M22.裸地上の極小低温層(Q&A)
	著者:近藤純正
		1. はしがき
		2. 気温分布や対流に関するQ&A(4件)
		3. 放射とスペクトルに関するQ&A(4件)
		4. 極小低温層の形成に関するQ&A(5件)
		5. 盆地の放射冷却や斜面流に関するQ&A(6件)
		6. 室内の微気象と人体エネルギーに関するQ&A(4件)
		7.その他のQ&A(6件)
		参考文献
ご質問など、ご意見をお寄せください。
2007年10月27日:回答案の作成開始
2007年10月29日;ほぼ完成

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これは本ホームページの「身近な気象」の 「M20. 裸地上の極小低温層(特別講義)」において出された質問とその 回答である。(完成:2007年10月30日予定)


1. はしがき

今からおよそ半世紀前の1956年のこと、イギリスの気象学会誌に レイク(Lake, 1956)という研究者が、裸地面上数cmから 20cm程度の 高さに極小低温層ができるという論文を発表した。 しかし、気象学の常識では、「夜間に温度がもっとも低いのは地表面である」 と考えられていたので、この論文は多方面に影響を及ぼすことになった。

この論文を発表したレイクによれば、この極小低温層のできる原因は不明で、 通常の常識では考えられない。もしかして、大気放射の作用によってできる かもしれない、という問いかけを含んでいた。

この極小低温層形成の原因を解明するために、筆者はどのような取り組みを したか、その経過を本論の「裸地上の極小低温 層(特別講義)」で述べた。本章は、そこで出された質問とその回答 である。

質問票には、13名は講義に対する感想文、23名は感想文とともに質問が書かれ ていた。要約すると、感想文は次のようにまとめることができる。

放射は難しい内容だが、なんとなくわかり、興味深い内容だった。
なんとなく50%以上は理解できたと思う。
気象は難しい分野だが、わかりやすく「放射」を勉強できた。
基礎から説明してもらい、わかりやすかった。
病室の気温分布を測るという発想はおもしろかった。
住環境を工夫することや室内環境の研究が進めばよいと思った。
林地や草地、裸地で地表面温度が違うことを知り、興味深かった。
林地における日中の気温分布を知り、意外であった。
アウトドアで役立つおもしろい情報をHPに掲載してほしい。
吾妻小富士での夜間の盆地気温の観測がとても興味深かった。
放射冷却や冷気湖について知ってはいたが、きちんと解説してもらい理解を深めた。
この話を聞き、自然について違う見方ができるようになったと思う。
極小低温層ひとつをみても、様々なことが関係することを知り、学問の面白さを実感した。

同じ内容の質問については、質問文を多少変えて同じ質問と して以下にまとめ、それに回答した。

2. 気温分布や対流に関するQ&A

Q2.1 キャノピー層とは何か?(FT)

A2.1 植生地の葉面などが存在する大気層のことである。
森林や草地で葉面から成る層のことをキャノピー層という。葉面は太陽光を 吸収したり、目に見えない長波放射を吸収すると同時に射出する。 その結果、葉面から成る大気層の中では、葉面と周りの空気との間で顕熱や 潜熱(つまり蒸散による水蒸気)の交換が行われ、独特の気温分布がつくら れる。また、風に対して葉面や枝が抵抗として働き風速に影響を及ぼす。 都市ビルも同様な働きをすることから、最近は都市ビル群を都市キャノピー と呼ぶことがある。

Q2.2 林地と草地での極小低温層ができる高度の違いは?(EK)
本論の図20.2によって林地にできる極小低温層はわかったが、草地(芝生地) での極小低温層の高度は地面に近づくと考えてよいか?

A2.2 はい、そのとおりである。
樹高が例えば10mの林地では、夜間の極小低温層は林床から5~8mの高度 にできるが(ただし条件による)、草地ではその草丈に応じて極小低温層の 高度は違い、たとえば草丈が10cmなら、5~8cm(条件、時刻による) の高度にできると考えてよいだろう。

Q2.3 平面上の温度差で対流・循環は生じるか?(YA)

A2.3 はい、生じる。
本論の図20.4において、上に低温、下に高温の温度分布は不安定となり鉛直 方向の対流・混合が盛んになることを説明した。これとは別に、水平方向 に温度分布ができたときも循環が生じる。たとえば海陸風のほか、平地・盆地 風、積雪・無積雪域循環、森林・砂漠循環などがある(地表面に近い大気の 科学、p.128-p.129; Q&A4.3などを参照)。また、本ホームページの「研究の 指針」の「基礎2:気温・地温と局地循環」 にも説明してある。

さらに、地球規模における偏西風の波動は高緯度・低緯度間の温度差 で生じた傾圧不安定による波動である(身近な気象の科学、4章)。

Q2.4 近年の夏の東京は気温が30℃以下にならない日が多くなったが、 熱の対流は変化するか?(SK)

A2.4 東京は人工熱の増加、植生地の減少、ビルや舗装道路の増加 など、いわゆる都市化によって平均気温が上昇している。都市域と周辺の 温度分布が変わると、循環が変わることが予想される。都市化が進んで いない時代(1930年代以前)に比べて、都市域は周辺よりも年平均気温で 2℃ほども上昇している。夏の晴天日はこれよりも温度差が大きくなっている のではなかろうか。地面からの蒸発散量の分布も変わっているに違いない。

