K47.結氷量の熱収支解析


著者:近藤 純正
戸外に置いた容器の結氷量は、冬の放射冷却が強い夜間ほど多くなる。 これを熱収支的に検討してみると、微風晴天夜の結氷は水の凍結にともなって 発生する潜熱と水面(氷面)の正味放射量が近似的にバランスしていることがわかった。
さらに、風がある日も含めて解析するために、水面と大気間の交換速度の求め方と、 容器の側壁・底面から逃げる熱を表す実験式の求め方を示した。その結果、一般の 条件における結氷現象を熱収支的に解析できるようになった。 (完成:2010年9月3日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと

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更新の記録
2010年3月22日:目次案の作成
2010年3月27日:3節までほぼ完成
2010年3月30日:Q2を追加
2010年4月1日:Q3まで
2010年9月1日:47.5節と「あとがき」を追加

  目次
        47.1 はじめに
        47.2  おもな記号
        47.3 結氷量についての Q & A
	    Q1 結氷の潜熱が正味放射で失われる?
	    Q2 低温ほど結氷量が増えるのは?
        47.4 天空の放射温度についての Q & A
	    Q3 指示温度が器械によって異なる?
        47.5 結氷量の測定と解析の指針
	 (a)熱ロスの見積もり、(b)交換速度 ChU の決定、(c)結氷の本実験
	あとがき
	参考文献


47.1 はじめに

2010年2月28日に開催した「M50.放射冷却の演習問題」 の勉強会の後、千葉県船橋市に住む気象予報士・関 隆則さんから、自宅で毎朝観測している結氷量、 天空の放射温度などのデータとともに熱収支に関する質問が寄せられた。この貴重なデータに 補足的な実験を加えれば、おもしろい熱収支解析の研究成果となりうるものである。

そこで本章では、寄せられた質問をもとに次の内容について議論・解説を行う。
(1)微風夜間の結氷量と氷面の正味放射量との関係
(2)放射温度計で測定した天空温度の意味
(3)容器内結氷の熱収支量を正確に評価する研究の指針

項目(1)では、結氷観測に用いた容器の水面(または氷面)と大気の間で交換される顕熱・潜熱 輸送量を正確に見積もる交換速度(=バルク係数×風速)が未知のため、放射収支量以外の顕熱・潜熱 輸送量などは概算値を用いて議論する。そのため、おもに微風晴天夜の氷結量を対象とする。

項目(3)では、風が吹く日も含めて、結氷時の熱収支量の各項が正確に評価できるような 補足的実験(交換速度の評価など)を解説し、研究論文への指針としたい。

さて、関さんのご自宅は東京湾沿岸(谷津干潟付近)から北東の内陸へ約10km、船橋アメダス から北東に3km、市街地から離れた新しい住宅地にあり、北側には開けた畑がある。 そのため、晴天日の朝の最低気温は都市化の影響を受けた船橋アメダスの 観測値よりも約3℃ほど低温、つくば(館野)よりも約1℃ほど高温であり、気象条件はつくば に近いとみてよい。

天空の放射温度の測定は、HORIBA IT-550S(測定範囲:-50~500℃、フィルター波長:8~16μm) を用いている。

47.2 おもな記号

L:下向きの大気放射量(W m-2
σTs:水面(氷面)が大気へ向かって放出する長波放射量(W m-2
Rn=σTs-L:水面(氷面)が失う正味放射量(W m-2
M:結氷量(水等量で表した氷の厚さ mm、または氷の量 kg m-2
注1: 0℃の水の密度=999.8 kg m-3≒1000 kg m-3に対し、 氷の密度=917 kg m-3なので、氷の1mmは水等量で表すと0.917mm、 つまり氷になると膨らむので、実測値より8%だけ薄い厚さで表すことになる。 特に水等量で表す場合は明記する。

H:水面または氷面から大気への顕熱輸送量(W m-2
lE:水面または氷面から大気への潜熱輸送量(W m-2
E:蒸発速度、氷の面では昇華速度(kg s-1m-2
T:気温(℃または絶対温度 K)
Ts:水面温度または氷面温度(℃または絶対温度 K)
Tw:水の温度(℃)
l:水の気化の潜熱(0℃で、2.50×10J kg-1
F:氷の融解・水の凍結の潜熱(0℃で、0.334×10J kg-1
S:氷の昇華の潜熱=l+lF(0℃で、2.834×10J kg-1
σ:ステファン‐ボルツマン定数(5.670×10-8W m-2K-4

47.3 結氷量についてのQ&A

Q1 結氷が1時間につき1mmの割合で厚くなるには、 92.8 W/m2 の潜熱が放出され ていることになります。氷の面は0℃を保ったままだとすれば、この潜熱は氷の面が大気へ失う 正味放射量に近似的に等しいと考えてよいでしょうか? ここでは氷面の顕熱輸送量と、 測定に用いた容器の底の熱伝導を無視しているので、問題点があるかも知れません。

