K152. 市街気温の高精度観測、仙台(3.七夕見物人の影響)


著者:近藤純正・角谷清隆・近藤昌子
仙台七夕の大勢の見物客がアーケード街の気温に及ぼす影響や並木道の気温、 および気象台露場の日だまり効果などを調べた。
(1)気温が20℃前後のとき、中央通りアーケード街「クリスロード」の 正午前後の気温は、気象台や並木道「定禅寺通」に比べて約2℃ほど高温であるが、 気温が高くなると商店街のエアコンによって冷房されて、気象台の気温より 低くなり、気象台の気温が30℃の高温日は約2℃ほど涼しくなる。 曇・雨日は晴天時に比べて平均0.5℃ほど低温になる。晴天日は、 アーケード街に入る日射量が 80 W/mほど大きいことによる。

(2)七夕初日の2017年8月6日は日曜日で正午過ぎには晴天となり、 大勢の見物客があり、普段に比べて1℃ほど上昇した。2日目の7日は日照ゼロの 曇りで人出も若干減り、普段の曇・雨日に比べて0.4℃程度の上昇となった。 これらの平均0.7℃の上昇は人出の発熱量(概算 110 W/m)に よるものである。 3日目の8日は台風の影響による雨で風も強く、気温上昇は0.2℃程度または それ以下であった。

(3)全長330mのアーケード「クリスロード」と日射透過率が小さい全長200mの アーケード「おおまち」の気温を比較した。「おおまち」はビルとビルの隙間から 風の出入りもあり、昼夜平均として0.44℃低温である。

(4)並木道「定禅寺通」の日陰による晴天日中の気温下降量を調べた。 街路樹の影響がほとんど無視できる作並街道および二十人町西の気温 と比較した結果、並木道では0.6℃ほど低温であることがわかった。

(5)仙台管区気象台の観測露場では、南側にある東西道路の並木が着葉する季節 (5月中旬以後)、南寄りの風が吹く晴天日中は、「日だまり効果」によって 気温が0.55℃ほど高くなる。 (完成:2017年9月10日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2017年8月10日:作成開始、8月8日の観測まで
2017年9月7日:9月1日までの観測を追加

    目次
        152.1 はじめに
        152.2 観測        
        152.3 連続記録の気温の比較
        152.4 アーケード街「クリスロード」の正午前後の気温
        152.5  気温上昇と人体発熱量の概算 
        152.6  おおまち商店街とクリスロードの気温差  
        152.7  気温に及ぼす並木の影響
        152.8  気象台露場の日だまり効果による昇温量
        まとめ
        参考文献                    


観測協力者・機関(敬称略)
佐藤正一郎(竹中工務店仙台支店)
成田 裕幸(東北大学)

研究協力者・機関(敬称略)
仙台市青葉区役所
仙台市宮城野区役所
クリスロード商店街振興組合
おおまち商店街振興組合

気温観測データ
仙台管区気象台の1分毎気温データは気象庁観測部提供によるものである。


152.1 はじめに

本研究は日本の地球温暖化量を正しく評価する目的から始まったものであり、 観測所の環境が悪化すると「日だまり効果」によって平均気温が上昇すること など、観測環境と風速・気温の関係を調べてきた。

気象観測所の多くは都市にあり、周辺の環境変化が観測値に影響を及ぼす。 これを定量的に明らかにする目的で新しいシリーズ研究が始まった。本研究は、 「K149.市街気温の高精度観測、仙台(1)」「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」の続報 であり、近年深刻化した熱中症対策や快適な都市設計にも役立つものである。

都市気候は今後、地球温暖化と都市化による昇温が加わり、高温化していく。 とくに夏期の昇温を緩和する都市環境が求められる。快適な都市環境は、 どのように設計すべきか、並木道や公園の整備・管理に役立てられよう。

仙台市内には特徴ある通りがある。道幅46mの定禅寺通は並木の大路であり、 その中央分離帯には並木の遊歩道があり気温観測を行うのに適している。 また、有名な七夕の飾りのできる天井が高くて長いアーケード街(中央通 のクリスロード)もある。

