tsc としたとき、夕方の温度 To との差を放射最大冷却量(最大可能 冷却量)と呼ぶ。このときは地中伝導熱も近似的にゼロになった状態である。 放射最大冷却量は次式で与えられる(「地表面に 近い大気の科学」p.114)。

   DTmax=To-Tsc
     ≒Rno/4σTo
     ≒(To/4)(Rno/σTo)
     ≒(To/4)[1-(Lo/σTo)]・・・・・・・(50.5a)

Lo: 夕方の下向き大気放射量(本章では一晩中一定と仮定)
Rno: 夕方の正味放射量
To: 夕方 t=0 における地表面温度
夕方:具体的には日没30分前とするのが適当


参考1:
千葉工業大学准教授・松島 大氏によれば、放射最大冷却量は次によっても 得られる。すなわち、地中伝導熱 G にフーリエの式を代入して熱伝導率 λ を考慮し、c を土壌層の比熱、ω(=2π/τ=0.727×10-4-1)(τ=24×60×60秒)を一日周期の角周波数とすると、

   G=-λ(To-Ts)/ D (Dは日変化が及ぶ深さの半分)

   D=[λ/(cω)]1/2 →0.3m程度として近似的に与えてもよい

この G の式を地表面の熱収支式:Rn=G (式50.1)に代入し、あとは同様の 計算を行えば次式を得る。

   DTmax=To-Tsc
     ≒Rno/[4σTo+λ/D]
     ≒(σTo-Lo)/[4σTo+λ/D]・・・・・・・・(50.5b)

このDTmaxは、t=一晩程度の時間で下降しうる最大の冷却量 である。式(50.5a)の放射最大冷却量 DTmax は t が限りなく大きくなった ときの冷却量として定義してあり、つまり、夜の時間が数十日間も経過して D が十分深くなった状態に相当する。したがって、式(50.5b)の D →無限大 とすれば、式(50.5a)に一致する。


放射冷却は「放射最大冷却量」より大きくならないが、時間経過とともに これに漸近する。つまり、式(50.2)が適応できるのは 冷却量が放射最大冷却量以内の時間範囲である。地表層の熱容量×熱伝導率 (cρλ)が大きいときは夕方から4時間程度まで、小さいときは1時間以内 の短い時間までしか適応できないので注意のこと。

大気放射量 Lo は直接的な放射観測または、ラジオゾンデによる上空の気温 と水蒸気量の観測値から計算によって求めることができる。いっぽう、地上の 日平均気温と水蒸気量を用いた簡易的な推定式から知ることもできる。 詳細は「地表面に近い大気の科学」p.74~p.76を参照のこと。

(3)大気放射量の推定方法
図50.1は地上気温の日平均値 Ta と水蒸気量の日平均値 e から大気放射量を 推定するのに利用できる。

放射量計算図
図50.1 下向きの大気放射量の計算図。地表面に近い 大気の科学、p.74、図2.23より転載;「M15.熱の 流れと現象(Q&A)」の図15.3に同じ)

例題
快晴日の夜間
地上の日平均気温(近くのアメダス観測値でもよい)Ta=15℃
地上の日平均水蒸気圧(近くの気象台、測候所の値でもよい)e=10hPa

まず計算によって、σTa391 W/m2
を求める。ただしσ=5.67×10-8W m-2K -4(ステファン・ボルツマン定数)

(1) 図50.1 にて一番下の横軸から e=10 hPa の目盛を見つける。
(2) 赤点線のように上方へ延ばし、「快晴」の曲線との交点を決める。
(3) その交点から水平に赤点線を延ばし、縦軸の値を読み取ると、 0.75
(4) 計算: 391 (W/m20.75=293 (W/m2)
下向き大気放射量は 293 W/m2 として推定できた。

計算式による推定は「地表面に近い大気の科学」の付録 B にて、
図の曲線の式: p.75の式(2.33)~(2.37)
水蒸気圧 e と日平均露点温度の関係式: p.299の式(A2.1)
日平均露点温度から有効水蒸気量を推定する式: p.299の式(A2.2)~(A2.7)
が利用できる。


参考2(放射温度計を利用した推定法):
大気放射量 Lo は天空から下向きに地表面へ入射する長波放射のエネルギー である(全波長範囲の積分値)。例として、Lo=233 W m-2の 場合、天空の有効温度=-20℃(=253.2 K)で あるという(表50.1参照)。

放射温度計はある波長範囲の放射量を測定し、対象物の温度を遠隔的に知る のに利用される。この温度は、対象物を黒体と仮定した場合の温度である。 多くの地物は近似的に黒体と見なされる。

放射温度計を天空に向けて測ったとき器械に表示される 指示温度は、天空の有効温度ではないことに注意しなければならない。 一般的に放射温度計の指示温度は天空の 有効温度よりはるかに低温であり、放射温度計(器械によってフィルターは 異なる)によって指示温度は変わる。しかし、指示温度と大気放射量の関係 をあらかじめ経験式につくっておき、それに基づいて大気放射量を推定する ことは可能である。