氷の温度0℃が出す長波放射量は316 W/m2、晴天夜間の大気放射量は220 W/m2 程度である(「身近な気象」の「M52.放射冷却の応用問題 (解答)」の表52.2の大気放射量 Loの平均値=224 W/m2を参照)。したがって、 氷面の正味放射量は 316-220=96 W/m2となり、上記の92.8 W/m2に近い値 となる。なお、観測資料は表47.1に示したように、一晩の結氷量の平均値=14.7mmである (北の畑に置いた容器:住宅からもっとも離れた位置にあり、天空を遮る物体はほとんど無い)。

用いた容器の直径=240mm、容器の深さ=40mm、水の深さ=30mm、容器の材質は プラスチック、底には断熱材を貼ってある。 別に、ステンレス製の容器(直径=220mm、深さ80mmの半球状)も用いた。

注2: 氷の融解・凍結の潜熱は温度0℃のとき、lF=79.7cal g-1= 0.334×106 J kg-1である.厚さ1mm(水等量)の氷の量= 1kg m-2が氷結するとき放出される熱=lF×1kg m-2= 0.334×106 J m-2. これは1時間につき厚さ1mmの割合で増加する場合であるので、単位時間(1s)当たりでは、 0.334×106 J m-2÷3600 s=92.8 J s-1m-292.8 W m-2 となる。

表47.1 船橋の自宅において毎朝観測した最低気温、天頂の放射温度、皿の結氷量 (関 隆則).
2009年12月~2010年1月中の微風晴天夜のみを抜粋、
だだし12月2日は、まだ結氷量の観測開始以前のため12月23日以後を掲載。
結氷量は底を断熱した直径240mmの容器、南庭(2)のみステンレス製の容器による値。

月/日 最低  天頂の  結氷量 結氷量  結氷量 結氷 備考   気温 放射温度 北の畑 北の 南庭 南庭(2) 8~16μm 道路脇 (℃) (℃) (mm) (mm) (mm) (mm) 12/23 -3.4 -33 17.3 8.4 7.0 6.2 12/24 -0.7 -36 6.1 4.3 1.9 0.1 01/09 -2.5 -42 11.5 8.8 3.2 3.7 01/15 -5.8 -40 21.0 17.0 10.1 11.8 01/16 -5.5 -45 19.5 18.3 7.1 9.8 01/18 -4.5 -3.5 17.4 14.4 7.8 9.6 全天が層積雲 01/19 -4.0 -40 14.9 12.0 6.6 7.3 01/24 -4.0 -43 10.2 6.4 3.0 3.8 平均 -3.8 -35.3 14.7 11.2 5.8 6.5 水等量 13.5 10.3 5.3 6.0 氷を水の厚さに換算


A1 結氷にともなう潜熱の発生量は氷面が大気に失う正味放射量と近似的に釣り合って おり、顕熱・潜熱輸送量は小さいと考えてよい。ただし、これは微風晴天夜における関係である。

これを熱収支的に詳しく検討してみよう。まず、天空を遮る物体がほとんど無い「北の畑」の近くに おいた容器にできた結氷量を対象とし、気象は表47.2に示す、つくば(館野)の条件を想定して 計算を行う。これは、「身近な気象」の「M52.放射冷却の応用 問題(解答)」の表52.2からの引用である、ただし、日付は1日遅らせて結氷観測時の朝の日付 としてあることに注意のこと。

表47.2 つくば(館野)における2009年12月~2010年1月中の微風晴天夜の条件.

月/日 前日の 前日の 前夜の  大気放射 前日の 当日朝の 日平均 日平均 大気放射 有効温度 日没前 最低気温    気温 水蒸気 推定値 (全波長) 気温 観測値 Lo   放射温度 To Tmin (℃) (hPa) (W/m2) Te(℃) (℃) (℃) 12/23 1.8 4.1 221 -23.3 8.9 -4.1 12/24 3.0 5.2 230 -20.8 10.7 -3.0 01/09 3.1 4.3 226 -21.9 8.2 -3.6 01/15 0.6 3.1 212 -25.9 4.5 -6.6 01/16 -0.1 3.5 212 -25.9 5.0 -6.8 01/18 0.8 3.6 215 -25.1 5.5 -5.9 01/19 0.5 4.2 217 -24.5 6.8 -4.1 01/24 3.9 4.1 228 -21.4 9.0 -4.9 平均 1.7 4.0 220 -23.6 7.3 -4.9


この節では、結氷時の熱収支は放射量と凍結にともなう潜熱が支配的であることを示すために、 結氷量の8日間平均値について、気象条件の8日間平均値を用いて、熱収支各項の 大きさを見積もることとする。

