K113.林内の日射量と木漏れ日率の測定


著者:近藤純正・内藤玄一

林内の日射量は強い直射光から微弱な木漏れ日まで分布している。こうした分布の 林内平均値を観測し、林外日射量に対する比(日射量比)をもとめた。日射量比と 木漏れ日率の関係は2次式で近似される。木漏れ日率が50%前後では、 「日射量比/木漏れ日率」≒0.8であり、木漏れ日率が100%に近 づくと「日射量比/木漏れ日率」は 1 に近づく(完成:2015年10月3日)。

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2015年9月26日:素案の作成
2015年9月26日:観測の表113.1と図113.5は未完成
2015年9月27日:「木漏れ日率の目測」に分かりやすく加筆
2015年9月30日:「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」を追加
2015年10月3日:観測の表113.1と図113.5を完成


  目次
      113.1 はしがき
      113.2  測定方法
     (1)木漏れ日率の目測
     (2)林内の日射量比の測定
      113.3 日射量比と木漏れ日率の関係
      113.4 まとめ


観測協力機関
  環境省自然環境局皇居外苑管理事務所北の丸分室
  環境省自然環境局新宿御苑管理事務所
 明治神宮
 平塚市みどり公園・水辺課、平塚市総合公園課



113.1 はしがき

林床の日射量の分布は、強弱のまだら模様であり高精度の測定は難しい。 その強弱は、強い直射光から葉面の重なりによるピンホールで拡大された微弱光の 木漏れ日まで、その放射強度は1000W/m2から10W/m2の広い 範囲に分布している。 そのため、受感部の面積が数平方cmしかない通常の日射計で測る場合、 サンプリング数は数百~1000個程度が必要であり、正確な測定は難しい。

今回、受光面積が一般の日射計の100倍ほどの面積131mm×131mmの太陽光パネル を利用した林内観測用の日射計を製作した。この日射計は、日射量と出力電圧は 比例関係にあり、また温度依存性も小さく、複雑な分布をしている林内日射量の 空間平均値を測るのに適している(「K112.太陽光パネルを 利用した林内日射計」を参照)。

これまでの筆者らの研究では、林内日射量のかわりに林床の「木漏れ日率」を用いて きた。今回、木漏れ日率と林内日射量の関係について調べることにした。

木漏れ日率の目測を行なう場合、初心者は微弱光の木漏れ日も強い直射光と同等に 計数しがちである。木漏れ日率は、1~2日間ほど訓練すれば個人差は小さくなる。 熟練に1か月ほどかかる雲量の測定に比べれば容易である。

次の「林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)」 をクリックして参照すれば、プラウザの「戻る」を押してもどってください。

林床の木漏れ日率と林内の見通し(詳細)



113.2 測定方法

(1)木漏れ日率の目測
木漏れ日率を目測する場合、林内は一般に暗いので、葉面の重なりによるピンホール で拡大された微弱光の木漏れ日を混ぜて測定してしまう。すなわち、ピンホールから の木漏れ日が混ざった領域を離れた距離から眺めると明るいので、 強い直射光の領域と同等にみなす可能性がある。その結果として初心者は木漏れ日率 を大きめに見積もる傾向がある。

ピンホールで拡大された微弱光の木漏れ日は木漏れ日率に含めない。そのためには、 測定の範囲たとえば30m×30mの全面積を歩き、特に明るい面積の合計が全面積の 何%であるかを見積もり、これを木漏れ日率とする。こうした熟練に1日~2日間を 要する。

木漏れ日率は林内の1範囲について数回の目測を行ない、それらの平均値とするが、 5%程度の誤差を含む。

(2)林内の日射量比の測定
林内日射量の測定の前後に、林外の広い場所(固定点)で林外の日射量を観測する。 図113.1は三脚に取り付けた太陽光パネルを用いた日射計である。水準器を参考に してパネル面が水平になるように設置する。L字アングルと水平の塩ビ管は強い弾力 で固定されており、手で水平の塩ビ管を回すことでパネルを水平にすることができる。 L字アングルの垂直部は垂直の塩ビ管の外側に縛り付けられており、L字アングル の水平部は水平の塩ビパイプの中に隠れている。

日射計
図113.1 林内用の日射計。上:受感部の太陽光パネル、下:三脚に取り付けた 日射計一式(「K112.太陽光パネル を利用した林内日射計」の図112.2に同じ)。


林内の日射量は歩きながら空間平均値を測定する。太陽光パネルの裏面に接着された 塩ビパイプの取り付け具に、L字アングルの塩ビ管を差し込み、これを持って移動 観測する。あるいは、垂直のアルミ伸縮棒を三脚から離して、手で持って移動観測 する。その際、目の高さのパネル面と遠方を見通して水平を保ちながら左右に1m ほど振りながら空間平均を測る(図113.2、図113.3)。

測定方法
   図113.2 林内測定時の日射計の持ち方の2例。パネル面は目の高さにして遠方を 見ながら水平に保つ。

測定経路
図113.3 林内を歩きながら日射量を測る経路の模式図。現実には十分な面積が 選べない場合は、例えば長方形内を歩く。それを2回繰り返して1観測とする。


林内の測定に先立ち、測定範囲を示す4隅に標識を立てる。歩く経路の順序を 決める。木漏れ日率は林内日射測定前、途中、終了時の3回にわたり目測する。 複数人の目測値の平均をもとめ、これをデータとして用いる。