具体的には、放射温度計の視点を天頂角約50度一定の方向に向けたまま、方位 角360度にわたり、ぐるりと回転させて観測し、その指示温度の平均値を求 める。一方、そのときの大気放射量を、例えば前記の図50.1に よって推定する。こうした関係を年間にわたり50データ以上を集めてグラフ にプロットする。指示温度と大気放射量が高い相関関係にあれば、このグラフ から大気放射量 Lo を推定することができる。そのようにして推定できた Lo を用いて地域の放射冷却量を予測できる。


50.3 演習1

(問題1.1)
(a) 放射最大冷却量 DTmax の値を求めよ。
(b) 式(50.2)によって放射冷却の時間変化をグラフに示し、放射最大 冷却量と比較し、考察せよ。
数値の単位は[MKS 単位系](メートル、キログラム、秒)か、[CGS 単位系] (センチメートル、グラム、秒)のどちらか統一したものを用いること。 本章では[MKS単位系]を用いてある。

計算の条件として次を設定する。
時間は夕方 t=0 から16時間(t=16×3600s)まで
夕方の地表面温度:Tso=20℃=293.2K
夕方の大気放射量:Lo=349 W m-2
地表層の熱容量×熱伝導率:cρλ =3×10(湿)、3×10(乾)、3×10 (新雪)(単位:J s-1 K -2 m-4) の3通りとする。それぞれ湿潤地、乾燥地や古い雪、新雪地の概略値である。

解答(数値の一部のみ):DTmax=13℃(厳密解)、放射冷却の1時間 後の値は、それぞれ2.74℃、8.65℃、27.36℃となる。

(問題1.2)
上記と同じ条件する。
(c) 夕方の大気放射量のみ:Lo=384 W m-2
の場合(地上気温20℃の曇天夜間に相当)について、同様の計算を行い、 考察せよ。(ヒント:まず放射冷却の式 50.2 の形から考察したのち、 具体的な計算によって数値を求める。)
(d) さらに、(問題1.1)と(問題1.2)の考察から、50.2節「放射冷却の概要」 で示した、放射冷却が大きくなる(1)~(8)の理由づけを行え。

50.4 演習2

斜面流などのない平坦地とし、大気放射量が一晩中一定、夕方の地中温度が 深さ方向に一定とした単純な場合について、放射冷却の厳密解を近似式で 表すと次のように表される(「水環境の気象学」p.147)。

To-Ts=DTmax ・ P(x)・・・・・・・・(50.6)

ただし、x は無次元時間:
x =[(4σTo)/cρλ] t

P(x) は時間変化の関数:
P(x)≒2π-1/2x1/2-x+(4/3)π -1/2x3/2-(1/2)x+(1/3)π-1/2 x5/2、 (x≦0.2)・・・・(50.7)
P(x)≒[0.001+1.168x1/2+x]/[1.062+1.725x1/2+x]、 (0<x≦64)・・・・・・・・(50.8)
P(x)≒[x1/2-0.498]/[x1/2+0.067]、 (64≦x≦10000)・・・・・・・・(50.9)

具体的な P(x) の値は、
x=0でP(x)=0、0.01でP(x)=0.1035、0.05でP(x)=0.2096、0.1でP(x)=0.2762、
0.2でP(x)=0.3557、0.5でP(x)=0.4770、1でP(x)=0.5727、1.5でP(x)=0.627、
3でP(x)=0.713、5でP(x)=0.767、10でP(x)=0.829、30でP(x)=0.899、
100でP(x)=0.944、200でP(x)=0.960、700でP(x)=0.979となる。

通常の気象条件で、新雪から湿潤地の範囲であれば実用上、式 (50.8)だけで十分に高い精度の結果が得られる。

(問題2)
(e) 条件が問題1.1 と同じ場合について計算結果をグラフに示し、考察せよ。
(f) 寒候期(降霜期)について、夕方の気温から朝の最低地表面温度 を予測する具体的な方法を提案せよ。

(f)に関するヒント:予測に必要な数値・要素は、 (1)夕方(日没前30分頃とする)から朝までの時間 t、夕方の地表面温度 To、 夕方の大気放射量 Lo、地表層の熱的パラメータ cρλ、及びこれらから計算で 求まる放射最大冷却量 DTmax である。これらをどのように設定するか(知るか、 推定するか)を具体的に示す。これらが決まれば、式(50.6)に基づいて朝の 最低地表面温度を予測する。これは簡単な熱収支式(50.1)が成り立つ 微風の夜間に応用できる方法であり、風がある場合や降霜による潜熱が 発生する場合は、複雑になるので、ここでは省略してよい。

解答(数値の一部のみ):1時間、4時間、9時間後の放射冷却量は、それぞれ
熱パラメータ(湿)に対して 2.46℃、4.24℃、5.58℃
熱パラメータ(乾)に対して 5.77℃、8.23℃、9.50℃
熱パラメータ(新雪)に対して 9.65℃、11.20℃、11.78℃
となる。