水深30mm程度の水を入れた容器の場合、結氷時の熱収支は簡単な式で計算することができる。

すなわち、
(1)厚さ30mm程度の水温のレスポンスは20分程度であり、対象としている氷結現象の時間(数時間 ~ひと晩の長さ)に比べて十分に短い。したがって、水温の時間遅れを考慮せずに準定常の仮定 により熱収支量(顕熱・潜熱輸送量)を計算してよい。
(2)結氷の進行中は、氷板の下面・上面の温度差は小さく、氷板の厚さのひと晩の平均値=7mm のとき、温度差=0.3℃程度であり、上面の温度(-0.3℃)は近似的に0℃とみなしてもよい。
(3)実験に用いた容器の直径=240mmの場合、顕熱・潜熱の交換速度の目安は、ChU=0.004 m/s (容器付近のひと晩の平均風速 U=0.3 m/s のとき)である。
(4)夕方、結氷が始まる前の水温 Tw は気温 T より低温となっており、空気の相対湿度が rh=0.8 (80%)のとき、Tw-T=-7.8℃である。したがって、日没のころから水温は0℃に近くなっている と仮定してよい。

注3:風が吹く夜間の結氷時の熱収支を正確に評価するには、容器内の水面と大気間の交換 速度 ChU をあらかじめ測定しておかねばならない。このことは本章最後の47.5節で説明する。

これら(1)~(4)が成立することは、次の「結氷時の水温と熱収支の条件」に示した。

クリックして次の 「結氷時の水温と熱収支の条件」を参照し、プラウザの「戻る」を 押してもどってください。
結氷時の水温と熱収支の条件


通常の熱収支式の計算では、3つの未知量(水面(氷面)温度、顕熱輸送量、潜熱輸送量)を 求めるのであるが、深さ30mm程度の水を対象とした氷結条件では水面(氷面)温度が既知として よいことがわかったので、本計算では大気への上向きの顕熱輸送量と潜熱輸送量をバルク式に よって計算する。

記号は、夜間の放射冷却で取り扱う場合と同様に、水面から失う場合をプラス、 水面が獲得する場合をマイナスの数値で表すことにする。

したがって、熱収支各項は次式で計算する。

正味放射量:Rn=σTs-L
顕熱輸送量:H=CpρChU (Ts-T)
潜熱輸送量:lE=lρChU (qW-q )・・・・・水面
潜熱輸送量:lSE=lSρChU (qW,ICE-q )・・・・・氷面
ここに、qW と qW,ICEは、それぞれ水面と氷面に対する飽和比湿である。

夜間の水蒸気圧は日平均水蒸気圧(e=4.0 hPa:表47.2)に等しいと仮定し、比湿は次式で求めた。

q≒0.622e / p, p=1013 hPa

晴天日における大気放射量 L の日変化幅(=正午過ぎの最大値-日の出後の最小値)は 20 W m-2程度であるので(「地表面に近い大気の科学」、式2.8)、日没後の L を 日平均値(=220 W m-2)に等しいとして、 夜間の前半は L=220 W m-2、後半は L=214 W m-2であると推定する。

表47.3 2009年12月~2010年1月中の微風晴天の8夜平均の熱収支量の計算。
気象条件は微風晴天夜のつくば(館野)における観測値を、交換速度 ChU は推定値を用いた。

要  素 夜間の前半 夜間の後半 夜間の平均 17時~18時 18時~7時 17時~7時 (1時間) (13時間) (14時間) 結氷量の観測値(水等量) (kg m-2) 13.5 水面(氷面)温度 Ts (℃) 0.0 -0.3 -0.3 気温 T (℃) 7.0 -1.4 -1.0 水面比湿 qW 0.0038 -- 氷面比湿 qW,ICE -- 0.0037 空気の比湿 q 0.0025 0.0025 温度差 Ts-T (℃) -7.0 1.1 0.7 比湿差 qW-q, qW,ICE-q 0.0013 0.0012 0.0012 交換速度(推定値) ChU (m/s) 0.004 0.004 0.004 水面放射量 σTs (W m-2) 316 314 315 大気放射量(推定値) L (W m-2) 220 214 217 正味放射量 Rn (W m-2) 96 100 98 顕熱輸送量 H (W m-2) -36 6 3 潜熱輸送量 lE, lSE (W m-2) 13 14 14 凍結の潜熱 lFM (W m-2) -- -- 89 熱収支の残差 Rn+H+lE-lFM (W m-2) -- -- 26

 残差 26 W m-2は熱伝導による容器の内・外の熱交換と、 計算・推定誤差が含まれる。
下記の注5に示すように、大気放射量を正確に計算してみると、残差= 18 W m-2となる。

表47.3に示すように、熱収支量の計算結果によれば、水面が大気へ失う顕熱・潜熱輸送量は正味放射量 に比べて1桁程度小さく、水の凍結によって発生する潜熱の大部分は正味放射量によって失われて いることになる。

上記の計算と観測の比較は、結氷量がもっとも多い「北の畑」に設置した結氷量についてである。 「道路脇」の結氷量が76%(=10.3/13.5)と少ないのは、おもに天空の一部が住宅に遮られていて、 住宅などからの長波放射(近似的に気温に対する黒体放射)が天空からの大気放射よりも多いことに よると考えられる。さらに、「南庭」と「南庭(2)」は住宅の間にあり、住宅のほか庭木その他の地物 が天空を遮り、結氷の容器に対してより多くの長波放射を与えるために結氷量が少ないと考えられる。