そうすると、必然的に気圧分布も変化することになり、周辺から都市域に 向かう風が増えることになる。複雑な都市構造の場で風を直接観測する ことは困難であるが、上昇流によって生じた雲分布ができることなどが報告 されている。ビルなどが増えると風に対する摩擦力も変わるので、この ことによる循環への影響も考えられる。また、数値モデルを用いた循環場 の計算なども行われている。


3. 放射とスペクトルに関するQ&A

Q3.1 黒体とは何か? 放射のスペクトルとは?(KK、SY)

A3.1 黒体とは、すべての波長の放射を吸収し、反射も透過もしない 理想的な物体のことで、この黒体はその温度に応じてすべての波長で最大限 の放射量を出す。単位面積(1平方メートル)あたりに出すエネルギーは 絶対温度の4乗に比例する。その比例定数をステファン-ボルツマン定数と よび、σ=5.67×10-8 W m-2 K-4 である。

温度が-100℃で51 Wm-2、-20℃で233 Wm-2、 0℃で316 Wm-2、 20℃で419 Wm-2、60℃で699 Wm-2、120℃で1.355 Wm-2、400℃で11,646 Wm-2、500℃で20,265 Wm-2である(ステファン-ボルツマン則)。
このエネルギーの波長分布のことをスペクトルで表す。つまり、どの波長で 多く、どの波長で少ない分布かがわかる。極大量を出す波長は絶対温度に逆 比例し、400℃では4μm付近、15℃では10μm付近(本論の図20.12の 破線)となる(ウイーンの変位則)。

Q3.2 大気から地表面へ入る大気放射のスペクトルの例(本論の図20.12の 実線)において8~13μm付近のエネルギーが少ない理由は?(MO、MI)

A3.2 大気中に含まれる水蒸気、二酸化炭素などの気体は黒体ではなく、 エネルギを吸収・射出するのは特定の波長域であり、8~13μm付近では ほとんど吸収も射出もしないからである。
そのため地上で観測される大気放射は8~13μm付近が欠損したスペクトル となっている(身近な気象の科学、図5.9を参照; 後で掲げる図22.2も参照)。

Q3.3 500℃の高温物体と-100℃の低温物体があるとき、その間にヒトが 立つとどれほどのエネルギーを受けるか? 距離が500mほど離れると、放射により、 寒い・暑いを感じるか?(SN)

A3.2 簡単化のために物体は黒体と仮定し、順番に考えていこう。

(1)上記の回答A3.1で示した黒体放射量は、-100℃(絶対温度= 173K)では51 Wm-2、500℃(絶対温度=773K)では20,265 Wm-2である。

まず、高温物体または低温物体のみある場合を想定する。 物体の大きさが大きくて近くにあれば、その放射量がそのままヒトに入り、 焼けてしまったり凍えてしまうことになる。

(2)遠方に離れれば、その物体を見る立体角によってヒトが受ける放射量は 変わる。距離の2乗に反比例して放射量は減少する。 例として、10m×10mの面積、400℃の熱板が100mの距離にあるときに受ける 放射量(熱放射量)の計算方法を図22.1に示した。

高温物体の放射
図22.1 400℃(673K)の高温物体が100mの距離にあるときに受ける放射量 の計算模式図。

図に示したように、物体を正方形とすれば、対象地点で受ける放射量は 次の式で表される。

受ける放射量=黒体放射量×立体角割合
立体角割合=物体の面積 / 距離の2乗=物体の縦・横 / 距離の2乗

縦・横=10m×10m、距離の2乗=100m×100m
400℃の黒体放射量=11,646 Wm-2であるから、
受ける放射量=11,646×(1.59×10-3) =18.5 Wm-2となる。

演習として、物体の大きさが100m四方、500℃とし、距離500mに ある場合に受ける放射量を計算してみよ(答=128.8 Wm-2)。

128.8 Wm-2は、この物体がある時とない時に受ける放射量の差 であり、日本における年平均日射量(=130~160 Wm-2)に 匹敵する大きさである。

この大きさにどう感じるか? 体感温度を見積もるのに直径10cmの黒い球 の温度上昇を測る方法がある。風速が1~3m/sのとき、黒球の温度は2~3℃ 上昇する。本論で論じたようにヒトは1℃の温度変化に感じることができる ので、多少の温かさを感じることになる。 本ホームページの「身近な気象」の 「M21.温暖化と都市緑化」の回答A5.4に似た問題に対する回答が 掲載されているので参考にされたい。

次にマイナス100℃の低温物体(10m平方)が100mの距離にあるときを考え よう。周囲が室温20℃の大きな体育館内だとしよう。この物体がなければ対象 地点に立つヒトはほぼ20℃の黒体放射量(=20℃で419 Wm-2) を受けるのだが、低温物体(=51 Wm-2)からは少ない放射量 を受ける。20℃と-100℃の黒体放射量の差=419-51=368 Wm-2 であるから、

受ける放射量の差=368×(1.59×10-3)=0.59 Wm-2

となり、寒さは感じないほど微小である。

もし、距離が10mに近づけば、100倍の強さ、59 Wm-2 となる。これは、晴天夜間にあずまやにいるときと、外に出て天空を仰ぐ ときに受ける大気放射量(50~80 Wm-2)に匹敵する大きさ であり、寒さを感じることになる。