この第3報では、8月6日~8日に開催される七夕祭りで大勢の見物人が アーケード街にくる。その人体発熱量(ひとり当たり約100ワット)が気温を いかほど上昇させるか、観測から調べた。さらに8月27日~9月1日の 観測結果も含めた報告である。


152.2 観測

最近、気温観測用の高精度通風筒が市販化された (「K126.高精度通風式気温計の市販化」; 「K146.高精度気温観測用の横型通風筒」)。 本観測では、その原型となった軽量の手製品を用いる。

気温観測の方法
「K148.市街気温の高精度観測ー平塚」」で 示したように、高精度の通風式気温計を自転車のハンドルの軸に固定した伸縮棒 の先端に取り付ける。自転車で観測区間をゆっくり移動し、2~4時間 かけて10~20往復する。地上高度1.8m程度の気温を観測する。身体からの放熱の 影響を受けないように注意する。

図152.1は観測路の地図である。観測の全範囲は東西3km、南北1.5kmの中に 含まれる。表152.1は道路の詳細であり、各観測区間の長さは100~400m である。

地図仙台市街
図152.1 仙台市内の地図、Google マップに加筆。
赤長方形:移動観測の東西道路
紫長方形:移動観測の南北道路
丸印:公園の固定観測点
四角印:仙台管区気象台

表152.1 道路の一覧表、長さは観測する距離
道路一覧表


自動車が多い道路では、両側の歩道で観測し、その平均値を平均気温とする。 歩道では車道近くを移動、または車道を移動する。左右の歩道における気温は、 一般に右側と左側で異なるので、右側と左側でほぼ等しい時間になるように 観測する。

6月以降の観測では、定禅寺通とクリスロードの2か所を新しい固定観測点 (昼夜連続観測)とした。クリスロードの観測点では、閉店休業中の店の前に ある樹木に気温計を取り付けたので、エアコンによる冷暖房の直接的な影響 は無視できる。

8月27日~9月1日の観測では、おおまち商店街にも固定観測点を設けた。 おおまち商店街のアーケードは東二番丁通を隔ててクリスロードの西側にあり、 天井は太陽光透過率が低い構造である。

なお、東西のアーケード街「クリスロード」は全長330m、東端は愛宕上杉通、 西端は東二番町通である。道幅50mの東二番丁通を挟んで西側にあるアーケード街 「おおまち」は全長200m、西端は南北のアーケード街「東一番丁通」である。

クリスロードでは、ビルとビルの隙間は完全に近い形でふさがれているのに対し、 おおまちは、ビルとビルの間から、わずかな風の出入りがあり、アーケードに つけられた旗がなびくことがある。こうした違いが、気温の差として現れる 可能性がある。

気温の記録
気温は1分間隔で記録し、60分間(60データ)ごとに平均気温を求め、 異常値など無いか確認したのち、最終的に2~4時間の平均値を1データとする。

仙台管区気象台の気温は1分間隔データから2~4時間の平均値をもとめる。

基準気温と気温差の定義
仙台では、気象台の南側にある榴岡(つつじがおか)公園の広い芝地の気温は 広域の気温を代表する。榴岡公園を基準とした場合の気温差は次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー榴岡気温・・・・・(広芝地基準:榴岡公園基準)

並木の有無の効果を表すときは、定禅寺通を基準として次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー定禅寺通気温・・・・・(定禅寺通基準)

気象台の気温を基準とするときは、各観測地点の気温差を次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー気象台補正気温・・・・・(気象台基準)

気象台補正気温とは、観測値に放射影響の誤差を補正した値である。

備考1:気象庁型気温計の放射影響による誤差
今回用いる高精度気温計に比べて気象庁型気温計用の通風筒は放射影響 を受けやすく、晴天日中は0.3~0.4℃ほど高温に観測される (「K99.通風筒の放射誤差(気象庁95型、農環研09S型」 )。

放射影響の誤差を仙台管区気象台の気温計について調べた (「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」の 付録1を参照)。

その結果、正午前後の平均気温の解析では、気象台の気温観測値は次式で 補正する。N (=0~1)を日照率として、

◎ 気象台補正気温=観測値ー0.1℃ー(放射影響による誤差)・・・(式1)
放射影響による誤差(℃)=ー0.1398×N2+0.4223×N+0.0749・・・(式2)