注4:上記の大気放射量の推定値 L=220 W m-2 は、8夜とも完全な快晴と した場合の値である。仮に中層雲で覆われていたとすれば、L=290 W m-2程度となる。 したがって、8夜の全時間のうちの10%の時間に中層雲が出現していたとすれば、正味放射量は 7 W m-2{=(290-220)×0.1}少なくなる。

注5:大気放射量 L の推定精度を上げるには、地上の水蒸気圧の日平均値よりは、 ラジオゾンデによる地上から上空までの水蒸気量の観測値から計算される有効水蒸気総量 w*TOP を用いる{「地表面に近い大気の科学」、p.75~p.76、式(2.33)ほか}。

微風晴天の8夜について、館野の高層観測データ(前夜21時と朝9時)から計算すると、 w*TOP=5.1mm=5.1 kg m-2となり、式(2.33)より L=221 W m-2 となり、前述した地上の日平均水蒸気圧 e=4hPa からの推定値(=220 W m-2: 表47.2)とほぼ一致した。

館野の高層データをよく見ると、気温分布は平均として、高度200m付近以下が約3.5℃の逆転層となって いる。このような場合は、地上の気温と水蒸気圧の日平均値から求めると大気放射量は小さめに 推定される。 そこで、山本の放射図によって正確に計算した結果(「水環境の気象学」、p.70~p.74)、 正確な値として表47.3に示す値より大きめの、 L=223 W m-2を得た。 また、館野と現地の気象条件の違い(平均気温が1℃ほど高温、水蒸気量が多め)を考慮 すれば、大気放射量は 228 W m-2程度と推定される。表47.3の計算にて、 大気放射量として 228 W m-2を採用すると、表47.3の 残差は 26 W m-2は 18 W m-2となる。

参考1:地上における大気放射量(長波放射量)の精度は、特別の器械を用いた注意深い 観測でも±5~10 W m-2程度、計算(推定)する場合も同程度の誤差がある。 一般的な観測では±20~30 W m-2程度の誤差がある。

Q2 結氷時は凍結の潜熱が発生するので、氷面の温度は近似的に 0℃と考えられる。すると、気温が氷点下で低いほど氷面から大気へ顕熱輸送量と潜熱輸送量 (水面の蒸発にかわって、氷点下の氷面の昇華による潜熱輸送量)が多くなり、氷面はより多くの 熱を失い結氷量は増えることになりますね。図47.1はその関係を示したものと考えて よいでしょうか?

結氷量と最低気温
図47.1 結氷量と最低気温の関係、2009年12月20日~2010年3月12日(関 隆則)。

A2 はい、その通り最低気温が低い夜ほど結氷量は増えると 考えてよいでしょう。

このことに関して、熱収支の観点から、もう少し定量的に考えてみよう。氷面からの顕熱 輸送量 H と潜熱輸送量 lSE は次式で与えられる。

顕熱輸送量:H=CpρChU(Ts-T)
潜熱輸送量:lSE=lSρCeU (qW,ICE-q )
ここに、qW,ICEは、氷面に対する飽和比湿である。

交換速度を ChU≒CeU 、さらに結氷が進行中として、Ts≒0℃の近似より、qW,ICE ≒qW と近似できる。さらに、以下の近似法を用いると(「水環境の気象学」のp.131~p.134 を参照)、

W-q≒qSAT+⊿(Ts-T)-q=qSAT(1-rh)-⊿(Ts-T)

ここに⊿は飽和比湿の気温に対する変化率(=dqSAT/dT)である。これを代入すれば、

H+lSE=lSρChU{ [(Cp/lS)+⊿](Ts-T) +qSAT(1-rh)}

rh は0~1で表す相対湿度、(1-rh)=0(飽和のとき)~0.5(相対湿度50%のとき)である。

0℃においては(「水環境の気象学」の表2.2と表6.2を参照)、
⊿(=dqSAT/dT)≒2.74×10-4K-1
Cp/lS=3.55×10-4K-1
SAT=3.76×10-3

これらを代入し、途中の演算を省略すると、次の近似式が成り立つ(0℃付近に対して)。

氷面が大気へ失う顕熱・潜熱輸送量:H+lSE=B・ChU{(Ts-T)+C(1-rh)}

0℃のときの定数:B=2.3×10 W s K-1m-3
0℃のときの定数:C=5.97 K

さらに、気温 T が十分に低温条件であれば(とくに寒い夜)、上式右辺の第2項は第1項に比べて 小さくなるので、氷面から大気へ失われる顕熱・潜熱輸送量の和は、ごく大まかに、

H+lSE≒B・ChU(Ts-T)・・・・・気温が十分に低い(ボーエン比が大きい)とき

Ts≒0℃なので、(Ts-T)>0は ℃ で表した夜間の平均気温としてよい。

風が吹く夜間は交換速度 ChU が大きくなり、H+lSE が正味放射量 Rn に加わって 結氷量がより多くなる。このことを示すために、図47.1の横座標の「最低気温」を 「風速×夜間の平均気温」に取り替えたものを図47.2に表した。横座標がゼロにおいては、結氷は正味 放射量だけで生成されるが、低温で風が強い夜ほど(横軸の左方ほど) 結氷量は多くなり、逆に高温で風が強い夜ほど(横軸の右方ほど)結氷量は少なくなる ことを示している。