注:距離の増加とともに、途中の水蒸気などにより影響は減衰する。
空気中には水蒸気や二酸化炭素など温室効果ガス(長波放射を吸収・射出)が 存在し、物体と対象地点の距離が増加するにしたがって、影響は弱くなる。 通常の大気状態において、100mの距離で400℃の高温物体による放射の 影響はおおよそ半減する(後述の参考1)。

大気の射出率
図22.2 大気の射出率(黒体放射に対する実際の大気放射の比)
記号H2O, CO2, O3 は それぞれ水蒸気、二酸化炭素、オゾンの吸収が強いところを示す。 「身近な気象の科学」図5.9の(b)より転載)

太陽光のスペクトル
図22.3 太陽が天頂にあるときの太陽放射のスペクトルの例
太い実線は地上におけるスペクトル、細い実線は大気上端におけるスペクトル を示す。 「身近な気象の科学」図9.9より転載)

(参考1) 放射影響の距離による変化
100mの距離で黒体放射の影響がおおよそ半減するのは、物体の温度がたまたま 400℃(673K)の場合である。これは400℃の黒体放射のスペクトルピークが 水蒸気や二酸化炭素の吸収帯の近くにあるからである。

ウイーンの変位則は、エネルギー密度が最大となる波長をλMAX (μm)、温度を T(K)とすれば、次の式で表される。

λMAX=2897 / T

T=673K では、λMAX=4.3μmとなる。

図22.2によれば、波長4~8μm付近には二酸化炭素(CO2) と水蒸気(H2O)による強い吸収帯がある。このことから、400℃ の物体から出る放射エネルギーは500m程度の距離でほぼ半減する。

物体の温度が、たとえば17℃(290K)であれば、λMAX=10μmと なり、オゾンの吸収帯(9.6μm前後)を除けば、その両脇は水蒸気による 吸収が弱い。この特徴を利用して、宇宙の人工衛星から地球表面の温度 (雲があれば雲頂温度)を知ることができる。

一方、15μm付近には二酸化炭素の吸収帯があり、遠い場所からの放射は 減衰するが、そのかわり近い場所からの放射が影響する。これを利用して、 宇宙から地球を見れば、宇宙に近い大気層(高層大気)の温度を知ること ができる。

太陽放射は温度5780Kの黒体放射のスペクトルで近似され、エネルギー ピークは0.5μmである。図22.3によれば、この付近では空気分子により散乱 されるが吸収が少ないので、太陽が天頂付近にあれば、地上における 日射量は大気上端における日射量(太陽定数=1360 Wm-2) の70%ほどが到達する。

なお、大気の全質量の99%は約50km以下の成層圏と対流圏に含まれているが、 密度が地上と同じになるように圧縮した場合(等密度大気の場合)、 厚さは約8kmになる。

太陽放射や大気放射は電磁波である。電磁波には長波・短波の電波、マイクロ 波、X 線、ガンマ線などがあり、それぞれの特徴を利用して肉眼では見えない 物の探査や通信に応用されている。

(3)最後に、温度 TH=773K(500℃)の高温物体と、温度 T C=173K(-100℃)の低温物体の間にある金属板を考える。 計算式を簡単にするために、面積=1mの薄い金属板を想定し、 その両面の温度は同じで T(K) とする。高温・低温物体と金属板は平行に 並び、それらの距離は短いとし、熱交換は放射熱だけで行われるとする。 熱平衡になった時点では、

金属板の両面から入るエネルギー=金属板の両面から出るエネルギー
σTH+σTC= 2σT
20265Wm-2+51 Wm-2=2σT

したがって、σT=20316 / 2 =10158 Wm-2

σ:ステファン-ボルツマン定数=5.67×10 -8 W m-2 K-4

ゆえに、金属板の温度は、T=651K(=378℃)となる。

演習問題
薄い金属板のかわりに、厚い板の場合について、その両面の温度 T1 と T2 を計算せよ。ヒント:未知数が2つ( T1 と T2 )であるので、もう一つの方程式が必要である。 板の高温側から低温側へ伝わる熱伝導の式をつくって解けばよい。 こうした計算式が理解できるようになれば、大気温度の鉛直分布を解くこと も可能になる(「身近な気象の科学」第1章の温室効果)。

Q3.4 熱放射と赤外放射の違いがよくわからない。熱放射は温室効果 ガスによって地球内にとどまるか? (SY)

A3.4 放射の呼び名が専門分野で違うことから、若干の混乱や誤解が 生れることがある。気象学では、太陽放射の波長範囲(0.15~3μm)と 常温付近で出す大気放射の波長範囲(3~100μm)が区別できて、 前者を太陽放射、または短波放射、日射と呼び、後者を赤外放射、または 長波放射、熱放射と呼んでいる。

波長が0.75μm以上の目に見えない放射を一般に赤外放射と呼ぶ。そのうち、
0.75~3μm:近赤外線
3μm以上:遠赤外線
と呼ぶこともある。

また、
0.75~1.5μm:近赤外線
1.5~15μm:中赤外線
15~100μm:遠赤外線
とする場合もある。

さらに、8~12μmの波長は地球上の熱放射の主要部であることから熱 赤外線と呼ぶことがある。

以上のように、多少の混乱がある。講義における筆者の用語の使い方も統一 していなかったので、今後は混乱・誤解を避けるべく、次の呼び名を 用いよう。

太陽に関わる放射
主要部分の波長=0.15~3μmの範囲
呼び名:短波放射、または太陽放射

大気中の温室効果ガス(水蒸気、二酸化炭素など)の吸収・射出に関わる 放射
主要部分の波長=3~100μmの範囲
呼び名:長波放射、または大気放射、地球から上向きに放出される場合を地球放射