式1の右辺第2項の0.1℃は、気象台の気温計に及ぼす放射影響による誤差とは別に、 高精度気温計に比べて相対的に0.1℃ほど高めに観測されることを意味している。

備考2:南東寄りの風のときの、榴岡公園および仙台管区気象台の気温
榴岡公園広芝地および仙台管区気象台の気温は、市街中心部に比べて低温に観測される。 これは榴岡公園と仙台管区気象台が岡の上にあるためである。解析に際して注意が 必要である (「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」)。


観測一覧表
表152.2~152.4はそれぞれ榴岡公園基準、気象台基準、定禅寺通基準の気温差、 その他の観測一覧表である。第1報と第2報で示した観測データも含めてある。

表152.2 気温観測表(榴岡公園基準)
観測点が気象台の欄、 観測点気温:気象台の観測値
観測点が気象台の欄、 観測点気温補正値:式1の補正式による気象台の補正気温
気象台風向・風速:測風塔高度52.6mにおける風向・風速
榴岡基準観測表

表152.3 気温観測表(気象台基準)
基準点気温観測値:気象台の観測値
基準点気温補正値:式1の補正式による気象台の補正気温
気象台基準観測表

気象台基準観測表つづき

表152.4 気温観測表(定禅寺通基準)
気象台風向・風速:測風塔高度52.6mにおける風向・風速
定禅寺通基準観測表

定禅寺通基準観測表つづき


市街地の状況
おもな観測地点・道路の写真は第1報と第2報で示した。図152.2~4は追加の 写真である。なお、図152.5~7はアーケード街「クリスロード」の人出の密度を 求めるための写真である。

二十人町西、西方向
図152.2 二十人町西、観測区間の東端から西方向を撮影(2017年8月6日)。

二十人町、東方向
図152.3 二十人町西、観測区間の西端から東方向を撮影(2017年8月6日)。

大町商店街
図152.4 おおまち商店街、気温計設置状況(2017年8月30日)。
 左:商店「ダイソー」前の気温計(赤矢印)、アーケード東端から56m
 右:百貨店「藤崎」北側の気温計(赤矢印は設置場所、設置していないときの 写真)、アーケード西端から75m


見物客1、水平方向から
図152.5 クリスロードの人出状況1、水平方向に撮影(2017年8月6日)。

見物客2、斜め上方から
図152.6 クリスロードの人出状況2、斜め上方から撮影(2017年8月6日)。

見物客3、斜め上方から
図152.7 クリスロードの人出状況3、斜め上方から撮影(2017年8月6日)。


152.3 連続記録の気温の比較

(その1)8月5日~8日の気温
図152.8はアーケード街「クリスロード」、並木道「定禅寺通」、 二十人町西、および気象台における気温の昼夜連続記録の比較である。

上図は定禅寺通を基準とした気温差の時間変化であり、正午前後については 二十人町西の気温差(8月5日、6日のみ)もプロットしてある。

連続記録、8月5-8日
図152.8 昼夜連続記録の気温(8月5日~8日)。
横軸の8月5日の位置は5日0時、6日の位置は6日0時、・・・・を表す。
気象台のプロットは気温観測用通風筒に及ぼす放射影響の誤差は未補正である (この図と次の図に限り未補正)。
上:定禅寺通基準の気温差、1時間ごとの平均値
下:前後10分間(20分間)の移動平均気温


アーケード街「クリスロード」(赤印)は昼夜にかかわらず他よりも高温である。 七夕祭り以外の日については前報で示したように、気温が27~28℃以上になるとき、 クリスロードの気温差(上図の赤丸印)はマイナスの値になるのだが、七夕初日の 8月6日は+1℃ないしそれ以上である。これは、大勢の見物人の発熱が気温上昇 となって現れたと考えられる。

他の特徴として、8月8日の早朝にクリスロードの気温差がゼロに近づいている。 台風によって、仙台では降雨となり、ESE~Eの風が強く気象台では平均風速は5m/s 以上となった。そのため、気温差が小さくなった。このような気象条件でない 普段の夜間の気温差は+1~+2℃である( 「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」)の図150.13を参照)。