結氷量と風速
図47.2 熱収支的観点から表した「結氷量」と「夜間の平均気温×風速」の関係(結氷量と最低 気温のデータは関 隆則氏による)。

図47.2の風速は船橋アメダスの朝1~7時の平均風速、夜間の平均気温は 現場で毎朝観測した最低気温に2℃を加えた値を用いてある。

参考2: ここでは容器の交換速度 ChU は未知であるが、本章の最後の節で説明する実験から ChU が確定すれば、横軸として B・ChU{(Ts-T)+C(1-rh)}を用いる。その場合、 T と rh (=e/eSAT(T)、ここに eSAT(T)は気温 T に対する飽和比湿) は夜間平均の気温と相対湿度(0< rh ≦1)である。

47.4 天空の放射温度についてのQ&A

Q3 放射温度計で測った天空の指示温度と有効温度は、数値的にどれ くらいの差がありますか?

最近、放射温度計を使う人々が増えてきました。たとえば、地表面の温度、雲低高度、晴天時の 天空の放射温度の測定などに使います。しかし、「身近な気象」の 「M50.放射冷却の演習問題」 の参考2(放射温度計を利用した推定法)によれば、 「・・・・指示温度は、天空の有効温度ではないことに注意しなければならない。一般的に放射 温度計の指示温度は天空の有効温度よりはるかに低温であり、放射温度計(器械によってフイルター は異なる)によって指示温度は異なる。・・・・・・」と書かれています。

A3 放射温度計に用いるフイルターの種類によって、観測する波長 範囲が違います。有効温度は観測された全波長範囲のエネルギーを黒体温度に換算したときの温度 と定義されている。放射温度計の目的は遠隔的に物体温度を計測することを目的に作られているため、 フイルターを用いて水蒸気や二酸化炭素などの吸収・射出の少ない波長範囲のエネルギーを測り、 温度に換算した値が表示されるようになっている。天空からの下向き放射量のうち、水蒸気や二酸化 炭素などの吸収・射出の少ない波長範囲はエネルギーが非常に小さく、そのエネルギーを 温度に換算した指示温度は有効温度よりも低温となる。有効温度と指示温度の差は10~50℃程度あり、 器械と季節(水蒸気量)によって異なる。

現実には存在しないが極端な例として、吸収・射出がまったくない波長範囲の天空放射を測ったと すれば、エネルギーはゼロなので、温度に換算すると絶対温度ゼロ(-273.2℃)となる。

放射冷却による夜間の気温下降量や、結氷量の予測・解析に際して、大気放射量を推定するのに 放射温度計(価格は大気放射計に比べて安価)を利用する場合、水蒸気などの吸収・射出の弱い 波長帯(例えば8~12μm)のフィルターを用いた器械と、そうでない波長帯(例えば8~16μmの フィルター)の器械を比べて、どちらが適当とは一概には言えない。

雲の厚さは雲水総量>0.05mm)以上あれば(層雲では100m以上、積乱雲では10m以上あれば) 黒体とみなされるので(「地表面に近い大気の科学」のp.60~p.61)、吸収・射出のほとんど無い 波長範囲を測れば雲底温度を知ることができる。しかし、現実には雲底~地表面間に含まれる 水蒸気などによって多少とも吸収・射出の影響を受けるので、観測される値は雲底温度と途中 大気の平均温度の中間の指示温度となる。

中間の指示温度の例として、高度500mから地表面温度を観測した場合を図47.3によって説明しよう。 右図は大気の水蒸気圧が 20hPa のときである。仮に吸収・射出の弱い波長9μm前後を観測したと すれば、地面温度(太い実線、306K)に近い値が観測され地表面の情報を得るが、 逆に二酸化炭素の強い吸収・射出がある15μm前後を観測したとすれば、大気温度(細い点線、296K) に近い値が観測されて、地表面の情報はほとんど得られない。

放射強度の波長分布
図47.3 放射強度(放射輝度)の波長分布(「地表面に近い大気の科学」、図 2.19から転載)
実線は地表面温度306K(33℃)、点線は大気温度296K(23℃)に対する黒体放射、破線は高度500m から地面を測ったときの放射強度。 左図:大気の水蒸気圧 e=0のとき、右図:e=20 hPa のとき。

図47.2は距離が500m離れた場合の例であるが、一般に放射温度計を用いる場合、対象物体と の距離は数m以内で測るがよい。距離が長くなった場合の補正方法は 「地表面に近い大気の科学」のp.63~p.69に示されている。

次の図47.4は天空からの大気放射を天頂角度を変えて測った例である。天頂方向では大気の光路長 が基準の1のため(光路上の水蒸気や二酸化炭素などの総量が少なく)放射量は少ないが、 天頂角60°では光路長は2倍になるので放射量は多くなる。天頂角55°(光路長=1.66:散光因子) の方向では、一般に全天の平均値を代表するが、実例の図47.4では天頂角=53°で平均値を示して いる。