短波放射では吸収と散乱によって、距離とともに放射量は減衰する(図22.3)。 一方、長波放射は吸収により減衰すると同時に、各層の温度と温室効果ガス の量に依存する放射量を射出する。放射の吸収・射出は 各気体の吸収帯で行われ、放射伝達は短波放射に比べて複雑になる。

時々説明される表現として、「地表面から出る長波放射は地球上にどどまる」 の説明がある。あるいは温室効果を説明する際に、「地表面から出た長波放射は 大気ではね返される」というように表現されることがあるが、これらは 曖昧な表現である。

この表現よりも、「地表面から出た長波放射(地球放射)は大気中で吸収 され、同時に大気自身も長波放射を出し、下向きに出た放射が地表面に入る」 というほうが正しい。


4. 極小低温層の形成に関するQ&A

Q4.1 放射平衡と準放射平衡の温度分布と、実際の温度分布の違いの 意味は? また、条件によって、準放射平衡と実際の温度分布の差には 違いが生じるか?(YN、MF)

A4.1 放射平衡と準放射平衡の温度分布の意味は本論の図20.10の少し 後ろの「注2」において説明したように、 放射平衡は長時間にわたり分布形が続くことを指し、準 放射平衡は10分~1時間程度の短時間に大きな変化がなく継続する温度分布 を意味する。これらの分布では、地表面とその直上の空気の間には、理論的に 温度ギャップができる。

現実には、放射の作用のほか、空気が存在し無風でも熱伝導があり、微風 時には弱いながらも乱流混合によって熱(顕熱)輸送が行われ、温度ギャップは 解消されて温度分布は連続となる。

つまり、現実に観測される温度分布は準放射平衡の分布に熱伝導などが作用 した結果、形成されたものである。

放射平衡も、準放射平衡も温度分布は大気成分、特に水蒸気量の違いによって 変わってくる。たとえば、水蒸気量が非常に少なければ大気放射の吸収・射出 が少なくなり、逆に極端に多ければ大気層は黒体に近づき、放射の吸収・射出 が大きくなり、温度分布を変えることになる。

現実には、地表面の凹凸(粗度)や大気の安定度により乱流の強さは変わり 熱輸送量(顕熱輸送量)も変わり、温度分布に影響する。

Q4.2 放射のみの作用の場合は準放射平衡の温度分布となり、それに 実際の熱伝導などの作用が加われば温度分布は図20.10の破線のようになろう とするだけであって、実際は破線のようにはならないか?(NY)

A4.2 放射のみの作用の場合は放射平衡(または準放射平衡)の温度 分布となり、それに熱伝導などの作用が加われば、図20.10の破線のような分布 になる。つまり、図20.10の破線は実際の温度分布である。

これと別の図20.9の左図で説明すれば、実線は実際の温度分布であり、 この分布に対する放射の作用は破線のような分布に変えようと働く。

図20.9と図20.10において、破線と実線の意味が違っており、誤解のないように、 統一しておくべきだった。

Q4.3 気温の低い場所から冷気が裸地(一般に冷えにくい)面上に流れ込み、 極小低温層が形成される際に、大気全体の循環とつながるか?(KA)

A4.3 はい、その通り、大気全体の循環につながっている。
冷気が裸地面上に流れていれば、それを補償するための循環が形成されて いるはずである。すなわち、気温の低い場所では冷気が流出しているので、 その上空では沈降流が生じていることになる。

理解を容易にするために、少し規模の大きい場合について説明しよう。
北海道寿都で見た放射霧の海上への流出の写真(図20.19)では、白く見える 放射霧の出口の内陸(写真では右方)には盆地があり、夜間の放射冷却に よって盆地の下層大気が冷却した。その冷気が盆地の出口から海上へ流出し、 その補償流として盆地上空では沈降流があるばずである。さらに、その沈降 流の補償流として上空では盆地外から盆地へ向かう反流があるはずである。 このようにして、大きな循環とつながっている。

Q4.4 不完全黒体の温度はどのようにして決まるか?(KK)

A4.4 仮に黒体度90%の地表面(ε=0.9、温度 T=0℃、σT =316 Wm-2)を想定しよう。晴天夜間として、大気から下向き に入る大気放射量を L↓=215 Wm-2とすれば、地表面から 上向きの放射量は、大気放射の反射分を加えると次式となる。

εσT+(1-ε) L↓=(0.9×316)+0.1×215=306 Wm-2

306 Wm-2を温度に換算すれば、放射温度(みかけの温度)=-2.1℃

となり、放射温度は実際の温度より、2.1℃低温となる。これは図20.11で説明した 実際の地表面温度と不完全黒体の放射温度の違いである。

Q4.5 宇宙空間に極小低温層は存在するか?(SN)