(その2)8月27日~9月1日の気温
七夕まつりが終わってから、8月27日~9月1日の期間にはクリスロードのほか、 その西側の「おおまち」商店街のアーケードでも気温観測を行った。

図152.9は8月27日~9月1日の気温差(上図)と気温(下図)の時間変化である。 大きな特徴は、(1)気温が30℃前後になった8月29日の日中、クリスロードの 気温差(赤丸印)はマイナス側へ大きく落ち込んでいる。すなわち、アーケード 街は冷房によって2~3℃も涼しくなった。

特徴の(2)は、下図から分かるように高温日の翌日と翌々日(30日と31日)の日中 は気温が大きく下がったが、曇りであるにもかかわらず気温差は通常より大きい 値である。このことは、後掲の図152.10と152.11で明瞭に見える。

連続記録、8月27-9月1日
図152.9 昼夜連続記録の気温(8月27日~9月1日)。
横軸の8月27日の位置は27日0時、28日の位置は28日0時、・・・・を表す。
気象台のプロットは気温観測用通風筒に及ぼす放射影響の誤差は未補正である (この図と前図に限り未補正)。
上:定禅寺通基準の気温差、1時間ごとの平均値
下:前後10分間(20分間)の移動平均気温


特徴の(3)として、おおまちの気温差はクリスロードより小さいが、 気温が30℃ほどの高温になると、クリスロードほどマイナスが大きく ならない。つまり、おおまちの気温は外気温(気象台や定禅寺通の気温)と クリスロードの中間の値をとる。すなわち、アーケード「おおまち」はアーケード 「クリスロード」に比べて外気が入りやすいことを表している。

備考3:クリスロード商店街のエアコン設定温度
8月7日に商店街の8店にエアコン設定温度を尋ねた結果、
5店・・・一定温度に設定(23℃~26℃)、
2店・・・その日の体感温度によって1~2℃の幅で変える、
1店・・・エアコンは使用していない。


152.4 アーケード街「クリスロード」の正午前後の気温

アーケード街「クリスロード」における正午前後の日射量は外部の12%で小さいが、 外からの風が入りにくく、高温に保たれることは第1報で示した。

しかし、5月中旬以後は気温が高くなる日も多くなり、商店の冷房エアコンが作動 する季節となる。冷房エアコンの効果によって高温化が緩和されて、涼しくなる。 図152.10は気象台の気温(横軸)と気温差(縦軸)の関係、 図152.11は定禅寺通の気温(横軸)と気温差(縦軸)の関係である。

この両図から次のことがわかる。
(1)赤丸印は南寄りの風(SE~SSE)の晴天日、赤実線はその平均的関係を表す。 黒四角印は南寄りの風の曇・雨日、黒破線はその平均的関係を表す。 赤実線と黒破線の差は0.5℃である。晴天日と曇・雨日のアーケード街の日射量の 差は概略80 W/mであり、この熱エネルギーの差が赤実線と黒破線の 気温差として現れている。

(2)晴天日(赤線)を見ると、気温が約28℃を超える日は、気温差はマイナス つまりアーケード街は気象台や定禅寺通の気温よりも低温になる。

クリスロード気温差、気象台基準
図152.10 クリスロードの気温差と気象台の気温との関係。
赤線と赤丸印:晴天日
黒破線と黒四角印:曇・雨日
青塗りつぶし丸印:西寄りの風の日
8/6(晴天)、8/7(曇り)、8/8(強風・雨):七夕の日
8/30(曇り)、8/31(曇り):8/29から気温が急に10℃ほど下降


クリスロード気温差、定禅寺通基準
図152.11 クリスロードの気温差と定禅寺通の気温との関係。
赤線と赤丸印:晴天日
黒破線と黒四角印:曇・雨日
8/6(晴天)、8/7(曇り)、8/8(強風・雨):七夕の日
8/30(曇り)、8/31(曇り):8/29から気温が急に10℃ほど下降