リンケ‐ホイッスナー放射計による観測
図47.4 天頂角度別に観測された快晴夜間の大気放射の例 (「水環境の気象学」、図4.14から転載)。
これはリンケ‐ホイスナー放射計(開口角=10°、フィルター無し)で全波長範囲のエネルギーを 観測している(放射計の写真は「大気境界層の科学」の図2.13)。 図中の右目盛り付近に付けた矢印はこのときの地上気温6.8℃に相当する黒体放射量、θは 天頂角である。この例では大気放射量 L=257 Wm-2(破線)であり、有効温度に 換算すると-13.8℃となる。天頂方向の放射強度は243 Wm-2であるので、これを 放射温度に換算すると、-17.4℃となる。したがって、天頂角53°と天頂方向の放射温度(全波長) の差は3.6℃{=-13.8-(-17.4)}と言える。

図47.4では横座標として、sinθを選んである。この目盛りで図示すれば、プロット の曲線から下の面積が天空の全方向から地表面の水平面に入る放射量を表すことになる。

この図は全波長範囲を測った場合であるが、フィルターを付けた放射温度計を用いた場合も同様に、 天頂方向ではエネルギーが少なく指示温度はもっとも低温となり、天頂角度が増えるにしたがって 指示温度は高温となり、水平方向の指示温度は気温に近づいていく。

図5はいろいろな放射温度計で測った天空の放射温度の観測値の比較である。器械(フィルター) の違いによって放射温度が違うことがわかる。

地上気温と天空放射温度の差
図47.5 地上の日平均水蒸気圧(横軸)と「日平均気温-天空放射温度」(縦軸)の関係、いずれも 快晴時。
赤三角印(8~12μmフィルター付き放射温度計):松島 大 博士による観測
緑四角印(8~16μmフィルター付き放射温度計):関 隆則氏による観測(表47.1)

赤三角印は水蒸気などの吸収・射出が弱い8~12μm範囲を測っているので、もっとも低温の 指示温度となり、縦軸(地上の日平均気温との差)が大きくなっている。緑四角印は二酸化炭素の 吸収・射出の強い15μm前後の波長範囲のエネルギーも含むために、赤三角印と黒印(全波長)の 中間に入っている。

全波長範囲の大気放射量 L を放射温度計を利用して観測することは原理的にできないが、近似値 なら推定することができる。その方法の例として、

(1)σTm-L:地上の日平均気温に対する黒体放射量-大気放射量
(2)Tm-Tsky:地上の日平均気温-放射温度計による天空の放射温度

あらかじめ、(1)と(2)の関係をつくっておく。季節ごと、雲の状態(上・中・下層雲)ごと に作成したこの関係を利用して大気放射量を推定することは可能である。

47.5 結氷量の測定と解析の指針

前章までは、微風の夜間に重点を置き、容器の側壁・底面から逃げる熱を無視してきた。以下では、 風がある夜間に水面(氷面)と大気間の交換速度 ChU を考慮し、さらに容器の側壁・底面を通して 熱伝導で失う熱量(これを「熱ロス」と呼ぶ)も含めた熱収支解析の指針を示す。

47.3節で考察したように、ひと晩の結氷現象において、水の深さが30mm程度の場合、準定常 (水温が近似的に一定)の仮定が許される場合、 結氷量を測定する水を入れた容器の熱収支式は、容器から熱量が失われる場合にプラスの符号を つけるとすれば、次式で表される。

 Rn+H+lE+G=0 ・・・・結氷していないとき(水面)・・・(1)
 Rn+H+lSE+G=lFM ・・・・・・・・結氷時(氷面)・・・・・(2)

 正味放射量:Rn=σTs-L ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
 顕熱輸送量:H=CpρChU (Ts-T)・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
 潜熱輸送量:lE=lρCeU (qW-q )・・・水面に対して・・・・(5)
 潜熱輸送量:lSE=lSρCeU (qW,ICE-q )・・氷面に対して・・・(6)
 比湿:  q≒0.622e/p ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(7)

ここに、 e は水蒸気圧(hPa)、p は大気圧(≒1013hPa)、熱ロス G は容器の側壁・底面から 外へ単位時間に逃げる熱量、M は結氷量(水等量で表す氷の厚さ mm または氷の量 kg m―2)、 Ts は水面(氷面)の温度、qW と qW,ICEは、それぞれ水面と氷面に対する 飽和比湿、その他の記号 はすでに第2節で示した通りである。

(注意)G の単位は水面上のRn, H, lE などの単位と同じにするために水面の単位面積当たりの 熱量と定義する。つまり、側壁から逃げる熱もあるが、これも含め、水面の単位面積当たり 単位時間当たりの熱量として取り扱う。

CeU は ChU より数%大きいが、ここでは近似的に等しいとみなして取り扱う。

(a) 熱ロスの見積もり
容器の側壁・底面から失う熱量(熱ロス) G の見積もりは複雑になるので、可能な限り G を 5 W m―2 以下にして誤差を小さくしたい。そこで、例えば厚い円板状の発泡スチロールの ような断熱材の中央部分をくり抜いて、氷結皿の容器がちょうど入るような形を作り、それに容器 をセットする。この場合、水を入れる容器の上端と断熱材の上面の高さをほぼ一致させる。同時に、 容器の蓋も断熱材で作る。容器を入れる断熱材の直径と蓋の直径は容器の直径よりは10cmほど 大きめに作る。