A4.5 はい、存在する。ただし、原因は裸地面上にできるものと 異なる。
まず、地球の上空にも極小低温層は存在する。対流圏界面(高度15km前後) と、中間圏界面(高度80km付近)はその上下の層より低温になっている。 これら2つの低温層の間は、高度50km付近にあるオゾン層が太陽からの 紫外線を吸収することで高温になっている。

放射と対流の働きでできる対流圏界面(高度15km前後)の低温部の形成に ついては「身近な気象の科学」の第1章「温室効果」の図1.4を参照のこと。

他の宇宙でも適当な量の気体があり、放射過程と他の熱輸送過程の組み 合わせによって極小低温層に似たものが形成される可能性はあるが、 具体的なことについて筆者はよく知らない。


5. 盆地の放射冷却や斜面流に関するQ&A

Q5.1 吾妻小富士の旧噴火口で気温分布はどのようにして観測したか?(MO)

A5.1 初年度夏は2日間のテスト観測を行い、どんな気温分布に なっているかを調べ、その後の観測体制はどう組むべきかの参考とした。 まず、初年度は盆地の斜面の各高度に人員を配置し、それぞれがアスマン通風 式乾湿計により、30分間連続して目視により温度計を読みとる。観測終了後、 その場で電卓により、平均気温を求め、各自小型無線機で全員に気温を 知らせる。続いて30分間の観測を同じように行う。この結果、斜面上 (高度約1.5m)の気温分布がわかった。

2年目夏の観測には、直径450mの噴火口の稜線の中間に太さ3mmの ナイロンロープを張り、その中央(盆地底の上空)と斜面中央の上空の2ヵ所 に滑車をつけて釣り糸が上下できるようにした。その釣り糸に放射除け カバーを付けたサーミスター温度計を取り付け、上下させて気温の鉛直分布 を観測した。

同時に斜面のいたるところに最高最低温度計(板付きの安価な温度計) を設置して地表面温度を観測した。盆地底と斜面上と山頂(稜線)で 自記温度計で気温を記録、微風速計で山頂と斜面で風速(斜面流)を観測した。 また、発煙筒で斜面流の流れを目視した。

このようにして観測した結果の一部は図20.14に示した。ほかに、冷気湖の深さ と山頂風速の関係などについても結果を得た。

Q5.2 吾妻小富士の噴火口内にどうして冷気層ができるか? 標高10mごとに 約1℃の割合で気温が変化しているのはなぜか? (FT、YS)

A5.2 まず、平坦地における夜間の放射冷却から説明しよう。
微風条件を想定すると、大気と地表面間のエネルギー交換はおもに放射に よって行われる。通常の気象条件、地表層の条件を想定すると、地表面から は上向きに長波放射(地球放射)が放出される。一方、大気中の水蒸気や 二酸化炭素から長波放射(大気放射)が下向きに地表面へ入る。地表面から 上向きの地球放射量が大気放射量よりも大きく、この差を正味放射量という。 正味放射量は、50~80 Wm-2であり、このぶんだけ、地表面は 正味として熱エネルギーを失う。この損失を補うために、地中から地表面に 向かう伝導熱が生じる、この熱量は、地表面付近の土壌の温度低下量と その熱容量の積に等しい。

通常の条件では、地表面温度が1時間当たり1℃程度の割合で下降すれば、 50~80 Wm-2と釣り合う。このようにして地表面温度は下降 し、夕方から朝方までに10℃程度は下降する。時間的な温度下降の早さは夕方 急速で、しだいに遅くなっていく。これが、地表面の放射冷却の原理である。

地表面が冷却すると、大気は地表面に 接する層から順番に冷やされる。盆地では、斜面付近で冷やされた冷気は 水平面内の同一高度の空気より重く、斜面に沿って盆地の底へ順番に堆積 する。その結果、盆地内部の気温は平地の場合よりも 低温となる。盆地内部の気温が平地上よりも低温となれば、盆地底が受ける 大気放射量は平地よりも少なくなる。つまり盆地底のほうが平地より正味放射 量が大きくなり、盆地底はますます放射冷却が大きくなる。

盆地を取り巻く稜線(山頂)では空気が溜まることがなく、微風であっても 沈降流や横からの風があり、冷えていない新しい空気がくるので放射冷却 は大きくならない。この結果、盆地内部では標高差10mにつき1℃程度の 割合で温度分布が形成される。

量的な放射冷却の計算式は「身近な気象の科学」の5章、「水環境の気象学」 の6.5章が参考になる。

特に晴天微風夜は、ちょっとした地形の起伏で温度分布が複雑に変わる。 作物の凍霜害が発生したとき、その地区を見てまわれば、どこが冷えたかが 一目瞭然である。今後、注意してみよう。

Q5.3 盆地の冷気層は晴天以外のくもりや雨の日にも形成されるか? 夏 の微風夜の観測では山頂と盆地底の気温差は7℃だが、冬にはその温度差は 変わるか? 放射冷却は冬場に強いイメージだが、夏場でも生じるか? (I、 EK、TA)

A5.3 上述のように、放射冷却は正味放射量が大きいほど(相対的に 地表面が失うエネルギーが大きいほど)、それに比例して大きくなる。 くもりや雨天時は雲からの放射量が大きく、正味放射量は小さくなり、 放射冷却は弱くなり、盆地の中でも冷却が小さい。