七夕祭りの8月6日~8日は人出が多くなり赤線や黒破線より高温側にずれている。 高温側にずれる昇温量は表152.5に示した。

表152.5 七夕祭りのクリスロードにおける正午前後の気温上昇
クリスロードの昇温量


(3)8月8日は風の強い雨天であり人出も減少し気温上昇は0.2℃で誤差の範囲 内であり、例外と見なすことにすれば、6日と7日の結果から、大勢の七夕客の 発熱量がアーケード街の気温上昇に及ぼした影響は0.4~1.0℃程度とみなされる。 次節で概算されるように、七夕祭り初日の見物人の発熱量は概算 100 W/mであり、熱エネルギーと昇温量の関係が前記(1)の 晴天日と曇・雨日の関係によく対応している。

(4)日中の気温が30℃ほどになった8月29日の翌日と翌々日(30日と31日) の気温は10℃ほど大きく下がった。30日と31日の気温差は曇りの日の平均 (破線)より0.7℃程度も大きい。0.7℃程度も大きい理由の一つとして、 アーケード街の道路・ビルからなるコンクリートの蓄熱効果が考えられる。

アーケード街「クリスロード」の特徴として、日射量が少ないことと風通し不良 なことは密な森林に似ている。密な森林では、大雨が続いて林床土壌が多くの 水分を含むと、翌日から晴天になっても蓄熱効果のために林内気温の上昇が正常 にもどるまでに4日間ほどかかる (「K117.自然教育園の林内気温、6月~ 10月」の図117.8を参照)。アーケード街で観測された現象は、 大雨後の森林内における蓄熱効果の現象と似ている。

備考:西寄りの風のときの気象台の気温
図152.10にプロットした青塗つぶし印は、西寄りの風の晴天日である。気象台の 観測露場は、西方向が開けており、「日だまり効果」による気温上昇はぼぼ ゼロである。晴天日の他のプロットは南寄りの風のとき(日だまり効果あり)で データ数が多い。そのため、西寄りの風のときを区別して表してある。


152.5 気温上昇と人体発熱量の概算

アーケード街「クリスロード」の道路幅10mを参考にして、幅10m×長さ10m 当たりの面積中に、何人いるかを写真撮影する。

七夕祭り初日(8月6日)は日曜日でもあり、人出がもっとも多かった。14時~15時 頃の時間帯の人数を前掲の図152.5~7から推定する。

・ 道路幅10mに12人
・ 長さ方向には一人0.7m(荷物など厚みも含む)
・ 長さ方向は10m当たり10m÷0.7m=14人
・ 12×14=168人(100平方m当たり)
・ 実際には人の流れに粗・密が見られた。

クリスロード両端には横断歩道があり、信号の青・赤の切り替えに応じて 通路の人の流れに粗・密があることなどから、上記の人数の2/3程度が人出の多い 時間帯の平均的な人数と推定した。つまり、

七夕祭りの人出の密度=168×2/3=110人/100m=1.1人/m

人体の発熱量は子供・成人・老人平均して概略 100 W/人 とすれば、上記密度では 面積当たりの発熱量は、110 W/mとなる。

クリスロードの日射透過率は12%であり、仙台の夏期晴天日の正午前後の水平面 日射量の12%がこの値(110 W//m)にほぼ等しくなる(近藤、1994)。

152.6 おおまち商店街とクリスロードの気温差

前述のように、おおまち商店街のアーケードは東二番丁通を隔てて クリスロードの西側にあり、天井は太陽光透過率が低い材質でつくられた 構造である。

晴天日の正午前後にアーケード街に入る太陽光エネルギーは、おおまち商店街が 80 W/m程度少ない。そのため、両アーケード街の気温に 違いがあると予想される。

図152.12はおおまちとクリスロードの気温差の時間変化である。8月29日18時に 気温計は百貨店「藤崎」の北側から、東方の商店「ダイソー」の前に移転 させた。そのとき、気温差は1℃ほど小さくなった。藤崎の北側では、店からの 冷房空気は直接的に流れてこない場所であるが、ダイソーは店の真正面の塔に 気温計を設置したため、冷房の直接的影響を受けて気温差が小さくなったと 思われる。