Gは次の式で近似的に表される。

 G=k(Tw-T)・・・・・(8)

ここに k は準備実験から決める定数、Twは水温、Tは気温である。

この準備実験は、蓋をずらしたとき水面からの熱放出量が大きくならないように風の無い室内 で行う。まず、気温(室温)よりも10℃ほど高温の水を容器に入れ、蓋をして1時間ほどなじませて おく。その後、蓋を横に少しずらして水温を素早く測定し、蓋を閉じる。3時間後に同様に水温を 素早く測定する。水温の測定は例えば放射温度計で行うが、その際に水面での反射が入り難いように 放射温度計を水面の真上から真下に向けて測定する。水は本番実験の場合と同じ深さまで入れて 行う。

水温下降量をDTwとすれば、δt秒間(3時間なら10,800秒)のうち水面の単位面積、単位時間当たり に失った熱量は、

 G’=c×m×DTw / δt ・・・・・・(9)

水の比熱 c=4.21×10J kg-1K-1、水面の単位面積当たり の水の質量 m=30 kg m-2 (水深=30mmのとき)、 G’ は容器に入れた水面の単位面積当たりから熱伝導によって 側壁・底面および蓋を通して単位時間に外へ逃げる熱量である。そのうち、側壁・底面から 外へ逃げる熱量は、G=(2/3)G’ と仮定する。

熱ロスの見積もり実験の例:
水深=30mmの水温がδt=10,800秒の後に1℃下降したとすれば、G’=11.7 W m2となる。 仮定によって、G=G’×(2/3)=8 W m-2となる。この値を式(8)に代入し、 実験が(Tw-T)=10℃の条件で行われたとすれば、k=0.8 W m-2K-1 を得る。

予備実験は大きな温度差(Tw-T)=10℃で行ったが、表47.3の条件では(Tw-T)≒ (Ts-T)=0.7℃であるので、実験の計画( G<5W m-2)を十分に満たしている。

式(9)から得た G’ には、容器の側壁・底面から逃げる熱量のほか、蓋を通して逃げる熱も含み、 それぞれの寄与は全体の構造にも依存する。ここでは蓋を通して逃げる熱を1/3と仮定して、 定数 k を求めたが、G が小さな補正項であるので、その誤差が全体に及ぼす影響は小さい。 そうなるように、容器の側壁・底面の断熱をしっかり作る。

なお、断熱材の中に入った容器から側壁・底面を通して熱伝導で逃げる熱 G は外部の風速に ほとんど依存しない。

(b) 交換速度 ChU の決定

水面が失う熱(顕熱、潜熱、正味放射量、熱ロス)のうち、一般の条件では正味放射量が他に 比べて大きい。この実験は水面が単位時間に失う熱量を正しく測らねばならぬので、室内で行う のが望ましい。正味放射量は天井・側壁の平均温度と水面温度の差から求める。

例えば、
(方法1)室内で扇風機を使って風を吹かせた実験を行う。
(方法2)数台の小型ファンモータを用いた風洞を作り、その中へ結氷量の実験に用いる容器を 入れて実験する。その容器はファンモータで風を吸引する側にセットする。
(方法3)野外または室内で、太陽の直射光を容器に当てて行えば蒸発が盛んになるが、直射光 のエネルギーを正しく測定しなければならない。その場合、「水環境の気象学」の式(4.75) を利用し、直達光のエネルギー I を計算し、水平面上の値 S=Icos θ (θは太陽の天頂角)を 用いる。

直射光を入れる(方法3)は難しいので、(方法1)か(方法2)を勧めたい。

室内(風洞)の天井と側壁の温度が気温 T に等しいならば(放射温度計で測る)、

 正味放射量:Rn=σTs-L-S=(σTs-σT4)-S ・・・・・・・・(10)

の数値はいくらになるか? 太陽光を入れなければ Rn=-30 W m-2程度、直達光を入れるときは概略 Rn=-500 W m-2程度になるだろう。容器の水面では蒸発が起きているので、 Rn の絶対値が小さければTs<Tとなる。乾燥した日に実験すれば、気温と水温の差は大きく 精度が上がる。

「実験A」
交換速度 ChU を求める実験は容器に水を入れた状態で行うので、式(1)(4)(5)から、

 -(Rn+G)=(H+lE)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
      =ChU [ Cpρ (Ts-T)+ lρ(qW-q ) ]・・・・・(12)