注1:定常観測における観測高度(=1~2m)における夜間の気温は、微風条件では 地表面温度よりも2~3℃程度高い。
注2:現実の地表面は種々な物質が混在しており、現実に放射冷却量 を予測するのは広域平均の地表層の熱的パラメータ(=地表層の熱容量×熱伝導率) を用いなければならない。その値は、実際の夜間冷却からあらかじめ推定 しておくことが可能である。例えば、

田園集落について: cρλ=2×106 (単位:J s-1 K-2 m-4

深い積雪地域について: cρλ=0.1×10 (単位:J s-1 K-2 m-4

の見積りがある(「地表面に近い大気の科学」、p.115の表4.1)。

以下の注3~5 は熱収支式解法の中級レベルの内容である。

注3:本章では放射冷却の基本を理解するために、平坦地の単純な 条件に対する演習を行った。この演習によって十分な理解ができたなら、 冷気が堆積し大気放射量が時間経過とともに減少する盆地、斜面風によって 大気から地表面へ顕熱が供給される傾斜地、人工的な排熱がある都市域に おける放射冷却の式は、「水環境の気象学」p.148~p.141を、さらに日中から 連続して考察する場合は同書のp.152~p.159、また「地表面に近い大気の科学」 のp.181~p.185などが参考になる。

注4:風がある場合の放射冷却も、本章の基本式による結果が基礎と なる。現実のデータを解析した例については近藤(1982)、近藤・森(1982)、 近藤・森(1983)などが参考になる。

注5:地面から浮き上がって存在する物体や、地面に置かれた断熱板、 植物の枝・葉など物体の放射冷却は微風夜間であっても顕熱輸送量を含む 熱収支式を解くことになる(地中伝導熱は含まない)。
冷却の予測方法の原理は次の通りである。まずその地域の平均的な地表面温度 を予測し、対象物体の高度における気温と風速(微風時でも風速の値が必要) を推定する。 この気温と物体温度の差を熱収支式によって計算する(「地表面に近い 大気の科学」p.143~p.145; 同書の式(5.11~5.12);「水環境の気象学」 p.133~p.138を参照)。

50.5 応用問題

(問題3.1)
昔、旅人が草原の一軒屋を見つけて、「今夜の宿に、軒先でよいので貸して ください」と頼んだ。旅人はどのような経験からこの願いをしたのだろうか?
これは冷却量の理論式(50.2)から、どのように説明すればよいか?

逸話: テントを背負い野宿を続ける四国遍路の青年があった。ここは高知県 四万十川に近い大方町入野松原の海岸である。 青年いわく、「この海岸の景色があまりにも素晴らしく、昨夜は砂浜の ど真ん中にテントを張ったが、あまりにも冷えて、ほとんど眠れなかった!」。 老人(筆者)は応えて、「そうでしたか、これからは砂浜のど真ん中ではなく、 背後に樹木などがある場所に張れば、テントの冷えは少し弱くなりますよ!」 と。
入野松原は「小さな旅」の 「4.四国遍路、土佐から伊予へ」の「4.7 上川口から久百々へ」の節 に紹介されている。

(問題3.2)
風が弱い日の日中の地表面温度が上昇しやすいのは、地表層の熱的パラメータ (=熱容量×熱伝導率)、つまりその地域における天候の経過が どのような状態のときか?
また、風がある日の気温変化(気温日較差)が小さくなるのはなぜか?

(問題3.3)
朝がた野外に出てみると、霜が降りている場所・地物と、降りていない場所・ 地物がある。 どんな場所・地物に霜が降りやすいか、思考実験だけでなく実際に歩いて 観察してみよう。
自然は、教科書などでは得られない、多くのことを私たちに教える。一方、 教科書は自然の原理の理解に役立つ。

リポートの提出: 当日2月28日までに問題3.1 ~3.3のうち、確からしいことについて、全体を2ページ以内(A4 紙)に まとめ、参加者に配布できるよう準備してくること。 (リポートには、あまり不明確なことは書かない。)

追記:応用問題の解答
講演会の最後には、上記の応用問題に対して参加者から解答の発表が行われた。 それら解答は 「M52.放射冷却の応用問題(解答)」の章に掲載してある。



参考文献

近藤純正、1982:複雑地形における夜間冷却―研究の指針―.天気、29、 935-949.

近藤純正・森洋介、1982:アメダス(地域気象観測所)データを用いた 夜間冷却量の解析と最低気温予報式(1).天気、29、1221-1233.

近藤純正・森洋介、1983: 同上(2).天気、30、143-150.

近藤純正、1987:身近な気象の科学、東京大学出版会、pp.189.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学、東京大学出版会、pp.324.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学ー地表面の水収支・熱収支ー、 朝倉書店、pp.350

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