おおまちとクリスロードの気温差
図152.12 おおまちとクリスロードの気温差(8月27日~9月1日
赤点線:(おおまち気温)ー(クリスロード気温)
黒線:同じアーケードのおおまち内の「藤崎北側とダイソ-前の気温差」
 

このことを確認するために、8月31日18時~9月1日14時まで、藤崎北側にも 別の気温計を設置して両地点の気温差を調べた。黒線は藤崎北側とダイソー前の 気温差である。

店が閉まったあとの21時ころから翌朝の9時ころまでの気温差はゼロに近いが、 開店中はダイソー前が最大0.5℃低温である。

図152.12に示した全期間中の気温差(おおまち)-(クリスロード)は ー0.44℃である(おおまちが低温)。


152.7 気温に及ぼす並木の影響

前報では、並木道「定禅寺通」の4列並木が気温に及ぼす影響をみるために、並木の 影響がほぼ無視できる作並街道の気温と比較した。表152.4によれば、 晴天4日間の気温差の平均値=0.86℃、つまり並木は晴天日中の気温を0.86℃ほど 低くする。

しかしながら、作並街道(道幅=27m)は定禅寺通(道幅=46m)に比べて道幅が 狭いので、正しい比較になっていない。 「K148.市街気温の高精度観測、平塚」の図148.18によれば、

道路幅の比=46/27=1.7 の違いによる気温差≒0.2℃である。したがって、並木 の影響は同じ道路幅であれば0.86℃ー0.2℃=0.66℃と推定できる。

道路幅の影響を見るために、46mの道路幅をもつ二十人町西で、 晴天日の8月6日(正午過ぎに晴天)と快晴日の8月27日に気温を 自転車によって移動観測した。表152.4によれば、気温差の平均値=0.34℃で ある。

推定値0.66℃よりも小さい理由として、二十人町はビルの間の所々に広い 駐車場があり、道路幅のみから見たよりも平均的な「空間広さ」が大きく ”風通しが良い”と考えられる。

観測回数が少ないので暫定値ではあるが、定禅寺通の並木は晴天日中の気温を 0.6℃(=0.86℃と0.34℃の平均)ほど低くするとみてよいだろう。 つまり、樹木の影響のない市街地道路を基準とした定禅寺通の気温差=-0.6℃ である。

定禅寺通の並木林の日射透過率=0.14(木漏れ日率=17%)である (「K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定」の 図113.5を参照)。

平坦地の森林内の気温差と木漏れ日率の関係を表した 「K115.新宿御苑の気温水平分布」の図115.3を参照すると、 見通し良好木つまり風通し良好林では、木漏れ日率=17%の林内における 晴天日中の気温差=-0.3℃前後である。観測値のプロットのバラツキを考慮 すれば、ー0.6℃はー0.3℃前後と似た値であるといえよう。


152.8 気象台露場の日だまり効果による昇温量

仙台管区気象台の観測露場の環境は、都市観測所としては良いほうだが、南側の 東西路に植えられた落葉の街路樹が成長してきた。そのため、5月中旬~10月の 晴天日の卓越風向(南~南東の風)のとき、露場の風が弱められて「日だまり効果」 によって、気温が高めに観測される可能性がでてきた。

図152.13は気象台の南側にある榴岡公園の広芝地の気温を基準としたときの 気象台の気温差である。風向が南寄りのときと西寄りのときを記号分けしてあり、 大きい赤丸印は快晴日の気温差である。

快晴日に注目すると、街路樹の着葉した5月20日以後は+0.80~+0.62℃ (平均気温=15~16℃でやや低温時)であり、その後は+0.48~+0.31℃ (平均気温=20~27℃でやや高温時)となった。

気象台の日だまり効果
図152.13 晴天日正午前後における仙台管区気象台露場と榴岡公園広芝地の 気温差の季節変化
赤丸印:南寄りの風のとき(気温差の平均=0.37℃±0.28℃)
太い赤丸:同上の快晴日(気温差の平均=0.55℃±0.21℃)
青塗つぶし:西寄りの風のとき(気温差の平均=0.08℃±0.03℃℃)