夏は一般に大気中の水蒸気量が多く、大気放射量が大きく、正味放射量は 小さい。よって、正味放射量からすれば、冬の放射冷却のほうが夏よりも 大きくなる。さらに、冬は地表面が積雪で覆われることが多く、地表層 の熱容量と熱伝導率の積が小さく、放射冷却は一層強くなる。

以上は微風条件の場合である。風が吹くと、上下が混合されて(つまり、顕熱 交換が盛んになり)、冷却は弱められる。このことからすると、本来は冬の 放射冷却は大きくなりうるのだが、冬は風が吹くことが多く、とくに山岳域 では強い放射冷却が観測される確率は小さくなる。

放射冷却の具体的な例(晴天日と曇天日の違いなど)は本ホームページの 「身近な気象」の「2.放射冷却と盆地冷却」 の章を参照されたい。

Q5.4 大きな福島盆地の中には信夫山(孤立峰)がある。このような 丘は盆地冷却にどのような影響を及ぼすか?(HK)

A5.4 信夫山の山腹斜面は放射冷却されてその表面で形成された冷気が 下降し平坦部に溜まる。したがって、この山がないときに比べて 福島盆地全体の大気の冷却量は大きくなる。

その量的な見積りだが、全体として空気が冷却されるのは斜面が多いほど 大きく、盆地全体の空気容積が小さいほど大きくなる。こうした地形の 効果を地形関数として盆地冷却の強さを計算する方法もある。

つまり、すり鉢状の盆地は空気容積が小さい割に斜面面積が広いので 大気全体の冷却は大きくなり、逆にフライパン式の底の広い平らな盆地は 大気全体として冷却が小さい。福島盆地内に突起状の丘が多ければ、大気 全体としての冷却が大きくなることは予想される。

Q5.5 野宿のテントは林地の近くに張るほうが冷えにくい理由について、 樹木のてっぺんが冷却し、その下は冷却が弱いからなのか?(NY)

A5.5 その通りである。
前述のように、晴天日の林床では、平坦地の曇天時と同様に、樹木が出す 放射量が天空からの大気放射量よりも大きく、地表面における正味放射量が 小さくなり放射冷却は緩和される。林床面のかわりに、樹木のてっぺん付近 (樹冠部)の放射冷却は大きくなる。これは農作物を凍霜害から守る 原理でもある。つまり、農作物の上にカバーをかけて凍霜害を防ぐ方法がある。

昔の旅人が、野宿するのに軒先でも貸して欲しいと頼むのは、 放射冷却を半分ほど弱めるためである。つまり、旅人にとって、軒先の下にいれ ば、天空の冷たい放射を見るのは全天空の約半分となるからである。 もちろん、岩の脇でも大木の根本でも放射冷却は約半分になるわけだ。

Q5.6 夜間の斜面冷気流は、滑走距離が長ければ冷えていく、といわれて いるがそんなに熱が奪われるものなのか? また、滑走距離に比例するのに 何が効くか?(AC)

A5.6 大気安定度が中立に近く、滑走距離が短い場合を想定すると、 斜面は空気より低温であり、冷気流は斜面に熱を奪われならが流下していく。 冷気塊は滑走距離に比例して熱エネルギーを失うので、冷気流の厚さは 滑走距離に比例して増していく。 この場合、冷気塊は斜面からの摩擦を受けながら滑走し、その流速は 滑走距離の平方根に比例して増していく。

この際、単位時間単位面積当たりに失う熱量は空気と斜面の熱交換のバルク 係数に比例する。したがって、滑らかな斜面よりも草が生えているなどバルク 係数が大きい斜面上で冷気層が厚くなりやすい。

滑走距離が大きくなると、大気安定度の効果が効くようになる。普通、 下層ほど低温なため、冷気塊と周辺大気の温度差は小さくなり、浮力(下向き の浮力)が弱まり、どこまでも滑走できなくなる。その限界となる距離は 大気の安定度に依存する。

斜面に沿って流れていた斜面流が速度を落とし方向を変える様は吾妻小富士 の噴火口内の温度分布(図20.14)で示した通りである。


6. 室内の微気象と人体エネルギーに関するQ&A

Q6.1 極小低温層は「窓を開けた室内」でも、窓を閉めカーテンのある 「病室」でも見られたとのこと。両者の違いは? (TS)

A6.1 「窓を開けた室内」とは日中の南向きの部屋のことであり、 床は日差しを受けて高温になっているところへ涼しい外気が入ったとき極小 低温層が観測できたものである。夜間でも暖かい部屋に冷たい外気が入っても 極小低温層が形成される。

「病室」は夜間に窓を閉め、窓にカーテンを張った状態で観測できた極小 低温層である。この病室では、夜間の外気温度は冷たくなり、窓ガラス 面は薄くて断熱が悪く、もっとも冷却される。このガラス内面で発生した冷気 は重いので、ガラスとカーテンの間を下降し、床面上に溜まる。鉄筋 コンクリート造りの病室内の床面は夜間の冷却は少なく、その冷気温度より 高温である。天井付近にも高温な空気が滞留している。その結果、床面上に 極小低温層ができたものである。

Q6.2 部屋に電気カーペットを敷いたときにも極小低温層が現れる だろうか?(YN)