出力電圧はデータロガー(T&D社のおんどとり、TR-55i-V, 16,000円)に2秒ごとに 記録したのち、PCに吸い上げて電圧を平均し、林外の日射量で規格化する。 この規格化された値が日射量比である。

図113.4は記録の例である。図中の上方に示すプロットは林外の広い場所の値、 下方は林内の値である。プロット1点は6分間の平均値である。6分間を2回繰り 返して1観測とする。この図では林内の3か所の測定ができたときの記録である。

電圧記録例
図113.4 日射計の出力電圧の記録(2015年9月20日、北の丸公園)。プロットの 1点は6分間(データ数=30個×6=180個)の平均値である。プロット2点(12分間、 データ数=180×2=360個)で1観測とする。林内の値の林外の値に対する比が 日射量比である。


注:出力電圧から日射量の算定
この日射計による日射量と出力電圧(V)の関係は次式で与えられる (「K112.太陽光パネルを利用した林内日射計」)。

  日射量(W/m2)=k×電圧(V)
  係数:k=225 W m-2 V-1

電圧が3.5Vは788 W m-2 となる。ただし、この係数は暫定値であり 多少の誤差を含むが、ここでは日射量比をもとめることが目的であるので、 日射計の絶対精度はあまり気にしなくてよい。

113.3 日射量比と木漏れ日率の関係

木漏れ日率の目測値と電圧比(=日射量比)の測定値一覧を表113.1にまとめた。 図113.5は木漏れ日率 x(%)と日射量比 y(%)の関係である。プロットは測定値、曲線は最小 自乗法で表した2次式:

y=0.0041x2 + 0.572x + 1.8

である。


表113.1 木漏れ日率と電圧比(=日射量比)の測定値(2015年)
月/日 公園名      林   名        時  刻   木漏れ 電圧 電圧 日射量比
                              日率 林内 林外
                               %  V  V  %
9/19 新宿御苑    N2の北、ホオノキ    11:18-11:36  41 0.93 3.6  25.8
           W2の南         12:42-12:54   9 0.14 3.2   4.4
           W2の南        13:18-13:30   9 0.15 2.9   5.2
9/20 北の丸公園   芝広場の東40m     11:06-11:18  13 0.52  3.46  15.0
           芝広場の東40m     11:42-11:54  14  0.47  3.42  13.7
           近衛第二連隊碑北    12:18-12:30  16 0.38  3.32  11.5
                   近衛第二連隊碑北    12:54-13:06  17  0.31  3.13   9.9
           広場気温基準点の東40m 13:36-13:48  55 1.25  2.86  43.7
           広場気温基準点の東40m 14:12-14:30  46  0.97  2.55  38.0
9/29 明治神宮    宝仏殿東70m            11:18-11:30   77  2.04  3.29  62.0 
9/30 平塚桜ケ丘公園 二本大桜周辺        9:12- 9:30   78  1.85  2.70  68.5
           二本大桜周辺             9:42-10:00   80  2.29  2.96  77.4
           二本大桜周辺      10:18-10:30   81  2.55  3.13  81.5
           二本大桜北桜周辺    11:30-11:42   88  2.82  3.28  86.0
10/2 平塚桜ケ丘公園 二本大桜南桜周辺    14:00-14:12   66  1.38  2.11  65.4
10/3 平塚市総合公園 広場の西側        9:30- 9:42   26  0.67  2.62  25.6
           広場の西側の密林        10:00-10:12    3  0.06  2.91   2.1
           広場の西側       10:30-10:42   27  0.82  3.05  26.9
           広場の西側の密林    11:00-11:12    5  0.09  3.18   2.8
                   広場の西の桜林          11:30-11:42  68  1.52  3.15  48.3
           広場の西の桧並木        12:00-12:12  6  0.15  3.14   4.8


日射比と木漏れ日率の関係
図113.5 木漏れ日率 x(%) と日射量比 y(%) の関係。図中の曲線は、測定値を近似した2次式。


木漏れ日率が50%以下の範囲では、「日射量比 / 木漏れ日率」<1 である。この割合が1より小さく なる理由は:

木漏れ日の目測において、葉面の重なりによるピンホールで拡大された微弱光の 木漏れ日は無視しているが、強い直射光のほか比較的弱い散乱光・木漏れ日は 含めている(無意識に測定している)ことによる。

さらに小さな寄与として、広い場所では散乱光が快晴時に10%程度ある (近くに雲があればもっと大きい)のに対し、林内では斜め上方を見ると葉面の 重なりが多くなり天空部分より暗い。その結果、天頂角が大きいほど散乱光の 割合は非常に小さくなることによる。

木漏れ日率を大きめに測定する傾向の樹木
図113.5において、近似曲線から右方に大きく離れてプロットされた林(横軸=68%、縦軸=48.3%) は低木の桜林である。今回測定した落葉期の桜の葉は薄く、太陽光を透過しやすく、目視する際に 林床のやや弱めの木漏れ日も計数したと考えられる。ただし桜でも大木で葉面積指数が大きい場合は この傾向はなく、比較的樹高の低い桜や梅などでは注意がいる。


113.4 まとめ

太陽光パネルを利用した日射計を用いて林内の日射量比(=林内日射量/林外日射量) を測定し、木漏れ日率との関係を調べた。

その結果、日射量比と木漏れ日率は、2次式で近似的に表される。すなわち、 木漏れ日率が50%前後では、「日射量比/木漏れ日率」≒0.8であるが、木漏れ日率が100%に 近づくと1に近づく。

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