樹木の風下で生じる「日だまり効果」による昇温量は、やや低温の季節に大きく、 高温の季節に小さくなる。その理由は次のとおりである。

日射量が大きくなる4月以降について考えると、 葉面が吸収した太陽エネルギーの大部分はやや低温の季節には 顕熱に変換されて風下の大気を昇温させるが、高温の季節になると、蒸散の 潜熱に費やされる分が多くなり顕熱に変換される割合が小さく風下大気の昇温は 小さくなる。いわゆるボーエン比の気温依存性の原理によるのである。 「東京都心部の森林(自然教育園)における熱収支解析」 の図123.1と図123.9を参照。

つぎに、西寄りの(西北西)風のとき(青塗つぶし印)の気温差はほぼゼロ に近く、気温差の平均値=0.08℃である。西北西の方位の空間広さは両者ほぼ 等しく6程度で、日だまり効果による昇温量の違いが無視できるからである。 (「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」 の付録3を参照)。


まとめ

七夕まつりの大勢の人出がアーケード街の気温に及ぼす影響や、並木道が気温を 低くする度合い、および仙台管区気象台における晴天日中の日だまり効果を調べた。

(1)気温が20℃前後のとき、中央通りアーケード街「クリスロード」の正午 前後の気温は、気象台や並木道「定禅寺通」に比べて約2℃ほど高温であるが、 気温が高くなると商店街のエアコンによって冷房されて、気象台の気温より 低くなる。例えば、気象台の気温が30℃の高温日には約2℃ほど涼しくなる。 曇・雨日は晴天時に比べて平均0.5℃ほど低温になる。晴天日の正午前後は、 アーケード街に入る日射量が 80 W/mほど大きいことによる。

(2)七夕初日の2017年8月6日は日曜日でもあり正午過ぎには晴天となり、 大勢の見物客があり、普段の晴天日に比べて1℃ほど上昇した。2日目の7日は日照 ゼロの曇りで人出も若干減り、普段の曇・雨日に比べて0.4℃程度の上昇となった。 これらの平均0.7℃の気温上昇量は人出の発熱量(概算 110 W/m)に よるものである。 3日目の8日は台風の影響による雨で風も強く、気温上昇は0.2℃程度または それ以下であった。

(3)全長330mのアーケード「クリスロード」と日射透過率が小さい全長200mの アーケード「おおまち」の気温を比較した。「おおまち」はビルとビルの隙間から 風の出入りもあり、昼夜平均として0.44℃の低温である。

(4)並木道「定禅寺通」の日陰による晴天日中の気温下降量を調べた。 街路樹の影響がほとんど無視できる作並街道および二十人町西の気温 と比較した結果、並木道では0.6℃ほど低温であることがわかった。

(5)仙台管区気象台の観測露場では、南側にある東西道路の並木が着葉する季節 (5月中旬以後)、南寄りの風が吹く晴天日中は、「日だまり効果」によって 気温が0.55℃ほど高くなる。


アーケード街における パラメータ 「エネルギー/気温差」の見積もり
クリスロードにおける、正午前後の気温の違いを熱エネルギーと 対応させると次のようになる。

・ 晴天日の正午前後は曇・雨日に比べて0.5℃ほど高温である。アーケード内へ 入射する日射量の違いは80 W/mであり、「エネルギー/気温差」= 80/0.5≒160 W/(m2・℃)となる。

・ 七夕祭りの大勢の人出による正午前後における気温上昇は1.0℃(6日:晴)、 0.4℃(7日:曇)、それらの平均値として0.7℃の昇温である。人出の発熱量 は概算110 W/mであり、「エネルギー/気温差」=110/0.7≒ 220 W/(m2・℃)となる。

・ これらは観測の難しさを考慮すれば概算値である(気温の0.1℃の違いは 20%の誤差を生む)。両者を合わせるとアーケード街において、

「エネルギー / 気温差」≒ 200 W/(m2・℃)

の結果が得られた。

備考:「エネルギー/気温差」の単位 W/(m2・℃)の意味
1℃の気温差につき、いかほどの熱エネルギー(W/(m2)が関わっている かを表すものである。


参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学ー地表面の水収支・熱収支ー. 朝倉書店、pp.350.

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