この熱収支式の左辺において、日射が当たっていなく、蒸発が起きているときは、Ts<T で あるので、この場合はRn<0、G<0 となる。

気温が20℃前後だとすれば、空気の体積熱容量Cpρ=1.21×10 J K-1 m-3(1気圧、20℃)、 空気密度ρ=1.19 kg m-3(1気圧、20℃)、水の気化の潜熱l=2.50×10 J kg-1(0℃)、 また水面温度 Ts、気温 T、水面に対する飽和比湿 qW、空気の比湿 q は測定中の平均値 であり、左辺の(Rn+G)の Rnは式(10)から、G は式(8)から計算で求めることができるので、 交換速度 ChU は上の式(12)から得られる。

「実験B」
さらに「実験A」で得た ChU についてチェックするために、もし、10グラムの精度で 3 kg 程度(容器に入れた水と 断熱材の総重量)まで測ることのできる秤があれば、単位時間当たりの蒸発速度 E を正確に測定し、 式(5)に代入して CeU(≒ChU) を求め、式(11)から得た ChU と比較する。

 蒸発速度:E=ρCeU (qW-q )・・・・・・・・(5)

この蒸発速度を測る実験において、例えば E=1mm/3hr の場合、[mks] 単位系では E=1 kg m-2/10,800s を用いることになる。

以上の実験は1回につき3~6時間ほどかかる。風速が違う3つの条件(U≒0、1m/s、3m/s) について同様の実験を行い、縦軸に ChU をとり、横軸に風速 U をとってプロットする。 それらのプロットから ChU を風速 U の関数として表す。熱収支評価の目的に用いる ChU の誤差 は30%程度あってもよいので、風速もそれと同等の精度があれば十分である。

実験A実験Bにおいて、用いる測定機によるが、どちらの精度が高いかを判断し、 精度の高い実験から得た ChU に重みをおいて関数形を決める。直線近似でもよいし、風速の平方根 を用いる形式、その他の関数形でもよい(「地表面に近い大気の科学」の表5.1参照)。

ごく大まかな目安は、容器の脇に設置した風速計で測った風速がゼロに近いとき ChU~0.002m/s 前後、 風速U=3m/s のとき ChU~0.02m/s 前後が予想される、ただし容器の直径が240mm前後の場合で ある(「地表面に近い大気の科学」の表5.1も参照)。容器の大きさが大きくなれば、ChU は小さく なる。

上記では交換速度の求め方の例を示したが、ほかにもチェックの仕方があるので、準備できる 測定機その他の条件によっていろいろ工夫しよう。

「実験C」
気温より10℃ほど高温の水を容器に入れ、少しなじませた後、その水温下降から ChU を求める 実験を行うこともできる。この場合は1時間程度の短時間内の測定であり、総蒸発量が少なく 蒸発速度の精度が低くなるので、ボーエン比(=H/lE)を仮定する。この際、実験時の気温や 水温などの条件を用いて熱収支式を別途に解き、その計算から得られるボーエン比を仮定する。 ボーエン比は低温時に大きく、高温時に小さくなる。

(c) 結氷の本実験

熱ロス G の評価と、水面(氷面)と大気間の交換速度 ChU がわかったので、結氷の本実験を 行うことができる。

野外にて、地面から概略 0.5m 程度の棒の先端に平板を取り付けた台を置き、それに結氷実験を おこなう容器(断熱材つき)を載せる。風速計の受感部は地面から 0.7m 程度に設置する。 風速計がない場合は、風速は目測するか、手製の簡易風速計で測る。簡易風速計は、例えば軽い小球 を糸で棒にぶら下げて、その糸の傾きから風速を知ることができる。

気温と湿度(水蒸気圧)は地上 0.7m 程度の高さで観測する。場所によって気温と湿度が大きく 違わない場合は、少し離れた場所で観測してもよい。

容器内の水面温度の観測は最低限、夕方と朝の結氷量測定時に行う。夜間の下向き放射量は 観測することが望ましいが、実験式を用いて夜間の平均値を推定してもよいだろう。

あとがき

熱収支をよく理解するための例題として、「身近な気象」の 「M50.放射冷却の演習問題」 「M52.放射冷却の演習問題(解答)」や、 この章で取り上げた「氷結量の熱収支解析」がある。これらの例題を通じて熱収支の基礎が 理解でき、計算にも慣れたならば、より複雑な研究課題や応用問題に取り組むことができよう。

冬季の寒さを利用して天然氷を作るには、どういう場所・地域であれば効率的か、地形なども 含めて検討してみよう。日中の日射量が少ない谷合い地形がよいのだが、図4.7を参考にすると、 あまり深い谷では夜間の下向き放射量が多くなり、夜間の放射冷却が弱く、より多くの氷は作れ なくなる。

このような実用的な場合の容器は大きくなるので、交換速度は小さな値を用いることになる (「水環境の気象学」の式7.35~7.40参照)。風速や気温などの具体的条件を用いて検討してみよう。

冬季の道路凍結は、どのような場所で起きやすいか、など検討することができる。この場合、 高速道路の管理者から経験則を聴きだして、その経験則がどうして生まれたかについて検討 することも面白い。つまり、経験則の理由づけを行うことができる。

参考文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、219pp.

近藤純正、1987:身近な気象の科学.東京大学出版会、189pp.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支―.朝倉書店、350pp.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学―理解と応用―.東京大学出版会、324pp.



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