A6.2 はい、現れると考えられる。部屋を完全に締め切っておれば、 室内では対流が生じ、温度分布が形成される。電気カーペットが発熱源で あるので、それが最高温度となるであろう。空気は高温ほど軽いので、 天井付近には高温層ができている。

この状態の部屋へ、隙間から多少の冷気が侵入するなら、極小低温層は 観測されるに相違ない。

ホームセンターで安価なアルコールのガラス棒状温度計2~3本を購入し、 部屋内の室温の空間分布を測れば、必ず面白い結果が得られると思うので、 実行することを勧めたい。

室内では日射や夜間の大気放射による気温センサー に及ぼす放射の影響は小さいので、温度センサーのままで室温を測っても 大きな誤差にはならない。ただし、センサー間では器差があるので、相対的 な指示の差は温度計を水の中に入れて攪拌しながら比較検定しておくがよい。

Q6.3 入院中の発汗量の測定方法は?(MO)

A6.3 今回の発汗量は質量収支式から残差として計算で求めた値である。質量 収支式は次のように表される。

ある2週間(室温22℃)について、1日あたり、
(1)口からの摂取量=1905グラム(うち水分は1441グラム)
(2)呼吸酸素と排出二酸化炭素の差=767-558=209グラム(計算値)
(3)口からの水蒸気の正味排出量=100グラム
(4)尿と大便=867グラム(うち水分は833グラム)
(5)発汗量=700グラム(質量収支式の残差)
(6)体重増加=29グラム

(1)=(2)+(3)+(4)+(5)+(6)

入院中の私が摂取した食事の熱量(カロリー)は給食の栄養士に調べても らった。

ヒトの体内で行われる反応は植物の光合成と逆が行われる。1日あたり 2000 kcal(毎秒100 W) につき酸素558グラムをとり、二酸化炭素767 グラムを排出する。これが(2)である。酸素558グラムの容積は0℃、1気圧 で390.6リットルである。空気中の酸素の容積比は21%であるから、この酸素 は1860リットルの新鮮な空気に含まれている量である。1日の酸素消費 量390.6リットルは1秒間につき平均4.5ccである。

以上の見積りから発汗量を算出した(水環境の気象学、p.4)。

Q6.4 人間一人の発熱量は日平均100 W とのこと、そのエネルギー を利用して発電などに役立てることは可能か?(SN)

A6.4 はい、可能であり、実際に利用していると考えてよいだろう。
100 W は1日平均値であり、日中の活動している時間帯には200 W 程度 は出しているだろう。50人集まれば、10kW の大きさになる。冬なら多数が 教室に集まればこのエネルギーによって室温が上昇する。したがって、 暖房していれば、電源を切れば電気エネルギーの節減になる。

車に乗るかわりに自転車に乗り、人力で移動すれば人体エネルギーを活用して いることになる。人体エネルギーを電気エネルギーに変換し、熱として利用 するとロスが多いので、発熱エネルギーは可能ならばそのまま熱エネルギー として利用するほうがよい。


7. その他のQ&A

Q7.1 極小低温層の研究結果は、どのような職種の人が必要か? その 結果はどのようなことに適用できるか?(SY、ST)

A7.1 2通りがあり、その1は直接的な利用、その2は他に役立つ ことや興味の対象となる。
その1は、たとえば、冷気流から農作物を寒さから守ることや、部屋の中で 私たちが暮らしていくのに利用しているのではなかろうか。

その2は、不思議な現象に科学的な興味をいだき、大気放射や乱流などによる 熱交換を勉強することになる。そうして、大気放射の作用など新しいことを 知ったとき感動を覚える。科学的知識が深まることによって、別の現象の 解明につながっていく。

筆者が極小低温層の研究を始めた学生(学部、大学院)時代の東北大学 気象学研究室では、おもに大気放射と大気境界層の基礎研究がはじまって いた。筆者は、これら分野の基礎とともに放射や気温についてだれよりも 正確に観測する方法を学び、これがその後の研究に役立つことになった。

学生の皆さんが大学で学んでいることは、すぐに役立つことばかりでない。 基礎を深く学んでおけば、それは必ず将来どの道に進んでも役立つものである。

Q7.2 冬に雪で作るかまくらの中が暖かい理由は?(TH)

A7.2 雪は断熱性がよく、外へ失われる熱が少ない。そのため、 かまくらの中では僅かな発熱量(人体含む)でも、暖かく感じるのでは なかろうか。もちろんのこと、かまくら内壁に直接肌をつければ0℃で ある。

Q7.3 うちの駐車場は地下にあり換気扇がまわっているのに、夏は涼しく 冬は暖かい理由は? 冬は冷気が沈んで外より寒くなり、日射も差し込まない のに、地下の駐車場はなぜ暖かいか?(MN)

A7.3 現地を見てないので断言することはできないが、地中は地上に 比べて温度変化が少ない。土壌の種類や水分量にもよるが、深さ3mなら地温 の年変化の振幅は地表面の 1/4 程度と小さい(地表面に近い大気の科学、図 4.11)。駐車場の上に家があれば、それが断熱の役目を果たしている。

地下駐車場に外部から少々の空気が入り循環しても、空気の熱容量は小さい ので、地下の壁面温度を大幅に上昇させることはない。このことを居室で 確かめてみよう。冬に暖房した部屋(壁面温度も高くなっている)の窓を 短時間開けて外気を入れたのち、窓を閉める。一時室温は下がるが、すぐに もとの室温に近づく。これは壁面からの熱で室内の空気が温められたことを 意味する。

安価で売られている最高・最低温度計(板付き U 字形温度計で同時に最高 温度と最低温度が測れる)を購入し、駐車場の壁に取り付け、毎日でも、 1週間ごとでも、1ヶ月ごとでも観測してみることを勧めたい。きっと 面白いことが見つかるに違いない。外気の最高・最低気温は気象台やアメダス データが気象庁のホームページに毎日掲載されている。これと比較できる。 もちろん、自宅の日陰などで外気の最高・最低気温を測ればもっとよい比較 ができる。

地中が夏涼しく、冬暖かいことを利用して、空気や水を使って地中と部屋を 循環させて冷暖房する方法が考えられる。この場合、地中に貯えられる熱量 には限りがあるので、熱量をちゃんと計算して循環速度を決めなければ ならない。水は熱容量が大きいので、地下に大型タンクを設置し、水を循環 させるほうが効果が大きい。

Q7.4 地球温暖化は都市におけるヒートアイランド現象に影響するか?(SY)

A7.4 はい、影響する。二酸化炭素などの増加によって生じる地球 規模の温暖化は100年間につき0.5℃程度の割合である。東京など大都市では これとは別の原因(都市化)によって100年間につき2.5℃程度の割合で年平均 気温が上昇している。地球規模の温暖化のぶんだけ、ヒートアイランド現象 は強化されると考えてよいだろう。

Q7.5 郷里で冬にダイヤモンド・ダストが見られることがあるが、 放射冷却と関連するか?(SK)

A7.5 はい、関連する。ダイヤモンド・ダストは、非常に小さな雪結晶 (氷晶)が大気中をゆっくりと落下するとき、太陽光に輝いて見える現象 である。放射冷却は晴天微風夜に強まるので、その翌朝の大気は冷たく、 大気中の水蒸気が昇華凝結して氷晶ができやすいと考えられる。今後、 そう意識して観察するようにしよう。 わたったことがあれば私にも知らせてください。

Q7.6 今まで旅した所で、もっともおもしろかったのはどこか?(YA)

A7.6 いろいろ珍しいこと、素晴らしいことがあった。その中から4つ を選べば、次の通り。

その1: 長距離の歩き旅で感動したのは、四国遍路で高知県 入野松原(図20.18)であった。この日は歩きはじめて1週間後、少し疲れた ので14km先の中村市街まで歩き、 休憩し、名所を観光するつもりであった。

ところが日の出や、小波の打ち寄せる砂浜、色とりどりの貝殻、 素晴らしい遊歩道に感動し、疲れを忘れて進路を変更し、四万十川の河口を 渡船で渡り、とうとう久百々(くもも)まで32kmを歩いてしまった。 「小さな旅」の「4.四国遍路、土佐から 伊予へ」の「4.7 上川口から久百々へ」を参照。

その2:足摺岬のジョン万次郎の銅像前の広場で遍路「幸月」と会い、 彼の俳句を見せてもらい2時間余も会話した。私は急ぐ旅ではなく、風景や 会話を楽しむ遍路である。彼は寺で泊めてもらったり野宿したり、力仕事の アルバイトをしながら四国遍路を続けている。「小さな旅」の 「4.四国遍路、土佐から伊予へ」の 「4.8 足摺岬と遍路幸月」を参照。

このとき(2002年4月14日)、私は幸月をはじめて知ったのだが、彼は四国では 新聞やTVで報道されて有名になっていた。後日、2003年6月27日、幸月がNHK 総合で「草遍路 終わりなき旅 幸月さん 80歳」として全国放映されたこと から、12年前(1991年11月5日)の殺人未遂事件により2003年7月9日に 逮捕されることになった。

彼が大阪の留置所にいることがわかり、私は彼に手紙を送った。「人は だれも罪を背負って生きている。刑罰ならば、罪をつぐなったのち、再び 遍路を続けてください・・・・・」。しばらくして、思いがけずも彼から 留置所内の生活が綴られた俳句がたくさん送られてきた。その後 (2004年2月25日)、幸月は懲役6年の実刑判決が言い渡された。

その3:自宅を朝5時に出発し50km歩いて12時間20分後、三浦半島先端の 城ヶ島に到着したときの達成感がある(2002年5月20日)。

その4:今年(2007年)9月30日、十和田湖を観光船に乗船し、約50年前に観測した 想い出の場所「御門石」(小さな岩礁、湖のほぼ中央)を観光船最上階から 探しながら、船長に昔のことを話したところ機関長を紹介された。機関長は、 約50年前に私を小舟で御門石まで送り迎えしてくれた船頭さんであった。 なんという奇遇か! 観光船の10隻余の一つに乗ったこと、船長に話した ことが偶然となったのだ(「写真の記録」の 「82.十和田湖の観光」を参照)。

十和田湖における蒸発の研究で観測した御門石は、「身近な気象」の 「5.十和田湖物語」の図5.7と図5.8に掲載して ある。

そのほか、面白かったことはたくさんある。旅すれば、感動にめぐり合える!


参考文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、1987:身近な気象の科学.東京大学出版会、pp.189.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学-地表面の水収支・熱収支. 朝倉書店、pp.348.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学-理解と応用-.東京大学出版会、 pp.324.

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